栃木県と茨城県の総合戦略を比較する ―地方創生の連携を―

栃木県と茨城県の総合戦略を比較する
―地方創生の連携を―
中村 祐司
宇都宮大学地域デザイン科学部 教授 1.地方創生の目指すもの
2014年5月に民間の研究組織である「日本創
成会議」による衝撃的な試算(40年に20歳から
自治体を広範囲に競合させ、自治体の事業立案
をめぐる自助努力を強力に要請する性格を有し
ている。
39歳の若年女性人口が半減すると推計される市
区町村が896あり、それらは消滅の可能性がある
2.両県ともオーソドックスな人口ビジョン
とするもの)が公表された。同年11月にあらゆ
こうした背景の中で、15年10月に栃木県と茨
る自治体を対象とした「まち・ひと・しごと創
城県は人口ビジョンと総合戦略を策定した。栃
生法」が施行され、自治体は人口動向や産業実
木県の人口ビジョンは、60年に県人口150万人以
態等を踏まえ、15 ∼ 19年度の5カ年間の政策目
上を確保するというもので、合計特殊出生率や
標・施策(総合戦略)を策定することとなった。
他都道府県への転出超過数を改善することで、
地方創生戦略、いわゆる「人口ビジョン」及び「ま
現在200万人弱の県人口の減少をできるだけ緩や
ち・ひと・しごと創生総合戦略」(以下総合戦略)
かにしようとするものである。少子高齢社会と
がそれである。
それに伴う人口減少は、東京等大都市への人々
国は14年度補正予算として、
「地域消費喚起・
の流入を除けば、国全体が直面する課題であり、
生活支援型交付金」(2,500億円)、「地方創生先
その意味で栃木県の人口ビジョンに特別真新し
行型交付金」
(1,700億円)
、「まち・ひと・しご
いものがあるわけではない。
と創生総合戦略における政策パッケージ」
(1,575
茨城県の人口ビジョンでは、現在290万人強の
億円)を交付し、15年度予算(当初予算)では「総
人口を合計特殊出生率の改善で60年には223万人
合戦略等を踏まえた個別施策」
(7,225億円)と「ま
程度(パターン①)に、さらに茨城県への移動
ち・ひと・しごと創生事業の地方財政計画の歳
率の上昇によっては241万人程度(パターン②)
出への計上」(1兆円)が措置された。さらに15
で歯止めをかけたいとしている。2種類のパター
年度補正では「地方創生加速化交付金」が用意
ンを提示しているのが栃木県との違いであるが、
された。
両県とも人口減少をめぐるオーソドックスな緩
16年度は地方創生事業の本格実施年度と位置
和戦略を採っているといえる。
づけられ、
「新型交付金」
(1,000億円)
「個別施策」
、
(6,579億円)
、「社会保障の充実」
(7,924億円)等
3.類似する総合戦略の基本方針
1兆5,503億円が予算措置された。また、前年度
それでは総合戦略をめぐる両県の違いと共通
に引き続き「地方財政計画の歳出」として1兆
性はどこにあるのか。以下、項目ごとに比較し
円が加えられた。
ながら論を進めていくこととしよう。
このように、地方創生は国による多大な財政
まず基本方針について見ると、栃木県の場合、
出動を通じて、人口減に歯止め(東京一極集中
交通の要衝としての地理的優位性や地震等の大
の是正)をかけ雇用と産業を創出させようとい
規模な自然災害リスクの少なさを挙げた上で、
う点で、歴史的にも過去に類例のない国主導型
ものづくり県としての製造業の集積、しごとづ
の地方振興策に位置づけられる。そして全国の
くり、ひとを呼び込む分野に強み・可能性があ
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中村 祐司 (なかむら ゆうじ)
宇都宮大学地域デザイン科学部教授
博士(政治学)
専門 地方自治・行政学
1961年生まれ。
1991年 早稲田大学大学院政治学研究科博士課程満期
退学
1993年 宇都宮大学に赴任(専任講師)
2003年 博士(政治学、早稲田大学)
2003年 宇都宮大学国際学部・大学院国際学研究科教授
2016年4月より現職。
栃木県次期プラン及び地方創生総合戦略策定懇談会会
長代理、栃木県行政改革推進委員会会長等を務める。
単著に、
『スポーツの行政学』(成文堂、2006年)
、
『〝と
ちぎ発〟地域社会を見るポイント100』(下野新聞新書
2、2007年)、『スポーツと震災復興』(成文堂、2016
年)、
『政策を見抜く10のポイント』
(同、2016年)
、
『危
機と地方自治』
(同、2016年)、共著にNational Sports
Policies (Greenwood 1996)、
『公共を支える民―市民主
権の地方自治―』(コモンズ、2001年)『イギリスの行
政とガバナンス』(成文堂、2007年)
、『新しい公共と
自治の現場』(コモンズ、2011年)
、『日本の公共経営
―新しい行政―』(北樹出版、2014年)、『比較政治学
のフロンティア―21世紀の政策課題と新しいリーダー
シップ―』(ミネルヴァ書房、2015年)等がある。
るとし、さらにブランド力の向上や健康社会・
間はいずれも15年から19年度までの5年間)を
長寿社会の実現等を強調する。また、県内25市
比較することで、両県の共通点や違いを明らか
町との連携を掲げ、雇用の創出、農業・林業の
にしたい。
成長産業化、県外からの移住希望者に対する市
町の情報発信の一元化を行うとしている。
栃木県の成果指標と茨城県の数値目標はいず
れも基本目標ごとに設定されている。栃木県は
一方、茨城県の基本方針では、科学技術、も
「県民所得(県民1人当たり)」、
「雇用創出数(1万
のづくり、農業・中小企業・サービス産業等の
3,000人)
」を挙げ、茨城県は「雇用創出数(1万
生産性を向上させ海外展開を促進し、広域交通
人)」、
「若年者正規雇用者割合」、
「女性有業率(25
ネットワークの整備といった立地優位性を生か
∼ 44歳)
」、「工場立地件数」
、「観光消費額」を挙
し、地域ブランドの確立、企業立地、移住、観
げる。栃木県の雇用創出数の目標値が茨城県よ
光誘客、MICE(国際会議等ビジネスイベントの
りも3,000人上回っている点が興味深い。また、
総称)誘致等、ひと・もの・資金・技術等を積
栃木県は全国上位の県民所得を、茨城県が全国
極的に呼び込むとしている。女性や若者の仕事
最上位の工場立地件数を前面に出している。
の創出や家庭・子育て環境づくり、市町村や企
栃木県の成果指標は茨城県の数値目標と比べ
業・関係団体等との連携、地域医療や交通手段
て記載が簡素であり、そのことはKPIの記載項目
の確実な確保、安心して暮らせる地域づくりを
に至るといっそう明白になる。次ページの表1は、
掲げる。
両県の総合戦略に掲載されている雇用創出(基
このように、栃木県は市町との連携を前面に
出しているのに対して、茨城県は企業立地等の
本目標1)における栃木県と茨城県のKPI項目一
覧である。
面で踏み込んだ記述となっている。しかし総じて、
ものづくりあるいは製造業の集積、ブランド、
「○
○づくり」といったように共通する内容表現と
なっている。
5.KPIの相互活用を
もちろん、KPI項目数の多寡や個々のKPIの具
体レベルの掘り下げの度合いを対象にKPI設定
の良し悪しを単純に評価することはできない。
4.両県の違いは成果指標・数値目標・KPI
にあり
次に、国によって大枠が定められた四つの基
また、KPIそのものが評価指標における事例、な
いしはサンプルの意味合いを有しており、KPIが
総合戦略の質を左右するものでもない。しかし、
本目標(雇用創出、新たなひとの流れ、若い世
両県のKPI項目を比べると、栃木県のそれは大枠
代の結婚・出産・子育て環境づくり、時代に合っ
の施策項目を簡素・簡潔な形で設定しているの
た地域づくりと安心なくらしの確保)に注目し、
に対して、茨城県のそれは施策項目からさらに
成果指標(栃木県)、数値目標(茨城県)
、KPI(重
事業レベルにまで踏み込んだ設定となっている。
要業績評価指標。栃木県と茨城県)の各項目(期
同時にKPI項目の数も茨城県の方が相当多い。
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表1 総合戦略(雇用創出)における栃木県・茨城県の KPI 項目一覧
栃
木
県
製品出荷額等
スカイベリーの認知度
外国人宿泊数
開業率
林業産出額
15歳以上人口に占める就業者の割合
園芸産出額
木材・木製品出荷額
職業紹介による女性就職率
農産物輸出額
林業新規就業者数
職業紹介による高齢者就職率
青年新規就農者数
観光消費額
障害者の雇用率
茨
城
県
県内大学等と県内中小企業との共同研究数、産学官連携によ
る新製品等開発件数、県立試験研究機関と大学・研究機関・
企業との共同研究数、政府関係機関の誘致
農業産出額・東京都中央卸売市場における県農産物シェア(金
額ベース)
・林業産出額・漁業生産額・常陸秋そばフェア開
催店舗数
生活支援ロボットの製造及び生活支援ロボットを活用した
サービスを展開する企業等数
6次産業化関連事業の年間販売金額
県内市町村における地域エネルギーマネジメントシステムの
導入数
本県青果物・水産物の輸出金額、常陸牛海外販売推奨店数
水素ステーションの整備、燃料電池自動車の普及台数、家庭
用燃料電池の普及台数
学校給食における地場産品率
デジタルコンテンツ(アプリ,ゲーム,アニメ等)制作事業
所数
新規就農者数(45歳未満)、農業法人数
IoT 等により事業化に取り組む件数
観光地点等入込客数(延べ人数)、宿泊観光入込客数(実人数)、
海外からの観光ツアー催行数、消費税免税店舗数
いばらき産業大県創造基金事業(いばらきサービス産業新時
代対応プログラム)の採択件数(累計)
観光消費額、旅客者数、ターミナルビル来場者数
ベンチャー企業数、県北地域へのクリエイティブ企業等の誘
致件数
工場立地件数、本社機能等の移転等を伴う新規立地件数、就
労機会の創出、在日外資系企業を対象としたセミナー等への
参加企業数
鹿島臨海工業地帯の立地工場数
医師数、就業看護職員数、介護職員数、県立医療大学卒業生
の県内就職率、インターンシップに参加する高校数の拡大
経営革新計画承認件数、県事業による新製品等開発件数、輸
出を行っている県内の中小企業数、研究開発・生産管理分野
における育成人数
希望者全員が65歳以上まで働ける企業の割合、障害者の実
雇用率(民間企業)
、就労継続支援B型事業所利用者のうち
工賃が前年より増加した人の割合
地場産業における新商品開発支援件数、サービス産業の労働
生産性の年間平均伸び率、サービス業年間生産額、首都圏に
おける本県発着の物流貨物取扱シェア
母子家庭等就業・自立支援センターの職業紹介による就職件
数
資料:KPI 項目について、栃木県は「成果指標・重要業績評価指標(KPI)一覧」(『とちぎ創生 15 戦略』p.70)から、茨城県は『茨
城県まち・ひと・しごと創生 総合戦略』p.4-29 から抽出した。
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表中のKPI項目にある「スカイベリーの認知度」
60.5%から70.0%へ)をKPIとして挙げている。
は栃木県にオリジナルな項目、いわばブランド
茨城県ではその具体的事業として、事業所と求
品の認知度であり、茨城県がこれを設定するこ
職者をマッチングする障害者就職面接開催事業、
とはできない。一方でそれ以外のKPI項目は茨城
障害者雇用促進事業、障害者就業・生活支援セ
県においてもいずれも設定可能な類のものばか
ンターにおける支援、職場適応訓練事業、障害
りである。たとえば茨城県は栃木県が設定した
者工賃向上応援事業、障害者就労支援強化事業
KPIを活用し、準KPIを設定することで、栃木県
といった6事業を掲載する。こうした茨城県に
の現状値と目標値を参照しつつ、すべての準KPI
おける障害者雇用の増加を具体的に後押しする
において現状値と目標値の茨城版を設定しては
事業はKPI達成のために重要であり、栃木県は今
どうであろうか。さらにスカイベリーの認知度
後こうした各論の諸事業に踏み込んだ形での検
設定は無理であっても、茨城県が誇る農産品ブ
証を行ってはどうであろうか。
ランドの認知度をKPIに設定することは可能で
6.若者の地元定着をめぐる微妙なスタンス
ある。
の違い
「鹿島臨海工業地帯の立地工場数」や「常陸秋
そばフェア開催店舗数」はそのまま栃木県に適
用できないとしても、
「○○地帯の立地工場数」
次に基本目標2(新たなひとの流れ)におけ
る若者の地元定着に関わるKPIに注目したい。
や「○○フェア開催店舗数」といった準KPIは設
栃木県は「県内大学・短大への進学者割合」
(現
定可能である。また、茨城県のそれ以外のほと
状値26.0%)の「上昇を目指す」とし、目標値の
んどのKPI項目は栃木県においても取り込むこ
提示はない。また、「県内大学生・短大生の県内
とが可能なものばかりである。たとえば茨城県
就職率」(現状値46.5%、目標値50.0%)を挙げる。
が掲げる「インターンシップに参加する高校数
これに対して茨城県では、「本県の大学進学者
の拡大」に栃木県が力を入れ、県内の高校生が
の約8割が東京圏を中心とする県外の大学に進
企業活動の現場で就業を体験することで、高校
学しており」と指摘した上で、
「新規学卒者の本
卒業後の進路や進学についても県内の受け皿(県
県へのUIJターンを促進する」として、「UIJター
内の企業、大学、短大、専門学校等)を重視す
ン促進事業による県外大学等卒業者の本県企業
る方向に変わっていく可能性がある。
等への就職内定者数」(目標値は5年間の累計で
「障害者の雇用率」について、両県が掲げる現
750人)をKPIに設定している。
状値(栃木県が1.76%、茨城県が1.75%)や目標
栃木県では「具体的取組」として、
「県外大学
値(両県とも2.00%)はほぼ同じだが、茨城県は
との就職促進協定の締結等による県内就職の促
※1
さらに「就労継続支援B型事業所 利用者のうち、
進」を挙げ、KPIとして「とちぎUIターン就職
工賃が前年より増加した人の割合」(5年間で
促進協定締結校における本県への年間就職者数」
※1…障害者総合支援法に基づく就労継続支援のための事業所。現地点で一般企業への就職が困難な障がい者に就労機会を提供す
るとともに、生産活動を通じて、その知識と能力の向上に必要な訓練等の障がい福祉サービスを供与することを目的として
いる。B型事業者は、利用者を雇用契約を結ばず、利用者への作業の対価として工賃を支払うこととしている。
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(現状値637人、目標値740人)を設定している。
7.きめ細かい若い世代の環境づくりは茨城
県に軍配か
このように栃木県は県内高等教育機関への進
学と県内への就職という二面作戦を取っている
基本目標3(若い世代の結婚・出産・子育て
のに対して、茨城県は県内進学率には敢えて目
環境づくり)において、茨城県のKPIにはたとえ
をつぶり、卒業後に戻ってきてほしいという還
ば「若年者正規雇用者割合」
(現状値64.9%、目
流作戦を採っているのである。茨城県が具体的
標値66.5%)といった若者の雇用安定に直結する
な事業として「県外学生を受け入れた『茨城県
指標が真っ先に挙げられる。これに対して栃木
庁インターンシップ』の実施」を挙げているの
県の掲げるKPIは「婚姻件数、妊娠・出産につい
もうなずける。
て満足している者の割合」、「保育所等待機児童
なお、たとえば図1の「栃木県の立地環境の
数」
、「放課後児童クラブ待機児童数」、「出生数
優れた点」や図2の「民間ブランド力調査結果」
に占める第3子以降の割合」、「男性の育児休業
のように、栃木県は県民に対して総合戦略の内
取得率」といったようにシンプルかつストレー
容をわかりやすく伝えようとする工夫が随所に
トなものである。
なされている。関係者だけではなく総合戦略に
両県を比較すると、茨城県においても「保育
関心を持つ人々へのPR・見せ方は重要な要素で
所等の待機児童数」や「妊娠・出産について満
あり、茨城県は総合戦略の浸透に向けてこの点
足している者の割合」
( 現 状 値65.3 %、 目 標 値
をぜひ参考にしてほしい。
70.0%)等栃木県のKPIと同じものもある(ちな
みに栃木県の妊娠・出産満足度は現状値69.8%、
図1 県内外の企業が考える栃木県の
立地環境の優れた点
(%)
80
(複数回答)
全体
60
県内
目標値75.0%で両方とも茨城県のそれを上回って
いる)。
県外
40
しかし、茨城県のKPIはそのほとんどが栃木県
20
とは対照的で、「結婚・子育て応援宣言企業の登
その他
産学連携
優遇制度
リスク分散
産業集積
原材料調達先との
近接性
産業団地
工業用水・地下水
労働力の
確保が容易
既存拠点との
近接性
用地規模の
確保が容易
用地価格
取引先・市場との
近接性
交通条件
0
者等の成婚数」、「マリッジサポーター数」、「地
域子育て支援拠点数」、「いばらき子育て家庭優
資料:『とちぎ創生15戦略』p.42掲載の栃木県「物流に係る企業立地ニー
ズ調査」(2015年8月)。
35
37
39
41
43
45
47
栃木県
茨城県
8.指標設定における位置づけの違いも
41
2009
10
基本目標4(時代に合った地域づくりと安心
41
42
なくらしの確保)においてはどうであろうか。
44
45
11
12
基本目標と同様に、KPIの数とその多彩さにおい
35
群馬県
40
待制度協賛店舗数」といったものである。他の
て栃木県を大幅に上回っている。
図2 民間ブランド力調査結果
(順位)
録数」、「いばらき出会いサポートセンター利用
13
14
資料:同p.42掲載の㈱ブランド総合研究所「地域ブランド調査」
。
15
栃木県で興味深いのは県民の思いを対象にした
指標を目標内の各KPIを束ねる総合的な性格を
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持つ成果指標として設定した点である。すなわ
しかし、強調したいのは指標の形式を両県で
ち、「住んでいる地域にこれからも住み続けたい
合わせるということではなく、時代の変容への
と思う県民の割合」
( 現 状 値70.4 %、 目 標 値
適応を睨みながら、栃木県と茨城県がそれぞれ
75.0%)がそれである。
の強みを発揮して課題を克服し、北関東におけ
茨城県では栃木県の成果指標に相当する数値
る隣接県としてポジティブな競合関係や広域間
目標の一つに「地域公共交通網形成計画策定市
連携を構築してほしいということである。その
町村数」(現状値2町村、目標値37市町村)を挙
点においてこそ地方創生における相乗効果の実
げている。この数値目標は栃木県ではKPIとして
をあげることができるのではないだろうか。
設定(現状値なし、目標値10市町)されている。
栃木県と茨城県が相互に個々のKPIを参照・活
一方で、両県ともKPIとして「定住自立圏形成協
用し合い、それらが設定された背景も含めて共
定等圏域数」
(栃木県:現状値3圏域(14年度現在)
、
通認識を持つようになれば、総合戦略の広域連
目標値7圏域)と「定住自立圏構想に取り組む
携版ともいうべき実践の契機となるに違いない。
市町村数」
(茨城県:現状値1町(14年度現在)
、
目標値11市町村)を設定している。
地方創生において、「栃木県か茨城県か」では
なく、「栃木県も茨城県も」といった「か」の発
想から「も」の発想への転換が今こそ求められる。
9.地方創生に「か」から「も」の発想転換を
栃木県と茨城県はどちらかが上がればどちらか
総合戦略におけるKPI項目を比較した場合、仮
が下がる、あるいはどちらかが奪えばどちらか
に基本目標をマクロ(大枠)レベルとすれば、
「具
が奪われるといった「シーソーの競合関係」に
体的取組」
(栃木県)と「具体的な事業」
(茨城県)
はない。また、人の移動等をめぐり東京圏の果
はメゾ(中枠)レベルに、KPIはミクロ(小枠)
実を奪い合う関係にもない。東京ばかりを注視
レベルに位置づけられる。そうなると栃木県の
するのではなく、栃木県は注目と関心のベクト
KPIはメゾ寄りで、茨城県のKPIは通常のミクロ
ルを東へ、茨城県は西へもっと向ける必要があ
よりもさらにミクロ寄りということになる。そ
るのではないだろうか。そうすれば北関東の中
のことが表1で示したようのKPIの数と中身の
枢2県が連携して取り組む地方創生事業が大き
差異となって表れている。
く展開する可能性がある。
総合戦略を巡り、いくら国から設定枠をはめ
られているとはいっても、栃木県と茨城県が置
かれている自然、社会、産業、文化は異なるも
のであり、県内市町村数一つをとっても栃木県
が25市町、茨城県が44市町村と違いがある。市
町村も都道府県も首長と地方議員を選挙で選ぶ
地方政府(二元的代表制組織)である限り、総
合戦略の書きぶりに個々の広域自治体の個性が
出るのはむしろ望ましいことであろう。
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