「地震」を意識する企業は 6 割超、全国を上回る

2016/8/1
名古屋支店
名古屋市中村区名駅 5-17-10
TEL: 052-561-4846
http://www.tdb.co.jp/
特別企画 : 事業継続計画(BCP)に対する東海 4 県企業の意識調査
「地震」を意識する企業は 6 割超、全国を上回る
~ BCP を「策定している」企業は 6 社に 1 社にとどまる ~
はじめに
近年、地震や台風・豪雨などの自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合の企
業活動への影響を想定し、企業活動を休止することなく、あるいは早期復旧させるなどして事業
を継続させるため、予め防災・減災対策、災害発生時や発生後の対応措置に対する重要性が高まっ
ている。
帝国データバンク名古屋支店は、事業継続計画(Business Continuity Plan:BCP)に対する企
業の見解について調査を実施した。本調査は、TDB 景気動向調査 2016 年 6 月調査とともに行った。
※調査期間は 2016 年 6 月 17 日~30 日、調査対象は東海 4 県に本社を置く 2669 社で、有効回答企
業数は 1188 社(回答率 44.5%)
。なお全国の有効回答企業数は 1 万 471 社(回答率 44.4%)
調査結果(要旨)
1.普段、業務を行うなかで最も意識している災害は、
「地震」が 60.4%で最多となり、全国(51.8%)
を 8.6 ポイント上回った。県別でも「静岡」が 71.6%で全国 2 位、
「三重」が 62.1%で同 8 位
となり、東南海・南海トラフ地震などの大規模地震が想定される当地区では、地震への意識が高
いことが明らかとなった。
2.事業継続計画(BCP)の策定状況について、
「策定している」企業は 16.2%と 6 社に 1 社にとど
まり、全国(15.5%)を上回ったものの、
「現在、策定中」
「策定を検討している」を合わせて
も 49.1%と半数に届かないことが判明した。また、従業員の少ない企業ほど策定が進んでおら
ず、
「策定している」割合は従業員数「5 人以下」が 7.1%なのに対し、
「1000 人超」では 80.0%
と 10 倍以上の開きがある。
3.災害時における人的資源への対策について、自社で経営者(代表)が不測の事態で不在となっ
た場合、代わりとなる人物が「いる」企業は 61.8%。ただし、従業員数「5 人以下」では 36.9%
にとどまり、経営者が不測の事態に陥ることが企業の存続問題につながりやすい状況にあるこ
とが窺える。
4.緊急事態発生後のキャッシュフローの基準となる売上の 1 カ月分以上の現預金を災害に備えて
保有している企業は 39.7%となった一方、
「ほとんど保有していない」企業は 20.1%となり、
災害復旧時や緊急時にかかる資金手当てに不足が生じる可能性もある。
©TEIKOKU DATABANK, LTD.
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特別企画:事業継続計画(BCP)に対する東海 4 県企業の意識調査
1. 「地震」を最も意識する企業は 6 割超、全国を上回る
普段、業務を行うなかでどのような災害
を最も意識しているか尋ねたところ、「地
震」と回答した東海 4 県企業は 717 社、構
成比で 60.4%と 6 割を超え、全国(51.8%)
■グラフ1 普段意識する災害
その他 1.3%
伝染病 2.4%
を 8.6 ポイント上回った。
「水害」
(112 社、
犯罪行為
3.9%
同 9.4%)
「他の自然災害」
、
(25 社、
同 2.1%)
火災 14.6%
意識してい
ない 4.0% 分からない
2.0%
を合わせると 7 割を超える企業が自然災害
を挙げている。以下、
「火災」が 14.6%、
「犯
罪行為(不正アクセス、テロなど)
」3.9%、
「伝染病(新型インフルエンザなど)
」2.4%、
「その他」1.3%となった。また、普段、災
害を「意識していない」企業は 4.0%にと
どまっており、多くの企業が突発的な災害
を意識している様子が窺える。
他の自然災
害 2.1%
地震 60.4%
水害 9.4%
東海 4 県は、東南海・南海トラフ地震や東海地震などの大規模地震が想定されており、特に「静
岡」が 71.6%で全国 2 位、
「三重」が 62.1%で同 8 位と、地震を意識している企業が多くなって
いる。ちなみに、全国 1 位は「高知」の 80.0%、同 3 位は「和歌山」の 70.2%。
「地震の少ない地域に大型の事務所を建設し、グループ企業のデータバックアップやサーバを
格納。東海地区にて発生が予測されている大規模地震発生時には復旧対策本部としての利活用を
可能にしている」(愛知、情報サービス)、「比較的構造の強い場所への事務所の移転」(三重、医
薬品・日用雑貨品小売)などのように、既に具体的な対応策を講じている企業がある一方で、
「地
震など危険なのは分かっている
■「地震」を最も意識している企業の割合~都道府県~
が具体的に行動に移せていな
い」
(静岡、飲食料品小売)など、
高い意識とは裏腹に対策を取る
ところまでは至っていないとい
う声も多く聞かれた。
全体平均(51.8%)以上
60%以上
70%以上
80%以上
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特別企画:事業継続計画(BCP)に対する東海 4 県企業の意識調査
2. 事業継続計画(BCP)、「策定している」企業は 6 社に 1 社にとどまる
自社における事業継続計画(BCP)の策定状
況について尋ねたところ、
「策定している」と
■グラフ2 事業継続計画(BCP)の策定状況
分からない
6.2%
回答した企業は 192 社で構成比 16.2%と約 6
社に 1 社にとどまった。また、
「現在、策定中」
策定している
16.2%
(107 社、9.0%)
、
「策定を検討している」
(284
社、23.9%)を合わせても 49.1%と半数に満
現在、策定
中
9.0%
たず、事業継続計画の策定が進んでいない実
策定してい
ない
44.7%
態が浮き彫りとなった。
BCP を「策定している」企業について、業界
策定を
検討している
23.9%
別にみると、
「金融」が最も高く 44.4%だった。
次いで、
「サービス」が 21.8%、
「運輸・倉庫」
が 20.0%。また、従業員数別では「1000 人超」
が 80.0%と高水準であるのに対して、
「5 人以
注:母数は有効回答企業1,188社
下」は 7.1%と従業員の少ない企業ほど策定が
進んでいないことが明らかとなった。
■グラフ3 事業継続計画(BCP)を「策定している割合」~業界・従業員数別~
(%)
90
80.0
80
70
60
50
44.4
39.5
40
30
20
17.4
16.7
10
0
15.3
13.1
製造
卸売
18.5
20.0
21.8
7.1
0.0
農・林
・水産
金融
建設
不動産
小売
運輸・ サービス
倉庫
11.5
12.4
16.2
5人以下 6~20人21~50人 51~
100人
23.7
101~ 301~ 1,000人超
300人 1,000人
3. 経営者に不測の事態が起こった時、従業員「5 人以下」では企業の存続問題に直結
災害時における人的資源への対策について、自社の経営者(代表)が不測の事態で不在となっ
た場合、代わりの人物がいるかどうか尋ねたところ、「いる」と回答した企業は 734 社で構成比
61.8%だった。企業の 6 割超は、不測の事態における経営者の代わりを務める人材が確保されて
いる。
しかしながら、経営者不在時に代わりとなる人物が「いる」企業を従業員数別にみると、従業
員数が「5 人以下」の企業では 36.9%と 4 割に満たない一方で、従業員数「1000 人超」では 90.0%
と「5 人以下」の企業の 2 倍超となっている。経営者(代表)の代わりとなる人物は従業員が少な
いほど確保できておらず、経営者が不測の事態に陥ることが中小零細企業の存続問題につながり
かねない状況が浮き彫りとなっている。
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特別企画:事業継続計画(BCP)に対する東海 4 県企業の意識調査
■グラフ5 経営者不在時に代わりとなる人物が「いる」割合
~従業員数別
■グラフ4 経営者(代表)が不測の事態で
不在となった場合代わりとなる人物がいる
(%)
100
分からない
14.6%
90.0
80
65.0
68.0
71.0
72.4
21~50人
51~
100人
101~
300人
301~
1,000人
56.8
60
36.9
40
20
いない
23.6%
0
いる
61.8%
5人以下
6~20人
1,000人超
注:母数は有効回答企業1,188社
4. 災害に備えた現預金、「売上の 1 カ月分以上」を保有している企業は 4 割にとどまる
中小企業庁では「中小企業 BCP 策定運用指針」において、緊急事態発生後のキャッシュフロー
対策として「災害発生後 1 カ月分の支出を賄える現金・預金を保有していることが望ましい」とし
ているほか、事業中断による損害に備えて「月商の 1 カ月分くらいの現金・預金を持っていること」
を勧めている。
そこで、自社で災害に備えて現預金をどの程度保有しているか尋ねたところ、売上の 1 カ月分
以上を保有している企業は 472 社、構成比 39.7%(
「売上の 1~3 カ月分未満」と「売上の 3 カ月
分以上」の合計)となり、約 4 割の企業が緊急事態発生後のキャッシュフローに必要となる 1 カ
月分以上の現預金を保有していることが明らかとなった。ただし、
「ほとんど保有していない」企
業が 239 社で同 20.1%と 2 割を超えているほか、
「売上の 1 週間~1 カ月分未満」が 15.3%、
「売
上の 1 週間分未満」という企業も 5.6%となっており、災害復旧時における事業運営費や緊急時に
おける工場や事務所の整備や事業再開への対策等にかかる資金の手当てに不足が生じる可能性も
ある。
なお、全国との比較では、
「ほとんど保有していない」企業(東海 4 県 20.1%、全国 21.6%)
は下回ったのに対し、■グラフ6 災害に備えて保有している現預金~規模別~
何らかの保有をして
売上の
3カ月分以上
いる企業(東海 4 県
60.7%、全国 59.9%)
全体
売上の
1~3カ月分未満
売上の
1週間~
1カ月分未満
39.7 24.2
15.5
15.3
(%)
ほとんど
保有して
いない
売上の
1週間分未満
把握して
いない
12.6
6.6
20.1
5.6
分からない
は上回っており、災
害への備えを厚めに
大企業
取っている様子が窺
える。
中小企業
うち
小規模企業
12.5
33.9 21.4
16.4
17.6
13.7
41.4 25.1
39.4
21.8
15.8
16.9
5.9
22.1
4.8
5.9
4.9
19.5
21.5
19.6
6.8
10.6
7.0
10.2
注:母数は有効回答企業1,188社
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5. まとめ
平成 28 年熊本地震などの大規模地震のほか、台風や豪雨災害、あるいは伝染病やテロ、不正ア
クセスなど、緊急事態が発生した時に事業を継続させるための「事業継続計画(BCP)」を策定す
る重要性が高まっている。しかしながら、今回の調査の結果、企業の BCP 策定状況は依然として
進んでいない実態が浮き彫りとなった。
企業からは、
「予測して準備すること自体は悪いことではないと思うが、コスト負担増も避けら
れない。あらゆるリスクに対して準備することを国が提唱しているならば、税金面での優遇処置
が欲しい」(愛知、飲食料品卸売)など、コストが課題となっているという声や、
「大手メーカー
品を取り扱っているため、BCP はメーカー側の対応で十分」
(愛知、機械・器具卸売)
、
「中小の場
(愛知、鉄鋼・非鉄・
合は自社というよりも業界単位で共通の BCP を作成した方が有効だと思う」
鉱業)といった、1 社単独での対応には限界があるという意見も聞かれた。
東南海・南海トラフ地震や東海地震などの大規模地震が想定される当地区は、モノづくりの集積
地として日本経済を支えており、BCP の策定やその実効性を担保することは、個別企業の存続に限
った問題ではないだろう。
【内容に関する問い合わせ先】
株式会社帝国データバンク 名古屋支店
TEL 052-561-4846
FAX 052-586-5774
担当:中森、猿渡
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