別紙1 論 文 審 査 の 要 旨 報告番号 甲 論文審査担当者 第 2802 号 氏 名 主査 教授 馬場 一美 副査 教授 井上 富雄 副査 教授 宮崎 隆 峯村 英一郎 (論文審査の要旨) 学位申請論文「Analysis of occlusal contact during gum-chewing motion: Occlusal forms of maxillary and mandibular teeth, jaw movement, and their impact on max illofacial morphology」について, 上記の主査1名, 副査 2 名が個別に審査を行った . 本論文では上下顎歯列の接触に焦点を当てた際の顎顔面形態と顎口腔機能、特に歯の咬合面 形態と顎運動との相互に及ぼす影響と関連性について検討することを目的としている.4 次元 の顎運動解析システムの利用により,ガム咀嚼運動時の咬合接触と顎運動に焦点を当てた 解析 が試みられた. すなわち,主機能部位での顎運動路、咀嚼筋起始停止相当部の二点間距離変化, 咬合接触様相の検討が行われた.その結果, ガム咀嚼運動中の食片粉砕時において,顎顔面形 態 に よ ら ず 全 症 例 で 平 衡 側 で の 咬 合 接 触 が 認 め ら れ た .ま た ,骨 格 性 Ⅱ 級 の 症 例 で は 同 時 期 に 外側翼突筋起始停止相当部の距離の増加が認められた.この理由として,作業側を支点とした 下顎の回転の発生の可能性が考えられるとともに適当な上下顎の歯列の咬合接触を行うため に顎顔面形態に適した顎運動を行っている可能性が考えられた. 加えて, 本論文で用いた顎 運動解析システム及び関連プログラムが生体に対する機能時の上下顎歯列の接触解析、顎運動 解析に関して有用であることが示唆された. 本論文の審査において, 副査の宮崎委員, 井上委員から多くの質問があり, その一部とそ れらに対する回答を以下に示す. 宮崎 委員の質問 とそれらに 対する回答 : 1. 石膏模型の計測データとコーンビーム CT の計測データはどのように統合したか。 (石膏模型に対しては工業用 CT,被験者には CBCT での撮影を行い,その両方の DICOM データか ら 三 次 元 画 像 を 構 築 し ,歯 列 部 分 の み を 抽 出 し た 後 ,最 小 二 乗 法 を 利 用 し た 計 算 プ ロ グ ラ ム を 用いて,両者の統合を行っている.) 2. 3 次元構築された歯列と顎骨の統合モデルと運動データをどのように統合したか。 (被験者の上下歯列に取り付けられた 6 点標識のフェイスボウを用い ,CCD カメラにて光学的 手法により採得された運動データの時系列に沿った空間座標を取得し,空間座標上で統合モデ ルとの位置関係を再現することで統合している.) (主査が記載) 井上 委員の質問 とそれらに 対する回答 : 1. 作業側より平衡側の方が接触点が多くなるのはなぜか。 ( 本研究 に用い たタ ブレ ット状 のガム はあ る程 度の硬 さを有 して おり ,測定し たサイ クルはガ ムの自由咀嚼運動の初期(2~4 サイクル)であることから ,測定対象としたタイミングはガム の食片がある程度原形を保ち ,硬さと大きさを有している時期と考えられる。 そ れ を 踏 ま え ,理 由 と し て は ,ガ ム の 食 片 粉 砕 の タ イ ミ ン グ で は 作 業 側 に は 食 片 分 の 顎 間 空 隙 ができ ,平衡側 では 咀嚼 時の咬 合力に より 作業 側に比 して下 顎骨 自体 が上方 へ拳上 されるこ と に よ る 接 触 で あ る こ と ,あ る い は 食 品 を 介 在 し た 状 態 で 咬 合 力 を 発 揮 す る 場 合 ,平 衡 側 に 咬 合 接触を 生じる こと で力 学的な 安定を 得る こと により ,作業側 を支 点と した下 顎の回 転の発生 の 可能性 が類推 され た 。 これは 過去の 報告 にも あり ,ヒ トが咀 嚼運 動を 営む際 に意図 的に行っ ている可能性のある運動との解釈もできるかと思われる .) 2. 歯列弓の幅径が平衡側の接触に関与する可能性はあるか。 ( 食品を 介在し た状 態で 咬合力 を発揮 する 場合 ,平衡側 に咬合 接触 を生 じるこ とで力 学的な安 定 を得る ことに より ,作業 側を支 点とし た下 顎の 回転が 発生す ると いう 過去の 報告で も指摘さ れ る仮定 が成り 立つ とす れば ,歯 列弓の 幅径 の大 小によ り平衡 側の 咬合 接触や 顆頭運 動は大い に影響されうる.) 馬場 委員の質問 とそれらに 対する回答 : 本研究の将来像および臨床的な歯科矯正学的意義は何か ( 理 想 的 な 将 来 像 と し て は 顎 顔 面 形 態 と 顎 運 動 ,咬 合 面 形 態 と の 関 連 性 を 明 確 に す る こ と で , Ⅰ期治療(乳歯混合歯列期)における骨格性の不正咬合の予防としての機能的な側 面からのア プ ローチ による 治療 や機 能検査 からの 将来 的な 顎顔面 形態 ,骨 格的 な上 下顎骨 の不調 和の発生 を 予測し た上で の治 療計 画の立 案等が 可能 とな ること が期待 され る. また ,歯 列幅や 咬頭の斜 面 の傾斜 が個別 の診 断を 行う上 で重要 であ る可 能性 が あり ,Ⅱ 期治 療( 永久歯 列期) において は ,患 者 ご と に 治 療 の 最 終 ゴ ー ル と さ れ る 固 有 正 常 咬 合 を 再 現 す る た め に ,歯 列 矯 正 治 療 に お いて,形態だけではなく機能性を備えたアイディアルアーチが必要となる.そのた めには,本研 究 の結果 やシス テム を利 用した 機能的 な観 点か らの評 価 ,適用 する アイ ディア ルアー チ での運 動のシミュレーション等により顎口腔機能の検討が必要となる.) 主査の馬場委員は, 両副査の質問に対する回答の妥当性を確認するとともに, 本論文の主張 をさらに確認するために上記の質問をしたところ, 明確かつ適切な回答が得られた. 以上の審査結果から, 本論文を博士(歯学)の学位授与に値するものと判断した. (主査が記載)
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