*ワークショップ2-4の抄録に誤りがございました. 2016 ( 平成 28 ) 年 6 月 正しくは下記の通りです.深謝して訂正させていただきます. ワークショップ2-3 ワークショップ2-4 先天性横隔膜ヘルニアにおける 臨床研究のあり方 先天性横隔膜ヘルニアにおける再生医療① ─ 横隔膜の再生 ─ 469 千葉大学大学院小児外科学1) 埼玉医科大学病院小児外科 照井 慶太1),吉田 英生1), 新生児横隔膜ヘルニア研究グループ 古村 眞,鈴木 啓介,寺脇 幹,小高 哲郎 学歴:1987年 [略歴] 学歴:1998年 2002年 2005年 職歴:1998年 2000年 2001年 2005年 2006年 2010年 2013年 職歴:1996年 千葉大学医学部卒業 国立成育医療センター研究所移植・外科研究部 千葉大学大学院医学薬学府博士課程(医学系 )修了 千葉大学小児外科 松戸市立病院小児外科 沼津市立病院小児外科 千葉県こども病院小児外科 千葉大学小児外科助教 松戸市立病院小児医療センター小児外科部長 千葉大学小児外科講師 所属学会:小児外科学会 専門医など:外科専門医・小児外科指導医 帝京大学卒業 国立小児病院外科 2002年 ボストン小児病院外科リサーチフェロー 2010年 東京大学小児外科講師 2012年 埼玉医科大学小児外科教授 所属学会: 日本外科学会,日本小児外科学会,日本周産期・新生児学会, 日本再生医療学会,日本人工臓器学会,日本臨床外科学会,日本小児 救急医学会,日本気管食道科学会,日本小児呼吸器学会,日本小児血 液・がん学会,日本小児泌尿器学会太平洋小児外科学会,イギリス小 児外科学会,International Pediatric Endosurgery Group(IPEG) 専門医等:外科学会専門医,外科学会指導医,小児外科専門医,小 児外科指導医,再生医療認定医 ワークショップ 先天性横隔膜ヘルニア(CDH)の治療成績は依然満足できる 先天性横隔膜ヘルニアの大きな欠損孔には,生体内で分解され ない人工膜,あるいは自己組織をフラップとして欠損孔を閉鎖する ものではなく,更なる成績改善のためには臨床研究によりエビデンス 手術が行われている.人工膜にはアレルギー反応,感染などの合 を刷新していくことが必要である.しかしCDHの臨床研究に際して は,いくつかの難しい壁が存在する.まずCDHは希少疾患であり, 併症が報告されている.また,人工膜の大きさが成長に伴わないた めに, 胸郭の変形や横隔膜ヘルニアの再発が経験されている. 一方, 症例の集約化を行っても単施設で経験しうる症例数には限りがある 自己組織を フ ラ ッ プと して使用する こ とは, 手術侵襲が大き く , 広範 ため,多施設共同研究が必須である.また,数日で退院可能な症 な剥離範囲が必要と な り ECMO下に行う 場合は出血の リ ス ク を高め 例から死亡例までが存在し,重症度が極めて幅広い.合併奇形も ることとなる.これらの問題点を解決するために,1990年代より生分 軽微なものから重篤なものまで様々である.このように,ベースライン 解性の足場材料を用いた横隔膜組織再生の研究が行われた.生 特性が多様なため,臨床研究において単純な比較によって結論を 分解性足場を移植することで線維性組織が横隔膜の代用組織と 得ることが難しい. して再生されることが確認され,臨床応用されたが再発率が高く一 ベースライン特性の違いを乗り越える最も効果的な方法はランダ 般的な治療法とならなかったのが現状である.2000年代から生分 ム化比較試験(RCT)である.しかしCDHに対するRCTは,現実 解性足場と細胞,そして成長因子を用いた組織工学の手法を用い 的には非常な困難を伴う.実際,欧州で行われた人工呼吸器の た横隔膜の再生を行う研究が行われており,様々な細胞ソースと複 RCT(VICI-trial)では,予定症例数を集めることができなかった. 合的な生分解性足場材料が用いられているが,横隔膜組織再生 しかし一方で,症例数は5対5と少ないが,非常に有用なデータを に成功した報告は認めれていない. 提供したRCTも存在する(胸腔鏡群における術中の血中CO2濃 我々は,犬の腹部大動脈を自己線維性組織(バイオチューブ・ 度が開腹群に比して有意に高いことを示した)(Bishayら,2013) . シート)によって置換すると血管組織の自律再生が認められ,約6 年間再生血管として開存し狭窄せずに成長していることに着目した. アウトカムを生死におかずに代理アウトカムを用いることで,現実的 この線維性組織は,皮下に移植された鋳型周囲に線維芽細胞が なRCTをデザイン可能と思われる. 遊走し,この鋳型を被覆することで形成される.これは,鋳型の形 一方,非ランダム化比較試験(非RCT)でベースライン特性を 状によって,必要な形態に造形することが可能である.我々は,こ 調整する方法として,多変量解析によるリスク層別化や傾向スコア の自己線維性組織が, 横隔膜欠損孔の被覆材料として有用であ による解析が有用と思われる.多施設共同研究の際に障壁となり るか検討した. 生後1か月齢の白色家兎(n=16)の背部皮下に 得るのが各施設の治療法の違いであるが,これを積極的に利用し, シリコンプレートを移植し,移植4週後にシリコンプレートとその周囲の 登録されたデータのベースライン特性を調整することで,異なる治療 自己線維性組織を摘出した.左季肋下切開にて開腹し,左横隔膜 を比較することが可能である.統一プロトコールにより治療を標準化 に1.5X1.5cm大 の 欠 損 孔 を 形 成し た.自 己 線 維 性 組 織 を することは重要な方向性であるが,統一できない部分は研究対象 1.8X1.8cm大に成型して,4-0非吸収糸で横隔膜と線維性組織を にしていくべきである. 縫合し欠損孔を閉鎖した.閉鎖2 ∼ 3か月後, 閉鎖部位を摘出した. 1980 ∼ 90年代は,有効性が厳密に評価されることなく様々な新 自己線維性組織によって,横隔膜の欠損孔を被覆することが可能 規治療が導入され,かつ胎児診断症例が新たな治療対象として であった.線維性自己組織の破断荷重は,移植前は306±156gfで 加わった時代であった.重症度が高く予後不良な児に対して最善 あり,移植3か月後には885±468gfと増強していた.また,生後4か を尽くそうとする努力の結果ではあるが,一方,最善の治療が何な 月の正常横隔膜は,442±146gfであった.組織学的には,移植3か のかが非常にわかりにくくなっている.新生児横隔膜ヘルニア研究 月後にはH&E染色とエラスチカ・ワンギーソン染色にて筋肉線維 グループでは2011年に全国調査,2013年に長期フォロー調査を行 が染色された.自己線維性組織は,横隔膜ヘルニアに対する被覆 材料として使用できる可能性があるものと考えている.再生医療に い,本邦の現状を俯瞰すると共に,様々な状況・用途に応じたリス よる横隔膜再建を行うことは,大きな欠損孔を有する横隔膜ヘルニ ク分類を作成してきた.また,Research Electronic Data Capture アに対する治療法として長期予後を改善するために開発する必要 (REDCap)を用いて登録システムの利便性を改善した.今後は がある. 実現可能なRCTを模索しつつ,登録システムを確立し,ベースライ ン特性を調整した非RCTをすすめることで,CDH治療についての [略歴] エビデンスを積み重ねていきたい.
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