平成26年のまとめ

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山形県医師会会報 平成28年7月 第779号
山形県急性心筋梗塞発症登録評価研究事業
平成26年のまとめ
山形大学医学部 内科学第一講座 豊島 拓、西山 悟史、和根崎 真大
渡邉 哲、久保田 功 山形大学医学部 公衆衛生学講座 平山 敦士、川崎 良 山形県医師会 德永 正靱 1.はじめに
「山形県急性心筋梗塞発症登録評価研究事業」は
平成5年に山形県より山形県医師会が登録業務の
委託を受け発足し1),2)、平成18年度より山形県医師
会の事業として実施していた。平成22年度より再
び県で新たにスタートした「山形県脳卒中・心筋
梗塞発症登録評価研究事業」に組み込まれ、平成23
年度から本事業の委託先が医師会から山形大学医
学部へ変更となったが、急性心筋梗塞に関する事
業については県医師会の全ての医療機関の全面的
な協力支援を得て実施している状況に変わりはな
い。現在23年次を継続中であり、平成5年4月か
ら平成26年12月までの22年間で急性心筋梗塞登
録総数はのべ11,
173名に達した。各年次のまとめ
は山形県医師会報において毎年公表されている。
長年の蓄積データを解析したところ、診断・治
療・予防医学の観点から意義深い知見が得られ、
国際学会と英文誌において報告した。本稿では平
成26年1月から12月までの第22年目の調査結果
を報告するとともに、過去22年間の登録者数、平
均年齢、冠動脈形成術施行率と急性期死亡率の年
次推移を示し考察する。
表2.平成26年登録症例 (
1)
県 内26施 設 よ り 登 録 さ れ た634症 例 の う ち、
WHOの 診 断 基 準3)に 準 じ578例 を 急 性 心 筋 梗 塞
)と診断した。そのうち33例はAMI
による突
(AMI
然死症例(院外CPA症例)であった。平成26年の
山形県人口動態統計調査(県健康福祉部健康福祉
企画課による一般公表)の結果を基に算出したAMI
の発症率は51.
と診断さ
1/
10万人年であった。AMI
れた578例についての解析結果を以下に述べる。
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3.患者背景 (
表2)
男性412例、女性166例がAMI
として登録された。
女性患者(79±10歳)は男性患者(68±13歳)に
比し有意に高齢であった。患者住所による地区別
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山形県医師会会報 平成28年7月 第779号
発症数は、庄内地区139例(24%)、最上地区41例
(7%)、村山地区(山形市を除く)165例(29%)、
山形市101例(17%)、置賜地区118例(20%)、県
外14例(2%)であった。昨年の解析結果とほぼ同
様であり、地区別発症数の割合は山形県の地区別
総務省統計局による平成26年国勢調査)
人口比 (
にほぼ一致した。我々は平成22年までのデータを
発症率の推移に関して検
もとに、地域間でのAMI
討を行い、英文誌にて報告した4)。
表4. 冠動脈疾患の危険因子 (
3)
冠動脈危険因子として高血圧症を68%、喫煙歴
を61%に認めた。高血圧の合併頻度は男性に比し
女性で有意に高く、喫煙歴は男性において有意に
多かった。男性の喫煙者は全男性登録症例の78%、
全喫煙者の94%(253/
268例)を占めており、昨年
症例における男性の喫煙歴は高率であっ
同様AMI
た。糖尿病と脂質異常症の合併頻度はそれぞれ
37%、49%であった。脳卒中の既往を有する例を
15%に、心筋梗塞の再発例を11%に認めた。解析
可能症例における血清脂質レベルでは、男性の中
性脂肪値が女性に比し有意に高値で、HDLコレス
テロールが低値であった。
平成19年までの登録データをもとに、冠危険因
発症率の関係を検討し、平成22年
子の推移とAMI
の日本循環器学会総会にて発表を行い、英文誌に
て報告した5)。
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表5.発症時の臨床症状と状況 (
4)
初発時の症状で最も多いものは定型的な(確か
な心外性の原因がなく、20分以上続く入院を要す
。次
る程度の)胸痛と胸部絞扼感であった(82%)
いで呼吸困難、失神・眩暈や嘔吐、気分不良・腹
痛・下痢等の消化器症状を認めた。非典型的な症
状として肩・上腕・背部の痛みが挙げられた。性
別ごとに臨床症状の検討を行うと、胸痛・胸部絞
扼感の自覚は女性に比し男性で有意に多かった。
一方、嘔吐・気分不良は男性に比し女性において
有意に多かった。例年呼吸困難は女性において有
意に多かったが、今回は有意な差を認めなかった。
失神・眩暈も男女間で有意差を認めなかった。
発症時の状況は、安静時(37%)、仕事・労
AMI
、食
作 中(22%)、睡 眠 中(12%)、起 床 時(5%)
事・飲酒中(5%)であった。仕事・労作中のうち
除雪作業時の発症は11%(15/
139例)であり、積
雪の多い本県では注意が必要である。また、例年
入浴中・直後、排尿・排便時、運転中などが欄外
に挙げられており、これらにも注意が必要である。
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表6.臨床検査所見 (
5)
発症から最終的に収容を受けた病院までの到着
時間は平均7時間(中央値2時間)であった。以
前認めた到着時間の男女差は、ここ数年認めな
かった6)。
確実な心電図所見(異常Q波の出現または1日
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山形県医師会会報 平成28年7月 第779号
以上続くST上昇の経時的変化)が捉えられた症例
は71%、心筋逸脱酵素値の明らかな異常(発症ま
たは入院72時間以内に少なくとも1回以上、上限
の2倍以上)が捉えられた症例は84%を占めた。男
性の血清CPK最高値は女性に比し有意に高値だっ
た。Q波梗塞が全体の61%を占め、心電図変化によ
る梗塞部位は前壁梗塞と下壁梗塞がそれぞれ43%、
40%を占めた。これら臨床検査所見に関する結果
は、いずれも昨年とほぼ同様だった。
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表7.急性期死亡率と原因 (
6)
平成26年の急性期死亡率(AMI
発症28日以内の
死亡率)は18.
2%(105/
578例)で、院外CPA(心
肺 停 止)症 例 を 除 い た 急 性 期 死 亡 率 は13.
2%
(72/
545)であった。一方院外CPA症例で急性期を
乗り超えることができた症例は21.
4%であった。死
亡原因の62%がポンプ失調だった。急性期死亡例
は、非死亡例に比し有意に高齢であった(80±11
.70±13歳、P<
0.
01)。女性患者の急性期死亡
vs
率は、男性に比し有意に高値であった(48/
166例;
.57/
29% vs
412例;14%、P<0.
01)。これは、女性
患者が男性患者に比し高齢であることが一因と考
えられた。
表8.心不全重症度と急性期死亡率の関係 (
7)
心不全重症度分類であるKi
l
l
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p分類では、Ⅰ度
(心不全なし)を336例(58%)、Ⅳ度(心原性ショッ
ク)を108例(19%)に認めた。入院時の心不全重
症度が高くなるにつれ、急性期死亡率は有意に上
昇した(Ki
l
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pⅠ5%,Ⅱ10%,Ⅲ32%,Ⅳ62%)。
性 別 ご と に 比 較 す る と、女 性 の 重 症 心 不 全
(Ki
l
l
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pⅢ,Ⅳ)の割合は、男性に比して有意に多
.
かった
(64/
166例;39%vs
91/
412例;22%、P<0.
01)。
女性において重症心不全患者が多いこともまた、
女性の急性期死亡率が高くなる一因と考えられた。
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9.再灌流療法の手技別施行数と急性期死亡率の
表 関係 (
8)
登録症例のうち448例(78%)に対して急性期に
)が施行さ
経皮的冠動脈インターベンション(PCI
に
れた。昨年同様血栓溶解剤使用のほとんどがPCI
施行群は、男性に比し
併用されていた。女性のPCI
.345/
有 意 に 低 か っ た(103/
166例;62% vs
412
例;84%、P<
施行群は、冠血行
0.
01)。急性期PCI
再建未施行群に比し有意に死亡率が低かった(8%
01)。平成21年度までの報告をもと
vs
.52%、P<0.
施行率の推移を検討し、
に、性別ごとの死亡率とPCI
平成25年の欧州心臓病学会総会にて報告を行った。
山形県医師会会報 平成28年7月 第779号
高いPCI
施行率にも関わらず急性期死亡率改善が
施行困難
頭打ちにある一因と考えられる。今後PCI
例や複合併存疾患を有し治療が複雑化する症例の
増加が予想され、生存率改善への障害となること
が懸念される。
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10.経皮的冠動脈インターベンション施行率と急
1)
性期死亡率の年次推移(図施行率はこの22年間で飛躍的に増加し(平成
PCI
6年26% → 平成25年78%)、急性期死亡率は初期の
20%台から一時は10%台前半まで低下した(平成5
年20.
8% → 平成21年12.
2%)7),8)が、平成22年以後
は上昇傾向にあり、平成26年は18.
2%だった。ただ
し、院外CPAを除いた急性期死亡率は13.
2%と例年
施行率は78%であり、
並みであった。平成26年のPCI
施行率はほぼ横ばいで推移し、頭打ち傾
近年のPCI
向にある。急性期死亡率も最近10年は明らかな改
施行
善傾向は認めておらず、死亡率の改善にはPCI
率の上昇が鍵になると考えられる。
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12.まとめ
平成26年の山形県における急性心筋梗塞発症率
は51.
1/
10万 人 年 で あ っ た。急 性 期 総 死 亡 率 は
18.
2%と近年高値にあるが、院外CPA症例を除い
た急性期死亡率は13.
2%と例年並みであった。女性
患者は男性患者に比し有意に高齢であった。登録
症例の主な臨床所見は近年の解析結果と同様で
あった。男性の喫煙者が全男性登録症例の78%、
全喫煙者の94%を占めており、引き続き禁煙の啓
発が必要である。
施行率は78%であった。PCI
が施行
急性期のPCI
された症例の急性期死亡率 (
8%)は、冠血行再建術
未施行例の死亡率 (
52%)に比し有意に低値であっ
成功率は95%であった。迅
た。急性期におけるPCI
施行は、AMI
の急性期死亡率を低
速かつ確実なPCI
下させる上で重要な因子であると強調したい。
施行率は飛躍的
過去22年間で、山形県におけるPCI
に増加し、急性期死亡率は初期の20%台から一時は
10%台半ばへと低下したが、近年再び上昇傾向にあ
施行率は70%台後半であったが、
る。平成26年のPCI
急性期死亡率は最近10年間で改善傾向を認めず、
死亡率の改善は頭打ちとなっている。急性心筋梗
塞症例の平均発症年齢は高齢化しており、今後さ
困難な症例が増加することが予想される。
らにPCI
図11.登録症例数と平均年齢の年次推移 (
2)
山形県におけるAMI
の登録症例数と男女別平均
発症者数は、以前
年齢の年次推移を示す9)-17)。AMI
13.謝 辞
平成27年も全国規模の学会にて本事業の結果を
発表することができました。これも22年間にわた
は増加傾向にあったが、近年はほぼ横ばいで推移
している。一方、発症年齢は特に女性において年々
患者の高齢化は、近年の
上昇傾向を認める。AMI
り本事業に御協力頂きました医師会会員の皆様方
のおかげであり、厚く御礼申し上げます。
本登録評価事業は平成21年度より再び県の事業
18
山形県医師会会報 平成28年7月 第779号
となり、平成22年度より、がん登録と同様に患者
氏名等の個人情報が登録可能となりました。これ
により、今後、慢性期予後の検討が可能となり、
更に本事業の重要性は増していくものと思われま
す。今後とも益々のご協力とご支援を賜りたく宜
しくお願い申し上げます。
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