81 - 財務省

所得税法等の改正
目 次
一 非課税所得の改正�������� 81
八 外国親会社等が国内の役員等に供与等
をした経済的利益に関する調書の改正 120
二 国外転出をする場合の譲渡所得等の特
例の改正�������������� 84
九 給与所得者の特定支出の控除の特例の
改正���������������� 122
三 贈与等により非居住者に資産が移転し
た場合の譲渡所得等の特例の改正�� 94
十 給与所得者の扶養控除等申告書等に関
する改正�������������� 123
四 国外転出をする場合の譲渡所得等の特
例の適用がある場合の納税猶予の改正 103
十一 特定譲渡制限付株式等に関する改正
���������������� 125
五 贈与等により非居住者に資産が移転し
十二 確定申告書等に添付すべき証明書等
た場合の譲渡所得等の特例の適用がある
の範囲の拡充���������� 129
場合の納税猶予の改正������� 106
十三 中小企業退職金共済法の改正等に伴
六 相続により取得した有価証券等の取得
う特定退職金共済制度等の改正�� 130
費の額に変更があった場合等の修正申告
及び更正の請求の特例の改正���� 113
十四 給与所得控除の上限額の引下げに伴
七 遺産分割等があった場合の修正申告、
う告示の改正���������� 148
期限後申告等及び更正の請求の特例の創
十五 支払通知書等の記載事項の改正� 149
設���������������� 117
一 非課税所得の改正
所法 9 ①二、所令19、所規 2 )。
1 改正前の制度の概要
⑴ いわゆるこども銀行の預金等の利子の非課税
⑵ 通勤手当の非課税
小学校、中学校、高等学校若しくは中等教育
給与所得者が支給を受ける通勤手当について
学校又は特別支援学校の小学部、中学部若しく
は、通勤手当が通勤費用の実費弁償的な性格を
は高等部の児童又は生徒がその学校の長の指導
有することに鑑み、一般の通勤者につき通常必
を受けて預入し又は信託した預貯金又は合同運
要と認められる部分が非課税とされ、この非課
用信託の利子でその学校の長の指導を受けてそ
税の最高月額限度額は100,000円とされていま
の代表者の名義で預入等し又は信託した預貯金
す(所法 9 ①五、旧所令20の 2 )。
又は合同運用信託のうち、その預入又は信託に
際してその預入等をする金融機関の営業所に対
⑶ 学資金の非課税
し、その学校の長の指導によって預入又は信託
学資に充てるため給付される金品については、
するものであることを証する書面を提出したも
学術奨励の観点から非課税とされています。た
のの利子については非課税とされています(旧
だし、課税の潜脱を防止する観点から、給与そ
─ 81 ─
――所得税法等の改正――
の他対価の性質を有するものは非課税の対象か
合同運用信託の利子でその学校の長の指導を受
ら除外されています(旧所法 9 ①十五)
。
けてその代表者の名義で預入し又は信託した預
貯金又は合同運用信託のうち、その預入又は信
2 改正の内容
託に際してその預入等をする金融機関の営業所
⑴ いわゆるこども銀行の預金等の利子の非課税
に対し、その学校の長の指導によって預入又は
の改正
信託するものであることを証する書面を提出し
学校教育制度の多様化及び弾力化を推進する
たものの利子についても小学校及び中学校の生
ため、小中一貫教育を実施することを目的とす
徒が行うものの利子と同様に所得税を課さない
る義務教育学校の制度を創設するための「学校
こととされました(所法 9 ①二)。
教育法等の一部を改正する法律案」が第189回
国会に提出され、平成27年 6 月17日に可決・成
⑵ 通勤手当の非課税の改正
立し、同月24日に公布され、平成28年 4 月 1 日
改正前の非課税限度額(100,000円)はおお
から施行されています。
むね100㎞程度の新幹線通勤を念頭に設定され
義務教育学校の児童又は生徒がその学校の長
ていましたが、近年の遠距離通勤等の実態とし
の指導を受けて預入し又は信託した預貯金又は
て、新幹線用の通勤定期乗車券でその発売額が
(参考)
通勤手当の非課税制度の概要(改正後)
課税されない金額
(非課税限度額)
区 分
①交通機関又は有料道路を利用している者に支給する通勤手当
②交通用具使用者(自動車等の交通用具を使
用している者)に支給する通勤手当
1 か月当たりの合理的な運賃等の額
(最高限度 150,000円)
通勤距離が片道 2 ㎞未満
の場合
(全 額 課 税)
通勤距離が片道 2 ㎞以上
10㎞未満の場合
 4,200円
通勤距離が片道10㎞以上
15㎞未満の場合
 7,100円
通勤距離が片道15㎞以上
25㎞未満の場合
12,900円
通勤距離が片道25㎞以上
35㎞未満の場合
18,700円
通勤距離が片道35㎞以上
45㎞未満の場合
24,400円
通勤距離が片道45㎞以上
55㎞未満の場合
28,000円
通勤距離が片道55㎞以上
の場合
31,600円
③交通機関を利用している者に支給する通勤用定期乗車券
1 か月当たりの合理的な運賃等の額
(最高限度 150,000円)
④交通機関又は有料道路を利用するほか交通用具も使用している者に支
給する通勤手当や通勤用定期乗車券
1 か月当たりの合理的な運賃等の額
と②の金額との合計額
(最高限度 150,000円)
─ 82 ─
――所得税法等の改正――
1 か月当たり10万円を超える区間のものの利用
るもの」のうち給与所得を有する者がその使用
者数が一定程度存在し、また、新幹線を利用し
者から通常の給与に加算して受けるもの(使用
て通勤する者に対し 1 か月当たり10万円を超え
者からの奨学金に係る債務免除益もこれに含ま
る額の通勤手当を支給する企業も見受けられま
れます。)であって、次に掲げる場合に該当す
す。このような状況を踏まえ、通勤手当の非課
るもの以外のものを課税対象から除外すること
税に係る最高月額限度額が150,000円(改正前:
とされました(所法 9 ①十五)。
100,000円)に引き上げられました(所令20の
① 法人である使用者からその法人の役員の学
2)
。この結果、おおむね200㎞程度の新幹線通
資に充てるため給付する場合
② 法人である使用者からその法人の使用人
勤がカバーされることとなります。
(その法人の役員を含みます。)と特別の関係
⑶ 学資金の非課税の改正
のある者の学資に充てるため給付する場合
多くの地方公共団体において、地域の医師確
③ 個人である使用者からその個人の営む事業
保対策として、医学生に奨学金を貸与し、当該
に従事するその個人の配偶者その他の親族
医学生が卒業後一定期間、当該地方公共団体が
(その個人と生計を一にする者を除きます。)
指定する医療機関で勤務したことを要件として、
当該奨学金の返還債務を免除するという事業が
の学資に充てるため給付する場合
④ 個人である使用者からその個人の使用人
(その個人の営む事業に従事するその個人の
行われています。
その場合の奨学金の債務免除益に係る課税関
配偶者その他の親族を含みます。)と特別の
係に関しては、債務免除の要件とされる勤務先
関係のある者(その個人と生計を一にするそ
が当該地方公共団体の設置・運営する医療機関
の個人の配偶者その他の親族に該当する者を
であるか否かによって、課税・非課税が分かれ
除きます。)の学資に充てるため給付する場
ていました。
合
すなわち、その勤務先が当該地方公共団体の
(注 1 )
上記②④の「特別の関係のある者」と
設置・運営する医療機関以外の医療機関である
はその使用人の次に掲げる者とされてい
場合には、学資金非課税の規定により当該債務
ます(所令29)
。
免除益は非課税とされる一方で、その勤務先が
イ その使用人の親族
当該地方公共団体の設置・運営する医療機関で
ロ その使用人と婚姻の届出をしていな
ある場合には、当該債務免除益は、学資金非課
いが事実上婚姻関係と同様の事情にあ
税の規定にいう「給与その他対価の性質を有す
るもの」に該当し、当該地方公共団体から受け
る者及びその者の直系血族
ハ その使用人の直系血族と婚姻の届出
る給与所得として課税されていました。
をしていないが事実上婚姻関係と同様
奨学金の態様が多様化する中で、上記のよう
の事情にある者
な取扱いについては、アンバランスであるとの
ニ イからハまでに掲げる者以外の者で、
指摘がなされていたところです。そこで、課税
その使用人から受ける金銭その他の財
対象となる学資金の範囲について、課税の潜脱
産によって生計を維持しているもの及
を防止するという趣旨を踏まえつつ、真に課税
びその者の直系血族
の適正性・公平性を損なうおそれがあると思わ
ホ イからニまでに掲げる者以外の者で、
れるものに限定するために所要の改正を行うこ
その使用人の直系血族から受ける金銭
ととしました。
その他の財産によって生計を維持して
具体的には、「給与その他対価の性質を有す
いるもの
─ 83 ─
――所得税法等の改正――
(注 2 )
上記のとおり、給与所得者が使用者か
使用人と特別の関係のある者に対して給
付される学資金には該当せず、当該使用
ら受ける学資金で非課税とされるものは、
人としての地位に基づき給付されるもの
「通常の給与に加算して受けるもの」であ
として非課税となります。
ることから、例えば、本来受けるべき給
与の額を減少させ、それに相当する額を
(注 5 )
この改正は、地方公共団体が医学生を
学資金という名目で給付するような場合
対象として行う奨学金事業に限らず、例
には、非課税とはなりません。
えば、薬剤師や理学療法士、介護福祉士
(注 3 )
上記の①から④までの場合には、その
といった他の職種等への従事が見込まれ
役員、使用人又は使用者である個人の営
る学生・生徒に係る学資金・債務免除益
む事業に従事するその個人の親族として
についても広く適用されます。
の地位に基づいて給付されるものである
ことから、その役員、使用人又は個人の
親族に対する給与等として課税されるこ
3 適用関係
⑴ 上記 2 ⑴の改正は、平成28年 4 月 1 日から施
行されています(改正法附則 1 )。
ととなります。
また、その学資金が、上記②④の「特
⑵ 上記 2 ⑵の改正は、平成28年 1 月 1 日以後に
別の関係のある者」に直接給付される場
受けるべき通勤手当(同日前に受けるべき通勤
合であっても、その使用人(この場合に
手当の差額として追給されるものを除きます。)
は上記②④の使用人です。)としての地位
について適用し、同日前に受けるべき通勤手当
に基づき給付されるものであることから、
(同日以後に受けるべき通勤手当で同日前に受
その使用人に対する給与等として課税さ
けるべきものの差額として追給されるものを含
れることとなります。
みます。)については従前どおりとされていま
(注 4 )
ご夫婦やご兄弟が同じ使用者の下で働
す。ただし、平成28年 4 月 1 日までに既に支給
いている場合などには、使用者から学資
された通勤手当については、既に行われている
金の給付を受ける者が、その使用者の使
毎月(毎日)の源泉徴収税額の再計算は行わず、
用人としての地位を有しているのみなら
平成28年分の給与所得の年末調整の際に精算さ
ず、その使用者の他の使用人と特別の関
れることになります(改正所令附則 2 )。
係のある者であることもあり得ます。こ
⑶ 上記 2 ⑶の改正は、平成28年 4 月 1 日以後に
の場合においても、当該学資金の給付が、
受けるべき学資金について適用し、同日前に受
使用人と特別の関係のある者のみを対象
けるべき学資金については従前どおりとされて
として行われるなど給与所得課税の潜脱
います(改正法附則 3 )。
を目的として行われるものでない限り、
二 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の改正
の持分(以下「有価証券等」といいます。)
1 改正前の制度の概要
を有する場合には、その者の事業所得の金額、
⑴ 有価証券等に対する課税
譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算につ
いては、その国外転出の時に、次に掲げる場
① 制度の内容
国外転出をする居住者が、その国外転出の
合の区分に応じそれぞれ次に定めるところに
時において有価証券又は匿名組合契約の出資
より、所得税が課税されます(旧所法60の 2
─ 84 ─
――所得税法等の改正――
ホ 特別の法律により設立された法人の発
①)。
イ 国外転出の日後に確定申告等をする場合
この場合は、その国外転出の時における
有価証券等の価額に相当する金額によりそ
の有価証券等の譲渡があったものとみなし
行する出資証券(下記ヘ、ト及びヌに該
当するものを除きます。)
ヘ 協同組織金融機関の優先出資に関する
法律に規定する優先出資証券
て所得税が課税されます。この「国外転出
ト 資産の流動化に関する法律に規定する
の日後に確定申告等をする場合」とは、国
優先出資証券又は新優先出資引受権を表
外転出をする日の属する年分の確定申告書
示する証券
の提出の時までに国税通則法の規定による
チ 株券、新株予約権証券
納税管理人の届出をした場合、納税管理人
リ 投資信託及び投資法人に関する法律に
の届出をしないで国外転出をした日以後に
規定する投資信託又は外国投資信託の受
その年分の確定申告書を提出する場合又は
益証券
その年分の所得税につき決定がされる場合
ヌ 投資信託及び投資法人に関する法律に
規定する投資証券、投資法人債券、外国
が該当します。
ロ 国外転出の日以前に確定申告をする場合
投資証券
ル 貸付信託の受益証券
(すなわち上記イ以外の場合)
この場合は、国外転出の予定日から起算
して 3 月前の日における有価証券等の価額
に相当する金額によりその有価証券等の譲
渡があったものとみなして所得税が課税さ
ヲ 資産の流動化に関する法律に規定する
特定目的信託の受益証券
ワ 信託法に規定する受益証券発行信託の
受益証券
れます。ただし、国外転出の予定日から起
カ 法人が事業に必要な資金を調達するた
算して 3 月前の日後に取得をした有価証券
めに発行する約束手形のうち、一定のも
等については、その取得時の価額に相当す
の(コマーシャル・ペーパー)
る金額によりその有価証券等の譲渡があっ
ヨ 抵当証券法に規定する抵当証券
たものとみなして所得税が課税されます。
タ 外国又は外国の者の発行する上記イか
らチまで及びルからヨまでの性質を有す
② 有価証券等の範囲
対象となる資産は、有価証券及び匿名組合
る証券・証書
レ 外国の者の発行する証券・証書で銀行
契約の出資の持分です。
イ 有価証券とは、所得税法第 2 条第 1 項第
業を営む者その他の金銭の貸付けを業と
17号に規定する有価証券であり、具体的に
して行う者の貸付債権を信託する信託の
は次のものとされていました(旧所法 2 ①
受益権又はこれに類する権利を表示する
十七、60の 2 ①、所令 4 )
。
もののうち、一定のもの(外国信託受益
イ 国債証券、地方債証券
証券・証書)
ロ 特別の法律により法人の発行する債券
ソ 金融商品市場、外国金融商品市場、店
(金融債、政府保証債等)
(下記ハ及びヌ
頭デリバティブ取引におけるオプション
を表示する証券・証書(カバード・ワラ
に該当するものを除きます。
)
ハ 資産の流動化に関する法律に規定する
ント)
ツ 預託証券・証書
特定社債券
ニ 社債券(相互会社の社債券を含みま
ネ 流通性その他の事情を勘案し、公益又
は投資者の保護を確保することが必要と
す。)
─ 85 ─
――所得税法等の改正――
認められる一定の証券・証書(海外CD、
した未決済信用取引等については、その締
学校債等)
結の時に未決済信用取引等を決済したもの
ナ 上記イからカまで及びタに掲げる有価
とみなして算出した利益の額又は損失の額
証券に表示されるべき権利で、券面が発
に相当する金額に対して所得税が課税され
行されていないもの
ます。
ラ 合名会社、合資会社又は合同会社の社
② 未決済信用取引等の範囲
員の持分、協同組合等の組合員又は会員
対象となる取引は、国外転出の時において
の持分その他法人の出資者の持分
決済していない次の取引です(所法60の 2 ②、
ム 株主又は投資主となる権利、優先出資
者となる権利、特定社員又は優先出資社
員となる権利その他法人の出資者となる
所規37の 2 ①)。
イ 金融商品取引法第156条の24第 1 項に規
定する信用取引
ロ 金融商品取引法第161条の 2 に規定する
権利
ロ 匿名組合契約とは、商法上の匿名組合契
約及び当事者の一方が相手方のために出資
取引及びその保証金に関する内閣府令第 1
条第 2 項に規定する発行日取引
をし、相手方がその事業から生ずる利益を
分配することを約する契約です(所令288)
。 ⑶ デリバティブ取引に対する課税
① 制度の内容
⑵ 信用取引及び発行日取引に対する課税
国外転出をする居住者が、その国外転出の
時において決済していないデリバティブ取引
① 制度の内容
国外転出をする居住者が、その国外転出の
(以下「未決済デリバティブ取引」といいま
時において決済していない信用取引又は発行
す。
)に係る契約を締結している場合には、
日取引(以下「未決済信用取引等」といいま
その者の事業所得の金額又は雑所得の金額の
す。)に係る契約を締結している場合には、
計算については、その国外転出の時に、次に
その者の事業所得の金額又は雑所得の金額の
掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める
計算については、その国外転出の時に、次に
ところにより所得税が課税されます(所法60
掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める
の 2 ③)。
ところにより所得税が課税されます(所法60
イ 国外転出の日後に確定申告等をする場合
の 2 ②)
。
この場合は、その国外転出の時に未決済
イ 国外転出の日後に確定申告等をする場合
デリバティブ取引を決済したものとみなし
この場合は、その国外転出の時に未決済
て算出した利益の額又は損失の額に相当す
信用取引等を決済したものとみなして算出
る金額に対して所得税が課税されます。
した利益の額又は損失の額に相当する金額
ロ 国外転出の日以前に確定申告をする場合
この場合は、国外転出の予定日から起算
に対して所得税が課税されます。
ロ 国外転出の日以前に確定申告をする場合
して 3 月前の日に未決済デリバティブ取引
この場合は、国外転出の予定日から起算
を決済したものとみなして算出した利益の
して 3 月前の日に未決済信用取引等を決済
額又は損失の額に相当する金額に対して所
したものとみなして算出した利益の額又は
得税が課税されます。ただし、国外転出の
損失の額に相当する金額に対して所得税が
予定日から起算して 3 月前の日後に契約の
課税されます。ただし、国外転出の予定日
締結をした未決済デリバティブ取引につい
から起算して 3 月前の日後に契約の締結を
ては、その締結の時に未決済デリバティブ
─ 86 ─
――所得税法等の改正――
取引を決済したものとみなして算出した利
その決済によって生じた利益の額又は損
益の額又は損失の額に相当する金額に対し
失の額に、その未決済信用取引等又は未決
て所得税が課税されます。
済デリバティブ取引に係る国外転出時に生
② 未決済デリバティブ取引の範囲
じたものとみなされた損失の額に相当する
金額を加算します。
対象となる取引は、国外転出の時において
決済していない金融商品取引法第 2 条第20項
なお、この取得価額及び損益の額の調整計算
に規定するデリバティブ取引です(所法60の
は、下記⑹①による課税の取消しがあった有価
2 ③)。
証券等、未決済信用取引等又は未決済デリバテ
ィブ取引については適用されず、その課税の取
⑷ 国外転出の時に課税された資産の取得価額等
消し後は国外転出前の取得価額等となります。
の計算
また、下記⑺及び⑻の有価証券等の価格下落又
国外転出の日の属する年分の所得税について
は未決済信用取引等若しくは未決済デリバティ
上記⑴から⑶までの課税の適用を受けた個人
ブ取引に係る損益の額の増減により国外転出の
(その相続人を含みます。
)が、その国外転出の
日の属する年分の所得税の減額更正を受けた場
時に有していた有価証券等又は契約を締結して
合には、その減額後の価格に相当する金額等に
いた未決済信用取引等若しくは未決済デリバテ
より上記の取得価額又は損益の額の計算をする
ィブ取引の譲渡又は決済をした場合における事
ことになります。
業所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金
額の計算については、次のように取得価額又は
⑸ 適用対象者
損益の額の調整をすることとされています(旧
この制度の対象となる居住者は、国外転出の
所法60の 2 ④)
。
時に有している有価証券等の価額に相当する金
① 上記⑴の課税の適用を受けた有価証券等に
額並びに契約を締結している未決済信用取引等
ついては、国外転出の時に課税がされた有価
及び未決済デリバティブ取引のその国外転出の
証券等の時価に相当する価格により取得した
時における利益の額及び損失の額の合計額が 1
ものとして、取得価額の洗替えを行います。
億円以上であることその他一定の要件を満たす
したがって、国外転出後にその有価証券等の
者です(所法60の 2 ⑤、旧所令170②、所規37
譲渡をした場合には、その洗替え後の取得価
の 2 ⑥⑦)。
額で譲渡所得等の金額の計算を行います。
② 上記⑵の課税の適用を受けた未決済信用取
⑹ 5 年(又は10年)以内に帰国をした場合等の
引等又は⑶の課税の適用を受けた未決済デリ
課税の取消し
バティブ取引について国外転出後に決済があ
国外転出時に有していた有価証券等を譲渡せ
った場合には、次のように損益の額の調整を
ずにその国外転出の日から 5 年(10年間の納税
行います。
の猶予を受けている場合には、10年)以内に帰
イ 国外転出時に利益の額が生じていた場合
国をした場合等には、国外転出時の課税を取り
その決済によって生じた利益の額又は損
消すことができます。具体的には次のとおりで
失の額から、その未決済信用取引等又は未
す。
決済デリバティブ取引に係る国外転出時に
① 国外転出の日の属する年分の所得税につき
生じたものとみなされた利益の額に相当す
上記⑴から⑶までの課税の適用を受けるべき
る金額を減算します。
個人が、その国外転出の時に有していた有価
ロ 国外転出時に損失の額が生じていた場合
─ 87 ─
証券等又は契約を締結していた未決済信用取
――所得税法等の改正――
済信用取引等又は未決済デリバティブ取引
引等若しくは未決済デリバティブ取引のうち、
次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定
② 上記①の課税の取消しは、上記①イからハ
めるものについては、この制度による課税を
までのいずれかの場合に該当することとなっ
受けた居住者の国外転出の日の属する年分の
た日から 4 月以内に、税務署長に対して更正
事業所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得
の請求をすることにより適用できます(旧所
の金額の計算上、そのみなされた有価証券等
法153の 2 ①)。
の譲渡、未決済信用取引等の決済及び未決済
デリバティブ取引の決済の全てがなかったも
⑺ 譲渡等により対象資産の価額が下落した場合
のとすることができます
(旧所法60の 2 ⑥⑦)
。
の課税所得の修正
イ その個人が、国外転出の日から 5 年(又
国外転出時における含み益よりも実際の譲渡
は10年)を経過する日までに帰国をした場
又は決済等による利益が少なかった場合等には、
合……その帰国の時まで引き続き有してい
課税を減免することができます。具体的には、
る有価証券等又は決済していない未決済信
国外転出の日の属する年分の所得税について上
用取引等若しくは未決済デリバティブ取引
記⑴から⑶までの課税の適用を受けた個人で納
ロ その個人が、国外転出の日から 5 年(又
税の猶予(所法137の 2 ①②)を受けている者
は10年)を経過する日までにその国外転出
(その相続人を含みます。以下「納税猶予適用
の時に有していた有価証券等又は締結して
者」といいます。)が、その納税の猶予に係る
いた未決済信用取引等若しくは未決済デリ
期限までに、有価証券等の譲渡、未決済信用取
バティブ取引に係る契約を贈与により居住
引等若しくは未決済デリバティブ取引の決済又
者に移転した場合……その贈与による移転
は有価証券等、未決済信用取引等若しくは未決
があった有価証券等、未決済信用取引等又
済デリバティブ取引の限定相続等による移転を
は未決済デリバティブ取引
した場合において、その譲渡若しくは決済又は
ハ その国外転出の日から 5 年(又は10年)
移転の時における価額若しくは評価額又は利益
を経過する日までにその個人が死亡したこ
の額が国外転出時の価額等よりも下回るとき
とにより、国外転出の時に有していた有価
(損失の額の場合には上回るとき)は、次のよ
証券等又は締結していた未決済信用取引等
うに課税所得を修正できることとされています
若しくは未決済デリバティブ取引に係る契
(旧所法60の 2 ⑧)。
約の相続(限定承認に係るものを除きま
(注) 上記の「限定相続等」とは、贈与、相続(限
す。
)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認
定承認に係るものに限ります。)又は遺贈(包
に係るものを除きます。
)による移転があ
括遺贈のうち限定承認に係るものに限りま
った場合において、同日までに、その相続
す。
)をいいます。
又は遺贈により有価証券等又は未決済信用
① 有価証券等の場合
取引等若しくは未決済デリバティブ取引に
納税猶予適用者が、その納税の猶予に係る
係る契約の移転を受けた相続人及び受遺者
期限までに、その国外転出の時から引き続き
である個人(その個人から相続又は遺贈に
有している有価証券等の譲渡又は限定相続等
よりその有価証券等又は未決済信用取引等
をした場合において、その有価証券等の譲渡
若しくは未決済デリバティブ取引に係る契
に係る譲渡価額又は限定相続等の時における
約の移転を受けた個人を含みます。
)の全
その有価証券等の価額に相当する金額が国外
てが居住者となった場合……その相続又は
転出の時において課税された価額に相当する
遺贈による移転があった有価証券等、未決
金額を下回るときは、その下回る価格により
─ 88 ─
――所得税法等の改正――
国外転出の時にその有価証券等を譲渡したも
は、その実際に決済され、又は限定相続等の
のとみなして、国外転出の日の属する年分の
時に決済したものとした利益の額等により国
所得税の再計算をすることができます(旧所
外転出の日の属する年分の所得税の再計算を
法60の 2 ⑧一)
。
することができます(旧所法60の 2 ⑧五~七)。
④ 適用手続
この再計算をする場合に、その有価証券等
が、有価証券等を発行した法人の合併、分割
上記①から③までの措置による所得税の再
等の事由により国外転出の時後に取得した合
計算は、譲渡若しくは決済又は限定相続等に
併法人の株式や分割承継法人の株式などであ
よる移転があった日から 4 月以内に、税務署
る場合には、国外転出時評価額(有価証券等
長に対して更正の請求をすることにより適用
をその種類及び銘柄の異なるごとに区分し、
できます(旧所法153の 2 ②)。
その個人の国外転出の時における有価証券等
の価格をその国外転出の時において有するそ
⑻ 納税の猶予に係る期間の満了日における価格
の有価証券等の単位数で除して計算した金額
下落
をいいます。)について一定の調整計算を行
納税猶予適用者が国外転出の時からその納税
った上で、この再計算の適用の可否の判定を
の猶予に係る期間の満了日まで引き続き有して
します(旧所令170④⑤)
。
いる有価証券等又は決済していない未決済信用
② 未決済信用取引等の場合
取引等若しくは未決済デリバティブ取引の価格
納税猶予適用者が、その納税の猶予に係る
又は利益の額若しくは損失の額が、国外転出の
期限までに、その国外転出の時から引き続き
時に課税された価額に相当する金額を下回ると
決済していない未決済信用取引等の決済又は
き(損失の額については、上回るとき)は、次
限定相続等による移転をした場合において、
のような課税の減免措置が設けられています
その決済によって生じた利益の額若しくは損
(所法60の 2 ⑩)。
失の額又はその限定相続等の時にその未決済
① 有価証券等の場合
信用取引等を決済したものとして算出した利
納税猶予適用者が国外転出の時から引き続
益の額に相当する金額がその国外転出時の金
き有している有価証券等の納税の猶予に係る
額よりも下落している場合等には、その実際
期間の満了日における価額に相当する金額が、
に決済され、又は限定相続等の時に決済した
国外転出の時における価額に相当する金額を
ものとした利益の額等により国外転出の日の
下回るときは、その下回る価格により国外転
属する年分の所得税の再計算をすることがで
出の時にその有価証券等を譲渡したものとみ
きます(旧所法60の 2 ⑧二~四)
。
なして、国外転出の日の属する年分の所得税
の再計算をすることができます(所法60の 2
③ 未決済デリバティブ取引の場合
納税猶予適用者が、その納税の猶予に係る
⑩一)。
期限までに、その国外転出の時から引き続き
なお、国外転出の後に、その有価証券等を
決済していない未決済デリバティブ取引の決
発行した法人の合併、分割などの事由が生じ
済又は限定相続等による移転をした場合にお
た場合には、国外転出時評価額について一定
いて、その決済によって生じた利益の額若し
の調整計算を行った上で、この再計算の可否
くは損失の額又はその限定相続等の時にその
の判定をします(旧所令170④⑤)。
未決済デリバティブ取引を決済したものとし
② 未決済信用取引等の場合
て算出した利益の額に相当する金額がその国
納税猶予適用者が国外転出の時から引き続
外転出時の金額よりも下落している場合等に
き決済していない未決済信用取引等をその納
─ 89 ─
――所得税法等の改正――
税の猶予に係る期間の満了日に決済したもの
の有価証券等を発行した法人の株式交換、株
として算出した利益の額に相当する金額が、
式移転などの事由が生じた場合において、そ
その国外転出時の金額よりも下落している場
の事由により取得した有価証券等(以下「取
合等には、その納税の猶予に係る期間の満了
得有価証券等」といいます。
)が引き続き所
日における利益の額等により国外転出の日の
有していたものとみなされるときにおけるそ
属する年分の所得税の再計算をすることがで
の従前の有価証券等のうちその取得有価証券
きます(所法60の 2 ⑩二~四)
。
等の取得の基因となった部分は、その取得有
③ 未決済デリバティブ取引の場合
価証券等と同一銘柄の有価証券等とみなされ
ます(旧所令170⑧)。
納税猶予適用者が国外転出の時から引き続
き決済していない未決済デリバティブ取引を
その納税の猶予の期間に係る満了日に決済し
たものとして算出した利益の額が、その国外
2 改正の内容
⑴ 対象となる有価証券等の範囲の見直し
転出時の金額よりも下落している場合等には、
上記 1 の国外転出時課税制度は、含み益を有
その納税の猶予に係る期間の満了日における
する有価証券等を保有したまま国外転出し、キ
利益の額等により国外転出の日の属する年分
ャピタルゲイン非課税国等で譲渡することによ
の所得税の再計算をすることができます(所
り生じる課税機会の逸失を防止する措置ですが、
法60の 2 ⑩五~七)
。
国外において生じたストックオプションの行使
④ 適用手続
による所得のうち国内において行った勤務等に
上記①から③までの措置による所得税の再
基因するものは国外転出後も日本における国内
計算は、納税の猶予に係る期間の満了日から
源泉所得として課税対象となるため(所法161
4 月以内に、税務署長に対して更正の請求を
①十二)
、国外転出時課税制度の対象となる上
することにより適用できます(旧所法153の
記 1 ⑴②の有価証券等の範囲から、有利な条件
2 ③)。
で発行された新株予約権(ストックオプショ
ン)などの次に掲げる有価証券等で国内源泉所
⑼ 国外転出の時後に同一銘柄の有価証券等の取
得を生ずべきものが除外されました(所法60の
得をした場合の判定方法等
2 ①、所令170①)。
① 国外転出の日の属する年分の所得税につい
① 特定譲渡制限付株式又は承継譲渡制限付株
て上記⑴の課税の適用を受けるべき個人(そ
式で、譲渡(担保権の設定その他の処分を含
の相続人を含みます。
)がその国外転出の時
みます。)についての制限が解除されていな
後に譲渡又は限定相続等により有価証券等の
いもの
移転をした場合において、その移転をした有
(注) 特定譲渡制限付株式及び承継譲渡制限付
価証券等が、その者がその国外転出の時にお
株 式 の 具 体 的 な 範 囲 に つ い て は、 後 述 の
いて有していた有価証券等に該当するものか
「十一 特定譲渡制限付株式等に関する改
どうかの判定は、その国外転出の時後に取得
正」を参照してください。
した同一銘柄の有価証券等から先に譲渡又は
② 次に掲げる権利でその権利の行使をしたな
贈与をしたものとした場合におけるその有価
らばその行使時の経済的利益に対して課税が
証券等の取得の日により行うこととされてい
されるもの(所得税法施行令第84条第 2 項の
ました(旧所令170⑦)
。
規定の適用のあるもの)を表示する有価証券
② また、個人が有する有価証券等(以下「従
イ 旧商法の株式譲渡請求権(商法等の一部
前の有価証券等」といいます。
)についてそ
を改正する等の法律(平成13年法律第79
─ 90 ─
――所得税法等の改正――
号)第 1 条の規定による改正前の商法第
により再取得したものとみなされるため、その
210条ノ 2 第 2 項(取締役又は使用人に譲
有価証券等の取得価額は、その国外転出時の時
渡するための自己株式の取得)の決議に基
価に洗い替えられることとなりますが(上記 1
づき与えられた同項第 3 号に規定する権
⑷参照)、この国外転出時課税制度が上記 1 ⑸
利)
の要件を満たす者に対して確定申告の有無を問
ロ 旧商法の新株引受権(商法等の一部を改
わずに適用されるため、確定申告書を提出しな
正する法律(平成13年法律第128号)第 1
いで国外転出した者についてもこの取得価額の
条の規定による改正前の商法第280条ノ19
洗替えを適用するとの解釈が可能となっていま
第 2 項(取締役又は使用人に対する新株引
した。
受権の付与)の決議に基づき与えられた同
他方、国外転出の日から 5 年(又は10年)以
項に規定する新株の引受権)
内に帰国等をした場合には国外転出時課税制度
ハ 旧商法の有利発行の新株予約権(会社法
の適用がなかったものとしてその有価証券等の
の施行に伴う関係法律の整備等に関する法
取得価額を国外転出前の価額に戻すことが可能
律第64条の規定による改正前の商法第280
となっていますが、これは更正の請求に基づく
条ノ21第 1 項(新株予約権の有利発行の決
更正により国外転出時の課税を取り消すことに
議)の決議に基づき発行された同項に規定
より行うこととされているため、例えば譲渡損
する新株予約権)
失が生じているために確定申告をしないで国外
ニ 会社法の新株予約権で一定のもの(会社
転出をした場合にはこの更正の請求は適用でき
法第238条第 2 項(募集事項の決定)の決
ないことから取得価額を国外転出の前の価額に
議その他の決議に基づき発行された新株予
戻すことはできず、また、申告義務があるにも
約権で、その新株予約権を引き受ける者に
かかわらず確定申告をしないで国外転出した者
特に有利な条件若しくは金額であることと
は、課税されないまま取得価額がステップアッ
されるもの又は役務の提供その他の行為に
プすることとなると解釈することも可能となっ
よる対価の全部若しくは一部であることと
ていました。
されるもの)
このため、国外転出の日の属する年分の所得
ホ 株式と引換えに払い込むべき額が有利な
税の計算において、国外転出時課税制度が適用
金額である場合におけるその株式を取得す
されていない場合には、国外転出の時において
る権利(上記イからニまでに掲げるものを
有する有価証券等の取得価額を時価に洗い替え
除きます。
)
ないこととされました。
(注)
上記ニの「その他の決議」とは、会社
① 具体的には、次の有価証券等が取得価額の
法第239条第 1 項(募集事項の決定の委
洗替えの対象外となります(所法60の 2 ④)。
任)の決議による委任に基づく同項に規
イ 国外転出をする者が、その国外転出の日
定する募集事項の決定及び同法第240条第
の属する年分の所得税につき確定申告書の
1 項(公開会社における募集事項の決定
提出及び決定がされていない場合における
の特則)の規定による取締役会の決議です。
国外転出の時において有していた有価証券
等
⑵ 国外転出時に確定申告をしていない場合等の
ロ 居住者の国外転出の日の属する年分の事
有価証券等の取得価額の洗替えの適用除外
業所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得
国外転出時課税制度の適用を受けた場合には、
の金額の計算上その国外転出の時における
時価によりその有価証券等を譲渡してその時価
有価証券等の価額に相当する金額等が総収
─ 91 ─
――所得税法等の改正――
入金額に算入されていない有価証券等
及び受遺者である個人に非居住者(その国外転
② また、次の未決済信用取引等及び未決済デ
出の日から 5 年を経過する日までに帰国をした
リバティブ取引も同様に、国外転出の時に生
者を除きます。)が含まれないこととなった場
じたものとみなされた利益の額又は損失の額
合が加えられました(所法60の 2 ⑥三ロ)。
の上記 1 ⑷②の調整計算は行わないこととさ
なお、国外転出の日の属する年分の所得税に
れました(所法60の 2 ④)
。
つき上記 1 ⑴から⑶までの課税の適用を受けた
イ 国外転出をする者が、その国外転出の日
個人で、国外転出をする場合の譲渡所得等の特
の属する年分の所得税につき確定申告書の
例の適用がある場合の納税猶予(所法137の 2
提出及び決定がされていない場合における
①)のうち10年間の納税の猶予(所法137の 2
国外転出の時において契約を締結していた
②)を受けている者については、上記の記述中
未決済信用取引等及び未決済デリバティブ
「 5 年」とあるのを「10年」として上記の措置
の適用を受けることができます(所法60の 2 ⑦)。
取引
ロ 居住者の国外転出の日の属する年分の事
また、「遺産分割等の事由」とは、次に掲げ
業所得の金額又は雑所得の金額の計算上そ
る事由をいいます(所法151の 6 ①、所令273の
の国外転出の時に生じたものとみなされた
2)
。
損益の額が総収入金額に算入されていない
① 国外転出時課税制度の適用を受けた者の相
未決済信用取引等及び未決済デリバティブ
続又は遺贈に係る対象資産(有価証券等又は
取引
未決済信用取引等若しくは未決済デリバティ
ブ取引)について民法(第904条の 2 (寄与
⑶ 国外転出時課税制度の適用の取消し事由の追
分)を除きます。)の規定による相続分又は
加
包括遺贈の割合に従って非居住者に移転があ
遺産分割等があった場合の修正申告の特例
ったものとされていた場合において、その後
(所法151の 6 )が創設されたことに伴い(後述
その対象資産の分割が行われ、その分割によ
の「七 遺産分割等があった場合の修正申告、
り非居住者に移転した対象資産がその相続分
期限後申告等及び更正の請求の特例の創設」の
又は包括遺贈の割合に従って非居住者に移転
2 ⑴を参照してください。
)
、上記 1 ⑹により国
したものとされた対象資産と異なることとな
外転出時課税制度の適用を取り消すことができ
ったこと。
る場合に、国外転出の日から 5 年を経過する日
までに国外転出時課税制度の適用を受けた個人
が死亡したことにより、その国外転出の時に有
していた有価証券等又は締結していた未決済信
用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に係
る契約の相続(限定承認に係るものを除きま
② 強制認知等により相続人に異動を生じたこ
と。
③ 遺留分による減殺の請求に基づき返還すべ
き、又は弁償すべき額が確定したこと。
④ 遺贈に係る遺言書が発見され、又は遺贈の
放棄があったこと。
す。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係
⑤ 相続又は遺贈により取得した財産について
るものを除きます。
)による移転があった場合
の権利の帰属に関する訴えについての判決が
において、その個人について生じた遺産分割等
あったこと。
の事由により、その相続又は遺贈により有価証
券等又は未決済信用取引等若しくは未決済デリ
バティブ取引に係る契約の移転を受けた相続人
─ 92 ─
⑥ 条件付の遺贈について、条件が成就したこ
と。
――所得税法等の改正――
⑷ 国外転出時課税制度の適用を受けた有価証券
⑸ 国外転出の時後に同一銘柄の有価証券等の取
等の国外転出時評価額の調整計算の改正
得をした場合の判定方法等の改正
① 国外転出時課税制度の適用を受けた新株予
国外転出の日の属する年分の所得税につき国
約権について、その国外転出の後に権利行使
外転出時課税制度の適用を受けるべき個人(そ
をして株式を取得した場合には、その株式の
の相続人を含みます。)がその国外転出の時後
国外転出時評価額は、次の算式に基づき調整
に譲渡又は限定相続等により有価証券等の移転
計算した金額によって、上記 1 ⑺及び⑻の課
をした場合において、その移転をした有価証券
税の減免の適用を受けることとされました
等が、その者がその国外転出の時において有し
(所令170⑤十六)
。
ていた有価証券等に該当するかどうかの判定
(上記 1 ⑼参照)は、次のように行うこととさ
《算式》
れました(所令170⑧)。
旧新株予約権 1 個当たりの
従前の国外転出時評価額
+権利行使価額
新株 1 単位当た
りの国外転出時 =
旧新株予約権の 1 個につい
評価額
て取得した株式の数
① まず、その国外転出の時後に取得した同一
② 無対価合併又は無対価分割型分割があった
② 次にその個人がその国外転出の時に有して
場合における国外転出の時において所有して
いた有価証券等又は猶予適用有価証券等のう
いた合併法人又は分割承継法人の株式(所有
ち先に国外転出時課税制度(所法60の 2 ①)
株式)の国外転出時評価額については、合併
又は贈与等時課税制度(所法60の 3 ①)の適
法人又は分割承継法人の株式の従前の国外転
用があったものから順次譲渡又は贈与をした
出時評価額に、被合併法人又は分割法人の株
ものとします。
銘柄の有価証券等(猶予適用有価証券等を除
きます。)の譲渡又は贈与をし、
式(旧株)の国外転出時評価額(分割法人の
(注) 上記の「猶予適用有価証券等」とは、贈
場合には純資産移転割合を乗じた国外転出時
与、相続又は遺贈により取得した同一銘柄
評価額)にその旧株の数を乗じてこれを国外
の有価証券等のうち、その贈与をした者又
転出時に所有していた合併法人又は分割承継
は相続若しくは遺贈に係る相続人がその贈
法人の株式数で除して計算した金額を加算し
与の日又は相続の開始の日の属する年分の
て計算することが明確化されました(所令
所得税につき納税猶予の適用を受けている
170⑥)
。具体的な算式は、以下のとおりです。
場合におけるその有価証券等をいいます。
《算式》
⑹ 国外転出をした者が 5 年(又は10年)以内に
イ 無対価合併の場合(所令112②)
帰国をした場合等の修正申告の特例の創設
旧株 1 株の従前の
国外転出時評価額
×旧株の数
所有株式
所有株式
1 株の従
1 株の国
= 前の国外 +
外転出時
国外転出時の所有
転出時評
評価額
株式の数
価額
改正前の制度では、上記 1 ⑹の 5 年(又は10
年)以内に帰国をした場合等の課税の取消しに
より所得金額や税額が減少をする場合等には更
正の請求ができる特例が設けられていますが
ロ 無対価分割型分割の場合(所令113②)
(上記 1 ⑹②参照)、例えば、国外転出時課税制
旧株 1 株の従前の
国外転出時評価額
×純資産移転割合
×旧株の数
度の適用によって生じた譲渡損失の金額につい
所有株式
所有株式
1 株の従
1 株の国
= 前の国外 +
外転出時
国外転出時の所有
転出時評
評価額
株式の数
価額
て確定申告書を提出した後、国外転出の日から
5 年を経過する日までに帰国をしたことにより
その譲渡損失の金額を生じなかったものとする
(課税を取り消す)場合には、その有価証券等
─ 93 ─
――所得税法等の改正――
の取得価額を国外転出の前の価額に戻す(増額
する)こととなるため、その国外転出の日の属
する年分の所得金額及び納税額が増加すること
3 適用関係
⑴ 上記 2 ⑴の改正は、平成28年分以後の所得税
になります。
について適用し、平成27年分以前の所得税につ
今回の改正においては、上場株式等に係る譲
いては、従前どおりとされます(改正法附則 2 )。
渡損失の損益通算の特例(措法37の12の 2 )の
⑵ 上記 2 ⑵の改正は、平成28年 1 月 1 日以後に
対象に国外転出時課税制度の適用によって生じ
譲渡又は決済をする有価証券等、未決済信用取
た譲渡損失の金額を追加したことにあわせて、
引等又は未決済デリバティブ取引について適用
このような事後的に生じた事由に基因して国外
し、同日前に譲渡又は決済をした有価証券等、
転出時課税制度の適用を取り消したことにより
未決済信用取引等又は未決済デリバティブ取引
対象となった有価証券等の譲渡損失の金額がな
については、従前どおりとされます(改正法附
かったものとされた場合に、これによって増加
則 7 ①)。
した所得金額や所得税額を申告するために修正
⑶ 上記 2 ⑶の改正は、平成28年 1 月 1 日以後の
申告書を提出することができる特例が創設され
遺産分割等の事由により相続人又は受遺者であ
ました(所法151の 2 ①)
。
る個人に非居住者が含まれないこととなった場
なお、この特例を適用して修正申告書を提出
合について適用されます(改正法附則 7 ②)。
した場合には、税務署長が更正をできる期間及
⑷ 上記 2 ⑷の改正は、平成28年 1 月 1 日以後に
び国税の徴収権の消滅時効が修正申告書を提出
譲渡又は限定相続等があった有価証券等につい
した日から 5 年を経過した日まで延長されます
て適用し、同日前に譲渡又は限定相続等があっ
(所法151の 2 ②)
。
た有価証券等については、従前どおりとされま
(注 1 )
相続により取得した有価証券等の取得費
す(改正所令附則 9 ①)。
の額に変更があった場合等の修正申告の特
⑸ 上記 2 ⑸の改正は、平成28年 1 月 1 日以後に
例(所法151の 4 )とは異なり、この修正申
譲渡又は限定相続等により移転をする有価証券
告の特例の場合には、延滞税の計算期間の
等の判定について適用し、同日前に譲渡又は限
特例や加算税に関する特例は措置されてい
定相続等により移転をした有価証券等の判定に
ません。
ついては、従前どおりとされます(改正所令附
則 9 ②)。
(注 2 )
復興特別所得税についても、上記と同様
の修正申告の特例が創設されています(復
⑹ 上記 2 ⑹の改正は、平成28年 1 月 1 日以後に
帰国等による課税の取消しができることとなる
興財確法20の 2 ①)。
場合について適用されます(改正法附則12)。
三 贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の
特例の改正
より非居住者に移転した場合には、その居住
1 改正前の制度の概要
者の事業所得の金額、譲渡所得の金額又は雑
⑴ 有価証券等に対する課税
所得の金額の計算については、その贈与等の
時に、その時における価額に相当する金額に
① 制度の内容
居住者の有する有価証券等が、贈与、相続
より、その移転した有価証券等の譲渡があっ
又は遺贈(以下「贈与等」といいます。
)に
たものとみなして所得税が課税されます(所
─ 94 ─
――所得税法等の改正――
の額又は損失の額に相当する金額が生じたも
法60の 3 ①)
。
のとみなして所得税が課税されます(所法60
② 有価証券等の範囲
の 3 ③)。
対象となる有価証券等の範囲は、前述の
② 未決済デリバティブ取引の範囲
「二 国外転出をする場合の譲渡所得等の特
例の改正」の国外転出時課税制度と同様に、
対象となる取引は、国外転出時課税制度と
有価証券及び匿名組合契約の出資の持分です
同様に、贈与等の時において決済していない
金融商品取引法第 2 条第20項に規定するデリ
(所法60の 3 ①、60の 2 ①)
。
バティブ取引です(所法60の 3 ③、60の 2 ③)。
⑵ 信用取引及び発行日取引に対する課税
⑷ 贈与等の時に課税された資産の取得価額等の
① 制度の内容
居住者が締結している未決済信用取引等
計算
(決済していない信用取引又は発行日取引)
贈与の日又は相続の開始の日(以下「贈与等
に係る契約が、贈与等により非居住者に移転
の日」といいます。)の属する年分の所得税に
した場合には、その居住者の事業所得の金額
ついて上記⑴から⑶までの課税の適用を受けた
又は雑所得の金額の計算については、その贈
居住者から有価証券等又は未決済信用取引等若
与等の時に、その移転した未決済信用取引等
しくは未決済デリバティブ取引に係る契約の移
を決済したものとみなして算出した利益の額
転を受けた個人(その相続人を含みます。)が、
又は損失の額に相当する金額が生じたものと
その有価証券等又は未決済信用取引等若しくは
みなして所得税が課税されます(所法60の 3
未決済デリバティブ取引に係る契約の譲渡又は
②)。
決済をした場合における事業所得の金額、譲渡
所得の金額又は雑所得の金額の計算については、
② 未決済信用取引等の範囲
対象となる取引は、国外転出時課税制度と
次のように取得価額又は損益の額の調整をする
同様に、贈与等の時において決済していない
こととされています(旧所法60の 3 ④)。
次に掲げる取引です(所法60の 3 ②、60の 2
① 上記⑴の課税の適用を受けた有価証券等に
②、所規37の 2 ①)
。
ついては、贈与等があった時に課税がされた
イ 金融商品取引法第156条の24第 1 項に規
有価証券等の時価に相当する価格により取得
したものとして、取得価額の洗替えを行いま
定する信用取引
ロ 金融商品取引法第161条の 2 に規定する
す。したがって、贈与等の後にその有価証券
取引及びその保証金に関する内閣府令第 1
等の譲渡をした場合には、その洗替え後の取
条第 2 項に規定する発行日取引
得価額で譲渡所得等の金額の計算を行います。
② 上記⑵の課税の適用を受けた未決済信用取
⑶ デリバティブ取引に対する課税
引等又は⑶の課税の適用を受けた未決済デリ
バティブ取引について贈与等による移転後に
① 制度の内容
居住者が締結している未決済デリバティブ
決済があった場合には、次のように損益の額
取引(決済していないデリバティブ取引)に
の調整を行います。
係る契約が、贈与等により非居住者に移転し
イ 贈与等の時に利益の額が生じていた場合
た場合には、その居住者の事業所得の金額又
その決済によって生じた利益の額又は損
は雑所得の金額の計算については、その贈与
失の額から、その未決済信用取引等又は未
等の時に、その移転した未決済デリバティブ
決済デリバティブ取引に係る贈与等の時に
取引を決済したものとみなして算出した利益
生じたものとみなされた利益の額に相当す
─ 95 ─
――所得税法等の改正――
① 贈与等の日の属する年分の所得税につき上
る金額を減算します。
ロ 贈与等の時に損失の額が生じていた場合
記⑴から⑶までの課税の適用を受けるべき居
その決済によって生じた利益の額又は損
住者から、その贈与等により非居住者である
失の額に、その未決済信用取引等又は未決
受贈者、相続人又は受遺者に移転した有価証
済デリバティブ取引に係る贈与等の時に生
券等又は未決済信用取引等若しくは未決済デ
じたものとみなされた損失の額に相当する
リバティブ取引に係る契約のうち、次に掲げ
金額を加算します。
る場合の区分に応じそれぞれ次に定めるもの
なお、この取得価額及び損益の額の調整計算
については、この制度による課税を受けた居
は、下記⑹①による課税の取消しがあった有価
住者の贈与等の日の属する年分の事業所得の
証券等、未決済信用取引等又は未決済デリバテ
金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計
ィブ取引については適用されず、課税の取消し
算上、そのみなされた有価証券等の譲渡、未
後は贈与等による移転前の取得価額等となりま
決済信用取引等の決済及び未決済デリバティ
す。また、下記⑺及び⑻の有価証券等の価格下
ブ取引の決済の全てがなかったものとするこ
落又は未決済信用取引等若しくは未決済デリバ
とができます(旧所法60の 3 ⑥⑦)。
ティブ取引に係る損益の額の増減により贈与等
イ その非居住者である受贈者又は同一の被
の日の属する年分の所得税の減額更正を受けた
相続人から相続若しくは遺贈により財産を
場合には、その減額後の価格に相当する金額等
取得した全ての非居住者(以下「受贈者
により上記の取得価額又は損益の額の計算をす
等」といいます。)が、その贈与等の日か
ることになります。
ら 5 年(又は10年)を経過する日までに帰
国をした場合……その受贈者等がその帰国
⑸ 適用対象者
の時まで引き続き有している有価証券等又
この制度の対象となる贈与者、被相続人又は
は決済していない未決済信用取引等若しく
遺贈者である居住者の要件は、国外転出時課税
は未決済デリバティブ取引
制度と同様に、贈与等の時に有している有価証
ロ その贈与等に係る非居住者である受贈者、
券等の価額に相当する金額並びに契約を締結し
相続人又は受遺者が、その贈与等の日から
ている未決済信用取引等及び未決済デリバティ
5 年(又は10年)を経過する日までにその
ブ取引のその贈与等の時における利益の額及び
贈与等により移転を受けた有価証券等又は
損失の額の合計額が 1 億円以上であることその
未決済信用取引等若しくは未決済デリバテ
他一定の要件を満たす者です(所法60の 3 ⑤、
ィブ取引に係る契約を贈与により居住者に
所令170の 2 ①)
。
移転した場合……その贈与による移転があ
った有価証券等、未決済信用取引等又は未
⑹ 受贈者等が 5 年(又は10年)以内に帰国をし
た場合等の課税の取消し
決済デリバティブ取引
ハ その贈与等の日から 5 年(又は10年)を
国外転出時課税制度と同様に、贈与等により
経過する日までにその贈与等に係る非居住
有価証券等の移転を受けた非居住者が、その有
者である受贈者、相続人又は受遺者が死亡
価証券等を譲渡せずにその贈与等の日から 5 年
したことにより、その贈与等により移転を
(10年間の納税の猶予を受けている場合には、
受けた有価証券等又は未決済信用取引等若
10年)以内に帰国をした場合等には、その贈与
しくは未決済デリバティブ取引に係る契約
等の時の課税を取り消すことができます。具体
の相続(限定承認に係るものを除きます。)
的には、次のとおりです。
又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係る
─ 96 ─
――所得税法等の改正――
とされています(所法60の 3 ⑧)。
ものを除きます。
)による移転があった場
合において、その 5 年(又は10年)を経過
(注) 上記の「限定相続等」とは、贈与、相続(限
する日までに、その相続又は遺贈により有
定承認に係るものに限ります。)又は遺贈(包
価証券等又は未決済信用取引等若しくは未
括遺贈のうち限定承認に係るものに限りま
決済デリバティブ取引に係る契約の移転を
す。
)をいいます。
受けた相続人及び受遺者である個人(その
① 有価証券等の場合
個人から相続又は遺贈によりその有価証券
猶予適用贈与者の受贈者又は猶予適用相続
等又は未決済信用取引等若しくは未決済デ
人が、その納税の猶予に係る期限までに、そ
リバティブ取引に係る契約の移転を受けた
の贈与等により非居住者に移転があった有価
個人を含みます。
)の全てが居住者となっ
証券等の譲渡又は限定相続等による移転をし
た場合……その相続又は遺贈による移転が
た場合において、その有価証券等の譲渡に係
あった有価証券等、未決済信用取引等又は
る譲渡価額又は限定相続等の時におけるその
未決済デリバティブ取引
有価証券等の価額に相当する金額がその贈与
② 上記①の課税の取消しは、上記①イからハ
等の時におけるその有価証券等の価額に相当
までのいずれかの場合に該当することとなっ
する金額を下回るときは、その下回る価格に
た日から 4 月以内に、税務署長に対して更正
よりその贈与等の時にその有価証券等を譲渡
の請求をすることにより適用できます(旧所
したものとみなして、贈与等の日の属する年
法153の 3 ①)
。
分の所得税の再計算をすることができます
(旧所法60の 3 ⑧一)。
⑺ 譲渡等により対象資産の価額が下落した場合
この再計算をする場合に、その有価証券等
の課税所得の修正
が、有価証券等を発行した法人の合併、分割
贈与等の時における含み益よりも実際の譲渡
等の事由により贈与等の時後に取得した合併
又は決済等による利益が少なかった場合等には、
法人の株式や分割承継法人の株式などである
国外転出時課税制度と同様に、課税を減免する
場合には、贈与等時評価額(有価証券等をそ
措置が設けられています。具体的には、この制
の種類及び銘柄の異なるごとに区分し、その
度の適用を受けた贈与者で納税の猶予(所法
個人の贈与等の時における有価証券等の価格
137の 3 ①③)を受けている者(以下「猶予適
をその贈与等の時において有するその有価証
用贈与者」といいます。
)の受贈者又はこの制
券等の単位数で除して計算した金額をいいま
度の適用を受けた被相続人等の相続人で納税の
す。)について一定の調整計算を行った上で、
猶 予( 所 法137の 3 ② ③ ) を 受 け て い る も の
この再計算の適用の可否の判定をします(旧
(以下「猶予適用相続人」といいます。
)が、そ
の納税の猶予に係る期限までに、その贈与等に
所令170の 2 ②③)。
② 未決済信用取引等の場合
より非居住者に移転があった有価証券等又は未
猶予適用贈与者の受贈者又は猶予適用相続
決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取
人が、その納税の猶予に係る期限までに、そ
引に係る契約の譲渡若しくは決済又は限定相続
の贈与等により非居住者に移転があった未決
等による移転をした場合において、その譲渡若
済信用取引等の決済又はその契約の限定相続
しくは決済又は移転の時における価額若しくは
等による移転をした場合において、その決済
評価額又は利益の額が贈与等の時の価額等より
によって生じた利益の額若しくは損失の額又
も下回るとき(損失の額の場合には上回ると
はその限定相続等の時にその未決済信用取引
き)は、次のように課税所得を修正できること
等を決済したものとして算出した利益の額若
─ 97 ─
――所得税法等の改正――
しくは損失の額に相当する金額がその贈与等
法60の 3 ⑪)。
の時の金額よりも下落している場合等には、
① 有価証券等の場合
その実際に決済され、又は限定相続等の時に
猶予適用贈与者の受贈者又は猶予適用相続
決済したものとした利益の額等により贈与等
人が贈与等の時から引き続き有している有価
の日の属する年分の所得税の再計算をするこ
証券等の納税の猶予に係る期間の満了日にお
とができます(旧所法60の 3 ⑧二~四)
。
ける価額に相当する金額が、贈与等の時にお
ける価額に相当する金額を下回るときは、そ
③ 未決済デリバティブ取引の場合
猶予適用贈与者の受贈者又は猶予適用相続
の下回る価格により贈与等の時にその有価証
人が、その納税の猶予に係る期限までに、そ
券等を譲渡したものとみなして、贈与等の日
の贈与等により非居住者に移転があった未決
の属する年分の所得税の再計算をすることが
済デリバティブ取引の決済又はその契約の限
できます(所法60の 3 ⑪一)。
定相続等による移転をした場合において、そ
なお、贈与等の日の後に、その有価証券等
の決済によって生じた利益の額若しくは損失
を発行した法人の合併、分割などの事由が生
の額又はその限定相続等の時にその未決済デ
じた場合には、贈与等時評価額について一定
リバティブ取引を決済したものとして算出し
の調整計算を行った上で、この再計算の可否
た利益の額若しくは損失の額に相当する金額
の判定をします(所令170の 2 ②③)。
がその贈与等の時の金額よりも下落している
② 未決済信用取引等の場合
場合等には、その実際に決済され、又は限定
猶予適用贈与者の受贈者又は猶予適用相続
相続等の時に決済したものとした利益の額等
人が贈与等の時から引き続き決済していない
により贈与等の日の属する年分の所得税の再
未決済信用取引等をその納税の猶予に係る期
計算をすることができます(旧所法60の 3 ⑧
間の満了日に決済したものとして算出した利
五~七)
。
益の額に相当する金額が、その贈与等の時の
④ 適用手続
金額よりも下落している場合等には、その納
上記①から③までの措置による所得税の再
税の猶予に係る期間の満了日における利益の
計算は、譲渡若しくは決済又は限定相続等に
額等により贈与等の日の属する年分の所得税
よる移転があった日から 4 月以内に、税務署
の再計算をすることができます(所法60の 3
長に対して更正の請求をすることにより適用
⑪二~四)。
③ 未決済デリバティブ取引の場合
できます(所法153の 3 ②)
。
猶予適用贈与者の受贈者又は猶予適用相続
⑻ 納税の猶予に係る期間の満了日における価格
人が贈与等の時から引き続き決済していない
下落
未決済デリバティブ取引をその納税の猶予に
猶予適用贈与者の受贈者又は猶予適用相続人
係る期間の満了日に決済したものとして算出
が贈与等の時からその納税の猶予に係る期間の
した利益の額に相当する金額が、その贈与等
満了日まで引き続き有している有価証券等又は
の時の金額よりも下落している場合等には、
決済していない未決済信用取引等若しくは未決
その納税の猶予に係る期間の満了日における
済デリバティブ取引の価格又は利益の額若しく
利益の額等により贈与等の日の属する年分の
は損失の額が、その贈与等の日の属する年分に
所得税の再計算をすることができます(所法
課税された価額に相当する金額を下回るとき
(損失の額については、上回るとき)は、次の
ような課税の減免措置が設けられています(所
─ 98 ─
60の 3 ⑪五~七)。
④ 適用手続
上記①から③までの措置による所得税の再
――所得税法等の改正――
計算は、納税の猶予に係る期間の満了日から
式で、譲渡(担保権の設定その他の処分を含
4 月以内に、税務署長に対して更正の請求を
みます。)についての制限が解除されていな
することにより適用できます
(所法153の 3 ③)
。
いもの
(注) 特定譲渡制限付株式及び承継譲渡制限付
⑼ 贈与等の時後に同一銘柄の有価証券等の取得
株 式 の 具 体 的 な 範 囲 に つ い て は、 後 述 の
をした場合の判定方法等
「十一 特定譲渡制限付株式等に関する改
① 贈与の日の属する年分の所得税につき上記
正」を参照してください。
⑴の課税の適用を受けるべき個人の受贈者又
② 有利な条件で発行された新株予約権など前
は相続の開始の日の属する年分の所得税につ
述の「二 国外転出をする場合の譲渡所得等
き上記⑴の課税の適用を受けるべき個人の相
の特例の改正」の 2 ⑴②イからホまでに掲げ
続人が贈与等の時後に譲渡又は限定相続等に
る権利でその権利の行使をしたならばその行
より有価証券等の移転をした場合において、
使時の経済的利益に対して課税がされるもの
その移転をした有価証券等が、これらの者が
(所得税法施行令第84条第 2 項の規定の適用
その贈与等により取得をした有価証券等に該
のあるもの)を表示する有価証券
当するかどうかの判定は、その贈与等以外の
事由により取得した同一銘柄の有価証券等か
⑵ 贈与等の時に確定申告をしていない場合等の
ら先に譲渡又は贈与をしたものとした場合に
有価証券等の取得価額の洗替えの適用除外
おけるその有価証券等の取得の日により行う
贈与等時課税制度の適用を受けた場合には、
こととされていました(旧所令170の 2 ⑥)
。
時価によりその有価証券等を譲渡してその時価
② また、受贈者又は相続人が有する有価証券
により受贈者や相続人が取得したものとみなさ
等(以下「従前の有価証券等」といいます。
)
れるため、その有価証券等の取得価額は、その
についてその有価証券等を発行した法人の株
贈与等の時の時価に洗い替えられることとなり
式交換、株式移転などの事由が生じた場合に
ますが(上記 1 ⑷参照)
、この贈与等時課税制
おいて、その事由により取得した有価証券等
度が上記 1 ⑸の要件を満たす者に対して確定申
(以下「取得有価証券等」といいます。
)が引
告の有無を問わずに適用されるため、贈与者又
き続き所有していたものとみなされるときに
は死亡した者の相続人が確定申告書を提出しな
おけるその従前の有価証券等のうちその取得
いで贈与等により資産の移転をした場合につい
有価証券等の取得の基因となった部分は、そ
てもこの取得価額の洗替えを適用するとの解釈
の取得有価証券等と同一銘柄の有価証券等と
が可能となっていました。
みなされます(所令170の 2 ⑦)
。
他方、贈与等の日から 5 年(又は10年)以内
に非居住者である受贈者又は相続人が帰国等を
2 改正の内容
した場合には贈与等時課税制度の適用がなかっ
⑴ 対象となる有価証券等の範囲の見直し
たものとしてその有価証券等の取得価額を贈与
国外転出時課税制度と同様に、上記 1 の贈与
等による移転前の価額に戻すことが可能となっ
等時課税制度の対象となる有価証券等の範囲か
ていますが、これは更正の請求に基づく更正に
ら、有利な条件で発行された新株予約権(スト
より贈与者又は被相続人に対する贈与等による
ックオプション)などの次に掲げる有価証券等
上記 1 ⑴から⑶までの課税を取り消すことによ
で国内源泉所得を生ずべきものが除外されまし
り行うこととされているため、例えば譲渡損失
た(所法60の 2 ①、60の 3 ①、所令170①)
。
が生じているために確定申告をしないで贈与等
① 特定譲渡制限付株式又は承継譲渡制限付株
により資産を移転した場合にはこの更正の請求
─ 99 ─
――所得税法等の改正――
は適用できないことから取得価額を贈与等の前
の計算上その贈与等の時に生じたものとみ
の価額に戻すことはできず、また、申告義務が
なされた損益の額が総収入金額に算入され
あるにもかかわらず確定申告をしないで贈与等
ていない有価証券等
により資産を移転した場合には、課税されない
まま取得価額がステップアップすることとなる
⑶ 贈与等時課税制度の適用の取消し事由の追加
遺産分割等があった場合の修正申告の特例
と解釈することも可能となっていました。
このため、贈与者又は被相続人の贈与の日又
(所法151の 6 )が創設されたことに伴い(後述
は相続の開始の日の属する年分の所得税の計算
の「七 遺産分割等があった場合の修正申告、
において、贈与等時課税制度が適用されていな
期限後申告等及び更正の請求の特例の創設」の
い場合には、贈与等により移転があった有価証
2 ⑴を参照してください。)、上記 1 ⑹により贈
券等の取得価額を時価に洗い替えないこととさ
与等時課税制度の適用を取り消すことができる
れました。
場合に、贈与等の日から 5 年を経過する日まで
① 具体的には、次の有価証券等が取得価額の
にその贈与等に係る非居住者である受贈者、相
洗替えの対象外となります(所法60の 3 ④)
。
続人又は受遺者が死亡したことにより、その贈
イ 贈与等の日の属する年分の所得税につき
与等により移転を受けた有価証券等又は未決済
贈与等時課税制度の適用を受けるべき者が、
信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に
その贈与等の日の属する年分の所得税につ
係る契約の相続(限定承認に係るものを除きま
き確定申告書の提出及び決定がされていな
す。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係
い場合における贈与等により移転した有価
るものを除きます。)による移転があった場合
証券等
において、その非居住者について生じた遺産分
ロ 贈与者又は被相続人の贈与等の日の属す
割等の事由により、その相続又は遺贈により有
る年分の事業所得の金額、譲渡所得の金額
価証券等又は未決済信用取引等若しくは未決済
又は雑所得の金額の計算上その贈与等の時
デリバティブ取引に係る契約の移転を受けた相
における有価証券等の価額に相当する金額
続人及び受遺者である個人に非居住者(その贈
等が総収入金額に算入されていない有価証
与等の日から 5 年を経過する日までに帰国をし
券等
た者を除きます。)が含まれないこととなった
② また、次の未決済信用取引等及び未決済デ
場合が加えられました(所法60の 3 ⑥三ロ)。
リバティブ取引も同様に、贈与等の時に生じ
なお、次に掲げる者については、上記の記述
たものとみなされた利益の額又は損失の額の
中「 5 年」とあるのを「10年」として上記の措
上記 1 ⑷②の調整計算は行わないこととされ
置の適用を受けることができます(所法60の 3
ました(所法60の 3 ④)
。
⑦)
。
イ 贈与等の日の属する年分の所得税につき
① 贈与の日の属する年分の所得税につき上記
贈与等時課税制度の適用を受けるべき者が、
1 ⑴から⑶までの課税を受けた個人(贈与
その贈与等の日の属する年分の所得税につ
者)で、その所得税について10年間の納税の
き確定申告書の提出及び決定がされていな
猶予(所法137の 3 ①③)を受けているもの
い場合における贈与等によりその契約が移
② 相続の開始の日の属する年分の所得税につ
転した未決済信用取引等及び未決済デリバ
き上記 1 ⑴から⑶までの課税を受けた個人
(被相続人)で、その者の相続人がその所得
ティブ取引
ロ 贈与者又は被相続人の贈与等の日の属す
る年分の事業所得の金額又は雑所得の金額
─ 100 ─
税について10年間の納税の猶予(所法137の
3 ②③)を受けているもの
――所得税法等の改正――
《算式》
(注)
上記の「遺産分割等の事由」は、国外転出
イ 無対価合併の場合(所令112②)
時課税制度と同様ですので、前述の「二 国
外転出をする場合の譲渡所得等の特例の改正」
旧株 1 株の従前の
所有株式
贈与等時評価額
所有株式
1 株の従
×旧株の数
1 株の贈
= 前の贈与 +
与等時評
贈与等時の所有株
等時評価
価額
式の数
額
の 2 ⑶を参照してください(所法151の 6 ①、
所令273の 2 )。
⑷ 贈与等時課税制度の適用を受けた有価証券等
の贈与等時評価額の調整計算の改正
ロ 無対価分割型分割の場合(所令113②)
① 贈与等時課税制度の適用を受けた新株予約
旧株 1 株の従前の
贈与等時評価額
×純資産移転割合
×旧株の数
権について、その贈与等の時後に権利行使を
所有株式
所有株式
1 株の従
1 株の贈
= 前の贈与 +
与等時評
贈与等時の所有株
等時評価
価額
式の数
額
して株式を取得した場合には、その株式の贈
与等時評価額は、次の算式に基づき調整計算
した金額によって、上記 1 ⑺及び⑻の課税の
減免の適用を受けることとされました(所令
⑸ 贈与等の時後に同一銘柄の有価証券等の取得
170⑤十六、170の 2 ②)
。
をした場合の判定方法等の改正
《算式》
旧新株予約権 1 個当たりの従前
の贈与等時評価額
新株 1 単位
当たりの贈 = +権利行使価額
旧新株予約権の 1 個について取
与等時評価
得した株式の数
額
贈与の日の属する年分の所得税につき贈与等
時課税制度の適用を受けるべき個人の受贈者又
は相続の開始の日の属する年分の所得税につき
贈与等時課税制度の適用を受けるべき個人の相
続人がその贈与等の時後に譲渡又は限定相続等
② 無対価合併又は無対価分割型分割があった
により有価証券等の移転をした場合において、
場合における居住者(贈与者又は被相続人)
その移転をした有価証券等が、その贈与等によ
が贈与等の時において所有していた合併法人
り取得した有価証券等に該当するかどうかの判
又は分割承継法人の株式(所有株式)の贈与
定(上記 1 ⑼参照)は、次のように行うことと
等時評価額については、合併法人又は分割承
されました(所令170⑧、170の 2 ⑥)。
継法人の株式の従前の贈与等時評価額に、被
① まず、その贈与等の時後に取得した同一銘
合併法人又は分割法人の株式(旧株)の贈与
柄の有価証券等(猶予適用有価証券等を除き
等時評価額(分割法人の場合には純資産移転
ます。)の譲渡又は贈与をし、
割合を乗じた贈与等時評価額)にその旧株の
② 次にその受贈者又は相続人がその贈与等に
数を乗じてこれを居住者が贈与等の時に所有
より取得した有価証券等又は猶予適用有価証
していた合併法人又は分割承継法人の株式数
券等のうち先に国外転出時課税制度(所法60
で除して計算した金額を加算して計算するこ
の 2 ①)又は贈与等時課税制度(所法60の 3
とが明確化されました(所令170⑥、170の 2
①)の適用があったものから順次譲渡又は贈
③)
。具体的な算式は、以下のとおりです。
与をしたものとします。
(注) 上記の「猶予適用有価証券等」とは、贈
与、相続又は遺贈により取得した同一銘柄
の有価証券等のうち、その贈与をした者又
は相続若しくは遺贈に係る相続人がその贈
与の日又は相続の開始の日の属する年分の
─ 101 ─
――所得税法等の改正――
所得税につき納税猶予の適用を受けている
例(所法151の 4 )とは異なり、この修正申
場合におけるその有価証券等をいいます。
告の特例の場合には、延滞税の計算期間の
特例や加算税に関する特例は措置されてい
⑹ 受贈者等が 5 年(又は10年)以内に帰国をし
た場合等の修正申告の特例の創設
ません。
(注 2 )
復興特別所得税についても、上記と同様
改正前の制度では、上記 1 ⑹の受贈者等が 5
の修正申告の特例が創設されています(復
年(又は10年)以内に帰国をした場合等の課税
興財確法20の 2 ②)
。
の取消しにより所得金額や税額が減少をする場
合等には更正の請求ができる特例が設けられて
3 適用関係
いますが(上記 1 ⑹②参照)
、例えば、贈与者
⑴ 上記 2 ⑴の改正は、平成28年分以後の所得税
が贈与等時課税制度の適用によって生じた譲渡
について適用し、平成27年分以前の所得税につ
損失の金額について確定申告書を提出した後、
いては、従前どおりとされます(改正法附則 2 )。
贈与等の日から 5 年を経過する日までに非居住
⑵ 上記 2 ⑵の改正は、平成28年 1 月 1 日以後に
者である受贈者が帰国をしたことによりその譲
譲渡又は決済をする有価証券等、未決済信用取
渡損失の金額を生じなかったものとする(課税
引等又は未決済デリバティブ取引について適用
を取り消す)場合には、その有価証券等の取得
し、同日前に譲渡又は決済をした有価証券等、
価額を贈与等の前の価額に戻すこととなるため、
未決済信用取引等又は未決済デリバティブ取引
その贈与者の贈与等の日の属する年分の所得金
については、従前どおりとされます(改正法附
額及び納税額が増加することになります。
則 8 ①)。
今回の改正においては、上場株式等に係る譲
⑶ 上記 2 ⑶の改正は、平成28年 1 月 1 日以後の
渡損失の損益通算の特例(措法37の12の 2 )の
遺産分割等の事由により相続人又は受遺者であ
対象に贈与等時課税制度の適用によって生じた
る個人に非居住者が含まれないこととなった場
譲渡損失の金額を追加したことにあわせて、こ
合について適用されます(改正法附則 8 ②)。
のような事後的に生じた事由に基因して贈与等
⑷ 上記 2 ⑷の改正は、平成28年 1 月 1 日以後に
時課税制度の適用を取り消したことにより対象
譲渡又は限定相続等があった有価証券等につい
となった有価証券等の譲渡損失の金額がなかっ
て適用し、同日前に譲渡又は限定相続等があっ
たものとされた場合に、これによって増加した
た有価証券等については、従前どおりとされま
所得金額や所得税額を申告するために修正申告
す(改正所令附則 9 ①)。
書を提出することができる特例が創設されまし
⑸ 上記 2 ⑸の改正は、平成28年 1 月 1 日以後に
た(所法151の 3 ①)
。
譲渡又は限定相続等により移転をする有価証券
なお、この特例を適用して修正申告書を提出
等の判定について適用し、同日前に譲渡又は限
した場合には、税務署長が更正をできる期間及
定相続等により移転をした有価証券等の判定に
び国税の徴収権の消滅時効が修正申告書を提出
ついては、従前どおりとされます(改正所令附
した日から 5 年を経過した日まで延長されます
則 9 ②)。
⑹ 上記 2 ⑹の改正は、平成28年 1 月 1 日以後に
(所法151の 3 ②)
。
(注 1 )
相続により取得した有価証券等の取得費
の額に変更があった場合等の修正申告の特
─ 102 ─
帰国等による課税の取消しができることとなる
場合について適用されます(改正法附則13)。
――所得税法等の改正――
四 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の
納税猶予の改正
③ 納税の猶予に係る期限
1 改正前の制度の概要
イ この制度により納税の猶予を受けること
⑴ 国外転出時課税に係る所得税額の納税の猶予
ができる期限は、国外転出の日から 5 年を
経過する日までです(旧所法137の 2 ①)。
① 制度の内容
国外転出をする居住者でその国外転出の時
ただし、納税の猶予を受けている個人が、
に有している有価証券等又は契約を締結して
その 5 年を経過する日までに、納税の猶予
いる未決済信用取引等若しくは未決済デリバ
に係る期限の延長を受けたい旨その他一定
ティブ取引(以下「対象資産」といいます。
)
の事項を記載した届出書を納税地の所轄税
について国外転出時課税制度(所法60の 2 )
務署長に提出した場合には、その期限を国
の適用を受けた者
(その相続人を含みます。
)
外転出の日から10年を経過する日までとす
がその国外転出の日の属する年分の所得税で
ることができます(旧所法137の 2 ②、旧
確定申告により納付すべきものの額のうち、
所規52の 2 ①)。
その対象資産(その年分の所得税に係る確定
ロ なお、納税の猶予に係る期間の満了日前
申告期限まで引き続き有し、又は決済をして
に次に掲げる場合に該当することとなった
いないものに限ります。以下「適用資産」と
場合には、その満了日とその該当すること
いいます。)に係る納税猶予分の所得税額に
となった日から 4 月を経過する日のいずれ
相当する所得税については、その居住者が、
か早い日が納税の猶予に係る期限とされて
その国外転出の時までに国税通則法の規定に
いました(旧所法137の 2 ①、所令266の 2
よる納税管理人の届出をし、かつ、その年分
①)
。
の所得税に係る確定申告期限までにその納税
イ その国外転出をした個人が帰国をした
猶予分の所得税額に相当する担保を供した場
場合
合に限り、その国外転出の日から 5 年を経過
ロ 納税の猶予に係る期限までにその個人
する日まで、その納税の猶予を受けることが
が死亡したことにより、国外転出の時に
できます(旧所法137の 2 ①)
。
有していた有価証券等又は締結していた
② 納税猶予分の所得税額の計算
未決済信用取引等若しくは未決済デリバ
納税猶予の対象となる納税猶予分の所得税
ティブ取引に係る契約の相続(限定承認
額は、次のイに掲げる金額からロに掲げる金
に係るものを除きます。
)又は遺贈(包
額を控除した金額です(旧所法137の 2 ①各
括遺贈のうち限定承認に係るものを除き
号)。
ます。)による移転があった場合におい
イ その国外転出の日の属する年分の所得税
て、その期限までに、その相続又は遺贈
の年税額(所得税法第120条第 1 項第 3 号
により有価証券等又は未決済信用取引等
に掲げる金額)
若しくは未決済デリバティブ取引に係る
ロ その適用資産について国外転出時課税制
契約の移転を受けた相続人及び受遺者で
度の適用がないものとした場合におけるそ
ある個人(その個人から相続又は遺贈に
の国外転出の日の属する年分の所得税の年
よりその有価証券等又は未決済信用取引
税額
等若しくは未決済デリバティブ取引に係
─ 103 ─
――所得税法等の改正――
る契約の移転を受けた個人を含みます。
)
ったこと(既に納税管理人の届出をしている
の全てが居住者となった場合
場合を除きます。)(下記⑶①を参照)
ハ 納税の猶予に係る期限までにその個人
⑤ 居住者である猶予承継相続人が国外転出を
が死亡したことにより、その国外転出の
する場合に、その国外転出をする時までに、
時に有していた有価証券等又は締結して
納税管理人の届出をしなかったこと(下記⑶
いた未決済信用取引等若しくは未決済デ
②を参照)
リバティブ取引に係る契約の相続(限定
承認に係るものに限ります。
)又は遺贈
⑶ 納付義務の承継
(包括遺贈のうち限定承認に係るものに
納税の猶予に係る期限までにその納税の猶予
を受ける国外転出をした者が死亡した場合には、
限ります。
)による移転があった場合
その国外転出をした者に係る納税猶予分の所得
⑵ 税務署長による納税の猶予に係る期限の繰上
税額に係る納付の義務は、その国外転出をした
げ
者の相続人(以下「猶予承継相続人」といいま
税務署長は、次に掲げる場合には、納税猶予
す。)に承継されます(所法137の 2 ⑬)。この
分の所得税額に相当する所得税に係る納税の猶
場合には、納税の猶予に係る期限も承継されま
予に係る期限を繰り上げ、納付を求めることが
す(所令266の 2 ⑦)。
できることとされていました(所法137の 2 ⑨、
また、猶予承継相続人は次の手続を行う必要
旧所令266の 2 ⑥、旧所規52の 2 ④)
。
があります。
① 納税の猶予を受ける個人が担保について税
① 猶予承継相続人が非居住者である場合
イ 納税義務の承継があった場合に、その猶
務署長の命令(通法51①)に応じない場合
② その個人から提出された継続適用届出書に
予承継相続人が非居住者であるときは、そ
記載された事項と相違する事実が判明した場
の相続の開始があったことを知った日の翌
合
日から 4 月以内に、納税管理人の届出をし
③ 納税の猶予を受ける個人が納税管理人を解
なければなりません(既に納税管理人の届
任し、又はその納税管理人について次に掲げ
出をしている場合を除きます。)(旧所令
る事実が生じた場合において、その解任の日
266の 2 ⑧)。
から 4 月を経過する日又はその個人がその納
ロ この納税管理人の届出が期限までにされ
税管理人について次に掲げる事実の生じたこ
なかった場合には、その期限における納税
とを知った日から 6 月を経過する日までに納
猶予分の所得税額に相当する所得税につい
税管理人の届出をしなかったこと
ては、その期限から 4 月を経過する日をも
イ 死亡したこと
って、その納税の猶予に係る期限とされま
ロ 解散したこと
す(旧所令266の 2 ⑧、所法137の 3 ⑨)。
ハ 破産手続開始の決定又は後見開始の審判
を受けたこと
(注) ただし、納税管理人の届出が期限まで
にされなかった場合においても、税務署
④ 非居住者である猶予承継相続人(国外転出
長が提出期限までにその届出がされなか
をした者が死亡したことによりその国外転出
ったことについてやむを得ない事情があ
をした者に係る納税猶予分の所得税に係る納
ると認めるときは、その後に納税管理人
付の義務を承継した者をいいます。
)が、そ
の届出があった場合に限り、その届出が
の相続の開始のあったことを知った日の翌日
期限までにあったものとみなして、納税
から 4 月以内に、納税管理人の届出をしなか
の猶予を継続することができます(所令
─ 104 ─
――所得税法等の改正――
こととされました(所法137の 2 ①)。
266の 2 ⑧、所法137の 3 ⑧)。
② 猶予承継相続人が居住者である場合
(注) 納税の猶予に係る期間の満了日は、国外
イ 居住者である猶予承継相続人が国外転出
転出の日から 5 年(又は10年)を経過する
をしようとする場合には、その国外転出の
日のままであり、変更ありません。
時までに、納税管理人の届出をしなければ
② また、納税猶予の適用を受けている者が、
なりません
(所令266の 2 ⑨、
所法137の 3 ⑩)
。
上記 1 ⑴③ロイからハまでに掲げる場合に該
ロ その国外転出の時までに納税管理人の届
当することとなったとき(以下「帰国等の場
出がされなかった場合には、その期限にお
合」といいます。
)は、その該当することと
ける納税猶予分の所得税額に相当する所得
なった日の翌日以後 4 月を経過する日を、納
税については、その期限から 4 月を経過す
税猶予に係る所得税の納期限とすることとさ
る日をもって、その納税の猶予に係る期限
れました(所法137の 2 ①)。
とされます
(所令266の 2 ⑨、
所法137の 3 ⑩)
。
(注)
その国外転出の時までに納税管理人の
(注) 遺産分割等があった場合の修正申告の特
例(所法151の 6 )が創設されたことに伴い、
届出がされなかった場合でも、上記①ロ
この帰国等の場合に該当することとなる事
(注)と同様の宥恕規定が適用される場合
由に、国外転出の日から 5 年(又は10年)
があります(所令266の 2 ⑨、所法137の
を経過する日までに国外転出時課税制度の
3 ⑩後段)。
適用を受けた個人が死亡したことにより、
その国外転出の時に有していた有価証券等
2 改正の内容
又は締結していた未決済信用取引等若しく
⑴ 納税の猶予に係る期間の満了に伴う納期限の
は未決済デリバティブ取引に係る契約の相
見直し
続(限定承認に係るものを除きます。
)又は
① 国外転出時課税制度では、国外転出の日か
遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るもの
ら納税の猶予に係る期間の満了日まで引き続
を除きます。
)による移転があった場合にお
き有している有価証券等の価額がその納税の
いて、その個人について生じた遺産分割等
猶予に係る期間の満了日において国外転出の
の事由により、その相続又は遺贈により有
日よりも下落している場合には、その下落し
価証券等又は未決済信用取引等若しくは未
た価額により国外転出時の課税の再計算をす
決済デリバティブ取引に係る契約の移転を
ることができる措置が設けられています(所
受けた相続人及び受遺者である個人に非居
法60の 2 ⑩)。この措置の適用を受けようと
住者(その国外転出の日から 5 年を経過す
する場合には、納税の猶予に係る期間の満了
る日までに帰国をした者を除きます。
)が含
日から 4 月を経過する日までに更正の請求を
まれないこととなった場合が加えられてい
することとされていますが、納税の猶予に係
ます(所法60の 2 ⑥三ロ)
。
る期間の満了に伴う納期限は国外転出の日か
③ なお、納税の猶予に係る期限を10年に延長
ら 5 年(又は10年)を経過する日となってい
するための届出書は原則として国外転出の日
るため、一旦、納税猶予の適用を受けていた
から 5 年を経過する日までに提出をしなけれ
税額を納付する必要が生じることとなってい
ばならないこととされていますが、この改正
ました。この納付の手間を省略して納税者利
に伴い、国外転出の日から 5 年を経過する日
便に資する観点から、納税の猶予に係る期間
前に帰国等の場合に該当することとなった場
の満了に伴う納期限を、国外転出の日から 5
合には、その該当することとなった日の前日
年 4 月(又は10年 4 月)を経過する日とする
までに提出しなければならないこととなりま
─ 105 ─
――所得税法等の改正――
係る期限の満了の両方を適用し得ることとされ
した(所法137の 2 ②)
。
(注) 復興特別所得税に係る納税猶予制度につ
ていましたが、納税者の予測可能性を高める観
いても、上記①から③までと同様の改正が
点等から、上記 1 ⑶①ロ又は②ロの取扱いに統
行われています(復興財確法18⑦)。
一することとされ、税務署長による納税の猶予
に係る期限の繰上げに係る事由から上記 1 ⑵④
⑵ 税務署長による納税の猶予に係る期限の繰上
及び⑤の事由は除外されました(旧所令266の
げに係る事由の整備
2 ⑥二)。
上記 1 ⑶のとおり、納税猶予の適用を受けて
いる者が死亡した場合には、その相続人がその
3 適用関係
納税の猶予がされた所得税の納付義務を承継す
⑴ 上記 2 ⑴の改正は、国外転出の日から 5 年を
ることとされ、その承継をした者が非居住者で
経過する日又は帰国等の日が平成28年 1 月 1 日
ある場合や国外転出をする場合には納税管理人
以後である場合について適用し、国外転出の日
の届出等をすることを前提に納税の猶予を継続
から 5 年を経過する日又は帰国等の日が平成28
適用できることとされています。この納付義務
年 1 月 1 日前である場合は、従前どおりとされ
を承継した場合に、その相続人が納税管理人の
ます(改正法附則10)。
届出等を行わなかった場合には、上記 1 ⑵④又
⑵ 上記 2 ⑵の改正は、平成28年 4 月 1 日から施
は⑤の税務署長による納税の猶予に係る期限の
行されています(改正所令附則 1 )。
繰上げと上記 1 ⑶の①ロ又は②ロの納税猶予に
五 贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の
特例の適用がある場合の納税猶予の改正
税額に相当する所得税については、その適用
1 改正前の制度の概要
を受けた者が、その年分の所得税に係る確定
⑴ 贈与等時課税制度に係る所得税額の納税の猶
申告期限までにその贈与納税猶予分の所得税
予
額に相当する担保を供した場合に限り、その
① 贈与があった場合の納税の猶予の内容
贈与の日から 5 年を経過する日まで、その納
贈与(贈与をした者の死亡により効力を生
ずる贈与を除きます。
)により非居住者に移
転した有価証券等又は未決済信用取引等若し
税の猶予を受けることができます(旧所法
137の 3 ①)。
② 贈与納税猶予分の所得税額の計算
くは未決済デリバティブ取引に係る契約(以
納税の猶予の対象となる贈与納税猶予分の
下「対象資産」といいます。
)について贈与
所得税額は、次のイに掲げる金額からロに掲
等時課税制度(所法60の 3 )の適用を受けた
げる金額を控除した金額です(旧所法137の
者(その相続人を含みます。
)がその贈与の
3 ①各号)。
日の属する年分の所得税で確定申告又は準確
イ その贈与の日の属する年分の贈与者の所
定申告により納付すべきものの額のうち、そ
得税の年税額(所得税法第120条第 1 項第
の対象資産(その年分の所得税に係る確定申
3 号に掲げる金額)
告期限まで引き続き有し、又は決済をしてい
ロ その適用贈与資産について贈与等時課税
ないものに限ります。以下「適用贈与資産」
制度の適用がないものとした場合における
といいます。)に係る贈与納税猶予分の所得
その贈与の日の属する年分の贈与者の所得
─ 106 ─
――所得税法等の改正――
ハ 贈与の日から納税の猶予に係る期限ま
税の年税額
でにその贈与に係る非居住者である受贈
③ 納税の猶予に係る期限
イ この制度により納税の猶予を受けること
者が死亡したことにより、その贈与によ
ができる期限は、贈与の日から 5 年を経過
り移転を受けた有価証券等又は未決済信
する日までです(旧所法137の 3 ①)
。ただ
用取引等若しくは未決済デリバティブ取
し、納税の猶予を受けている個人が、その
引に係る契約の相続(限定承認に係るも
5 年を経過する日までに、納税の猶予に係
のに限ります。
)又は遺贈(包括遺贈の
る期限の延長を受けたい旨その他一定の事
うち限定承認に係るものに限ります。)
による移転があった場合
項を記載した届出書を納税地の所轄税務署
長に提出した場合には、その期限を贈与の
④ 相続又は遺贈があった場合の納税の猶予の
日から10年を経過する日までとすることが
内容
できます(旧所法137の 3 ③、旧所規52の
相続又は遺贈(贈与をした者の死亡により
3 ①)。
効力を生ずる贈与を含みます。
)により非居
ロ なお、納税の猶予に係る期間の満了日前
住者に移転した対象資産につき贈与等時課税
に次に掲げる場合に該当することとなった
制度の適用を受けた者(以下「適用被相続人
場合には、その満了日とその該当すること
等」といいます。)の全ての相続人がその相
となった日から 4 月を経過する日のいずれ
続の開始の日の属する年分の所得税で死亡の
か早い日が納税の猶予に係る期限となりま
場合の準確定申告により納付すべきものの額
す(旧所法137の 3 ①、所令266の 3 ①)
。
のうち、その対象資産(その年分の所得税に
イ その非居住者である受贈者が、その贈
係る確定申告期限まで引き続き有し、又は決
与の日から納税の猶予に係る期限までに
済をしていないものに限ります。以下「適用
帰国をした場合
相続等資産」といいます。)に係る相続等納
ロ その贈与の日から納税の猶予に係る期
税猶予分の所得税額に相当する所得税につい
限までにその贈与に係る非居住者である
ては、その年分の所得税に係る確定申告期限
受贈者が死亡したことにより、その贈与
までに、その相続人がその相続等納税猶予分
により移転を受けた有価証券等又は未決
の所得税額に相当する担保を供し、かつ、そ
済信用取引等若しくは未決済デリバティ
の相続又は遺贈によりその対象資産を取得し
ブ取引に係る契約の相続(限定承認に係
た非居住者の全てが納税管理人の届出をした
るものを除きます。
)又は遺贈(包括遺
場合に限り、その相続の開始の日から 5 年を
贈のうち限定承認に係るものを除きま
経過する日まで、その納税の猶予を受けるこ
す。
)による移転があった場合において、
とができます(旧所法137の 3 ②)。
その期限までに、その相続又は遺贈によ
⑤ 相続等納税猶予分の所得税額の計算
り有価証券等又は未決済信用取引等若し
納税の猶予の対象となる相続等納税猶予分
くは未決済デリバティブ取引に係る契約
の所得税額は、次のイに掲げる金額からロに
の移転を受けた相続人及び受遺者である
掲げる金額を控除した金額です(旧所法137
個人(その個人から相続又は遺贈により
の 3 ②各号)。
その有価証券等又は未決済信用取引等若
イ その相続の開始の日の属する年分の被相
しくは未決済デリバティブ取引に係る契
続人の所得税の年税額(所得税法第120条
約の移転を受けた個人を含みます。
)の
第 1 項第 3 号に掲げる金額)
ロ その適用相続等資産について贈与等時課
全てが居住者となった場合
─ 107 ─
――所得税法等の改正――
税制度の適用がないものとした場合におけ
続又は遺贈によりその有価証券等又は未
るその相続の開始の日の属する年分の被相
決済信用取引等若しくは未決済デリバテ
続人の所得税の年税額
ィブ取引に係る契約の移転を受けた個人
⑥ 納税の猶予に係る期限
を含みます。)の全てが居住者となった
イ この制度により納税の猶予を受けること
ができる期限は、相続の開始の日から 5 年
場合
ハ その相続の開始の日から納税の猶予に
を経過する日までです(旧所法137の 3 ②)
。
係る期限までにその相続又は遺贈に係る
ただし、納税の猶予を受けている個人が、
非居住者である相続人又は受遺者の全て
その 5 年を経過する日までに、納税の猶予
が死亡したことにより、その相続又は遺
に係る期限の延長を受けたい旨その他一定
贈により移転を受けた有価証券等又は未
の事項を記載した届出書を納税地の所轄税
決済信用取引等若しくは未決済デリバテ
務署長に提出した場合には、その期限を相
ィブ取引に係る契約の全てについて相続
続の開始の日から10年を経過する日までと
(限定承認に係るものに限ります。)又は
することができます(旧所法137の 3 ③、
遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るも
旧所規52の 3 ①)
。
のに限ります。)による移転があった場合
ロ なお、納税の猶予に係る期間の満了日前
ハ 適用被相続人等(相続の開始の日の属す
に次に掲げる場合に該当することとなった
る年分の所得税につき贈与等時課税制度の
場合には、その満了日とその該当すること
適用を受けた個人)の相続人である居住者
となった日から 4 月を経過する日のいずれ
が、国外転出をしようとする場合には、そ
か早い日が納税の猶予に係る期限とされて
の国外転出の時までに、納税管理人の届出
いました(旧所法137の 3 ②、旧所令266の
をしなければなりません(旧所令266の 3
3 ⑤)。
④、所法137の 3 ⑩)。
イ 同一の被相続人から相続又は遺贈によ
この納税管理人の届出が期限までにされ
り財産を取得した全ての非居住者が、そ
なかった場合には、その期限における相続
の相続の開始の日から納税の猶予に係る
等納税猶予分の所得税額に相当する所得税
期限までに帰国をした場合
については、その期限から 4 月を経過する
ロ その相続の開始の日から納税の猶予に
日をもって、その納税の猶予に係る期限と
係る期限までにその相続に係る非居住者
されます(旧所令266の 3 ④、所法137の 3
である相続人又は受遺者が死亡したこと
⑨⑩)
。ただし、納税管理人の届出が期限
により、その相続により移転を受けた有
までにされなかった場合においても、税務
価証券等又は未決済信用取引等若しくは
署長が提出期限までにその届出がされなか
未決済デリバティブ取引に係る契約の相
ったことについてやむを得ない事情がある
続(限定承認に係るものを除きます。
)
と認めるときは、その後に納税管理人の届
又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係
出があった場合に限り、その届出が期限ま
るものを除きます。
)による移転があっ
でにあったものとみなして、納税の猶予を
た場合において、その期限までに、その
継続することができます(旧所令266の 3
相続又は遺贈により有価証券等又は未決
④、所法137の 3 ⑧⑩)。
済信用取引等若しくは未決済デリバティ
⑦ 納税の猶予を受けるための手続
ブ取引に係る契約の移転を受けた相続人
上記①又は④の納税の猶予を受けようとす
及び受遺者である個人(その個人から相
る場合には、適用を受けようとする贈与者の
─ 108 ─
――所得税法等の改正――
提出した(準)確定申告書又は適用を受けよ
⑵ 利子税の納付
うとする相続人が提出した適用被相続人等の
納税猶予分の所得税額の全部又は一部を納付
準確定申告書に、上記①又は④の納税の猶予
する適用贈与者等(納税の猶予を受ける贈与者
の適用を受けようとする旨の記載があり、か
又は相続人)は、その納付する所得税に相当す
つ、次の事項を記載した書類の添付をしなけ
る金額を基礎とし、その所得税に係る納付の期
ればなりません(所法137の 3 ④、旧所規52
限(所法128~130)の翌日からその納税の猶予
の 3 ②)
。
に係る期限までの期間に応じ、年7.3%の割合
イ 贈与等時課税制度の適用により行われた
を乗じて計算した金額に相当する利子税を、所
ものとみなされた対象資産の譲渡又は決済
得税に併せて納付しなければなりません(旧所
法137の 3 ⑭)。
の明細及び贈与納税猶予分の所得税額又は
相続等納税猶予分の所得税額(以下「納税
(注) 上記の利子税の割合(7.3%)は、利子税の
猶予分の所得税額」といいます。
)の計算
割合の特例の適用後は1.8%(貸出約定平均金
に関する明細(有価証券等、未決済信用取
利の年平均が0.8%の場合)となります(措法
引等に係る契約又は未決済デリバティブ取
93)
。
引に係る契約の種類別及び名称又は銘柄別
の数量、贈与等の時における価額に相当す
⑶ 税務署長による納税の猶予に係る期限の繰上
る金額又は利益の額若しくは損失の額に相
げ
当する金額、取得費並びに取得又は取引開
税務署長は、次に掲げる場合には、納税猶予
始の年月日)
分の所得税額に相当する所得税に係る納税の猶
ロ 贈与の日又は相続の開始の日
予に係る期限を繰り上げ、納付を求めることが
ハ 有価証券等、未決済信用取引等に係る契
できることとされていました(所法137の 3 ⑪、
約又は未決済デリバティブ取引に係る契約
旧所令266の 3 ⑬)。
の移転を受けた受贈者、相続人又は受遺者
① 適用贈与者等(納税の猶予を受ける贈与者
の氏名及び住所又は居所
又は相続人)が担保について税務署長の命令
ニ その他参考となるべき事項
(通法51①)に応じない場合
(注)
税務署長は、確定申告書の提出がなか
② 適用贈与者等から提出された継続適用届出
った場合又は上記の記載若しくは添付が
書に記載された事項と相違する事実が判明し
ない確定申告書の提出があった場合にお
た場合
いても、その提出又は記載若しくは添付
③ 適用贈与者等が納税管理人を解任し、又は
がなかったことについてやむを得ない事
その納税管理人について次に掲げる事実が生
情があると認めるときは、その記載をし
じた場合において、その解任の日から 4 月を
た書類及び上記の書類の提出があった場
経過する日又はその個人がその納税管理人に
合に限り、納税の猶予を適用することが
ついて次に掲げる事実の生じたことを知った
できる宥恕規定が設けられています(所
日から 6 月を経過する日までに納税管理人の
法137の 3 ⑤)。
届出をしなかったこと
イ 死亡したこと
⑧ 担保の提供
担保については、国税通則法の規定に基づ
ロ 解散したこと
き提供される必要があります(通法50)
。
ハ 破産手続開始の決定又は後見開始の審判
を受けたこと
④ 非居住者である猶予承継相続人(適用贈与
─ 109 ─
――所得税法等の改正――
者等が死亡したことによりその適用贈与者等
ったことについてやむを得ない事情があ
に係る納税猶予分の所得税に係る納付の義務
ると認めるときは、その後に納税管理人
を承継した者をいいます。
)が、その相続の
の届出があった場合に限り、その届出が
開始のあったことを知った日の翌日から 4 月
期限までにあったものとみなして、納税
以内に、納税管理人の届出をしなかったこと
の猶予を継続することができます(旧所
(既に納税管理人の届出をしている場合を除
令266の 3 ⑮、所法137の 3 ⑧)
。
きます。
)
(下記⑷①を参照)
② 猶予承継相続人が居住者である場合
⑤ 居住者である猶予承継相続人が国外転出を
イ 居住者である猶予承継相続人が国外転出
する場合に、その国外転出をする時までに、
をしようとする場合には、その国外転出の
納税管理人の届出をしなかったこと(下記⑷
時までに、納税管理人の届出をしなければ
②を参照)
なりません(旧所令266の 3 ⑯、所法137の
3 ⑩)
。
⑷ 納付義務の承継
ロ その国外転出の時までに納税管理人の届
納税の猶予に係る期限までにその納税の猶予
出がされなかった場合には、その期限にお
を受ける贈与者又は相続人(適用贈与者等)が
ける納税猶予分の所得税額に相当する所得
死亡した場合には、その適用贈与者等に係る納
税については、その期限から 4 月を経過す
税猶予分の所得税額に係る納付の義務は、その
る日をもって、その納税の猶予に係る期限
適用贈与者等の相続人(以下「猶予承継相続
とされます(旧所令266の 3 ⑯、所法137の
人」といいます。
)に承継されます(所法137の
3 ⑩後段)。
3 ⑮)。この場合には、納税の猶予に係る期限
(注) その国外転出の時までに納税管理人の
も承継されます(旧所令266の 3 ⑭)
。
届出がされなかった場合でも、上記①ロ
また、猶予承継相続人は次の手続を行う必要
と同様の宥恕規定が適用される場合があ
があります。
ります(旧所令266の 3 ⑯、所法137の 3
① 猶予承継相続人が非居住者である場合
⑩後段)
。
イ 納税義務の承継があった場合に、その猶
予承継相続人が非居住者であるときは、そ
の相続の開始があったことを知った日の翌
2 改正の内容
⑴ 納税の猶予に係る期間の満了に伴う納期限の
日から 4 月以内に、納税管理人の届出をし
見直し
なければなりません(既に納税管理人の届
① 贈与等時課税制度では、贈与の日又は相続
出をしている場合を除きます。
)
(旧所令
の開始の日(以下「贈与等の日」といいま
266の 3 ⑮)
。
す。)から納税の猶予に係る期間の満了日ま
ロ この納税管理人の届出が期限までにされ
で引き続き有している有価証券等の価額がそ
なかった場合には、その期限における納税
の納税の猶予に係る期間の満了日において贈
猶予分の所得税額に相当する所得税につい
与等の時よりも下落している場合には、その
ては、その期限から 4 月を経過する日をも
下落した価額により贈与等時課税制度に係る
って、その納税の猶予に係る期限とされま
所得税の再計算をすることができる措置が設
す(旧所令266の 3 ⑮、所法137の 3 ⑨)
。
けられています(所法60の 3 ⑪)。この措置
(注)
ただし、納税管理人の届出が期限まで
の適用を受けようとする場合には、納税の猶
にされなかった場合においても、税務署
予に係る期間の満了日から 4 月を経過する日
長が提出期限までにその届出がされなか
までに更正の請求をすることとされています
─ 110 ─
――所得税法等の改正――
が、納税の猶予に係る期間の満了に伴う納期
す。
)が含まれないこととなった場合が加え
限は贈与等の日から 5 年(又は10年)を経過
られています(所法60の 3 ⑥三ロ)
。
する日となっているため、一旦、納税猶予の
③ なお、納税の猶予に係る期限を10年に延長
適用を受けていた税額を納付する必要が生じ
するための届出書は原則として贈与等の日か
ることとなっていました。この納付の手間を
ら 5 年を経過する日までに提出をしなければ
省略して納税者利便に資する観点から、納税
ならないこととされていますが、この改正に
の猶予に係る期間の満了に伴う納期限を、贈
伴い、国外転出の日から 5 年を経過する日前
与等の日から 5 年 4 月(又は10年 4 月)を経
に帰国等の場合に該当することとなった場合
過する日とすることとされました(所法137
には、その該当することとなった日の前日ま
の 3 ①②)
。
でに提出しなければならないこととされまし
た(所法137の 3 ③一)。
(注) 納税の猶予に係る期間の満了日は、贈与
(注) 復興特別所得税に係る納税猶予制度につ
等の日から 5 年(又は10年)を経過する日
のままであり、変更ありません。
いても、上記①から③までと同様の改正が
② また、非居住者である受贈者が上記 1 ⑴③
行われています(復興財確法18⑨⑩、復興
ロイからハまでに掲げる場合又は非居住者で
特別所令 6 ⑤)
。
ある相続人等が上記 1 ⑴⑥ロイからハまでに
掲げる場合に該当することとなったとき(以
⑵ 遺産分割等があった場合の修正申告の特例等
下「帰国等の場合」といいます。
)は、その
の創設に伴う改正
該当することとなった日の翌日以後 4 月を経
遺産分割等があった場合の期限後申告等及び
過する日を、納税猶予に係る所得税の納期限
修正申告の特例(所法151の 5 、151の 6 )が創
とすることとされました(所法137の 3 ①②)
。
設されたことに伴い、これらの特例の適用に係
(注) 遺産分割等があった場合の修正申告の特
る期限後申告書又は修正申告書の提出により納
例(所法151の 6 )が創設されたことに伴い、
付すべき所得税額についても納税猶予の適用を
この帰国等の場合に該当することとなる事
受けることができるようにするため、次の改正
由に、贈与等の日から 5 年(又は10年)を
が行われました。
経過する日までにその贈与等に係る非居住
① 「遺産分割等があった場合の期限後申告等
者である受贈者、相続人又は受遺者が死亡
の特例(所法151の 5 )」の適用がある場合の
したことにより、その贈与等により移転を
納税猶予の適用
受けた有価証券等又は未決済信用取引等若
適用被相続人等(相続又は遺贈により非居
しくは未決済デリバティブ取引に係る契約
住者に移転した対象資産につき贈与等時課税
の相続(限定承認に係るものを除きます。)
制度の適用を受けた者)の全ての相続人がそ
又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係る
の相続の開始の日の属する年分の所得税で死
ものを除きます。)による移転があった場合
亡の場合の準確定申告により納付すべきもの
において、その非居住者について生じた遺
の額のうち、その対象資産(その年分の所得
産分割等の事由により、その相続又は遺贈
税に係る「遺産分割等があった場合の期限後
により有価証券等又は未決済信用取引等若
申告等の特例」に係る申告期限まで引き続き
しくは未決済デリバティブ取引に係る契約
有し、又は決済をしていないものに限ります。
の移転を受けた相続人及び受遺者である個
以下「適用相続等資産」といいます。
)に係
人に非居住者(その贈与等の日から 5 年を
る相続等納税猶予分の所得税額に相当する所
経過する日までに帰国をした者を除きま
得税については、その年分の所得税に係るそ
─ 111 ─
――所得税法等の改正――
の特例による期限後申告書の提出期限までに、
納税猶予の適用を受けようとする旨及び次に
その相続人がその相続等納税猶予分の所得税
掲げる事項を記載した書類を添付しなければ
額に相当する担保を供し、かつ、その相続又
なりません(所令266の 3 ⑧、所規52の 3 ③)。
は遺贈によりその対象資産を取得した非居住
イ 贈与等時課税制度の適用により行われた
者の全てが納税管理人の届出をした場合に限
ものとみなされた対象資産の譲渡又は決済
り、その相続の開始の日から 5 年を経過する
の明細及びその修正申告書の提出により増
日まで、その納税の猶予を受けることができ
加した相続等納税猶予分の所得税額の計算
ることとされました(所法137の 3 ②)
。
に関する明細
(注) 遺産分割等があった場合の期限後申告等
ロ 次に掲げる事項でその修正申告書に係る
の特例による申告書を提出する場合には、
もの
その特例の適用がある旨、その適用に係る
イ 相続の開始の日
遺産分割等の事由の別及びその遺産分割等
ロ 対象資産の移転を受けた受贈者、相続
の事由が生じた年月日を記載しなければな
人又は受遺者の氏名及び住所又は居所
ハ 対象資産の種類別及び名称又は銘柄別
りません(所規47十一の三ニ)。
なお、その特例による期限後申告書の提出
の数量、贈与等の時における価額に相当
期限が相続の開始の日から 5 年を経過する日
する金額又は利益の額若しくは損失の額
後である場合には、その期限後申告書の提出
に相当する金額、取得費並びに取得又は
期限までに上記 1 ⑴③イの届出書を提出すれ
取引開始の年月日
ば、上記の納税の猶予に係る期限を相続の開
始の日から10年を経過する日までとすること
ハ 遺産分割等の事由の別及びその遺産分割
等の事由が生じた年月日
③ 利子税の計算に関する整備
ができます(所法137の 3 ③二)
。
② 「遺産分割等があった場合の修正申告の特
納税猶予分の所得税を納付する場合には、
例(所法151の 6 )
」の適用がある場合の納税
上記 1 ⑵のとおり利子税を併せて納付するこ
猶予の適用
ととされていますが、この利子税の計算をす
納税猶予の適用を受けている相続人の適用
る場合には次のように行うこととされました
被相続人等について遺産分割等の事由が生じ
(所法137の 3 ⑭)。
たことにより「遺産分割等があった場合の修
イ 上記①の「遺産分割等があった場合の期
正申告の特例」の適用に係る修正申告書の提
限後申告等の特例」の適用に係る期限後申
出があった場合には、その修正申告書の提出
告書を提出している場合には、その期限後
期限までに国税通則法の規定による担保を供
申告書の納付の期限の翌日を利子税の計算
することを条件に、その修正申告書の提出に
の起算日とします。
より増加した相続等納税猶予分の所得税額に
ロ 上記②の「遺産分割等があった場合の修
ついても納税猶予の適用を受けることができ
正申告の特例」の適用に係る修正申告を提
ることとされました(所法137の 3 ②、所令
出したことにより納付すべき所得税がある
266の 3 ②一)
。
場合には、当該所得税に係る部分から先に
なお、相続の開始の日の属する年分の所得
納付があったものとして、利子税の額を計
税につき修正申告書を提出する場合において、
算します。
その修正申告書の提出により増加した相続等
ハ 納税猶予分の所得税について納付期限が
納税猶予分の所得税額につき納税猶予の適用
二以上ある場合には、これらの納付期限の
を受けようとするときは、その修正申告書に、
うち最も新しいものに係る所得税から順次
─ 112 ─
――所得税法等の改正――
納税の猶予に係る期限が到来したものとし
者の予測可能性を高める観点等から、上記 1 ⑷
ます。
①ロ又は②ロの取扱いに統一することとされ、
税務署長による納税の猶予に係る期限の繰上げ
に係る事由から上記 1 ⑶④及び⑤の事由は除外
⑶ 税務署長による納税の猶予に係る期限の繰上
げに係る事由の整備
されました(旧所令266の 3 ⑬二・三)。
上記 1 ⑷のとおり、納税猶予の適用を受けて
いる贈与者又は相続人(適用贈与者等)が死亡
3 適用関係
した場合には、その適用贈与者等の相続人がそ
⑴ 上記 2 ⑴並びに⑵①及び②の改正は、贈与等
の納税の猶予がされた所得税の納付義務を承継
の日から 5 年を経過する日又は帰国等の日が平
することとされ、その承継をした者が非居住者
成28年 1 月 1 日以後である場合について適用し、
である場合や国外転出をする場合にはそれぞれ
贈与等の日から 5 年を経過する日又は帰国等の
納税管理人の届出等をすることを前提に納税の
日が平成28年 1 月 1 日前である場合は、従前ど
猶予を継続適用できることとされています。こ
おりとされます(改正法附則11①②)。
の納付義務を承継した場合に、その適用贈与者
⑵ 上記 2 ⑵③の改正は、平成28年 1 月 1 日以後
等の相続人が納税管理人の届出等を行わなかっ
に利子税を納付すべき事由が生じた場合につい
た場合には、上記 1 ⑶④又は⑤の税務署長によ
て適用されます(改正法附則11③)。
る納税の猶予に係る期限の繰上げと上記 1 ⑷の
⑶ 上記 2 ⑶の改正は、平成28年 4 月 1 日から施
①ロ又は②ロの納税猶予に係る期限の満了の両
行されています(改正所令附則 1 )。
方を適用し得ることとされていましたが、納税
六 相続により取得した有価証券等の取得費の額に変更があった
場合等の修正申告及び更正の請求の特例の改正
係る事由が生じた場合には、その居住者(そ
1 改正前の制度の概要
の相続人を含みます。)は、それぞれ次に定め
⑴ 修正申告の特例
る日から 4 月以内に、その譲渡の日の属する
① 有価証券等の取得費の額が減少したことに
年分の所得税についての修正申告書を提出し、
伴う修正申告
かつ、その期限内にその修正申告書の提出に
居住者が相続又は遺贈により取得した有価
より納付すべき税額を納付しなければならな
証券等の譲渡をした場合において、その譲渡
いこととされています(旧所法151の 2 ①)。
の日以後にその相続又は遺贈に係る被相続人
イ 国外転出時課税制度(所法60の 2 )の適
のその相続の開始の日の属する年分の所得税
用の取消しがあったことに伴って国外転出
について「国外転出をした者が 5 年(又は10
の時に課税された有価証券等の取得価額が
年)以内に帰国をした場合等の課税の取消し
減額され(所法60の 2 ④ただし書)、既に
(所法60の 2 ⑥)
」又は「受贈者等が 5 年(又
行われた有価証券等の譲渡による事業所得
は10年)以内に帰国をした場合等の課税の取
の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額
消し(所法60の 3 ⑥)
」の適用があったこと
の計算上必要経費又は取得費として控除す
により、次に掲げる場合に該当し、かつ、そ
べき金額が減少した場合……その被相続人
の居住者のその譲渡の日の属する年分の所得
の所得税について課税の取消しを求める更
税の額に不足額がある等の修正申告の提出に
正の請求(旧所法153の 2 ①)に基づく更
─ 113 ─
――所得税法等の改正――
所得の金額の計算上減算すべき利益の額に
正があった日
ロ 贈与等時課税制度(所法60の 3 )の適用
相当する金額が減少した場合……その被相
の取消しがあったことに伴って贈与又は相
続人の所得税について課税の取消しを求め
続の時に課税がされた有価証券等の取得価
る更正の請求(旧所法153の 2 ①)に基づ
額が減額され(所法60の 3 ④ただし書)
、
く更正があった日
既に行われた有価証券等の譲渡による事業
ロ 贈与等時課税制度の適用の取消しがあっ
所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の
たことに伴って未決済信用取引等又は未決
金額の計算上必要経費又は取得費として控
済デリバティブ取引の決済による事業所得
除すべき金額が減少した場合……その被相
の金額又は雑所得の金額の計算上減算すべ
続人の所得税について課税の取消しを求め
き利益の額に相当する金額が減少した場合
る更正の請求(旧所法153の 3 ①)に基づ
……その被相続人の所得税について課税の
く更正があった日
取消しを求める更正の請求(旧所法153の
3 ①)に基づく更正があった日
② 未決済信用取引等又は未決済デリバティブ
取引に係る利益の額が減少したことに伴う修
⑵ 更正の請求の特例
正申告
居住者が相続又は遺贈によりその契約の移
① 有価証券等の取得費の額が増加したことに
転を受けた未決済信用取引等又は未決済デリ
伴う更正の請求
バティブ取引の決済をした場合において、そ
居住者が相続又は遺贈により取得した有価
の決済の日以後にその相続又は遺贈に係る被
証券等の譲渡をした場合において、その譲渡
相続人のその相続の開始の日の属する年分の
の日以後にその相続又は遺贈に係る被相続人
所得税について「国外転出をした者が 5 年
のその相続の開始の日の属する年分の所得税
(又は10年)以内に帰国をした場合等の課税
について「国外転出をした者が 5 年(又は10
の取消し(所法60の 2 ⑥)
」又は「受贈者等
年)以内に帰国をした場合等の課税の取消し
が 5 年(又は10年)以内に帰国をした場合等
(所法60の 2 ⑥)」又は「受贈者等が 5 年(又
の課税の取消し(所法60の 3 ⑥)
」の適用が
は10年)以内に帰国をした場合等の課税の取
あったことにより、次に掲げる場合に該当し、
消し(所法60の 3 ⑥)」の適用があったこと
かつ、その居住者のその決済の日の属する年
により、次に掲げる場合に該当し、かつ、そ
分の所得税の税額に不足額がある等の修正申
の居住者のその譲渡の日の属する年分の所得
告をすべき事由が生じた場合には、その居住
税額が過大となる等の更正の請求をできる事
者(その相続人を含みます。
)は、それぞれ
由が生じたときは、その居住者(その相続人
次に定める日から 4 月以内に、その決済の日
を含みます。
)は、それぞれ次に定める日か
の属する年分の所得税についての修正申告書
ら 4 月以内に、税務署長に対し、その譲渡の
を提出し、かつ、その期限内にその修正申告
日の属する年分の所得税について更正の請求
書の提出により納付すべき税額を納付しなけ
をすることができます(旧所法153の 4 ①)。
ればならないこととされています(旧所法
イ 国外転出時課税制度の適用の取消しがあ
151の 2 ②)
。
ったことに伴って国外転出の時に課税され
イ 国外転出時課税制度の適用の取消しがあ
た有価証券等の取得価額が増額され(所法
ったことに伴って国外転出の時に課税され
60の 2 ④ただし書)
、既に行われた有価証
た未決済信用取引等又は未決済デリバティ
券等の譲渡による事業所得の金額、譲渡所
ブ取引の決済による事業所得の金額又は雑
得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経
─ 114 ─
――所得税法等の改正――
費又は取得費として控除すべき金額が増加
所得の金額の計算上加算すべき損失の額に
した場合……その被相続人の所得税につい
相当する金額が減少した場合……その被相
て課税の取消しを求める更正の請求(旧所
続人の所得税について課税の取消しを求め
法153の 2 ①)に基づく更正があった日
る更正の請求(旧所法153の 2 ①)に基づ
く更正があった日
ロ 贈与等時課税制度の適用の取消しがあっ
たことに伴って贈与又は相続の時に課税が
ロ 贈与等時課税制度の適用の取消しがあっ
された有価証券等の取得価額が増額され
たことに伴って未決済信用取引等又は未決
(所法60の 3 ④ただし書)
、既に行われた有
済デリバティブ取引の決済による事業所得
価証券等の譲渡による事業所得の金額、譲
の金額又は雑所得の金額の計算上加算すべ
渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上必
き損失の額に相当する金額が減少した場合
要経費又は取得費として控除すべき金額が
……その被相続人の所得税について課税の
増加した場合……その被相続人の所得税に
取消しを求める更正の請求(旧所法153の
ついて課税の取消しを求める更正の請求
(旧
3 ①)に基づく更正があった日
所法153の 3 ①)に基づく更正があった日
② 未決済信用取引等又は未決済デリバティブ
取引に係る損失の額が減少したことに伴う更
2 改正の内容
⑴ 遺産分割等があった場合の修正申告又は更正
正の請求
の請求の特例の創設に伴う措置
居住者が相続又は遺贈によりその契約の移
今般創設された「遺産分割等があった場合の
転を受けた未決済信用取引等又は未決済デリ
修正申告又は更正の請求の特例(所法151の 6
バティブ取引の決済をした場合において、そ
①、153の 5 。以下「遺産分割等の特例」とい
の決済の日以後にその相続又は遺贈に係る被
います。)」の適用に係る修正申告書の提出又は
相続人のその相続の開始の日の属する年分の
更正の請求に基づく更正があったことにより、
所得税について「国外転出をした者が 5 年
その資産の移転をした被相続人等について贈与
(又は10年)以内に帰国をした場合等の課税
等時課税制度の適用がなかったこととなる場合
の取消し(所法60の 2 ⑥)
」又は「受贈者等
には、相続により移転した有価証券等の取得価
が 5 年(又は10年)以内に帰国をした場合等
額をその相続の開始の日の価額に洗い替えるこ
の課税の取消し(所法60の 3 ⑥)
」の適用が
ととされている規定(所法60の 3 ④)が適用さ
あったことにより、次に掲げる場合に該当し、
れないことになることに伴い、次の改正が行わ
かつ、その居住者のその決済の日の属する年
れました。
分の所得税額が過大となる等の更正の請求を
① 修正申告の特例の改正
できる事由が生じたときは、その居住者(そ
イ 上記 1 ⑴①の修正申告書を提出しなけれ
の相続人を含みます。
)は、それぞれ次に定
ばならない場合に、遺産分割等の特例の適
める日から 4 月以内に、税務署長に対し、そ
用に係る修正申告書の提出又は更正の請求
の決済の日の属する年分の所得税について更
に基づく更正があったことにより、相続又
正の請求をすることができます(旧所法153
は遺贈により取得した有価証券等の譲渡を
の 4 ②)
。
した日以後にその譲渡をした有価証券等の
イ 国外転出時課税制度の適用の取消しがあ
取得費の額が減少した場合が追加されまし
ったことに伴って国外転出の時に課税され
た(所法151の 4 ①)。
た未決済信用取引等又は未決済デリバティ
ロ 上記 1 ⑴②の修正申告書を提出しなけれ
ブ取引の決済による事業所得の金額又は雑
ばならない場合に、遺産分割等の特例の適
─ 115 ─
――所得税法等の改正――
① 修正申告の特例の改正
用に係る修正申告書の提出又は更正の請求
に基づく更正があったことにより、相続又
帰国等の場合の修正申告の特例の適用に係
は遺贈により契約の移転を受けた未決済信
る修正申告書が提出されたことによって国外
用取引等又は未決済デリバティブ取引の決
転出時課税制度又は贈与等時課税制度の適用
済をした日以後にその決済をした未決済信
が取り消されたことに伴い上記 1 ⑴①又は②
用取引等又は未決済デリバティブ取引の決
による修正申告書を提出しなければならない
済による事業所得の金額又は雑所得の金額
場合に該当するときは、その修正申告書を提
の計算上減算すべき利益の額に相当する金
出した日から 4 月以内に上記 1 ⑴①又は②に
額が減少した場合が追加されました(所法
よる修正申告書を提出しなければならないこ
151の 4 ②)
。
ととされました(所法151の 4 ①各号・②各号)
。
② 更正の請求の特例の改正
② 更正の請求の特例の改正
イ 上記 1 ⑵①の更正の請求をすることがで
帰国等の場合の修正申告の特例の適用に係
きる場合に、遺産分割等の特例の適用に係
る修正申告書が提出されたことによって国外
る修正申告書の提出又は更正の請求に基づ
転出時課税制度又は贈与等時課税制度の適用
く更正があったことにより、相続又は遺贈
が取り消されたことに伴い上記 1 ⑵①又は②
により取得した有価証券等の譲渡をした日
による更正の請求を提出できる場合に該当す
以後にその譲渡をした有価証券等の取得費
るときは、その修正申告書を提出した日から
の額が増加した場合が追加されました(所
4 月以内に上記 1 ⑵①又は②による更正の請
法153の 4 ①)
。
求をすることができることとされました(所
ロ 上記 1 ⑵②の更正の請求をすることがで
法153の 4 ①各号・②各号)。
きる場合に、
遺産分割等の特例の適用に係る
(注) 上記①及び②の措置は、例えば国外転出時
修正申告書の提出又は更正の請求に基づく
課税制度の適用を受けた者から相続により取
更正があったことにより、
相続又は遺贈によ
得した有価証券等を譲渡した後に国外転出時
り契約の移転を受けた未決済信用取引等又
課税制度の適用の取消しがあったことにより、
は未決済デリバティブ取引の決済をした日
上記①はその譲渡をした有価証券等の取得費
以後にその決済をした未決済信用取引等又
の額が減少した場合(すなわち国外転出時課
は未決済デリバティブ取引の決済による事
税制度の適用により譲渡益が発生していた場
業所得の金額又は雑所得の金額の計算上加
合)に、上記②はその譲渡をした有価証券等
算すべき損失の額に相当する金額が減少し
の取得費の額が増加した場合(すなわち国外
た場合が追加されました(所法153の 4 ②)
。
転出時課税制度の適用により譲渡損が発生し
ていた場合)に、それぞれ適用されます。
⑵ 国外転出をした者が帰国をした場合等の修正
申告の特例等の創設に伴う措置
3 適用関係
「国外転出をした者が帰国をした場合等の修
上記 2 の改正は、遺産分割等の特例又は帰国等
正申告の特例(所法151の 2 ①)
」及び「非居住
の場合の修正申告の特例の適用に係る修正申告書
者である受贈者等が帰国をした場合等の修正申
の提出又は更正の請求に基づく更正があった日が
告の特例(所法151の 3 ①)
」
(以下「帰国等の
平成28年 1 月 1 日以後である場合について適用さ
場合の修正申告の特例」といいます。
)が創設
れます(改正法附則14①、16)。
されたことに伴い、次の改正が行われました。
─ 116 ─
――所得税法等の改正――
七 遺産分割等があった場合の修正申告、期限後申告等及び更正
の請求の特例の創設
正申告書の提出により納付すべき税額を納付
1 制度創設の趣旨
しなければならないこととされました(所法
被相続人の準確定申告書の提出期限において遺
151の 6 ①)。
産分割が行われていない場合には、民法の規定に
この場合において、修正申告書の提出がな
よる相続分により相続財産を取得したものとして
いときは、納税地の所轄税務署長は、その修
「相続又は贈与等により非居住者に有価証券等が
正申告書に記載すべきであった所得金額、所
移転した場合の譲渡所得等の特例(所法60の 3 。
得税の額その他の事項について更正を行うこ
以下「相続等時課税制度」といいます。
)
」を適用
ととされています(所法151の 6 ②)。
することとなると考えられます。その準確定申告
(注) 上記の特例は、遺産分割等の事由が生じ
書の提出期限後に遺産分割が行われ、非居住者で
たことにより、相続によって非居住者に移
ある相続人等に移転した相続財産である有価証券
転した譲渡益又は決済益が生じる対象資産
等に増減が生じた結果、準確定申告において計算
が増加した場合や、譲渡損失又は決済損失
した相続等時課税制度の適用により譲渡等があっ
が生じる対象資産が減少した場合に適用さ
たものとみなされた有価証券等に係る譲渡所得等
れます。
の金額に変動が生じることとなります。今般の改
② 遺産分割等の事由の意義
正では、このような場合の修正申告、期限後申告
上記①の遺産分割等の事由とは、次に掲げ
等及び更正の請求の特例についての整備が行われ
る事由をいいます(所法151の 6 ①各号、所
ました。
令273の 2 )。
イ 相続又は遺贈に係る対象資産について民
2 制度の内容
法(第904条の 2 (寄与分)を除きます。)
⑴ 遺産分割等があった場合の修正申告の特例
の規定による相続分又は包括遺贈の割合に
従って非居住者に移転があったものとして
① 特例の内容
相続の開始の日の属する年分の所得税につ
相続等時課税制度(所法60の 3 ①~③)の
き相続等時課税制度の適用を受けた居住者に
適用がされていた場合において、その後そ
ついて生じた遺産分割等の事由により、非居
の対象資産の分割が行われ、その分割によ
住者に移転した相続又は遺贈に係る有価証券
り非居住者に移転した対象資産がその相続
等又は未決済信用取引等若しくは未決済デリ
分又は包括遺贈の割合に従って非居住者に
バティブ取引に係る契約(以下「対象資産」
移転したものとされた対象資産と異なるこ
といいます。)が増加し、又は減少したこと
ととなったこと。
に基因して、その居住者のその相続の開始の
日の属する年分の所得税の額に不足額がある
ロ 強制認知等により相続人に異動を生じた
こと。
等の修正申告書の提出に係る事由が生じた場
ハ 遺留分による減殺の請求に基づき返還す
合には、その相続人は、その遺産分割等の事
べき、又は弁償すべき額が確定したこと。
由が生じた日から 4 月以内に、その相続の開
ニ 遺贈に係る遺言書が発見され、又は遺贈
始の日の属する年分の所得税についての修正
申告書を提出し、かつ、その期限内にその修
─ 117 ─
の放棄があったこと。
ホ 相続又は遺贈により取得した財産につい
――所得税法等の改正――
ての権利の帰属に関する訴えについての判
その被相続人について確定申告書(所法
決があったこと。
120①)を提出しなければならないときは、
ヘ 条件付の遺贈について、条件が成就した
相続人は、下記ハの損失申告書を提出する
場合を除き、所定の事項を記載した申告書
こと。
(注)
上記ロの相続人に異動を生ずる事由と
(いわゆる準確定申告書)を、その相続の
し て は、 強 制 認 知 の 判 決 の 確 定( 民 法
開始があったことを知った日の翌日から 4
787)、相続人の廃除又は廃除取消の審判
月を経過した日の前日までに、その被相続
の確定(民法892~894)、相続回復請求権
人の所轄税務署長に提出しなければならな
に基づく相続の回復(民法884)、相続の
いこととされています(所法125①)。
承認及び放棄の撤回及び取消(民法919②)、
今般の改正では、この準確定申告書の提
胎児の出生(民法886)などが該当します。
出期限後に遺産分割等の事由が生じたこと
③ 修正申告書又は更正と国税通則法との関係
によって相続等時課税制度が適用されたた
上記①の修正申告書の提出又は更正につい
め新たにこの準確定申告書を提出すべき要
ての国税通則法の規定の適用については、定
件に該当することとなった居住者(被相続
められた提出期限内に提出された修正申告書
人)の相続人は、その遺産分割等の事由が
は、国税通則法上の「期限内申告書」とみな
生じた日から 4 月以内に、その居住者の死
され、定められた提出期限を過ぎて提出され
亡の日の属する年分の期限後申告書を提出
た修正申告書や更正は、その修正申告書の提
し、かつ、その期限内にその期限後申告書
出期限を国税通則法上の「法定申告期限」あ
の提出により納付すべき税額を納付しなけ
るいは「法定納期限」と読み替えて適用され
ればならないこととされました(所法151
ます(所法151の 6 ③)
。したがって、修正申
の 5 ①)。
告書が上記①の提出期限内に提出された場合
この場合において、期限後申告書の提出
には、過少申告加算税や延滞税は課税されな
がないときは、納税地の所轄税務署長は、
いことになります。
その期限後申告書に記載すべきであった所
(注) 復興特別所得税についても、上記と同様
得金額、所得税の額その他の事項について
の修正申告の特例が創設されています(復
決定を行うこととされています(所法151
興財確法20の 2 ⑤、復興特別所令 7 の 2 )。
の 5 ④)。
(注) 上記の特例は、遺産分割等の事由が生
⑵ 遺産分割等があった場合の期限後申告等の特
じたことにより、相続によって非居住者
例
に譲渡益又は決済益が生じる対象資産が
① 特例の内容
移転することとなった場合等に適用され
イ 確定申告書を提出しなければならないこ
ととなった者に係る特例
ます。
ロ 還付申告書を提出できることとなった者
居住者が年の中途において死亡した場合
に係る特例
に、その死亡した者(被相続人)のその年
居住者が年の途中において死亡した場合
1 月 1 日から死亡の日までの総所得金額、
で、その死亡した者(被相続人)のその年
一般株式等に係る譲渡所得等の金額、上場
1 月 1 日から死亡の日までの総所得金額等
株式等に係る譲渡所得等の金額、先物取引
について計算した結果、その死亡した者の
に係る雑所得等の金額など(以下「総所得
所得税額がその者の予定納税額や源泉徴収
金額等」といいます。
)を計算した結果、
税額を下回る場合には、その相続人は、上
─ 118 ─
――所得税法等の改正――
記イによる申告書を提出すべき場合及び下
要件に該当することとなった居住者(被相
記ハによる申告書を提出することができる
続人)の相続人は、その居住者の死亡の日
場合を除き、所定の事項を記載した還付等
の属する年分の期限後申告書を提出するこ
を受けるための申告書(所法122①②)を、
とができることとされました(所法151の
その死亡した者の所轄税務署長に対して提
5 ③)
。
出することができることとされています
(注) 上記の特例は、遺産分割等の事由が生
(所法125②)
。
じたことにより、相続によって非居住者
今般の改正では、遺産分割等の事由が生
に譲渡損失又は決済損失が生じる対象資
じたことにより相続等時課税制度が適用さ
産が移転し、その被相続人が純損失の繰
れたため新たにこの還付申告書を提出する
戻しによる還付請求(所法141)を適用で
ことができる要件に該当することとなった
きることとなった場合等に適用されます。
居住者の相続人は、その遺産分割等の事由
② 期限後申告書又は決定と国税通則法との関
が生じた後に、その居住者(被相続人)の
係
死亡の日の属する年分の還付申告書を提出
上記①イの期限後申告書の提出又は決定に
することができることとされました(所法
ついての国税通則法の規定の適用については、
151の 5 ②)
。
定められた提出期限内に提出された期限後申
(注)
上記の特例は、遺産分割等の事由が生
告書は、国税通則法上の「期限内申告書」と
じたことにより、相続によって非居住者
みなされ、定められた提出期限を過ぎて提出
に譲渡損失又は決済損失が生じる対象資
された期限後申告書や決定は、その期限後申
産が移転し、その被相続人が他の所得と
告書の提出期限を国税通則法上の「法定申告
の損益通算を適用できることとなった場
期限」あるいは「法定納期限」と読み替えて
合等に適用されます。
適用されます(所法151の 5 ⑤)。したがって、
期限後申告書が上記①イの提出期限内に提出
ハ 損失申告書を提出できることとなった者
に係る特例
された場合には、無申告加算税や延滞税は課
居住者が年の途中において死亡した場合
税されないことになります。
で、その死亡した者(被相続人)のその年
また、上記①イからハまでの申告書を提出
1 月 1 日から死亡の日までの総所得金額等
することによる還付金の国に対する請求権は、
について計算した結果、その死亡した者の
遺産分割等の事由が生じた日から 5 年間行使
その死亡の日の属する年分の所得税につい
しないことによって、時効により消滅するこ
て確定損失申告書(所法123①)を提出す
ととされています(所法151の 5 ⑤⑥)。
ることができる場合には、その相続人は、
(注) 復興特別所得税についても、上記①イ及
その死亡した者の所轄税務署長に対してそ
び②と同様の期限後申告の特例が創設され
の相続の開始を知った日の翌日から 4 月を
ています(復興財確法20の 2 ⑤)
。
経過した日の前日までに、所定の事項を記
載した申告書を提出することができること
⑶ 遺産分割等があった場合の更正の請求の特例
とされています(所法125③)
。
相続の開始の日の属する年分の所得税につき
今般の改正では、この確定損失申告書の
相続等時課税制度の適用を受けた居住者につい
提出期限後に生じた遺産分割等の事由によ
て生じた遺産分割等の事由により、非居住者に
り相続等時課税制度が適用されたため新た
移転した相続又は遺贈に係る対象資産が減少し、
に確定損失申告書を提出することができる
又は増加したことに基因して、その居住者のそ
─ 119 ─
――所得税法等の改正――
の相続の開始の日の属する年分の所得税の所得
が生じる対象資産が増加した場合に適用で
金額若しくは税額等が過大となり、又は純損失
きます。
の金額が過少となる場合等には、その相続人は、
(注 2 )
復興特別所得税についても、上記と同様
その遺産分割等の事由が生じた日から 4 月以内
の更正の請求の特例が創設されています(復
に、税務署長に対し、更正の請求をすることが
興財確法21⑥)
。
できることとされました(所法153の 5 )
。
(注 1 )
上記の特例は、遺産分割等の事由が生じ
3 適用関係
たことにより、相続によって非居住者に移
上記 2 の改正は、平成28年 1 月 1 日以後に遺産
転した譲渡益又は決済益が生じる対象資産
分割等の事由が生ずる場合について適用されます
が減少した場合や、譲渡損失又は決済損失
(改正法附則15)。
八 外国親会社等が国内の役員等に供与等をした経済的利益に関
する調書の改正
⑵ 対象となる経済的利益を受けた者
1 改正前の制度の概要
この調書の対象となる経済的利益は、役員等
外国法人がその発行済株式等の50%以上を保有
(次に掲げる役員又は使用人である者をいいま
する内国法人の役員若しくは使用人である居住者
す。)が、その役員等に係る外国親会社等との
又は外国法人の国内にある営業所等において勤務
契約により付与された外国親会社等が発行する
するその外国法人の役員若しくは使用人である居
株式を無償又は有利な価額で取得することがで
住者が、これらの外国法人(以下「外国親会社
きる権利等を行使したことにより供与等を受け
等」といいます。
)から付与された株式を無償又
た株式、金銭その他の経済的利益とされていま
は有利な価額で取得することができる権利等に基
した(旧所法228の 3 の 2 )。
づきその外国親会社等から経済的利益の交付、支
① 上記⑴①の内国法人の役員又は使用人であ
る居住者
払又は供与(以下「供与等」といいます。
)を受
② 上記⑴②の外国法人の国内にある営業所等
けた場合には、その内国法人又は営業所等の長は、
外国親会社等の経済的利益の供与等に関する調書
において勤務するその外国法人の役員又は使
を、その供与等を受けた日の属する年の翌年 3 月
用人である居住者
31日までに、その内国法人の本店若しくは主たる
事務所の所在地又はその営業所等の所在地の税務
2 改正の内容
署長に提出しなければならないこととされていま
国外転出時課税制度(所法60の 2 )及び贈与等
す(旧所法228の 3 の 2 )
。
時課税制度(所法60の 3 )の対象となる有価証券
等の範囲から、ストックオプションなどの株式を
⑴ 提出義務者
有利な条件で取得することができる権利等が除外
この調書の提出義務者は、次に掲げる者です。 されたことに伴い、これらの権利を有する居住者
① 外国法人がその発行済株式等の総数又は総
が国外転出後にこれを国外において行使したこと
額の50%以上の数又は金額の株式等を直接又
により生じる経済的利益のうち国内源泉所得とな
は間接に保有する関係にある内国法人
るものを税務当局が的確に捕捉して適正な課税を
② 外国法人の国内にある営業所等の長
実現する観点等から、本調書について次の改正が
行われました。
─ 120 ─
――所得税法等の改正――
⑴ 対象となる経済的利益を受けた者の範囲の拡
(所法228の 3 の 2 、所規97の 3 の 2 ①)。
充
① 居住者
本調書の提出対象となる上記 1 ⑵の経済的利
② 非居住者のうち、その供与等を受けた経済
益を受けた役員又は使用人の範囲に、非居住者
的利益の価額の全部又は一部が国内源泉所得
のうちその供与等を受けた経済的利益の価額の
となるもの
全部又は一部が国内源泉所得となるものを受け
た者が追加されました(所法228の 3 の 2 二)
。
⑵ 調書の記載事項の整備等
なお、この非居住者について作成する調書は、
上記⑴の改正に伴い、非居住者のうちその供
その非居住者が供与等を受けた日の属する年の
与等を受けた経済的利益の価額の全部又は一部
翌年 4 月30日までに提出しなければならないこ
が国内源泉所得となるものを受けた者に供与等
ととされています。
をした経済的利益について調書を作成する場合
また、外国法人の役員等を退職してから国外
には、その非居住者の国外転出の時の直前にお
において経済的利益の供与等を受けた者なども
ける国内の住所又は居所及び個人番号を記載す
本調書の対象とするため、本調書の対象となる
るとともに、その者が内国法人又は外国法人と
上記 1 ⑵の役員等の範囲に、上記 1 ⑴①の内国
締結した委任契約、雇用契約その他これらに類
法人の役員又は使用人であった者又は上記 1 ⑴
する契約に係る期間を記載することとされまし
②の外国法人の国内にある営業所等において勤
た(所規97の 3 の 2 ①一ロ)
。この結果、調書
務するその外国法人の役員又は使用人であった
の書式は、次のように改正されています(所規
者のうち、次に掲げるものが追加されました
別表第九(三))。
別表第九(三)
平成 年分 外国親会社等が国内の役員等に供与等をした経済的利益に関する調書
経済的利益の供
与等を受けた者
供与等の年月日
住所又は居所
居住者等
の 区 分
氏 名
個人番号
経済的利益の内容
居 住 者・非 居 住 者
供与等を受けた株式
の価額又は金銭その 基 礎 と な る 株 式
1 単位当たりの金額
他の経済的利益の額 又 は 権 利 の 数
表示通貨
. .
. .
. .
権利付与年月日
.
取得できる株式等の総数若しくは金銭
等の総額又は付与された権利の総数
権 利 の 種 類
.
契約に係る期間等
外国親会社等
(付与会社)
役 員 ・ 使 用 人
名 称
自 年 月 日
至 年 月 日
所在地の国名
法人番号
(摘要)
提出者
単 位
所在地
名 称
(電話)
─ 121 ─
法人番号
――所得税法等の改正――
等を受ける経済的利益について適用し、同日前に
3 適用関係
供与等を受けた経済的利益については、従前どお
上記 2 の改正は、平成28年 1 月 1 日以後に供与
りとされます(改正法附則20)。
九 給与所得者の特定支出の控除の特例の改正
職務の遂行に直接必要な技術又は知識を習
1 改正前の制度の概要
得することを目的として受講する研修(人の
⑴ 給与所得者が、各年において特定支出をした
資格を取得するためのものは除きます。)で
場合において、その年中の特定支出の額の合計
あることについて給与等の支払者によって証
額が給与所得控除額の 2 分の 1 に相当する金額
明がされたもののための支出
を超える場合には、給与所得の金額の計算上、
④ 人の資格を取得するための支出
その超える部分の金額を給与所得控除額に加算
人の資格を取得するための支出で、その支
して給与等の収入金額から控除することができ
出がその者の職務の遂行に直接必要なもので
ることとされています(所法57の 2 ①)
。
あることについて給与等の支払者によって証
⑵ 特定支出とは、給与所得者の次に掲げる支出
をいいます。特定支出となる支出については、
明がされたもの
⑤ 単身赴任者の往復旅費
その支出について給与等の支払者により補塡さ
転任に伴い生計を一にする配偶者等との別
れる部分があり、かつ、その補塡される部分に
居を常況とすることとなった場合について給
つき所得税が課されない場合におけるその補塡
与等の支払者によって証明がされた場合にお
される部分を除くこととされています(旧所法
けるその者の勤務する場所又は居所とその配
57の 2 ②、旧所令167の 3 )
。
偶者等が居住する場所との間のその者の旅行
(航空機の利用に係るものも含みます。)に通
① 通勤費
その者の通勤のために必要な交通機関の利
常要する支出で一定のもの(グリーン車の料
用又は交通用具の使用のための支出で、その
金や航空機の客室の特別の設備の利用料金等
通勤の経路及び方法がその者の通勤に係る運
の特別車両料金は除かれ、また、 1 月に 4 往
賃、時間、距離その他の事情に照らして最も
復を超えて旅行をした場合には、その超えて
経済的かつ合理的であることについて給与等
した旅行に要する運賃及び料金は除きます。)
の支払者によって証明がされたもののうち、
⑥ 次に掲げる支出(その支出の額の合計額が
一般の通勤者につき通常必要であると認めら
65万円を超える場合には、65万円までの支出
れる部分の一定の支出(航空機の利用に係る
に限ります。
)で、その支出がその給与所得
ものは除きます。
)
者の職務の遂行に直接必要なものとして給与
等の支払者により証明がされたもの
② 転任に伴う引越費用
その転居が転任に伴うものであることにつ
イ 次に掲げる図書で職務に関連するものを
いて給与等の支払者によって証明がされた転
購入するための支出
居のために通常必要であると認められる一定
イ 書籍
の支出(その転任の事実が生じた日以後 1 年
ロ 新聞、雑誌その他の定期刊行物
以内にする転居のための自己又はその配偶者
ハ 上記イ及びロに掲げるもののほか、不
特定多数の者に販売することを目的とし
その他の親族に係る支出に限ります。
)
て発行される図書
③ 研修費
─ 122 ─
――所得税法等の改正――
ロ 次に掲げる制服、事務服その他の勤務場
際に確定申告書に添付する特定支出に関する明細
所において着用することが必要とされる衣
書には、その支出の内容等にあわせて、その支出
服を購入するための支出
につき教育訓練給付金又は自立支援教育訓練給付
イ 制服、事務服及び作業服
金が支給される部分がある場合にはその支給され
ロ 上記イに掲げるもののほか、給与等の
る部分の金額を記載することとされました(所令
支払者により勤務場所において着用する
ことが必要とされる衣服
167の 4 一)。
(注 1 )
教育訓練給付制度は、勤労者の主体的な
ハ 交際費、接待費その他の費用で、給与等
能力開発の取組みを支援し、雇用の安定と
の支払者の得意先、仕入先その他職務上関
再就職の促進を図ることを目的とする雇用
係のある者に対する接待、供応、贈答その
保険の給付制度であり、一定の要件を満た
他これらに類する行為のための支出
す雇用保険の一般被保険者又は高年齢被保
険者等が厚生労働大臣の指定する教育訓練
2 改正の内容
を受講し修了した場合に、本人が教育訓練
「雇用保険法の教育訓練給付金」及び「母子及
施設に支払った教育訓練経費の一定割合に
び父子並びに寡婦福祉法の自立支援教育訓練給付
相当する額が公共職業安定所(ハローワー
金」は、勤労者等が雇用の安定及び就職の促進等
ク)から支給されます。
に結びつく教育訓練のための費用を支出した場合
(注 2 )
母子家庭自立支援教育訓練給付金及び父
にその訓練費用の一部を補塡する目的で支給され
子家庭自立支援教育訓練給付金は、母子家
るものですが、対象となる教育訓練は専門的な技
庭の母又は父子家庭の父の主体的な能力開
術の取得や資格取得のための講座等が対象となっ
発の取組みを支援し、母子家庭の母又は父
ており、その支出は上記 1 ⑵③の研修費や④の資
子家庭の父の経済的な自立の促進を図るこ
格取得費に該当することがあります。また、これ
とを目的とする給付制度であり、児童扶養
らの給付金については、所得税を課さないことと
手当の支給を受けていること及び雇用保険
されているため(雇用保険法12、母子及び父子並
法による教育訓練給付の受給資格を有して
びに寡婦福祉法31の 4 、31の10)
、給与所得者が
いないこと等の一定の要件を満たす者が地
支出した教育訓練のための費用のうちこれらの給
方自治体の長の指定する教育訓練を受講し
付金が支給される部分については実質的にその給
修了した場合に、本人が教育訓練施設に支
与所得者は負担をしていないこととなります。こ
払った教育訓練経費の一定割合に相当する
のため、上記 1 ⑵の特定支出のうちこれらの給付
額が当該地方自治体の長から支給されます。
金が支給される部分については、既に特定支出の
対象外とされている上記 1 ⑵の給与等の支払者か
3 適用関係
ら補塡される部分と同様に、特定支出控除の対象
上記 2 の改正は、平成28年分以後の所得税につ
から除外されました(所法57の 2 ②)
。
いて適用し、平成27年分以前の所得税については、
この改正に伴い、特定支出控除の適用を受ける
従前どおりとされます(改正法附則 2 )。
十 給与所得者の扶養控除等申告書等に関する改正
年金等(以下「給与等」といいます。
)の支払
1 改正前の制度の概要
を受ける居住者が、給与等の支払をする者(以
⑴ 国内において、給与等、退職手当等又は公的
─ 123 ─
下「給与支払者等」といいます。)を経由して、
――所得税法等の改正――
その給与等に係る納税地の所轄税務署長に提出
を生じた日後最初に給与等の支払を受ける日
することとされている次に掲げる申告書(これ
の前日
③ 退職所得の受給に関する申告書……その退
らの申告書の提出に代えて、電磁的方法により
職手当等の支払を受ける時
提供するその申告書に記載すべき事項を含みま
す。以下「扶養控除等申告書等」といいます。
)
④ 公的年金等の受給者の扶養親族等申告書
には、それぞれ次に定める者(以下「控除対象
……毎年最初に公的年金等の支払を受ける日
配偶者等」といいます。
)の個人番号を記載す
の前日
ることとされています(旧所法194①②、195①
(注) 上記②以外の従たる給与についての扶養
②、203①、203の 5 ①、旧所規73①②、77、77
控除等申告書については、提出期限はあり
の 3 )。
ません。
① 給与所得者の扶養控除等申告書……その申
告書を提出する者、控除対象配偶者、控除対
2 改正の内容
象扶養親族及び扶養親族のうちに同居特別障
行政手続における特定の個人を識別するための
害者若しくはその他の特別障害者又は特別障
番号の利用等に関する法律(平成25年法律第27
害者以外の障害者(以下「障害者等」といい
号)では、個人番号が記載された書類を提出する
ます。)がある場合にはその者
際には厳格な本人確認手続が求められ、また、個
② 従たる給与についての扶養控除等申告書
人番号が記載された書類を保存する際には安全管
……その申告書を提出する者、控除対象配偶
理措置を講ずることが定められており、これらの
者及び控除対象扶養親族
事務実施者は適正な処理を求められることとなり
③ 退職所得の受給に関する申告書……その申
告書を提出する者
ます。他方、給与所得者の扶養控除等申告書や公
的年金等の受給者の扶養親族等申告書等は、毎年
④ 公的年金等の受給者の扶養親族等申告書
同一の者に対して提出される場合が多いと考えら
……その申告書を提出する者、控除対象配偶
れるため、納税者及び事務実施者の事務負担等に
者、控除対象扶養親族及び扶養親族のうちに
配慮し、このような場合における扶養控除等申告
障害者等がある場合にはその者
書等に記載する個人番号の記載方法について、特
⑵ 扶養控除等申告書等は、それぞれ次に定める
例が設けられました。具体的には次のとおりです。
期限までに提出しなければならないこととされ
⑴ 扶養控除等申告書等の提出を受ける給与支払
ています(旧所法194①②、195②、203①、203
者等が、次の事項を記載した帳簿を備えている
の 5 ①)。
ときは、その提出をする者は、その扶養控除等
① 給与所得者の扶養控除等申告書……毎年最
申告書等に、その帳簿に記載されている個人番
初に給与等の支払を受ける日の前日(その申
号の記載を要しないこととされました。ただし、
告書を提出した者が、その年の中途において
その扶養控除等申告書等に記載されるべき氏名
その申告書に記載した事項について異動を生
又は個人番号が、その帳簿に記載された控除対
じた場合において提出するものについては、
象配偶者等の氏名又は個人番号と異なる場合を
異動を生じた日後最初に給与等の支払を受け
除きます(所法198⑥、203の 5 ⑨、所規76の 2
る日の前日)
⑥⑪、77②③、77の 4 ④⑦)。
② 従たる給与についての扶養控除等申告書で、
その申告書を提出した者がその年の中途にお
いてその申告書に記載した事項について異動
を生じた場合において提出するもの……異動
─ 124 ─
① 扶養控除等申告書等に記載された控除対象
配偶者等の氏名、住所及び個人番号
② 扶養控除等申告書等の提出を受けた年月及
びその申告書の名称
――所得税法等の改正――
住所又は個人番号を記載した届出書を提出しな
③ その他参考となるべき事項
(注)
上記の帳簿は、扶養控除等申告書等の提出
ければなりません。その届出書を提出した後、
の前に、その提出をする者から扶養控除等申
再びその届出書に記載した氏名、住所又は個人
告書等の提出を受けて作成されたものに限り
番号を変更した場合も、同様とされています
(所規76の 2 ⑧、77⑤、77の 4 ⑥)。
ます。
⑵ 上記⑴の帳簿は、最後に上記⑴の規定の適用
上記⑴の帳簿を作成した給与支払者等は、そ
を受けた扶養控除等申告書等に係る上記 1 ⑵①
の届出書を受理した場合には、その帳簿の上記
から④までの提出期限の属する年(上記 1 ⑵②
⑴①から③までに掲げる事項を、その届出書に
以外の従たる給与についての扶養控除等申告書
記載されている事項に訂正しておかなければな
にあっては、その申告書を給与支払者等が受理
りません(所規76の 2 ⑨、77⑤、77の 4 ⑥)。
した日の属する年)の翌年 1 月10日の翌日から
⑷ 給与支払者等は、その受理をした上記⑶の変
7 年を経過する日まで保存しなければなりませ
更届出書を、その受理をした日の属する年の翌
ん(所規76の 2 ⑦、76の 3 、77④⑦、77の 4 ⑤
年から 3 年間保存しなければなりません(所規
⑧)。
76の 2 ⑩、77⑤、77の 4 ⑥)。
⑶ 上記⑴の措置の適用を受けた扶養控除等申告
書等を提出した者がその扶養控除等申告書等に
3 適用関係
記載すべき氏名、住所又は個人番号を変更した
上記 2 の改正は、平成29年 1 月 1 日以後に支払
場合には、その者は、遅滞なく、その扶養控除
を受けるべき給与等について適用されます(改正
等申告書等を受理した給与支払者等に、変更前
法附則18②③、改正所規附則 9 )。
の氏名、住所又は個人番号及び変更後の氏名、
十一 特定譲渡制限付株式等に関する改正
れているものを与えられた場合(株主等として
1 改正前の制度の概要
与えられた場合(その発行法人の他の株主等に
⑴ 有利な条件等で株式を取得できる権利を付与
損害を及ぼすおそれがないと認められる場合に
された場合の経済的利益の価額等
限ります。)を除きます。)におけるその権利に
その年分の各種所得の金額の計算上収入金額
係る経済的な利益の価額は、その権利の行使に
とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額
より取得した株式(これに準ずるものを含みま
は、別段の定めがあるものを除き、その年にお
す。)のその行使の日における価額から、その
いて収入すべき金額(金銭以外の物又は権利そ
新株予約権の行使に係るその新株予約権の取得
の他経済的な利益をもって収入する場合には、
価額にその行使に際し払い込むべき額を加算し
その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益
た金額等を控除した金額によることとされてい
の価額)とされ(所法36①)
、金銭以外の物又
ます(旧所令84四)。
は権利その他経済的な利益の価額とは、その物
若しくは権利を取得し、又はその利益を享受す
⑵ 権利行使により取得した有価証券の取得価額
る時における価額とされています(所法36②)
。
発行法人から与えられた有利な条件等により
この別段の定めとして、発行法人から有利な
発行された新株予約権等の行使により取得した
条件等により発行された新株予約権でその権利
有価証券の取得価額は、その有価証券のその権
の譲渡についての制限その他特別の条件が付さ
利の行使の日における価額とされています(旧
─ 125 ─
――所得税法等の改正――
株式の交付に係る経済的利益は、その特定譲渡
所令109①二)
。
制限付株式の譲渡についての制限が解除された
2 改正の内容
日にその日における価額により課税することが
外国法人の役員や従業員が、一定期間にわたっ
定められました(所令84①)。
て譲渡制限が付された株式(リストリクテッド・
① 譲渡制限付株式の意義
ストック)を報酬として交付されたことにより生
譲渡制限付株式は、次の要件に該当する株
じる経済的利益の課税時期は、これまでの裁判例
式とされています(所令84①)。
(東京地裁平成15年(行ウ)第427号 平成17年12
イ 譲渡(担保権の設定その他の処分を含み
月16日判決など)を踏まえ、その株式が交付され
ます。)についての制限がされており、か
た日ではなく、その株式の譲渡制限が解除された
つ、その譲渡についての制限に係る期間
日に総収入金額に算入することとして取り扱われ
(以下「譲渡制限期間」といいます。)が設
ているところです。この譲渡制限が付された株式
けられていること。
を報酬として交付する方法は欧米では一般的に利
(注 1 )
上記の譲渡についての制限の方法と
用されているものですが、これを我が国の企業に
しては、種類株式を用いる方法や、普
おいても導入することを促進すべく、その導入に
通株式を用いてその普通株式を交付す
あたっての会社法や労働法規に関する法的な論点
る法人とその普通株式の交付を受ける
やその発行手続について、経済産業省の「コーポ
個人との間における契約による方法が
レート・ガバナンス・システムの在り方に関する
考えられます。
研究会(平成27年 7 月24日報告書とりまとめ)
」
において整理が行われました。
(注 2 )
上記の株式には、出資及び投資法人
の投資口を含みます。
(注)
上記研究会の報告書では、リストリクテッド・
ロ その個人から役務の提供を受ける法人又
ストックを交付する手法として、役員に付与さ
はその株式を発行し、若しくはその個人に
れた金銭報酬債権を現物出資財産として法人に
交付した法人がその株式を無償で取得する
払い込むことによって株式を取得する方法が報
こととなる事由が定められていること。
(注) 上記の「その株式を無償で取得するこ
告されています。
このような動きを踏まえ、今後我が国において
ととなる事由」は、その株式の交付を受
も現物株式を報酬として付与するケースが生じて
けた個人が譲渡制限期間内の所定の期間
くることが見込まれることから、個人が報酬とし
勤務を継続しないこと若しくはその個人
て譲渡制限付株式を交付された場合の総収入金額
の勤務実績が良好でないことその他のそ
への算入時期等について法令上明確化が図られま
の個人の勤務の状況に基づく事由又は上
した。
記の法人の業績があらかじめ定めた基準
に達しないことその他の上記の法人の業
⑴ 特定譲渡制限付株式の交付を受けた場合
績その他の指標の状況に基づく事由に限
個人が法人に対して役務の提供をした場合に
おいて、その役務の提供の対価として譲渡制限
られます。
② 特定譲渡制限付株式の意義
付株式であってその役務の提供の対価としてそ
特定譲渡制限付株式とは、個人から役務の
の個人に生ずる債権の給付と引換えにその個人
提供を受けた法人(以下「特定法人」といい
に交付されるものその他一定の要件を満たすも
ます。)又はその親法人の譲渡制限付株式で
の(以下「特定譲渡制限付株式」といいます。
)
あって、その役務の提供の対価としてその個
が交付されたときにおけるその特定譲渡制限付
人に生ずる債権の給付と引換えにその個人に
─ 126 ─
――所得税法等の改正――
交付されるものその他その個人に給付される
制限付株式を有する者に対し交付される
ことに伴ってその債権が消滅する場合のその
その分割型分割に係る分割承継法人の譲
譲渡制限付株式をいいます(所令84①)
。
渡制限付株式で、その分割型分割の時か
イ 上記の親法人とは、その譲渡制限付株式
らその譲渡制限付株式に係る譲渡制限期
の交付の直前にその特定法人とその特定法
間終了の時までその特定法人とその分割
人以外の法人との間にその法人がその特定
承継法人との間にその分割承継法人がそ
法人の発行済株式又は出資(自己が有する
の特定法人の発行済株式等の全部を保有
自己の株式を除きます。以下「発行済株式
する関係が継続することが見込まれてい
等」といいます。
)の全部を保有する関係
る場合におけるその譲渡制限付株式
があり、かつ、その交付の時からその譲渡
ロ 上記の「その役務の提供の対価としてそ
制限付株式に係る譲渡制限期間終了の時ま
の個人に生ずる債権の給付と引換えにその
でその特定法人とその法人との間にその関
個人に交付されるもの(譲渡制限付株式)」
係が継続することが見込まれている場合に
は、具体的には、「役務の提供をした個人
おけるその特定法人とその法人との間の関
によるその金銭報酬債権の現物出資により、
係があるその法人をいいます(所規19の 4
その役務の提供を受けた法人(特定法人)
①)。
によってその個人に交付されるその特定法
この場合に、その譲渡制限期間内におい
人の譲渡制限付株式又は親法人によってそ
てその法人を被合併法人又は分割法人とす
の個人に交付されるその親法人の譲渡制限
る合併又は分割型分割(以下「合併等」と
付株式」が該当します。他方、「その他そ
いいます。)により次の株式が交付される
の個人に給付されることに伴ってその債権
ことが見込まれている場合には、譲渡制限
が消滅する場合のその譲渡制限付株式」は、
付株式の交付の時からその合併等の直前の
具体的には、
「その役務の提供を受ける法
時までその特定法人とその法人との間にそ
人(特定法人)によってその個人に交付さ
の関係が継続することにより、上記の「そ
れるその特定法人が有していた親法人の譲
の交付の時からその譲渡制限付株式に係る
渡制限付株式」が該当します。
譲渡制限期間終了の時までその特定法人と
その法人との間にその関係が継続するこ
⑵ 承継譲渡制限付株式の交付を受けた場合
と」という要件に代えることができます
合併や分割型分割により被合併法人又は分割
法人の特定譲渡制限付株式を有する者に対して
(所規19の 4 ①各号)
。
イ その合併によりその法人の譲渡制限付
交付される合併法人又は分割承継法人の譲渡制
株式を有する者に対し交付されるその合
限付株式で一定の要件を満たすもの(承継譲渡
併に係る合併法人の譲渡制限付株式で、
制限付株式)についても、上記⑴と同様に、そ
その合併の時からその譲渡制限付株式に
の承継譲渡制限付株式の交付に係る経済的利益
係る譲渡制限期間終了の時までその特定
は、その承継譲渡制限付株式の譲渡についての
法人とその合併法人との間にその合併法
制限が解除された日にその日における価額によ
人がその特定法人の発行済株式等の全部
り課税されます(所令84①)。
を保有する関係が継続することが見込ま
この承継譲渡制限付株式とは、次の譲渡制限
れている場合におけるその譲渡制限付株
付株式をいいます(所規19の 4 ②)。
式
① 合併によりその合併に係る被合併法人の特
ロ その分割型分割によりその法人の譲渡
─ 127 ─
定譲渡制限付株式を有する者に対し交付され
――所得税法等の改正――
る譲渡制限付株式で、次の場合の区分に応じ
譲渡制限付株式
それぞれ次に定めるもの
イ その分割型分割に係る分割承継法人の
譲渡制限付株式
イ その被合併法人がその特定譲渡制限付株
ロ その分割型分割の直前にその分割型分
式に係る特定法人である場合……次に掲げ
る譲渡制限付株式
割に係る分割承継法人とその分割承継法
イ その合併に係る合併法人の譲渡制限付
人以外の法人との間にその法人がその分
割承継法人の発行済株式等の全部を保有
株式
ロ その合併の直前にその合併に係る合併
する関係があり、かつ、その分割型分割
法人とその合併法人以外の法人との間に
の時からその分割型分割により交付され
その法人がその合併法人の発行済株式等
る譲渡制限付株式に係る譲渡制限期間終
の全部を保有する関係があり、かつ、そ
了の時までその分割承継法人とその法人
の合併の時からその合併により交付され
との間にその関係が継続することが見込
るその法人の譲渡制限付株式に係る譲渡
まれている場合におけるその法人の譲渡
制限期間終了の時までその合併法人とそ
制限付株式
の法人との間にその関係が継続すること
ロ その分割法人がその特定譲渡制限付株式
が見込まれている場合におけるその法人
の交付の直前にその特定譲渡制限付株式に
の譲渡制限付株式
係る特定法人とその特定法人以外の法人と
ロ その被合併法人がその特定譲渡制限付株
の間にその法人がその特定法人の発行済株
式の交付の直前にその特定譲渡制限付株式
式等の全部を保有する関係があり、かつ、
に係る特定法人とその特定法人以外の法人
その交付の時からその特定譲渡制限付株式
との間にその法人がその特定法人の発行済
に係る譲渡制限期間終了の時までその特定
株式等の全部を保有する関係があり、かつ、
法人とその法人との間にその関係が継続す
その交付の時からその特定譲渡制限付株式
ることが見込まれている場合におけるその
に係る譲渡制限期間終了の時までその特定
特定法人とその法人との間の関係があるそ
法人とその法人との間にその関係が継続す
の法人である場合……その分割型分割の時
ることが見込まれている場合におけるその
からその譲渡制限付株式に係る譲渡制限期
特定法人とその法人との間の関係があるそ
間終了の時までその特定法人とその分割型
の法人である場合……その合併の時からそ
分割に係る分割承継法人との間にその分割
の譲渡制限付株式に係る譲渡制限期間終了
承継法人がその特定法人の発行済株式等の
の時までその特定法人とその合併に係る合
全部を保有する関係が継続することが見込
併法人との間にその合併法人がその特定法
まれている場合におけるその分割承継法人
人の発行済株式等の全部を保有する関係が
の譲渡制限付株式
継続することが見込まれている場合におけ
⑶ 特定譲渡制限付株式等の取得価額
るその合併法人の譲渡制限付株式
② 分割型分割によりその分割型分割に係る分
上記⑴及び⑵のとおり、特定譲渡制限付株式
割法人の特定譲渡制限付株式を有する者に対
及び承継譲渡制限付株式の交付を受けたことに
し交付される譲渡制限付株式で、次の場合の
より生じる経済的利益については、その譲渡制
区分に応じそれぞれ次に定めるもの
限が解除された日の価額によって課税がされる
イ その分割法人がその特定譲渡制限付株式
ため、これらの株式の取得価額は、その特定譲
に係る特定法人である場合……次に掲げる
渡制限付株式又は承継譲渡制限付株式の譲渡制
─ 128 ─
――所得税法等の改正――
限が解除された日における価額とすることとさ
れました(所令109①二)
。
3 適用関係
上記 2 の改正は、平成28年分以後の所得税につ
いて適用されます(改正所令附則 5 )。
十二 確定申告書等に添付すべき証明書等の範囲の拡充
基礎となる生命保険料又は地震保険料の金額等
1 改正前の制度の概要
を証する書類を保険料控除申告書に添付し、又
⑴ 確定申告書への書類の添付又は提示
はその申告書の提出の際に提示しなければなら
ないこととされています(旧所令319)。
確定申告の際に生命保険料控除、地震保険料
控除若しくは寄附金控除又は政治活動に関する
寄附をした場合の所得税額控除、認定特定非営
2 改正の内容
利活動法人等に寄附をした場合の所得税額控除
各種保険料控除や寄附金控除等の適用を受ける
若しくは公益社団法人等に寄附をした場合の所
場合には、電子メール等を利用して交付された支
得税額控除の適用を受ける場合には、これらの
払保険料等の内容を記録した電子データを印刷し
控除を受ける金額の計算の基礎となる生命保険
た書面はその真正性の確保等に問題があることか
料、地震保険料又は寄附金の金額等を証する書
ら、これまで確定申告書に添付すること等はでき
類を確定申告書に添付し、又はその申告書の提
ないこととされていましたが、今回の改正では、
出の際に提示しなければならないこととされて
納税者及び証明書類の発行者の負担を軽減し、利
います(旧所令262①、旧措規19の10の 2 、19
便性を向上させる観点から、生命保険料控除、地
の10の 3 、19の10の 4 ⑪)
。
震保険料控除若しくは寄附金控除又は政治活動に
ただし、下記⑵の年末調整の際に、給与所得
関する寄附をした場合の所得税額控除、認定特定
控除後の給与等の金額から控除された生命保険
非営利活動法人等に寄附をした場合の所得税額控
料又は地震保険料の金額で保険料控除申告書に
除若しくは公益社団法人等に寄附をした場合の所
その控除を受ける金額の計算の基礎となる生命
得税額控除の適用を受ける場合のその控除額の計
保険料又は地震保険料の金額等を証する書類を
算の基礎となる生命保険料、地震保険料又は寄附
添付等したものについては、その生命保険料又
金の金額等を証する書類について、電子メール等
は地震保険料の金額が記載された源泉徴収票を
により交付を受けたこれらの書類の内容が記録さ
添付することにより、改めてその控除された上
れた電子データを一定の方法により印刷した書面
記の控除を受ける金額の計算の基礎となる生命
を添付し、又は提示することが可能とされました。
保険料又は地震保険料の金額等を証する書類を
確定申告書に添付し、又はその申告書の提出の
⑴ 確定申告書に添付等をすべき書類の範囲の拡
際に提示する必要はありません(所令262①た
充
だし書)
。
確定申告により各種保険料控除又は寄附金控
⑵ 保険料控除申告書への書類の添付又は提示
除(所得控除・税額控除)の適用を受ける場合
給与所得者が年末調整の際に、給与所得控除
には、次に掲げる書類に記載すべき事項を記録
後の給与等の金額からその年中に支払った生命
した電磁的記録を記録した電子証明書等(下記
保険料又は地震保険料の金額につき控除の適用
⑵(注)参照)の情報の内容を、国税庁長官の
を受ける場合には、控除を受ける金額の計算の
定める方法によって出力することにより作成し
─ 129 ─
――所得税法等の改正――
た書面(以下「電磁的記録印刷書面」といいま
することができることとされました(所令319
す。)を確定申告書に添付し、又は確定申告書
三~八)。
を提出する際に提示することができることとさ
(注) 上記⑴及び⑵の用語の意義は、次のとおり
れました(所令262①五~七・②⑥、措規19の
です(所令262②、所規47の 2 ④)
。
10の 3 、19の10の 4 、19の10の 5 ⑪、平成18年
1 電子証明書等とは、電磁的記録(電子的
改正所令附則14③)
。
方式、磁気的方式その他の人の知覚によっ
① 新生命保険料の金額、旧生命保険料の金額、
ては認識することができない方式で作られ
介護医療保険料の金額、新個人年金保険料の
る記録であって、電子計算機による情報処
金額又は旧個人年金保険料の金額その他の事
理の用に供されるものをいいます。)でその
項を証する書類
記録された情報について電子署名が行われ
② 地震保険料の金額その他の事項を証する書
ているもの及びその電子署名に係る電子証
類
明書をいいます。
③ 旧長期損害保険料の金額その他の事項を証
2 電子署名とは、電子署名及び認証業務に
する書類
関する法律第 2 条第 1 項に規定する電子署
③ 特定寄附金の明細書その他の書類
名をいいます。
④ 政党等に対する寄附金の額その他の事項を
3 電子証明書とは、電子署名を行った個人
証する書類
を確認するために用いられる事項がその個
⑤ 特定非営利活動に関する寄附金の額その他
人に係るものであることを証明するために
の事項を証する書類
作成された電磁的記録であって、商業登記
⑥ 税額控除対象寄附金となる公益社団法人等
法(昭和38年法律第125号)第12条の 2 第 1
に対する寄附金の額その他の事項を証する書
項及び第 3 項(これらの規定を他の法令の
類
規定において準用する場合を含みます。)の
(注) 上記の国税庁長官の定める方法は、今後
規定に基づき登記官が作成したものや民間
認証局が発行する電子証明書など国税電子
国税庁告示によって定められる予定です。
申告・納税システム(e-Tax)において利
⑵ 保険料控除申告書に添付等をすべき書類の範
囲の拡充
年末調整の際に各種保険料控除の適用を受け
用することができるものをいいます。
3 適用関係
る場合には、上記⑴①から③までに掲げる書類
上記 2 の改正は、平成30年分以後の所得税につ
に記載すべき事項を記録した電子証明書等に係
いて適用し、平成29年分以前の所得税については
る電磁的記録印刷書面を保険料控除申告書に添
従前どおりとされます(改正所令附則11、13、改
付し、又は保険料控除申告書の提出の際に提示
正措規附則19①)。
十三 中小企業退職金共済法の改正等に伴う特定退職金共済制度
等の改正
する制度(特定退職金共済制度)に基づいて
1 改正前の制度の概要
支給される給付で、この制度に係る被共済者
⑴ 特定退職金共済制度
の退職により支払われる一時金については退
① 特定退職金共済団体が行う退職金共済に関
─ 130 ─
職所得として、年金については公的年金等に
――所得税法等の改正――
係る雑所得として所得税が課されることとさ
税務署長の承認を受けたものをいいます(旧
れています(所法31三、35③三、所令72③一、
所令73①、旧所規18の 4 ⑪~⑭)。
82の 2 ②一)
。
イ 多数の事業主を対象として退職金共済契
(注 1 )
企業が従業員に支払う退職金の準備方
法としては、企業内引当ての方法として
退職給与引当金制度がありますが、より
その支払を確保する方法として企業が掛
約を締結することを目的とし、かつ、加入
事業主のみがその掛金を負担すること
ロ 被共済者のうちに他の特定退職金共済団
体の被共済者を含まないこと
金を企業外の他の法人等に拠出し、退職
ハ 被共済者のうちに加入事業主である個人
した従業員にはその法人が退職手当等を
若しくはこれと生計を一にする親族又は加
給付する、いわゆる企業外拠出による方
入事業主である法人の役員を含まないこと
ニ 掛金として払い込まれた金額は、加入事
法があります。
(注 2 )
この企業外拠出の方法による中小企業
業主に返還しないこと
の従業員に対する退職金共済制度として
ホ 掛金として払い込まれた金額から退職金
は、中小企業退職金共済法(以下「中退
共済事業を行う団体の事務に要する経費と
法」といいます。)に基づいて独立行政法
して通常必要な金額を控除した残額(資産
人勤労者退職金共済機構(以下「機構」
総額)は、公社債、預貯金、合同運用信託、
といいます。)が行う退職金共済に関する
証券投資信託の受益権等の資産として運用
制度(中小企業退職金共済制度)があり
し、かつ、これらの資産を担保に供し又は
ますが、その要件や従業員の在職年数の
分布等が異なる業種や地域においては、
この中小企業退職金共済制度に加入する
貸し付けないこと
ヘ 掛 金 の 月 額 は、 被 共 済 者 1 人 に つ き
30,000円以下であること
実益が小さいことに配慮して独自の共済
ト 被共済者の過去勤務期間又は合併等前勤
制度を設けることが可能であり、民間の
務期間がある場合において、これらの期間
共済団体が行う退職金共済制度のうち中
を退職給付金の額の計算の基礎に含めると
小企業退職金共済制度とほぼ同様の要件
きは、その退職給付金の額の計算の基礎に
を満たすものとして税務署長の承認を受
含める期間並びにその期間に対応する掛金
けた「特定退職金共済団体」が行う退職
の額及びその払込みについて、一定の要件
金共済制度については、事業主負担の掛
を満たすものであること
金や従業員に支給される退職一時金等に
(注) 「合併等前勤務期間」とは、その者が、
対する課税上の取扱いが中小企業退職金
次に掲げる法人の合併又は事業の譲渡
共済制度に対する取扱いとほぼ同様に定
(以下「合併等」といいます。
)に伴い被
められています。
共済者となった者又は合併等前から被共
② この「特定退職金共済団体」とは、退職金
済者であった者で当該合併等の直前にお
共済事業を行う市町村(特別区を含みます。
)
、
いて当該合併等に係る被合併法人、合併
商工会議所、商工会、商工会連合会、都道府
法人又は事業の譲渡をした法人である事
県中小企業団体中央会、退職金共済事業を主
業主が締結していた適格退職年金契約に
たる目的とする一般社団法人若しくは一般財
係る受益者等であったものである場合に
団法人その他財務大臣の指定するこれらに準
おいて、当該合併等の日の前日まで当該
ずる法人で、その行う退職金共済事業につい
合併により消滅した法人若しくは当該合
て、次に掲げる要件を備えているものとして
併後存続する法人又は当該事業の譲渡を
─ 131 ─
――所得税法等の改正――
した法人(当該合併等以外の合併等によ
ロ 当該被共済者が、中退法第31条第 1 項
りこれらの法人に事業が承継され、又は
の規定により機構から退職金に相当する
譲渡された法人を含みます。)である事業
額の引渡しを受けて被共済者となった被
主の下で引き続き勤務した期間をいいま
共済者である場合……当該被共済者の当
す(所令73①七、旧所規18の 4 ②~④)。
該退職について支給する退職給付金は、
イ 農業協同組合が農業協同組合合併助
その計算の基礎にその退職金に相当する
成法の認定を受けて行う合併又は信用
事業を行う農業協同組合が同法の認可
額を含むものであること
ハ 移動先の退職金共済団体(以下「新た
な退職金共済団体」といいます。)と現
を受けて行う一定の合併
ロ 農林中央金庫及び特定農水産業協同
在の退職金共済団体(以下「従前の退職
組合等により信用事業の再編及び強化
金共済団体」といいます。
)の間で、そ
に関する法律(以下「再編強化法」と
の退職金につき退職金共済契約に基づき
いいます。)による農林中央金庫と信用
退職給付金の支給を受けることができる
農水産業協同組合連合会との合併
被共済者が申し出たときはその被共済者
ハ 全国の区域を地区とする農業協同組
に係る退職給付金に相当する額を当該新
合連合会とその会員たる農業協同組合
たな退職金共済団体に引き渡すこと及び
連合会(信用農業協同組合連合会を除
従前の退職金共済団体はその申出をした
きます。)との合併
者に係る退職金給付金に相当する額を、
ニ 再編強化法の事業譲渡のうち次に掲
一括して、遅滞なく、新たな退職金共済
げるもの
団体に引き渡すことを約する契約を締結
i 信用農水産業協同組合連合会が農
している場合において、その被共済者が
林中央金庫に対して行う信用事業の
その退職後 2 年内に、その退職給付金を
全部又は一部の譲渡
請求しないで新たな退職金共済団体の被
ⅱ 特定農業協同組合が農林中央金庫
共済者となり、かつ、一定の事項を記載
又は信用農業協同組合連合会に対し
した申出書に従前の退職金共済団体の被
て行う信用事業の全部の譲渡
共済者証その他の一定の書類を添付し、
ⅲ 特定漁業協同組合又は特定水産加
これを新たな特定退職金共済団体を経由
工業協同組合が農林中央金庫、信用
して従前の特定退職金共済団体に提出し
漁業協同組合連合会又は信用水産加
た場合……その契約で定めるところによ
工業協同組合連合会に対して行う信
って当該退職給付金に相当する額を当該
用事業の全部の譲渡
新たな退職金共済団体に引き渡すこと
チ 被共済者が退職した場合において、当該
ニ 当該被共済者が、上記ハにより従前の
被共済者が次に掲げる場合に該当するとき
特定退職金共済団体からハの退職給付金
は、それぞれ次に定めるところによること
に相当する額の引渡しを受けて被共済者
とされていること
となった者である場合……その被共済者
イ 当該被共済者が、中退法第30条第 1 項
の当該退職について支給する退職給付金
の規定により、同項の申出をした場合
は、その計算の基礎にその引渡しを受け
……同項に規定する契約で定めるところ
た退職給付金に相当する額が含まれるも
によって当該被共済者に係る退職金に相
のであること
ホ 当該被共済者が、当該退職後 2 年内に
当する額を機構に引き渡すこと
─ 132 ─
――所得税法等の改正――
当該退職について支給すべき退職給付金
するときは、その変更について所轄税務署長
(以下「引継退職給付金」といいます。
)
の承認を受けなければならないこととされて
います(所令74⑤⑥)。
を請求しないで新たな加入事業主に係る
被共済者となり、かつ、一定の事項を記
⑤ 税務署長は、特定退職金共済団体につき次
載した申出書に被共済者証の写しを添付
に掲げる事実があると認めるときは、その特
し、これを新たな加入事業主を経由して
定退職金共済団体に係る承認を取り消すこと
特定退職金共済団体に提出した場合……
ができることとされています(所令75①)。
その被共済者の当該新たな事業主との雇
イ その特定退職金共済団体の退職金共済規
用関係の終了による退職について支給す
程のうち上記②イからヌまでに掲げる要件
る退職給付金は、その計算の基礎にその
に係る事項について上記④の承認を受けな
引継退職給付金相当額を含むものである
いで変更をしたこと
ロ その特定退職金共済団体の退職金共済事
こと
業につき上記②イ、ニ、ホ、リ又はヌに掲
リ 掛金の額又は退職給付金の額について、
げる要件に反する事実があること
加入事業主又は被共済者のうち特定の者に
ハ その特定退職金共済団体の全ての被共済
つき不当に差別的な取扱いをしないこと
者につき上記②ロ、ハ又はヘからチまでに
ヌ 退職金共済事業に関する経理は、他の経
掲げる要件に反する事実があること
理と区分して行うこと
③ 特定退職金共済団体としての税務署長の承
認を受けようとする法人は、その名称、主た
⑵ 不適格退職金共済契約等に基づく掛金の取扱
る事務所の所在地、退職金共済事業の責任者
い
の氏名、その開始予定年月日、下記⑤により
事業を営む個人又は法人が、上記⑴⑤による
特定退職金共済団体の承認の取消しを受けた
承認の取消しを受けた団体に対しその取消しに
後、再び申請書を提出する場合には、その取
係る退職金共済契約に基づき、その取消しの時
消しの通知を受けた年月日等を記載した申請
以後に支出した掛金(以下「取消後掛金」とい
書に退職金共済規程(その法人が一般社団法
います。)等で、その個人のその事業に係る不
人又は一般財団法人である場合には退職金共
動産所得の金額、事業所得の金額若しくは山林
済規程及び定款の写し)を添付して所轄税務
所得の金額又はその法人の各事業年度の所得の
署長に提出しなければならないこととされて
金額の計算上必要経費又は損金の額に算入され
います(所令74①②、旧所規19)
。
るものは、その被共済者等に対する給与所得に
この場合において、申請書に添付された退
係る収入金額に含まれるものとされています
職金共済規程が上記②イからヌまでに掲げる
(旧所令65)。
要件の全てに該当しているときは、その申請
を承認するものとされています。ただし、そ
⑶ 退職手当等とみなす一時金の退職所得控除額
の申請をした法人が次の⑤による承認の取消
に係る勤続年数の計算
しの通知を受けた日以後 1 年以内にその申請
退職手当等に係る勤続年数の計算は、原則と
書を提出した場合にはその申請を却下するも
して、退職手当等の支払を受ける者がその退職
のとされています(旧所令74③)
。
手当等の支払者の下においてその退職手当等の
④ 特定退職金共済団体は上記③の承認を受け
支払の基因となった退職の日まで引き続き勤務
た退職金共済規程のうち、上記②イからヌま
した期間により計算することとされていますが、
でに掲げる要件に係る事項の変更をしようと
退職手当等とみなす一時金(以下「退職一時金
─ 133 ─
――所得税法等の改正――
64)ことから、控除しないこととされています
等」といいます。
)については、組合員等であ
った期間(退職一時金等の支払金額の計算の基
礎となった期間)によることとされています
(旧所令69)
。
(旧所令183②④))。
2 改正の趣旨及び背景
(注)
上記⑴②イの中退法第30条第 1 項の退職金
機構については、
「独立行政法人改革等に関す
相当額の受入れ(特定退職金共済制度から中
る基本的な方針」(平成25年12月24日閣議決定。
小企業退職金共済制度への退職金相当額の受
以下「基本方針」といいます。)において、未請
入れ)等がある場合には、その受入れがされ
求退職金発生防止及び短期離職者対策の強化に加
た退職金相当額に利息を付した額を退職時に
え、転職した際の退職金の通算措置期間の延長等
支給することとされており、受入れ前の組合
を通じた事務の効率化を進めることとされていま
員等であった期間は本人の退職時などに支給
した。
される退職一時金等の支払金額の計算の基礎
このため、特定退職金共済事業を廃止した団体
となった期間には含まれないため、その受入
から機構に対する退職金額の移換などの制度のポ
れがされた退職金相当額の計算の基礎となっ
ータビリティの向上や住民基本台帳ネットワーク
た期間を、退職一時金等の支払金額の計算の
システム等の活用を通じた未請求退職金の請求勧
基礎となった期間に含むこととされています
奨、建設業退職金共済制度における退職金の不支
給期間の短縮等を通じて、機構の事務の効率化に
(旧所令69①二)。
加え、中小企業退職金共済制度における共済契約
⑷ 退職金共済制度等に基づく一時金で退職手当
者及び被共済者の利便性の向上や将来に支給され
等とみなさないもの
る退職金の充実を図るための中退法等の改正事項
特定退職金共済団体が上記⑴⑤による承認の
を含む独立行政法人に係る改革を推進するための
取消しを受けた場合において、その取消しを受
厚生労働省関係法律の整備等に関する法律(平成
けた法人がその取消しを受けた時以後に行う給
27年法律第17号。以下「整備法」といいます。
)
付については、上記⑴①の退職所得の対象とな
が、第189回国会に提出され、平成27年 4 月24日
る一時金(以下「みなし退職手当等」といいま
に可決・成立し、同年 5 月 7 日に公布されました。
す。)から除くこととされ、一時所得に係る収
また、この整備法の施行に関連し、中小企業退
入金額とされています(旧所令76①④)
。
職金共済法施行令(以下「中退令」といいます。)
の改正を含む「独立行政法人に係る改革を推進す
⑸ 生命保険契約等に基づく一時金に係る一時所
るための厚生労働省関係法律の整備等に関する法
得の計算における加入者が負担した金額から除
律の施行に伴う関係政令の整備等及び経過措置に
かれる資産の範囲
関する政令(平成28年政令第78号。以下「整備政
退職金共済契約に基づいて支払われる一時金
令」といいます。
)が平成28年 3 月25日に、関連
で退職一時金等に該当しないものは、一時所得
の厚生労働省令等が同月31日に公布され、平成28
の収入金額とされています。この一時所得の金
年 4 月 1 日から施行されています。
額の計算に当たっては、一時金に係る上記⑵の
これらの改正のうち、所得税に関係する項目は
取消後掛金等を控除することとされています
下記のとおりです。
(通常の特定退職金共済団体に対する掛金につ
いては、事業主が負担した掛金は被共済者に対
⑴ 特定退職金共済事業を廃止した団体から機構
する給与課税が行われず、その全額が事業主の
への資産の引渡し制度の創設
必要経費算入(損金算入)とされている(所令
① 趣旨
─ 134 ─
――所得税法等の改正――
基本方針で求められた事務の効率化及び特
います。)を締結すること
定退職金共済団体が特定退職金共済事業を廃
なお、特定退職金共済団体が資産引渡契
止した場合であっても、加入事業主が一般の
約を締結しようとするときは、次の書類を
中小企業退職金共済制度(中退法においては、
機構へ提出しなければならないこととされ
主に常用労働者を対象とする中小企業退職金
ています(中退法31の 2 ①、中退則69の 3
共済制度(この制度を「一般の中小企業退職
②)
。
金共済制度」といいます。
)と、厚生労働大
イ イの廃止に関する意思の決定を証する
臣が指定した特定の業種(現在、建設業、清
酒製造業及び林業が指定されています。
)に
期間を定めて雇用される労働者(期間労働
者)を対象とする中小企業退職金共済制度
書類
ロ 特定退職金共済団体の承認を証する書
類
ハ 特定退職金共済規程の写し
(以下この制度を「特定業種退職金共済制
ハ 特定退職金共済団体は、資産引渡契約の
度」といいます。
)の 2 つの制度が存在しま
締結後、特定退職金共済事業の廃止に係る
す。)で引き続き退職金の積立てを継続する
届出書を税務署長へ提出したときは、遅滞
ことができるよう、上記 1 ⑴の特定退職金共
なく、その届出書の写しを機構へ提出する
済制度で積み立てた資産を機構へ引き渡すこ
こと(中退則69の 3 ③)
ニ 資産引渡契約においては、次の事項を定
とが認められました。
める必要があること
② 資産の引渡しを行うことのできる団体
資産の引渡しを行うことのできる団体は、
イ 特定退職金共済団体は、事業主が下記
特定退職金共済団体であった団体であって、
⑤ロの日に機構への資産の引渡しに関す
下記 3 ⑴②のとおり新たに創設された特定退
る申出(以下「資産引渡申出」といいま
職金共済事業の廃止に係る税務署長への届出
す。
)を行った場合は、当該事業主に係
に基づき、平成28年 4 月 1 日以後に、当該特
る下記⑥の金額の総額を一括して機構に
定退職金共済事業に係る税務署長の承認の効
引き渡すこと(中退則69の 3 ①)
力が失われた団体(以下「特退共廃止団体」
ロ 上記イの引渡しは、機構が振込先の預
といいます。
)とされています(中退法31の
金口座を指定した日から起算して60日以
2 ①、整備法附則 4 ①、中小企業退職金共済
内に行わなければならないこと(中退則
法施行規則(以下「中退則」といいます。
)
69の 3 ④)
④ 資産引渡申出を行うことのできる事業主
69の 2 )
。
資産引渡申出は、特定退職金共済事業を廃
③ 特定退職金共済団体の手続
資産の引渡しを行おうとする特定退職金共
止した日に従業員を一般の中小企業退職金共
済団体は、次に掲げる手続が必要となります。
済制度に加入申込し、機構と中小企業退職金
イ 特定退職金共済事業を廃止し、機構へ資
共済契約を締結した事業主(以下「新規加入
産の引渡しを行おうとする特定退職金共済
事業主」といいます。
)のほか、特定退職金
団体は、当該特定退職金共済事業の廃止に
共済事業を廃止した日(以下「特退共事業廃
関する意思の決定を行うこと(中退則69の
止日」といいます。)より前から機構と中小
3 ②)
企業退職金共済契約を締結していた事業主
ロ 特定退職金共済団体と機構との間で、特
(以下「従前加入事業主」といいます。)も行
定退職金共済団体から機構への資産の引渡
うことができます(中退法31の 2 ①⑥、中退
しに係る契約(以下「資産引渡契約」とい
令 9 ⑤)。
─ 135 ─
――所得税法等の改正――
ただし、一般の中小企業退職金共済制度に
共済契約申込書と併せて、資産引渡申出書
加入できる事業主は中退法第 2 条第 2 項の
をロの日に提出する必要があります(中退
「中小企業者」に限られるため、事業主がこ
則69の 3 ③、69の 4 ①、69の 6 ①)。
の「中小企業者」に該当しない場合は資産引
また、従前加入事業主は、機構に対し、
渡申出をすることはできないこととされてい
資産引渡申出書を上記ロの日に提出する必
ます。
要があります(中退則69の 4 ①)。
ニ 特退共廃止団体から機構へ資産が引き渡
⑤ 事業主の手続
資産の引渡しを希望する特定退職金共済団
されたときは、機構から事業主へその旨が
体は、次に掲げる手続が必要となります。
通知されること。また、事業主は、その旨
イ 新規加入事業主は、一般の中小企業退職
を当該引渡しに係る従業員に対し通知しな
金共済制度に加入するための退職金共済契
約の申込書(以下「退職金共済契約申込
ければなりません(中退法31の 2 ⑤)。
⑥ 機構へ引き渡す金額
書」といいます。
)を資産引渡申出と併せ
特退共廃止団体から機構へ引き渡す金額は、
て機構へ提出する必要があるため、専用の
次の金額の範囲内の金額となること(中退法
退職金共済契約申込書及び資産引渡しの申
31の 2 ①、中退令 9 ①)
出書(以下「資産引渡申出書」といいま
イ 事業主が納付した掛金の総額(特退共廃
す。)を、機構から受け取って、機構へ提
止団体に納付した掛金のほか、過去勤務等
出することとされています(中退法27①)
。
通算期間に対応する掛金の額として扱われ
なお、機構への資産移換に係る従業員に
る金額(上記 1 ⑴②トの過去勤務期間等に
ついては、過去勤務期間通算のための申出
対応する掛金の額として引き渡された金額
を行うことはできません。
等)を含みます。)
従前加入事業主は、退職金共済契約申込
ロ 上記イの掛金に相当する金額(従業員の
書と資産引渡申出書を同時に提出する必要
転職に伴い資産移換された金額(上記 1 ⑴
はないものの、退職金共済契約申込書の提
②チロの機構から引渡しを受けた金額及び
出時点で特退共廃止団体から機構への資産
上記 1 ⑴②チハの従前の特定退職金共済団
移換を希望している場合は、新規加入事業
体から引渡しを受けた金額)をいいます。)
主と同様に、専用の退職金共済契約申込書
及び資産引渡申出書を、機構から受け取っ
て、機構へ提出することとされています
ハ 上記イ及びロの運用利益
⑦ 退職金額の算定等
機構へ引き渡された資産に係る退職金額の
算定は、事業主が締結する退職金共済契約ご
(中退則69の 6 ①②)
。
ロ 資産の引渡しを希望する事業主は、機構
との新規加入事業主又は従前加入事業主の区
に対して、資産引渡契約の効力が生じた日
分に応じ、次のとおり行うこととされていま
から起算して 1 年を経過した日の属する月
す(中退法31の 2 ①~③⑥⑦、中退令 9 )。
の翌月の初日(その月が特退共事業廃止日
イ 新規加入事業主に係る退職金共済契約の
の属する月以後である場合は、当該特退共
退職金等の算定
事業廃止日の属する月の初日)に一定の事
イ 基本退職金及び付加退職金の算定
項を記載した資産引渡申出書に一定の書類
原則として特定退職金共済事業に加入
を添付して提出すること(中退法31の 2 ①、
していた月数を上限とした通算月数を掛
中退則69の 4 ①②)
金納付月数へ通算することとし、この場
ハ 新規加入事業主は、機構に対し、退職金
─ 136 ─
合における中小企業退職金共済契約は、
――所得税法等の改正――
当該中小企業退職金共済契約を締結した
(参考 1 ) 中小企業退職金共済法(昭和34年法律
日から当該通算月数分遡った月に効力が
生じたものとみなして、基本退職金及び
付加退職金を算定します。
第160号)
(抄)
(退職金共済事業を廃止した団体からの受
入金額の受入れ等)
ロ 残余額
第31条の 2 事業主(退職金共済事業を廃
引渡金額から上記イの金額を控除した
止した団体であつて厚生労働省令で定め
残余の額が生じた場合は、資産を機構が
るもの(以下この条において「廃止団体」
受け入れた日の属する月の翌月から当該
という。)との間で退職金共済に関する契
被共済者が退職した日の属する月までの
約(事業主が団体に掛金を納付すること
期間につき、一般の中小企業退職金共済
を約し、当該団体がその事業主の雇用す
制度の予定運用利回りに相当する利率
る従業員の退職について退職金を支給す
(現行:年1.0%)に付加退職金支給率に
ることを約する契約をいう。以下この条
相当する利率を加えた利率の複利による
において同じ。)を締結していたものに限
計算をして得た元利合計額を、退職金と
る。)が、その雇用する従業員を被共済者
して支給すること(中退法31の 2 ③、中
として退職金共済契約を締結した場合に
退令 9 ④)
おいて、当該廃止団体が、機構との間で、
ハ 解約手当金
当該退職金共済契約の被共済者となつた
解約手当金の金額は、中退法第16条の
者について当該退職金共済に関する契約
規定に基づき計算して得た額となります
に基づき当該廃止団体に納付された掛金
が、その際に例によることとなる退職金
の総額及び掛金に相当するものとして政
額は、上記イロの例により算定された額
令で定める金額並びにこれらの運用によ
とされました(中退法31の 2 ④)
。
る利益の額の範囲内の金額を機構に引き
ロ 従前加入事業主に係る退職金共済契約の
渡すことその他厚生労働省令で定める事
退職金等の算定
項を約する契約を締結しており、当該事
従前加入事業主における中小企業退職金
業主が厚生労働省令で定めるところによ
共済契約の退職金は、掛金納付月数への通
り申出をしたときは、機構は、当該廃止
算は行わず、基本退職金及び付加退職金の
団体との契約で定めるところによつて、
金額に加え、引渡金額について、資産を機
当該退職金共済契約の被共済者となつた
構が受け入れた日の属する月の翌月から当
者に係る当該金額を受け入れるものとす
該被共済者が退職した日の属する月までの
る。
期間につき、一般の中小企業退職金共済制
2 機構が、前項の受入れをした場合にお
度の予定運用利回りに相当する利率(現
いて、当該受け入れた金額(以下この条
行: 1 %)に、付加退職金に相当する利率
において「受入金額」という。
)のうち、
を加算した利率の複利により計算して得た
同項の退職金共済契約の効力が生じた日
元利合計額を加算した額を支給することと
における掛金月額その他の事情を勘案し
されました(中退法31の 2 ⑦、
中退令 9 ⑥)
。
て政令で定める額については、厚生労働
また、解約手当金の金額についても、上
省令で定めるところにより、政令で定め
記の例により算定された額とされています
る月数を当該退職金共済契約の被共済者
(中退法31の 2 ⑧)
。
に係る掛金納付月数に通算するものとす
─ 137 ─
――所得税法等の改正――
る。この場合において、その通算すべき
る契約に係る従業員を被共済者とする退
月数は、当該退職金共済契約の被共済者
職金共済契約を当該廃止団体が退職金共
となつた者が当該退職金共済に関する契
済事業を廃止する前から引き続き締結し
約の被共済者であつた期間の月数を超え
ている場合について準用する。この場合
ることができない。
において、第 1 項及び前項中「被共済者
3 受入金額から前項の政令で定める額を
となつた」とあるのは、
「被共済者であ
控除した残余の額を有する退職金共済契
る」と読み替えるものとするほか、必要
約の被共済者が退職したときにおける退
な技術的読替えは、政令で定める。
職金の額は、第10条第 1 項ただし書及び
7 前項の規定により読み替えて準用する
第 2 項の規定にかかわらず、次の各号に
第 1 項の規定による申出に従い受入金額
掲げる前項の規定による通算後の掛金納
を機構が受け入れた退職金共済契約の被
付月数の区分に応じ、当該各号に定める
共済者が退職したときにおける退職金の
額とする。
額は、第10条第 1 項ただし書及び第 2 項
一 十一月以下 当該受入れのあつた日
の規定にかかわらず、第 1 項の受入れが
の属する月の翌月から当該被共済者が
なかつたものとみなして同条第 1 項ただ
退職した日の属する月までの期間につ
し書及び第 2 項の規定により算定した退
き、当該残余の額に対し、政令で定め
職金の額に、当該受入れのあつた日の属
る利率に厚生労働大臣が定める利率を
する月の翌月から当該被共済者が退職し
加えた利率の複利による計算をして得
た日の属する月までの期間につき、当該
た元利合計額(当該受入れのあつた日
受入金額に対し、政令で定める利率に厚
の属する月に当該被共済者が退職した
生労働大臣が定める利率を加えた利率の
ときは、当該残余の額。次号において
複利による計算をして得た元利合計額(当
該受入れのあつた日の属する月に当該被
「計算後残余額」という。)
二 十二月以上 第10条第 2 項の規定に
より算定した額に計算後残余額を加算
共済者が退職したときは、当該受入金額)
を加算した額とする。
8 第 6 項の規定により読み替えて準用す
した額
4 前項の残余の額を有する退職金共済契
る第 1 項の規定による申出に従い受入金
約が解除されたときにおける解約手当金
額を機構が受け入れた退職金共済契約が
の額は、第16条第 3 項の規定にかかわらず、
解除されたときにおける解約手当金の額
前項の規定の例により計算して得た額と
は、第16条第 3 項の規定にかかわらず、
する。
前項の規定の例により計算して得た額と
5 第 1 項の規定による申出に従い受入金
額を機構が受け入れたときは、機構は、
する。
9 第29条第 1 項若しくは第 2 項又は第30
その旨を当該事業主に通知するものとし、
条第 2 項の規定の適用を受ける被共済者
当該事業主は、その旨を当該受入金額に
が、第 1 項(第 6 項の規定により読み替
係る被共済者となつた者に通知しなけれ
えて準用する場合を含む。)の規定による
ばならない。
申出に従い機構が受け入れた受入金額に
6 第 1 項及び前項の規定は、廃止団体と
係る退職金共済契約の被共済者である場
の間で退職金共済に関する契約を締結し
合における退職金の額は、第10条第 1 項
ていた事業主が、当該退職金共済に関す
ただし書及び第 2 項、第29条第 1 項及び
─ 138 ─
――所得税法等の改正――
第 2 項、第30条第 2 項並びに第 3 項及び
は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、
第 7 項の規定にかかわらず、第29条第 1
当該各号に定める額とする。
項若しくは第 2 項又は第30条第 2 項の規
一 法第29条第 1 項若しくは第 2 項又は
定により算定される退職金の額に政令で
第30条第 2 項の規定の適用を受ける被
定める額を加算した額とするほか、退職
共済者が、法第31条の 2 第 1 項の規定
金等の額の算定に関し必要な事項は、政
による申出に従い独立行政法人勤労者
令で定める。
退 職 金 共 済 機 構( 以 下「 機 構 」 と い
(参考 2 ) 中小企業退職金共済法施行令(昭和39
年政令第188号)(抄)
う。)が受け入れた受入金額に係る退職
金共済契約の被共済者である場合 同
(退職金共済事業を廃止した団体からの受
条第 3 項第 1 号に規定する計算後残余
額(次項第 1 号において「計算後残余
入金額の受入れ等)
第 9 条 法 第31条 の 2 第 1 項( 同 条 第 6 項
において読み替えて準用する場合を含む。
額」という。
)
二 法第29条第 1 項若しくは第 2 項又は
第 7 項各号列記以外の部分及び第 9 項に
第30条第 2 項の規定の適用を受ける被
おいて同じ。)の政令で定める金額は、廃
共済者が、法第31条の 2 第 6 項におい
止団体に法第31条第 1 項の規定により引
て読み替えて準用する同条第 1 項の規
き渡された金額及び所得税法施行令第73
定による申出に従い機構が受け入れた
条第 1 項第 8 号ハの規定により引き渡さ
受入金額に係る退職金共済契約の被共
れた金額とする。
済者である場合 同条第 7 項に規定す
2 法第31条の 2 第 2 項の政令で定める額
は、同項の政令で定める月数に対応する
別表第 5 の下欄に定める金額に基づき付
る元利合計額(次項第 2 号において「元
利合計額」という。
)
7 法第30条第 4 項又は第15条第 5 項、第
7 項若しくは第 9 項から第11項までの規
録第 1 の式により定まる金額とする。
3 法第31条の 2 第 2 項の政令で定める月
定の適用を受ける被共済者が、法第31条
数は、被共済者が退職金共済に関する契
の 2 第 1 項の規定による申出に従い機構
約の被共済者であつた期間の月数を上限
が受け入れた受入金額に係る退職金共済
とする各月数(以下この項及び付録第 1
契約の被共済者である場合における退職
において「各月数」という。)のうち、付
金の額は、法第10条第 1 項ただし書及び
録第 1 の式により各月数により定まる金
第 2 項、 第29条 第 1 項 及 び 第 2 項、 第30
額が受入金額を超えない範囲内において
条 第 2 項、 第31条 の 2 第 3 項 及 び 第 7 項
最大となるもの(法第18条及び第55条第
並びに第15条第 5 項、第 7 項及び第 9 項
4 項の規定によりその例によることとさ
から第11項までの規定にかかわらず、法
れる同条第 1 項の申出に係る被共済者そ
第29条第 1 項若しくは第 2 項(法第30条
の他厚生労働省令で定める者にあつては、
第 4 項の規定により読み替えて適用する
零月)とする。
場合を含む。
)
、第30条第 2 項又は第15条
4 法第31条の 2 第 3 項第 1 号の政令で定
第 5 項、第 7 項若しくは第 9 項から第11
項までの規定により算定される退職金の
める利率は、年 1 パーセントとする。
5 法第31条の 2 第 7 項の政令で定める利
額に、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、
当該各号に定める額を加算した額とする。
率は、年 1 パーセントとする。
6 法第31条の 2 第 9 項の政令で定める額
─ 139 ─
一 法 第30条 第 4 項 又 は 第15条 第 5 項、
――所得税法等の改正――
第 7 項若しくは第 9 項から第11項まで
をいう。次条において同じ。)であつた団
の規定の適用を受ける被共済者が、法
体とする。
第31条の 2 第 1 項の規定による申出に
従い機構が受け入れた受入金額に係る
退職金共済契約の被共済者である場合
(法第31条の 2 第 1 項の厚生労働省令で定
める事項等)
第69条の 3 法第31条の 2 第 1 項の厚生労
働省令で定める事項は、事業主が同項の
計算後残余額
二 法 第30条 第 4 項 又 は 第15条 第 5 項、
申出をした場合において、廃止団体が、
第 7 項若しくは第 9 項から第11項まで
退職金共済に関する契約に基づき当該廃
の規定の適用を受ける被共済者が、法
止団体に納付された掛金の総額及び掛金
第31条の 2 第 6 項において読み替えて
に相当するものとして政令で定める金額
準用する同条第 1 項の規定による申出
並びにこれらの運用による利益の額の範
に従い機構が受け入れた受入金額に係
囲内の金額(以下この条、次条及び第69
る退職金共済契約の被共済者である場
条の 5 において「引渡金額」という。
)の
合 元利合計額
総額を一括して、機構に引き渡すことと
8 法第31条の 2 第 9 項の規定の適用を受
する。
ける退職金共済契約が解除されたときに
2 特定退職金共済団体が、法第31条の 2
おける解約手当金の額は、法第16条第 3
第 1 項の引渡金額を引き渡すことその他
項の規定にかかわらず、法第31条の 2 第
厚生労働省令で定める事項を約する契約
9 項の退職金の額の算定に係る規定の例
(次項及び次条において「引渡契約」とい
う。)を締結しようとするときは、次の各
により計算して得た額とする。
9 前 3 項に規定する場合のほか、法第31
号に掲げる書類を機構に提出しなければ
条の 2 第 1 項の規定による申出に従い機
ならない。
構が受け入れた受入金額に係る退職金共
一 退職金共済事業の廃止に関する意思
済契約の被共済者に係る退職金等の額の
算定に関し必要な事項は、厚生労働省令
の決定を証する書類
二 所得税法施行令第74条第 3 項の承認
(当該特定退職金共済団体が平成28年 4
で定める。
(参考 3 ) 中小企業退職金共済法施行規則(昭和
34年労働省令第28号)(抄)
月 1 日前に同項の承認を受けた場合に
あつては、同令第73条第 1 項第 9 号に
(法第31条の 2 第 1 項の退職金共済事業を
廃止した団体であつて厚生労働省令で定
係る変更についての同令第74条第 5 項
の承認)を受けたことを証する書類
三 所得税法施行令第74条第 1 項に規定
めるもの)
第69条 の 2 法 第31条 の 2 第 1 項( 同 条 第
する退職金共済規程の写し
6 項の規定により読み替えて準用する場
3 引渡契約を締結した特定退職金共済団
合を含む。次条、第69条の 4 、第69条の
体が所得税法施行令第75条第 3 項の届出
5 (同条第 2 項を除く。)及び第69条の 8
書を税務署長に提出したときは、遅滞なく、
(同条第 1 項第 1 号を除く。
)において同
じ。)の退職金共済事業を廃止した団体で
その写しを機構に提出しなければならな
い。
あつて厚生労働省令で定めるものは、特
4 廃止団体は、第 1 項の引渡しについては、
定退職金共済団体(所得税法施行令第73
引渡金額の総額を機構が指定する預金口
条第 1 項に規定する特定退職金共済団体
座へ振り込むことにより行うものとし、
─ 140 ─
――所得税法等の改正――
当該引渡しは、機構が当該預金口座を指
共済に関する契約の被共済者であつた
定した日から起算して60日以内に行わな
期間の月数
十 その他申出に関し必要な事項
ければならない。
2 前項の引渡申出書には、次に掲げる書
(法第31条の 2 第 1 項の申出)
第69条の 4 法第31条の 2 第 1 項の申出は、
類(当該申出が法第31条の 2 第 6 項の規
引渡契約の効力が生じた日から起算して
定により読み替えて準用する同条第 1 項
1 年を経過した日の属する月の翌月の初
の申出である場合、前項第 2 号の従業員
日(その月が所得税法施行令第75条第 3
が短時間労働被共済者となる場合又は同
項の届出書に記載した年月日の属する月
項第 4 号の掛金月額が 5 千円以上となる
以後である場合にあつては、当該年月日
場合にあつては、第 3 号に掲げる書類を
の属する月の初日。第 5 号において「引
除く。
)を添付しなければならない。
渡申出日」という。
)に、次の各号(当該
一 廃止団体との間で退職金共済に関す
申出が法第31条の 2 第 6 項の規定により
る契約を締結していたことを証する書
読み替えて準用する同条第 1 項の申出で
類
ある場合にあつては、第 3 号から第 5 号
までを除き、第 2 号の従業員が法第 4 条
第 2 項の短時間労働被共済者(次項にお
い て 単 に「 短 時 間 労 働 被 共 済 者 」 と い
二 前項第 2 号の従業員が、引渡金額の
引渡しを希望することを証する書類
三 前項第 5 号の掛金の月額を証する書
類
う。)となる場合又は第 4 号の掛金月額が
四 前項第 7 号の合計額を証する書類
5 千円以上となる場合にあつては、第 5
五 前項第 9 号の年月日及び月数を証す
号を除く。)に掲げる事項を記載した引渡
申出書を機構に提出してしなければなら
る書類
(共済契約の申込みに関する特例等)
第69条の 5 法第31条の 2 第 1 項の規定に
ない。
一 事業主の氏名又は名称及び住所
より引渡金額を機構に引き渡すことを希
二 事業主の雇用する従業員(引渡金額
望する被共済者に係る共済契約の申込み
の引渡しを希望する者に限る。以下こ
は、第 4 条第 1 項の規定にかかわらず、
の条において同じ。)の氏名
同項の退職金共済契約申込書を機構に提
出して行うものとする。
三 共済契約の効力が生じる日
2 前項の申込みは、法第31条の 2 第 1 項
四 前号の日における掛金月額
五 引渡申出日の前日の属する月におけ
る退職金共済に関する契約に係る掛金
の申出と同時に行うものとする。
3 機構は、法第31条の 2 第 1 項の退職金
共済に関する契約を締結していた事業主
の月額
六 廃止団体の名称
又は当該退職金共済に関する契約を締結
七 廃止団体に納付された掛金の総額及
している事業主が、共済契約の申込みを
び掛金に相当するものとして政令で定
行うときは、当該事業主に対し、第45条
める金額並びにこれらの運用による利
の規定の適用その他の事項について説明
益の額の合計額
を行うものとする。
4 機構は、法第31条の 2 第 1 項の申出を
八 引渡金額及びその総額
九 従業員ごとの退職金共済に関する契
行う事業主に対しては、法第23条第 1 項
約が締結された年月日及び当該退職金
及び第45条の規定にかかわらず、法第23
─ 141 ─
――所得税法等の改正――
条第 1 項の規定による掛金負担軽減措置
(第45条の加入促進のための掛金負担軽減
措置に限る。次項において同じ。)を適用
は「、平成 4 年 4 月以後の計算月につい
て法第10条第 2 項第 3 号ロ」とする。
(令第 9 条第 3 項の厚生労働省令で定める
者)
しないものとする。
5 機構は、法第31条の 2 第 1 項の申出を
第69条の 7 令第 9 条第 3 項の厚生労働省
した者が掛金負担軽減措置を受けた共済
令で定める者は、公的年金制度の健全性
契約者である場合は、当該掛金負担軽減
及び信頼性の確保のための厚生年金保険
措置を取り消すことができる。
法等の一部を改正する法律(平成25年法
(受入金額を受け入れた場合の掛金納付月
律第63号。次条において「平成25年厚生
年金等改正法」という。
)附則第36条第 1
数の通算等)
第69条の 6 法第31条の 2 第 2 項の規定に
よる掛金納付月数の通算は、共済契約の
効力が生じた日の属する月から当該通算
項の申出に係る被共済者とする。
(他の通算を併用している被共済者に係る
退職金額等)
する月数分遡つた月において同日に応当
第69条の 8 確定給付企業年金法附則第28
する日(その日に応当する日がない月に
条第 3 項(同条第 4 項の規定によりその
おいては、その月の末日。以下この条に
例によることとされる場合を含む。以下
おいて「みなし加入日」という。)に共済
この項において同じ。
)又は平成25年厚生
契約の効力が生じ、かつ、当該みなし加
年金等改正法附則第36条第 3 項(同条第
入日の属する月から現に共済契約の効力
4 項の規定によりその例によることとさ
が生じた日の属する月の前月までの各月
れる場合を含む。以下この項において同
分の掛金が当該共済契約の効力が生じた
じ。)若しくは同条第 8 項(同条第 9 項の
日における当該共済契約の被共済者に係
規定によりその例によることとされる場
る掛金月額に相当する額の掛金月額によ
合を含む。以下この項において同じ。)の
り納付されたものとみなし、当該通算す
規定の適用を受ける被共済者が、法第31
る月数と当該共済契約に係る掛金納付月
条の 2 第 1 項の規定による申出に従い機
数を通算することにより行うものとする。
構が受け入れた受入金額に係る共済契約
2 前項の規定により掛金の納付があつた
の被共済者(次項において「特定被共済
ものとみなされた被共済者に対する法第
者」という。)である場合における退職金
10条 第 2 項 第 3 号 ロ( 法 第16条 第 3 項 に
等の額は、法第10条第 1 項ただし書及び
おいて準用する場合を含む。)の規定の適
第 2 項、 第31条 の 2 第 3 項 及 び 第 7 項、
用については、みなし加入日に共済契約
確定給付企業年金法附則第28条第 3 項並
の効力が生じたものとみなす。
びに平成25年厚生年金等改正法附則第36
3 みなし加入日が平成 3 年 4 月 1 日前の
条第 3 項及び第 8 項の規定にかかわらず、
日である被共済者に対する法第10条第 2
確定給付企業年金法附則第28条第 3 項又
項及び令付録第 1 備考の規定の適用につ
は平成25年厚生年金等改正法附則第36条
いては、前項の規定によるほか、法第10
第 3 項若しくは第 8 項の規定により算定
条第 2 項第 3 号ロ中「月数となる月」と
される退職金等の額に、次の各号に掲げ
あるのは「月数となる月(平成 4 年 4 月
る場合の区分に応じ、当該各号に定める
以後の月に限る。)」と、令付録第 1 備考
額を加算した額とする。
中「法第10条第 2 項第 3 号ロ」とあるの
一 平成25年厚生年金等改正法附則第36
─ 142 ─
――所得税法等の改正――
条第 3 項又は第 8 項の規定の適用を受
下「非中小解除」といいます。
)された場合
ける被共済者が、法第31条の 2 第 1 項
は、機構から企業年金制度等(DB(確定給
の規定による申出に従い機構が受け入
付企業年金制度をいいます。以下同じです。)
れた受入金額に係る共済契約の被共済
及び特定退職金共済事業をいいます。以下同
者である場合 同条第 3 項第 1 号に規
じです。)へ中退法第17条第 1 項の規定に基
定する計算後残余額
づき解約手当金に相当する額の範囲内で中退
二 確定給付企業年金法附則第28条第 3
則第35条で定める金額(以下「解約手当金相
項又は平成25年厚生年金等改正法附則
当額」といいます。)を引き渡すことが認め
第36条第 3 項若しくは第 8 項の規定の
られていましたが、企業年金制度の普及状況
適用を受ける被共済者が、法第31条の
等を踏まえ、基本方針で求められた事務の効
2 第 6 項の規定により読み替えて準用
率化が図られるよう、引渡しの対象となる制
する同条第 1 項の規定による申出に従
度を次のとおり拡充することとされました。
い機構が受け入れた受入金額に係る共
② 企業型DC(企業型確定拠出年金制度をい
済契約の被共済者である場合 同条第
います。以下同じです。)
7 項に規定する元利合計額
事業主は、非中小解除された場合に、企業
2 特定被共済者が、法第29条第 1 項若し
型DCへの解約手当金相当額の引渡しを申し
くは第 2 項、第30条第 2 項若しくは第 4
出ることができることとされました(中退法
項又は令第15条第 5 項、第 7 項若しくは
17①、中退令 3 、中退則37、確定拠出年金法
第 9 項から第11項までの規定の適用を受
ける場合における退職金等の額は、法第
(以下「DC法」といいます。)54①)。
イ 要件
10条第 1 項ただし書及び第 2 項、第29条
解約手当金相当額の引渡しを行うために
第 1 項及び第 2 項、第30条第 2 項並びに
は、次の要件を満たしている企業型DCを
第31条の 2 第 3 項及び第 7 項並びに令第
実施する必要があります(中退法17①、中
15条第 5 項、第 7 項及び第 9 項から第11
退則31)。
項までの規定並びに確定給付企業年金法
イ 非中小解除された退職金共済契約の被
附則第28条第 3 項並びに平成25年厚生年
共済者の全てをDC法第 2 条第 8 項の企
金等改正法附則第36条第 3 項及び第 8 項
業型年金加入者とするものであること
の規定にかかわらず、法第31条の 2 第 9 項、
ロ 機構から資産管理機関へ引き渡す解約
令第 9 条第 7 項及び前項の規定の例によ
手当金相当額の全額が、DC法第 2 条第
り計算して得た額とする。
12項の個人別管理資産へ充てられる資産
として一括して払い込まれるものである
⑵ 共済契約者が中小企業者でなくなった場合の
企業年金制度等への資産移換の拡充
こと
ロ 解約手当金相当額が引き渡された企業型
DCの通算加入者等期間に算入する期間
① 趣旨
一般の中小企業退職金共済制度によってそ
解約手当金相当額が引き渡された企業型
の企業内で確立された退職金制度を実質的に
DCの通算加入者等期間に算入する期間は、
存続させ、退職金の保全及び水準の維持・向
原則として移換前の一般の中小企業退職金
上を図るため、共済契約者が中小企業者でな
共済制度における掛金納付月数に相当する
くなったことを理由として中退法第 8 条第 2
期間とされますが、特定退職金共済から個
項第 2 号に基づき退職金共済契約が解除(以
人単位で移換した資産や特定退職金共済と
─ 143 ─
――所得税法等の改正――
一般の中小退職金共済制度に重複加入して
イ 移動後の制度へ繰り入れる金額
いた場合に事業主単位で移換された資産等
当該被共済者に係る退職金相当額の全額
がある場合におけるこれらの資産の算定基
を移動先の制度に繰り入れることとし、差
礎となった期間(これらの資産に係るそれ
額給付金の支給は行いません(中退法46①、
ぞれの制度に加入していた期間)のうち、
55①、中退則95、110、113)。
一般の中小企業退職金共済制度と重複して
ロ 移動元制度で納付した掛金
加入していた期間を除いた期間を掛金納付
制度間通算を行った被共済者の特定業種
月数に加算することとされています(確定
退職金共済契約においては、移動元の制度
拠出年金法施行規則30)
。
で納付された掛金は、移動後の制度で納付
されたものとみなされることとされました
③ 既に実施している企業年金制度等
非中小解除前から実施しているDB又は特
定退職金共済に対しても、解約手当金相当額
(中退法46②前段、55②前段)。
ハ 退職金額
の引渡しの申出を行うことができることとさ
制度間通算を行った被共済者の退職金額
れました(中退法17①)
。この場合のDBにお
の算定は、次のとおり行うこととされまし
ける給付の基礎となる加入者期間に算入でき
た。
る期間は、DBの実施前の期間のうち、一般
イ 特定業種掛金納付月数への通算
の中小企業退職金共済制度に加入していた期
ロの掛金が納付されたものとみなされ
間となり(確定給付企業年金法28③)
、特定
た被共済者の特定業種退職金共済契約に
退職金共済における過去勤務期間についても
ついては、移動元の制度の掛金納付月数
同様となります(所令73①七)
。
又は特定業種掛金納付月数の期間を上限
とした通算月数を特定業種掛金納付月数
⑶ 制度間通算における全額移換の実施等
へ通算されます。
なお、上記の通算月数の算定に当たっ
① 趣旨
基本方針で求められた事務の効率化及び通
ては、移動後の制度において財政負担が
算制度を利用する被共済者の利便性の向上及
生じることのないように、当該月数に係
び将来に支給される退職金の充実を図るため、
る責任準備金に相当する金額に基づき行
被共済者が特定業種退職金共済制度の間又は
われることとされています(中退令12②、
一般の中小企業退職金共済制度と特定業種退
14②)。
職金共済制度の間を移動し、移動前の制度に
ロ 残余額
おける退職金相当額(中退法第46条第 1 項又
退職金相当額から上記イの責任準備金
は第55条第 1 項(同条第 4 項の規定によりそ
に相当する金額を控除した残余の額(以
の例によることとされる同条第 1 項を含みま
下ロにおいて「残余額」といいます。
)
す。)の退職金相当額をいいます。以下単に
が生じた場合は、残余額について、当該
「退職金相当額」といいます。
)を移動後の制
被共済者の移動後の特定業種掛金納付月
度に通算(以下「制度間通算」といいます。
)
数(上記イで通算される月数は除きま
する場合、当該退職金相当額の全額を移動後
す。
)につき、移動後の特定業種の区分
の制度に移換できることとされました。
に応じ、予定運用利回りに相当する利率
② 特定業種退職金共済制度から他の特定業種
の複利による計算をして得た元利合計額
退職金共済制度又は一般の中小企業退職金共
を、退職金として支給することとされて
済制度から特定業種退職金共済制度への移動
います(中退法46②後段、55②後段、中
─ 144 ─
――所得税法等の改正――
退令12③、14③、別表第 9 から別表第11
した残余の額(以下ロにおいて「残余
まで)
。
額」といいます。
)が生じた場合は、残
余額について、退職金相当額の繰入れの
③ 特定業種退職金共済制度から一般の中小企
業退職金共済制度への移動
あった日の属する月の翌月から当該被共
イ 移動後の制度へ繰り入れる金額
済者が退職した日の属する月までの期間
当該被共済者に係る退職金相当額の全額
につき、予定運用利回りに相当する利率
を移動後の制度に繰り入れることとし、差
(現行:年1.0%)に付加退職金の支給率
額給付金の支給は行いません(中退法55④
に相当する利率を加えた利率の複利によ
によりその例によることとされる55①)
。
る計算をして得た元利合計額を、退職金
として支給することとされています(中
ロ 移動元制度で納付した掛金
退法55②後段、中退令15⑤)。
制度間通算を行った被共済者の中小企業
退職金共済契約においては、移動元の制度
で納付された掛金は、移動後の制度で納付
⑷ 企業間通算の申出期間の延長
されたものとみなされることとされました
基本方針で求められた事務の効率化及び被共
(中退法55④によりその例によることとさ
済者の利便性の向上及び将来に支給される退職
金の充実を図るため、被共済者が次の通算制度
れる55②前段、中退令15③)
。
を利用する場合における申出の期間が、改正前
ハ 退職金額等
制度間通算を行った被共済者の退職金額
の退職後 2 年から退職後 3 年に延長されました。
の算定は、次のとおり行うこととされまし
① 一般の中小企業退職金共済制度間の通算
(中退法18)
た。
② 特定退職金共済制度と一般の中小企業退職
イ 基本退職金及び付加退職金の算定
金共済制度の間の通算(中退則62、66)
上記ロの掛金が納付されたものとみな
③ 制度間通算(中退法46①、55①)
された被共済者の中小企業退職金共済契
約については、移動元の制度の特定業種
掛金納付月数の期間を上限とした通算月
3 改正の内容
数を掛金納付月数へ通算し、当該通算月
上記 2 の中退法の改正等に伴い、共済契約者及
数分遡った月に退職金共済契約の効力が
び被共済者の利便性の向上や将来に支給される退
生じたものとみなして、基本退職金及び
職金の充実を図るため所得税法施行令及び所得税
付加退職金を算定することとされました。 法施行規則において次の整備が行われました。
なお、通算月数の算定は、一般の中小
企業退職金共済において財政負担が生じ
⑴ 特定退職金共済制度の整備
ることのないように、当該月数に係る責
任準備金に相当する金額に、当該通算す
① 特定退職金共済事業の要件の改正
イ 特定退職金共済事業廃止時の機構への資
る月数の期間に係る付加退職金に相当す
産引渡し要件の追加
る金額を加えた額に基づき行います(中
上記 2 ⑴のとおり特定退職金共済事業を
退法55④によりその例によることとされ
廃止した団体から機構への資産の引渡し制
る55②後段、中退令15①③④、別表第 5
度が中退法上設けられたことに伴い、上記
及び付録第 2 )
。
1 ⑴②の特定退職金共済事業の要件に、退
ロ 残余額
職金共済事業を廃止した場合において、中
退職金相当額から上記イの金額を控除
─ 145 ─
退法第31条の 2 第 1 項(同条第 6 項におい
――所得税法等の改正――
て準用する場合を含みます。
)に規定する
い、上記 1 ⑴②ト(注)の合併等に次の合
事業主(具体的には、上記 2 ⑴④の事業主
併及び事業の譲渡が追加されました(所規
となります。
)が、同条第 1 項の規定によ
18の 4 ③四・五ハ・六・七)。
る申出(上記 2 ⑴③ニイの申出となりま
イ 再編強化法による農林中央金庫と特定
す。
)をしたときは、同項に規定する廃止
承継会社との合併
団体と独立行政法人勤労者退職金共済機構
ロ 再編強化法の事業譲渡のうち特定農業
との間の同項の引渡しに係る契約(上記 2
組合が特定承継会社に対して行う貯金事
⑴③ロの資産引渡契約をいいます。
)で定
業の全部の譲渡
めるところによって当該事業主に係る被共
ハ 再編強化法による信用農業協同組合連
済者であった者に係る引渡金額(同項に規
合会が特定承継会社に対して行う信用事
定する掛金の総額及び掛金に相当するもの
業の全部又は一部の譲渡
として同項に規定する政令で定める金額並
ニ 再編強化法による特定承継会社が農林
びにこれらの運用による利益の額の範囲内
中央金庫に対して行う事業の全部又は一
の金額。具体的には上記 2 ⑴⑥イからハま
部の譲渡
での金額をいいます。
)を機構に引き渡す
なお、再編強化法の改正にあわせて、
ことが追加されました(所令73①九)
。
上記 1 ⑴②ト(注)ニⅱが「信用事業の
ロ 被共済者退職時の特定退職金共済事業加
全部の譲渡」から「貯金事業の全部の譲
入事業所間の通算制度の申出期間の延長
渡」に緩和されています(所規18の 4 ③
上記 2 ⑷のとおり、中小企業退職金共済
五ロ)。
制度間の通算制度の申出期間が退職後 2 年
② 特定退職金共済事業の廃止届出制度の創設
から 3 年に延長されたことを踏まえ、上記
従来は、特定退職金共済事業を廃止した場
1 ⑴②チハ及びホの退職後 2 年としていた
合には、事後的に上記 1 ⑴⑤により税務署長
期間を退職後 3 年に延長しました(所規18
により特定退職金共済団体に係る承認を取り
の 4 ⑫)
。
消されることとされていましたが、今般の特
ハ 合併等前勤務期間に係る過去勤務期間の
定退職金共済事業を廃止した団体から機構へ
通算の特例の対象となる合併等の範囲の拡
の資産の引渡し制度の創設にあわせ、同制度
充
の手続きを明確化する観点から、特定退職金
農業協同組合法等の一部を改正する等の
共済団体は、その行う退職金共済事業を廃止
法律(平成27年法律第63号。この改正の詳
しようとするときは、その旨、その特定退職
細については、後掲の「租税特別措置法等
金共済団体の名称及び所在地並びに当該退職
(所得税関係の事業所得等の課税の特例そ
金共済事業を廃止しようとする年月日を記載
の他)の改正」の「二十三 農業協同組合
した届出書を当該廃止しようとする日までに
法等の改正に伴う所要の改正(農業生産法
所轄税務署長に提出しなければならないこと
人に現物出資した場合の納期限の特例等に
とし、この場合において、当該届出書の提出
関する経過措置等の改正)
」の 2 ⑴④を参
があったときは、同日(廃止しようとする年
照してください。
)第 5 条による再編強化
月日として記載された日であり、この日が上
法の改正により、同法に設けられた特定承
記 2 ⑴④の特退共事業廃止日となります。以
継会社(以下「特定承継会社」といいま
下同じです。
)において、その特定退職金共
す。)経由での農業協同組合の信用事業の
済団体に係る承認は、その効力を失うものと
農林中央金庫への譲渡スキームの創設に伴
する「特定退職金共済事業の廃止届出制度」
─ 146 ─
――所得税法等の改正――
が創設されました(所令75③)
。これに伴い、
ら機構に交付された引渡金額(中退法第31条の
上記 1 ⑴③ただし書における法人が承認の取
2 第 6 項において準用する同条第 1 項の受入れ
消しの通知を受けた場合と同様、この特定退
に係る金額をいいます。以下「引渡金額」とい
職金共済事業の廃止届出を行った法人が特退
います。)に利息を付した額を退職時に支給す
共事業廃止日から 1 年以内に再度特定退職金
ることとなるため、その引渡金額の額の計算の
共済団体の承認申請書を提出した場合にはそ
基礎となった期間を退職一時金等の支払金額の
の申請を却下するものとされています(所令
計算の基礎となった期間に含むこととされまし
74③)
。
た(所令69①二イ)。この結果、引渡し後の一
なお、中小企業退職金共済制度上も、上記
般の中小企業退職金共済制度の掛金納付月数に
2 ⑴②のとおり、特定退職金共済事業の廃止
特定退職金共済の被共済者であった期間を加算
に際しては、この廃止届出書の提出によるこ
した月数(重複して加入していた期間を除きま
ととされているほか、届出書の写しを資産引
す。)がその者の勤続年数の計算の対象となり
渡契約締結後に機構に提出することとされて
ます。
います。
なお、上記 2 ⑴による資産引渡申出を行った
事業主が新規加入事業主である場合や、上記 2
⑵による資産移換があった場合、上記 2 ⑶によ
⑵ 不適格退職金共済契約等に基づく掛金の取扱
いの改正
る制度間通算があった場合については、移換等
上記⑴②の廃止届出書を提出したことにより、
後の制度における退職一時金等の計算の基礎と
特定退職金共済団体に係る承認が失効をした団
なった期間が勤続年数の計算の対象となります。
体に対しその失効に係る退職金共済契約に基づ
き、その失効後に支出した掛金(以下「失効後
⑷ 退職金共済制度等に基づく一時金で退職手当
掛金」といいます。
)についても、取消後掛金
等とみなさないものの改正
と同様、その個人のその事業に係る不動産所得
特定退職金共済団体が上記⑴②の廃止届出書
の金額、事業所得の金額若しくは山林所得の金
を提出した場合において、その届出書の提出を
額又はその法人の各事業年度の所得の金額の計
した法人が特退共事業廃止日以後に行う給付に
算上必要経費又は損金の額に算入されるものに
ついては、みなし退職手当等から除くこととさ
ついては、その退職金共済契約に係る被共済者
れ、一時所得に係る収入金額とされました(所
に対する給与所得に係る収入金額に含まれるこ
令76①一)。
ととされました(所令65一)
。
⑸ 生命保険契約等に基づく一時金に係る一時所
⑶ 退職手当等とみなす一時金の退職所得控除額
得の計算における加入者が負担した金額から除
に係る勤続年数の計算の改正
かれる資産の範囲の改正
上記 2 ⑴⑦ロのとおり、新たに創設された特
退職金共済契約に基づいて支払われる一時金
定退職金共済事業を廃止した団体から機構への
でみなし退職手当等に該当しないものに係る一
資産の引渡し制度による資産引渡申出を行った
時所得の金額の計算に当たって、一時金に係る
事業主が従前加入事業主である場合には、上記
上記 1 ⑵の取消後掛金と同様に上記⑵の失効後
1 ⑶(注)の中退法第30条第 1 項に該当する場
掛金についても、これを控除することとされま
合と同様に、特定退職金共済の被共済者であっ
した(所令183④)。
た期間が退職一時金等の支払金額の計算の基礎
となった期間には含まれず、特退共廃止団体か
─ 147 ─
――所得税法等の改正――
に適用し、同日前に承認(変更承認を含みま
4 適用関係
す。)を受けた場合については従前どおりとさ
⑴ 上記 3 ⑴①イの改正は、平成28年 4 月 1 日以
れています(改正所規附則 5 )。
後に特定退職金共済団体の要件に係る税務署長
⑶ 上記 3 ⑴②の改正は、平成28年 4 月 1 日以後
の承認(変更承認を含みます。
)を受ける場合
に特定退職金共済事業を廃止する場合について
に適用されます(改正所令附則 4 ①)
。
適用されます(改正所令附則 4 ②)。
⑵ 上記 3 ⑴①ロの改正は、平成28年 4 月 1 日以
(注) 上記以外の改正は、平成28年 4 月 1 日に施行
後に特定退職金共済団体の要件に係る税務署長
されています。
の承認(変更承認を含みます。
)を受ける場合
十四 給与所得控除の上限額の引下げに伴う告示の改正
⑵ 復興財確法の「源泉徴収税額表」と「事務機
1 改正前の制度の概要
械を利用する場合の源泉徴収税額の特例」
⑴ 所得税法の「源泉徴収税額表」と「事務機械
① 復興財確法の源泉徴収税額表
を利用する場合の源泉徴収税額の特例」
個人の平成25年から平成49年までの各年分
給料や賞与(給与等)につき源泉徴収すべき
については、復興特別所得税が課されること
所得税の額は、その月又はその日の社会保険料
とされていますが、給与等について徴収すべ
等控除後の給料等の金額や扶養親族等の数に応
き所得税の額及び復興特別所得税の額は、本
じて、所得税法の別表に定める「源泉徴収税額
法税額表(所法別表第 2 ~ 4 )に掲げる所得
表(以下「本法税額表」といいます。
)
」に掲げ
税の額及びその所得税の額に2.1%を乗じた
る税額によることとされています(所法185~
復興特別所得税の額の合計額によらず、本法
188、別表第 2 ~ 4 )
。
税額表の所得税の額及び復興財確法に定める
ただし、その月の給与等につき所得税の源泉
復興特別所得税の計算を勘案して財務大臣が
徴収を行う場合にその給与等の支払額に関する
定める表(源泉徴収税額表)を適用して求め
税額の計算を事務機械によって処理していると
ることができることとされています(復興財
きは、最も利用度の高い月額表(所法別表第
確法29①一)。
2 )の甲欄に掲げる税額に限り、
「事務機械を
この復興特別所得税を併せた源泉徴収税額
利用する場合の源泉徴収税額の特例」が認めら
表は、「東日本大震災からの復興のための施
れています(所法189)
。この税額計算の基礎と
策を実施するために必要な財源の確保に関す
なる給与所得控除の額、配偶者控除の額、扶養
る特別措置法第29条第 1 項第 1 号の規定に基
控除の額、基礎控除の額及び税率は、
「所得税
づき、同号に規定する所得税法別表第 2 から
法第189条第 1 項の規定に基づき、同項に規定
別表第 4 までに定める金額及び復興特別所得
する所得税法別表第 2 の甲欄に掲げる税額が算
税の額の計算を勘案して財務大臣が定める表
定された方法に準ずるものとして財務大臣が定
を定める件」により定められています(平成
める方法を定める件」の別表第一(給与所得控
24年 3 月財務省告示第115号)。
除の額の表)、別表第二(配偶者控除の額、扶
② 復興財確法の事務機械を利用する場合の源
養控除の額及び基礎控除の額の表)及び別表第
泉徴収税額の特例
三(税率の表)によることとされています(昭
その月の給与等につき所得税の源泉徴収を
和63年12月大蔵省告示第185号)
。
行う場合にその給与等の支払額に関する計算
─ 148 ─
――所得税法等の改正――
を事務機械によって処理しているときは、上
限額の引下げの平成29年 1 月 1 日施行分(給与等
記⑴のとおり、
「事務機械を利用する場合の
の収入金額1,000万円で給与所得控除額を220万円
源泉徴収税額の特例」が設けられています。
に引下げ)の施行にあわせて、上記 1 ⑴の所得税
この特例が認められている月額表の甲欄に
法の「事務機械を利用する場合の源泉徴収税額の
掲げる税額については、復興特別所得税を併
特例」の別表第一(給与所得控除の額の表)
、上
せて徴収して納付する場合についても、
「事
記 1 ⑵①の復興特別所得税を併せた「源泉徴収税
務機械を利用する場合の源泉徴収の税額の特
額表」の別表第一(月額表((一)及び(二)を
例」が適用できることとされ(復興財確法29
除きます。))、別表第二(日額表((一)を除きま
①二)
、
「東日本大震災からの復興のための施
す。))及び別表第三(賞与に対する源泉徴収税額
策を実施するために必要な財源の確保に関す
の算出率の表)並びに上記 1 ⑵②の復興財確法の
る特別措置法第29条第 1 項第 2 号の規定に基
「事務機械を利用する場合の源泉徴収税額の特
づき、同号に規定する所得税法第189条第 1
例」の別表第一(給与所得控除の額の表)の改正
項に規定する財務大臣が定める方法及び復興
が行われました。
特別所得税の額の計算を勘案して財務大臣が
定める方法を定める件」の別表第一(給与所
3 適用関係
得控除の額の表)
、別表第二(配偶者控除の
上記 2 の改正は、平成29年 1 月 1 日以後に支払
額、扶養控除の額及び基礎控除の額の表)及
うべき給与等について適用し、同月前に支払うべ
び別表第三(税率の表)によることとされて
き給与等については従前どおりとされています
います(平成24年 3 月財務省告示第116号)
。
(平成28年 3 月財務省告示第90号前文、第105号前
文、第106号前文)。
2 改正の内容
平成26年度税制改正における給与所得控除の上
十五 支払通知書等の記載事項の改正
(注) この源泉徴収票には、控除対象配偶者及
1 改正前の制度の概要
び控除対象扶養親族の個人番号についても
次に掲げる支払通知書、源泉徴収票又は報告書
で、配当等、給与等、退職手当等、公的年金等若
しくは償還金の支払を受ける者又は口座開設者
(以下「受領者等」といいます。
)に交付すべきも
のについては、その支払通知書等にその受領者等
の個人番号を記載しなければならないこととされ
ていました。
記載しなければならないこととされていま
した(所規93①七)
。
④ 退職所得の源泉徴収票(所規94①、別表第
六(二))
⑤ 公的年金等の源泉徴収票(所規94の 2 ①、
別表第六(三))
(注) この源泉徴収票には、控除対象配偶者及
① オープン型証券投資信託収益の分配の支払
通知書(所規83①、92①)
び控除対象扶養親族の個人番号についても
記載しなければならないこととされていま
② 配当等とみなす金額に関する支払通知書
(所規83①、92①)
した(所規94の 2 ①七)
。
⑥ 上場株式配当等の支払通知書(措規 4 の 4
③ 給与所得の源泉徴収票(所規93①、別表第
六(一)
)
①)
⑦ 特定口座年間取引報告書(措規18の13の 5
─ 149 ─
――所得税法等の改正――
その受領者等並びにその受領者等の控除対象配偶
②、別表第七(一)
)
⑧ 未成年者口座年間取引報告書(措規18の15
者及び控除対象扶養親族の個人番号の記載を要し
ないこととされました(所規92①、93①、94の 2
の11②、別表第七(三)
)
⑨ 特定割引債の償還金の支払通知書(措規19
①、措規 4 の 4 ①、18の13の 5 ②、18の15の11②、
19の 6 ①)。なお、税務署に提出する支払調書、
の 6 ①)
源泉徴収票及び報告書はこの改正の対象外であり、
2 改正の内容
個人番号を記載することが必要となります。
受領者等に対して交付すべき上記 1 ①から⑨ま
(注) 受領者等本人に対して交付する義務のある
での支払通知書、源泉徴収票又は報告書(支払通
支払通知書等に、その受領者等の個人番号が
知書等)は確定申告書の添付書類として使用され
記載されたとしても、必ずしも行政手続にお
ることから、これに個人番号を記載することによ
ける特定の個人を識別するための番号の利用
って適正申告の一助になるものとして考えられて
等に関する法律に反することにはならないと
いましたが、他方、受領者等本人に対して交付す
考えられます。
る支払通知書等に個人番号を記載することで、そ
の交付の際に個人情報の漏えい又は滅失等の防止
3 適用関係
のための措置を講ずる必要が生じ従来よりもコス
上記 2 の改正は、支払の確定した日が平成28年
トを要することになることや、郵便事故等による
1 月 1 日以後である収益の分配としてみなされる
情報流出のリスクが高まるといった声があったこ
ものを含む配当等、同日以後に支払うべき給与等、
とに配慮し、平成27年10月 2 日に公布された租税
退職手当等、公的年金等若しくは償還金又は平成
特別措置法施行規則等の一部を改正する省令(平
28年分以後の各年において開設されていた特定口
成27年財務省令第78号。以下「平成27年10月改正
座若しくは未成年者口座に係る報告書について適
省令」といいます。
)により、受領者等本人に対
用されます(平成27年10月改正省令附則 2 ~ 9 )。
して交付すべきこれらの支払通知書等については、
─ 150 ─