シミュレーション - 日本下水道事業団

JS技術開発情報メール№177 号掲載
◇ 「よく見かける下水道用語」 ◇
禁無断転載
「シミュレーション」その1
近年の下水道事業は、未普及解消のための建設の時代から、運営管理そして再構築の時
代に移行しつつあるとよく耳にします。また、高度経済成長期とは社会情勢が変わり、製
品の品質や企業体質といった、これまでとは異なる視点での評価や改善が重視される時代
にもなってきていると感じます。
その中で、一定の製品品質や生産性を確保しつつ、いかにコストを抑え込むことができ
るか、という至上命題があらゆる分野共通の考え方になり、下水道業界もその流れに逆ら
うことが難しい情勢になってきています。
この事業全体のコスト低減化に向けた新しい取組みとして、「フロントローディング」と
いう考え方が(少しずつではありますが)浸透しつつあるようです。
フロントローディングとは何でしょう・・・
たとえば、機械設備工事において納入設置した機器を例にとれば、納入設置度に現地に
て機器性能の調整を行うことで、処理プロセスの運転管理の最適化を図る、というのが一
般的な従来の考え方ですが、一方で、機器製作前に模擬実験やモデル解析等によって実機
性能を予測し、現地調整作業を軽減させる、という、つまりは、上流側(机上検討側)で
なるべく課題を洗出すとともに課題解決策を講じておくことで、下流側(工場製作や現地
施工、運転管理、保全など)の作業負荷を抑え、事業全体のコストを圧縮するという考え
方もあり、これがフロントローディング(なるべく前倒すイメージ)と呼ばれています。
この考え方に基づき、社会インフラ整備において、建設工事のような大規模な投資の前
段階である、計画検討や実施設計のような小規模な投資の段階で、建設および維持管理段
階で生じると思われる各種課題の洗出しおよび解決策の検討を徹底させることで、建設段
階での設計変更や維持管理段階での保全を極力減らすことにより、事業全体のコストを抑
える手法があります。
しかし、下水道業界ではまだあまりお目にかけず、どちらかというと、他業界(たとえ
ばインフラ関連では、建築業界や物流業界など)において、(事業リスクを考慮した上で)
徹底したコスト縮減が求められる分野では、先行して取組まれている事例があります。
そう、ここで「シミュレーション」の登場です。
具体的には、最近よく目にする「BIM/CIM」や「ICT/IOT」などを活用し、現状データ(既
設施設の運転条件や資産状態など)や新製品の諸元データ等を集約し整理した上で、境界
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条件(配置計画や流れの出入口など)を設定し、コンピュータ・シミュレーションにて、
実際の性能(建築であれば、空気調和や照明など)を予測・評価し、配置計画や機器仕様
を再検討する、といういわゆる PDCA サイクルを机上で(仮想的に)行う、といったもので
す。今現在、民間デベロッパによる建築分野では、これらの取組みが進んでおり、大規模
インフラ整備における事業費の増大リスクを減らすだけでなく、さらには、大規模投資額
そのものの削減や機能改善の提案まで可能となってきています。
長くなりましたが、まとめますと、「シミュレーション」による机上検討レベルの高度化
を推進させることにより、事業全体の B/C を如何に向上(改善)させるか、といった視点
が、今後社会インフラ整備にも重要になってくるものだろうと考えられます。
さて、話を「シミュレーション」に移しましょう。
そもそも「シミュレーション」となんでしょうか。
その定義を検索すると、広義には、何らかのシステムの挙動を、それとほぼ同じ法則に
支配される他のシステムやコンピュータなどによって模擬すること(Wikipedia より)
、と
あります。
また、シミュレーションを分類するのであれば、実際に模型を作って行う物理的シミュ
レーションと,数学的モデルをコンピュータ上で扱う論理的シミュレーションがある(三
省堂大辞林より)、とされています。
たとえば、住宅ローン返済のシミュレーションや、火災避難訓練なども、広義の「シミ
ュレーション」に含まれることになります。
ここでは、前述の、コンピュータによる工学的な(論理的な)シミュレーションのこと
を、狭義の「シミュレーション」として扱いたいと思います。
このシミュレーションの用途ですが、一般向けであれば、気象予報やフライトシミュレ
ータ、あるいは金融・株式市場の相場予想などがあります。一方、下水道事業向けであれ
ば、
① 建築建屋や土木構造物の構造解析シミュレーションによる、耐震性能の予測
② 流体解析シミュレーションによる、水路水理や槽内撹拌・混合、沈降・沈殿による固液
分離や濃縮圧密の性能予測
③ 水処理・汚泥処理プロセスの活性汚泥モデルを用いたシミュレーションによる、高度処
理(硝化・脱窒など)や消化(酸発酵・メタン発酵など)等の性能予測
といったものが挙げられます。
たとえば、②の中には、槽内撹拌・混合の性能予測の事例として、
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・消化槽撹拌機の性能予測
(底部を含む均質な撹拌・混合の確認が主ですが、スカム(泡)対策の有効性の確認
についても期待されるところです。)
・汚泥貯留槽撹拌機の性能予測
(底部を含む均質な撹拌・混合の評価が主ですが、自由水面の形状や流速の評価によ
る硫化水素発生対策についても期待されるところです。)
・生物反応タンク(高度処理)撹拌機あるいは散気装置の性能予測
(底部を含む均質な撹拌・混合の評価が主ですが、高度処理における生物化学反応の
予測や評価についても期待されるところです。
)
といったものが、近年検討事例を増やしてきているところです。
しかしながら、このコンピュータ・シミュレーションは、実規模における実性能に比較
して、まだ 100%再現に至っていないのが現状であり、シミュレーション解析に加えて、模
擬実験等によるデータ補完を行うことで、その予測精度を向上させることが重要です。
いずれ、近い将来、下水処理プロセスにおける品質管理や機能改善を目的として、シミ
ュレーション解析データや実験データが蓄積・分析され、それらを有効活用した業務遂行
の時代がやってくるものと考えられます。
そして、それらのデータの確からしさが、下水道事業の安全・安心といった信頼性につ
ながっていくものと期待されます。
(文責
資源エネルギー技術課
金澤)
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