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Title
乳児の言語獲得と発達に関する研究
Author(s)
戸田, 須恵子
Citation
釧路論集 : 北海道教育大学釧路校研究紀要, 第37号: 101-108
Issue Date
2005-10
URL
http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/1362
Rights
本文ファイルはNIIから提供されたものである。
Hokkaido University of Education
釧路論集一北海道教育大学釧路校研究紀要一第37号(平成17年)
KushiroRonshu,−JournalofHokkaidoUniversityofEducationat Kushiro−No.37(2005):101−108.
乳児の言語獲得と発達に関する研究
戸 田 須恵子
北海道教育大学釧路校教育心理学研究室
A Study oflanguage acquisition and
the developmentininfancy
Sueko ToDA
Department of SchooIEducationalpsychology,Kushiro Campus,
Hokkaido University of Education
要 旨
本研究は、乳児が初語としてどのようなことばを発し、24ケ月までにことばをどれだけ獲得していくのか
を明らかにすることを目的とした。27組(男児16名、女児11名)の母子の協力が得られた。縦断的方法によっ
て、生後5ケ月から24ケ月まで約2ケ月毎に家庭訪問をし、計10回の母子遊びを観察した。言語については、
13ケ月から訪問時に母親から乳児の発語について聞いた。しかし、遊びで発したことばはデータに含まれて
いない。結果は、13ケ月から24ケ月まで乳児はことばを獲得していき、18ケ月以降の語彙獲得の増加は著し
かった。最初の13ケ月時の調査で既に20語を獲得している乳児もおり、乳児はそれ以前に既にことばを獲得
していることが推測された。13ケ月∼24ケ月までに最も多く獲得した乳児の語数は470語で、反対に最も少な
い語数は12語と、個人差が非常に大きいことが明らかになった。又、初語としては、パパ、ママのことばが
一番多く、次いで、食べ物のマンマが多く、イナイイナイバー、イタイなどのことばも多く出ていた。さら
に、24ケ月までに発語したことばを領域別に分類すると、乳児は、動詞・活動語を最も多く獲得しているこ
とが明らかとなった。次いで、食べ物の名前が多く、そして質と属性のことばが続いた。又、時間に関する
ことばの出現は一番遅かった。時間に関することばは「あとで」ということばが多く、24ケ月までに時間に
関することばが出ている乳児は11人であった。二語文については15ケ月頃から二語文が出ている乳児もいる
が、一般には、20ケ月頃から発語する乳児が多かった。二語文が出始めると、三語文も出てくるようであっ
た。言語が発達するにつれて、母子遊びはことばと行動を交えた遊びが加齢と共に展開していった。又、こ
とばの発達の個人差を見るために、4ケースについて検討した結果、母親のコミュニケーションと環境の重
要性が示唆された。
前言語期の母子コミュニケーションは、乳児がことばを
発する基礎となる。又、母親の行動やことばは乳児の行動
言語は人と人とのコミュニケーションをする上で重要な
やことばの発達に影響すると考えられている。生後1ケ月
要素の一つである。前言語期における母子コミュニケーショ
頃乳児はクーイングを発する。これが泣き声以外の音声を
ンの研究は多く、又、それに続く言語の発達についても多
出す最初である。その後、いろいろな種類の音声を出すよ
くの研究がなされている(Bates,Bretherton,Snyder,
うになり、4∼5ケ月頃は、機嫌が良い時など、1人でい
1991;Bloom,1993Fernald&Morikawa,1993;Ogura,
ろいろな声を出して楽しんでいる。母親は乳児の声を聞き、
1991;Toda,Fogel,&Kawai,1990)。乳児は人とのや
その声に声や表情で反応する。そしてその反応に応えて乳
りとりによってコミュニケーションの仕方を経験し学習す
児は又声を発する。このようにして母子のコミュニケーショ
る。乳児の発語は1歳ごろとされているが、ことばが出る
ンは続いていく。乳児の音声はやがてことばに近い声、晴
以前のコミュニケーションが乳児の言語発達に重要である
語を出すようになる。母子コミュニケーションにおける乳
と言われている。
児に話しかける母親のことばの特徴は、乳児の声を模倣し
問 題
−101−
戸田 須恵子
たり、繰り返しや、MothereseやBaby Talk(幼児語)で
反応することが多い。3ケ月児と母親との相互作用を観察
した日米比較研究で(Toda,et.al.,1990)、日本の母親
の話しかけの特徴は、無意味ことばや乳児の名前を言った
りすることが多く、幼児語は、アメリカの母親より6倍多
く使用していたことを報告している。何故日本の母親は幼
児語を多く使用するかは分からないが、英語と比較して日
本語の幼児語と言われることばは非常に豊富である。小椋
いと言われている。母親は、前言語期の時は、普通に話し
が言いやすい。このような幼児語は、日常、母親自身も乳
かけていたのに、乳児がことばを発するようになると、モ
ノの名前をゆっくりと言ったり、繰り返したりしてそのモ
ノの名前を教えようとする傾向が見られる。乳児は母から
のことばを聞き、模倣したり、そのモノを見たりと経験を
重ねながら、そのモノの名前を理解できるようになり、そ
のモノの意味を表すことばとしてことばを発する。従って
ことばの理解は発語に先行することになる。乳児はことば
を次々と獲得していくが、どのようなことばが最初にでる
のであろうか、又、言語獲得の増加はどのような特徴が見
られるのだろうか。
言語獲得の研究には、発語50語を基準にして分析される
ことが多いが、その50語の語桑獲得において、Nelson(1973)
は、二つのタイプがあることを報告している。一つはReferential
タイプで、名詞を多く獲得しているグループで、もう一つ
は、Expressiveタイプで、動詞などのことばを多く獲得し
ているグループである。小椋によると(2001)、アメリカの
子どもはReferentialタイプの子どもが多く、アジア系の子
どもはExpressiveタイプであることを述べているが、現在
児に話かけていることばでもあり、幼児語の方が普通のこ
では、この二つのタイプを極端に示す子どもは少ないこと
は、幼児語は主にオノマトペからなっていて、シンボル体
が指示する対象の一部を含んでいると述べている(2001)。
又、乳児にとってオノマトペは、リズミ感があり、快い響
きで覚え易かったのかも知れない。又、乳児が哨語からこ
とばへと移行する時、母親は、乳児にとって発音しやすい
と考え使用するのではないかと考える。例えば、母親の報
告によると、多くの乳児は、最初にことばとして出てくる
動物の名前で、犬とか猫と言うより、ワンワンとかニヤン
ニヤンということばを出している。又、プープーという車
の名前なども「くるま」と言うよりはプープーと言った方
とばで話すより、親しみを感じるので幼児語を使うのでは
を述べている。日本の乳児のことばは、名詞よりも動詞や
あるまいか。Fernald&Morikawa(1993)は、6ケ月、
挨拶語が多いように思われるがどのようであろうか。小椋
12ケ月、19ケ月の母子遊びを観察し、その中での母親のこ
とばを分析した結果、母親の幼児語の使用は、前言語期の
は(2001)、一語発話で従来の研究では、韓国や中国の乳児
の語桑獲得は動詞が優位であり、さらに、玩具場面で、日
本の母親は動詞優位であるが、乳児は名詞優位であったこ
とを報告している。日本語の構造から見ると、主語の省略
が一般的であることから、乳児も動詞優位と・なっていくこ
6ケ月において最も多く使用しており12ケ月が最も少なかっ
たことを報告している。母親は、子どもの発達に沿ってこ
とばを選択していると言えよう。
又、日常生活の中で、母親は乳児の行動や声からそれら
を解釈し反応することもある。例えば、「マンマンマンマ」
と乳児が言った時、母親は、食事時だと「ご飯」を指すこ
とばとして理解し、「うん、マンマね」などと反応するかも
知れない。あるいは、それを「ママママ」と聞けば、「ママ
はここよ」と言うかもしれない。このような母親の反応も
ことばを発するようになると、行動とともにことばも入
れた遊びをするようになり、それに伴って母親も言語的関
わりを多くするようになり、遊びの中でのことばは加齢と
乳児のことばを理解することに影響しているのかもしれな
共に増加していく(Belsky,Goode,&Most,1980)。
とを示唆している。語彙獲得においてどちらが優位である
のか、その後にその違いがどのような変数と関連してくる
のか興味ある課題である。
いが、研究では明らかになっていない。生後8ケ月ごろに
なると乳児も母親の行動を模倣したりするようになり、母
親も乳児に模倣を要求したりする。この頃になると、乳児
も母親の簡単なことばは理解できるようになっている。例
えば、朝、父親が出かける時、母親が乳児の手を持ってバ
イバイと手を振る行動がある。最初はわからなかった行為
が、それは父親が出かける時に手を振るのだと理解でき、
自らバイバイと手を振るようになり、やがて言葉と行動が
ことばは、20ケ月頃には二語文を発するまでに発達すると
言われている。二語文の特徴は、単語を二つ並べた形態が
多い。しかし、それは単に並べるものではなく、助詞を入
れれば文として成立するような形態である。例えば「パパ
あっち」と言った二語文で、秦野はこのような形態を非統
語結合発話としてとらえ、一語発話と統語結合発話との中
間的移行形態であり、この非統語結合発話は、14ケ月に出
現し、20ケ月がピークであると述べている(秦野,2001)。
又、中島は、このようなことばは二語文ではないと述べて
いる(1999)。二語文が出てくると、すぐにも三語文を発す
る子どももおり、文法的にも理にかなったような話をする
一緒になり、最後は言葉だけでバイバイと言うようになる。
このようなプロセスを経て乳児のことばは、理解から発語
へと発達していく。
初語として乳児がどのような言葉を獲得しているのかに
ようになる。
ついては、日常生活の中での見聞きする物や体験などから
ことばを獲得していく。一般には、身近にあるモノの名前
で、動物、食物、身体の部位、おもちゃ、人等の名前が多
ことばと他の変数との関係において、Silven(2001)は、
生後3ケ月及び6ケ月時点での母子コミュニケーションに
おける乳児の注意は12ケ月時点で測定された発語と関係が
ー102−
乳児の言語獲得と発達に関する研究
とばを言うようになった場合は通算1語とした。さらに、食
言語と遊びの発達においても関係があることを報告してい
物については、日本語特有の食べ物があるのでそれらも加
る(Ogura,1991;Tamis−LeMonda&Bornstein,1994: えた。分析は、この質問紙に基づいており、母子遊び中の
戸田,東,Bornstein,1993)。これらの変数と言語発達と
発話はデータには含まれていない。
あったことを報告している。又、いくつかの先行研究では、
の関係を検討することは認知の発達研究にとって重要であ
ろう。
結果と考察
以上の先行研究の結果から、本研究は、前言語期の5ケ
月から2歳までの言語獲得の発達のプロセスを明らかにす
語彙獲得について
言語の発達について語彙数がどのように発達していくか
ることを目的とする。
を月齢別にまとめたものをFigurelに示す。又、Figure2
は、Figurelの平均語彙数を棒グラフにしたものである。
Figurel,2を見ると、13ケ月から24ケ月まで増加の一途を
方 法
被験者:K市が行う4ケ月健診時、第一子を持つ親を対象
に本研究への参加協力を求めた。生後5ケ月時での観察の
時には33組の協力者が得られた。参加者からはコンセント
フォームをもらっている。しかし、最終の2歳時観察まで
協力が得られた母子は27組であった(男児16名、女児11名)。
6組は途中で父親の転勤や家庭の事情で参加できなかった。
第1回の5ケ月時での乳児の年齢は平均155日(range143∼
179日)であった。又、誕生時の体重は平均3024.5gであっ
た。又母親の年齢は平均27.9歳(range20∼38歳)、父親は
たどっているが最大値と最小値の差が大きく、24ケ月で最
大値470語を獲得している乳児もいれば、わずか12語しか獲
待していない乳児もいる。Figure2から24ケ月では平均約249
語である。一般に言語の発達は女児の方が早いと言われて
いる。男女別で比較したが有意差は認められなかった。次
に、Tablelには、月別に新しく獲得した語乗数を示してい
る。
平均29.6歳であった(range21∼40歳)。母親の教育年数は
平均13.0年で、父親の教育年数は平均13.3年であった。
手続き:生後5ケ月から2歳まで家庭訪問によって母子遊
びの観察を行った。観察は5、7、9、11、13、15、18、
20、22、24ケ月の計10回であった。第1回の訪問時には日
常生活場面を1時間、母子遊びを20分間、一人遊びを10分
間観察した。7ケ月以降の観察は、母子遊び30分間、一人
遊び10分間観察した。しかし、観察中に泣いたりして観察
が困難になった時には観察を中止した。母親へは、「普段通
りに観察者がいないと思ってお子さんと遊んで下さい」と
伝えた。母子遊びに使用したおもちやは観察者が準備し、
それらのおもちゃで自由に遊んでもらうように母親に伝え
0
0
5
2
0
グした。言語調査については、13ケ月の観察で訪問した暗
0
べてビデオに撮り、データはビデオテープからコーディン
∩︶
3
月別累積語彙数
た。おもちやは先行研究で使用したものと同じおもちゃを
使用した。使用したおもちゃは、ボール、人形、毛布(小)、
汽車、ふた付きポット、電話、重ねバーレル 各1個、絵
本2冊、カップ、皿、スプーン各2個であった。遊びはす
0
0
2
から毎回観察が終わった後で、Batesの言語調査に基づいて
母親から子どもが発語していることばを聞いた。
質問紙:乳児が13ケ月になった時Batesの言語質問紙に基づ
5
1
いて、母親にどのようなことばがでているのかを聞いてい
0
一−
る。母親は、毎回同じことばを言うこともあるが、前の月
に報告されたことば以外のことばを新しいことばとして加
えていった。この質問紙は先行研究で使用したものと同じ
である(Tamis−LeMonda,Bornstein,Cyphers,Toda,
&Ogino,1993)。質問紙は、領域別に分けられている。
又、最初ワンワンということばを発し、その後犬というこ
月 齢
Figure2.語彙獲得の発達的変化
ー103−
戸田 須恵子
初語の特徴
Tablel.月齢別言語獲得数
月齢
乳児が最初に発語したことばは何であったのか、13ケ月
平均新語乗数 最小値 最大値
時のことばを調べて見ると40語の異なることばが見られた
13ケ月
4.9
0
20
15ケ月
6.3
0
15
いることばは、パパ、ママであり、次いで「アンマ(ご飯)
18ケ月
20.4
2
45
である。11人はマンマと言っているが1人だけごはんと言っ
20ケ月
46.7
3
121
ている。そしてイタイ、アーア、イナイイナイバーなどが
22ケ月
74.0
0
214
多かった。イナイイナイバーは、乳児によってはその一部
24ケ月
103.4
4
202
だけのバーを言っている。このような一部を言っているこ
(Table2)。Table2を見ると、乳児が最も多く発語して
とばはその他、ニヤンニヤンをニヤーと、イタイをタイと
言語獲得の急増は、18ケ月から24ケ月までが顕著である。
言っている。又、一つのことばも乳児によって言い方が様々
これらを併せて見ると、13ケ月で発語した者は、26人中21
である。パパ、ママをオチョ、オカと言ったり、ブー(車)
人で、個人差が大きい。5人は全然ことばが出ていないと母
をブンブンと言う乳児もいた。又、両親が祖父をお父さん
親は報告している。さらに、内容を見ると、一語の者は3人
と言っているので、ジッちやんと他の乳児は言っているが
おり、最も多くことばが出ている者は20語を獲得している。
1人だけお父さんと言っている。乳児が最初に言ったこと
この語乗数が多い乳児は、13ケ月以前には既にことばが出
ばは、母親の言っていることばを聞いたり、身近にあるも
のとか、体験する行動によってそれらがことばとして出て
いるようである。一般に乳児の初期のことばは、使用され
なければ消失していくと言われているが、しかし、表に示
したことばの多くは、使用続けられる可能性の大きいこと
ばが多い。又、幼児語で発語したことばはその後きちんと
ていたのではないかと推測される。言語調査は13ケ月から
始めたが、小椋の研究では(2001)、3人の子どもを観察し、
初語が発せられたのは9ケ月と10ケ月であったことを報告
している。このことから、言語調査をもう少し早くした方
が初語の時期がさらに明確になるのではないだろうか。又、
15ケ月においても発語のない者が一人いた。この乳児は18ケ
したことばに言い直して使用している。例えば、ニヤンニヤ
月から語彙を獲得し始めている。全体的に18ケ月から20ケ
ンやワンワンはネコやイヌと言うようになり、アナナはバ
月、20ケ月から22ケ月、22ケ月から24ケ月と年齢が上がる
ナナと言うようになっている。乳児語から普通のことばへ
につれて語桑獲待の増加も顕著である。乳児の語彙獲得は
の移行が言語発達にどのように寄与しているのかは明らか
18ケ月から20ケ月の間で飛躍的に増加している。遊びにお
でない。
ける象徴的遊びもこのころに飛躍的に増加しているので、
18ケ月から20ケ月にかけて認知、特に象徴的機能が急速に
領域別の語彙獲得
発達することが推測される。言語獲得において、個人差が
Figure3は、24ケ月までにどのような語彙を獲得したか、
非常に大きいことは最小値と最大値の差が大きいことから
領域別に示した図である。Figure3を見ると、24ケ月で最
も明らかであり、乳児期の遊びや言語の発達は1人ひとり
も多く獲得しているのは、動詞や活動語などである。次い
の発達過程を総合的に検討する必要があると思われる。そ
で食べ物の語彙も多く、質と属性、動物の順に語彙数は多
れによって乳児それぞれの発達パターンが明らかになると
い。Table2から13ケ月で最も多い発語は動物では、ワンワ
考える。個人の発達プロセスを明らかにすることは今後の
ン又はニヤンニヤンで、食べ物では、マンマ(ご飯)、人で
分析課題である。
はパパ、ママ、動詞、活動語等の領域では、挨拶語のバイ
バイ、あるいはイナイイナイバー、
Table2.13ケ月の乳児の初語
イヤなどであった。又、質と属性
こ と ば(人数)
領 域
では、イタイ、物を落とした時の
動
物 ニヤンニヤン(5),ワンワン(5),カエル(1)
アーアといったことばを出してい
食
物 マンマ(12),ジュージュー(2)ノミン(1),お茶(1),アナナ(バナナ)(2)
る。このような最初のことばは、
車
類 ブー(3)
母親がその物や乳児の行動に対し
衣
類 くつ(1)
て、これらのことばを言うので、
身体の部位 目ンメ(1),おっぱい(1)
人
動詞・活動語
パパ(14),ママ(14)ノ1ッチャン(4),ジッチャン(2),自分の名前(1)
イヤ(6),あった(2)ノミイバイ(5),ナイナイ(3),イナイイナイバ(7)
物や行為とことばとを同時に見た
り、聞いたりすることによってそ
の意味がわかり、ことばを発する
ダメ(1),ネンネ(3),イナイ(1)
質・属 性 アーア(6),うまい(2)イタイ(8),はい(3),アチー(1)
ようになるのではないかと考える。
代 名 詞 こっち(1),これ(2),あっち(2),もっと(1),ここ(1)
チャプチヤプ(風呂),アンパンマン,ユンボー(テレビのキャラクター)
乳児が物と名前を一致させる場合
その他
ごつん,イエーイなど
のカテゴリー化で特徴的に見られ
たのは、その物がそれ自体を表す
−104−
乳児の言語獲得と発達に関する研究
のではなく、一般を指す場合があるということである。例
えば、ワンワンとかニヤンニヤンといったことばは、犬や
優位と言えるのかも知れない。
猫その物を指して言う乳児もいれば、それが4つ足の動物
全体を指す乳児もいたということである。このような例は、
で言語獲待数を性別によってT検定を行ったところ、22ケ月
一般にことばの発達は女児の方が早いと言われる。そこ
のみに性差が認められた(t=1.4,pく.001)。女児の方が
動物ではこの他にトリということばは飛んでいる烏一般を
男児より多く言語を獲得していた(女児92.2語,男児59.8
指し、食べ物では、マンマを食べ物一般として使用し、ブー
(水)やジュー(ジュース)を飲み物一般として、又、ク
ツシタをクツと言う乳児がいた。乳児のこのようなことば
語)。しかし、二歳時の全言語獲得数では性差は認められな
の分類を詳細に調べると、乳児がどのように物をカテゴラ
二語文の出現
かった。
イズしていくか、その過程と個人差が明らかになるのかも
しれない。小林(1995)は、このような乳児のカテゴリー
が、15ケ月にしやべったと報告している。月齢で見ると、
化について制約論における相互排他性からは説明できない
15ケ月で2人、18ケ月で3人、20ケ月で10人、22ケ月で7
二語がでるのはいつごろかを見ると、2人の乳児の母親
ことを述べている。乳児全員がこのようなことばの言い方
人、24ケ月で2人という結果であった。さらに、2歳まで
をしているわけでもないので、カテゴリー化することに個
人差があるのではないか、さらに検討することが必要であ
ろう。又、領域別で最も遅いことばは、時間に関すること
ばのようであった。2歳までに時間に関することばが出て
いる乳児は、27名中11名であり、多くは、「あとで」という
ことばが最初に出ていた。乳児の要求に対して、母親が「あ
とで」と言うことによって、乳児はそのことばを獲得した
に二語文が出ていないのは3人いた。乳児の中には、二語
遊びもことばを入れたコミュニケーションが展開し、遊び
のではないか。このように、乳児が言語を獲得する場合、
が続いていくように思われたが、相互作用に関してはまだ
自分がその物や行動に注意を向けている時に、母親がそれ
分析していないので今後の研究課題である。
文がでる頃に三語文も出ている乳児もいた。二語文として
多く出ていたのは、「これ何」「こっち来い」といった代名
詞を含んだことばであった。又、三語文の例は「じいたん
お家 着いた」「パパ お仕事 気をつけて」「これ 開
かない あけて」などである。二語文が出てくると、母子
らについてことばを発したことによってそれを乳児がその
状況や乳児自身のその時の感情とを関連させ、それを体験
することによってことばとして理解し、ことばを獲待して
いくのではなかろうか。又、Nelson(1973)は最初の言葉
50語の獲得で個人差があることを見いだし、それはReferential
(対象指示型)とExpressive(表現型)であり、前者の語
嚢獲得には、モノの名前が多く、対象指示という機能に関
心がある語嚢獲得のタイプである。一方、後者の語桑獲得
は、対象名以外の語彙が多かったことを述べている。本研
個人差の検討
Figurelに示したように個人差が大きい。そこで、4例
を取り上げ、身体的発達や状況を示し、言語発達について
さらに検討していく。最初の2ケースは男女それぞれ言語
獲待が最も多かった事例であり、後の2ケースは男女それ
ぞれ言語獲待が最も少なかった事例である。
究でどのようなことばを獲得しているかを見ると(Figure
3)、50語までのことばを検討して見ないと分からないが、
Expressiveのタイプに当てはまるように思われる。一般に
日本の子どものことばは、日本語の特徴やバイバイ、ネン
ネなどのことばが最初に出てくることからもExpressiveが
第1のケース(Figure4)は、470語と最も多く言語を獲得
した男児の例である。Aの観察時の特徴は、5ケ月、7ケ月、
9ケ月時には、母子遊び中にぐずりだしたりして母子遊び
を30分観察するのは困難な乳児であった。11ケ月時の観察
からは、新しい家での観察となった。環境が変わったこと
→105−
戸田 須恵子
による彼の身体的発達としては、這うことができるように
なったということである。15ケ月の観察時にはったい歩き
面が見られた。この乳児は、24ケ月までそれほど大きな出
来事は経験していないようであるが、身体的な発達やこと
ばの発達は早かった。
ができるようになったがまだ1人歩きはできない状態であっ
た。18ケ月時には、歩くことができ、同時にことばも発達
第3のケースは、12語と最も言語獲得が少なかった男児
の例である(F短ure6)。この男児も比較的おっとり型であ
る。13ケ月の観察時、母親の報告によるとCは2,3歩1人
していった。このケースは、環境の変化により、それに伴
い身体的な発達があり、平行して言語が促進された感があ
る。母子遊びを見ていると、比較的おっとりした感じであ
り、母子のことばを交えた遊びがうまく展開している。家
で歩けるという。言語に関しては、発語は−Dであるが、こ
とばの理解はしているようである。例えば、大人がことば
でオツムテンテンは?というと身振りでそれを示し、身体
の部位を聞くと、その部位を示すという。].5ケ月時発語は
3語であった。しかし、人まねをよくするという母親の報
告がある。外に連れ出すと絶対歩かないで抱かれてしまう
が変わったという環境の変化が良い方に影響したことと、
母親が保育関係の仕事をしていて乳児の扱いに慣れ、母子
遊びでの母親の遊び方がスムーズだったこと等が遊びや言
語の発達を促進したとも考えられる。
という報告があった。外がきらいなのか、運動がきらいな
のか分からないが、親への甘えが強いように思われる。18ケ
月時でも数語しかことばは出ていない。しかし、母親にモ
ノの名前を指さして盛んに聞くという。食事の時、横にク
マのぬいぐるみを座らせて、食事をやったり、飲ませたり
している行動が1週間ほど続いているという報告があった。
最後の観察暗までそれほど言語は発達しなかった。母親が
それほどことばに注意していなかったのかどうか分からな
いが、遊びの中での乳児の行動は、単純な操作の繰り返し
が多く見られた。母親もそれに反応しているが、さらに、
上のレベルの遊びを導入するといった積極性は見られなかっ
た。その後、保育園へ行くようになってことばが飛躍的に
発達したという報告を受けている。
第2のケースは、女児の中で417語と最も言語を獲得して
いる例である(Figure5)。Bは、非常に活発な子どもであっ
た。5ケ月で寝返りはでき、1人で座れた。足が文夫なよ
うで、健診時にそう言われたとのことである。7ケ月で人
見知りがあり、特に男の人を見ると泣くという。遊びはバ
ンギングが多かった。9ケ月でったい歩きをしている。10ケ
月近くで歩きはじめたという。遊びはすぐ飽きてしまって
ぐずることが多かった。11ケ月時には、ことばが出ている
と母親は報告している(イタイ、ダメ、ダーンーモノを落
とした時、パパ、じじ、ばば)。13ケ月から言語調査を始め
たが既に、18語がでていた。遊びでは、おもちゃを結構乱
暴に扱っており、壊れたこともあった。18ケ月時の遊びで
は、自分の思う通りにならないとすぐモノを投げたりといっ
た行動も見られた。母親は積極的にリードするというので
はなく、相手にやや振り回されているといった感じが強かっ
た。20ケ月では人見知りをして自分で目を隠してしまい、
うそ泣きをするという報告もあった。24ケ月までの遊びを
見ると、自己が非常に強く、自分の思うままに行動してい
た。又、一貫して遊びでのおもちやの扱いは乱暴であった。
しかし、遊びの中で生活で起こった事を再現するなどの場
第4のケースは、女児の中で41語と最も語彙が少なかっ
た例である(Figure7)。Dの身体的発達としては、7ケ月、
寝返りはできるが、這い這いはまだとの事であった。9ケ
月時は、つかまり立ちはでき、つたい歩きは少しできると
母親は報告している。母親の報告によると、寝返りより座
ることの方が早く、這うよりつかまり立ちの方が先に発達
したという。見ていると、立ち上がる時少し足がねじれて
足の調節がうまくできないようである。その為、立つ事を
−106−
乳児の言語獲得と発達に関する研究
あまり好まないようである。11ケ月時では1人で1,2歩あ
るいたとの事である。食事は、1人で食べようとしないで、
乳児のことばが発達する環境の要因もあるかも知れない。
Cのケースは、保育園に行きだしたことで、生活に変化が見
母親に食べさせてもらおうとするとの事で母親はそれを困っ
られ、他の友達と遊ぶことがことばの発達に結びついた例
たことだと感じていた。13ケ月、1人歩きができ、おしり
と言えよう。又、第1のケースはその両方、即ち、母親の
をつけないでしやがむこともできる。遊びの時あまり声を
積極的なコミュニケーションと環境の変化がことばを多く
出さないが母親からことばは2語出ているという報告を受
獲得していったと考えられる。又、いくつかの家族では、
けている。母親も静かな感じである。15ケ月、母親は、外
に出ると歩こうとしない。又、同じ年齢の友達とは遊ばな
環境が変わったことで子どもの発達に変化が見られたこと
食べなかった食べ物を食べるようになったり、見振りが多
から、子どもの発達に影響する環境要因ということについ
てもさらに詳しく検討していく必要があろう。
言語発達と遊びとの関係について、24ケ月までに獲得し
た語彙数と象徴的遊びとの関係を見たところ、語彙数と象
徴的遊びとの有意な関係は認められなかった。この結果か
ら、象徴的遊びと語彙獲得の発達とは、平行して発達して
くなり、行動が変わってきたという。20ケ月以降も何か言
いるのではないことが明らかとなった。しかし、関係があ
いながら遊んでいるが、母親は凡帳面でもの静かな感じで
るという研究もあるので、個々のケースを検討することに
行動にもそれが現れており、母子遊び中でも母親はどちら
よって、言語と遊びが平行して発達する乳児、あるいは、
いで、大人の方へ行ってしまうと述べている。15ケ月以降
の新しい言語獲得は数語である。24ケ月時で新しいことば
の獲得は二桁となった。18ケ月時、母親の報告によると、
実家に帰った時、同じような年齢の子どもの行動を見て、
かというと子の遊びを見守っているといった感じで、乳児
どちらかが先行して発達する乳児などそのパターンはいく
も1人で遊ぶ時間が長かった。何が言語の発達を遅らせて
つか考えられるかもしれない。言語においても、遊びにお
いるのか分からないが、遊びの中の母親の行動は一応は対
いても個人差が大きく、1人ひとりの言語と遊びの関係を
応しているが積極的に遊ぶという感じではなく、例えば、
見ることが必要であろう。
乳児が間違えた時には、それができるまでことばよりも行
動で教え続けるといった場面も見られ、このような母親の
行動に影響されて、ことばを含むコミュニケーションを交
えた遊びに発展することが難しかったのかもしれない。
乳児の語彙獲得とその増加と発達について見てきた。言
語の発達には個人差が大きいことが明らかになった。個人
差の検討として、4ケースを観察時の身体的発達や遊びの
時の様子を見てきた。乳児がことばを獲侍するにはどのよ
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うなことが必要とされるのか。いろいろな説があると思わ
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れるが、4ケースから見ると、一つは母親のコミュニケー
experimentalanalyses.ChildDevelopment,51,
ションが考えられるのではなかろうか。その子どもに応じ
1163−1178.
た積極的なコミュニケーションが必要かと思われる。又、
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謝 辞
約1年半育児で大変忙しかったにも拘わらず、快く研究
にご協力していただきましたお母様、お父様、そして赤ちゃ
んに心より御礼申し上げます。皆様のご協力なくしてこの
貴重な資料は収集できませんでした。心より感謝致します。
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