論 文 審 査 の 要 旨

別紙1
論 文 審 査 の 要 旨
報告番号
甲 第 2797 号
論文審査担当者
氏 名
主査
教授
槇
副査
教授
井上
富雄
副査
教授
中村
雅典
藤井
香菜子
宏太郎
( 論 文 審査 の 要旨 )
学 位 申請 論 文「 Relevance of Occlusal Force and Skeletal Muscle Mass in Nursery Children 」
に つ い て , 上 記主 査 1 名, 副 査 2 名 が 個別 に 審 査を 行 っ た .
[目
的] 幼児の咬合力は年齢とともに増加し, 握力や重心動揺等の全身的な発育との関連が多く
報 告 さ れて い るが , 骨 格筋 量 と の関 連 の報 告 は 少な い . 成人 で は CT や DEXA 法 等で X 線を 用 い て,
骨格筋量を測定しているが,幼児での安全かつ簡便な測定法はまだ確立されていない . 本研究で
は 成 人 で広 く 使用 さ れ てい る 多 周波 バ イオ イ ン ピー ダ ン ス法 ( 以下 多 周波 BIA 法 ) を 用い て幼児
の骨格筋量を測定し, その有用性を検討するとともに , 幼児の咬合力と全身の骨格筋量との関連
を 明 ら かに す るこ と を 目的 と し た .
[対 象 と 方法 ] 対象 は 3 歳 か ら 6 歳 の 健康 幼 児 79 名 (平 均年 齢
5.0±1.1 歳 )と した . いず れ も 個
性 正 常 咬合 で あり ,咬合に 関 与 する 永 久歯 の 萌 出は 認 め られ な かっ た . 調査 項 目 は , 性 別 , 年 齢,
身 長 , 体重 , 咬合 力 , 握力 , 咬 筋(筋 厚 , 脂 肪 厚), 下 腿 後面( 筋 厚 , 脂肪 厚 ), 下腿 周 囲長 , 骨
格 筋 量 , 体 脂 肪量 と し た . 多 周 波 BIA 法の 有 用 性は , 本 法に よ り算 出 さ れた 体 脂 肪量 値 と ,
Komiya(2009)が提 唱 した BMI から 導 き出 す 体 脂肪 量 値 を比 較 し検 討 し た.
[結
果 ] 対 象 児は 日 本人 幼 児 の平 均 体重 及 び 身長 と 比 べ , 有 意な 差 は 認め な か った . 多周 波 BIA
法 を 用 いた 幼 児の 体 脂 肪量 は , Komiya の計 算 式で の 算 出値 と 有意 に 相 関し て い た . 咬 合力 は , 年
齢 , 握 力,身 長と 有 意に相 関 し てい た が , 咬 筋 厚や 骨 格 筋量 と は相 関 は なか っ た .また , 咬筋 厚 は
増 齢 で の変 化 は認 め な かっ た . 骨格 筋 量は 年 齢 , 握 力 , 下腿 後 面筋 厚 と 有意 に 相 関し て いた .
[考
察 ] 多 周 波 BIA 法を 用 い た幼 児 の測 定 方 法は 先 行 論文 等 と比 較 し て, 有 用 であ る こと が 示 唆
さ れ た . 今 回 の研 究 よ り, 幼 児 期に お いて 咀 嚼 筋と 四 肢 筋 で は 骨格 筋 量 との 関 連 に差 が ある こ と
が 示 唆 され た . 咬 筋 と 四肢 筋 で は発 生 由来 や 神 経支 配 が 異な る こと や , 異な る 環 境 因 子 が骨 格 筋
量 の 変 化に 差 をも た ら して い る と考 え られ た . また , 咬 筋厚 は 増齢 で 変 化が み ら れな か った が ,
咬 合 力 が増 加 した 要 因 とし て , 咬筋 の 組成 の 変 化が 示 唆 され た . ま た , 先行 論 文 から , 咀嚼 筋 の
抗 重 力 制御 の 役割 も 咬 合力 が 増 加す る 要因 と し て 関 連 し てい る 可能 性 も 示唆 さ れ た . 本 研究 は 横
断 研 究 であ る ため , 今 後咬 合 力 の発 達 過程 を 明 らか に す るた め には , 縦 断研 究 が 必要 で ある と 考
えられた.
本論文の審査において, 副査の井上委員および中村委員から多くの質問があり , その一部とそれ
ら に 対 する 回 答を 以 下 に示 す .
( 主 査 が記 載 )
井上委員の質問とそれらに対する回答:
1 . 乳 歯の 歯 根の 形 成 や吸 収 等 の状 態 が咬 合 力 に影 響 し た可 能 性は 無 い か .
本 研 究で は , 歯 の歯 根の 形 成 や吸 収 が開 始 す る前 の 3 歳 4 歳 児 に お い ても , 咬 合 力 と筋 厚 や骨 格
筋量等との他の項目との関連は見られなかった . そのため, 歯根の形成や吸収等が咬合力に影響
し た 可 能性 は 低い と 考 えら れ る .
2 . 骨格筋量は, 下腿後面筋厚と相関があるのに咬筋厚との相関が無いのはなぜか .
下腿後面筋と咬筋では, それぞれ異なる環境が骨格筋量の変化に差をもたらしていると考
えられる. 下腿後面筋は歩行など全身の動きに影響され, 必要とされる力が多い. そのため,
筋繊維数や筋繊維径が増え, 下腿後面筋厚の増加となり, 全身の骨格筋量と相関が得られた
と考えられる. 一方, 咬 筋は硬いものを食べる ほどに筋力を必要とさ れるが , 幼児で は筋繊 維
数の増加ほど必要とされず, 骨格筋量との関連性はなかったと考えられる.
中村委員の質問とそれらに対する回答:
1 . 性 差は な かっ た の か.
本研究において, 全ての項目で性差はなかった. 先行論文からも性差がみられているものは少
な く , 性 差 は思 春 期以 降の ホ ル モン の 影 響 を 受 ける 時 期 以降 に 生じ る と 考え ら れ る .
2 . 筋 の発 生 由来 の 相 違が 骨 格 筋量 と の関 連 に 影響 し た 可能 性 はな い の か .
咬筋も下腿三頭筋も同じ骨格筋ではあるが, 咬筋は第一鰓弓内から脳神経である三叉神経の支
配 を 受 けて 発 生 ・分 化 する . 一 方 , 下 腿 三頭 筋 は , 沿 軸 中 胚葉 か ら脊 髄 神経 で あ る脛 骨 神 経の 支 配
を 受 け て発 生・分 化 する . 四 肢 筋 は , 身 長 の増 加に 伴 い 骨格 筋 量が 増 加 する こ と が知 ら れて い る が ,
咬 筋 に おい て は明 ら か にな っ て おら ず , 発 生の 相違 が 骨 格筋 量 に影 響 し た可 能 性 も考 え られ る .
両 副 査は , 上 記 を含 めた 質 問 に対 す る回 答 が , い ず れ も満 足 のい く も ので あ る こと を 確認 し た .
主査 槇委員の質問とそれらに対する回答:
1 . 多 周波 BIA 法 を 用い る 方 法の 特 徴は 何 か .
多周 波 BIA 法は , DEXA 法 や CT 法 と 比 べ 被ば く が なく 安 全 で あ る . ま た , MRI 法 や CT 法 等,
DEXA 法 と 比 べ 簡 便で 場 所 を 問わ ず 検査 可 能 で あ る . ま た , 単周 波 BIA と 比 べ , 透 過 周波 数 が多
く体水分量を細胞内液と細胞外液とに区別しての推定できるため, 精度が高く骨格筋量等多項目
の 評 価 でき る こと が 特 徴で あ る .
2 . 咬 筋厚 が 変化 し な いの に 咬 合力 が 増 加 し た 理由 に つ いて 推 測せ よ .
幼児期の咬筋厚は, 増齢に伴い変化しなかったが咬合力が増加した理由として, 咬筋の組成が
変化したと考えられる. 筋繊維径が太くなることや, 一つの筋繊維の筋出力が変化したことが考
えられる. 本研究において咬筋の年齢における脂肪厚の減少や , 超音波画像において目測ではあ
るが低年齢児と比べ高年齢児の筋内脂肪が減少して筋膜などが画像上鮮明であったことなど, 筋
の 質 的 な要 素 が咬 合 力 に影 響 を 与え た 要因 と も 考え ら れ た。
主査の槇委員は, 両副査の質問に対する回答の妥当性を確認するととも に, 本論文の主張をさ
ら に 確 認す る ため に 上 記の 質 問 をし た とこ ろ , 明解 か つ 適切 な 回答 が 得 られ た .
以 上 の 審査 結 果か ら , 本論 文 を 博士 ( 歯学 ) の 学位 授 与 に値 す るも の と 判断 し た .
( 主 査 が記 載 )