租税条約の締結・改正 目 次 第一 日本・インド租税条約の一部改正 696 第三 日本・チリ租税条約の締結���� 732 第二 日本・ドイツ租税協定の全面改正 701 第一 日本・インド租税条約の一部改正 て署名が行われました。 はじめに 改正議定書は、現行条約の租税に関する情報交 我が国とインド共和国(以下「インド」といい 換に係る規定を国際標準に沿った規定に改正する ま す。) と の 間 で は、 こ れ ま で 平 成 元 年(1989 とともに、相手国の滞納租税債権の徴収を相互に 年)に締結(平成18年(2006年)に一部改正)さ 支援する徴収共助制度を導入するほか、利子免税 れた租税条約(以下「現行条約」といいます。 ) の対象となる債権及び対象機関の範囲を拡大して の下で二重課税の回避及び脱税の防止が図られて います。 きました。緊密化する両国の経済関係を踏まえ、 改正議定書は、我が国及びインドにおいてそれ 両国政府は、現行条約を改正するための交渉を開 ぞれの国内手続(我が国においては国会の承認を 始することに合意し、平成27年(2015年)12月に 得ることが必要(注))を経た後、その国内手続 「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び の完了を通知する外交上の公文の交換の日の翌日 脱税の防止のための日本国政府とインド共和国政 から30日目の日に効力を生ずることとなります。 府との間の条約を改正する議定書」 (以下、この 以下では、改正議定書による改正の内容につい 議定書を「改正議定書」といい、改正議定書によ て逐条で解説していくこととします。 る改正後の条約を「改正後の条約」又は単に「条 (注) 改正議定書は、第190回国会において承認され 約」といいます。 )についてニューデリーにおい ました。 一 改正議定書第 1 条(条約第11条(利子)関連) おいて生ずる利子が当該一方の締約国(源泉地 1 改正の概要 国)において免税となる機関である「政府の所 現行条約第11条 3 及び 4 において規定されてい 有する金融機関」を「政府が全面的に所有する る利子免税の対象となる債権及び対象機関の範囲 金融機関」に変更するとともに、免税となる利 がそれぞれ拡大されました。 子につき、政府等によって保険の引受けが行わ れた債権に関して支払われた利子が追加されて 2 改正の内容 います。具体的には、以下のとおり規定されて ⑴ 利子に対する源泉地国免税(条約第11条 3 ) 条約第11条 3 においては、一方の締約国内に ─ 696 ─ います。 ① その利子の受益者が、他方の締約国の政府、 ――租税条約の締結・改正―― その地方政府若しくは地方公共団体、その中 行」及び「政府が全面的に所有する機関」に該 央銀行又は他方の締約国の政府が全面的に所 当するものを規定しています。改正議定書では、 有する金融機関(以下「政府等」といいま インド側について、「インド総合保険公社」及 す。 )である場合(本条 3 ⒜) び「ニューインディア保険会社」を追加してい ② その利子の受益者が他方の締約国の居住者 ます。また、日本側については、現行条約締結 であり、かつ、その利子が、政府等によって 後の組織再編を反映して「日本輸出入銀行」、 保証された債権、政府等によって保険の引受 「海外経済協力基金」及び「国際協力事業団」 けが行われた債権又は政府等による間接融資 を「株式会社国際協力銀行」及び「独立行政法 人国際協力機構」に変更するとともに、新たに に係る債権に関して支払われる場合(本条 3 「独立行政法人日本貿易保険」を追加していま ⒝) す。 ⑵ 利子免税の対象となる機関(条約第11条 4 ) 条約第11条 4 は、同条 3 に規定する「中央銀 二 改正議定書第 2 条(条約第26条(情報の交換)関連) ければならないとする規定の新設(条約第26 1 改正の概要 条4) 条約第26条は、締約国がそれぞれ適正な課税を ④ 銀行等の保有する情報についても情報提供 行うため、課税情報の交換について両締約国の権 を拒否することができないことを確認する規 限のある当局の協力関係を定めています。経済活 定の新設(条約第26条 5 ) 動の国際化が進展した現在、国外に所在する情報 であっても適切に収集することが適正・公平な課 税の実現のために必要となっており、OECDにお 2 改正の内容 ⑴ 権限のある当局間の情報交換(条約第26条 いても2005年及び2012年にモデル租税条約を改正 1) し、情報交換規定の強化を図っています。改正議 条約第26条 1 は、両締約国の権限のある当局 定書による改正は、OECDモデル租税条約の情報 は、条約の規定の実施又は両締約国若しくはそ 交換規定を採用するものであり、具体的な改正点 れらの地方政府若しくは地方公共団体が課す全 は、以下のとおりです(改正議定書第 2 条) 。 ての種類の租税に関する両締約国の法令(その ① 情報交換の対象となる租税を条約の対象と 法令に基づく課税が条約の規定に反しない場合 なる租税に限定せず、すべての種類の租税に に限ります。)の運用若しくは執行に関連する 拡大(条約第26条 1 ) 情報(文書及び文書の認証された謄本を含みま ② 情報交換により受領した情報について、一 す。)を交換することを規定しています。この 定の条件を満たす場合には、租税以外の他の 情報の交換は、条約第 1 条(人的範囲)及び第 目的のために使用することができるとする規 2 条(対象税目)の規定にかかわらず、両締約 定の新設(条約第26条 2 ) 国の居住者でない者に関する情報や、条約の対 ③ 各締約国は、同条の規定に従って情報の提 供の要請があった場合には、自国の課税目的 のために必要な情報か否かにかかわらず、そ の情報を入手するための必要な手段を用いな ─ 697 ─ 象となる租税以外の租税に関する情報も対象と なります。 ――租税条約の締結・改正―― ⑵ 交換された情報の取扱い(条約第26条 2 ) こと。 条約第26条 2 は、同条 1 に基づき一方の締約 ② 一方の締約国又は他方の締約国の法令の下 国が受領した情報は、その一方の締約国の法令 において又は行政の通常の運営において入手 に基づいて入手した情報と同様に秘密として取 することができない情報を提供すること。 り扱われなければならず、租税の賦課若しくは ③ 営業上、事業上、産業上、商業上若しくは 徴収、租税に関する執行若しくは訴追、租税に 職業上の秘密若しくは取引の過程を明らかに 関する不服申立てについての決定又はこれらの するような情報又は公開することが公の秩序 監督に関与する者又は当局(裁判所及び行政機 に反することになる情報を提供すること。 関を含みます。)に対してのみ、開示されるこ とを規定しています。これらの者又は当局は、 ⑷ 情報交換のための情報収集措置(条約第26条 その情報をそのような目的のためにのみ使用す 4) るとされており、また、公開の法廷における審 条約第26条 4 は、各締約国は、同条の規定に 理又は司法上の決定において開示することがで 従って情報の提供の要請があった場合には、自 きるとされています。 国の課税目的のために必要な情報か否かにかか ただし、上記にかかわらず、一方の締約国が わらず、その情報を入手するための必要な手段 受領した情報は、両締約国の法令に基づき租税 を用いなければならないことを規定しています。 に関する目的以外の目的のために使用すること その手段を用いるに当たっては、同条 3 の制限 ができる場合において、その情報を提供した他 に従いますが、その制限は、いかなる場合にも、 方の締約国の権限のある当局がそのような使用 その情報が自国の課税目的のために必要でない を許可するときは、租税に関する目的以外の目 ことのみを理由としてその情報の提供を拒否す 的のために使用することができることとされて ることを認めるものではありません。 います。 ⑸ 情報提供拒否の制限(条約第26条 5 ) ⑶ 情報提供義務の制限(条約第26条 3 ) 条約第26条 5 は、各締約国は、提供を要請さ 条約第26条 3 は、同条 1 及び 2 の規定は、い れた情報が、銀行その他の金融機関、名義人、 かなる場合にも、情報を提供する締約国に対し 代理人若しくは受託者が有する情報又はある者 て、次のことを行う義務を課すものではないこ の所有に関する情報であることのみを理由とし とを規定しています。 て、その提供を拒否することはできないことを ① 一方の締約国又は他方の締約国の法令及び 規定しています。 行政上の慣行に抵触する行政上の措置をとる 三 改正議定書第 3 条(条約第26条のA(徴収共助)関連) 1 改正の概要 2 改正の内容 徴収共助(両締約国が相手国において滞納され ⑴ 租税の徴収における支援(条約第26条のA た租税の徴収を相互に支援することをいいます。 1) 以下同じです。 )の規定が新たに設けられました。 条約第26条のA 1 は、滞納租税債権一般につ いて徴収共助が行われることを規定しています。 この徴収共助は、条約第 1 条(人的範囲)及び ─ 698 ─ ――租税条約の締結・改正―― 基づき執行することができるものであること。 第 2 条(対象税目)の規定にかかわらず、両締 約国の居住者でない者に関する滞納租税や、条 (注) 「執行することができるものであること」 約の対象となる租税以外の租税にも適用されま とは、滞納処分が完全に執行できる状態を す。両締約国の権限のある当局は、徴収共助の 意味することから、我が国においては、現 実施方法を合意によって定めることを規定して 行制度上、滞納処分の第一段階である差押 います。 えができる状態となっていること及び不服 申立ての提起や納税・換価の猶予等により ⑵ 租税債権の範囲(条約第26条のA 2 ) 滞納処分を完全に執行できない状態になっ 条約第26条のA 2 は、同条の対象となる「租 ていないことが必要になると考えられます。 税債権」の範囲を規定しています。 「租税債 ② 徴収の要請の時において、租税債権を負担 権」とは、条約第 2 条(対象税目)に規定する する者(滞納者)が要請国の法令に基づきそ 条約の対象となる租税(我が国については、所 の租税債権の徴収を停止させることができな 得税、法人税、復興特別所得税、復興特別法人 いこと。 税及び地方法人税が、インドについては、所得 (注) 「租税債権の徴収を停止させることができ 税(加重税を含みます。 )が該当します。 )及び ないこと」とは、滞納者が徴収手続を止め 次の①から③までに掲げる租税の額並びにその ることができる行政上又は司法上の権利を 租税の額に関する利子、行政上の金銭罰(注 有していないことを意味します。我が国に 1 ) 及び徴収又は保全の費用(注 2 ) をいいま おいては、現行制度上、滞納者が不服申立 す。 てを提起することができる権利を有する期 ① 我が国については、消費税、相続税及び贈 間は「租税債権の徴収を停止させることが 与税(条約第26条のA 2 ⒜) できる」ため、上記②の要件を充足するこ ② インドについては、資産税、物品税、サー とができない(徴収の要請ができない)と ビス税、売上税及び付加価値税(条約第26条 考えられます。 のA 2 ⒝) 条約第26条のA 3 第二文は、要請国の租税債 ③ その他の租税で両締約国の政府が合意する 権を被要請国が徴収するための規範を定めてい もの(条約第26条のA 2 ⒞) ます。具体的には、徴収の要請を受けた被要請 (注 1 ) 「その租税の額に関する利子、行政上の 国は、要請国の租税債権について、同条 3 第一 金銭罰」とは、我が国においては、延滞 文の要件を満たす自国の租税債権と同様に、租 税、利子税、過少申告加算税等の附帯税 税の執行及び徴収について適用される自国の法 がこれに該当します。 令に従って全ての徴収手続を行う義務を負うこ とを規定しています。 (注 2 ) 「徴収又は保全の費用」とは、我が国に おいては、滞納処分費がこれに該当します。 ⑷ 保全の措置を要請するために必要とされる要 件等(条約第26条のA 4 ) ⑶ 徴収を要請するために必要とされる要件等 (条約第26条のA 3 ) 条約第26条のA 4 第一文は、一方の締約国 条約第26条のA 3 第一文は、一方の締約国 (要請国)は、要請国の租税債権が要請国の法 (要請国)が、次の①及び②の要件をいずれも 令に基づきその徴収を確保するために差押え等 満たす場合には、他方の締約国(被要請国)に の保全の措置をとることができるものである場 対して徴収を要請できることを規定しています。 合には、他方の締約国(被要請国)に対して保 ① 要請国の租税債権が、その要請国の法令に 全の措置を要請できることを規定しています。 ─ 699 ─ ――租税条約の締結・改正―― 同条 4 第二文は、要請国の租税債権について 所又は行政機関に提起されないことを規定して 被要請国が保全の措置をとるための規範を定め います。したがって、当該租税債権の存否等に ています。具体的には、保全の要請を受けた被 ついては、要請国においてのみ争われることと 要請国は、その保全の措置をとる時において上 なります。 記⑶①又は②の要件を満たさない場合であって も、要請国の租税債権について、自国の租税債 権と同様に、自国の法令に従って保全の措置を ⑻ 徴収又は保全の措置の要請の停止又は撤回 (条約第26条のA 8 ) 条約第26条のA 8 は、要請国が徴収又は保全 行う義務を負うことを規定しています。 の措置の要請をした後、被要請国が関連する租 ⑸ 租税債権に関する時効及び優先権(条約第26 税債権を徴収し、要請国に送金するまでの間に、 条のA 5 ) その租税債権が次の①又は②に該当しなくなっ 条約第26条のA 5 は、同条 3 及び 4 の規定に た場合(上記⑶又は⑷の徴収又は保全の措置を かかわらず、同条 3 又は 4 に基づき被要請国が 要請するために必要な要件を満たさなくなった 徴収又は保全の措置のために引き受けた租税債 場合を意味します。)には、要請国の権限のあ 権について、次のことを規定しています。 る当局は被要請国の権限のある当局に対し、そ ① 被要請国において、被要請国の法令の下で の事実を速やかに通報し、被要請国の選択によ 租税債権であるとの理由で適用される時効及 り、要請国は、その要請を停止し、又は撤回す び優先権が認められないこと。 ることを規定しています。 ② 被要請国において、要請国の法令において ① 徴収の要請については、租税債権が、要請 要請国の租税債権に適用される優先権が認め 国の法令に基づき執行することができるもの られないこと。 であり、かつ、その租税債権の滞納者が要請 国の法令に基づきその租税債権の徴収を停止 ⑹ 時効の中断(条約第26条のA 6 ) させることができないものであること。 条約第26条のA 6 は、同条 5 の規定にかかわ ② 保全の措置の要請については、租税債権が、 らず、同条 3 又は 4 に規定する徴収又は保全の 要請国がその法令に基づき保全の措置をとる 措置のために被要請国がとった措置は、その措 ことができるものであること。 置が要請国によってとられたならば、要請国の 法令に従ってその租税債権について適用される ⑼ 徴収又は保全の措置における義務の制限(条 時効を停止し、又は中断する効果を有すること 約第26条のA 9 ) となる場合には、要請国の法令の下においても 条約第26条のA 9 は、同条の規定は、いかな 同様に時効を停止し、又は中断する効果を有す る場合にも、被要請国に対して、次のことを行 ることを規定しています。また、被要請国は、 う義務を課すものではないことを規定していま その措置について要請国に通報することとされ す。 ています。 ① 要請国又は被要請国の法令及び行政上の慣 行に抵触する行政上の措置をとること。 ⑺ 租税債権の存否等に関する争訟手続(条約第 26条のA 7 ) ② 公の秩序に反することとなる措置をとるこ と。 条約第26条のA 7 は、要請国の租税債権の存 ③ 要請国がその法令又は行政上の慣行に基づ 在、有効性又は金額(以下「存否等」といいま き徴収又は保全のために全ての妥当な措置を す。)に関する争訟の手続は、被要請国の裁判 とっていない場合に支援を行うこと。 ─ 700 ─ ――租税条約の締結・改正―― ④ 被要請国の行政上の負担が要請国の得る利 を行うこと。 益に比して明らかに不均衡である場合に支援 四 改正議定書第 4 条(改正議定書の発効) ⅰ 源泉徴収される租税に関しては、改正議 改正議定書第 4 条は、改正議定書の発効及び適 定書が効力を生ずる年の翌年の 4 月 1 日以 用対象について規定しています。 後に支払われ、または貸記される額 ⑴ 改正議定書の効力の発生(改正議定書第 4 条 ⅱ 改正議定書が効力を生ずる年の翌年の 4 1) 月 1 日以後に開始する各課税年度の所得に 改正議定書第 4 条 1 は、改正議定書の発効に 対する租税 ついて規定しています。具体的には、改正議定 書は、我が国及びインドにおいて国内法上の手 ⑶ 情報交換及び徴収共助の適用対象(改正議定 続に従って承認された後、その承認を通知する 書第 4 条 3 ) 外交上の公文の交換の日の翌日から30日目の日 改正後の条約第26条(情報の交換)及び第26 に、効力を生ずることとされています。 条のA(徴収共助)は、これらの規定の対象と なる租税が課される日又は当該租税に係る課税 ⑵ 改正議定書の適用対象(改正議定書第 4 条 年度にかかわらず、改正議定書の発効日から適 2) 用されます(改正議定書第 4 条 3 ) 。したがっ ① 改正議定書は、我が国については、次のも て、情報交換に関しては、発効日よりも前の課 のについて適用されます(改正議定書第 4 条 税年度に関する情報も改正後の条約第26条に基 2 ⒜)。 づいて交換することができ、徴収共助に関して ⅰ 課税年度に基づいて課される租税に関し は、発効日以後に現存する租税債権であればど ては、改正議定書が効力を生ずる年の翌年 の課税年度に関して生じたものかを問わず徴収 の 1 月 1 日以後に開始する各課税年度の租 共助の対象となります。 税 ⅱ 課税年度に基づかないで課される租税に ⑷ 改正議定書の効力の存続期間(改正議定書第 関しては、改正議定書が効力を生ずる年の 4条4) 翌年の 1 月 1 日以後に課される租税 改正議定書第 4 条 4 は、条約が有効である限 り改正議定書も効力を有することを規定してい ② インドについては、次のものについて適用 ます。 されます(改正議定書第 4 条 2 ⒝) 。 第二 日本・ドイツ租税協定の全面改正 「旧協定」といいます。)の下で二重課税の回避及 はじめに び脱税の防止が図られてきました。旧協定は、効 我が国とドイツ連邦共和国(以下「ドイツ」と 力が生じて以来50年が経過しており、現在の経済 いいます。 )との間では、 これまで昭和41年(1966 関係にそぐわない内容となっていたため、両国政 年)に締結(昭和54年(1979年)及び昭和58年 府は、旧協定を改正するための交渉を開始するこ (1983年)に一部改正)された租税協定(以下 とに合意し、平成23年(2011年)12月に政府間交 ─ 701 ─ ――租税条約の締結・改正―― 渉を開始しました。その結果、平成27年(2015 います。さらに、協定においては、租税協定の濫 年)12月に「所得に対する租税及びある種の他の 用を防止するためにOECD / G20によるBEPS行 租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税 動計画に基づき策定された規定案を一部採用して 回避の防止のための日本国とドイツ連邦共和国と います。これらの措置により、二重非課税並びに の間の協定」(以下「協定」といいます。 )及び 脱税及び租税回避行為を防止しつつ、両国間の投 「議定書」について東京において署名が行われま 資・経済交流を一層促進することが期待されます。 した。 協定は、両国のそれぞれの国内手続(我が国に 協定は、投資所得に対する投資先の国における おいては、国会の承認を得ることが必要(注)) 課税を軽減又は免除するとともに、税務当局間の を経た後、その国内手続が完了したことを相手国 情報交換を、租税に関する国際標準に基づいた一 に通告することとされており、遅い方の通告が受 層実効的な形で実施するための規定を設けていま 領された日の翌日から30日目の日に効力を生ずる す。また、協定では、税務当局間の相互協議にお こととなります。 ける仲裁制度に関する規定や、両国の税務当局が 以下では、協定の内容について、逐条で解説し 相手国において滞納された租税の徴収を相互に支 ていくこととします。 援するいわゆる徴収共助に関する条項を導入して (注) 協定は、第190回国会で承認されました。 一 対象となる者(第 1 条) の所在地国では事業体そのものではなくその構 1 本条の趣旨 成員を納税義務者として認識(構成員課税)す 本条は、協定が適用される者の範囲及び課税上 る場合のように、ある事業体に関する課税上の 存在しないものとして取り扱われる事業体の取扱 取扱いが両国で異なる場合には、両国で協定の いに関して規定しています。 特典を受ける者に関する認識が異なるため、実 質的な二重課税が生じているにもかかわらず協 2 解説 定が適用できないこととなります。そこで、本 ⑴ 協定が適用される者(本条 1 ) 条 2 第一文は、いずれか一方の締約国の租税に 協定は、原則として一方の締約国の居住者及 関する法令の下において全面的に若しくは部分 び双方の締約国の居住者について適用されます。 的に課税上存在しないものとして取り扱われる 「一方の締約国の居住者」の定義は、第 4 条 1 団体若しくは仕組みによって又はこのような団 において規定されています。また、この定義に 体若しくは仕組みを通じて取得される所得は、 より我が国とドイツの双方の居住者とされる者 一方の締約国における課税上当該一方の締約国 (以下「双方居住者」といいます。 )は、いずれ の居住者の所得として取り扱われる限りにおい か一方の締約国の居住者として振り分けられた て、一方の締約国の居住者の所得とみなすこと 上で、協定が適用されます(第 4 条 2 及び 3 ) 。 を規定することにより、このような場合におけ る協定の適用を確保しています。 ⑵ いずれかの締約国において課税上存在しない ただし、源泉地国に所在する事業体を通じて ものとして取り扱われる事業体への協定適用 得た所得について、源泉地国が自国の居住者で (本条 2 ) ある事業体に対して課税する権利が制限される 例えば、源泉地国ではある事業体を納税義務 ことのないよう、本条 2 第二文は、本条 2 の規 者として認識(団体課税)するが、その事業体 定について、いかなる場合にも、一方の締約国 ─ 702 ─ ――租税条約の締結・改正―― が自国の居住者に対して課税する権利を制限す する法令の下において、団体又は仕組みの所得 るものと解してはならないことを規定していま の全部又は一部について、当該団体又は仕組み す。 に対してではなく、それらの持分を有する者に ま た、 本 条 2 第 三 文 は、 「課税上存在しな 対して課税される場合をいうことを規定してい い」という用語の意義を規定しており、 「課税 ます。 上存在しない」とは、一方の締約国の租税に関 二 対象となる租税(第 2 条) 得に対する租税に関する協定の規定は、我 1 本条の趣旨 が国の事業税、ドイツの営業税及びこれら 本条は、協定が適用される租税を規定していま の租税に加えて又はこれらに代わって協定 す。 の署名の日の後に課される租税であって、 これらの租税と同一であるもの又は実質的 2 解説 に類似するものについて準用すること(た 本条 1 は、協定の適用対象となる両国の現行の だし、これらの租税が、所得以外の課税標 租税をそれぞれ以下のとおり規定しています。 準に基づき算定され、又は所得以外の要素 ① 我が国については、所得税、法人税、復興 特別所得税、地方法人税、住民税及び事業税 (以下「我が国の租税」といいます。 ) を考慮して算定される場合に限ります。 )を 規定しています。 また、本条 2 では、協定の署名の日の後に、 ② ドイツについては、所得税、法人所得税、 これらの租税に加えて又はこれらに代わって課 営業税及び連帯付加税(以下「ドイツの租 される租税であって、これらの租税と同一であ 税」といいます。 ) るもの又は実質的に類似するものについても、 (注) 議定書 1 では、第 2 条の規定に関し、所 協定が適用されることを規定しています。 三 一般的定義(第 3 条) が国が国際法に基づき主権的権利を有し、か 1 本条の趣旨 つ、我が国の租税に関する法令が施行されて 本条は、協定において使用されている用語の定 いる全ての区域(海底及びその下を含みま 義等を規定しています。 す。)をいいます。 ② 「ドイツ連邦共和国」とは、地理的意味で 2 解説 用いる場合には、ドイツ連邦共和国の領域並 ⑴ 各用語の定義(本条 1 ) びにドイツ連邦共和国が国際法及び自国の法 本条 1 は、協定の中で用いられている用語に 令に従って天然資源(生物資源であるか否か ついて、以下のとおり規定しています。 を問いません。)の探査、開発、保全及び管 ① 「日本国」とは、地理的意味で用いる場合 理又は再生可能な資源からのエネルギーの生 には、我が国の租税に関する法令が施行され 産のために主権的権利及び管轄権を行使する ている全ての領域(領海を含みます。 )及び 領海に隣接する区域(海底並びにその下及び その領域の外側に位置する区域であって、我 上部水域)をいいます。 ─ 703 ─ ――租税条約の締結・改正―― ている法令によってその地位を与えられた ③ 「一方の締約国」及び「他方の締約国」と 全ての法人、組合又は団体 は、文脈により、我が国又はドイツをいいま ⅱ ドイツについては、ドイツ連邦共和国基 す。 本法に規定する全てのドイツ人及びドイツ ④ 「者」には、個人、法人及び法人以外の団 において施行されている法令によってその 体を含みます。 地位を与えられた全ての法人、組合又は団 ⑤ 「法人」とは、法人格を有する団体又は租 体 税に関し法人格を有する団体として取り扱わ ⑪ 「権限のある当局」とは、次の者をいいま れる団体をいいます。 す。 ⑥ 「企業」とは、あらゆる事業の遂行につい ⒤ 我が国については、財務大臣又は権限を て用います。 与えられたその代理者 ⑦ 「事業」には、自由職業その他の独立の性 ⅱ ドイツについては、連邦財務省又はその 格を有する活動を含みます。 権限を委任された機関 ⑧ 「一方の締約国の企業」及び「他方の締約 国の企業」とは、それぞれ一方の締約国の居 住者が営む企業及び他方の締約国の居住者が ⑵ 協定において定義されていない用語の解釈 (本条 2 ) 営む企業をいいます。 ⑨ 「国際運輸」とは、一方の締約国の企業が 本条 2 は、協定において定義されていない用 運用する船舶又は航空機による運送のうち、 語の解釈について規定しています。協定におい 他方の締約国内の地点の間においてのみ運用 て定義されていない用語は、文脈により別に解 される船舶又は航空機による運送を除いたも 釈すべき場合を除いて、協定の適用を受ける租 のをいいます。 税に関する締約国の法令においてその適用の時 点で有している意義を有するものとされていま ⑩ 一方の締約国の「国民」とは、次の者をい います。 す。また、租税に関する法令におけるその用語 ⒤ 我が国については、我が国の国籍を有す の意義は、他の法令におけるその用語の意義に 優先することとされています。 る全ての個人及び我が国において施行され 四 居住者(第 4 条) 類する基準により当該一方の締約国において租 1 本条の趣旨 税を課されるべきものとされる者」をいいます。 本条は、「一方の締約国の居住者」の定義等を ただし、国内に源泉のある所得のみについて租 規定しています。 税を課される者は、「一方の締約国の居住者」 には含まれません。 2 解説 また、一方の締約国、その州及びその地方政 ⑴ 「一方の締約国の居住者」の定義(本条 1 ) 府又は地方公共団体は「一方の締約国の居住 本条 1 は、「一方の締約国の居住者」の定義 者」に含まれることが明らかにされています。 を規定しています。協定の適用上、 「一方の締 (注) 議定書 2 は、ある者が、一方の締約国の租 約国の居住者」とは、 「一方の締約国の法令の 税に関する法令に規定する租税の免除の要件 下において、住所、居所、事業の管理の場所、 を満たすことによってその所得の全部又は一 本店又は主たる事務所の所在地その他これらに 部が当該一方の締約国において租税を免除さ ─ 704 ─ ――租税条約の締結・改正―― 約国の居住者 れる場合においても、一方の締約国において ③ 上記②によって決定することができない場 租税を課されるべきものとされる者であるこ 合には、その個人が国民である締約国の居住 とを確認しています。 者 ⑵ 双方居住者の振分けルール(本条 2 及び 3 ) ④ 上記①から③までによっても決定すること 本条 2 及び 3 は、 「双方居住者」を協定上い ができない場合には、両締約国の権限のある ずれか一方の締約国の居住者に振り分けるため 当局の合意により解決されます。 のルールを規定しています。 また、個人以外の者が「双方居住者」に該当 個人が「双方居住者」に該当する場合には、 する場合には、本条 3 に従って、その者の事業 以下のとおりいずれか一方の締約国の居住者と の実質的な管理の場所、その者の本店又は主た みなされます(本条 2 ) 。 る事務所の所在地、その者が設立された場所そ ① その使用する恒久的住居が所在する締約国 の他関連する全ての要因について考慮した上で、 の居住者。我が国とドイツの双方に恒久的住 両締約国の権限のある当局が合意により決する 居を有する場合には、人的及び経済的関係が よう努めることとされています。そのような合 より密接な締約国(重要な利害関係の中心が 意がない場合には、その者は、協定により認め ある締約国)の居住者 られる特典を要求する上で、いずれの締約国の 居住者ともされません。 ② 上記①によって決定することができない場 合には、その有する常用の住居が所在する締 五 恒久的施設(第 5 条) います。 1 本条の趣旨 ① 事業の管理の場所 協定は、事業利得に対する課税、配当等に対す ② 支店 る源泉地国課税、給与所得に関する短期滞在者免 ③ 事務所 税等について、 「恒久的施設」との関連を基準と ④ 工場 して課税関係を決定しています。 ⑤ 作業場 本条は、この「恒久的施設」の定義等を規定し ⑥ 鉱山、石油又は天然ガスの坑井、採石場そ の他天然資源を採取する場所 ています。 2 解説 ⑶ 建築工事現場等(本条 3 ) ⑴ 「恒久的施設」の定義(本条 1 ) 本条 3 は、建築工事現場又は建設若しくは据 本条 1 は、「恒久的施設」の定義を規定して 付けの工事であって12か月を超える期間存続す います。「恒久的施設」とは、事業を行う一定 るものは、恒久的施設を構成すると規定してい の場所であって企業がその事業の全部又は一部 ます。 を行っているものをいいます。 ⑷ 恒久的施設を有するとはされない活動(本条 4) ⑵ 恒久的施設の例示(本条 2 ) 本条 2 は、本条 1 の規定を踏まえ、恒久的施 本条 4 は、事業を行う一定の場所であっても、 設に該当するものとして、次のものを例示して 次のいずれかに該当することを行う場合は、恒 ─ 705 ─ ――租税条約の締結・改正―― 久的施設に当たらないことを規定しています。 その企業は、代理人が企業のために行う全ての ① 企業に属する物品又は商品の保管、展示又 活動について、当該一方の締約国内に恒久的施 は引渡しのためにのみ施設を使用すること。 設を有するものとされます。ただし、代理人の 活動が本条 4 に規定する活動のみである場合は、 ② 企業に属する物品又は商品の在庫を保管、 恒久的施設を有するものとはされません。 展示又は引渡しのためにのみ保有すること。 ③ 企業に属する物品又は商品の在庫を他の企 ⑹ 独立の地位を有する代理人(本条 6 ) 業による加工のためにのみ保有すること。 ④ 企業のために物品若しくは商品を購入し、 本条 6 は、一方の締約国の企業について、独 又は情報を収集することのみを目的として、 立の地位を有する代理人を通じて他方の締約国 事業を行う一定の場所を保有すること。 内で事業活動を行っているという理由のみでは、 ⑤ 企業のためにその他の準備的又は補助的な 当該他方の締約国内に恒久的施設を有するもの 性格の活動を行うことのみを目的として、事 とはされないことを規定しています。ここでい 業を行う一定の場所を保有すること。 う「独立の地位を有する代理人」とは、「通常 の方法でその業務を行う仲立人、問屋その他の ⑥ 上記①から⑤までに規定する活動を組み合 独立の地位を有する代理人」をいいます。 わせた活動を行うことのみを目的として、事 業を行う一定の場所を保有すること。ただし、 その一定の場所におけるこのような組合せに ⑺ 法人間に支配関係がある場合の取扱い(本条 よる活動の全体が準備的又は補助的な性格の 7) ものである場合に限ります。 本条 7 は、法人間に支配関係があるという事 実のみによっては、いずれの一方の法人も他方 ⑸ 従属代理人(本条 5 ) の法人の恒久的施設とはされないことを規定し 本条 5 は、企業が代理人を通じて行う活動に ています。法人間の支配関係とは、一方の締約 ついて、恒久的施設を有するものとされる場合 国の居住者である法人が、他方の締約国の居住 を規定しています。具体的には、ある企業の代 者である法人又は他方の締約国において事業を 理人(本条 6 に規定する独立の地位を有する代 行う法人(その事業が恒久的施設を通じて行わ 理人を除きます。 )が、一方の締約国内で、そ れるものであるかどうかは問いません。)を支 の企業の名において契約を締結する権限を有し、 配し、又はこれらに支配されていることをいい かつ、この権限を反復して行使する場合には、 ます。 六 不動産所得(第 6 条) 業又は林業から生ずる所得を含みます。)につ 1 本条の趣旨 いては、その不動産が存在する他方の締約国に 本条は、不動産から生ずる所得に対する課税上 おいて課税することができることを規定してい の取扱いを規定しています。 ます。 2 解説 ⑵ 「不動産」の定義(本条 2 ) ⑴ 不動産から取得する所得の取扱い(本条 1 ) 本条 2 は、 「不動産」の定義を規定していま 本条 1 は、一方の締約国の居住者が他方の締 す。協定上、 「不動産」とは、その財産が存在 約国内に存在する不動産から取得する所得(農 する締約国の法令における不動産の意義を有す ─ 706 ─ ――租税条約の締結・改正―― 利 るものとされています。なお、船舶及び航空機 は「不動産」とはみなさないとされていますが、 次のものは「不動産」に含まれるとされていま ⑶ 本条 1 が適用される所得(本条 3 ) す。 本条 3 は、不動産の直接使用、賃貸その他の ① 不動産に附属する財産 全ての形式による使用から生ずる所得について、 ② 農業又は林業に用いられる家畜類及び設備 本条 1 が適用されることを規定しています。 ③ 不動産に関する一般法の規定の適用がある ⑷ 企業の不動産から生ずる所得の取扱い(本条 権利 ④ 不動産用益権 4) ⑤ 鉱石、水その他の天然資源の採取又は採取 本条 4 は、企業の不動産から生ずる所得につ の権利の対価として料金(変動制であるか固 いては、第 7 条(事業利得)ではなく、本条が 定制であるかを問いません。 )を受領する権 適用されることを規定しています。 七 事業利得(第 7 条) ⑵ 恒久的施設に帰せられる利得の計算(本条 1 本条の趣旨 2) 本条は、企業が事業活動によって取得する利得 本条 2 は、本条及び第22条(二重課税の除 に対する課税上の取扱いを規定しています。 去)の規定の適用上、各締約国において恒久的 施設に帰せられる利得は、企業がその恒久的施 2 解説 設及びその企業の他の構成部分を通じて果たす ⑴ 「恒久的施設なければ課税なし」の原則及び 「帰属主義」 (本条 1 ) 機能、使用する資産及び引き受ける危険を考慮 した上で、その恒久的施設が同一又は類似の条 本条 1 は、企業が事業活動によって取得する 件で同一又は類似の活動を行う分離し、かつ、 利得に対する課税に関して、二つの原則を規定 独立した企業であるとしたならば、特にその企 しています。 業の他の構成部分との取引においても、その恒 一つはいわゆる「恒久的施設なければ課税な 久的施設が取得したとみられる利得とすること し」の原則で、一方の締約国の企業の利得に対 を規定しています。 しては、その企業が他方の締約国内にある恒久 本条 2 の下では、①恒久的施設の果たす機能 的施設を通じて他方の締約国内において事業を 及び事実関係に基づいて、取引、資産、リスク 行わない限り、一方の締約国においてのみ租税 及び資本を恒久的施設に帰属させるとともに、 を課することができるとされています。 ②恒久的施設とその企業の他の構成部分との取 もう一つはいわゆる「帰属主義」の原則で、 引(以下「内部取引」といいます。)を認識し、 一方の締約国の企業が他方の締約国内にある恒 その内部取引が独立企業間価格で行われたもの 久的施設を通じて他方の締約国内において事業 として、恒久的施設に帰せられる利得を算定す を行う場合には、本条 2 の規定によりその恒久 ることとなります。 的施設に帰せられる利得に対しては、他方の締 なお、内部取引の認識は、あくまでも恒久的 約国において租税を課することができることと 施設に帰せられる利得の算定のために認識され されています。 るものであって、協定の他の条に及ぶものでは ありません。例えば、恒久的施設とその企業の ─ 707 ─ ――租税条約の締結・改正―― 他の構成部分との間の金銭貸借に基づく利子の て課された租税の額について適当な調整(対応 支払を恒久的施設に帰せられる利得を算定する 的調整)を行うことを規定しています。なお、 ために認識するとしても、利子に対する課税関 一方の締約国が行った調整について他方の締約 係を規定する第11条(利子)の適用に関しては、 国の権限のある当局が同意しない場合には、両 その支払は利子として認識されません。 締約国の権限のある当局は、合意によって、そ の場合に生ずる全ての二重課税を除去するよう ⑶ 恒久的施設に帰せられる利得の対応的調整 努めることとされています。 (本条 3 ) 一方の締約国が、いずれかの締約国の企業の ⑷ 本条と他の条との関係(本条 4 ) 恒久的施設に帰せられる利得を本条 2 の規定に 本条 4 は、配当や利子など、他の条で別個に より調整し、それに伴い、他方の締約国におい 取り扱われる種類の所得が企業の利得に含まれ て租税を課されたその企業の利得に租税を課す ている場合には、他の条の規定が優先的に適用 る場合には、双方の締約国が同一の利得につい されることを規定しています。もっとも、第10 て課税するという二重課税の状態が生ずること 条 6 (配当)、第11条 3 (利子)、第12条 3 (使 になります。本条 3 は、このような状況に対応 用料)及び第20条 2 (その他の所得)は、これ するため、他方の締約国は、一方の締約国が行 らの所得の支払の基因となった資産が、これら った調整について同意する場合には、その利得 の所得が生ずる締約国内に所在する恒久的施設 に対する二重課税を除去するために必要な範囲 と実質的な関連を有する場合には、本条が適用 に限り、その利得に対して他方の締約国におい されることを規定しています。 八 海上運送及び航空運送(第 8 条) は、企業が裸用船による船舶又は航空機の賃貸 1 本条の趣旨 によって取得する利得及び物品又は商品の運送 本条は、船舶又は航空機を国際運輸に運用する のために使用されるコンテナー(コンテナーの ことによって取得する利得(以下「国際運輸業利 運送のためのトレーラー及び関連設備を含みま 得」といいます。 )に対する課税上の取扱いを規 す。)の使用、保管又は賃貸から取得する利得 定しています。 が含まれます。ただし、その使用、保管又は賃 貸が船舶又は航空機を国際運輸に運用すること 2 解説 に付随する場合に限ることとされています。 ⑴ 国際運輸業利得の取扱い(本条 1 ) 本条 1 は、企業が取得する国際運輸業利得に ⑶ 共同事業に係る国際運輸業利得の取扱い(本 対しては、その企業の居住地国においてのみ課 条3) 税することができることを規定しています。 本条 3 は、企業が共同計算、共同経営又は国 際経営共同体に参加していることによって取得 ⑵ 国際運輸業利得の範囲(本条 2 ) する国際運輸業利得についても、本条 1 及び 2 本条 2 は、国際運輸業利得の範囲について規 定しています。具体的には、国際運輸業利得に ─ 708 ─ の規定が適用されることを規定しています。 ――租税条約の締結・改正―― 九 関連企業(第 9 条) ⑵ 対応的調整(本条 2 ) 1 本条の趣旨 本条 1 に基づいて、一方の締約国が企業の利 関連企業間の取引においては、独立した企業間 得を更正して課税した場合、更正された部分の で用いられる取引価格(以下「独立企業間価格」 利得は他方の締約国の関連企業の利得にも含ま といいます。 )とは異なる取引価格が用いられる れて課税されていることから、双方の締約国が ことによって、所得が関連企業間で移転されるこ 同一の利得について課税するという二重課税の とがあります。 状態が生ずることになります。本条 2 は、この 本条は、関連企業間の取引価格を独立企業間価 ような二重課税を除去するため、他方の締約国 格に引き直してそれぞれの企業の利得を計算する が関連企業の利得を減額調整(対応的調整)す という独立企業原則に基づく課税(いわゆる移転 ることを規定しています。なお、この調整に当 価格税制)に関するルールを定めています。 たっては、両締約国の権限のある当局は、必要 があるときは、相互に協議することとされてい 2 解説 ます。 ⑴ 独立企業原則に基づく課税のルール(本条 ⑶ 利得の調整ができる期間の制限(本条 3 ) 1) 本条 1 は、親子関係や兄弟関係にある関連企 本条 3 は、本条 1 に基づく利得の更正が認め 業間において、独立した企業間に設けられる取 られる期間を、企業の利得に係る課税年度の終 引条件とは異なる取引条件が設定されており、 了時から10年以内の期間に制限することを規定 これにより企業の利得が減少していると認めら しています。ただし、不正に租税を免れた場合 れる場合には、その企業の利得を独立した企業 又は一方の締約国の権限のある当局がその10年 間の取引において得られたであろう利得に引き の期間内に他方の締約国の企業(注 1 )につい 直して課税することができることを規定してい て当該他方の締約国の権限のある当局に通知し ます。 た場合(注 2 )には、この制限は適用されませ 企業間の関係が以下のいずれかに該当する場 ん。 合には、その関係にある企業は関連企業とされ (注 1 ) ここでいう他方の締約国の企業は、当該 ます。 他方の締約国に対するその納税義務が、当 ① 一方の締約国の企業が他方の締約国の企業 該一方の締約国の企業に対する当該一方の の経営、支配又は資本に直接又は間接に参加 締約国による本条 1 に規定する課税によっ している場合(親子関係にある場合) て、直接に影響を受けるものに限られます。 ② 同一の者が一方の締約国の企業及び他方の (注 2 ) ここでいう通知とは、例えば、一方の締 締約国の企業の経営、支配又は資本に直接又 約国が当該企業の利得に対して更正処分を は間接に参加している場合(兄弟関係にある する意図があることを通知する場合などを 場合) 想定しています。 ─ 709 ─ ――租税条約の締結・改正―― 十 配当(第10条) 免税とされます。 1 本条の趣旨 本条は、配当に対する源泉地国における限度税 ⑶ 配当を支払う法人の利得に対する課税(本条 率や免税など、配当に対する課税上の取扱いを規 4) 定しています。 本条 4 は、本条 2 及び 3 の規定が、配当を支 払う法人のその配当に充てられる利得に対する 2 解説 課税に影響を及ぼすものではないことを規定し ⑴ 居住地国の課税(本条 1 ) ています。 本条 1 は、一方の締約国の居住者である法人 が他方の締約国の居住者に支払う配当に対して ⑷ 「配当」の定義(本条 5 ) は、配当を受け取る者が居住者とされる他方の 本条 5 は、「配当」の定義を規定しています。 締約国(居住地国)において課税することがで 協定の適用上、「配当」とは、株式、受益株式、 きることを規定しています。 鉱業株式、発起人株式その他利得の分配を受け る権利(信用に係る債権を除きます。 )から生 ⑵ 源泉地国の課税(本条 2 及び 3 ) ずる所得及びその分配を行う法人が居住者とさ 本条 2 は、配当を支払う法人が居住者とされ れる締約国の租税に関する法令上株式から生ず る一方の締約国(源泉地国)においても課税す る所得と同様に取り扱われる他の所得をいいま ることができることを規定するとともに、その す。 配当の受益者が他方の締約国の居住者である場 合に源泉地国において課税することができる税 ⑸ 恒久的施設に実質的に関連する配当の取扱い (本条 6 ) 率の上限(限度税率)を規定しています。 具体的には、配当の受益者が、その配当の支 本条 6 は、配当の支払の基因となった株式そ 払を受ける者が特定される日(いわゆる基準 の他の持分が、その配当の受益者が源泉地国内 日)をその末日とする 6 か月の期間を通じて、 に有する恒久的施設と実質的な関連を有する場 その配当を支払う法人の議決権のある株式の10 合には、第 7 条(事業利得)が適用されること %以上を直接に所有する法人(組合を除きま を規定しています。この場合には、本条に規定 す。 )である場合には限度税率は 5 %(本条 2 する配当に対する源泉地国課税の制限は適用さ ⒜)とされ、それ以外の場合には15%(本条 2 れません。 ⒝)とされています。 さらに、本条 3 は、一定の場合に源泉地国の ⑹ 追いかけ課税の禁止(本条 7 ) 課税を免除することを規定しています。 本条 7 は、一方の締約国の居住者である法人 具体的には、配当の受益者が、その配当の支 が支払う配当及びその法人の留保所得について 払を受ける者が特定される日(いわゆる基準 は、その配当及び留保所得の原資となった所得 日)をその末日とする18か月の期間を通じ、そ が他方の締約国内から生じたものであっても、 の配当を支払う法人の議決権のある株式の25% 他方の締約国はその配当又は留保所得に対して 以上を直接に所有する法人 (組合を除きます。 ) 課税することができないことを規定しています。 である場合には、その配当は源泉地国において ただし、配当が他方の締約国の居住者に支払わ ─ 710 ─ ――租税条約の締結・改正―― れる場合及び配当の支払の基因となった株式そ と実質的な関連を有する場合には、本規定は適 の他の持分が他方の締約国内にある恒久的施設 用されません。 十一 利子(第11条) る「配当」に該当する所得及び支払の遅延に対 1 本条の趣旨 して課される損害金は、本条の適用上「利子」 には該当しないこととされています。 本条は、利子に対する源泉地国免税など、利子 に対する課税上の取扱いを規定しています。 ⑶ 恒久的施設に実質的に関連する利子の取扱い 2 解説 (本条 3 ) ⑴ 源泉地国免税(本条 1 ) 本条 3 は、利子の支払の基因となった債権が、 本条 1 は、一方の締約国において生じ、他方 その利子の受益者が源泉地国内に有する恒久的 の締約国の居住者が受益者である利子に対して 施設と実質的な関連を有する場合には、第 7 条 は、利子の受益者が居住者とされる他方の締結 (事業利得)が適用されることを規定していま 国(居住地国)においてのみ課税できることを す。この場合には、本条に規定する利子に対す 規定しています。 る源泉地国免税は適用されません。 ⑷ 独立企業間価格を超過する利子の取扱い(本 ⑵ 「利子」の定義(本条 2 ) 条4) 本条 2 は、 「利子」の定義を規定しています。 「利子」とは、担保の有無及び債務者の利得の 本条 4 は、関連者間において独立企業間の取 分配を受ける権利の有無を問わず、全ての種類 引条件と異なる取引条件に基づいて利子が支払 の信用に係る債権から生じた所得をいいます。 われた場合には、独立企業間価格を超過する部 また、他の所得でその所得が生じた締約国の租 分の利子については、本条に基づく源泉地国免 税に関する法令上貸付金から生じた所得と同様 税を適用せず、協定の他の規定を考慮した上で、 に取り扱われるものも「利子」に該当するとさ 源泉地国の法令に従って課税できることを規定 れています。ただし、第10条(配当)に規定す しています。 十二 使用料(第12条) 締約国(居住地国)においてのみ課税できるこ 1 本条の趣旨 とを規定しています。 本条は、使用料に対する源泉地国免税など、使 用料に対する課税上の取扱いを規定しています。 ⑵ 使用料の定義(本条 2 ) 本条 2 は、 「使用料」の定義を規定していま 2 解説 す。「使用料」とは、以下の対価として受領さ ⑴ 源泉地国免税(本条 1 ) れる全ての種類の支払金をいいます。 本条 1 は、一方の締約国において生じ、他方 ① 文学上、芸術上又は学術上の著作物(映画 の締約国の居住者が受益者である使用料に対し フィルムを含みます。)の著作権、特許権、 ては、使用料の受益者が居住者とされる他方の 商標権、意匠、模型、図面、秘密方式又は秘 ─ 711 ─ ――租税条約の締結・改正―― せん。 密工程の使用又は使用の権利 ② 産業上、商業上又は学術上の経験に関する ⑷ 独立企業間価格を超過する使用料の取扱い 情報 (本条 4 ) ⑶ 恒久的施設に実質的に関連する使用料の取扱 本条 4 は、関連者間において独立企業間の取 い(本条 3 ) 引条件と異なる取引条件に基づいて使用料が支 本条 3 は、使用料の支払の基因となった権利 払われた場合には、独立企業間価格を超過する 又は財産が、その使用料の受益者が源泉地国内 部分の使用料については、本条に基づく源泉地 に有する恒久的施設と実質的な関連を有する場 国免税を適用せず、協定の他の規定を考慮した 合には、第 7 条(事業利得)が適用されること 上で、源泉地国の法令に従って課税できること を規定しています。この場合には、本条に規定 を規定しています。 する使用料に対する源泉地国免税は適用されま 十三 譲渡収益(第13条) ⑶ 恒久的施設の事業用資産を構成する財産の譲 1 本条の趣旨 渡(本条 3 ) 本条は、財産の譲渡によって取得する収益に対 本条 3 は、恒久的施設の事業用資産を構成す する課税上の取扱いを規定しています。 る財産(不動産を除きます。)の譲渡から生ず る収益(恒久的施設の譲渡又は企業全体の譲渡 2 解説 の一部としての恒久的施設の譲渡から生ずる収 ⑴ 不動産の譲渡(本条 1 ) 益を含みます。)に対しては、その恒久的施設 の所在地国において課税できることを規定して 本条 1 は、一方の締約国の居住者が第 6 条 います。 (不動産所得)に規定する不動産であって他方 の締約国内に存在する不動産の譲渡によって取 得する収益に対しては、その不動産の所在地国 である他方の締約国において課税できることを ⑷ 国際運輸に運用される船舶又は航空機の譲渡 (本条 4 ) 本条 4 は、一方の締約国の企業が国際運輸に 規定しています。 運用する船舶若しくは航空機又はこれらの船舶 ⑵ 不動産化体株式の譲渡(本条 2 ) 若しくは航空機の運用に係る財産(不動産を除 本条 2 は、一方の締約国の居住者が法人、組 きます。)の譲渡によって取得する収益に対し 合又は信託財産(資産の価値の50%以上が第 6 ては、企業の居住地国である一方の締約国にお 条(不動産所得)に規定する不動産であって他 いてのみ課税できることを規定しています。 方の締約国内に存在するものにより直接又は間 接に構成されるものに限ります。 )の株式又は ⑸ その他の財産の譲渡(本条 5 ) 持分の譲渡によって取得する収益に対しては、 本条 5 は、本条 1 から 4 までに規定する財産 その不動産の所在地国である他方の締約国にお 以外の財産の譲渡から生ずる収益に対しては、 いて課税できることを規定しています。 譲渡者の居住地国においてのみ課税できること を規定しています。 ─ 712 ─ ――租税条約の締結・改正―― 十四 給与所得(第14条) ついては、本条 1 の規定にかかわらず、他方の 1 本条の趣旨 締約国において免税とされることを規定してい 本条は、給与所得に対する課税上の取扱いを規 ます。 定しています。 ① 給与等を取得する者が他方の締約国内に滞 在する期間が、その課税年度において開始し、 2 解説 又は終了するいずれの12か月の期間において ⑴ 給与所得に対する課税(本条 1 ) も、合計183日以内であること。 本条 1 は、一方の締約国の居住者がその勤務 ② 給与等が、他方の締約国の居住者でない雇 について取得する給料、賃金その他これらに類 用者又はこれに代わる者から支払われるもの する報酬(十四において「給与等」といいま であること。 す。)に対しては、その勤務が他方の締約国内 ③ 給与等が、雇用者が他方の締約国内に有す で行われる場合に限り、他方の締約国において る恒久的施設によって負担されるものでない も課税することができることを規定しています。 こと。 ただし、給与等が第15条(役員報酬) 、第16条 (芸能人及び運動家) 、第17条(退職年金その他 ⑶ 国際運輸に運用する船舶内又は航空機内の勤 これに類する給付)又は第18条(政府職員)の 務に係る報酬(本条 3 ) 各条に規定する所得に該当する場合は、これら 本条 3 は、一方の締約国の企業が国際運輸に の規定が適用されます。 運用する船舶内又は航空機内において行われる 勤務に係る給与等に対しては、本条 1 及び 2 の ⑵ 短期滞在者免税(本条 2 ) 規定にかかわらず、企業の居住地国である一方 本条 2 は、次の①から③までの要件を全て満 の締約国において課税できることを規定してい たす場合には、一方の締約国の居住者が他方の ます。 締約国内で行う勤務について取得する給与等に 十五 役員報酬(第15条) 1 本条の趣旨 2 解説 本条は、法人の役員の報酬に対する課税上の取 本条は、一方の締約国の居住者が他方の締約国 扱いを規定しています。 の居住者である法人の役員の資格で取得する報酬 に対しては、他方の締約国において課税できるこ とを規定しています。 ─ 713 ─ ――租税条約の締結・改正―― 十六 芸能人及び運動家(第16条) す。 )によって取得する所得に対しては、第14 1 本条の趣旨 条(給与所得)の規定にかかわらず、その活動 本条は、芸能人又は運動家として行う個人的活 が行われた他方の締約国(役務提供地国)にお 動によって取得する所得に対する課税上の取扱い いて課税できることを規定しています。 を規定しています。 ⑵ 芸能法人等が取得する報酬の取扱い(本条 2 解説 2) ⑴ 芸能人等が取得する所得の取扱い(本条 1 ) 本条 2 は、芸能人等の芸能活動等に関する所 本条 1 は、一方の締約国の居住者が、演劇、 得が芸能人等以外の者(いわゆる芸能法人等) 映画、ラジオ若しくはテレビジョンの俳優、音 に帰属する場合には、第14条(給与所得)の規 楽家その他の芸能人又は運動家(以下「芸能人 定にかかわらず、その役務提供地国において課 等」といいます。 )として他方の締約国内で行 税することができることを規定しています。 う個人的活動(以下「芸能活動等」といいま 十七 退職年金その他これに類する給付(第17条) 地国)において課税できることを規定していま 1 本条の趣旨 す。 本条は、退職年金等に対する課税上の取扱いを ⑵ 政治的迫害又は戦争の結果受けた傷害等に対 規定しています。 する補償の取扱い(本条 2 ) 2 解説 本条 2 は、本条 1 の規定にかかわらず、政治 ⑴ 退職年金その他これに類する報酬等の取扱い 的迫害又は戦争の結果受けた傷害若しくは損害 (本条 1 ) に対する補償(損害賠償を含みます。)として、 本条 1 は、第18条 2 (政府等から支払われる 一方の締約国、一方の締約国の州又は一方の締 退職年金等)が適用される場合を除いて、一方 約国の地方政府若しくは地方公共団体によって の締約国内において生ずる退職年金その他これ 他方の締約国の居住者である者に支払われる継 に類する報酬又は社会保障に関する法令に基づ 続的又は一時的な給付に対しては、当該一方の く給付(十七において「退職年金等」といいま 締約国(当該補償等の支払地)においてのみ課 す。)であって他方の締約国の居住者に支払わ 税できることを規定しています。 れるものに対しては、当該一方の締約国(源泉 十八 政府職員(第18条) て政府等から支払われる給与等に対する課税上の 1 本条の趣旨 取扱いを規定しています。 本条は、政府等に対して提供される役務につい ─ 714 ─ ――租税条約の締結・改正―― とを規定しています。 2 解説 ただし、その個人が他方の締約国の居住者で ⑴ 政府等から支払われる報酬の取扱い(本条 あり、かつ、他方の締約国の国民である場合に 1) は、その退職年金等に対しては、他方の締約国 本条 1 は、一方の締約国、その州又はその地 においてのみ課税することができます。 方政府若しくは地方公共団体に対して提供され る役務について、個人に対し、当該一方の締約 ⑶ 事業に関連して支払われる報酬の取扱い(本 国、その州又はその地方政府若しくは地方公共 条3) 団体によって支払われる給料、賃金その他これ 本条 3 は、一方の締約国、その州又はその地 らに類する報酬(十八において「給与等」とい 方政府若しくは地方公共団体の行う事業に関連 います。)に対しては、当該一方の締約国(支 して提供される役務について支払われる給与等 払国)においてのみ課税できることを規定して 及び退職年金等については、第14条(給与所 います(本条 1 ⒜) 。 得)、第15条(役員報酬)、第16条(芸能人及び ただし、その役務が他方の締約国内において 運動家)又は第17条(退職年金その他これに類 提供され、かつ、その個人が次の①又は②に該 する給付)の規定が適用されることを規定して 当する他方の締約国の居住者である場合には、 います。 その給与等に対しては、他方の締約国において ⑷ ゲーテ・インスティトゥート、ドイツ学術交 のみ課税することができます(本条 1 ⒝) 。 ① 他方の締約国の国民 流会等に対し提供される役務に関連して支払わ ② 専らその役務を提供するため他方の締約国 れる報酬の取扱い(本条 4 ) 本条 4 は、ゲーテ・インスティトゥート、ド の居住者となった者でないもの イツ学術交流会又は両締約国の政府が外交上の ⑵ 退職年金等の取扱い(本条 2 ) 公文の交換により合意するその他これらに類す 本条 2 は、本条 1 の規定にかかわらず、一方 る機関に対し提供される役務について、個人に の締約国、その州又はその地方政府若しくは地 対し、これらの機関から支払われる給与等及び 方公共団体に対して提供される役務について、 退職年金等について、本条 1 及び 2 の規定が準 個人に対し、当該一方の締約国、その州若しく 用されることを規定しています。ただし、これ はその地方政府若しくは地方公共団体によって らの機関が設立された締約国において、こうし 支払われ、又はこれらが設立し、若しくは拠出 た給与等が課税されない場合には、第14条(給 した基金から支払われる退職年金その他これに 与所得)から第17条(退職年金その他これに類 類する報酬(十八において「退職年金等」とい する給付)までの規定を適用することとされて います。)に対しては、当該一方の締約国(退 います。 職年金等の支払国)においてのみ課税できるこ 十九 学生(第19条) 1 本条の趣旨 2 解説 本条は、学生等に関する課税上の取扱いを規定 本条は、専ら教育又は訓練を受けるため一方の しています。 締約国内に滞在する学生又は事業修習者であって、 ─ 715 ─ ――租税条約の締結・改正―― 現に他方の締約国の居住者であるもの又はその滞 国)において免税とされることを規定しています。 在の直前に他方の締約国の居住者であったものが ただし、事業修習者に対する免税は、滞在地国内 その生計、教育又は訓練のために受け取る給付 において最初に訓練を開始した日から 1 年を超え (当該一方の締約国外から支払われるものに限り ない期間についてのみ適用されます。 ます。)については、当該一方の締約国(滞在地 二十 その他の所得(第20条) 産」の定義)に規定する不動産から生ずる所得 1 本条の趣旨 を除きます。)の支払の基因となった権利又は 本条は、その他の所得に対する課税上の取扱い 財産が、その所得の受益者が源泉地国内に有す を規定しています。 る恒久的施設と実質的な関連を有する場合には、 第 7 条(事業利得)が適用されることを規定し 2 解説 ています。この場合には、本条に規定するその ⑴ その他の所得の取扱い(本条 1 ) 他の所得に対する源泉地国免税は適用されませ ん。 本条 1 は、一方の締約国の居住者が受益者で ある所得であって、第 6 条(不動産所得)から 第19条(学生)までに規定されている各種の所 ⑶ 独立企業間価格を超過するその他の所得の取 得に該当しないもの(以下「その他の所得」と 扱い(本条 3 ) いいます。 )に対しては、その源泉地を問わず、 本条 3 は、関連者間において独立企業間の取 受益者の居住地国である一方の締約国において 引条件と異なる取引条件に基づいてその他の所 のみ課税できることを規定しています。 得が支払われた場合には、独立企業間価格を超 過する部分の所得については、本条に基づく源 ⑵ 恒久的施設に実質的に関連するその他の所得 泉地国免税を適用せず、協定の他の規定を考慮 の取扱い(本条 2 ) した上で、源泉地国の法令に従って課税するこ 本条 2 は、その他の所得(第 6 条 2 ( 「不動 とができることを規定しています。 二十一 特典を受ける権利(第21条) ます。 1 本条の趣旨 協定において、特に、配当、利子及び使用料に 2 解説 対する源泉地国免税を導入したことから、第三国 本条 1 から 7 まではいわゆる特典制限規定 の居住者が形式的に締約国の居住者となることに (LOB:Limitation on Benefits)を、本条 8 はい より協定が濫用される可能性が増すこととなりま わ ゆ る 主 要 目 的 テ ス ト 規 定(PPT:Principal す。こうしたことを踏まえ、本条では、協定が規 Purpose Test)を、本条 9 は国内法令上の濫用 定する全ての特典について、特典を享受できる者 防止規定と協定との関係について規定しています。 を一定の要件を満たす者に限定するとともに、取 引が協定の濫用を主たる目的とすると認められる ⑴ 適格者基準(本条 1 及び 2 ) 場合には協定の特典を与えないことを規定してい ─ 716 ─ 一方の締約国の居住者が他方の締約国内にお ――租税条約の締結・改正―― 合 いて所得を取得した場合、協定上の別の条に規 ② 当該法人の議決権のある株式その他の受益 定する各要件を満たし、かつ、以下のいずれか の適格者に該当するときに限り、その居住者は、 に関する持分の90%以上が、当該所得を直接 それらの別の条に規定する租税の減免(特典) に取得したとしたならばこの協定又は当該所 を受けることができることとされています。 得が生ずる締約国が他の国との間で締結した ① 個人 協定に基づいて同等の又はより有利な特典を ② 適格政府機関 受けることができる者によって直接又は間接 ③ 法人(その主たる種類の株式が、一又は二 に所有される場合 以上の公認の有価証券市場に上場され、又は 登録され、かつ、通常取引されるものに限り ⑶ 適格要件の判定基準(本条 4 ) 本条 4 は、本条 2 ⒡又は 3 (上記⑴⑥又は ます。 ) ⑵)に規定する株式等の所有に関する要件(以 ④ 年金基金又は年金計画(その課税年度の直 前の課税年度の終了の日においてその受益者、 下「支配要件」といいます。)の適用に当たっ 構成員又は参加者の50%を超えるものがいず ては、次の基準によることを規定しています。 れかの締約国の居住者である個人であるもの ① 源泉徴収による課税については、一方の締 約国の居住者は、その所得の支払が行われる に限ります。 ) 日に先立つ12か月の期間を通じて、支配要件 ⑤ 当該一方の締約国の法令に基づいて設立さ を満たしていること。 れた者であって、専ら宗教、慈善、教育、科 学、芸術、文化その他公の目的のために運営 ② その他の全ての場合については、一方の締 されるもの(当該一方の締約国の法令におい 約国の居住者は、課税年度の総日数の半数以 て所得の全部又は一部に対する租税が免除さ 上の日において、支配要件を満たしているこ れるものに限ります。 ) と。 ⑥ 個人以外の者であって、上記①から⑤まで に掲げる適格者である当該一方の締約国の居 ⑷ 事業活動基準(本条 5 ) 住者が、議決権のある株式その他の受益に関 本条 5 は、一方の締約国の居住者が本条 2 に する持分の65%以上を直接又は間接に所有す 掲げる適格者に該当しない場合であっても、他 るもの 方の締約国において取得する所得に関し、次の ①から③までの要件を満たす場合には、協定に ⑵ 派生的受益基準(本条 3 ) 基づく特典を受けることができることを規定し 本条 3 は、一方の締約国の居住者である法人 ています(本条 5 ⒜)。 が、本条 2 に掲げる適格者に該当しない場合で ① 居住者が一方の締約国内において事業の活 あっても、次の①又は②の要件を満たすときは、 動に従事していること(ただし、この事業に 他方の締約国から取得する所得に関して、協定 は、居住者が自己の勘定のために投資を行い、 の特典の適用を受けることができることを規定 又は管理するものは含まないこととされてい しています。 ます。もっとも、銀行、保険会社又は証券会 ① 当該法人の議決権のある株式その他の受益 社が行う銀行業、保険業又は証券業はここで に関する持分の65%以上が、当該所得を直接 除外される事業には含まないこととされてい に取得したとしたならばこの協定に基づいて ます。 ) 。 同等の又はより有利な特典を受けることがで ② 他方の締約国において取得する所得が、上 きる者によって直接又は間接に所有される場 記①に規定する事業に関連又は付随して取得 ─ 717 ─ ――租税条約の締結・改正―― 締約国(源泉地国)の権限のある当局が、その されるものであること。 ③ 協定の関連規定において定められている、 法令等に従って、その居住者の設立、取得又は 特典を受けるために必要な他の要件を満たす 維持及びその業務の遂行について協定の特典を こと。 受けることをその主たる目的の一つでないと認 また、一方の締約国の居住者が、他方の締約 定したときは、その居住者は、協定に基づく全 国(源泉地国)内において行う事業から所得を ての特典、又は他方の締約国において取得する 取得する場合又は他方の締約国内で事業を行う 所得に関する協定に基づく特典を受けることが 関連企業からその他方の締約国(源泉地国)内 できることとされています。 において生ずる所得を取得する場合には、当該 一方の締約国の居住者により本条 6 の規定に 他方の締約国内において行う事業との関係にお 基づいて要請が行われた他方の締約国の権限の いてその居住者の居住地国における事業が実質 ある当局は、当該要請を拒否する前に、当該一 的なものである必要があります(本条 5 ⒝) 。 方の締約国の権限のある当局と協議しなくては 事業が実質的なものであるか否かは、全ての事 ならないとされています。 実及び状況に基づいて判断されます。 なお、ある者が一方の締約国内において事業 ⑹ 各用語の説明(本条 7 ) を行っているか否かを決定するに当たっては、 本条 7 は、本条で用いられる用語について、 その者が組合員である組合が行う事業及びその 次のとおり定義しています。 者に関連する者が行う事業(その者及びその者 ① 「適格政府機関」とは、一方の締約国の政 に関連する者が同一又は補完的な事業に従事し 府、その州の政府若しくはその地方政府若し ている場合に限ります。 )は、その者が行うも くは地方公共団体(以下「一方の締約国の政 のとみなします(本条 5 ⒞第一文) 。一方の者 府等」といいます。)、日本銀行、ドイツ連邦 が他方の者の受益に関する持分の50%以上を所 銀行又は一方の締約国の政府等が直接若しく 有する場合(親子会社等)及び第三者がそれぞ は間接に全面的に所有する者をいいます。 れの者の受益に関する持分の50%以上を所有す ② 「主たる種類の株式」とは、法人の議決権 る場合(兄弟会社等)には、一方の者と他方の のある株式の過半数を占める一又は二以上の 者は、関連するものとされます。 (本条 5 ⒞第 種類の株式をいいます。 ③ 「公認の有価証券市場」とは、次のものを 二文) 。 (注) 議定書 6 は、本条 5 について、関連者が行 いいます。 う事業の取扱いに関する本条 5 ⒞の規定は、 ⒤ 我が国の金融商品取引法(昭和23年法律 両者が同一の締約国の居住者であり、当該事 第25号)に基づき設立された有価証券市場 業が同一の締約国で行われる場合にのみ適用 ⅱ 金融商品市場指令(欧州議会・閣僚理事 会指令2004・39・EC)(改正を含みます。) されることを確認しています。 又は同指令を承継する指令に従って規制さ ⑸ 権限のある当局による認定(本条 6 ) れる市場 本条 6 は、一方の締約国の居住者が、適格者 ⅲ 香港取引所、ナスダック市場、ニューヨ (本条 2 )に該当せず、かつ、派生的受益基準 ーク証券取引所、シンガポール取引所、ス (本条 3 )又は事業活動基準(本条 5 )の規定 イス取引所及び台湾証券取引所 により対象となる所得について協定の特典を受 ⅳ この条の規定の適用上、両締約国の権限 ける権利を有する場合に該当しないときにおい のある当局が公認の有価証券市場として合 ても、その居住者からの要請に基づき、他方の 意するその他の有価証券市場 ─ 718 ─ ――租税条約の締結・改正―― ④ 「年金基金又は年金計画」とは、次の⒤又 る場合には、その所得については、特典を与え はⅱに規定する要件を満たす者をいいます。 ないこととしています(特典を与えることがこ ⒤ 専ら又は主として年金その他これに類す の協定の関連する規定の目的に適合することが 立証されるときを除きます)。 る給付を管理し、又は支給することを目的 として設立され、かつ、運営される者 ⅱ 上記⒤に規定する者の利益のために投資 ⑻ 協定と国内法令に規定される濫用防止規定と することを目的として設立され、かつ、運 の関係(本条 9 ) 営される者(ただし、その者の実質的に全 本条 9 は、協定の規定は、租税回避又は脱税 ての所得が、上記⒤に規定する者の利益の を防止するための一方の締約国の法令の規定の ために行われる投資から取得される場合に 適用をいかなる態様においても制限するものと 限ります。 ) 解してはならないことを規定しています。ただ し、本条 9 の規定が適用されるのは、その法令 ⑺ 主要目的テスト規定(本条 8 ) の規定が協定の目的に適合する場合に限ること とされています。 本 条 8 は、 い わ ゆ る 主 要 目 的 テ ス ト 規 定 (PPT:Principal Purpose Test)を規定してい (注) 議定書 7 は、本条 9 について、各締約国が ます。具体的には、協定の他の規定にかかわら その法令で規定する外国子会社合算税制等は、 ず、全ての関連する事実及び状況を考慮して、 租税回避又は脱税を防止するための一方の締 協定の特典を受けることがその特典を直接又は 約国の法令の規定であることを規定していま 間接に得ることとなる仕組み又は取引の主たる す。 目的の一つであったと判断することが妥当であ 二十二 二重課税の除去(第22条) ⑵ ドイツにおける二重課税除去(本条 2 ) 1 本条の趣旨 本条 2 は、ドイツにおいては、二重課税の除 本条は、各締約国が自国の居住者に対して二重 去は、国外所得免除又は外国税額控除のいずれ 課税を除去するための措置をとらなければならな かによって行われることを規定しています。 いことを規定しています。 ① 本条 2 ⒜は、本条 2 ⒞に定める場合を除く ほか、我が国において租税を課される所得は、 2 解説 ドイツの租税の課税標準から除外されること ⑴ 我が国における二重課税除去(本条 1 ) (国外所得免除)を規定しています。また、 本条 1 は、我が国の居住者が協定の規定に従 配当に関する国外所得免除は、ドイツの居住 ってドイツにおいて租税を課される所得をドイ 者である法人(組合を除きます。 )に対して ツ内から取得する場合には、その所得について 我が国の居住者である法人(その資本の10% 納付されるドイツの租税の額を、我が国の法令 以上をそのドイツの居住者である法人が直接 の規定に従って、我が国の租税の額から控除す に所有するものに限ります。 )が支払う配当 ることを規定しています。ただし、その控除の についてのみ適用することを規定しています。 額は、我が国の租税の額のうち、その所得に対 ただし、国外所得免除は、租税を免除される 応する部分を超えることはできません。 法人が支払う配当、配当を支払う法人が我が 国の租税に関して控除することができる配当 ─ 719 ─ ――租税条約の締結・改正―― 及びドイツの法令においてドイツの居住者で くは組立て、天然資源の探査及び採取、銀行 ある法人以外の者に帰せられる配当について 業及び保険業、商業若しくは役務の提供から は、適用しません。 生ずる場合又はこれらの利得、所得若しくは ② 本条 2 ⒝は、ドイツは税率の決定に当たっ 収益がこれらの活動に経済的に帰せられる場 て、協定の規定に基づいてドイツの租税を免 合に限り、適用することを規定しています 除された所得を考慮に入れる権利を有するこ (事業の目的のために十分に実体の備わった 事業活動が行われている場合に限ります。)。 とを規定しています。 ③ 本条 2 ⒞は、次に掲げる所得に関し、我が なお、上記①が適用されない場合には、二重 国の法令及び協定の規定に従ってその所得に 課税は上記③に規定する税額控除によって除 ついて支払われた我が国の租税の額は、ドイ 去されます。 ツの租税に関する法令の外国の租税の控除に ⑤ 本条 2 ⒠は、上記①(国外所得免除)にか 関する規定に従って、所得に対するドイツの かわらず、次の⒤からⅲまでのいずれかの該 租税の額から控除すること(税額控除)を規 当する場合には、二重課税は上記③の税額控 定しています。 除によって除去されることを規定しています。 ⒤ 第10条(配当)に規定する配当であって、 ⒤ 両締約国において所得又は所得の要素が 上記①の国外所得免除が適用されないもの ⅱ 第13条 2 (不動産化体株式の譲渡)の規 協定の異なる規定に基づき取り扱われ、そ の結果として、この所得に対して二重課税、 非課税又は軽課税が生ずる場合(二重課税 定が適用される譲渡収益 ⅲ 第15条(役員報酬)の規定が適用される の場合には、第24条 2 又は 3 (相互協議手 続)の規定に従った手続によっても取扱い 所得 ⅳ 第16条(芸能人及び運動家)の規定が適 の相違を解消することができないときに限 ります。) 用される所得 ⅳ 第17条 1 (退職年金等)の規定が適用さ ⅱ 我が国が、協定の規定に従って所得又は 所得の要素に対して租税を課することがで れる所得 なお、③の適用に当たっては、ドイツの居 きる場合において、実際に租税を課さない 住者の所得であって、協定の規定に従って我 とき が国において租税を課されるものは、我が国 ⅲ ドイツが我が国に対し、協議の後、外交 上の経路を通じて、上記③に基づいて税額 に源泉があるものとみなされます。 ④ 本条 2 ⒟は、第 7 条(事業利得)及び第10 控除を適用しようとする所得又は所得の要 条(配当)に規定する利得又は所得並びに第 素について通知する場合(通知された所得 13条 3 (恒久的施設の事業用資産を構成する 又は所得の要素については、二重課税は、 財産の譲渡)に規定する資産の譲渡から生ず その通知が行われた年の翌年の 1 月 1 日か る収益については、上記①の国外所得免除に ら税額控除することによって除去されま 関する規定は、これらの利得、所得若しくは す。 ) 収益が物品及び商品の生産、加工、製作若し ─ 720 ─ ――租税条約の締結・改正―― 二十三 無差別待遇(第23条) ⑶ 支払先無差別(本条 3 ) 1 本条の趣旨 本条 3 は、一方の締約国の企業が他方の締約 本条は、相手国の居住者等に対して課税上の差 国の居住者に支払った利子、使用料その他の支 別的取扱いを行ってはならないことを規定してい 払金については、当該一方の締約国の企業の課 ます。 税対象利得の決定に当たって、当該一方の締約 国の居住者に支払われたとした場合における条 2 解説 件と同様の条件で控除されることを規定してい ⑴ 国民無差別(本条 1 ) ます。ただし、独立企業原則に基づく課税のル 本条 1 は、一方の締約国の国民は、他方の締 ール(第 9 条 1 (関連企業)、第11条 4 (利子)、 約国において、課税上、特に居住者であるか否 第12条 4 (使用料)又は第20条 3 (その他の所 かに関し同様の状況にある他方の締約国の国民 得) )が適用される場合、本条 3 は適用されま と異なる取扱いをなされることはなく、また、 せん。 その国民よりも重い租税を課されることはない ことを規定しています。本条 1 の規定は、第 1 ⑷ 資本無差別(本条 4 ) 条(対象となる者)の規定にかかわらず、いず 本条 4 は、一方の締約国の企業であって、そ れの締約国の居住者でない者にも適用されます。 の資本の全部又は一部が、他方の締約国の一又 は二以上の居住者によって直接又は間接に所有 ⑵ 恒久的施設無差別(本条 2 ) され、又は支配されているものは、一方の締約 本条 2 は、一方の締約国の企業が他方の締約 国において、課税上、一方の締約国の類似の他 国内に有する恒久的施設は、他方の締約国にお の企業と異なる取扱いをなされることはなく、 いて、同様の活動を行う他方の締約国の企業に また、その類似の企業よりも重い租税を課され 対する課税よりも不利に課税されることはない ることはないことを規定しています。 ことを規定しています。ただし、本条 2 の規定 は、他方の締約国に対し、家族の状況や家族を ⑸ 本条が適用される租税(本条 5 ) 扶養するための負担を理由として、他方の締約 本条 5 は、本条の規定が第 2 条(対象となる 国の居住者に認められる配偶者控除、扶養控除 租税)に規定する協定の対象となる租税に限定 などの人的控除等を一方の締約国の居住者であ されず、締約国、その州又はその地方政府若し る個人に認めることを義務付けるものではあり くは地方公共団体によって課される全ての種類 ません。 の租税に適用されることを規定しています。 二十四 相互協議手続(第24条) 1 本条の趣旨 2 解説 本条は、協定の適用に関して生ずる問題を解決 ⑴ 納税者の申立て(本条 1 ) するための相互協議手続について規定しています。 本条 1 は、いずれか一方又は双方の締約国の 措置により協定の規定に適合しない課税を受け ─ 721 ─ ――租税条約の締結・改正―― たと認める者又は受けることになると認める者 ⑸ 仲裁(本条 5 ) は、その事案について、一方又は双方の締約国 本条 5 は、協定の規定に適合しない課税を受 の法令上の救済手段(異議申立て、訴訟の提起 けたとして申し立てられ相互協議の対象となっ など)とは別に、自己が居住者である締約国 た事案について、権限のある当局間で一定の期 (第23条 1 (国民無差別)の規定の適用に関し 間内に事案の解決ができない場合における第三 ては自己が国民である締約国)の権限のある当 者による仲裁について、以下のとおり規定して 局に対して申立てをすることができることを規 います。 定しています。ただし、その申立ては、その課 ① 両締約国の権限のある当局が、一方の締約 税措置の最初の通知の日から 3 年以内にしなけ 国の権限のある当局から他方の締約国の権限 ればならないこととされています。 のある当局に対し事案に関する協議の申立て をした日から 2 年以内に当該事案を解決する ⑵ 相互協議及び合意の実施(本条 2 ) ための合意に達することができない場合に、 本条 2 は、本条 1 の申立てを受けた権限のあ 相互協議の申立てを行った者が仲裁手続に入 る当局は、その申立てを正当と認める場合であ ることを要請するときは、当該事案の未解決 って、かつ、自らの措置のみでは満足すべき解 の事項は仲裁に付託されます。ただし、当該 決を与えることができない場合には、他方の締 未解決の事項についていずれかの締約国の裁 約国の権限のある当局との合意によってその事 判所又は行政審判所が既に拘束力のある決定 案を解決するよう努めなければならないことを を行った場合又は両締約国の権限のある当局 規定しています。権限のある当局間で合意が成 が、当該未解決の事項が仲裁による解決に適 立した場合には、両締約国の法令上のいかなる しないことについて合意し、かつ、申立てを 期間制限にもかかわらず、その合意を実施しな 行った者に対してその旨を当該他方の締約国 ければならないこととされています。 の権限のある当局に対する当該申立ての日か ら 2 年以内に通知した場合には、仲裁に付託 ⑶ 協定の解釈又は適用に関する相互協議(本条 されません。 3) ② 仲裁決定は、事案によって直接影響を受け 本条 3 は、両締約国の権限のある当局は、協 る者が、仲裁決定を実施する両締約国の権限 定の解釈又は適用に関して生ずる困難又は疑義 のある当局の合意を受け入れない場合を除き、 についても合意によって解決するよう努めなけ 両締約国を拘束し、両締約国の法令上のいか ればならないこと、及び、協定に定めのない場 なる期間制限にもかかわらず実施されます。 合における二重課税を除去するため、相互に協 ③ 両締約国の権限のある当局は、この仲裁の 手続の実施方法を合意によって定めることと 議することができることを規定しています。 されています。 ⑷ 権限のある当局の直接通信(本条 4 ) 本条 4 は、本条 2 及び 3 の合意に達するため、 ⑹ 仲裁の手続等の細目(議定書10) 両締約国の権限のある当局は、直接相互に通信 議定書10は、本条 5 に規定する仲裁の手続等 すること(両締約国の権限のある当局及びその の細則について以下のように規定しています。 代表者により構成される合同委員会を通じて通 ① 両締約国の権限のある当局は、仲裁の要請 信することを含みます。 )ができることを規定 から 2 年以内に仲裁決定が実施されることを しています。 確保することを図るための標準的な手続を合 意によって定めるものとし、その手続に従う ─ 722 ─ ――租税条約の締結・改正―― ために最善の努力を払うこととされています ⒤ 仲裁決定は先例としての価値を有しませ ん(議定書10⒟⒤)。 (議定書10⒜) 。 ⅱ 仲裁決定は、いずれか一方の締約国の裁 ② 仲裁委員会の設置に関する規則 ⒤ 仲裁のための委員会(以下、 「仲裁委員 判所が、仲裁に関する手続規則等に違反す 会」といいます。 )は、国際租税に関する ることによりその仲裁決定を無効と判断し 事項について専門知識又は経験を有する 3 た場合を除き、確定します。仲裁決定が無 人の仲裁人によって構成されます(議定書 効とされる場合には、その仲裁の要請は行 10⒝⒤) 。 われなかったものとし、仲裁手続は、議定 ⅱ 仲裁人は、それぞれの締約国の権限のあ 書10⒝ⅳ及び⒱の規定に係る手続を除き、 る当局によってそれぞれ 1 人ずつ任命され、 行われなかったものとします(議定書10⒟ その任命された 2 人の仲裁人が、仲裁委員 ⅱ) 。 会の長となる第三の仲裁人を任命します ⑤ 仲裁委員会がその決定を両締約国の権限の ある当局に送付するまでに、その仲裁に係る (議定書10⒝ⅱ) 。 ⅲ 我が国又はドイツの税務職員及び申し立 事案が次のいずれかに該当することとなる場 てられた事案に関与した者は、仲裁人にな 合には、その事案に関する両締約国の権限の ることができません。また、第三の仲裁人 ある当局の合意のための手続(仲裁手続を含 は、いずれの締約国の国民でもなく、いず みます。)は、終了します(議定書10⒠)。 れの締約国内にも日常の居所を有したこと ⒤ 両締約国の権限のある当局が、本条 2 の もなく、及びいずれの締約国によっても雇 規定に従い、その事案を解決するための合 用されたこともないことが要件とされてい 意に達する場合 ⅱ その事案について申立てをした者が仲裁 ます。 (議定書10⒝ⅲ) 。 ⅳ 仲裁手続の実施に先立ち、全ての仲裁人 の要請を撤回する場合 及びそれらの職員が、それぞれの権限のあ ⅲ 仲裁手続中に、その事案についていずれ る当局に対して送付する書面において、第 か一方の締約国の裁判所又は行政審判所が 25条 2 (情報交換に関する守秘義務)及び 拘束力のある決定を行う場合 両締約国において適用される法令に規定す ⑥ 訴訟又は審査請求が行われている事案につ る秘密及び不開示に関する義務と同様の義 いて、当該訴訟又は審査請求の当事者であっ 務に従うことが確保されなければなりませ てその事案により直接に影響を受けるいずれ ん(議定書10⒝ⅳ) 。 かの者が、仲裁委員会の決定を受領した日の ⒱ 各締約国の権限のある当局は、自らが任 後60日以内に、関連する裁判所又は行政審判 命した仲裁人に係る費用及び自らが仲裁に 所に対し、仲裁手続において解決された全て 関与する費用を負担し、仲裁委員会の長の の事項に関する訴訟又は審査請求を取り下げ 費用その他の仲裁手続の実施に関する費用 ない場合には、仲裁決定を実施する両締約国 は、両締約国の権限のある当局が均等に負 の権限のある当局の合意は、申立てをした者 担します(議定書10⒝⒱) 。 により受け入れられなかったものとされます。 ③ 両締約国の権限のある当局は、全ての仲裁 この場合には、その事案について、両締約国 人及びそれらの職員に対し、仲裁決定のため の権限のある当局による更なる検討は行われ に必要な情報を不当に遅滞することなく提供 ません(議定書10⒡)。 ⑦ 本条 5 及び議定書10の規定は、第 4 条 3 の しなければなりません(議定書10⒞) 。 ④ 仲裁決定は、次のように取り扱われます。 ─ 723 ─ 規定に該当する事案(個人以外の双方居住者 ――租税条約の締結・改正―― に関する両締約国の権限のある当局による合 局がその事案について仲裁による解決に適す 意)については、適用されません(議定書10 ると合意した場合に限り、準用されます。た ⒢)。 だし、その事案の未解決の事項は、協定が効 力を生ずる日から 2 年を経過する日までは、 ⑧ 本条 5 及び議定書10の規定は、旧協定第25 仲裁に付託されません(議定書10⒣)。 条 1 (相互協議)の規定に従って申し立てら れた事案について、両締約国の権限のある当 二十五 情報の交換(第25条) 開の法廷における審理又は司法上の決定におい 1 本条の趣旨 て開示することができることを規定しています。 本条は、両締約国の税務当局が租税に関する情 ただし、上記にかかわらず、一方の締約国が 報を交換することを規定しています。 受領した情報は、両締約国の法令に基づき租税 に関する目的以外の目的のために使用すること 2 解説 ができる場合において、その情報を提供した他 ⑴ 権限のある当局間の情報交換(本条 1 ) 方の締約国の権限のある当局がそのような使用 本条 1 は、両締約国の権限のある当局は、協 を事前に許可するときは、租税に関する目的以 定の規定の実施又は両締約国、それらの州若し 外の目的のために使用することができることと されています。 くはそれらの地方政府若しくは地方公共団体が 課す全ての種類の租税に関する法令(その法令 (注) 議定書12は、本条 2 の規定に関し、一方の に基づく課税が協定の規定に反しない場合に限 締約国が受領した情報が、裁判所又は裁判官 ります。)の運用若しくは執行に関連する情報 により行われる租税以外の事案に関する刑事 を交換することを規定しています。また、この 手続において一方の締約国が証拠等として使 情報の交換は、第 1 条(対象となる者)及び第 用するために必要とされる場合には、一方の 2 条(対象となる租税)の規定にかかわらず、 締約国は、その情報を裁判所又は裁判官によ 両締約国の居住者でない者に関する情報や、協 り行われる租税以外の事案に関する刑事手続 定の対象となる租税以外の租税に関する情報も において証拠等として使用するため、「刑事に 対象となることが規定されています。 関する共助に関する日本国と欧州連合との間 の協定」 (欧州連合は平成21年(2009年)11月 ⑵ 交換された情報の取扱い(本条 2 ) 30日にブリュッセルで、我が国は同年12月15 本条 2 は、本条 1 に基づき一方の締約国が受 日に東京で署名)に従って共助の要請を行う 領した情報は、一方の締約国の法令に基づいて ことを規定しています。 入手した情報と同様に秘密として取り扱われな ければならず、本条 1 に規定する租税の賦課若 ⑶ 情報提供義務の制限(本条 3 ) しくは徴収、租税に関する執行若しくは訴追、 本条 3 は、本条 1 及び 2 の規定は、いかなる 租税に関する不服申立てについての決定又はこ 場合にも、情報を提供する締約国に対して、次 れらの監督に関与する者又は当局(裁判所及び のことを行う義務を課すものではないことを規 行政機関を含みます。 )に対してのみ開示され 定しています。 ること、及びこれらの者又は当局はその情報を ① 一方の締約国又は他方の締約国の法令及び そのような目的のためにのみ使用し、また、公 行政上の慣行に抵触する行政上の措置をとる ─ 724 ─ ――租税条約の締結・改正―― ができます。情報を受領する当局は、同規定 こと。 ② 一方の締約国又は他方の締約国の法令の下 において又は行政の通常の運営において入手 の遵守を確保するために情報を提供する当局 が定める条件に従います(議定書11⒜)。 ② 情報を提供する当局は、提供される情報に することができない情報を提供すること。 ③ 営業上、事業上、産業上、商業上若しくは ついて、正確であり、かつ、租税に関する法 職業上の秘密若しくは取引の過程を明らかに 令の運用又は執行に関連する情報であること するような情報又は公開することが公の秩序 及びその提供される目的のために必要であり、 に反することになる情報を提供すること。 かつ、相応なものであることを確保するよう 努めます(議定書11⒝)。 ⑷ 情報交換のための情報収集措置(本条 4 ) なお、情報は、具体的な事案について、情 本条 4 は、各締約国は、本条の規定に従って 報を受領する当局が権限のある当局である締 情報の提供の要請があった場合には、自国の課 約国が租税を課することができる可能性が高 税目的のために必要な情報か否かにかかわらず、 い場合において、その情報が情報を受領する その情報を入手するための必要な手段を用いな 当局に既に知られていることを示すものがな ければならないことを規定しています。また、 いとき、又は情報を受領する当局が当該情報 その手段を用いるに当たっては、本条 3 の制限 がなくとも課税対象を把握することができる に従いますが、その制限は、いかなる場合にも、 ことを示すものがないときは、関連するもの その情報が自国の課税目的のために必要でない とされます。 ことのみを理由としてその情報の提供を拒否す また、情報を提供する当局は、誤った情報 ることを認めるものではないことも規定されて 又は提供すべきでなかった情報を提供したこ います。 とを発見した場合には、遅滞なくその旨を情 報を受領する当局に通知するとともに、情報 ⑸ 情報提供拒否の制限(本条 5 ) を受領する当局は、その情報を遅滞なく訂正 本条 5 は、各締約国は、提供の要請を受けた し、又は消去します。 情報が、銀行その他の金融機関、名義人、代理 ③ 情報を受領する当局は、いかなる場合にも、 人若しくは受託者が有する情報又はある者の所 提供された情報がその提供された目的のため 有に関する情報であることのみを理由として、 に必要でないとき、又は必要でなくなったと その提供を拒否することはできないことを規定 きは、その情報を消去します(議定書11⒞)。 ④ 情報を受領する当局は、情報を提供する当 しています。 局が要請する場合には、提供された情報が使 ⑹ 情報の保護(議定書11) 用されたか否かについて、情報を提供する当 議定書11は、本条の規定に基づき情報が交換 局に通知します(要請に基づいて提供された される場合には、以下の規定が適用されること 情報又は自発的に提供された情報については、 を規定しています。 個別の事案ごとに通知します。) (議定書11⒟)。 ① 情報を受領する一方の締約国の権限のある ⑤ 情報を受領する当局は、情報を受領する当 当局(以下「情報を受領する当局」といいま 局が権限のある当局である締約国の法令に従 す。)は、本条 2 の規定に従い、情報を提供 い、ある者に関して提供された情報及びその する他方の締約国の権限のある当局(以下 「情報を提供する当局」といいます。 )が定め る目的のためにのみその情報を使用すること ─ 725 ─ 情報が使用される目的をその者に通知します (議定書11⒠)。 ⑥ 両締約国は、それぞれの法令に従い、情報 ――租税条約の締結・改正―― 関する規定について通知することができます の交換に関連して不法に損害を被った者に対 (議定書11⒣)。 して責任を負います(議定書11⒡) 。 ⑨ 両締約国の権限のある当局は、提供された ⑦ 両締約国の権限のある当局は、情報の交換 情報を許可のない閲覧、変更又は開示から保 について記録します(議定書11⒢) 。 護するために必要な措置をとります(議定書 ⑧ 情報を提供する当局は、情報を受領する当 11⒤)。 局に対し、情報を提供する当局が権限のある 当局である締約国の法令の個人情報の消去に 二十六 租税の徴収における支援(第26条) (本条 2 ⒝) 1 本条の趣旨 ③ その他の租税で両締約国の政府が外交上の 本条は、両締約国の税務当局が、相手国におい 公文の交換により合意するもの(本条 2 ⒞) て滞納された租税の徴収を相互に支援することを ④ 上記①から③までに掲げる租税に加えて又 はこれに代わってこの協定の署名の日(平成 規定しています。 27年(2015年)12月17日)の後に課される租 2 解説 税であって、上記①から③までに掲げる租税 ⑴ 租税の徴収における支援(本条 1 ) と同一であるもの又は実質的に類似するもの (本条 2 ⒟) 本条 1 は、両締約国が、相手国において滞納 された租税(租税債権)の徴収につき相互に支 (注 1 ) 「その租税の額に関する利子、行政上の金 援すること(徴収共助)を規定しています。徴 銭罰」とは、我が国においては、延滞税、 収共助は、第 1 条(対象となる者)及び第 2 条 利子税、過少申告加算税等の附帯税がこれ (対象となる租税)の規定にかかわらず、両締 約国の居住者でない者に関する滞納租税や、協 に該当します。 (注 2 ) 「徴収又は保全の費用」とは、我が国にお 定の対象となる租税以外の租税にも適用されま いては、滞納処分費がこれに該当します。 す。 ⑶ 徴収を要請するために必要とされる要件等 ⑵ 租税債権の範囲(本条 2 ) (本条 3 ) 本条 2 は、本条の対象となる「租税債権」の 本条 3 第一文は、一方の締約国(要請国)が、 範囲を規定しています。 「租税債権」とは、次 次の①及び②の要件をいずれも満たす場合には、 の①及び②に掲げる租税の額並びにその租税の 他方の締約国(被要請国)に対して徴収を要請 額に関する利子、行政上の金銭罰(注 1 )及び できることを規定しています。 徴収又は保全の費用(注 2 )をいいます。 ① 要請国の租税債権が、その要請国の法令に ① 我が国については、所得税、法人税、復興 基づき執行することができるものであること。 特別所得税、復興特別法人税、地方法人税、 (注) 「執行することができるものであること」 消費税、地方消費税、相続税及び贈与税(本 とは、滞納処分が完全に執行できる状態を 条 2 ⒜) 意味することから、我が国においては、現 ② ドイツについては、所得税、法人所得税、 行制度上、滞納処分の第一段階である差押 連帯付加税、付加価値税、保険税、純資産税、 えができる状態となっていること及び不服 相続税、贈与税、営業税及び不動産取得税 申立ての提起や納税・換価の猶予等により ─ 726 ─ ――租税条約の締結・改正―― 務を負うことを規定しています。 滞納処分を完全に執行できない状態になっ ていないことが必要になると考えられます。 ② 徴収の要請の時において、租税債権を負担 ⑸ 租税債権に関する時効及び優先権(本条 5 ) する者(滞納者)が要請国の法令に基づきそ 本条 5 は、本条 3 及び 4 の規定にかかわらず、 の租税債権の徴収を停止させることができな 本条 3 又は 4 に基づき被要請国が徴収又は保全 いこと。 の措置のために引き受けた租税債権について、 次のことを規定しています。 (注) 「租税債権の徴収を停止させることができ ないこと」とは、滞納者が徴収手続を止め ① 被要請国において、被要請国の国内法の下 ることができる行政上又は司法上の権利を で租税債権であるとの理由で適用される時効 有していないことを意味します。我が国に 及び優先権が認められないこと。 おいては、現行制度上、滞納者が不服申立 ② 被要請国において、要請国の国内法におい てを提起することができる権利を有する期 て要請国の租税債権に適用される優先権が認 間は「租税債権の徴収を停止させることが められないこと。 できる」ため、上記②の要件を充足するこ とができない(徴収の要請ができない)と ⑹ 時効の中断(本条 6 ) 本条 6 は、本条 5 の規定にかかわらず、本条 考えられます。 本条 3 第二文は、要請国の租税債権を被要請 3 又は 4 に規定する徴収又は保全の措置のため 国が徴収するための規範を定めています。具体 に被要請国が租税債権の徴収のためにとった措 的には、徴収の要請を受けた被要請国は、要請 置は、その措置が要請国によってとられたなら 国の租税債権を本条 3 第一文の要件を満たす自 ば、要請国の法令に従ってその租税債権につい 国の租税債権と同様に、租税の執行及び徴収に て適用される時効を停止し、又は中断する効果 ついて適用される自国の国内法に従って全ての を有することとなる場合には、要請国の法令の 徴収手続を行う義務を負うことを規定していま 下においても同様に時効を停止し、又は中断す す。 る効果を有することを規定しています。 ⑷ 保全の措置を要請するために必要とされる要 ⑺ 租税債権の有効性等に関する争訟手続(本条 件等(本条 4 ) 7) 本条 4 第一文は、一方の締約国(要請国)は、 本条 7 は、要請国の租税債権の存在、有効性 要請国の租税債権が要請国の法令に基づきその 又は金額(以下「存否等」といいます。 )に関 徴収を確保するために差押え等の保全の措置を する争訟の手続は、被要請国の裁判所又は行政 とることができるものである場合には、他方の 機関に提起されないことを規定しています。し 締約国(被要請国)に対して保全の措置を要請 たがって、当該租税債権の存否等については、 できることを規定しています。 要請国においてのみ争われることとなります。 本条 4 第二文は、要請国の租税債権について 被要請国が保全の措置をとるための規範を定め ています。具体的には、保全の要請を受けた被 ⑻ 徴収又は保全の措置の要請の停止又は撤回 (本条 8 ) 要請国は、その保全の措置をとる時において上 本条 8 は、要請国が徴収又は保全の措置の要 記⑶①又は②の要件を満たさない場合であって 請をした後、被要請国が関連する租税債権を徴 も、要請国の租税債権を自国の租税債権と同様 収し、要請国に送金するまでの間に、その租税 に、自国の国内法に従って保全の措置を行う義 債権が次の①又は②に該当しなくなった場合 ─ 727 ─ ――租税条約の締結・改正―― 行に抵触する行政上の措置をとること。 (上記⑶又は⑷の徴収又は保全の措置を要請す ② 公の秩序に反することとなる措置をとるこ るために必要な要件を満たさなくなった場合を と。 意味します。)には、要請国の権限のある当局 は被要請国の権限のある当局に対し、その事実 ③ 要請国がその法令又は行政上の慣行に基づ を速やかに通報し、被要請国の選択により、要 き徴収又は保全のために全ての妥当な措置を 請国は、その要請を停止し、又は撤回すること とっていない場合に支援を行うこと。 ④ 被要請国の行政上の負担が要請国が得る利 を規定しています。 益に比して明らかに不均衡である場合に支援 ① 徴収の要請については、租税債権が、要請 を行うこと。 国の法令に基づき執行することができるもの であり、かつ、その租税債権の滞納者がその 要請国の法令に基づき当該租税債権の徴収を ⑽ 徴収又は保全の措置の実施方法に関する権限 のある当局間の合意(本条10) 停止させることができないこと。 ② 保全の措置の要請については、租税債権が、 本条10は、本条に基づき、徴収共助又は保全 その要請国がその法令に基づき保全の措置を の措置の支援が行われる前に、両締約国の権限 とることができるものであること。 のある当局は本条の規定の実施方法(支援の程 度の均衡を確保するための合意を含みます。) ⑼ 徴収又は保全の措置における義務の制限(本 について合意することを規定しています。 条9) 両締約国の権限のある当局は、特に、一方の 本条 9 は、本条の規定は、いかなる場合にも、 締約国が特定の年において行うことができる支 被要請国に対して、次のことを行う義務を課す 援の要請の数の上限及び支援を要請することが ものではないことを規定しています。 できる租税債権の最低金額について合意するこ ① 要請国又は被要請国の法令及び行政上の慣 ととしています。 二十七 源泉課税に関する手続規則(第27条) より、協定に基づいて源泉地国が課することが 1 本条の趣旨 認められる租税の額を超える部分は還付される こととされています。 本条は、源泉徴収される租税に関して、協定の 特典を適用するための手続等を規定しています。 ⑵ 還付申請が認められる期間(本条 2 ) 2 解説 本条 2 は、協定に基づいて軽減税率や免税の ⑴ 源泉徴収の方法(本条 1 ) 適用が認められる場合における源泉徴収税の還 本条 1 は、一方の締約国内において他方の締 付のための申請は、源泉徴収を行う国の法令に 約国の居住者である者が取得する配当、利子、 定める期間内に提出されなければならないこと 使用料又はその他の所得に対する租税が源泉徴 を規定しています。 収される場合には、当該一方の締約国がその法 令に規定する率で租税を源泉徴収することがで ⑶ 本条 1 で規定する方法以外の免税又は軽減税 きることを規定しています。ただし、協定に基 率の方法(本条 3 ) づいて軽減税率や免税の適用が認められる場合 本条 3 は、各締約国は、所得が生ずる一方の には、源泉徴収された租税は、納税者の申請に 締約国において協定に基づく租税の免除又は軽 ─ 728 ─ ――租税条約の締結・改正―― 減の対象となる所得の支払については、源泉徴 より発行される当該他方の締約国の居住者であ 収をしないで又は限度税率の適用により税額を ることを証する書類の提出を求めることができ 控除して行うことができるようにするための手 ることを規定しています。 続を規定することができることを規定していま ⑸ 実施方法の合意(本条 5 ) す。 本条 5 は、両締約国の権限のある当局が、各 ⑷ 居住者証明書の請求(本条 4 ) 締約国の法令に従い、本条の規定の実施方法を 本条 4 は、所得が生ずる一方の締約国は、納 合意によって定めることができることを規定し 税者に対し、他方の締約国の権限のある当局に ています。 二十八 外交使節団及び領事機関の構成員(第28条) 本条は、協定のいかなる規定も、国際法の一般 機関の構成員の租税上の特権に影響を及ぼすもの 原則又は特別の協定に基づく外交使節団又は領事 でないことを規定しています。 二十九 見出し(第29条) 本条は、協定の各条の見出しは、引用上の便宜 に影響を及ぼすものではないことを規定していま のためにのみ付されたものであって、協定の解釈 す。 三十 議定書(第30条) 協定に附属する議定書は、協定の不可分の一部 を成すことを規定しています。 三十一 効力発生(第31条) (注) 我が国においては国会の承認が必要ですが、 1 本条の趣旨 本協定は第190回国会において承認されました。 本条は、協定の効力発生及び適用開始について ⑵ 適用開始(本条 2 ) 規定しています。 本条 2 は、協定が、我が国については、次の 2 解説 ものについて適用されることを規定しています ⑴ 効力発生(本条 1 ) (本条 2 ⒜)。 本条 1 は、協定が、我が国及びドイツにおい ① 課税年度に基づいて課される租税について て協定の効力発生のためのそれぞれの国内手続 は、協定が効力を生ずる年の翌年の 1 月 1 日 (注)が完了したことを、外交上の経路を通じて、 以後に開始する各課税年度の租税 書面によりその手続の完了を確認する通告を相 ② 課税年度に基づかないで課される租税につ 互に行うこととされています。協定は、遅い方 いては、協定が効力を生ずる年の翌年の 1 月 の通告が受領された日の翌日から30日目の日に 1 日以後に課される租税 また、ドイツについては、次のものについて 効力を生ずることとされています。 ─ 729 ─ ――租税条約の締結・改正―― 適用されることを規定しています(本条 2 ⒝) 。 ⑸ 財産税の取扱い(本条 5 ) ① 源泉徴収される租税については、協定が効 本条 5 は、旧協定が適用される財産税につい 力を生ずる年の翌年の 1 月 1 日以後に支払わ て、協定が効力を生ずる日以後は適用しないこ れる租税の額 とを規定しています。 ② その他の租税については、協定が効力を生 ずる年の翌年の 1 月 1 日以後に開始する各期 ⑹ 旧協定の終了(本条 6 ) 本条 6 は、旧協定は、協定が効力を生ずる時 間について課される租税 に終了することを規定しています。 ⑶ 情報の交換の適用開始(本条 3 ) 本条 3 は、第25条(情報の交換)に規定する ⑺ 経過措置(本条 7 及び 8 ) 情報の交換については、情報の交換の対象とな 本条 7 は、本条 6 の規定にかかわらず、本条 る租税が課される日又はその租税に係る課税年 の規定に従ってこの協定が適用される日前に生 度にかかわらず、協定が効力を生ずる日から適 じた租税の事案については、旧協定の規定を引 用されることを規定しています。 き続き適用することを規定しています。 さらに、本条 8 は、協定の効力発生の時にお ⑷ 旧協定の適用終了(本条 4 ) いて旧協定第20条(教授)の規定により認めら 本条 4 は、本条 2 の規定に従って協定が適用 れる特典を受ける権利を有する個人は、協定が される租税について、協定の適用の日以後、旧 効力を生じた後においても、協定が効力を生じ 協定が適用されないことを規定しています。 なかったとした場合に旧協定第20条に基づき特 典を受ける権利を失う時まで特典を受ける権利 を引き続き有することを規定しています。 三十二 終了(第32条) ① 課税年度に基づいて課される租税について 1 本条の趣旨 は、終了の通告が行われた年の翌年の 1 月 1 日以後に開始する各課税年度の租税 本条は、協定の終了について規定しています。 ② 課税年度に基づかないで課される租税につ 2 解説 いては、終了の通告が行われた年の翌年の 1 月 1 日以後に課される租税 協定は、一方の締約国によって終了させられる 時まで効力を有します。いずれの一方の締約国も、 また、ドイツについては次のものについて適用 協定の効力の発生の日から 5 年の期間が満了した されなくなります(本条⒝)。 後に開始する各暦年の末日の 6 か月前までに、外 ① 源泉徴収される租税については、終了の通 交上の経路を通じて他方の締約国に対し終了の通 告が行われた年の翌年の 1 月 1 日以後に支払 告を行うことにより、協定を終了させることがで われる租税の額 ② その他の租税については、終了の通告が行 きます。 この場合、協定は、我が国については次のもの われた年の翌年の 1 月 1 日以後に開始する各 について適用されなくなります(本条⒜) 。 期間について課される租税 ─ 730 ─ ――租税条約の締結・改正―― 三十三 議定書 協定には、協定の不可分の一部を成す議定書が 者の利得に連動する貸付けから生ずる所得 付されています。この議定書の各規定の国際法上 又はドイツの租税に関する法令に規定する の効力は、協定本体の各規定のそれと何ら変わる 利益分配型債券から生ずる所得 ⅱ 当該所得に係る債務者の利得の決定に当 ところはありません。 たり、当該所得が控除できるもの 1 我が国の事業税等に対する協定の準用(協定 5 議定書 5 は、ドイツの投資基金又は不動産投 第 2 条関連) (議定書 1 ) 資信託会社に係る分配金の取扱いについて以下 2 「租税を課されるべきものとされる者」の範 のとおり規定しています(協定第10条関連)。 囲(協定第 4 条 1 関連) (議定書 2 ) ① ドイツの投資基金の受益証券に対する分配 3 議定書 3 は、国外源泉所得の一部が課税され 金は、配当として取り扱います(議定書 5 ⒜)。 ない居住者については、協定に基づく租税の軽 減又は免除の適用範囲が制限されることを規定 ② 協定第10条(配当)の規定にかかわらず、 しています。具体的には、居住者が取得する国 同条 2 ⒜及び 3 の規定は、ドイツの不動産投 外源泉所得のうち、居住地国内に送金され又は 資信託会社(上場しているものに限ります。) 居住地国内において受領された部分についての が支払う配当及びドイツの投資基金が支払う み居住地国で課税される場合には、所得の源泉 配当に対しては適用されません(議定書 5 ⒝)。 地国における課税の軽減又は免除はその送金さ ③ 上記①及び②における「ドイツの投資基 れ又は受領された部分に対してのみ適用される 金」とは、ドイツの投資法に規定する媒体 こととなります(協定第 6 条から第20条関連) 。 (vehicle)であり、広く所有され、かつ、証 4 議定書 4 は、我が国又はドイツの国内におい 券の分散投資を行い、又は賃料の取得を主た て生ずる次の所得等に対しては、各締約国の法 る目的として不動産に対して直接若しくは間 令によって租税を課することができることを規 接に投資を行うもの(組合として設立される 定しています。 ものを除きます。)をいいます(議定書 5 ⒞)。 6 協定第21条 5 (事業活動基準)の適用条件 ① 我が国の国内において生ずる所得 ⒤ 配当を控除できる法人が支払う配当 (議定書 6 ) ⅱ 債務者若しくはその関係者の収入、売上 7 協定第21条 9 (協定と国内法令に規定される げ、所得、利得その他の資金の流出入、債 濫用防止規定との関係)における租税回避又は 務者若しくはその関係者の有する資産の価 脱税を防止するための一方の締約国の法令の規 値の変動又は債務者若しくはその関係者が 定の範囲(議定書 7 ) 支払う配当、組合の分配金その他これらに 8 議定書 8 は、協定第22条(二重課税の除去) 類する支払金を基礎として算定される利子 に関し、我が国がドイツの租税を事業税から控 又はこれに類する利子 除し、又はドイツが我が国の租税をドイツの営 業税から控除することを義務付けるものと解し ⅲ 匿名組合契約等に関連して匿名組合員が てはならないことを規定しています。 取得する所得等 9 議定書 9 は、協定第23条(無差別待遇)に関 ② ドイツ国内において生ずる所得 ⒤ 利得の分配を受ける権利若しくは信用に し、締約国が自国の企業と相手国の企業との間 係る債権から生ずる所得(匿名組合員とし において連結納税を認めることをその締約国に て取得する所得を含みます。 ) 、利率が債務 義務づけるものではないことを確認しています。 ─ 731 ─ ――租税条約の締結・改正―― 連)(議定書11) 10 仲裁の手続等の細目(協定第24条 5 関連) 12 日EU刑事共助協定に基づく情報提供要請 (議定書10) 11 情報交換に関する情報の保護(協定第25条関 (協定第25条 2 関連)(議定書12) 第三 日本・チリ租税条約の締結 課税を軽減するとともに、租税に関する国際標準 はじめに に基づく税務当局間の実効的な情報交換の実施が 我が国とチリ共和国(以下「チリ」といいま 可能となる規定を設けています。さらに、条約に す。 )との間には、これまで租税条約は存在しま お い て は、 租 税 条 約 の 濫 用 を 防 止 す る た め に せんでしたが、緊密化する両国の経済関係を踏ま OECD/G20によるBEPS行動計画に基づき策定 え、両国政府は、租税条約を締結するための交渉 された規定案を一部採用しています。これらの措 を開始することに合意し、平成27年(2015年)10 置により、二重非課税並びに脱税及び租税回避行 月に正式交渉を開始しました。その結果、平成28 為を防止しつつ、両国間の投資・経済交流を一層 年(2016年) 1 月に「所得に対する租税に関する 促進することが期待されます。 二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止の 条約は、両国のそれぞれの国内手続に従って承 ための日本国とチリ共和国との間の条約」 (以下 認され(我が国においては、国会の承認を得るこ 「条約」といいます。 )及び「所得に対する租税に とが必要(注))、その承認を通知する外交上の公 関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の 文の交換を行った日に効力を生ずることとなりま 防止のための日本国とチリ共和国との間の条約に す。 関する議定書」 (以下「議定書」といいます。 )に 以下では、条約の内容について、逐条で解説し ついてサンティアゴにおいて署名が行われました。 ていくこととします。 条約は、投資所得に対する投資先の国における (注) 条約は、第190回国会において承認されました。 一 対象となる者(第 1 条) か一方の締約国の居住者として振り分けられた 1 本条の趣旨 上で、条約が適用されます(第 4 条 2 及び 3 )。 本条は、条約が適用される者の範囲及び課税上 存在しないものとして取り扱われる事業体の取扱 ⑵ いずれかの締約国において課税上存在しない ものとして取り扱われる事業体への条約適用 いに関して規定しています。 (本条 2 ) 2 解説 例えば、源泉地国ではある事業体を納税義務 ⑴ 条約が適用される者(本条 1 ) 者として認識(団体課税)するが、その事業体 条約は、原則として一方の締約国の居住者及 の所在地国では事業体そのものではなくその構 び双方の締約国の居住者について適用されます。 成員を納税義務者として認識(構成員課税)す 「一方の締約国の居住者」の定義は、第 4 条 1 る場合のように、ある事業体に関する課税上の において規定されています。また、この定義に 取扱いが両国で異なる場合には、両国で条約の より我が国とチリの双方の居住者とされる者 特典を受ける者に関する認識が異なるため、実 (以下「双方居住者」といいます。 )は、いずれ 質的な二重課税が生じているにもかかわらず条 ─ 732 ─ ――租税条約の締結・改正―― 約が適用できないこととなります。そこで、本 定について、いかなる場合にも、一方の締約国 条 2 第一文は、いずれか一方の締約国の租税に が自国の居住者に対して課税する権利を制限す 関する法令の下において全面的に若しくは部分 るものと解してはならないことを規定していま 的に課税上存在しないものとして取り扱われる す。 団体若しくは仕組みによって又はこのような団 また、本条 2 第三文では、「課税上存在しな 体若しくは仕組みを通じて取得される所得は、 い」という用語の意義を規定しており、「課税 一方の締約国における課税上当該一方の締約国 上存在しない」とは、一方の締約国の法令の下 の居住者の所得として取り扱われる限りにおい において、団体又は仕組みの所得の全部又は一 て、一方の締約国の居住者の所得とみなすこと 部について、団体又は仕組みに対してではなく、 を規定することにより、このような場合におけ それらの持分を有する者に対して課税される場 る条約の適用を確保しています。 合をいうこととされており、所得の全部又は一 ただし、源泉地国に所在する事業体を通じて 部がそれらの者に分配されるか否かを問わず、 得た所得について、源泉地国が自国の居住者で 所得の全部又は一部が生じた時においてその者 ある事業体に対して課税する権利が制限される が所得の全部又は一部を直接に取得したものと ことのないよう、本条 2 第二文は、本条 2 の規 して課税される場合をいうこととされています。 二 対象となる租税(第 2 条) る租税(以下「チリの租税」といいます。) 1 本条の趣旨 また、本条 2 では、条約の署名の日の後に、こ 本条は、条約が適用される租税を規定していま れらの租税に加えて又はこれらの租税に代わって す。 課される租税であって、これらの租税と同一であ るもの又は実質的に類似するものについても、条 2 解説 約が適用されることを規定しています。 本条 1 は、条約の適用対象となる両国の現行の (注) 議定書 2 は、一方の締約国が条約の署名の日 租税をそれぞれ以下のとおり規定しています。 の後に財産に対する新たな租税を導入する場合、 ① 我が国については、所得税、法人税、復興 一方の締約国の権限のある当局は、本条 2 第二 特別所得税、地方法人税及び住民税(以下 文の規定に従って、他方の締約国の権限のある 「我が国の租税」といいます。 ) 当局に対して、その新たな租税について通知す ② チリについては、所得税法に基づき課され ることを規定しています。 三 一般的定義(第 3 条) 1 本条の趣旨 2 解説 本条は、条約において使用される用語の定義等 ⑴ 各用語の定義(本条 1 ) を規定しています。 本条 1 は、条約の中で用いられている用語に ついて、以下のとおり規定しています。 ① 「日本国」とは、地理的意味で用いる場合 には、我が国の租税に関する法令が施行され ─ 733 ─ ――租税条約の締結・改正―― 又は権限を与えられたその代理者 ている全ての領域(領海を含みます。 )及び ⑨ 一方の締約国の「国民」とは、次の者をい その領域の外側に位置する区域であって、我 が国が国際法に基づき主権的権利を有し、か います。 つ、我が国の租税に関する法令が施行されて ⒤ 一方の締約国の国籍を有する全ての個人 いる全ての区域(海底及びその下を含みま ⅱ 一方の締約国において施行されている法 令によってその地位を与えられた全ての法 す。 )をいいます。 人、組合又は団体 ② 「チリ」とは、チリ共和国をいい、地理的 ⑩ 「年金基金」とは、次のいずれかの者をい 意味で用いる場合には、チリ共和国の全ての 領域(領海を含みます。 )及びその領域の外 います。 側に位置する区域であって、チリ共和国が国 ⒤ 一方の締約国において、その居住者の利 際法に基づき主権的権利を有する全ての区域 益のために、退職年金又はその社会保障法 (海底及びその下を含みます。 )をいいます。 制に基づく退職年金に類似した報酬を管 ③ 「一方の締約国」及び「他方の締約国」と 理・支給することを専ら又は主な目的とし て設立され、かつ運営されている者 は、文脈により、我が国又はチリをいいます。 ⅱ 上記⒤に規定する者の利益のために投資 ④ 「者」には、個人、法人及び法人以外の団 することを目的として設立され、かつ運営 体を含みます。 ⑤ 「法人」とは、法人格を有する団体又は租 されている者(ただし、実質的に全ての所 税に関し法人格を有する団体として取り扱わ 得を、上記⒤に規定する者の利益のために れる団体をいいます。 行われる投資から得ている場合に限りま す。 ) ⑥ 「一方の締約国の企業」及び「他方の締約 国の企業」とは、それぞれ一方の締約国の居 住者が営む企業及び他方の締約国の居住者が ⑵ 条約において定義されていない用語の解釈 (本条 2 ) 営む企業をいいます。 ⑦ 「国際運輸」とは、一方の締約国の企業が 本条 2 は、条約において定義されていない用 運用する船舶又は航空機による運送のうち、 語の解釈について規定しています。条約におい 他方の締約国内の地点の間においてのみ運用 て定義されていない用語は、文脈により別に解 される船舶又は航空機による運送を除いたも 釈すべき場合を除いて、条約の適用を受ける租 のをいいます。 税に関する締約国の国内法令においてその適用 の時点で有している意義を有するものとされて ⑧ 「権限のある当局」とは、次の者をいいま す。 います。また、租税に関する法令におけるその ⒤ 我が国については、財務大臣又は権限を 用語の意義は、他の法令におけるその用語の意 義に優先することとされています。 与えられたその代理者 ⅱ チリについては、財務大臣、歳入庁長官 四 居住者(第 4 条) 1 本条の趣旨 2 解説 本条は、「一方の締約国の居住者」の定義等を ⑴ 「一方の締約国の居住者」の定義(本条 1 ) 規定しています。 本条 1 は、 「一方の締約国の居住者」の定義 ─ 734 ─ ――租税条約の締結・改正―― を規定しています。条約の適用上、 「一方の締 を有する場合には、人的及び経済的関係がよ 約国の居住者」とは、 「一方の締約国の法令の り密接な締約国(重要な利害関係の中心があ 下において、住所、居所、本店又は主たる事務 る締約国)の居住者 所の所在地、法人の設立場所、事業の管理の場 ② 上記①によって決定することができない場 所その他これらに類する基準により当該一方の 合には、その有する常用の住居が所在する締 締約国において租税を課されるべきものとされ 約国の居住者 る者」をいいます。ただし、国内に源泉のある ③ 上記②によって決定することができない場 所得のみについて租税を課される者は、 「一方 合には、その個人が国民である締約国の居住 の締約国の居住者」には含まれません。 者 また、一方の締約国及びその地方政府又は地 ④ 上記①から③までによっても決定すること 方公共団体は「一方の締約国の居住者」に含ま ができない場合には、両締約国の権限のある れることが明らかにされています。 当局の合意により解決されます。 また、個人以外の者が「双方居住者」に該当 (注) 議定書 3 は、「一方の締約国の居住者」には、 一方の締約国の法令においてその所得の全部 する場合には、本条 3 に従って、両締約国の権 又は一部について租税が免除されているか否 限のある当局が合意により決するよう努めるこ かにかかわらず、以下の者を含むことを規定 ととされています。そのような合意がない場合 しています。 には、その者は、条約により認められる特典を ① 専ら宗教、慈善、教育、文化又は科学の 要求する上で、いずれの締約国の居住者ともさ れません。 ために当該一方の締約国において設立され、 かつ維持される法人 ② 当該一方の締約国の法令に基づき設立さ ⑶ 国外源泉所得の全部又は一部が課税されない 居住者に対する条約の適用(本条 4 ) れた年金基金 ③ 輸出、投資又は開発を促進することを目 本条 4 は、国外源泉所得の全部又は一部が課 的として設立された機関であって、当該一 税されない居住者について、条約に基づく租税 方の締約国が資本の全部を所有するもの の軽減又は免除の適用範囲が制限されることを 規定しています。具体的には、居住者が居住地 ⑵ 双方居住者の振分けルール(本条 2 及び 3 ) 国において取得した所得についてのみその居住 本条 2 及び 3 は、 「双方居住者」を条約上い 地国で課税される場合、又は居住者が取得する ずれか一方の締約国の居住者に振り分けるため 国外源泉所得のうち、居住地国内に送金され又 のルールを規定しています。 は居住地国内において受領された部分について 個人が「双方居住者」に該当する場合には、 のみ居住地国で課税される場合には、所得の源 以下のとおりいずれか一方の締約国の居住者と 泉地国における課税の軽減又は免除は、居住地 みなされます(本条 2 ) 。 国において課税されることとされている部分に ① その使用する恒久的住居が所在する締約国 対してのみ適用されることとなります。 の居住者。我が国とチリの双方に恒久的住居 ─ 735 ─ ――租税条約の締結・改正―― 五 恒久的施設(第 5 条) のような活動がその課税年度において開始し、 1 本条の趣旨 又は終了するいずれかの12か月の間に合計 183日を超える期間行われる場合に限ります。 条約は、事業利得に対する課税、配当等に対す る源泉地国課税、給与所得に関する短期滞在者免 なお、ある企業について上記①及び②に規定 税等について、 「恒久的施設」との関連を基準と する活動期間を決定するに当たっては、当該企 して課税関係を決定しています。 業が一方の締約国内において行う活動と、その 本条は、この「恒久的施設」の定義等を規定し 関連企業が同一締約国内において行う活動とが ています。 関連している場合は、当該関連企業が同一締約 国内において行う活動の期間を合計することと 2 解説 されています(ただし、関連企業が同時に行う ⑴ 「恒久的施設」の定義(本条 1 ) 活動の期間については、一度に限り算入されま 本条 1 は、「恒久的施設」の定義を規定して す)。この規定の適用上、次の⒤又はⅱに該当 います。「恒久的施設」とは、事業を行う一定 する場合には、一方の企業は他方の企業に関連 の場所であって企業がその事業の全部又は一部 するものとして扱われます。 を行っているものをいいます。 ⒤ 一方の企業が他方の企業の経営、支配又は 資本に直接又は間接に参加している場合(親 ⑵ 恒久的施設の例示(本条 2 ) 子関係) 本条 2 は、本条 1 の規定を踏まえ、恒久的施 ⅱ 同一の者が双方の企業の経営、支配又は資 設に該当するものとして、次のものを例示して 本に直接又は間接に参加している場合(兄弟 います。 関係) ① 事業の管理の場所 ⑷ 恒久的施設を有するとはされない活動(本条 ② 支店 ③ 事務所 4) ④ 工場 本条 4 は、事業を行う一定の場所であっても、 ⑤ 作業場 次のいずれかに該当することを行う場合は、恒 ⑥ 鉱山、石油又は天然ガスの坑井、採石場そ 久的施設に当たらないことを規定しています。 ① 企業に属する物品又は商品の保管、展示又 の他天然資源を採取する場所 は引渡しのためにのみ施設を使用すること。 ⑶ 建築工事現場等及び役務の提供(本条 3 ) ② 企業に属する物品又は商品の在庫を保管、 本条 3 は、次のものが恒久的施設に含まれる 展示又は引渡しのためにのみ保有すること。 ③ 企業に属する物品又は商品の在庫を他の企 ことを規定しています。 ① 建築工事現場又は建設若しくは据付けの工 業による加工のためにのみ保有すること。 事であって 6 か月を超える期間存続するもの ④ 企業のために物品若しくは商品を購入し、 ② 企業が行う役務の提供(コンサルタントの 又は情報を収集することのみを目的として、 役務の提供を含みます。 )であって、使用人 事業を行う一定の場所を保有すること。 又はその役務の提供のために採用されたその ⑤ 企業のために広告、情報の提供、科学的調 他の職員を通じて行われるもの。ただし、こ 査の実施その他これらに類する活動を行うこ ─ 736 ─ ――租税条約の締結・改正―― とのみを目的として、事業を行う一定の場所 かに該当するときは、その代理人がその企業の を保有すること。ただし、これらの活動が準 ために行う全ての活動について、その企業は当 備的又は補助的な性格のものである場合に限 該一方の締約国内に恒久的施設を有するものと ります。 されます。ただし、代理人の活動が本条 4 に規 定する活動のみである場合は、恒久的施設を有 ⑸ 事業活動の細分化への対抗(本条 5 ) するものとはされません。 本条 5 は、「ある企業が使用又は保有する事 ① その企業の名において締結される契約 業を行う一定の場所」について、その企業又は ② その企業が所有し、又は使用の権利を有す それと密接に関連する企業が、当該一定の場所 る財産について、所有権を移転し、又は使用 又はそれが存在する締約国内の他の場所におい の権利を付与するための契約 ③ その企業による役務の提供のための契約 て事業活動を行う場合であって、次の①又は② に該当するときは、当該一定の場所については 本条 4 の規定が適用されないことを規定してい ⑺ 独立の地位を有する代理人(本条 7 ) ます。 本条 7 は、一方の締約国内において活動する ① 本条の規定に基づき、当該一定の場所又は 他方の締約国の企業の代理人が、当該一方の締 当該他の場所が、その企業又はそれと密接に 約国内において独立の代理人として事業を行う 関連する企業の恒久的施設を構成する場合 場合について、代理人としての活動が、独立の ② その企業及びそれと密接に関連する企業が、 代理人として活動することを事業とする場合の 当該一定の場所においてそれぞれ行う活動の 通常の方法で行われるときには、本条 6 の規定 組合せ、又はその企業若しくはそれと密接に を適用しないと規定しています。ただし、その 関連する企業が当該一定の場所及び当該他の 代理人が、専ら又は主として、代理人自身と密 場所において行う活動の組合せによる活動の 接に関連する一又は二以上の企業に代わって行 全体が、準備的又は補助的な性格のものでは 動する場合には、そのような企業との関係でこ ない場合 の代理人は、本条 6 の規定を適用しない独立の 代理人とは扱わないこととされています。 なお、この規定が適用されるのは、これらの 企業がそれぞれの場所において行う事業活動が 一体的な業務の一部として補完的な機能を果た ⑻ 法人間に支配関係がある場合の取扱い(本条 8) す場合に限ることとされています。 本条 8 は、法人間に支配関係があるという事 ⑹ 従属代理人(本条 6 ) 実のみによっては、いずれの一方の法人も他方 本条 6 は、企業が代理人を通じて行う活動に の法人の恒久的施設とはされないことを規定し ついて、恒久的施設を有するものとされる場合 ています。法人間の支配関係とは、一方の締約 を規定しています。具体的には、ある企業の代 国の居住者である法人が、他方の締約国の居住 理人(本条 7 に規定する独立の地位を有する代 者である法人又は他方の締約国内において事業 理人を除きます。 )が、一方の締約国内でその を行う法人(その事業が恒久的施設を通じて行 企業を代理するに当たって、反復して契約を締 われるものであるかどうかは問いません。)を 結し、又はその企業によって重要な修正が行わ 支配し、又はこれらに支配されていることをい れることなく日常的に締結される契約の締結の います。 ために反復して主要な役割を果たす場合におい て、これらの契約が次の①から③までのいずれ ─ 737 ─ ――租税条約の締結・改正―― ⑼ ある者とある企業が「密接に関連する」もの に関する持分の50%超を直接若しくは間接に所 とされる場合(本条 9 ) 有する場合、又は第三者がその者及びその企業 本条 9 は、本条 5 及び 7 において、ある者と の受益に関する持分の50%超を直接若しくは間 ある企業が「密接に関連する」ものとされる場 接に所有する場合には、ある者とある企業は密 合を規定しています。具体的には、全ての関連 接に関連するものとして扱われることとされて する事実及び状況に基づいて、一方が他方を支 います。この判定を法人について行う場合は、 配している場合又はそれぞれが同一の者・企業 当該法人の株式の議決権及び価値の50%超又は によって支配されている場合には、ある者とあ 資本に係る受益に関する持分の50%超が直接又 る企業は密接に関連するものとされることとさ は間接に所有されているかで判定することとな れています。 ります。 また、いかなる場合にも、一方が他方の受益 六 不動産所得(第 6 条) ① 不動産に附属する財産 1 本条の趣旨 ② 農業又は林業に用いられる家畜類及び設備 ③ 不動産に関する一般法の規定の適用がある 本条は、不動産から生ずる所得に対する課税上 権利 の取扱いを規定しています。 ④ 不動産用益権 2 解説 ⑤ 鉱石、水その他の天然資源の採取又は採取 ⑴ 不動産から取得する所得の取扱い(本条 1 ) の権利の対価として料金(変動制であるか固 本条 1 は、一方の締約国の居住者が他方の締 定制であるかを問いません。 )を受領する権 約国内に存在する不動産から取得する所得(農 利 業又は林業から生ずる所得を含みます。 )につ いては、その不動産が存在する他方の締約国に ⑶ 本条 1 が適用される所得(本条 3 ) おいて課税することができることを規定してい 本条 3 は、不動産の直接使用、賃貸その他の ます。 全ての形式による使用から生ずる所得について、 本条 1 が適用されることを規定しています。 ⑵ 「不動産」の定義(本条 2 ) 本条 2 は、「不動産」の定義を規定していま す。条約上、「不動産」とは、その財産が存在 ⑷ 企業等の不動産から生ずる所得等の取扱い (本条 4 ) する締約国の法令における不動産の意義を有す 本条 4 は、企業の不動産から生ずる所得及び るものとされています。なお、船舶及び航空機 独立の人的役務の提供のために使用される不動 は「不動産」とはみなさないとされていますが、 産から生ずる所得については、第 7 条(事業利 次のものは「不動産」に含まれるとされていま 得)又は第14条(独立の人的役務)ではなく、 す。 本条が適用されることを規定しています。 ─ 738 ─ ――租税条約の締結・改正―― 七 事業利得(第 7 条) その企業とは別個の独立した存在とみなした上 1 本条の趣旨 で、独立した企業間における条件で取引を行う 本条は、企業が事業活動によって取得する利得 としたならば取得したとみられる利得が恒久的 に対する課税上の取扱いを規定しています。 施設に帰せられるものとすることを規定してい ます。 2 解説 ⑴ 「恒久的施設なければ課税なし」の原則及び ⑶ 費用の控除(本条 3 ) 「帰属主義」の原則(本条 1 ) 本条 3 は、恒久的施設に帰せられる利得を決 本条 1 は、企業が事業活動によって取得する 定するに当たっては、その恒久的施設のために 利得に対する課税に関して、二つの原則を規定 生じた必要経費(経営費及び一般管理費を含み しています。 ます。)を控除することが認められることを規 一つはいわゆる「恒久的施設なければ課税な 定しています。恒久的施設のために生じた費用 し」の原則で、一方の締約国の企業の利得に対 であれば、その恒久的施設が存在する締約国内 しては、その企業が他方の締約国内にある恒久 で生じたものか他の場所で生じたものかは問わ 的施設を通じて他方の締約国内において事業を ないこととされています。 行わない限り、一方の締約国においてのみ課税 ⑷ 利得の決定方法の継続適用(本条 4 ) することができるとされています。 もう一つはいわゆる「帰属主義」の原則で、 本条 4 は、本条 1 から 3 までの規定の適用上、 一方の締約国の企業が他方の締約国内にある恒 恒久的施設に帰せられる利得は、毎年同一の方 久的施設を通じて他方の締約国内において事業 法によって決定されなければならないことを規 を行う場合には、その企業の利得のうちその恒 定しています。ただし、別の方法を用いること 久的施設に帰せられる部分に対してのみ、他方 について正当な理由がある場合は、変更が認め の締約国において課税することができるとされ られることとされています。 ています。 (注) 議定書 4 は、一方の締約国の企業が他方の ⑸ 本条と他の条との関係(本条 5 ) 締約国内において恒久的施設を通じて事業を 本条 5 は、配当や利子など、他の条で別個に 行っていた場合において、この企業がこの恒 取り扱われる種類の所得が企業の利得に含まれ 久的施設を通じて他方の締約国内で事業を行 ている場合には、他の条の規定が優先的に適用 うことをやめた後になってこの恒久的施設に されることを規定しています。もっとも、第10 帰属する利得を取得するときについて、当該 条 6 (配当)、第11条 6 (利子)、第12条 4 (使 利得に対しては、本条に定める原則に従って、 用料)及び第21条 2 (その他の所得)は、これ 他方の締約国において課税することができる らの所得の支払の基因となった資産が、これら ことを規定しています。 の所得が生じた締約国内に所在する恒久的施設 と実質的な関連を有する場合には、本条又は第 ⑵ 恒久的施設に帰せられる利得の計算(本条 2) 14条(独立の人的役務)が適用されることを規 定しています。 本条 2 は、企業の一部である恒久的施設を、 ─ 739 ─ ――租税条約の締結・改正―― 八 海上運送及び航空運送(第 8 条) は、企業が裸用船による船舶又は航空機の賃貸 1 本条の趣旨 によって取得する利得及びコンテナー(コンテ 本条は、船舶又は航空機を国際運輸に運用する ナーの運送のためのトレーラー及び関連設備を ことによって取得する利得(以下「国際運輸業利 含みます。)の使用、保管又は賃貸から取得す 得」といいます。 )に対する課税上の取扱いを規 る利得を含むこととしています。ただし、その 定しています。 使用、保管又は賃貸が船舶又は航空機を国際運 輸に運用することに付随する場合に限ることと 2 解説 されています。 ⑴ 国際運輸業利得の取扱い(本条 1 ) 本条 1 は、企業が取得する国際運輸業利得に ⑷ 締約国内の二地点間の運送から取得する利得 対しては、その企業の居住地国においてのみ課 の取扱い(本条 4 ) 税することができることを規定しています。 本条 4 は、一方の締約国の企業が、他方の締 約国内のある場所で乗せ、又は積み込み、かつ、 ⑵ 国際運輸業利得に対する事業税の免除(本条 他方の締約国内の他の場所で降ろし、又は取り 2) 卸す旅客又は物品の船舶又は航空機による運送 本条 2 は、国際運輸業利得について、チリの によって取得する利得については、本条 1 の規 企業であれば我が国の事業税、我が国の企業で 定を適用せず、第 7 条(事業利得)又は第14条 あればチリにおける我が国の事業税に類似する (独立の人的役務)の規定を適用することを規 定しています。 租税(現在チリにはそのような租税はありませ んが、今後そのような租税が課された場合に対 象となります。)を免除することを規定してい ⑸ 共同事業に係る国際運輸業利得の取扱い(本 条5) ます。 本条 5 は、企業が共同計算、共同経営又は国 ⑶ 国際運輸業利得の範囲(本条 3 ) 際経営共同体に参加していることによって取得 本条 3 は、国際運輸業利得の範囲について規 する国際運輸業利得についても、本条 1 から 4 定しています。具体的には、国際運輸業利得に までが適用されることを規定しています。 九 関連企業(第 9 条) 格に引き直してそれぞれの企業の利得を計算する 1 本条の趣旨 という独立企業原則に基づく課税(いわゆる移転 関連企業間の取引においては、独立した企業間 で用いられる取引価格(以下「独立企業間価格」 といいます。 )とは異なる取引価格を用いること によって、所得が関連企業間で移転されることが 価格税制)に関するルールを定めています。 2 解説 ⑴ 独立企業間価格に基づく課税のルール(本条 あります。 1) 本条は、関連企業間の取引価格を独立企業間価 本条 1 は、親子関係や兄弟関係にある関連企 ─ 740 ─ ――租税条約の締結・改正―― 業間において、独立した企業間に設けられる取 れて課税されていることから、双方の締約国が 引条件とは異なる取引条件が設定されており、 同一の利得について課税するという二重課税の これにより企業の利得が減少していると認めら 状態が生ずることになります。本条 2 は、この れる場合には、その企業の利得を独立した企業 ような二重課税を除去するため、他方の締約国 間の取引において得られたであろう利得に引き の権限のある当局が一方の締約国により行われ 直して課税することができることを規定してい た更正は本条 1 の規定に沿ったものとして正当 ます。 であると同意することを条件として、他方の締 企業間の関係が以下のいずれかに該当する場 約国が関連企業の利得の減額調整(対応的調 合には、その関係にある企業は関連企業とされ 整)を行うことを規定しています。なお、この ます。 調整に当たっては、両締約国の権限のある当局 ① 一方の締約国の企業が他方の締約国の企業 は、必要があるときは、相互に協議することと されています。 の経営、支配又は資本に直接又は間接に参加 している場合(親子関係にある場合) ② 同一の者が一方の締約国の企業及び他方の ⑶ 利得の調整ができる期間の制限(本条 3 ) 締約国の企業の経営、支配又は資本に直接又 本条 3 は、本条 1 に基づく利得の更正が認め は間接に参加している場合(兄弟関係にある られる期間を、更正を行う締約国の国内法に定 場合) める期間と、企業の利得に係る課税年度の終了 時から10年以内の期間のいずれか短い方に制限 ⑵ 対応的調整(本条 2 ) することを規定しています。ただし、不正に租 本条 1 に基づいて、一方の締約国が企業の利 税を免れた利得については、この制限は適用さ 得を更正して課税した場合、更正された部分の れません。 利得は他方の締約国の関連企業の利得にも含ま 十 配当(第10条) ⑵ 源泉地国の課税(本条 2 及び 3 ) 1 本条の趣旨 本条 2 は、配当を支払う法人が居住者とされ 本条は、配当に対する源泉地国における限度税 る一方の締約国(源泉地国)においても課税す 率など、配当に対する課税上の取扱いを規定して ることができることを規定するとともに、その います。 配当の受益者が他方の締約国の居住者である場 合に源泉地国において課税することができる税 2 解説 率の上限(限度税率)を規定しています。 ⑴ 居住地国の課税(本条 1 ) 具体的には、配当の受益者が、その配当の支 本条 1 は、一方の締約国の居住者である法人 払を受ける者が特定される日(いわゆる基準 が他方の締約国の居住者に支払う配当に対して 日)をその末日とする 6 か月の期間を通じて、 は、配当を受け取る者が居住者とされる他方の その配当を支払う法人の議決権の25%以上を直 締約国(居住地国)において課税することがで 接に所有する法人である場合には限度税率は 5 きることを規定しています。 %(本条 2 ⒜)とされ、それ以外の場合には15 %(本条 2 ⒝)とされています。 また、本条 2 では、本条 2 の規定が、配当を ─ 741 ─ ――租税条約の締結・改正―― 支払う法人のその配当に充てられる利得に対す の居住者が実際に受け取る配当の額と実際にチ る課税に影響を及ぼすものではないことも規定 リにおいて納付することとなる追加税の額とを されています。 用いて配当に対する実質的な税率を算出すると、 さらに、本条 3 は、配当の受益者が他方の締 約10%となります。 約国の年金基金である場合に源泉地国の課税を (注) 本条 4 の規定は、追加税の税率が過度に高 免除することを規定しています。ただし、その 率でないこと及び追加税の額の計算に当たっ 配当が、当該年金基金が事業を遂行することに て第一区分税の額の全額を税額控除できるこ より又は関連企業を通じて取得されたものであ とが前提となっています。これらの前提が失 る場合は、本条 3 を適用しないこととされてい われた場合は本条 4 の規定を維持する必要性 ます。 や妥当性を欠くこととなるため、議定書 5 では、 チリの法令に基づいて課される追加税の税率 ⑶ チリにおいて納付される追加税の適用除外 が35%を超える場合、又は納付すべき追加税 (本条 4 ) の額を決定するに当たり、第一区分税の全額 チリの国内法上、配当に対しては追加税が課 を控除することができなくなる場合には、本 されることとなっていますが、本条 4 は、配当 条 4 の規定を適用せず、本条 2 の規定に基づ に対する源泉地国課税を制限することを定めた いて課される租税について両締約国において 本条 2 及び 3 は、チリにおいて納付される追加 20%の限度税率が適用されることを規定して 税には適用しないことを規定しています。した います。加えて、上記の場合又はチリが他国 がって、チリにおいては、本条 2 又は 3 の規定 との条約においてチリにおいて納付される追 にかかわらず、国内法の規定に従って追加税が 加税の適用を制限することに合意する場合、 課されることとなります。 両締約国は、特典の均衡を回復するために条 これは、チリの国内法が、法人に対する課税 約を改正することを目的として協議すること と株主が受け取る配当に対する課税が二重課税 が規定されています。 となることを調整するための方法として、いわ ゆるインピュテーション方式を採用しているこ ⑷ 「配当」の定義(本条 5 ) とに基因しています。チリにおけるインピュテ 本条 5 は、「配当」の定義を規定しています。 ーション方式の下では、配当支払法人が支払っ 条約の適用上、「配当」とは、株式その他利得 た第一区分税(我が国の法人税に相当)の税額 の分配を受ける権利(信用に係る債権を除きま を、株主に分配されたものと見なして株主の課 す。)から生ずる所得及びその他の権利から生 税ベースに一度含めた上で株主段階での追加税 ずる所得であってその分配を行う法人の居住地 の税額を計算することとした上で、株主は、自 国の租税に関する法令上株式から生ずる所得と 身に分配されたものと見なされた第一区分税の 同様に取り扱われる所得をいいます。 額と同額を追加税の計算において税額控除する ことが認められています。したがって、追加税 ⑸ 恒久的施設等に実質的に関連する配当の取扱 に対して限度税率を適用して源泉地国課税を制 い(本条 6 ) 限すると、税額控除によって追加税の納付税額 本条 6 は、配当の支払の基因となった株式そ が僅少となります。このため、本条 4 を規定し、 の他の持分が、その配当の受益者が源泉地国内 追加税の課税権が実質的に失われることを回避 に有する恒久的施設又は固定的施設と実質的な しています。 関連を有する場合には、第 7 条(事業利得)又 なお、現在のチリの国内法に基づき、我が国 は第14条(独立の人的役務)が適用されること ─ 742 ─ ――租税条約の締結・改正―― を規定しています。この場合には、本条に規定 が他方の締約国内から生じたものであっても、 する配当に対する源泉地国課税の制限は適用さ 他方の締約国はその配当又は留保所得に対して れません。 課税することができないことを規定しています。 ただし、配当が他方の締約国の居住者に支払わ ⑹ 追いかけ課税の禁止(本条 7 ) れる場合及び配当の支払の基因となった株式そ 本条 7 は、一方の締約国の居住者である法人 の他の持分が他方の締約国内にある恒久的施設 が支払う配当及びその法人の留保所得について 又は固定的施設と実質的な関連を有する場合に は、その配当及び留保所得の原資となった所得 は、本規定は適用されません。 十一 利子(第11条) ③ 関連しない者との取引に係る貸金業又は金 1 本条の趣旨 融業を継続して営むことによって実質的に総 本条は、利子に対する源泉地国における限度税 所得を取得する企業(当該利子を支払う者と 率など、利子に対する課税上の取扱いを規定して 関連しないものに限ります。また、ここでい います。 う「貸金業又は金融業」には、信用状の発行、 保証の提供及びクレジット・カードのサービ 2 解説 スの提供に関する事業を含みます。) ⑴ 居住地国の課税(本条 1 ) ④ 機械又は設備を販売した企業(信用供与に 本条 1 は、一方の締約国内において生じ、他 よる当該機械又は設備の販売の一環として生 方の締約国の居住者に支払われる利子に対して じた債権に関して当該利子が支払われる場合 は、利子を受け取る者が居住者とされる他方の に限ります。) ⑤ 上記①から④までに掲げるもの以外の企業 締約国(居住地国)において課税することがで で、当該利子の支払が行われる課税年度の直 きることを規定しています。 前の 3 課税年度において、その負債の50%を ⑵ 源泉地国の課税(本条 2 及び 3 ) 超える部分が金融市場において発行された債 本条 2 は、利子が生じた一方の締約国(源泉 券又は有利子預金から成り、かつ、その資産 地国)においても課税することができることを の50%を超える部分が当該企業と関連しない 者に対する信用に係る債権から成る企業 規定し、その利子の受益者が他方の締約国の居 住者である場合に源泉地国が課税することがで 上記規定の適用上、企業は、ある者と第 9 条 きる税率の上限(限度税率)を規定しています。 1 ⒜又は⒝(関連企業)に規定する関係を有し 具体的には、利子の受益者が、以下の①から ない場合には、その者と関連しないものとされ ⑤までのいずれかに該当する場合には限度税率 ます。 は 4 %(本条 2 ⒜)とされ、それ以外の場合に (注) 議定書 7 は、チリが他国との間で、利子に は、本条 2 の規定が適用されることとなる日か 対する源泉地国での課税を我が国との間より ら 2 年の期間については15%(本条 3 ) 、それ も更に制限する内容の条約を締結した場合は、 以降の期間については10%(本条 2 ⒝)とされ 我が国からの要請に基づき、そのような制限 ています。 を我が国との間でも適用することができるよ ① 銀行 う条約を改正することを目的として協議する ② 保険会社 ことを規定しています。 ─ 743 ─ ――租税条約の締結・改正―― ⑶ バックトゥバック融資の取扱い(本条 4 ) また、他の所得でその所得が生じた締約国の租 条約においては、受益者が本条 2 ⒜に規定す 税に関する法令上貸付金から生じた所得と同様 る一定の者である場合、そうでない場合よりも に取り扱われるものも「利子」に該当するとさ 有利な限度税率が適用されることとなります。 れています。 そのため、本来であれば本条 2 ⒝が適用される べき者が受益者である融資取引を、本条 2 ⒜が ⑸ 恒久的施設等に実質的に関連する利子の取扱 適用される一定の者を介在させるバックトゥバ い(本条 6 ) ック融資とすることにより、利子の源泉地国で 本条 6 は、利子の支払の基因となった債権が、 の課税を軽減させるおそれが生ずることとなり その利子の受益者が源泉地国内に有する恒久的 ます。 施設又は固定的施設と実質的な関連を有する場 本条 4 は、このようなバックトゥバック融資 合には、第 7 条(事業利得)又は第14条(独立 に関する取決めを利用することにより、利子の の人的役務)が適用されることを規定していま 源泉地国で有利な限度税率の適用を受けること す。この場合には、本条に規定する利子に対す を阻止することを意図しています。具体的には、 る源泉地国課税の制限は適用されません。 バックトゥバック融資の一環として金融機関が 受け取る利子については、有利な限度税率を適 ⑹ 利子の源泉地の定め(本条 7 ) 用せず、その総額の10%を限度として課税する 本条 7 は、利子の源泉地を規定しています。 ことができるとしています。 具体的には、利子の支払者が一方の締約国の居 (注) 議定書 6 では、本条に規定する「バックト 住者である場合には、その利子は、当該一方の ゥバック融資に関する取決め」とは、特に、 締約国内で生じたものとされます。ただし、利 一方の締約国の居住者である金融機関が他方 子の支払の基因となった債務が、その利子の支 の締約国内において生じた利子を受領し、かつ、 払者(いずれかの締約国の居住者であるか否か 当該金融機関が当該利子と同等の利子を他の を問いません。)が一方の締約国内に有する恒 者(当該他方の締約国内から直接に利子を受 久的施設又は固定的施設について生じ、かつ、 領するとしたならば当該利子について当該他 その恒久的施設又は固定的施設によって負担さ 方の締約国において本条 2 ⒜に規定する限度 れるものであるときは、その利子は、当該一方 税率の適用を受けることができなかったとみ の締約国内で生じたものとされます。 られるものに限ります。)に支払うように組成 される全ての種類の取決めをいうことを規定 ⑺ 独立企業間価格を超過する利子の取扱い(本 条8) しています。 本条 8 は、関連者間において独立企業間の取 ⑷ 「利子」の定義(本条 5 ) 引条件と異なる取引条件に基づいて利子が支払 本条 5 は、 「利子」の定義を規定しています。 われた場合には、独立企業間価格を超過する部 「利子」とは、担保の有無を問わず、全ての種 分の利子については、本条に基づく源泉地国課 類の信用に係る債権から生じた所得、特に、公 税の制限を適用せず、条約の他の規定を考慮し 債、債券又は社債から生じた所得(公債、債券 た上で、源泉地国の法令に従って課税すること 又は社債の割増金を含みます。 )をいいます。 ができることを規定しています。 ─ 744 ─ ――租税条約の締結・改正―― 十二 使用料(第12条) フィルム又はフィルム、テープその他画像若 1 本条の趣旨 しくは音の再生の手段を含みます。)の著作 本条は、使用料に対する源泉地国における限度 権、特許権、商標権、意匠、模型、図面、秘 税率など、使用料に対する課税上の取扱いを規定 密方式又は秘密工程その他これらに類する無 しています。 体財産権の使用又は使用の権利 ② 産業上、商業上又は学術上の設備の使用又 2 解説 は使用の権利 ⑴ 居住地国の課税(本条 1 ) ③ 産業上、商業上又は学術上の経験に関する 情報 本条 1 は、一方の締約国内において生じ、他 方の締約国の居住者に支払われる使用料に対し ては、使用料を受け取る者が居住者とされる他 ⑷ 恒久的施設等に実質的に関連する使用料の取 方の締約国(居住地国)において課税すること 扱い(本条 4 ) ができることを規定しています。 本条 4 は、使用料の支払の基因となった権利 又は財産が、その使用料の受益者が源泉地国内 ⑵ 源泉地国の課税(本条 2 ) に有する恒久的施設又は固定的施設と実質的な 本条 2 は、使用料が生じた一方の締約国(源 関連を有する場合には、第 7 条(事業利得)又 泉地国)においても課税することができること は第14条(独立の人的役務)が適用されること を規定し、その使用料の受益者が他方の締約国 を規定しています。この場合には、本条に規定 の居住者である場合に源泉地国が課税すること する使用料に対する源泉地国課税の制限は適用 ができる税率の上限(限度税率)について、産 されません。 業上、商業上又は学術上の設備の使用又は使用 の権利に対する使用料の場合は 2 %(本条 2 ⑸ 使用料の源泉地の定め(本条 5 ) ⒜)とされ、それ以外の場合には10%(本条 2 本条 5 は、使用料の源泉地を規定しています。 ⒝)とされています。 具体的には、使用料の支払者が一方の締約国の 居住者である場合には、その使用料は、当該一 (注) 議定書 7 は、チリが他国との間で、使用料 に対する源泉地国での課税を我が国との間よ 方の締約国内で生じたものとされます。ただし、 りも更に制限する内容の条約を締結した場合 使用料を支払う債務が、その使用料の支払者 は、我が国からの要請に基づき、そのような (いずれかの締約国の居住者であるか否かを問 制限を我が国との間でも適用することができ いません。)が一方の締約国内に有する恒久的 るよう条約を改正することを目的として協議 施設又は固定的施設について生じ、かつ、その することを規定しています。 恒久的施設又は固定的施設によって負担される ものであるときは、その使用料は、当該一方の ⑶ 「使用料」の定義(本条 3 ) 締約国内で生じたものとされます。 本条 3 は、「使用料」の定義を規定していま す。「使用料」とは、以下の対価として受領さ ⑹ 独立企業間価格を超過する使用料の取扱い (本条 6 ) れる全ての種類の支払金をいいます。 ① 文学上、芸術上又は学術上の著作物(映画 ─ 745 ─ 本条 6 は、関連者間において独立企業間の取 ――租税条約の締結・改正―― 引条件と異なる取引条件に基づいて使用料が支 国課税の制限を適用せず、条約の他の規定を考 払われた場合には、独立企業間価格を超過する 慮した上で、源泉地国の法令に従って課税する 部分の使用料については、本条に基づく源泉地 ことができることを規定しています。 十三 譲渡収益(第13条) ⑷ 株式、同等の持分その他の権利の譲渡(本条 1 本条の趣旨 4) 本条は、財産の譲渡によって取得する収益に対 本条 4 は、一方の締約国の居住者が株式、同 する課税上の取扱いを規定しています。 等の持分その他の権利(十三 2 ⑷において「株 式等」といいます。)の譲渡によって取得する 2 解説 収益に対しては、次の①又は②に該当する場合 ⑴ 不動産の譲渡(本条 1 ) には、他方の締約国において課税することがで 本条 1 は、一方の締約国の居住者が他方の締 きることを規定しています(本条 4 ⒜)。 約国内に存在する不動産の譲渡によって取得す ① 譲渡者が、当該譲渡に先立つ365日の期間 る収益に対しては、その不動産の所在地国であ のいずれかの時点において、当該他方の締約 る他方の締約国において課税することができる 国の居住者である法人の資本の20%以上に相 ことを規定しています。 当する株式等を直接又は間接に所有していた 場合 ⑵ 恒久的施設等の事業用資産を構成する財産の ② 当該株式等の価値の50%以上が、当該譲渡 譲渡(本条 2 ) に先立つ365日の期間のいずれかの時点にお 本条 2 は、恒久的施設又は固定的施設の事業 いて、当該他方の締約国内に存在する不動産 用資産を構成する財産(不動産を除きます。 ) により直接又は間接に構成されていた場合 の譲渡から生ずる収益(恒久的施設の譲渡、企 また、上記に該当しない場合であっても、一 業全体の譲渡の一部としての恒久的施設の譲渡、 方の締約国の居住者が他方の締約国の居住者で 又は固定的施設の譲渡から生ずる収益を含みま ある法人の資本に相当する株式等の譲渡によっ す。)に対しては、その恒久的施設又は固定的 て取得するその他の収益に対しては、当該他方 施設の所在地国において課税することができる の締約国においても課税することができますが、 ことを規定しています。 その租税の額は、当該収益の額の16%を超えな いものとすることが規定されています(本条 4 ⑶ 国際運輸に運用される船舶又は航空機の譲渡 ⒝) 。 (本条 3 ) 加えて、上記②に該当する場合(不動産化体 本条 3 は、一方の締約国の企業が国際運輸に 株式の譲渡収益)を除いて、一方の締約国の居 運用する船舶若しくは航空機又はこれらの船舶 住者である年金基金が株式等の譲渡によって取 若しくは航空機の運用に係る財産(不動産を除 得する収益に対しては、当該一方の締約国にお きます。)の譲渡によって取得する収益に対し いてのみ課税することができると規定されてい ては、企業の居住地国である一方の締約国にお ます(本条 4 ⒞)。 いてのみ課税することができることを規定して (注) 議定書 7 は、チリが他国との間で、譲渡収 います。 益に対する両締約国の課税権をより制限する 条件を含む条約を締結した場合は、我が国か ─ 746 ─ ――租税条約の締結・改正―― らの要請に基づき、そのような制限を我が国 ⑸ その他の財産の譲渡(本条 5 ) との間でも適用することができるよう条約を 本条 5 は、本条 1 から 4 までに規定する財産 改正することを目的として協議することを規 以外の財産の譲渡から生ずる収益に対しては、 定しています。 譲渡者の居住地国においてのみ課税することが できることを規定しています。 十四 独立の人的役務(第14条) ② その個人が、その課税年度において開始し、 1 本条の趣旨 又は終了するいずれかの12か月の期間におい 本条は、独立の人的役務について取得する所得 て、合計183日以上の期間他方の締約国内に に対する課税上の取扱いを規定しています。 滞在する場合 なお、上記①又は②に該当する場合には、そ 2 解説 の取得する所得のうち、その固定的施設に帰せ ⑴ 独立の人的役務について取得する所得の取扱 られる部分又はその個人が他方の締約国内で行 い(本条 1 ) う活動によって取得する部分についてのみ、他 本条 1 は、一方の締約国の居住者である個人 方の締約国においても課税することができます。 が自由職業その他の独立の性格を有する活動に ついて取得する所得に対しては、次のいずれか ⑵ 「自由職業」に含まれる活動(本条 2 ) に該当する場合を除き、一方の締約国において 本条 2 は、「自由職業」には、特に、学術上、 のみ課税することができることを規定していま 文学上、芸術上及び教育上の独立の活動並びに す。 医師、弁護士、技術士、建築士、歯科医師及び ① その個人が、その活動を行うため通常その 公認会計士の独立の活動が含まれることを規定 しています。 用に供している固定的施設を他方の締約国内 に有する場合 十五 給与所得(第15条) も課税することができることを規定しています。 1 本条の趣旨 ただし、給与等が第16条(役員報酬)、第18条 本条は、給与所得に対する課税上の取扱いを規 (退職年金)又は第19条(政府職員)の各条に 規定する所得に該当する場合は、これらの規定 定しています。 が適用されます。 2 解説 ⑵ 短期滞在者免税(本条 2 ) ⑴ 給与所得に対する課税(本条 1 ) 本条 1 は、一方の締約国の居住者がその勤務 本条 2 は、次の①から③までの要件を全て満 について取得する給料、賃金その他これらに類 たす場合には、一方の締約国の居住者が他方の する報酬(十五において「給与等」といいま 締約国内で行う勤務について取得する給与等に す。)に対しては、その勤務が他方の締約国内 ついては、本条 1 の規定にかかわらず、他方の で行われる場合に限り、他方の締約国において 締約国において免税とされることを規定してい ─ 747 ─ ――租税条約の締結・改正―― れるものでないこと。 ます。 ① 給与等を取得する者が他方の締約国内に滞 在する期間が、その課税年度において開始し、 ⑶ 国際運輸に運用する船舶内又は航空機内の勤 又は終了するいずれの12か月の期間において 務に係る報酬(本条 3 ) も、合計183日以内であること。 本条 3 は、一方の締約国の企業が国際運輸に ② 給与等が、他方の締約国の居住者でない雇 運用する船舶内又は航空機内において行われる 用者又はこれに代わる者から支払われるもの 勤務に係る給与等に対しては、本条 1 及び 2 の であること。 規定にかかわらず、企業の居住地国である一方 の締約国において課税することができることを ③ 給与等が、雇用者が他方の締約国内に有す 規定しています。 る恒久的施設又は固定的施設によって負担さ 十六 役員報酬(第16条) の居住者である法人の取締役会又はこれに類する 1 本条の趣旨 機関の構成員の資格で取得する報酬に対しては、 本条は、法人の役員の報酬に対する課税上の取 他方の締約国において課税することができること 扱いを規定しています。 を規定しています。 2 解説 本条は、一方の締約国の居住者が他方の締約国 十七 芸能人及び運動家(第17条) 立の人的役務)及び第15条(給与所得)の規定 1 本条の趣旨 にかかわらず、その活動が行われた他方の締約 本条は、芸能人又は運動家として行う個人的活 国(役務提供地国)において課税することがで 動によって取得する所得に対する課税上の取扱い きることを規定しています。 を規定しています。 ⑵ 芸能法人等が取得する報酬の取扱い(本条 2 解説 2) ⑴ 芸能人等が取得する所得の取扱い(本条 1 ) 本条 2 は、芸能人等の芸能活動等に関する所 本条 1 は、一方の締約国の居住者が、演劇、 得が芸能人等以外の者(いわゆる芸能法人等) 映画、ラジオ又はテレビジョンの俳優、音楽家 に帰属する場合には、第14条(独立の人的役 その他の芸能人又は運動家(以下「芸能人等」 務)及び第15条(給与所得)の規定にかかわら といいます。)として他方の締約国内で行う個 ず、その役務提供地国において課税することが 人的活動(以下「芸能活動等」といいます。 ) できることを規定しています。 によって取得する所得に対しては、第14条(独 ─ 748 ─ ――租税条約の締結・改正―― 十八 退職年金(第18条) に関する法令として一方の締約国において課税上 1 本条の趣旨 認められたものに基づく他の退職年金に類する報 本条は、退職年金等に対する課税上の取扱いを 酬であって、一方の締約国において生じ、他方の 規定しています。 締約国の居住者に対して支払われるものに対して は、他方の締約国(居住地国)においてのみ課税 2 解説 することができることを規定しています。 本条は、退職年金及び一方の締約国の社会保障 十九 政府職員(第19条) ただし、その役務が他方の締約国内において 1 本条の趣旨 提供され、かつ、その個人が次の①又は②に該 本条は、政府等に対して提供される役務につい 当する他方の締約国の居住者である場合には、 て政府等から支払われる給与等に対する課税上の その給与等に対しては、他方の締約国において 取扱いを規定しています。 のみ課税することができます(本条 1 ⒝)。 ① 他方の締約国の国民 2 解説 ② 専らその役務を提供するため他方の締約国 ⑴ 政府等から支払われる給与等の取扱い(本条 の居住者となった者でないもの 1) 本条 1 は、一方の締約国又はその地方政府若 ⑵ 事業に関連して支払われる報酬の取扱い(本 しくは地方公共団体に対して提供される役務に 条2) ついて、個人に対し、当該一方の締約国又はそ 本条 2 は、一方の締約国又はその地方政府若 の地方政府若しくは地方公共団体によって支払 しくは地方公共団体の行う事業に関連して提供 われる給料、賃金その他の報酬(十九において される役務について支払われる給与等について 「給与等」といいます。 )に対しては、当該一方 は、第15条(給与所得)、第16条(役員報酬) の締約国(支払国)においてのみ課税すること 又は第17条(芸能人及び運動家)の規定が適用 ができることを規定しています(本条 1 ⒜) 。 されることを規定しています。 二十 学生(第20条) 締約国内に滞在する学生又は事業修習者であって、 1 本条の趣旨 現に他方の締約国の居住者であるもの又はその滞 本条は、学生等に関する課税上の取扱いを規定 在の直前に他方の締約国の居住者であったものが しています。 その生計、教育又は訓練のために受け取る給付 (当該一方の締約国外から支払われるものに限り 2 解説 ます。)については、当該一方の締約国(滞在地 本条は、専ら教育又は訓練を受けるため一方の 国)において免税とされることを規定しています。 ─ 749 ─ ――租税条約の締結・改正―― ただし、事業修習者に対する免税は、滞在地国内 ない期間についてのみ適用されます。 において最初に訓練を開始した日から 1 年を超え 二十一 その他の所得(第21条) 所得を除きます。)の支払の基因となった権利 1 本条の趣旨 又は財産が、その所得の受益者が源泉地国内に 本条は、その他の所得に対する課税上の取扱い 有する恒久的施設又は固定的施設と実質的な関 を規定しています。 連を有する場合には、第 7 条(事業利得)又は 第14条(独立の人的役務)が適用されることを 2 解説 規定しています。この場合には、本条に規定す ⑴ その他の所得の取扱い(本条 1 ) るその他の所得に対する源泉地国免税は適用さ 本条 1 は、一方の締約国の居住者が受益者で れません。 ある所得であって、第 6 条(不動産所得)から 第20条(学生)までに規定されている各種の所 ⑶ その他の所得に対する源泉地国課税(本条 得に該当しないもの(以下「その他の所得」と 3) いいます。 )に対しては、その源泉地を問わず、 本条 3 は、本条 1 及び 2 の規定にかかわらず、 受益者の居住地国である一方の締約国において 一方の締約国の居住者の所得のうち、他方の締 のみ課税することができることを規定しています。 約国内において生ずるその他の所得に対しては、 源泉地国である他方の締約国においても課税で ⑵ 恒久的施設等に実質的に関連するその他の所 きることを規定しています。 得の取扱い(本条 2 ) 本条 2 は、その他の所得(不動産から生ずる 二十二 減免の制限(第22条) る目的の一つであったと判断することが妥当で 1 本条の趣旨 ある場合には、その所得については、特典を与 本条は、条約を濫用して特典を享受することを えられないこととしています(特典を与えるこ 防止するため、取引が条約の濫用を主たる目的と とがこの条約の関連する規定の目的に適合する すると認められる場合には条約の特典を与えない 。 ことが立証されるときを除きます。) ことなどを規定しています。 ⑵ 第三国に所在する恒久的施設に関する濫用防 2 解説 止規定(本条 2 ) ⑴ 主要目的テスト規定(本条 1 ) 本条 2 は、一方の締約国の企業(二十二 2 ⑵ 本 条 1 は、 い わ ゆ る 主 要 目 的 テ ス ト 規 定 において「本店等」といいます。)が他方の締 (PPT:Principal Purpose Test)を規定してい 約国内において所得を取得し、かつ、一方の締 ます。具体的には、条約の他の規定にかかわら 約国がその所得を両締約国以外の国又は地域 ず、全ての関連する事実及び状況を考慮して、 (二十二 2 ⑵において「第三国」といいます。) 条約の特典を受けることが、その特典を直接又 の内に存在する恒久的施設(二十二 2 ⑵におい は間接に得ることとなる仕組み又は取引の主た て「第三国PE」といいます。 )に帰せられるも ─ 750 ─ ――租税条約の締結・改正―― のとして取り扱う場合において、次の①又は② の締約国との間において有効な租税条約を有 に該当するときは、この条約の他の規定に基づ していない国又は地域に存在する場合(ただ いて与えられることとなる特典は、その所得に し、第三国PEに帰属する所得が、一方の締 対して与えられないことを規定しています。 約国において本店等の課税標準に含まれると きは、この限りでありません。) ① 一方の締約国及び第三国においてこの所得 に関して実際に納付される租税の額の合計が、 なお、本条 2 の規定が適用される所得に対し この所得が一方の締約国内において本店等に ては、条約の他の規定にかかわらず、他方の締 よって取得又は受領され、かつ、第三国PE 約国(源泉地国)の法令に従って課税すること に帰属しないとしたならば一方の締約国にお ができるとされていますが、これらの所得が利 いてこの所得に関して納付されたであろう租 子又は使用料の場合、25%の限度税率が適用さ 税の額の60%に満たない場合 れることとされています。 ② 第三国PEが、特典が申請されている他方 二十三 二重課税の除去(第23条) ⑵ チリにおける二重課税の除去(本条 2 ) 1 本条の趣旨 本条 2 は、チリの居住者が条約の規定に従っ 本条は、各締約国が自国の居住者に対して二重 て我が国において租税を課される所得を取得す 課税を除去するための措置をとらなければならな る場合には、チリの法令の規定に従い、その所 いことを規定しています。 得について納付されるチリの租税の額から我が 国において納付される租税の額を控除すること 2 解説 を規定しており、この規定は、条約に規定する ⑴ 我が国における二重課税の除去(本条 1 ) 全ての所得について適用することとされていま 本条 1 は、我が国の居住者が条約の規定に従 す(本条 2 ⒜)。 ってチリにおいて租税を課される所得をチリ内 なお、チリの居住者が取得する所得について、 から取得する場合には、その所得について納付 条約の規定に従ってチリにおいて租税が免除さ されるチリの租税の額を、我が国の法令の規定 れる場合においても、チリは、他の所得に対す に従って、我が国の租税の額から控除すること る租税の額の算定に当たって、その免除された を規定しています。ただし、その控除の額は、 所得を考慮に入れることができます(本条 2 ⒝)。 我が国の租税の額のうち、その所得に対応する 部分を超えることはできません。 二十四 無差別待遇(第24条) 1 本条の趣旨 2 解説 本条は、相手国の居住者等に対して課税上の差 ⑴ 国民無差別(本条 1 ) 別的取扱いを行ってはならないことを規定してい 本条 1 は、一方の締約国の国民は、他方の締 ます。 約国において、課税上、特に居住者であるか否 かに関し同様の状況にある他方の締約国の国民 と異なる取扱いをなされることはなく、また、 ─ 751 ─ ――租税条約の締結・改正―― その国民よりも重い租税を課されることはない ⑷ 支払先無差別(本条 4 ) ことを規定しています。本条 1 の規定は、第 1 本条 4 は、一方の締約国の企業が他方の締約 条(対象となる者)の規定にかかわらず、いずれ 国の居住者に支払った利子、使用料その他の支 の締約国の居住者でもない者にも適用されます。 払金については、当該一方の締約国の企業の課 税対象利得の決定に当たって、当該一方の締約 ⑵ 恒久的施設無差別(本条 2 ) 国の居住者に支払われたとした場合における条 本条 2 は、一方の締約国の企業が他方の締約 件と同様の条件で控除されることを規定してい 国内に有する恒久的施設は、他方の締約国にお ます。ただし、独立企業原則に基づく課税のル いて、同様の活動を行う他方の締約国の企業に ー ル( 第 9 条 1 ( 関 連 企 業 ) 、 第11条 8 ( 利 対する課税よりも不利に課税されることはない 子)又は第12条 6 (使用料))が適用される場 ことを規定しています。 合、本条 4 は適用されません。 ⑶ 相手国居住者に人的控除等を与える義務の不 ⑸ 資本無差別(本条 5 ) 存在(本条 3 ) 本条 5 は、一方の締約国の企業であって、そ 本条 3 は、本条のいかなる規定も、一方の締 の資本の全部又は一部が、他方の締約国の一又 約国に対し、家族の状況や家族を扶養するため は二以上の居住者によって直接又は間接に所有 の負担を理由として、一方の締約国の居住者に され、又は支配されているものは、一方の締約 認められる配偶者控除、扶養控除などの人的控 国において、課税上、一方の締約国の類似の他 除等を他方の締約国の居住者に認めることを義 の企業と異なる取扱いをなされることはなく、 務付けるものではないことを規定しています。 また、その類似の企業よりも重い租税を課され ることはないことを規定しています。 二十五 相互協議手続(第25条) 税措置の最初の通知の日から 3 年以内にしなけ 1 本条の趣旨 ればならないこととされています。 本条は、条約の適用に関して生ずる問題を解決 するための相互協議手続について規定しています。 ⑵ 相互協議及び合意の実施(本条 2 ) 本条 2 は、本条 1 の申立てを受けた権限のあ 2 解説 る当局は、その申立てを正当と認める場合であ ⑴ 納税者の申立て(本条 1 ) って、かつ、自らの措置のみでは満足すべき解 本条 1 は、いずれか一方又は双方の締約国の 決を与えることができない場合には、他方の締 措置により条約の規定に適合しない課税を受け 約国の権限のある当局との合意によってその事 たと認める者又は受けることになると認める者 案を解決するよう努めなければならないことを は、その事案について、一方又は双方の締約国 規定しています。権限のある当局間で合意が成 の法令上の救済手段(異議申立て、訴訟の提起 立した場合には、両締約国の法令上のいかなる など)とは別に、自己が居住者である締約国 期間制限にもかかわらず、その合意を実施しな (第24条 1 (国民無差別)の規定の適用に関し ければならないこととされています。 ては自己が国民である締約国)の権限のある当 局に対して申立てをすることができることを規 ⑶ 条約の解釈又は適用に関する相互協議 (本条 3 ) 定しています。ただし、その申立ては、その課 本条 3 は、両締約国の権限のある当局は、条 ─ 752 ─ ――租税条約の締結・改正―― 約の解釈又は適用に関して生ずる困難又は疑義 のある当局の合意を受け入れない場合を除き、 についても合意によって解決するよう努めなけ 両締約国を拘束し、両締約国の法令上のいか ればならないこと、及び、条約に定めのない場 なる期間制限にもかかわらず実施されます。 合における二重課税を除去するため、相互に協 ③ 両締約国の権限のある当局は、この仲裁の 手続の実施方法を合意によって定めることと 議することができることを規定しています。 されています。 (注) 議定書 8 は、本条 3 に規定する「この条約 の解釈又は適用に関して生ずる困難又は疑義」 には、条約の目的が国際的な二重課税を回避 ⑹ 仲裁の手続等の細目(本条 6 ) 本条 6 は、本条 5 に規定する仲裁の手続等の することであることを考慮して、特典の付与 に関し、予定されていない又は意図されてい 細則について以下のように規定しています。 ない方法で条約の規定が利用される事案を含 (注) 議定書 9 は、本条 6 は、本条 5 の規定に従 って未解決の事項を仲裁に付託することにつ むことを確認しています。 いて、両締約国の権限のある当局が合意した ⑷ 権限のある当局の直接通信(本条 4 ) 場合にのみ適用されることを規定しています。 本条 4 は、本条 2 及び 3 の合意に達するため、 ① 両締約国の権限のある当局は、本条 5 の規 両締約国の権限のある当局は、直接相互に通信 定に従って申し立てられた事案によって直接 すること(両締約国の権限のある当局又はその 影響を受ける者の作為又は不作為がその事案 代表者により構成される合同委員会を通じて通 の解決を妨げる場合又は権限のある当局及び 信することを含みます。 )ができることを規定 申立てを行った者が別に合意する場合を除い しています。 て、仲裁の要請から 2 年以内に仲裁決定が実 施されることを確保する手続を合意によって ⑸ 仲裁(本条 5 ) 定めることとされています(本条 6 ⒜)。 本条 5 は、条約の規定に適合しない課税を受 ② 仲裁委員会の設置に関する規則 けたとして申し立てられ相互協議の対象となっ ⒤ 仲裁のための委員会(以下、「仲裁委員 た事案について、 権限のある当局間で一定の期間 会」といいます。)は、国際租税に関する事項 内に事案の解決ができない場合における第三者に について専門知識又は経験を有する 3 人の よる仲裁について、 以下のとおり規定しています。 仲裁人によって構成されます(本条 6 ⒝⒤)。 ① 両締約国の権限のある当局が、一方の締約 ⅱ 仲裁人は、それぞれの締約国の権限のあ 国の権限のある当局から他方の締約国の権限 る当局によってそれぞれ 1 人ずつ任命され、 のある当局に対し事案に関する協議の申立て その任命された 2 人の仲裁人が、仲裁委員 をした日から 2 年以内に当該事案を解決する 会の長となる第三の仲裁人を任命します ための合意に達することができない場合に、 (本条 6 ⒝ⅱ)。 相互協議の申立てを行った者が仲裁手続に入 ⅲ 我が国又はチリの税務職員及び申し立て ることを要請し、かつ両締約国の権限のある られた事案に関与した者は、仲裁人になる 当局が合意するときは、当該事案の未解決の ことができません。また、第三の仲裁人は、 事項は仲裁に付託されます。ただし、未解決 いずれの締約国の国民でもなく、いずれの の事項についていずれかの締約国の裁判所又 締約国内にも日常の居所を有したこともな は行政審判所が既に決定を行った場合には、 く、及びいずれの締約国によっても雇用さ 仲裁に付託されません。 れたこともないことが要件とされています ② 仲裁決定は、事案によって直接影響を受け る者が、仲裁決定を実施する両締約国の権限 ─ 753 ─ (本条 6 ⒝ⅲ)。 ⅳ 仲裁手続の実施に先立ち、全ての仲裁人 ――租税条約の締結・改正―― 及びそれらの職員が、それぞれの権限のあ 事案が次のいずれかに該当することとなる場 る当局に対して送付する書面において、第 合には、その事案に関する両締約国の権限の 26条 2 (情報交換に関する守秘義務)及び ある当局の合意のための手続(仲裁手続を含 両締約国において適用される法令に規定す みます。)は、終了します。(本条 6 ⒠)。 る秘密及び不開示に関する義務と同様の義 ⒤ 両締約国の権限のある当局が、本条 2 の 務に従うことが確保されなければなりませ 規定に従い、その事案を解決するための合 ん(本条 6 ⒝ⅳ) 。 意に達する場合 ⒱ 各締約国の権限のある当局は、自らが任 命した仲裁人に係る費用及び自らが仲裁に ⅱ その事案について申立てをした者が仲裁 の要請を撤回する場合 関与する費用を負担し、仲裁委員会の長の ⅲ 仲裁手続中に、その事案についていずれ 費用その他の仲裁手続の実施に関する費用 か一方の締約国の裁判所又は行政審判所が は、両締約国の権限のある当局が均等に負 決定を行う場合 ⑥ 訴訟又は審査請求が行われている事案につ 担します(本条 6 ⒝⒱) 。 ③ 両締約国の権限のある当局は、全ての仲裁 いて、当該訴訟又は審査請求の当事者であっ 人及びそれらの職員に対し、仲裁決定のため てその事案により直接に影響を受ける者が、 に必要な情報を不当に遅滞することなく提供 仲裁委員会の決定を受領した日の後60日以内 しなければなりません(本条 6 ⒞) 。 に、関連する裁判所又は行政審判所に対し、 ④ 仲裁決定は、次のように取り扱われます。 仲裁手続において解決された全ての事項に関 ⒤ 仲裁決定は先例としての価値を有しませ する訴訟又は審査請求を取り下げない場合に は、仲裁決定を実施する両締約国の権限のあ ん(本条 6 ⒟⒤) 。 ⅱ 仲裁決定は、いずれか一方の締約国の裁 る当局の合意は、申立てをした者により受け 判所が、仲裁に関する手続規則等に違反す 入れられなかったものとされます。この場合 ることによりその仲裁決定を無効と判断し には、その事案について、両締約国の権限の た場合を除き、確定します。仲裁決定が無 ある当局による更なる検討は行われません 効とされる場合には、その仲裁の要請は行 (本条 6 ⒡)。 われなかったものとし、仲裁手続は、本条 ⑦ 本条 5 及び 6 の規定は、第 4 条 3 の規定に 6 ⒝ⅳ及び⒱の規定に係る手続を除き、行 該当する事案(個人以外の双方居住者に関す われなかったものとします(本条 6 ⒟ⅱ) 。 る両締約国の権限のある当局による合意)に ⑤ 仲裁委員会がその決定を両締約国の権限の ついては、適用されません(本条 6 ⒢)。 ある当局に送付するまでに、その仲裁に係る 二十六 情報の交換(第26条) 約の規定の実施又は両締約国若しくはそれらの 1 本条の趣旨 地方政府若しくは地方公共団体が課す全ての種 本条は、両締約国の税務当局が租税に関する情 類の租税に関する法令(その法令に基づく課税 報を交換することを規定しています。 が条約の規定に反しない場合に限ります。)の 運用若しくは執行に関連する情報を交換するこ 2 解説 とを規定しています。また、この情報の交換は、 ⑴ 権限のある当局間の情報交換(本条 1 ) 第 1 条(対象となる者)及び第 2 条(対象とな 本条 1 は、両締約国の権限のある当局が、条 ─ 754 ─ る租税)の規定にかかわらず、両締約国の居住 ――租税条約の締結・改正―― 者でない者に関する情報や、条約の対象となる することができない情報を提供すること。 租税以外の租税に関する情報も対象となること ③ 営業上、事業上、産業上、商業上若しくは 職業上の秘密若しくは取引の過程を明らかに が規定されています。 するような情報又は公開することが公の秩序 ⑵ 交換された情報の取扱い(本条 2 ) に反することになる情報を提供すること。 本条 2 は、本条 1 に基づき一方の締約国が受 領した情報は、一方の締約国の法令に基づいて ⑷ 情報交換のための情報収集措置(本条 4 ) 入手した情報と同様に秘密として取り扱われな 本条 4 は、各締約国は、本条の規定に従って ければならず、本条 1 に規定する租税の賦課若 情報の提供の要請があった場合には、自国の課 しくは徴収、租税に関する執行若しくは訴追、 税目的のために必要な情報か否かにかかわらず、 租税に関する不服申立てについての決定又はこ その情報を入手するための必要な手段を用いな れらの監督に関与する者又は当局(裁判所及び ければならないことを規定しています。また、 行政機関を含みます。 )に対してのみ開示され その手段を用いるに当たっては、本条 3 の制限 ること、及びこれらの者又は当局はその情報を に従いますが、その制限は、いかなる場合にも、 そのような目的のためにのみ使用し、また、公 その情報が自国の課税目的のために必要でない 開の法廷における審理又は司法上の決定におい ことのみを理由としてその情報の提供を拒否す て開示することができることを規定しています。 ることを認めるものではないことも規定されて ただし、上記にかかわらず、一方の締約国が います。 受領した情報は、両締約国の法令に基づき租税 に関する目的以外の目的のために使用すること ⑸ 情報提供拒否の制限(本条 5 ) ができる場合において、その情報を提供した他 本条 5 は、各締約国は、提供の要請を受けた 方の締約国の権限のある当局がそのような使用 情報が、銀行その他の金融機関、名義人、代理 を許可するときは、租税に関する目的以外の目 人若しくは受託者が有する情報又はある者の所 的のために使用することができることとされて 有に関する情報であることのみを理由として、 います。 その提供を拒否することはできないことを規定 しています。 ⑶ 情報提供義務の制限(本条 3 ) (注) 議定書10は、本条 1 及び 2 の規定は、弁護士 本条 3 は、本条 1 及び 2 の規定は、いかなる その他の法律事務代理人がその依頼者との間 場合にも、情報を提供する締約国に対して、次 で行う次の①又は②の通信の内容を明らかに のことを行う義務を課すものではないことを規 する情報を入手又は提供する義務を課するも 定しています。 のと解してはならないことを確認しています。 ① 一方の締約国又は他方の締約国の法令及び ① 法的な助言を求め、又は提供するために 行政上の慣行に抵触する行政上の措置をとる 行われる通信 こと。 ② その内容を進行中の又は予定される法的 ② 一方の締約国又は他方の締約国の法令の下 な手続において使用するために行われる通信 において又は行政の通常の運営において入手 二十七 外交使節団及び領事機関の構成員(第27条) 本条は、条約のいかなる規定も、国際法の一般 機関の構成員の租税上の特権に影響を及ぼすもの 原則又は特別の協定に基づく外交使節団又は領事 ではないことを規定しています。 ─ 755 ─ ――租税条約の締結・改正―― 二十八 見出し(第28条) 本条は、条約の各条の見出しは、引用上の便宜 に影響を及ぼすものではないことを規定していま のためにのみ付されたものであって、条約の解釈 す。 二十九 効力発生(第29条) ① 課税年度に基づいて課される租税に関して 1 本条の趣旨 は、条約が効力を生ずる年の翌年の 1 月 1 日 以後に開始する各課税年度の租税 本条は、条約の効力発生及び適用開始について ② 課税年度に基づかないで課される租税に関 規定しています。 しては、条約が効力を生ずる年の翌年の 1 月 2 解説 1 日以後に課される租税 ⑴ 効力発生(本条 1 ) また、チリについては、取得される所得及び 本条 1 は、条約が、我が国及びチリにおいて 費用として支払われ、貸記され、処理され、又 それぞれの国内法上の手続に従って承認されな は計上される額に対して、条約が効力を生ずる ければならず(注)、その承認を通知する外交 年の翌年の 1 月 1 日以後に課される租税につい 上の公文の交換の日に効力を生ずることを規定 て適用されることが規定されています(本条 2 しています。 ⒝) 。 (注) 我が国においては国会の承認が必要ですが、 本条約は第190回国会において承認されました。 ⑶ 情報の交換の適用開始(本条 3 ) 本条 3 は、第26条(情報の交換)に規定する ⑵ 適用開始(本条 2 ) 情報の交換については、情報の交換の対象とな 本条 2 は、条約が、我が国については、次の る租税が源泉徴収される日又はその租税に係る ものについて適用されることを規定しています 課税年度にかかわらず、条約が効力を生ずる日 から適用されることを規定しています。 (本条 2 ⒜) 。 三十 終了(第30条) できます。 1 本条の趣旨 この場合、条約は、我が国については次のもの 本条は、条約の終了について規定しています。 について適用されなくなります(本条⒜)。 ① 課税年度に基づいて課される租税に関して 2 解説 は、終了の通告が行われた年の翌年の 1 月 1 条約は、一方の締約国によって終了させられる 日以後に開始する各課税年度の租税(本条⒜ 時まで効力を有します。いずれの一方の締約国も、 ⒤) 条約の効力発生の日から 5 年の期間が満了した後 ② 課税年度に基づかないで課される租税に関 に開始する各暦年の 6 月30日以前に、外交上の経 しては、終了の通告が行われた年の翌年の 1 路を通じて他方の締約国に対し書面による終了の 月 1 日以後に課される租税(本条⒜ⅱ) 通告を行うことにより、条約を終了させることが また、チリについては、取得される所得及び費 ─ 756 ─ ――租税条約の締結・改正―― 用として支払われ、貸記され、処理され、又は計 力を生ずる日の前に受けた情報提供の要請は、こ 上される額に対して、通告が行われた年の翌年の の条約の規定に従って取り扱われること、両締約 1 月 1 日以後に課される租税について適用されな 国は、この条約の規定に基づいて入手した情報に くなることが規定されています(本条⒝) 。 関しては、同条に規定する秘密に関する義務に引 なお、第26条(情報の交換)の規定に関しては、 き続き拘束されることが規定されています(本条 当該通告が行われた年の翌年の 1 月 1 日に適用さ ⒞) 。 れなくなることが規定されているほか、終了が効 三十一 議定書 条約には、条約の不可分の一部を成す議定書が 定されています。また、ある措置が条約第24条 付されています。この議定書の各規定の国際法上 (無差別待遇)の規定の適用対象にならないと の効力は、条約本体の各規定のそれと何ら変わる 両締約国の権限のある当局が合意する場合を除 ところはありません。 い て、 サ ー ビ ス の 貿 易 に 関 す る 一 般 協 定 1 議定書 1 ⒜は、チリの法令に基づいて設立さ (GATS)第17条(内国民待遇)の規定はこの れた投資口座や投資基金であって、条約第 4 条 措置について適用しないことが規定されていま 1 (居住者の定義)に基づきチリの居住者とは す。この規定の適用上、 「措置」とは、条約の されないものについて、条約の規定は、これら 対象となる租税に関する法令、規則、手続、決 の投資口座や投資基金が行う送金及びこれらの 定、行政上の行為その他同様の規定又は行為を いうとされています。 参加者が保有する持分の償還又は譲渡から生ず る所得に対して、チリの法令に基づいて課税す 5 「一方の締約国の居住者」に含まれる者の範 囲(条約第 4 条 1 関連)(議定書 3 ) ることを制限するものと解してはならないこと 6 恒久的施設を通じて事業を行うことをやめた を規定しています。 場合の取扱い(条約第 7 条関連)(議定書 4 ) 2 議定書 1 ⒝は、条約のいかなる規定も、チリ の法令第600号(外国投資法)の現行規定及び 7 チリにおいて納付される追加税について源泉 その一般原則を変更することなく随時行われる 地国課税の減免規定を適用しないことへの対応 改正の後の規定の適用に影響を及ぼすものでは 措置及び再交渉(条約第10条関連) (議定書 5 ) 8 「バックトゥバック融資に関する取決め」の ないことを規定しています。 範囲(条約第11条 4 関連)(議定書 6 ) 3 議定書 1 ⒞は、条約のいかなる規定も、条約 第 7 条(事業利得)の規定に従ってチリ内に存 9 条約第11条(利子)、条約第12条(使用料) 在する恒久的施設に帰属する利得について、チ 及び条約第13条(譲渡収益)に関する再交渉 リにおいて我が国の居住者に対して行う第一区 (議定書 7 ) 分税及び追加税の課税に影響を及ぼすものでは 10 予定又は意図されていない方法での条約適用 ないことを規定しています。ただし、追加税の に関する相互協議(条約第25条 3 関連)(議定 書8) 額の計算上、第一区分税の全額を控除すること 11 仲裁の手続等に関する細目の適用場面(条約 ができる場合に限るとされています。 第25条 5 及び 6 関連)(議定書 9 ) 4 議定書 1 ⒟は、条約の解釈や適用(ある措置 が条約の適用の対象となるか否かを含みます。 ) 12 弁護士機密の保護(条約第26条関連) (議定 に関して生ずる問題は、条約第25条(相互協議 手続)の規定に従ってのみ解決されることが規 ─ 757 ─ 書10)
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