696 - 財務省

租税条約の締結・改正
目 次
第一 日本・インド租税条約の一部改正 696
第三 日本・チリ租税条約の締結���� 732
第二 日本・ドイツ租税協定の全面改正 701
第一 日本・インド租税条約の一部改正
て署名が行われました。
はじめに
改正議定書は、現行条約の租税に関する情報交
我が国とインド共和国(以下「インド」といい
換に係る規定を国際標準に沿った規定に改正する
ま す。) と の 間 で は、 こ れ ま で 平 成 元 年(1989
とともに、相手国の滞納租税債権の徴収を相互に
年)に締結(平成18年(2006年)に一部改正)さ
支援する徴収共助制度を導入するほか、利子免税
れた租税条約(以下「現行条約」といいます。
)
の対象となる債権及び対象機関の範囲を拡大して
の下で二重課税の回避及び脱税の防止が図られて
います。
きました。緊密化する両国の経済関係を踏まえ、
改正議定書は、我が国及びインドにおいてそれ
両国政府は、現行条約を改正するための交渉を開
ぞれの国内手続(我が国においては国会の承認を
始することに合意し、平成27年(2015年)12月に
得ることが必要(注))を経た後、その国内手続
「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び
の完了を通知する外交上の公文の交換の日の翌日
脱税の防止のための日本国政府とインド共和国政
から30日目の日に効力を生ずることとなります。
府との間の条約を改正する議定書」
(以下、この
以下では、改正議定書による改正の内容につい
議定書を「改正議定書」といい、改正議定書によ
て逐条で解説していくこととします。
る改正後の条約を「改正後の条約」又は単に「条
(注) 改正議定書は、第190回国会において承認され
約」といいます。
)についてニューデリーにおい
ました。
一 改正議定書第 1 条(条約第11条(利子)関連)
おいて生ずる利子が当該一方の締約国(源泉地
1 改正の概要
国)において免税となる機関である「政府の所
現行条約第11条 3 及び 4 において規定されてい
有する金融機関」を「政府が全面的に所有する
る利子免税の対象となる債権及び対象機関の範囲
金融機関」に変更するとともに、免税となる利
がそれぞれ拡大されました。
子につき、政府等によって保険の引受けが行わ
れた債権に関して支払われた利子が追加されて
2 改正の内容
います。具体的には、以下のとおり規定されて
⑴ 利子に対する源泉地国免税(条約第11条 3 )
条約第11条 3 においては、一方の締約国内に
─ 696 ─
います。
① その利子の受益者が、他方の締約国の政府、
――租税条約の締結・改正――
その地方政府若しくは地方公共団体、その中
行」及び「政府が全面的に所有する機関」に該
央銀行又は他方の締約国の政府が全面的に所
当するものを規定しています。改正議定書では、
有する金融機関(以下「政府等」といいま
インド側について、「インド総合保険公社」及
す。
)である場合(本条 3 ⒜)
び「ニューインディア保険会社」を追加してい
② その利子の受益者が他方の締約国の居住者
ます。また、日本側については、現行条約締結
であり、かつ、その利子が、政府等によって
後の組織再編を反映して「日本輸出入銀行」、
保証された債権、政府等によって保険の引受
「海外経済協力基金」及び「国際協力事業団」
けが行われた債権又は政府等による間接融資
を「株式会社国際協力銀行」及び「独立行政法
人国際協力機構」に変更するとともに、新たに
に係る債権に関して支払われる場合(本条 3
「独立行政法人日本貿易保険」を追加していま
⒝)
す。
⑵ 利子免税の対象となる機関(条約第11条 4 )
条約第11条 4 は、同条 3 に規定する「中央銀
二 改正議定書第 2 条(条約第26条(情報の交換)関連)
ければならないとする規定の新設(条約第26
1 改正の概要
条4)
条約第26条は、締約国がそれぞれ適正な課税を
④ 銀行等の保有する情報についても情報提供
行うため、課税情報の交換について両締約国の権
を拒否することができないことを確認する規
限のある当局の協力関係を定めています。経済活
定の新設(条約第26条 5 )
動の国際化が進展した現在、国外に所在する情報
であっても適切に収集することが適正・公平な課
税の実現のために必要となっており、OECDにお
2 改正の内容
⑴ 権限のある当局間の情報交換(条約第26条
いても2005年及び2012年にモデル租税条約を改正
1)
し、情報交換規定の強化を図っています。改正議
条約第26条 1 は、両締約国の権限のある当局
定書による改正は、OECDモデル租税条約の情報
は、条約の規定の実施又は両締約国若しくはそ
交換規定を採用するものであり、具体的な改正点
れらの地方政府若しくは地方公共団体が課す全
は、以下のとおりです(改正議定書第 2 条)
。
ての種類の租税に関する両締約国の法令(その
① 情報交換の対象となる租税を条約の対象と
法令に基づく課税が条約の規定に反しない場合
なる租税に限定せず、すべての種類の租税に
に限ります。)の運用若しくは執行に関連する
拡大(条約第26条 1 )
情報(文書及び文書の認証された謄本を含みま
② 情報交換により受領した情報について、一
す。)を交換することを規定しています。この
定の条件を満たす場合には、租税以外の他の
情報の交換は、条約第 1 条(人的範囲)及び第
目的のために使用することができるとする規
2 条(対象税目)の規定にかかわらず、両締約
定の新設(条約第26条 2 )
国の居住者でない者に関する情報や、条約の対
③ 各締約国は、同条の規定に従って情報の提
供の要請があった場合には、自国の課税目的
のために必要な情報か否かにかかわらず、そ
の情報を入手するための必要な手段を用いな
─ 697 ─
象となる租税以外の租税に関する情報も対象と
なります。
――租税条約の締結・改正――
⑵ 交換された情報の取扱い(条約第26条 2 )
こと。
条約第26条 2 は、同条 1 に基づき一方の締約
② 一方の締約国又は他方の締約国の法令の下
国が受領した情報は、その一方の締約国の法令
において又は行政の通常の運営において入手
に基づいて入手した情報と同様に秘密として取
することができない情報を提供すること。
り扱われなければならず、租税の賦課若しくは
③ 営業上、事業上、産業上、商業上若しくは
徴収、租税に関する執行若しくは訴追、租税に
職業上の秘密若しくは取引の過程を明らかに
関する不服申立てについての決定又はこれらの
するような情報又は公開することが公の秩序
監督に関与する者又は当局(裁判所及び行政機
に反することになる情報を提供すること。
関を含みます。)に対してのみ、開示されるこ
とを規定しています。これらの者又は当局は、
⑷ 情報交換のための情報収集措置(条約第26条
その情報をそのような目的のためにのみ使用す
4)
るとされており、また、公開の法廷における審
条約第26条 4 は、各締約国は、同条の規定に
理又は司法上の決定において開示することがで
従って情報の提供の要請があった場合には、自
きるとされています。
国の課税目的のために必要な情報か否かにかか
ただし、上記にかかわらず、一方の締約国が
わらず、その情報を入手するための必要な手段
受領した情報は、両締約国の法令に基づき租税
を用いなければならないことを規定しています。
に関する目的以外の目的のために使用すること
その手段を用いるに当たっては、同条 3 の制限
ができる場合において、その情報を提供した他
に従いますが、その制限は、いかなる場合にも、
方の締約国の権限のある当局がそのような使用
その情報が自国の課税目的のために必要でない
を許可するときは、租税に関する目的以外の目
ことのみを理由としてその情報の提供を拒否す
的のために使用することができることとされて
ることを認めるものではありません。
います。
⑸ 情報提供拒否の制限(条約第26条 5 )
⑶ 情報提供義務の制限(条約第26条 3 )
条約第26条 5 は、各締約国は、提供を要請さ
条約第26条 3 は、同条 1 及び 2 の規定は、い
れた情報が、銀行その他の金融機関、名義人、
かなる場合にも、情報を提供する締約国に対し
代理人若しくは受託者が有する情報又はある者
て、次のことを行う義務を課すものではないこ
の所有に関する情報であることのみを理由とし
とを規定しています。
て、その提供を拒否することはできないことを
① 一方の締約国又は他方の締約国の法令及び
規定しています。
行政上の慣行に抵触する行政上の措置をとる
三 改正議定書第 3 条(条約第26条のA(徴収共助)関連)
1 改正の概要
2 改正の内容
徴収共助(両締約国が相手国において滞納され
⑴ 租税の徴収における支援(条約第26条のA
た租税の徴収を相互に支援することをいいます。
1)
以下同じです。
)の規定が新たに設けられました。
条約第26条のA 1 は、滞納租税債権一般につ
いて徴収共助が行われることを規定しています。
この徴収共助は、条約第 1 条(人的範囲)及び
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――租税条約の締結・改正――
基づき執行することができるものであること。
第 2 条(対象税目)の規定にかかわらず、両締
約国の居住者でない者に関する滞納租税や、条
(注) 「執行することができるものであること」
約の対象となる租税以外の租税にも適用されま
とは、滞納処分が完全に執行できる状態を
す。両締約国の権限のある当局は、徴収共助の
意味することから、我が国においては、現
実施方法を合意によって定めることを規定して
行制度上、滞納処分の第一段階である差押
います。
えができる状態となっていること及び不服
申立ての提起や納税・換価の猶予等により
⑵ 租税債権の範囲(条約第26条のA 2 )
滞納処分を完全に執行できない状態になっ
条約第26条のA 2 は、同条の対象となる「租
ていないことが必要になると考えられます。
税債権」の範囲を規定しています。
「租税債
② 徴収の要請の時において、租税債権を負担
権」とは、条約第 2 条(対象税目)に規定する
する者(滞納者)が要請国の法令に基づきそ
条約の対象となる租税(我が国については、所
の租税債権の徴収を停止させることができな
得税、法人税、復興特別所得税、復興特別法人
いこと。
税及び地方法人税が、インドについては、所得
(注) 「租税債権の徴収を停止させることができ
税(加重税を含みます。
)が該当します。
)及び
ないこと」とは、滞納者が徴収手続を止め
次の①から③までに掲げる租税の額並びにその
ることができる行政上又は司法上の権利を
租税の額に関する利子、行政上の金銭罰(注
有していないことを意味します。我が国に
1 ) 及び徴収又は保全の費用(注 2 ) をいいま
おいては、現行制度上、滞納者が不服申立
す。
てを提起することができる権利を有する期
① 我が国については、消費税、相続税及び贈
間は「租税債権の徴収を停止させることが
与税(条約第26条のA 2 ⒜)
できる」ため、上記②の要件を充足するこ
② インドについては、資産税、物品税、サー
とができない(徴収の要請ができない)と
ビス税、売上税及び付加価値税(条約第26条
考えられます。
のA 2 ⒝)
条約第26条のA 3 第二文は、要請国の租税債
③ その他の租税で両締約国の政府が合意する
権を被要請国が徴収するための規範を定めてい
もの(条約第26条のA 2 ⒞)
ます。具体的には、徴収の要請を受けた被要請
(注 1 )
「その租税の額に関する利子、行政上の
国は、要請国の租税債権について、同条 3 第一
金銭罰」とは、我が国においては、延滞
文の要件を満たす自国の租税債権と同様に、租
税、利子税、過少申告加算税等の附帯税
税の執行及び徴収について適用される自国の法
がこれに該当します。
令に従って全ての徴収手続を行う義務を負うこ
とを規定しています。
(注 2 )
「徴収又は保全の費用」とは、我が国に
おいては、滞納処分費がこれに該当します。
⑷ 保全の措置を要請するために必要とされる要
件等(条約第26条のA 4 )
⑶ 徴収を要請するために必要とされる要件等
(条約第26条のA 3 )
条約第26条のA 4 第一文は、一方の締約国
条約第26条のA 3 第一文は、一方の締約国
(要請国)は、要請国の租税債権が要請国の法
(要請国)が、次の①及び②の要件をいずれも
令に基づきその徴収を確保するために差押え等
満たす場合には、他方の締約国(被要請国)に
の保全の措置をとることができるものである場
対して徴収を要請できることを規定しています。
合には、他方の締約国(被要請国)に対して保
① 要請国の租税債権が、その要請国の法令に
全の措置を要請できることを規定しています。
─ 699 ─
――租税条約の締結・改正――
同条 4 第二文は、要請国の租税債権について
所又は行政機関に提起されないことを規定して
被要請国が保全の措置をとるための規範を定め
います。したがって、当該租税債権の存否等に
ています。具体的には、保全の要請を受けた被
ついては、要請国においてのみ争われることと
要請国は、その保全の措置をとる時において上
なります。
記⑶①又は②の要件を満たさない場合であって
も、要請国の租税債権について、自国の租税債
権と同様に、自国の法令に従って保全の措置を
⑻ 徴収又は保全の措置の要請の停止又は撤回
(条約第26条のA 8 )
条約第26条のA 8 は、要請国が徴収又は保全
行う義務を負うことを規定しています。
の措置の要請をした後、被要請国が関連する租
⑸ 租税債権に関する時効及び優先権(条約第26
税債権を徴収し、要請国に送金するまでの間に、
条のA 5 )
その租税債権が次の①又は②に該当しなくなっ
条約第26条のA 5 は、同条 3 及び 4 の規定に
た場合(上記⑶又は⑷の徴収又は保全の措置を
かかわらず、同条 3 又は 4 に基づき被要請国が
要請するために必要な要件を満たさなくなった
徴収又は保全の措置のために引き受けた租税債
場合を意味します。)には、要請国の権限のあ
権について、次のことを規定しています。
る当局は被要請国の権限のある当局に対し、そ
① 被要請国において、被要請国の法令の下で
の事実を速やかに通報し、被要請国の選択によ
租税債権であるとの理由で適用される時効及
り、要請国は、その要請を停止し、又は撤回す
び優先権が認められないこと。
ることを規定しています。
② 被要請国において、要請国の法令において
① 徴収の要請については、租税債権が、要請
要請国の租税債権に適用される優先権が認め
国の法令に基づき執行することができるもの
られないこと。
であり、かつ、その租税債権の滞納者が要請
国の法令に基づきその租税債権の徴収を停止
⑹ 時効の中断(条約第26条のA 6 )
させることができないものであること。
条約第26条のA 6 は、同条 5 の規定にかかわ
② 保全の措置の要請については、租税債権が、
らず、同条 3 又は 4 に規定する徴収又は保全の
要請国がその法令に基づき保全の措置をとる
措置のために被要請国がとった措置は、その措
ことができるものであること。
置が要請国によってとられたならば、要請国の
法令に従ってその租税債権について適用される
⑼ 徴収又は保全の措置における義務の制限(条
時効を停止し、又は中断する効果を有すること
約第26条のA 9 )
となる場合には、要請国の法令の下においても
条約第26条のA 9 は、同条の規定は、いかな
同様に時効を停止し、又は中断する効果を有す
る場合にも、被要請国に対して、次のことを行
ることを規定しています。また、被要請国は、
う義務を課すものではないことを規定していま
その措置について要請国に通報することとされ
す。
ています。
① 要請国又は被要請国の法令及び行政上の慣
行に抵触する行政上の措置をとること。
⑺ 租税債権の存否等に関する争訟手続(条約第
26条のA 7 )
② 公の秩序に反することとなる措置をとるこ
と。
条約第26条のA 7 は、要請国の租税債権の存
③ 要請国がその法令又は行政上の慣行に基づ
在、有効性又は金額(以下「存否等」といいま
き徴収又は保全のために全ての妥当な措置を
す。)に関する争訟の手続は、被要請国の裁判
とっていない場合に支援を行うこと。
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――租税条約の締結・改正――
④ 被要請国の行政上の負担が要請国の得る利
を行うこと。
益に比して明らかに不均衡である場合に支援
四 改正議定書第 4 条(改正議定書の発効)
ⅰ 源泉徴収される租税に関しては、改正議
改正議定書第 4 条は、改正議定書の発効及び適
定書が効力を生ずる年の翌年の 4 月 1 日以
用対象について規定しています。
後に支払われ、または貸記される額
⑴ 改正議定書の効力の発生(改正議定書第 4 条
ⅱ 改正議定書が効力を生ずる年の翌年の 4
1)
月 1 日以後に開始する各課税年度の所得に
改正議定書第 4 条 1 は、改正議定書の発効に
対する租税
ついて規定しています。具体的には、改正議定
書は、我が国及びインドにおいて国内法上の手
⑶ 情報交換及び徴収共助の適用対象(改正議定
続に従って承認された後、その承認を通知する
書第 4 条 3 )
外交上の公文の交換の日の翌日から30日目の日
改正後の条約第26条(情報の交換)及び第26
に、効力を生ずることとされています。
条のA(徴収共助)は、これらの規定の対象と
なる租税が課される日又は当該租税に係る課税
⑵ 改正議定書の適用対象(改正議定書第 4 条
年度にかかわらず、改正議定書の発効日から適
2)
用されます(改正議定書第 4 条 3 )
。したがっ
① 改正議定書は、我が国については、次のも
て、情報交換に関しては、発効日よりも前の課
のについて適用されます(改正議定書第 4 条
税年度に関する情報も改正後の条約第26条に基
2 ⒜)。
づいて交換することができ、徴収共助に関して
ⅰ 課税年度に基づいて課される租税に関し
は、発効日以後に現存する租税債権であればど
ては、改正議定書が効力を生ずる年の翌年
の課税年度に関して生じたものかを問わず徴収
の 1 月 1 日以後に開始する各課税年度の租
共助の対象となります。
税
ⅱ 課税年度に基づかないで課される租税に
⑷ 改正議定書の効力の存続期間(改正議定書第
関しては、改正議定書が効力を生ずる年の
4条4)
翌年の 1 月 1 日以後に課される租税
改正議定書第 4 条 4 は、条約が有効である限
り改正議定書も効力を有することを規定してい
② インドについては、次のものについて適用
ます。
されます(改正議定書第 4 条 2 ⒝)
。
第二 日本・ドイツ租税協定の全面改正
「旧協定」といいます。)の下で二重課税の回避及
はじめに
び脱税の防止が図られてきました。旧協定は、効
我が国とドイツ連邦共和国(以下「ドイツ」と
力が生じて以来50年が経過しており、現在の経済
いいます。
)との間では、
これまで昭和41年(1966
関係にそぐわない内容となっていたため、両国政
年)に締結(昭和54年(1979年)及び昭和58年
府は、旧協定を改正するための交渉を開始するこ
(1983年)に一部改正)された租税協定(以下
とに合意し、平成23年(2011年)12月に政府間交
─ 701 ─
――租税条約の締結・改正――
渉を開始しました。その結果、平成27年(2015
います。さらに、協定においては、租税協定の濫
年)12月に「所得に対する租税及びある種の他の
用を防止するためにOECD / G20によるBEPS行
租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税
動計画に基づき策定された規定案を一部採用して
回避の防止のための日本国とドイツ連邦共和国と
います。これらの措置により、二重非課税並びに
の間の協定」(以下「協定」といいます。
)及び
脱税及び租税回避行為を防止しつつ、両国間の投
「議定書」について東京において署名が行われま
資・経済交流を一層促進することが期待されます。
した。
協定は、両国のそれぞれの国内手続(我が国に
協定は、投資所得に対する投資先の国における
おいては、国会の承認を得ることが必要(注))
課税を軽減又は免除するとともに、税務当局間の
を経た後、その国内手続が完了したことを相手国
情報交換を、租税に関する国際標準に基づいた一
に通告することとされており、遅い方の通告が受
層実効的な形で実施するための規定を設けていま
領された日の翌日から30日目の日に効力を生ずる
す。また、協定では、税務当局間の相互協議にお
こととなります。
ける仲裁制度に関する規定や、両国の税務当局が
以下では、協定の内容について、逐条で解説し
相手国において滞納された租税の徴収を相互に支
ていくこととします。
援するいわゆる徴収共助に関する条項を導入して
(注) 協定は、第190回国会で承認されました。
一 対象となる者(第 1 条)
の所在地国では事業体そのものではなくその構
1 本条の趣旨
成員を納税義務者として認識(構成員課税)す
本条は、協定が適用される者の範囲及び課税上
る場合のように、ある事業体に関する課税上の
存在しないものとして取り扱われる事業体の取扱
取扱いが両国で異なる場合には、両国で協定の
いに関して規定しています。
特典を受ける者に関する認識が異なるため、実
質的な二重課税が生じているにもかかわらず協
2 解説
定が適用できないこととなります。そこで、本
⑴ 協定が適用される者(本条 1 )
条 2 第一文は、いずれか一方の締約国の租税に
協定は、原則として一方の締約国の居住者及
関する法令の下において全面的に若しくは部分
び双方の締約国の居住者について適用されます。
的に課税上存在しないものとして取り扱われる
「一方の締約国の居住者」の定義は、第 4 条 1
団体若しくは仕組みによって又はこのような団
において規定されています。また、この定義に
体若しくは仕組みを通じて取得される所得は、
より我が国とドイツの双方の居住者とされる者
一方の締約国における課税上当該一方の締約国
(以下「双方居住者」といいます。
)は、いずれ
の居住者の所得として取り扱われる限りにおい
か一方の締約国の居住者として振り分けられた
て、一方の締約国の居住者の所得とみなすこと
上で、協定が適用されます(第 4 条 2 及び 3 )
。
を規定することにより、このような場合におけ
る協定の適用を確保しています。
⑵ いずれかの締約国において課税上存在しない
ただし、源泉地国に所在する事業体を通じて
ものとして取り扱われる事業体への協定適用
得た所得について、源泉地国が自国の居住者で
(本条 2 )
ある事業体に対して課税する権利が制限される
例えば、源泉地国ではある事業体を納税義務
ことのないよう、本条 2 第二文は、本条 2 の規
者として認識(団体課税)するが、その事業体
定について、いかなる場合にも、一方の締約国
─ 702 ─
――租税条約の締結・改正――
が自国の居住者に対して課税する権利を制限す
する法令の下において、団体又は仕組みの所得
るものと解してはならないことを規定していま
の全部又は一部について、当該団体又は仕組み
す。
に対してではなく、それらの持分を有する者に
ま た、 本 条 2 第 三 文 は、
「課税上存在しな
対して課税される場合をいうことを規定してい
い」という用語の意義を規定しており、
「課税
ます。
上存在しない」とは、一方の締約国の租税に関
二 対象となる租税(第 2 条)
得に対する租税に関する協定の規定は、我
1 本条の趣旨
が国の事業税、ドイツの営業税及びこれら
本条は、協定が適用される租税を規定していま
の租税に加えて又はこれらに代わって協定
す。
の署名の日の後に課される租税であって、
これらの租税と同一であるもの又は実質的
2 解説
に類似するものについて準用すること(た
本条 1 は、協定の適用対象となる両国の現行の
だし、これらの租税が、所得以外の課税標
租税をそれぞれ以下のとおり規定しています。
準に基づき算定され、又は所得以外の要素
① 我が国については、所得税、法人税、復興
特別所得税、地方法人税、住民税及び事業税
(以下「我が国の租税」といいます。
)
を考慮して算定される場合に限ります。
)を
規定しています。
また、本条 2 では、協定の署名の日の後に、
② ドイツについては、所得税、法人所得税、
これらの租税に加えて又はこれらに代わって課
営業税及び連帯付加税(以下「ドイツの租
される租税であって、これらの租税と同一であ
税」といいます。
)
るもの又は実質的に類似するものについても、
(注) 議定書 1 では、第 2 条の規定に関し、所
協定が適用されることを規定しています。
三 一般的定義(第 3 条)
が国が国際法に基づき主権的権利を有し、か
1 本条の趣旨
つ、我が国の租税に関する法令が施行されて
本条は、協定において使用されている用語の定
いる全ての区域(海底及びその下を含みま
義等を規定しています。
す。)をいいます。
② 「ドイツ連邦共和国」とは、地理的意味で
2 解説
用いる場合には、ドイツ連邦共和国の領域並
⑴ 各用語の定義(本条 1 )
びにドイツ連邦共和国が国際法及び自国の法
本条 1 は、協定の中で用いられている用語に
令に従って天然資源(生物資源であるか否か
ついて、以下のとおり規定しています。
を問いません。)の探査、開発、保全及び管
① 「日本国」とは、地理的意味で用いる場合
理又は再生可能な資源からのエネルギーの生
には、我が国の租税に関する法令が施行され
産のために主権的権利及び管轄権を行使する
ている全ての領域(領海を含みます。
)及び
領海に隣接する区域(海底並びにその下及び
その領域の外側に位置する区域であって、我
上部水域)をいいます。
─ 703 ─
――租税条約の締結・改正――
ている法令によってその地位を与えられた
③ 「一方の締約国」及び「他方の締約国」と
全ての法人、組合又は団体
は、文脈により、我が国又はドイツをいいま
ⅱ ドイツについては、ドイツ連邦共和国基
す。
本法に規定する全てのドイツ人及びドイツ
④ 「者」には、個人、法人及び法人以外の団
において施行されている法令によってその
体を含みます。
地位を与えられた全ての法人、組合又は団
⑤ 「法人」とは、法人格を有する団体又は租
体
税に関し法人格を有する団体として取り扱わ
⑪ 「権限のある当局」とは、次の者をいいま
れる団体をいいます。
す。
⑥ 「企業」とは、あらゆる事業の遂行につい
⒤ 我が国については、財務大臣又は権限を
て用います。
与えられたその代理者
⑦ 「事業」には、自由職業その他の独立の性
ⅱ ドイツについては、連邦財務省又はその
格を有する活動を含みます。
権限を委任された機関
⑧ 「一方の締約国の企業」及び「他方の締約
国の企業」とは、それぞれ一方の締約国の居
住者が営む企業及び他方の締約国の居住者が
⑵ 協定において定義されていない用語の解釈
(本条 2 )
営む企業をいいます。
⑨ 「国際運輸」とは、一方の締約国の企業が
本条 2 は、協定において定義されていない用
運用する船舶又は航空機による運送のうち、
語の解釈について規定しています。協定におい
他方の締約国内の地点の間においてのみ運用
て定義されていない用語は、文脈により別に解
される船舶又は航空機による運送を除いたも
釈すべき場合を除いて、協定の適用を受ける租
のをいいます。
税に関する締約国の法令においてその適用の時
点で有している意義を有するものとされていま
⑩ 一方の締約国の「国民」とは、次の者をい
います。
す。また、租税に関する法令におけるその用語
⒤ 我が国については、我が国の国籍を有す
の意義は、他の法令におけるその用語の意義に
優先することとされています。
る全ての個人及び我が国において施行され
四 居住者(第 4 条)
類する基準により当該一方の締約国において租
1 本条の趣旨
税を課されるべきものとされる者」をいいます。
本条は、「一方の締約国の居住者」の定義等を
ただし、国内に源泉のある所得のみについて租
規定しています。
税を課される者は、「一方の締約国の居住者」
には含まれません。
2 解説
また、一方の締約国、その州及びその地方政
⑴ 「一方の締約国の居住者」の定義(本条 1 )
府又は地方公共団体は「一方の締約国の居住
本条 1 は、「一方の締約国の居住者」の定義
者」に含まれることが明らかにされています。
を規定しています。協定の適用上、
「一方の締
(注) 議定書 2 は、ある者が、一方の締約国の租
約国の居住者」とは、
「一方の締約国の法令の
税に関する法令に規定する租税の免除の要件
下において、住所、居所、事業の管理の場所、
を満たすことによってその所得の全部又は一
本店又は主たる事務所の所在地その他これらに
部が当該一方の締約国において租税を免除さ
─ 704 ─
――租税条約の締結・改正――
約国の居住者
れる場合においても、一方の締約国において
③ 上記②によって決定することができない場
租税を課されるべきものとされる者であるこ
合には、その個人が国民である締約国の居住
とを確認しています。
者
⑵ 双方居住者の振分けルール(本条 2 及び 3 )
④ 上記①から③までによっても決定すること
本条 2 及び 3 は、
「双方居住者」を協定上い
ができない場合には、両締約国の権限のある
ずれか一方の締約国の居住者に振り分けるため
当局の合意により解決されます。
のルールを規定しています。
また、個人以外の者が「双方居住者」に該当
個人が「双方居住者」に該当する場合には、
する場合には、本条 3 に従って、その者の事業
以下のとおりいずれか一方の締約国の居住者と
の実質的な管理の場所、その者の本店又は主た
みなされます(本条 2 )
。
る事務所の所在地、その者が設立された場所そ
① その使用する恒久的住居が所在する締約国
の他関連する全ての要因について考慮した上で、
の居住者。我が国とドイツの双方に恒久的住
両締約国の権限のある当局が合意により決する
居を有する場合には、人的及び経済的関係が
よう努めることとされています。そのような合
より密接な締約国(重要な利害関係の中心が
意がない場合には、その者は、協定により認め
ある締約国)の居住者
られる特典を要求する上で、いずれの締約国の
居住者ともされません。
② 上記①によって決定することができない場
合には、その有する常用の住居が所在する締
五 恒久的施設(第 5 条)
います。
1 本条の趣旨
① 事業の管理の場所
協定は、事業利得に対する課税、配当等に対す
② 支店
る源泉地国課税、給与所得に関する短期滞在者免
③ 事務所
税等について、
「恒久的施設」との関連を基準と
④ 工場
して課税関係を決定しています。
⑤ 作業場
本条は、この「恒久的施設」の定義等を規定し
⑥ 鉱山、石油又は天然ガスの坑井、採石場そ
の他天然資源を採取する場所
ています。
2 解説
⑶ 建築工事現場等(本条 3 )
⑴ 「恒久的施設」の定義(本条 1 )
本条 3 は、建築工事現場又は建設若しくは据
本条 1 は、「恒久的施設」の定義を規定して
付けの工事であって12か月を超える期間存続す
います。「恒久的施設」とは、事業を行う一定
るものは、恒久的施設を構成すると規定してい
の場所であって企業がその事業の全部又は一部
ます。
を行っているものをいいます。
⑷ 恒久的施設を有するとはされない活動(本条
4)
⑵ 恒久的施設の例示(本条 2 )
本条 2 は、本条 1 の規定を踏まえ、恒久的施
本条 4 は、事業を行う一定の場所であっても、
設に該当するものとして、次のものを例示して
次のいずれかに該当することを行う場合は、恒
─ 705 ─
――租税条約の締結・改正――
久的施設に当たらないことを規定しています。
その企業は、代理人が企業のために行う全ての
① 企業に属する物品又は商品の保管、展示又
活動について、当該一方の締約国内に恒久的施
は引渡しのためにのみ施設を使用すること。
設を有するものとされます。ただし、代理人の
活動が本条 4 に規定する活動のみである場合は、
② 企業に属する物品又は商品の在庫を保管、
恒久的施設を有するものとはされません。
展示又は引渡しのためにのみ保有すること。
③ 企業に属する物品又は商品の在庫を他の企
⑹ 独立の地位を有する代理人(本条 6 )
業による加工のためにのみ保有すること。
④ 企業のために物品若しくは商品を購入し、
本条 6 は、一方の締約国の企業について、独
又は情報を収集することのみを目的として、
立の地位を有する代理人を通じて他方の締約国
事業を行う一定の場所を保有すること。
内で事業活動を行っているという理由のみでは、
⑤ 企業のためにその他の準備的又は補助的な
当該他方の締約国内に恒久的施設を有するもの
性格の活動を行うことのみを目的として、事
とはされないことを規定しています。ここでい
業を行う一定の場所を保有すること。
う「独立の地位を有する代理人」とは、「通常
の方法でその業務を行う仲立人、問屋その他の
⑥ 上記①から⑤までに規定する活動を組み合
独立の地位を有する代理人」をいいます。
わせた活動を行うことのみを目的として、事
業を行う一定の場所を保有すること。ただし、
その一定の場所におけるこのような組合せに
⑺ 法人間に支配関係がある場合の取扱い(本条
よる活動の全体が準備的又は補助的な性格の
7)
ものである場合に限ります。
本条 7 は、法人間に支配関係があるという事
実のみによっては、いずれの一方の法人も他方
⑸ 従属代理人(本条 5 )
の法人の恒久的施設とはされないことを規定し
本条 5 は、企業が代理人を通じて行う活動に
ています。法人間の支配関係とは、一方の締約
ついて、恒久的施設を有するものとされる場合
国の居住者である法人が、他方の締約国の居住
を規定しています。具体的には、ある企業の代
者である法人又は他方の締約国において事業を
理人(本条 6 に規定する独立の地位を有する代
行う法人(その事業が恒久的施設を通じて行わ
理人を除きます。
)が、一方の締約国内で、そ
れるものであるかどうかは問いません。)を支
の企業の名において契約を締結する権限を有し、
配し、又はこれらに支配されていることをいい
かつ、この権限を反復して行使する場合には、
ます。
六 不動産所得(第 6 条)
業又は林業から生ずる所得を含みます。)につ
1 本条の趣旨
いては、その不動産が存在する他方の締約国に
本条は、不動産から生ずる所得に対する課税上
おいて課税することができることを規定してい
の取扱いを規定しています。
ます。
2 解説
⑵ 「不動産」の定義(本条 2 )
⑴ 不動産から取得する所得の取扱い(本条 1 )
本条 2 は、
「不動産」の定義を規定していま
本条 1 は、一方の締約国の居住者が他方の締
す。協定上、
「不動産」とは、その財産が存在
約国内に存在する不動産から取得する所得(農
する締約国の法令における不動産の意義を有す
─ 706 ─
――租税条約の締結・改正――
利
るものとされています。なお、船舶及び航空機
は「不動産」とはみなさないとされていますが、
次のものは「不動産」に含まれるとされていま
⑶ 本条 1 が適用される所得(本条 3 )
す。
本条 3 は、不動産の直接使用、賃貸その他の
① 不動産に附属する財産
全ての形式による使用から生ずる所得について、
② 農業又は林業に用いられる家畜類及び設備
本条 1 が適用されることを規定しています。
③ 不動産に関する一般法の規定の適用がある
⑷ 企業の不動産から生ずる所得の取扱い(本条
権利
④ 不動産用益権
4)
⑤ 鉱石、水その他の天然資源の採取又は採取
本条 4 は、企業の不動産から生ずる所得につ
の権利の対価として料金(変動制であるか固
いては、第 7 条(事業利得)ではなく、本条が
定制であるかを問いません。
)を受領する権
適用されることを規定しています。
七 事業利得(第 7 条)
⑵ 恒久的施設に帰せられる利得の計算(本条
1 本条の趣旨
2)
本条は、企業が事業活動によって取得する利得
本条 2 は、本条及び第22条(二重課税の除
に対する課税上の取扱いを規定しています。
去)の規定の適用上、各締約国において恒久的
施設に帰せられる利得は、企業がその恒久的施
2 解説
設及びその企業の他の構成部分を通じて果たす
⑴ 「恒久的施設なければ課税なし」の原則及び
「帰属主義」
(本条 1 )
機能、使用する資産及び引き受ける危険を考慮
した上で、その恒久的施設が同一又は類似の条
本条 1 は、企業が事業活動によって取得する
件で同一又は類似の活動を行う分離し、かつ、
利得に対する課税に関して、二つの原則を規定
独立した企業であるとしたならば、特にその企
しています。
業の他の構成部分との取引においても、その恒
一つはいわゆる「恒久的施設なければ課税な
久的施設が取得したとみられる利得とすること
し」の原則で、一方の締約国の企業の利得に対
を規定しています。
しては、その企業が他方の締約国内にある恒久
本条 2 の下では、①恒久的施設の果たす機能
的施設を通じて他方の締約国内において事業を
及び事実関係に基づいて、取引、資産、リスク
行わない限り、一方の締約国においてのみ租税
及び資本を恒久的施設に帰属させるとともに、
を課することができるとされています。
②恒久的施設とその企業の他の構成部分との取
もう一つはいわゆる「帰属主義」の原則で、
引(以下「内部取引」といいます。)を認識し、
一方の締約国の企業が他方の締約国内にある恒
その内部取引が独立企業間価格で行われたもの
久的施設を通じて他方の締約国内において事業
として、恒久的施設に帰せられる利得を算定す
を行う場合には、本条 2 の規定によりその恒久
ることとなります。
的施設に帰せられる利得に対しては、他方の締
なお、内部取引の認識は、あくまでも恒久的
約国において租税を課することができることと
施設に帰せられる利得の算定のために認識され
されています。
るものであって、協定の他の条に及ぶものでは
ありません。例えば、恒久的施設とその企業の
─ 707 ─
――租税条約の締結・改正――
他の構成部分との間の金銭貸借に基づく利子の
て課された租税の額について適当な調整(対応
支払を恒久的施設に帰せられる利得を算定する
的調整)を行うことを規定しています。なお、
ために認識するとしても、利子に対する課税関
一方の締約国が行った調整について他方の締約
係を規定する第11条(利子)の適用に関しては、
国の権限のある当局が同意しない場合には、両
その支払は利子として認識されません。
締約国の権限のある当局は、合意によって、そ
の場合に生ずる全ての二重課税を除去するよう
⑶ 恒久的施設に帰せられる利得の対応的調整
努めることとされています。
(本条 3 )
一方の締約国が、いずれかの締約国の企業の
⑷ 本条と他の条との関係(本条 4 )
恒久的施設に帰せられる利得を本条 2 の規定に
本条 4 は、配当や利子など、他の条で別個に
より調整し、それに伴い、他方の締約国におい
取り扱われる種類の所得が企業の利得に含まれ
て租税を課されたその企業の利得に租税を課す
ている場合には、他の条の規定が優先的に適用
る場合には、双方の締約国が同一の利得につい
されることを規定しています。もっとも、第10
て課税するという二重課税の状態が生ずること
条 6 (配当)、第11条 3 (利子)、第12条 3 (使
になります。本条 3 は、このような状況に対応
用料)及び第20条 2 (その他の所得)は、これ
するため、他方の締約国は、一方の締約国が行
らの所得の支払の基因となった資産が、これら
った調整について同意する場合には、その利得
の所得が生ずる締約国内に所在する恒久的施設
に対する二重課税を除去するために必要な範囲
と実質的な関連を有する場合には、本条が適用
に限り、その利得に対して他方の締約国におい
されることを規定しています。
八 海上運送及び航空運送(第 8 条)
は、企業が裸用船による船舶又は航空機の賃貸
1 本条の趣旨
によって取得する利得及び物品又は商品の運送
本条は、船舶又は航空機を国際運輸に運用する
のために使用されるコンテナー(コンテナーの
ことによって取得する利得(以下「国際運輸業利
運送のためのトレーラー及び関連設備を含みま
得」といいます。
)に対する課税上の取扱いを規
す。)の使用、保管又は賃貸から取得する利得
定しています。
が含まれます。ただし、その使用、保管又は賃
貸が船舶又は航空機を国際運輸に運用すること
2 解説
に付随する場合に限ることとされています。
⑴ 国際運輸業利得の取扱い(本条 1 )
本条 1 は、企業が取得する国際運輸業利得に
⑶ 共同事業に係る国際運輸業利得の取扱い(本
対しては、その企業の居住地国においてのみ課
条3)
税することができることを規定しています。
本条 3 は、企業が共同計算、共同経営又は国
際経営共同体に参加していることによって取得
⑵ 国際運輸業利得の範囲(本条 2 )
する国際運輸業利得についても、本条 1 及び 2
本条 2 は、国際運輸業利得の範囲について規
定しています。具体的には、国際運輸業利得に
─ 708 ─
の規定が適用されることを規定しています。
――租税条約の締結・改正――
九 関連企業(第 9 条)
⑵ 対応的調整(本条 2 )
1 本条の趣旨
本条 1 に基づいて、一方の締約国が企業の利
関連企業間の取引においては、独立した企業間
得を更正して課税した場合、更正された部分の
で用いられる取引価格(以下「独立企業間価格」
利得は他方の締約国の関連企業の利得にも含ま
といいます。
)とは異なる取引価格が用いられる
れて課税されていることから、双方の締約国が
ことによって、所得が関連企業間で移転されるこ
同一の利得について課税するという二重課税の
とがあります。
状態が生ずることになります。本条 2 は、この
本条は、関連企業間の取引価格を独立企業間価
ような二重課税を除去するため、他方の締約国
格に引き直してそれぞれの企業の利得を計算する
が関連企業の利得を減額調整(対応的調整)す
という独立企業原則に基づく課税(いわゆる移転
ることを規定しています。なお、この調整に当
価格税制)に関するルールを定めています。
たっては、両締約国の権限のある当局は、必要
があるときは、相互に協議することとされてい
2 解説
ます。
⑴ 独立企業原則に基づく課税のルール(本条
⑶ 利得の調整ができる期間の制限(本条 3 )
1)
本条 1 は、親子関係や兄弟関係にある関連企
本条 3 は、本条 1 に基づく利得の更正が認め
業間において、独立した企業間に設けられる取
られる期間を、企業の利得に係る課税年度の終
引条件とは異なる取引条件が設定されており、
了時から10年以内の期間に制限することを規定
これにより企業の利得が減少していると認めら
しています。ただし、不正に租税を免れた場合
れる場合には、その企業の利得を独立した企業
又は一方の締約国の権限のある当局がその10年
間の取引において得られたであろう利得に引き
の期間内に他方の締約国の企業(注 1 )につい
直して課税することができることを規定してい
て当該他方の締約国の権限のある当局に通知し
ます。
た場合(注 2 )には、この制限は適用されませ
企業間の関係が以下のいずれかに該当する場
ん。
合には、その関係にある企業は関連企業とされ
(注 1 )
ここでいう他方の締約国の企業は、当該
ます。
他方の締約国に対するその納税義務が、当
① 一方の締約国の企業が他方の締約国の企業
該一方の締約国の企業に対する当該一方の
の経営、支配又は資本に直接又は間接に参加
締約国による本条 1 に規定する課税によっ
している場合(親子関係にある場合)
て、直接に影響を受けるものに限られます。
② 同一の者が一方の締約国の企業及び他方の
(注 2 )
ここでいう通知とは、例えば、一方の締
締約国の企業の経営、支配又は資本に直接又
約国が当該企業の利得に対して更正処分を
は間接に参加している場合(兄弟関係にある
する意図があることを通知する場合などを
場合)
想定しています。
─ 709 ─
――租税条約の締結・改正――
十 配当(第10条)
免税とされます。
1 本条の趣旨
本条は、配当に対する源泉地国における限度税
⑶ 配当を支払う法人の利得に対する課税(本条
率や免税など、配当に対する課税上の取扱いを規
4)
定しています。
本条 4 は、本条 2 及び 3 の規定が、配当を支
払う法人のその配当に充てられる利得に対する
2 解説
課税に影響を及ぼすものではないことを規定し
⑴ 居住地国の課税(本条 1 )
ています。
本条 1 は、一方の締約国の居住者である法人
が他方の締約国の居住者に支払う配当に対して
⑷ 「配当」の定義(本条 5 )
は、配当を受け取る者が居住者とされる他方の
本条 5 は、「配当」の定義を規定しています。
締約国(居住地国)において課税することがで
協定の適用上、「配当」とは、株式、受益株式、
きることを規定しています。
鉱業株式、発起人株式その他利得の分配を受け
る権利(信用に係る債権を除きます。
)から生
⑵ 源泉地国の課税(本条 2 及び 3 )
ずる所得及びその分配を行う法人が居住者とさ
本条 2 は、配当を支払う法人が居住者とされ
れる締約国の租税に関する法令上株式から生ず
る一方の締約国(源泉地国)においても課税す
る所得と同様に取り扱われる他の所得をいいま
ることができることを規定するとともに、その
す。
配当の受益者が他方の締約国の居住者である場
合に源泉地国において課税することができる税
⑸ 恒久的施設に実質的に関連する配当の取扱い
(本条 6 )
率の上限(限度税率)を規定しています。
具体的には、配当の受益者が、その配当の支
本条 6 は、配当の支払の基因となった株式そ
払を受ける者が特定される日(いわゆる基準
の他の持分が、その配当の受益者が源泉地国内
日)をその末日とする 6 か月の期間を通じて、
に有する恒久的施設と実質的な関連を有する場
その配当を支払う法人の議決権のある株式の10
合には、第 7 条(事業利得)が適用されること
%以上を直接に所有する法人(組合を除きま
を規定しています。この場合には、本条に規定
す。
)である場合には限度税率は 5 %(本条 2
する配当に対する源泉地国課税の制限は適用さ
⒜)とされ、それ以外の場合には15%(本条 2
れません。
⒝)とされています。
さらに、本条 3 は、一定の場合に源泉地国の
⑹ 追いかけ課税の禁止(本条 7 )
課税を免除することを規定しています。
本条 7 は、一方の締約国の居住者である法人
具体的には、配当の受益者が、その配当の支
が支払う配当及びその法人の留保所得について
払を受ける者が特定される日(いわゆる基準
は、その配当及び留保所得の原資となった所得
日)をその末日とする18か月の期間を通じ、そ
が他方の締約国内から生じたものであっても、
の配当を支払う法人の議決権のある株式の25%
他方の締約国はその配当又は留保所得に対して
以上を直接に所有する法人
(組合を除きます。
)
課税することができないことを規定しています。
である場合には、その配当は源泉地国において
ただし、配当が他方の締約国の居住者に支払わ
─ 710 ─
――租税条約の締結・改正――
れる場合及び配当の支払の基因となった株式そ
と実質的な関連を有する場合には、本規定は適
の他の持分が他方の締約国内にある恒久的施設
用されません。
十一 利子(第11条)
る「配当」に該当する所得及び支払の遅延に対
1 本条の趣旨
して課される損害金は、本条の適用上「利子」
には該当しないこととされています。
本条は、利子に対する源泉地国免税など、利子
に対する課税上の取扱いを規定しています。
⑶ 恒久的施設に実質的に関連する利子の取扱い
2 解説
(本条 3 )
⑴ 源泉地国免税(本条 1 )
本条 3 は、利子の支払の基因となった債権が、
本条 1 は、一方の締約国において生じ、他方
その利子の受益者が源泉地国内に有する恒久的
の締約国の居住者が受益者である利子に対して
施設と実質的な関連を有する場合には、第 7 条
は、利子の受益者が居住者とされる他方の締結
(事業利得)が適用されることを規定していま
国(居住地国)においてのみ課税できることを
す。この場合には、本条に規定する利子に対す
規定しています。
る源泉地国免税は適用されません。
⑷ 独立企業間価格を超過する利子の取扱い(本
⑵ 「利子」の定義(本条 2 )
条4)
本条 2 は、
「利子」の定義を規定しています。
「利子」とは、担保の有無及び債務者の利得の
本条 4 は、関連者間において独立企業間の取
分配を受ける権利の有無を問わず、全ての種類
引条件と異なる取引条件に基づいて利子が支払
の信用に係る債権から生じた所得をいいます。
われた場合には、独立企業間価格を超過する部
また、他の所得でその所得が生じた締約国の租
分の利子については、本条に基づく源泉地国免
税に関する法令上貸付金から生じた所得と同様
税を適用せず、協定の他の規定を考慮した上で、
に取り扱われるものも「利子」に該当するとさ
源泉地国の法令に従って課税できることを規定
れています。ただし、第10条(配当)に規定す
しています。
十二 使用料(第12条)
締約国(居住地国)においてのみ課税できるこ
1 本条の趣旨
とを規定しています。
本条は、使用料に対する源泉地国免税など、使
用料に対する課税上の取扱いを規定しています。
⑵ 使用料の定義(本条 2 )
本条 2 は、
「使用料」の定義を規定していま
2 解説
す。「使用料」とは、以下の対価として受領さ
⑴ 源泉地国免税(本条 1 )
れる全ての種類の支払金をいいます。
本条 1 は、一方の締約国において生じ、他方
① 文学上、芸術上又は学術上の著作物(映画
の締約国の居住者が受益者である使用料に対し
フィルムを含みます。)の著作権、特許権、
ては、使用料の受益者が居住者とされる他方の
商標権、意匠、模型、図面、秘密方式又は秘
─ 711 ─
――租税条約の締結・改正――
せん。
密工程の使用又は使用の権利
② 産業上、商業上又は学術上の経験に関する
⑷ 独立企業間価格を超過する使用料の取扱い
情報
(本条 4 )
⑶ 恒久的施設に実質的に関連する使用料の取扱
本条 4 は、関連者間において独立企業間の取
い(本条 3 )
引条件と異なる取引条件に基づいて使用料が支
本条 3 は、使用料の支払の基因となった権利
払われた場合には、独立企業間価格を超過する
又は財産が、その使用料の受益者が源泉地国内
部分の使用料については、本条に基づく源泉地
に有する恒久的施設と実質的な関連を有する場
国免税を適用せず、協定の他の規定を考慮した
合には、第 7 条(事業利得)が適用されること
上で、源泉地国の法令に従って課税できること
を規定しています。この場合には、本条に規定
を規定しています。
する使用料に対する源泉地国免税は適用されま
十三 譲渡収益(第13条)
⑶ 恒久的施設の事業用資産を構成する財産の譲
1 本条の趣旨
渡(本条 3 )
本条は、財産の譲渡によって取得する収益に対
本条 3 は、恒久的施設の事業用資産を構成す
する課税上の取扱いを規定しています。
る財産(不動産を除きます。)の譲渡から生ず
る収益(恒久的施設の譲渡又は企業全体の譲渡
2 解説
の一部としての恒久的施設の譲渡から生ずる収
⑴ 不動産の譲渡(本条 1 )
益を含みます。)に対しては、その恒久的施設
の所在地国において課税できることを規定して
本条 1 は、一方の締約国の居住者が第 6 条
います。
(不動産所得)に規定する不動産であって他方
の締約国内に存在する不動産の譲渡によって取
得する収益に対しては、その不動産の所在地国
である他方の締約国において課税できることを
⑷ 国際運輸に運用される船舶又は航空機の譲渡
(本条 4 )
本条 4 は、一方の締約国の企業が国際運輸に
規定しています。
運用する船舶若しくは航空機又はこれらの船舶
⑵ 不動産化体株式の譲渡(本条 2 )
若しくは航空機の運用に係る財産(不動産を除
本条 2 は、一方の締約国の居住者が法人、組
きます。)の譲渡によって取得する収益に対し
合又は信託財産(資産の価値の50%以上が第 6
ては、企業の居住地国である一方の締約国にお
条(不動産所得)に規定する不動産であって他
いてのみ課税できることを規定しています。
方の締約国内に存在するものにより直接又は間
接に構成されるものに限ります。
)の株式又は
⑸ その他の財産の譲渡(本条 5 )
持分の譲渡によって取得する収益に対しては、
本条 5 は、本条 1 から 4 までに規定する財産
その不動産の所在地国である他方の締約国にお
以外の財産の譲渡から生ずる収益に対しては、
いて課税できることを規定しています。
譲渡者の居住地国においてのみ課税できること
を規定しています。
─ 712 ─
――租税条約の締結・改正――
十四 給与所得(第14条)
ついては、本条 1 の規定にかかわらず、他方の
1 本条の趣旨
締約国において免税とされることを規定してい
本条は、給与所得に対する課税上の取扱いを規
ます。
定しています。
① 給与等を取得する者が他方の締約国内に滞
在する期間が、その課税年度において開始し、
2 解説
又は終了するいずれの12か月の期間において
⑴ 給与所得に対する課税(本条 1 )
も、合計183日以内であること。
本条 1 は、一方の締約国の居住者がその勤務
② 給与等が、他方の締約国の居住者でない雇
について取得する給料、賃金その他これらに類
用者又はこれに代わる者から支払われるもの
する報酬(十四において「給与等」といいま
であること。
す。)に対しては、その勤務が他方の締約国内
③ 給与等が、雇用者が他方の締約国内に有す
で行われる場合に限り、他方の締約国において
る恒久的施設によって負担されるものでない
も課税することができることを規定しています。
こと。
ただし、給与等が第15条(役員報酬)
、第16条
(芸能人及び運動家)
、第17条(退職年金その他
⑶ 国際運輸に運用する船舶内又は航空機内の勤
これに類する給付)又は第18条(政府職員)の
務に係る報酬(本条 3 )
各条に規定する所得に該当する場合は、これら
本条 3 は、一方の締約国の企業が国際運輸に
の規定が適用されます。
運用する船舶内又は航空機内において行われる
勤務に係る給与等に対しては、本条 1 及び 2 の
⑵ 短期滞在者免税(本条 2 )
規定にかかわらず、企業の居住地国である一方
本条 2 は、次の①から③までの要件を全て満
の締約国において課税できることを規定してい
たす場合には、一方の締約国の居住者が他方の
ます。
締約国内で行う勤務について取得する給与等に
十五 役員報酬(第15条)
1 本条の趣旨
2 解説
本条は、法人の役員の報酬に対する課税上の取
本条は、一方の締約国の居住者が他方の締約国
扱いを規定しています。
の居住者である法人の役員の資格で取得する報酬
に対しては、他方の締約国において課税できるこ
とを規定しています。
─ 713 ─
――租税条約の締結・改正――
十六 芸能人及び運動家(第16条)
す。
)によって取得する所得に対しては、第14
1 本条の趣旨
条(給与所得)の規定にかかわらず、その活動
本条は、芸能人又は運動家として行う個人的活
が行われた他方の締約国(役務提供地国)にお
動によって取得する所得に対する課税上の取扱い
いて課税できることを規定しています。
を規定しています。
⑵ 芸能法人等が取得する報酬の取扱い(本条
2 解説
2)
⑴ 芸能人等が取得する所得の取扱い(本条 1 )
本条 2 は、芸能人等の芸能活動等に関する所
本条 1 は、一方の締約国の居住者が、演劇、
得が芸能人等以外の者(いわゆる芸能法人等)
映画、ラジオ若しくはテレビジョンの俳優、音
に帰属する場合には、第14条(給与所得)の規
楽家その他の芸能人又は運動家(以下「芸能人
定にかかわらず、その役務提供地国において課
等」といいます。
)として他方の締約国内で行
税することができることを規定しています。
う個人的活動(以下「芸能活動等」といいま
十七 退職年金その他これに類する給付(第17条)
地国)において課税できることを規定していま
1 本条の趣旨
す。
本条は、退職年金等に対する課税上の取扱いを
⑵ 政治的迫害又は戦争の結果受けた傷害等に対
規定しています。
する補償の取扱い(本条 2 )
2 解説
本条 2 は、本条 1 の規定にかかわらず、政治
⑴ 退職年金その他これに類する報酬等の取扱い
的迫害又は戦争の結果受けた傷害若しくは損害
(本条 1 )
に対する補償(損害賠償を含みます。)として、
本条 1 は、第18条 2 (政府等から支払われる
一方の締約国、一方の締約国の州又は一方の締
退職年金等)が適用される場合を除いて、一方
約国の地方政府若しくは地方公共団体によって
の締約国内において生ずる退職年金その他これ
他方の締約国の居住者である者に支払われる継
に類する報酬又は社会保障に関する法令に基づ
続的又は一時的な給付に対しては、当該一方の
く給付(十七において「退職年金等」といいま
締約国(当該補償等の支払地)においてのみ課
す。)であって他方の締約国の居住者に支払わ
税できることを規定しています。
れるものに対しては、当該一方の締約国(源泉
十八 政府職員(第18条)
て政府等から支払われる給与等に対する課税上の
1 本条の趣旨
取扱いを規定しています。
本条は、政府等に対して提供される役務につい
─ 714 ─
――租税条約の締結・改正――
とを規定しています。
2 解説
ただし、その個人が他方の締約国の居住者で
⑴ 政府等から支払われる報酬の取扱い(本条
あり、かつ、他方の締約国の国民である場合に
1)
は、その退職年金等に対しては、他方の締約国
本条 1 は、一方の締約国、その州又はその地
においてのみ課税することができます。
方政府若しくは地方公共団体に対して提供され
る役務について、個人に対し、当該一方の締約
⑶ 事業に関連して支払われる報酬の取扱い(本
国、その州又はその地方政府若しくは地方公共
条3)
団体によって支払われる給料、賃金その他これ
本条 3 は、一方の締約国、その州又はその地
らに類する報酬(十八において「給与等」とい
方政府若しくは地方公共団体の行う事業に関連
います。)に対しては、当該一方の締約国(支
して提供される役務について支払われる給与等
払国)においてのみ課税できることを規定して
及び退職年金等については、第14条(給与所
います(本条 1 ⒜)
。
得)、第15条(役員報酬)、第16条(芸能人及び
ただし、その役務が他方の締約国内において
運動家)又は第17条(退職年金その他これに類
提供され、かつ、その個人が次の①又は②に該
する給付)の規定が適用されることを規定して
当する他方の締約国の居住者である場合には、
います。
その給与等に対しては、他方の締約国において
⑷ ゲーテ・インスティトゥート、ドイツ学術交
のみ課税することができます(本条 1 ⒝)
。
① 他方の締約国の国民
流会等に対し提供される役務に関連して支払わ
② 専らその役務を提供するため他方の締約国
れる報酬の取扱い(本条 4 )
本条 4 は、ゲーテ・インスティトゥート、ド
の居住者となった者でないもの
イツ学術交流会又は両締約国の政府が外交上の
⑵ 退職年金等の取扱い(本条 2 )
公文の交換により合意するその他これらに類す
本条 2 は、本条 1 の規定にかかわらず、一方
る機関に対し提供される役務について、個人に
の締約国、その州又はその地方政府若しくは地
対し、これらの機関から支払われる給与等及び
方公共団体に対して提供される役務について、
退職年金等について、本条 1 及び 2 の規定が準
個人に対し、当該一方の締約国、その州若しく
用されることを規定しています。ただし、これ
はその地方政府若しくは地方公共団体によって
らの機関が設立された締約国において、こうし
支払われ、又はこれらが設立し、若しくは拠出
た給与等が課税されない場合には、第14条(給
した基金から支払われる退職年金その他これに
与所得)から第17条(退職年金その他これに類
類する報酬(十八において「退職年金等」とい
する給付)までの規定を適用することとされて
います。)に対しては、当該一方の締約国(退
います。
職年金等の支払国)においてのみ課税できるこ
十九 学生(第19条)
1 本条の趣旨
2 解説
本条は、学生等に関する課税上の取扱いを規定
本条は、専ら教育又は訓練を受けるため一方の
しています。
締約国内に滞在する学生又は事業修習者であって、
─ 715 ─
――租税条約の締結・改正――
現に他方の締約国の居住者であるもの又はその滞
国)において免税とされることを規定しています。
在の直前に他方の締約国の居住者であったものが
ただし、事業修習者に対する免税は、滞在地国内
その生計、教育又は訓練のために受け取る給付
において最初に訓練を開始した日から 1 年を超え
(当該一方の締約国外から支払われるものに限り
ない期間についてのみ適用されます。
ます。)については、当該一方の締約国(滞在地
二十 その他の所得(第20条)
産」の定義)に規定する不動産から生ずる所得
1 本条の趣旨
を除きます。)の支払の基因となった権利又は
本条は、その他の所得に対する課税上の取扱い
財産が、その所得の受益者が源泉地国内に有す
を規定しています。
る恒久的施設と実質的な関連を有する場合には、
第 7 条(事業利得)が適用されることを規定し
2 解説
ています。この場合には、本条に規定するその
⑴ その他の所得の取扱い(本条 1 )
他の所得に対する源泉地国免税は適用されませ
ん。
本条 1 は、一方の締約国の居住者が受益者で
ある所得であって、第 6 条(不動産所得)から
第19条(学生)までに規定されている各種の所
⑶ 独立企業間価格を超過するその他の所得の取
得に該当しないもの(以下「その他の所得」と
扱い(本条 3 )
いいます。
)に対しては、その源泉地を問わず、
本条 3 は、関連者間において独立企業間の取
受益者の居住地国である一方の締約国において
引条件と異なる取引条件に基づいてその他の所
のみ課税できることを規定しています。
得が支払われた場合には、独立企業間価格を超
過する部分の所得については、本条に基づく源
⑵ 恒久的施設に実質的に関連するその他の所得
泉地国免税を適用せず、協定の他の規定を考慮
の取扱い(本条 2 )
した上で、源泉地国の法令に従って課税するこ
本条 2 は、その他の所得(第 6 条 2 (
「不動
とができることを規定しています。
二十一 特典を受ける権利(第21条)
ます。
1 本条の趣旨
協定において、特に、配当、利子及び使用料に
2 解説
対する源泉地国免税を導入したことから、第三国
本条 1 から 7 まではいわゆる特典制限規定
の居住者が形式的に締約国の居住者となることに
(LOB:Limitation on Benefits)を、本条 8 はい
より協定が濫用される可能性が増すこととなりま
わ ゆ る 主 要 目 的 テ ス ト 規 定(PPT:Principal
す。こうしたことを踏まえ、本条では、協定が規
Purpose Test)を、本条 9 は国内法令上の濫用
定する全ての特典について、特典を享受できる者
防止規定と協定との関係について規定しています。
を一定の要件を満たす者に限定するとともに、取
引が協定の濫用を主たる目的とすると認められる
⑴ 適格者基準(本条 1 及び 2 )
場合には協定の特典を与えないことを規定してい
─ 716 ─
一方の締約国の居住者が他方の締約国内にお
――租税条約の締結・改正――
合
いて所得を取得した場合、協定上の別の条に規
② 当該法人の議決権のある株式その他の受益
定する各要件を満たし、かつ、以下のいずれか
の適格者に該当するときに限り、その居住者は、
に関する持分の90%以上が、当該所得を直接
それらの別の条に規定する租税の減免(特典)
に取得したとしたならばこの協定又は当該所
を受けることができることとされています。
得が生ずる締約国が他の国との間で締結した
① 個人
協定に基づいて同等の又はより有利な特典を
② 適格政府機関
受けることができる者によって直接又は間接
③ 法人(その主たる種類の株式が、一又は二
に所有される場合
以上の公認の有価証券市場に上場され、又は
登録され、かつ、通常取引されるものに限り
⑶ 適格要件の判定基準(本条 4 )
本条 4 は、本条 2 ⒡又は 3 (上記⑴⑥又は
ます。
)
⑵)に規定する株式等の所有に関する要件(以
④ 年金基金又は年金計画(その課税年度の直
前の課税年度の終了の日においてその受益者、
下「支配要件」といいます。)の適用に当たっ
構成員又は参加者の50%を超えるものがいず
ては、次の基準によることを規定しています。
れかの締約国の居住者である個人であるもの
① 源泉徴収による課税については、一方の締
約国の居住者は、その所得の支払が行われる
に限ります。
)
日に先立つ12か月の期間を通じて、支配要件
⑤ 当該一方の締約国の法令に基づいて設立さ
を満たしていること。
れた者であって、専ら宗教、慈善、教育、科
学、芸術、文化その他公の目的のために運営
② その他の全ての場合については、一方の締
されるもの(当該一方の締約国の法令におい
約国の居住者は、課税年度の総日数の半数以
て所得の全部又は一部に対する租税が免除さ
上の日において、支配要件を満たしているこ
れるものに限ります。
)
と。
⑥ 個人以外の者であって、上記①から⑤まで
に掲げる適格者である当該一方の締約国の居
⑷ 事業活動基準(本条 5 )
住者が、議決権のある株式その他の受益に関
本条 5 は、一方の締約国の居住者が本条 2 に
する持分の65%以上を直接又は間接に所有す
掲げる適格者に該当しない場合であっても、他
るもの
方の締約国において取得する所得に関し、次の
①から③までの要件を満たす場合には、協定に
⑵ 派生的受益基準(本条 3 )
基づく特典を受けることができることを規定し
本条 3 は、一方の締約国の居住者である法人
ています(本条 5 ⒜)。
が、本条 2 に掲げる適格者に該当しない場合で
① 居住者が一方の締約国内において事業の活
あっても、次の①又は②の要件を満たすときは、
動に従事していること(ただし、この事業に
他方の締約国から取得する所得に関して、協定
は、居住者が自己の勘定のために投資を行い、
の特典の適用を受けることができることを規定
又は管理するものは含まないこととされてい
しています。
ます。もっとも、銀行、保険会社又は証券会
① 当該法人の議決権のある株式その他の受益
社が行う銀行業、保険業又は証券業はここで
に関する持分の65%以上が、当該所得を直接
除外される事業には含まないこととされてい
に取得したとしたならばこの協定に基づいて
ます。
)
。
同等の又はより有利な特典を受けることがで
② 他方の締約国において取得する所得が、上
きる者によって直接又は間接に所有される場
記①に規定する事業に関連又は付随して取得
─ 717 ─
――租税条約の締結・改正――
締約国(源泉地国)の権限のある当局が、その
されるものであること。
③ 協定の関連規定において定められている、
法令等に従って、その居住者の設立、取得又は
特典を受けるために必要な他の要件を満たす
維持及びその業務の遂行について協定の特典を
こと。
受けることをその主たる目的の一つでないと認
また、一方の締約国の居住者が、他方の締約
定したときは、その居住者は、協定に基づく全
国(源泉地国)内において行う事業から所得を
ての特典、又は他方の締約国において取得する
取得する場合又は他方の締約国内で事業を行う
所得に関する協定に基づく特典を受けることが
関連企業からその他方の締約国(源泉地国)内
できることとされています。
において生ずる所得を取得する場合には、当該
一方の締約国の居住者により本条 6 の規定に
他方の締約国内において行う事業との関係にお
基づいて要請が行われた他方の締約国の権限の
いてその居住者の居住地国における事業が実質
ある当局は、当該要請を拒否する前に、当該一
的なものである必要があります(本条 5 ⒝)
。
方の締約国の権限のある当局と協議しなくては
事業が実質的なものであるか否かは、全ての事
ならないとされています。
実及び状況に基づいて判断されます。
なお、ある者が一方の締約国内において事業
⑹ 各用語の説明(本条 7 )
を行っているか否かを決定するに当たっては、
本条 7 は、本条で用いられる用語について、
その者が組合員である組合が行う事業及びその
次のとおり定義しています。
者に関連する者が行う事業(その者及びその者
① 「適格政府機関」とは、一方の締約国の政
に関連する者が同一又は補完的な事業に従事し
府、その州の政府若しくはその地方政府若し
ている場合に限ります。
)は、その者が行うも
くは地方公共団体(以下「一方の締約国の政
のとみなします(本条 5 ⒞第一文)
。一方の者
府等」といいます。)、日本銀行、ドイツ連邦
が他方の者の受益に関する持分の50%以上を所
銀行又は一方の締約国の政府等が直接若しく
有する場合(親子会社等)及び第三者がそれぞ
は間接に全面的に所有する者をいいます。
れの者の受益に関する持分の50%以上を所有す
② 「主たる種類の株式」とは、法人の議決権
る場合(兄弟会社等)には、一方の者と他方の
のある株式の過半数を占める一又は二以上の
者は、関連するものとされます。
(本条 5 ⒞第
種類の株式をいいます。
③ 「公認の有価証券市場」とは、次のものを
二文)
。
(注)
議定書 6 は、本条 5 について、関連者が行
いいます。
う事業の取扱いに関する本条 5 ⒞の規定は、
⒤ 我が国の金融商品取引法(昭和23年法律
両者が同一の締約国の居住者であり、当該事
第25号)に基づき設立された有価証券市場
業が同一の締約国で行われる場合にのみ適用
ⅱ 金融商品市場指令(欧州議会・閣僚理事
会指令2004・39・EC)(改正を含みます。)
されることを確認しています。
又は同指令を承継する指令に従って規制さ
⑸ 権限のある当局による認定(本条 6 )
れる市場
本条 6 は、一方の締約国の居住者が、適格者
ⅲ 香港取引所、ナスダック市場、ニューヨ
(本条 2 )に該当せず、かつ、派生的受益基準
ーク証券取引所、シンガポール取引所、ス
(本条 3 )又は事業活動基準(本条 5 )の規定
イス取引所及び台湾証券取引所
により対象となる所得について協定の特典を受
ⅳ この条の規定の適用上、両締約国の権限
ける権利を有する場合に該当しないときにおい
のある当局が公認の有価証券市場として合
ても、その居住者からの要請に基づき、他方の
意するその他の有価証券市場
─ 718 ─
――租税条約の締結・改正――
④ 「年金基金又は年金計画」とは、次の⒤又
る場合には、その所得については、特典を与え
はⅱに規定する要件を満たす者をいいます。
ないこととしています(特典を与えることがこ
⒤ 専ら又は主として年金その他これに類す
の協定の関連する規定の目的に適合することが
立証されるときを除きます)。
る給付を管理し、又は支給することを目的
として設立され、かつ、運営される者
ⅱ 上記⒤に規定する者の利益のために投資
⑻ 協定と国内法令に規定される濫用防止規定と
することを目的として設立され、かつ、運
の関係(本条 9 )
営される者(ただし、その者の実質的に全
本条 9 は、協定の規定は、租税回避又は脱税
ての所得が、上記⒤に規定する者の利益の
を防止するための一方の締約国の法令の規定の
ために行われる投資から取得される場合に
適用をいかなる態様においても制限するものと
限ります。
)
解してはならないことを規定しています。ただ
し、本条 9 の規定が適用されるのは、その法令
⑺ 主要目的テスト規定(本条 8 )
の規定が協定の目的に適合する場合に限ること
とされています。
本 条 8 は、 い わ ゆ る 主 要 目 的 テ ス ト 規 定
(PPT:Principal Purpose Test)を規定してい
(注) 議定書 7 は、本条 9 について、各締約国が
ます。具体的には、協定の他の規定にかかわら
その法令で規定する外国子会社合算税制等は、
ず、全ての関連する事実及び状況を考慮して、
租税回避又は脱税を防止するための一方の締
協定の特典を受けることがその特典を直接又は
約国の法令の規定であることを規定していま
間接に得ることとなる仕組み又は取引の主たる
す。
目的の一つであったと判断することが妥当であ
二十二 二重課税の除去(第22条)
⑵ ドイツにおける二重課税除去(本条 2 )
1 本条の趣旨
本条 2 は、ドイツにおいては、二重課税の除
本条は、各締約国が自国の居住者に対して二重
去は、国外所得免除又は外国税額控除のいずれ
課税を除去するための措置をとらなければならな
かによって行われることを規定しています。
いことを規定しています。
① 本条 2 ⒜は、本条 2 ⒞に定める場合を除く
ほか、我が国において租税を課される所得は、
2 解説
ドイツの租税の課税標準から除外されること
⑴ 我が国における二重課税除去(本条 1 )
(国外所得免除)を規定しています。また、
本条 1 は、我が国の居住者が協定の規定に従
配当に関する国外所得免除は、ドイツの居住
ってドイツにおいて租税を課される所得をドイ
者である法人(組合を除きます。
)に対して
ツ内から取得する場合には、その所得について
我が国の居住者である法人(その資本の10%
納付されるドイツの租税の額を、我が国の法令
以上をそのドイツの居住者である法人が直接
の規定に従って、我が国の租税の額から控除す
に所有するものに限ります。
)が支払う配当
ることを規定しています。ただし、その控除の
についてのみ適用することを規定しています。
額は、我が国の租税の額のうち、その所得に対
ただし、国外所得免除は、租税を免除される
応する部分を超えることはできません。
法人が支払う配当、配当を支払う法人が我が
国の租税に関して控除することができる配当
─ 719 ─
――租税条約の締結・改正――
及びドイツの法令においてドイツの居住者で
くは組立て、天然資源の探査及び採取、銀行
ある法人以外の者に帰せられる配当について
業及び保険業、商業若しくは役務の提供から
は、適用しません。
生ずる場合又はこれらの利得、所得若しくは
② 本条 2 ⒝は、ドイツは税率の決定に当たっ
収益がこれらの活動に経済的に帰せられる場
て、協定の規定に基づいてドイツの租税を免
合に限り、適用することを規定しています
除された所得を考慮に入れる権利を有するこ
(事業の目的のために十分に実体の備わった
事業活動が行われている場合に限ります。)。
とを規定しています。
③ 本条 2 ⒞は、次に掲げる所得に関し、我が
なお、上記①が適用されない場合には、二重
国の法令及び協定の規定に従ってその所得に
課税は上記③に規定する税額控除によって除
ついて支払われた我が国の租税の額は、ドイ
去されます。
ツの租税に関する法令の外国の租税の控除に
⑤ 本条 2 ⒠は、上記①(国外所得免除)にか
関する規定に従って、所得に対するドイツの
かわらず、次の⒤からⅲまでのいずれかの該
租税の額から控除すること(税額控除)を規
当する場合には、二重課税は上記③の税額控
定しています。
除によって除去されることを規定しています。
⒤ 第10条(配当)に規定する配当であって、
⒤ 両締約国において所得又は所得の要素が
上記①の国外所得免除が適用されないもの
ⅱ 第13条 2 (不動産化体株式の譲渡)の規
協定の異なる規定に基づき取り扱われ、そ
の結果として、この所得に対して二重課税、
非課税又は軽課税が生ずる場合(二重課税
定が適用される譲渡収益
ⅲ 第15条(役員報酬)の規定が適用される
の場合には、第24条 2 又は 3 (相互協議手
続)の規定に従った手続によっても取扱い
所得
ⅳ 第16条(芸能人及び運動家)の規定が適
の相違を解消することができないときに限
ります。)
用される所得
ⅳ 第17条 1 (退職年金等)の規定が適用さ
ⅱ 我が国が、協定の規定に従って所得又は
所得の要素に対して租税を課することがで
れる所得
なお、③の適用に当たっては、ドイツの居
きる場合において、実際に租税を課さない
住者の所得であって、協定の規定に従って我
とき
が国において租税を課されるものは、我が国
ⅲ ドイツが我が国に対し、協議の後、外交
上の経路を通じて、上記③に基づいて税額
に源泉があるものとみなされます。
④ 本条 2 ⒟は、第 7 条(事業利得)及び第10
控除を適用しようとする所得又は所得の要
条(配当)に規定する利得又は所得並びに第
素について通知する場合(通知された所得
13条 3 (恒久的施設の事業用資産を構成する
又は所得の要素については、二重課税は、
財産の譲渡)に規定する資産の譲渡から生ず
その通知が行われた年の翌年の 1 月 1 日か
る収益については、上記①の国外所得免除に
ら税額控除することによって除去されま
関する規定は、これらの利得、所得若しくは
す。
)
収益が物品及び商品の生産、加工、製作若し
─ 720 ─
――租税条約の締結・改正――
二十三 無差別待遇(第23条)
⑶ 支払先無差別(本条 3 )
1 本条の趣旨
本条 3 は、一方の締約国の企業が他方の締約
本条は、相手国の居住者等に対して課税上の差
国の居住者に支払った利子、使用料その他の支
別的取扱いを行ってはならないことを規定してい
払金については、当該一方の締約国の企業の課
ます。
税対象利得の決定に当たって、当該一方の締約
国の居住者に支払われたとした場合における条
2 解説
件と同様の条件で控除されることを規定してい
⑴ 国民無差別(本条 1 )
ます。ただし、独立企業原則に基づく課税のル
本条 1 は、一方の締約国の国民は、他方の締
ール(第 9 条 1 (関連企業)、第11条 4 (利子)、
約国において、課税上、特に居住者であるか否
第12条 4 (使用料)又は第20条 3 (その他の所
かに関し同様の状況にある他方の締約国の国民
得)
)が適用される場合、本条 3 は適用されま
と異なる取扱いをなされることはなく、また、
せん。
その国民よりも重い租税を課されることはない
ことを規定しています。本条 1 の規定は、第 1
⑷ 資本無差別(本条 4 )
条(対象となる者)の規定にかかわらず、いず
本条 4 は、一方の締約国の企業であって、そ
れの締約国の居住者でない者にも適用されます。
の資本の全部又は一部が、他方の締約国の一又
は二以上の居住者によって直接又は間接に所有
⑵ 恒久的施設無差別(本条 2 )
され、又は支配されているものは、一方の締約
本条 2 は、一方の締約国の企業が他方の締約
国において、課税上、一方の締約国の類似の他
国内に有する恒久的施設は、他方の締約国にお
の企業と異なる取扱いをなされることはなく、
いて、同様の活動を行う他方の締約国の企業に
また、その類似の企業よりも重い租税を課され
対する課税よりも不利に課税されることはない
ることはないことを規定しています。
ことを規定しています。ただし、本条 2 の規定
は、他方の締約国に対し、家族の状況や家族を
⑸ 本条が適用される租税(本条 5 )
扶養するための負担を理由として、他方の締約
本条 5 は、本条の規定が第 2 条(対象となる
国の居住者に認められる配偶者控除、扶養控除
租税)に規定する協定の対象となる租税に限定
などの人的控除等を一方の締約国の居住者であ
されず、締約国、その州又はその地方政府若し
る個人に認めることを義務付けるものではあり
くは地方公共団体によって課される全ての種類
ません。
の租税に適用されることを規定しています。
二十四 相互協議手続(第24条)
1 本条の趣旨
2 解説
本条は、協定の適用に関して生ずる問題を解決
⑴ 納税者の申立て(本条 1 )
するための相互協議手続について規定しています。
本条 1 は、いずれか一方又は双方の締約国の
措置により協定の規定に適合しない課税を受け
─ 721 ─
――租税条約の締結・改正――
たと認める者又は受けることになると認める者
⑸ 仲裁(本条 5 )
は、その事案について、一方又は双方の締約国
本条 5 は、協定の規定に適合しない課税を受
の法令上の救済手段(異議申立て、訴訟の提起
けたとして申し立てられ相互協議の対象となっ
など)とは別に、自己が居住者である締約国
た事案について、権限のある当局間で一定の期
(第23条 1 (国民無差別)の規定の適用に関し
間内に事案の解決ができない場合における第三
ては自己が国民である締約国)の権限のある当
者による仲裁について、以下のとおり規定して
局に対して申立てをすることができることを規
います。
定しています。ただし、その申立ては、その課
① 両締約国の権限のある当局が、一方の締約
税措置の最初の通知の日から 3 年以内にしなけ
国の権限のある当局から他方の締約国の権限
ればならないこととされています。
のある当局に対し事案に関する協議の申立て
をした日から 2 年以内に当該事案を解決する
⑵ 相互協議及び合意の実施(本条 2 )
ための合意に達することができない場合に、
本条 2 は、本条 1 の申立てを受けた権限のあ
相互協議の申立てを行った者が仲裁手続に入
る当局は、その申立てを正当と認める場合であ
ることを要請するときは、当該事案の未解決
って、かつ、自らの措置のみでは満足すべき解
の事項は仲裁に付託されます。ただし、当該
決を与えることができない場合には、他方の締
未解決の事項についていずれかの締約国の裁
約国の権限のある当局との合意によってその事
判所又は行政審判所が既に拘束力のある決定
案を解決するよう努めなければならないことを
を行った場合又は両締約国の権限のある当局
規定しています。権限のある当局間で合意が成
が、当該未解決の事項が仲裁による解決に適
立した場合には、両締約国の法令上のいかなる
しないことについて合意し、かつ、申立てを
期間制限にもかかわらず、その合意を実施しな
行った者に対してその旨を当該他方の締約国
ければならないこととされています。
の権限のある当局に対する当該申立ての日か
ら 2 年以内に通知した場合には、仲裁に付託
⑶ 協定の解釈又は適用に関する相互協議(本条
されません。
3)
② 仲裁決定は、事案によって直接影響を受け
本条 3 は、両締約国の権限のある当局は、協
る者が、仲裁決定を実施する両締約国の権限
定の解釈又は適用に関して生ずる困難又は疑義
のある当局の合意を受け入れない場合を除き、
についても合意によって解決するよう努めなけ
両締約国を拘束し、両締約国の法令上のいか
ればならないこと、及び、協定に定めのない場
なる期間制限にもかかわらず実施されます。
合における二重課税を除去するため、相互に協
③ 両締約国の権限のある当局は、この仲裁の
手続の実施方法を合意によって定めることと
議することができることを規定しています。
されています。
⑷ 権限のある当局の直接通信(本条 4 )
本条 4 は、本条 2 及び 3 の合意に達するため、
⑹ 仲裁の手続等の細目(議定書10)
両締約国の権限のある当局は、直接相互に通信
議定書10は、本条 5 に規定する仲裁の手続等
すること(両締約国の権限のある当局及びその
の細則について以下のように規定しています。
代表者により構成される合同委員会を通じて通
① 両締約国の権限のある当局は、仲裁の要請
信することを含みます。
)ができることを規定
から 2 年以内に仲裁決定が実施されることを
しています。
確保することを図るための標準的な手続を合
意によって定めるものとし、その手続に従う
─ 722 ─
――租税条約の締結・改正――
ために最善の努力を払うこととされています
⒤ 仲裁決定は先例としての価値を有しませ
ん(議定書10⒟⒤)。
(議定書10⒜)
。
ⅱ 仲裁決定は、いずれか一方の締約国の裁
② 仲裁委員会の設置に関する規則
⒤ 仲裁のための委員会(以下、
「仲裁委員
判所が、仲裁に関する手続規則等に違反す
会」といいます。
)は、国際租税に関する
ることによりその仲裁決定を無効と判断し
事項について専門知識又は経験を有する 3
た場合を除き、確定します。仲裁決定が無
人の仲裁人によって構成されます(議定書
効とされる場合には、その仲裁の要請は行
10⒝⒤)
。
われなかったものとし、仲裁手続は、議定
ⅱ 仲裁人は、それぞれの締約国の権限のあ
書10⒝ⅳ及び⒱の規定に係る手続を除き、
る当局によってそれぞれ 1 人ずつ任命され、
行われなかったものとします(議定書10⒟
その任命された 2 人の仲裁人が、仲裁委員
ⅱ)
。
会の長となる第三の仲裁人を任命します
⑤ 仲裁委員会がその決定を両締約国の権限の
ある当局に送付するまでに、その仲裁に係る
(議定書10⒝ⅱ)
。
ⅲ 我が国又はドイツの税務職員及び申し立
事案が次のいずれかに該当することとなる場
てられた事案に関与した者は、仲裁人にな
合には、その事案に関する両締約国の権限の
ることができません。また、第三の仲裁人
ある当局の合意のための手続(仲裁手続を含
は、いずれの締約国の国民でもなく、いず
みます。)は、終了します(議定書10⒠)。
れの締約国内にも日常の居所を有したこと
⒤ 両締約国の権限のある当局が、本条 2 の
もなく、及びいずれの締約国によっても雇
規定に従い、その事案を解決するための合
用されたこともないことが要件とされてい
意に達する場合
ⅱ その事案について申立てをした者が仲裁
ます。
(議定書10⒝ⅲ)
。
ⅳ 仲裁手続の実施に先立ち、全ての仲裁人
の要請を撤回する場合
及びそれらの職員が、それぞれの権限のあ
ⅲ 仲裁手続中に、その事案についていずれ
る当局に対して送付する書面において、第
か一方の締約国の裁判所又は行政審判所が
25条 2 (情報交換に関する守秘義務)及び
拘束力のある決定を行う場合
両締約国において適用される法令に規定す
⑥ 訴訟又は審査請求が行われている事案につ
る秘密及び不開示に関する義務と同様の義
いて、当該訴訟又は審査請求の当事者であっ
務に従うことが確保されなければなりませ
てその事案により直接に影響を受けるいずれ
ん(議定書10⒝ⅳ)
。
かの者が、仲裁委員会の決定を受領した日の
⒱ 各締約国の権限のある当局は、自らが任
後60日以内に、関連する裁判所又は行政審判
命した仲裁人に係る費用及び自らが仲裁に
所に対し、仲裁手続において解決された全て
関与する費用を負担し、仲裁委員会の長の
の事項に関する訴訟又は審査請求を取り下げ
費用その他の仲裁手続の実施に関する費用
ない場合には、仲裁決定を実施する両締約国
は、両締約国の権限のある当局が均等に負
の権限のある当局の合意は、申立てをした者
担します(議定書10⒝⒱)
。
により受け入れられなかったものとされます。
③ 両締約国の権限のある当局は、全ての仲裁
この場合には、その事案について、両締約国
人及びそれらの職員に対し、仲裁決定のため
の権限のある当局による更なる検討は行われ
に必要な情報を不当に遅滞することなく提供
ません(議定書10⒡)。
⑦ 本条 5 及び議定書10の規定は、第 4 条 3 の
しなければなりません(議定書10⒞)
。
④ 仲裁決定は、次のように取り扱われます。
─ 723 ─
規定に該当する事案(個人以外の双方居住者
――租税条約の締結・改正――
に関する両締約国の権限のある当局による合
局がその事案について仲裁による解決に適す
意)については、適用されません(議定書10
ると合意した場合に限り、準用されます。た
⒢)。
だし、その事案の未解決の事項は、協定が効
力を生ずる日から 2 年を経過する日までは、
⑧ 本条 5 及び議定書10の規定は、旧協定第25
仲裁に付託されません(議定書10⒣)。
条 1 (相互協議)の規定に従って申し立てら
れた事案について、両締約国の権限のある当
二十五 情報の交換(第25条)
開の法廷における審理又は司法上の決定におい
1 本条の趣旨
て開示することができることを規定しています。
本条は、両締約国の税務当局が租税に関する情
ただし、上記にかかわらず、一方の締約国が
報を交換することを規定しています。
受領した情報は、両締約国の法令に基づき租税
に関する目的以外の目的のために使用すること
2 解説
ができる場合において、その情報を提供した他
⑴ 権限のある当局間の情報交換(本条 1 )
方の締約国の権限のある当局がそのような使用
本条 1 は、両締約国の権限のある当局は、協
を事前に許可するときは、租税に関する目的以
定の規定の実施又は両締約国、それらの州若し
外の目的のために使用することができることと
されています。
くはそれらの地方政府若しくは地方公共団体が
課す全ての種類の租税に関する法令(その法令
(注) 議定書12は、本条 2 の規定に関し、一方の
に基づく課税が協定の規定に反しない場合に限
締約国が受領した情報が、裁判所又は裁判官
ります。)の運用若しくは執行に関連する情報
により行われる租税以外の事案に関する刑事
を交換することを規定しています。また、この
手続において一方の締約国が証拠等として使
情報の交換は、第 1 条(対象となる者)及び第
用するために必要とされる場合には、一方の
2 条(対象となる租税)の規定にかかわらず、
締約国は、その情報を裁判所又は裁判官によ
両締約国の居住者でない者に関する情報や、協
り行われる租税以外の事案に関する刑事手続
定の対象となる租税以外の租税に関する情報も
において証拠等として使用するため、「刑事に
対象となることが規定されています。
関する共助に関する日本国と欧州連合との間
の協定」
(欧州連合は平成21年(2009年)11月
⑵ 交換された情報の取扱い(本条 2 )
30日にブリュッセルで、我が国は同年12月15
本条 2 は、本条 1 に基づき一方の締約国が受
日に東京で署名)に従って共助の要請を行う
領した情報は、一方の締約国の法令に基づいて
ことを規定しています。
入手した情報と同様に秘密として取り扱われな
ければならず、本条 1 に規定する租税の賦課若
⑶ 情報提供義務の制限(本条 3 )
しくは徴収、租税に関する執行若しくは訴追、
本条 3 は、本条 1 及び 2 の規定は、いかなる
租税に関する不服申立てについての決定又はこ
場合にも、情報を提供する締約国に対して、次
れらの監督に関与する者又は当局(裁判所及び
のことを行う義務を課すものではないことを規
行政機関を含みます。
)に対してのみ開示され
定しています。
ること、及びこれらの者又は当局はその情報を
① 一方の締約国又は他方の締約国の法令及び
そのような目的のためにのみ使用し、また、公
行政上の慣行に抵触する行政上の措置をとる
─ 724 ─
――租税条約の締結・改正――
ができます。情報を受領する当局は、同規定
こと。
② 一方の締約国又は他方の締約国の法令の下
において又は行政の通常の運営において入手
の遵守を確保するために情報を提供する当局
が定める条件に従います(議定書11⒜)。
② 情報を提供する当局は、提供される情報に
することができない情報を提供すること。
③ 営業上、事業上、産業上、商業上若しくは
ついて、正確であり、かつ、租税に関する法
職業上の秘密若しくは取引の過程を明らかに
令の運用又は執行に関連する情報であること
するような情報又は公開することが公の秩序
及びその提供される目的のために必要であり、
に反することになる情報を提供すること。
かつ、相応なものであることを確保するよう
努めます(議定書11⒝)。
⑷ 情報交換のための情報収集措置(本条 4 )
なお、情報は、具体的な事案について、情
本条 4 は、各締約国は、本条の規定に従って
報を受領する当局が権限のある当局である締
情報の提供の要請があった場合には、自国の課
約国が租税を課することができる可能性が高
税目的のために必要な情報か否かにかかわらず、
い場合において、その情報が情報を受領する
その情報を入手するための必要な手段を用いな
当局に既に知られていることを示すものがな
ければならないことを規定しています。また、
いとき、又は情報を受領する当局が当該情報
その手段を用いるに当たっては、本条 3 の制限
がなくとも課税対象を把握することができる
に従いますが、その制限は、いかなる場合にも、
ことを示すものがないときは、関連するもの
その情報が自国の課税目的のために必要でない
とされます。
ことのみを理由としてその情報の提供を拒否す
また、情報を提供する当局は、誤った情報
ることを認めるものではないことも規定されて
又は提供すべきでなかった情報を提供したこ
います。
とを発見した場合には、遅滞なくその旨を情
報を受領する当局に通知するとともに、情報
⑸ 情報提供拒否の制限(本条 5 )
を受領する当局は、その情報を遅滞なく訂正
本条 5 は、各締約国は、提供の要請を受けた
し、又は消去します。
情報が、銀行その他の金融機関、名義人、代理
③ 情報を受領する当局は、いかなる場合にも、
人若しくは受託者が有する情報又はある者の所
提供された情報がその提供された目的のため
有に関する情報であることのみを理由として、
に必要でないとき、又は必要でなくなったと
その提供を拒否することはできないことを規定
きは、その情報を消去します(議定書11⒞)。
④ 情報を受領する当局は、情報を提供する当
しています。
局が要請する場合には、提供された情報が使
⑹ 情報の保護(議定書11)
用されたか否かについて、情報を提供する当
議定書11は、本条の規定に基づき情報が交換
局に通知します(要請に基づいて提供された
される場合には、以下の規定が適用されること
情報又は自発的に提供された情報については、
を規定しています。
個別の事案ごとに通知します。)
(議定書11⒟)。
① 情報を受領する一方の締約国の権限のある
⑤ 情報を受領する当局は、情報を受領する当
当局(以下「情報を受領する当局」といいま
局が権限のある当局である締約国の法令に従
す。)は、本条 2 の規定に従い、情報を提供
い、ある者に関して提供された情報及びその
する他方の締約国の権限のある当局(以下
「情報を提供する当局」といいます。
)が定め
る目的のためにのみその情報を使用すること
─ 725 ─
情報が使用される目的をその者に通知します
(議定書11⒠)。
⑥ 両締約国は、それぞれの法令に従い、情報
――租税条約の締結・改正――
関する規定について通知することができます
の交換に関連して不法に損害を被った者に対
(議定書11⒣)。
して責任を負います(議定書11⒡)
。
⑨ 両締約国の権限のある当局は、提供された
⑦ 両締約国の権限のある当局は、情報の交換
情報を許可のない閲覧、変更又は開示から保
について記録します(議定書11⒢)
。
護するために必要な措置をとります(議定書
⑧ 情報を提供する当局は、情報を受領する当
11⒤)。
局に対し、情報を提供する当局が権限のある
当局である締約国の法令の個人情報の消去に
二十六 租税の徴収における支援(第26条)
(本条 2 ⒝)
1 本条の趣旨
③ その他の租税で両締約国の政府が外交上の
本条は、両締約国の税務当局が、相手国におい
公文の交換により合意するもの(本条 2 ⒞)
て滞納された租税の徴収を相互に支援することを
④ 上記①から③までに掲げる租税に加えて又
はこれに代わってこの協定の署名の日(平成
規定しています。
27年(2015年)12月17日)の後に課される租
2 解説
税であって、上記①から③までに掲げる租税
⑴ 租税の徴収における支援(本条 1 )
と同一であるもの又は実質的に類似するもの
(本条 2 ⒟)
本条 1 は、両締約国が、相手国において滞納
された租税(租税債権)の徴収につき相互に支
(注 1 )
「その租税の額に関する利子、行政上の金
援すること(徴収共助)を規定しています。徴
銭罰」とは、我が国においては、延滞税、
収共助は、第 1 条(対象となる者)及び第 2 条
利子税、過少申告加算税等の附帯税がこれ
(対象となる租税)の規定にかかわらず、両締
約国の居住者でない者に関する滞納租税や、協
に該当します。
(注 2 )
「徴収又は保全の費用」とは、我が国にお
定の対象となる租税以外の租税にも適用されま
いては、滞納処分費がこれに該当します。
す。
⑶ 徴収を要請するために必要とされる要件等
⑵ 租税債権の範囲(本条 2 )
(本条 3 )
本条 2 は、本条の対象となる「租税債権」の
本条 3 第一文は、一方の締約国(要請国)が、
範囲を規定しています。
「租税債権」とは、次
次の①及び②の要件をいずれも満たす場合には、
の①及び②に掲げる租税の額並びにその租税の
他方の締約国(被要請国)に対して徴収を要請
額に関する利子、行政上の金銭罰(注 1 )及び
できることを規定しています。
徴収又は保全の費用(注 2 )をいいます。
① 要請国の租税債権が、その要請国の法令に
① 我が国については、所得税、法人税、復興
基づき執行することができるものであること。
特別所得税、復興特別法人税、地方法人税、
(注) 「執行することができるものであること」
消費税、地方消費税、相続税及び贈与税(本
とは、滞納処分が完全に執行できる状態を
条 2 ⒜)
意味することから、我が国においては、現
② ドイツについては、所得税、法人所得税、
行制度上、滞納処分の第一段階である差押
連帯付加税、付加価値税、保険税、純資産税、
えができる状態となっていること及び不服
相続税、贈与税、営業税及び不動産取得税
申立ての提起や納税・換価の猶予等により
─ 726 ─
――租税条約の締結・改正――
務を負うことを規定しています。
滞納処分を完全に執行できない状態になっ
ていないことが必要になると考えられます。
② 徴収の要請の時において、租税債権を負担
⑸ 租税債権に関する時効及び優先権(本条 5 )
する者(滞納者)が要請国の法令に基づきそ
本条 5 は、本条 3 及び 4 の規定にかかわらず、
の租税債権の徴収を停止させることができな
本条 3 又は 4 に基づき被要請国が徴収又は保全
いこと。
の措置のために引き受けた租税債権について、
次のことを規定しています。
(注) 「租税債権の徴収を停止させることができ
ないこと」とは、滞納者が徴収手続を止め
① 被要請国において、被要請国の国内法の下
ることができる行政上又は司法上の権利を
で租税債権であるとの理由で適用される時効
有していないことを意味します。我が国に
及び優先権が認められないこと。
おいては、現行制度上、滞納者が不服申立
② 被要請国において、要請国の国内法におい
てを提起することができる権利を有する期
て要請国の租税債権に適用される優先権が認
間は「租税債権の徴収を停止させることが
められないこと。
できる」ため、上記②の要件を充足するこ
とができない(徴収の要請ができない)と
⑹ 時効の中断(本条 6 )
本条 6 は、本条 5 の規定にかかわらず、本条
考えられます。
本条 3 第二文は、要請国の租税債権を被要請
3 又は 4 に規定する徴収又は保全の措置のため
国が徴収するための規範を定めています。具体
に被要請国が租税債権の徴収のためにとった措
的には、徴収の要請を受けた被要請国は、要請
置は、その措置が要請国によってとられたなら
国の租税債権を本条 3 第一文の要件を満たす自
ば、要請国の法令に従ってその租税債権につい
国の租税債権と同様に、租税の執行及び徴収に
て適用される時効を停止し、又は中断する効果
ついて適用される自国の国内法に従って全ての
を有することとなる場合には、要請国の法令の
徴収手続を行う義務を負うことを規定していま
下においても同様に時効を停止し、又は中断す
す。
る効果を有することを規定しています。
⑷ 保全の措置を要請するために必要とされる要
⑺ 租税債権の有効性等に関する争訟手続(本条
件等(本条 4 )
7)
本条 4 第一文は、一方の締約国(要請国)は、
本条 7 は、要請国の租税債権の存在、有効性
要請国の租税債権が要請国の法令に基づきその
又は金額(以下「存否等」といいます。
)に関
徴収を確保するために差押え等の保全の措置を
する争訟の手続は、被要請国の裁判所又は行政
とることができるものである場合には、他方の
機関に提起されないことを規定しています。し
締約国(被要請国)に対して保全の措置を要請
たがって、当該租税債権の存否等については、
できることを規定しています。
要請国においてのみ争われることとなります。
本条 4 第二文は、要請国の租税債権について
被要請国が保全の措置をとるための規範を定め
ています。具体的には、保全の要請を受けた被
⑻ 徴収又は保全の措置の要請の停止又は撤回
(本条 8 )
要請国は、その保全の措置をとる時において上
本条 8 は、要請国が徴収又は保全の措置の要
記⑶①又は②の要件を満たさない場合であって
請をした後、被要請国が関連する租税債権を徴
も、要請国の租税債権を自国の租税債権と同様
収し、要請国に送金するまでの間に、その租税
に、自国の国内法に従って保全の措置を行う義
債権が次の①又は②に該当しなくなった場合
─ 727 ─
――租税条約の締結・改正――
行に抵触する行政上の措置をとること。
(上記⑶又は⑷の徴収又は保全の措置を要請す
② 公の秩序に反することとなる措置をとるこ
るために必要な要件を満たさなくなった場合を
と。
意味します。)には、要請国の権限のある当局
は被要請国の権限のある当局に対し、その事実
③ 要請国がその法令又は行政上の慣行に基づ
を速やかに通報し、被要請国の選択により、要
き徴収又は保全のために全ての妥当な措置を
請国は、その要請を停止し、又は撤回すること
とっていない場合に支援を行うこと。
④ 被要請国の行政上の負担が要請国が得る利
を規定しています。
益に比して明らかに不均衡である場合に支援
① 徴収の要請については、租税債権が、要請
を行うこと。
国の法令に基づき執行することができるもの
であり、かつ、その租税債権の滞納者がその
要請国の法令に基づき当該租税債権の徴収を
⑽ 徴収又は保全の措置の実施方法に関する権限
のある当局間の合意(本条10)
停止させることができないこと。
② 保全の措置の要請については、租税債権が、
本条10は、本条に基づき、徴収共助又は保全
その要請国がその法令に基づき保全の措置を
の措置の支援が行われる前に、両締約国の権限
とることができるものであること。
のある当局は本条の規定の実施方法(支援の程
度の均衡を確保するための合意を含みます。)
⑼ 徴収又は保全の措置における義務の制限(本
について合意することを規定しています。
条9)
両締約国の権限のある当局は、特に、一方の
本条 9 は、本条の規定は、いかなる場合にも、
締約国が特定の年において行うことができる支
被要請国に対して、次のことを行う義務を課す
援の要請の数の上限及び支援を要請することが
ものではないことを規定しています。
できる租税債権の最低金額について合意するこ
① 要請国又は被要請国の法令及び行政上の慣
ととしています。
二十七 源泉課税に関する手続規則(第27条)
より、協定に基づいて源泉地国が課することが
1 本条の趣旨
認められる租税の額を超える部分は還付される
こととされています。
本条は、源泉徴収される租税に関して、協定の
特典を適用するための手続等を規定しています。
⑵ 還付申請が認められる期間(本条 2 )
2 解説
本条 2 は、協定に基づいて軽減税率や免税の
⑴ 源泉徴収の方法(本条 1 )
適用が認められる場合における源泉徴収税の還
本条 1 は、一方の締約国内において他方の締
付のための申請は、源泉徴収を行う国の法令に
約国の居住者である者が取得する配当、利子、
定める期間内に提出されなければならないこと
使用料又はその他の所得に対する租税が源泉徴
を規定しています。
収される場合には、当該一方の締約国がその法
令に規定する率で租税を源泉徴収することがで
⑶ 本条 1 で規定する方法以外の免税又は軽減税
きることを規定しています。ただし、協定に基
率の方法(本条 3 )
づいて軽減税率や免税の適用が認められる場合
本条 3 は、各締約国は、所得が生ずる一方の
には、源泉徴収された租税は、納税者の申請に
締約国において協定に基づく租税の免除又は軽
─ 728 ─
――租税条約の締結・改正――
減の対象となる所得の支払については、源泉徴
より発行される当該他方の締約国の居住者であ
収をしないで又は限度税率の適用により税額を
ることを証する書類の提出を求めることができ
控除して行うことができるようにするための手
ることを規定しています。
続を規定することができることを規定していま
⑸ 実施方法の合意(本条 5 )
す。
本条 5 は、両締約国の権限のある当局が、各
⑷ 居住者証明書の請求(本条 4 )
締約国の法令に従い、本条の規定の実施方法を
本条 4 は、所得が生ずる一方の締約国は、納
合意によって定めることができることを規定し
税者に対し、他方の締約国の権限のある当局に
ています。
二十八 外交使節団及び領事機関の構成員(第28条)
本条は、協定のいかなる規定も、国際法の一般
機関の構成員の租税上の特権に影響を及ぼすもの
原則又は特別の協定に基づく外交使節団又は領事
でないことを規定しています。
二十九 見出し(第29条)
本条は、協定の各条の見出しは、引用上の便宜
に影響を及ぼすものではないことを規定していま
のためにのみ付されたものであって、協定の解釈
す。
三十 議定書(第30条)
協定に附属する議定書は、協定の不可分の一部
を成すことを規定しています。
三十一 効力発生(第31条)
(注) 我が国においては国会の承認が必要ですが、
1 本条の趣旨
本協定は第190回国会において承認されました。
本条は、協定の効力発生及び適用開始について
⑵ 適用開始(本条 2 )
規定しています。
本条 2 は、協定が、我が国については、次の
2 解説
ものについて適用されることを規定しています
⑴ 効力発生(本条 1 )
(本条 2 ⒜)。
本条 1 は、協定が、我が国及びドイツにおい
① 課税年度に基づいて課される租税について
て協定の効力発生のためのそれぞれの国内手続
は、協定が効力を生ずる年の翌年の 1 月 1 日
(注)が完了したことを、外交上の経路を通じて、
以後に開始する各課税年度の租税
書面によりその手続の完了を確認する通告を相
② 課税年度に基づかないで課される租税につ
互に行うこととされています。協定は、遅い方
いては、協定が効力を生ずる年の翌年の 1 月
の通告が受領された日の翌日から30日目の日に
1 日以後に課される租税
また、ドイツについては、次のものについて
効力を生ずることとされています。
─ 729 ─
――租税条約の締結・改正――
適用されることを規定しています(本条 2 ⒝)
。
⑸ 財産税の取扱い(本条 5 )
① 源泉徴収される租税については、協定が効
本条 5 は、旧協定が適用される財産税につい
力を生ずる年の翌年の 1 月 1 日以後に支払わ
て、協定が効力を生ずる日以後は適用しないこ
れる租税の額
とを規定しています。
② その他の租税については、協定が効力を生
ずる年の翌年の 1 月 1 日以後に開始する各期
⑹ 旧協定の終了(本条 6 )
本条 6 は、旧協定は、協定が効力を生ずる時
間について課される租税
に終了することを規定しています。
⑶ 情報の交換の適用開始(本条 3 )
本条 3 は、第25条(情報の交換)に規定する
⑺ 経過措置(本条 7 及び 8 )
情報の交換については、情報の交換の対象とな
本条 7 は、本条 6 の規定にかかわらず、本条
る租税が課される日又はその租税に係る課税年
の規定に従ってこの協定が適用される日前に生
度にかかわらず、協定が効力を生ずる日から適
じた租税の事案については、旧協定の規定を引
用されることを規定しています。
き続き適用することを規定しています。
さらに、本条 8 は、協定の効力発生の時にお
⑷ 旧協定の適用終了(本条 4 )
いて旧協定第20条(教授)の規定により認めら
本条 4 は、本条 2 の規定に従って協定が適用
れる特典を受ける権利を有する個人は、協定が
される租税について、協定の適用の日以後、旧
効力を生じた後においても、協定が効力を生じ
協定が適用されないことを規定しています。
なかったとした場合に旧協定第20条に基づき特
典を受ける権利を失う時まで特典を受ける権利
を引き続き有することを規定しています。
三十二 終了(第32条)
① 課税年度に基づいて課される租税について
1 本条の趣旨
は、終了の通告が行われた年の翌年の 1 月 1
日以後に開始する各課税年度の租税
本条は、協定の終了について規定しています。
② 課税年度に基づかないで課される租税につ
2 解説
いては、終了の通告が行われた年の翌年の 1
月 1 日以後に課される租税
協定は、一方の締約国によって終了させられる
時まで効力を有します。いずれの一方の締約国も、 また、ドイツについては次のものについて適用
協定の効力の発生の日から 5 年の期間が満了した
されなくなります(本条⒝)。
後に開始する各暦年の末日の 6 か月前までに、外
① 源泉徴収される租税については、終了の通
交上の経路を通じて他方の締約国に対し終了の通
告が行われた年の翌年の 1 月 1 日以後に支払
告を行うことにより、協定を終了させることがで
われる租税の額
② その他の租税については、終了の通告が行
きます。
この場合、協定は、我が国については次のもの
われた年の翌年の 1 月 1 日以後に開始する各
について適用されなくなります(本条⒜)
。
期間について課される租税
─ 730 ─
――租税条約の締結・改正――
三十三 議定書
協定には、協定の不可分の一部を成す議定書が
者の利得に連動する貸付けから生ずる所得
付されています。この議定書の各規定の国際法上
又はドイツの租税に関する法令に規定する
の効力は、協定本体の各規定のそれと何ら変わる
利益分配型債券から生ずる所得
ⅱ 当該所得に係る債務者の利得の決定に当
ところはありません。
たり、当該所得が控除できるもの
1 我が国の事業税等に対する協定の準用(協定
5 議定書 5 は、ドイツの投資基金又は不動産投
第 2 条関連)
(議定書 1 )
資信託会社に係る分配金の取扱いについて以下
2 「租税を課されるべきものとされる者」の範
のとおり規定しています(協定第10条関連)。
囲(協定第 4 条 1 関連)
(議定書 2 )
① ドイツの投資基金の受益証券に対する分配
3 議定書 3 は、国外源泉所得の一部が課税され
金は、配当として取り扱います(議定書 5 ⒜)。
ない居住者については、協定に基づく租税の軽
減又は免除の適用範囲が制限されることを規定
② 協定第10条(配当)の規定にかかわらず、
しています。具体的には、居住者が取得する国
同条 2 ⒜及び 3 の規定は、ドイツの不動産投
外源泉所得のうち、居住地国内に送金され又は
資信託会社(上場しているものに限ります。)
居住地国内において受領された部分についての
が支払う配当及びドイツの投資基金が支払う
み居住地国で課税される場合には、所得の源泉
配当に対しては適用されません(議定書 5 ⒝)。
地国における課税の軽減又は免除はその送金さ
③ 上記①及び②における「ドイツの投資基
れ又は受領された部分に対してのみ適用される
金」とは、ドイツの投資法に規定する媒体
こととなります(協定第 6 条から第20条関連)
。
(vehicle)であり、広く所有され、かつ、証
4 議定書 4 は、我が国又はドイツの国内におい
券の分散投資を行い、又は賃料の取得を主た
て生ずる次の所得等に対しては、各締約国の法
る目的として不動産に対して直接若しくは間
令によって租税を課することができることを規
接に投資を行うもの(組合として設立される
定しています。
ものを除きます。)をいいます(議定書 5 ⒞)。
6 協定第21条 5 (事業活動基準)の適用条件
① 我が国の国内において生ずる所得
⒤ 配当を控除できる法人が支払う配当
(議定書 6 )
ⅱ 債務者若しくはその関係者の収入、売上
7 協定第21条 9 (協定と国内法令に規定される
げ、所得、利得その他の資金の流出入、債
濫用防止規定との関係)における租税回避又は
務者若しくはその関係者の有する資産の価
脱税を防止するための一方の締約国の法令の規
値の変動又は債務者若しくはその関係者が
定の範囲(議定書 7 )
支払う配当、組合の分配金その他これらに
8 議定書 8 は、協定第22条(二重課税の除去)
類する支払金を基礎として算定される利子
に関し、我が国がドイツの租税を事業税から控
又はこれに類する利子
除し、又はドイツが我が国の租税をドイツの営
業税から控除することを義務付けるものと解し
ⅲ 匿名組合契約等に関連して匿名組合員が
てはならないことを規定しています。
取得する所得等
9 議定書 9 は、協定第23条(無差別待遇)に関
② ドイツ国内において生ずる所得
⒤ 利得の分配を受ける権利若しくは信用に
し、締約国が自国の企業と相手国の企業との間
係る債権から生ずる所得(匿名組合員とし
において連結納税を認めることをその締約国に
て取得する所得を含みます。
)
、利率が債務
義務づけるものではないことを確認しています。
─ 731 ─
――租税条約の締結・改正――
連)(議定書11)
10 仲裁の手続等の細目(協定第24条 5 関連)
12 日EU刑事共助協定に基づく情報提供要請
(議定書10)
11 情報交換に関する情報の保護(協定第25条関
(協定第25条 2 関連)(議定書12)
第三 日本・チリ租税条約の締結
課税を軽減するとともに、租税に関する国際標準
はじめに
に基づく税務当局間の実効的な情報交換の実施が
我が国とチリ共和国(以下「チリ」といいま
可能となる規定を設けています。さらに、条約に
す。
)との間には、これまで租税条約は存在しま
お い て は、 租 税 条 約 の 濫 用 を 防 止 す る た め に
せんでしたが、緊密化する両国の経済関係を踏ま
OECD/G20によるBEPS行動計画に基づき策定
え、両国政府は、租税条約を締結するための交渉
された規定案を一部採用しています。これらの措
を開始することに合意し、平成27年(2015年)10
置により、二重非課税並びに脱税及び租税回避行
月に正式交渉を開始しました。その結果、平成28
為を防止しつつ、両国間の投資・経済交流を一層
年(2016年) 1 月に「所得に対する租税に関する
促進することが期待されます。
二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止の
条約は、両国のそれぞれの国内手続に従って承
ための日本国とチリ共和国との間の条約」
(以下
認され(我が国においては、国会の承認を得るこ
「条約」といいます。
)及び「所得に対する租税に
とが必要(注))、その承認を通知する外交上の公
関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の
文の交換を行った日に効力を生ずることとなりま
防止のための日本国とチリ共和国との間の条約に
す。
関する議定書」
(以下「議定書」といいます。
)に
以下では、条約の内容について、逐条で解説し
ついてサンティアゴにおいて署名が行われました。
ていくこととします。
条約は、投資所得に対する投資先の国における
(注) 条約は、第190回国会において承認されました。
一 対象となる者(第 1 条)
か一方の締約国の居住者として振り分けられた
1 本条の趣旨
上で、条約が適用されます(第 4 条 2 及び 3 )。
本条は、条約が適用される者の範囲及び課税上
存在しないものとして取り扱われる事業体の取扱
⑵ いずれかの締約国において課税上存在しない
ものとして取り扱われる事業体への条約適用
いに関して規定しています。
(本条 2 )
2 解説
例えば、源泉地国ではある事業体を納税義務
⑴ 条約が適用される者(本条 1 )
者として認識(団体課税)するが、その事業体
条約は、原則として一方の締約国の居住者及
の所在地国では事業体そのものではなくその構
び双方の締約国の居住者について適用されます。
成員を納税義務者として認識(構成員課税)す
「一方の締約国の居住者」の定義は、第 4 条 1
る場合のように、ある事業体に関する課税上の
において規定されています。また、この定義に
取扱いが両国で異なる場合には、両国で条約の
より我が国とチリの双方の居住者とされる者
特典を受ける者に関する認識が異なるため、実
(以下「双方居住者」といいます。
)は、いずれ
質的な二重課税が生じているにもかかわらず条
─ 732 ─
――租税条約の締結・改正――
約が適用できないこととなります。そこで、本
定について、いかなる場合にも、一方の締約国
条 2 第一文は、いずれか一方の締約国の租税に
が自国の居住者に対して課税する権利を制限す
関する法令の下において全面的に若しくは部分
るものと解してはならないことを規定していま
的に課税上存在しないものとして取り扱われる
す。
団体若しくは仕組みによって又はこのような団
また、本条 2 第三文では、「課税上存在しな
体若しくは仕組みを通じて取得される所得は、
い」という用語の意義を規定しており、「課税
一方の締約国における課税上当該一方の締約国
上存在しない」とは、一方の締約国の法令の下
の居住者の所得として取り扱われる限りにおい
において、団体又は仕組みの所得の全部又は一
て、一方の締約国の居住者の所得とみなすこと
部について、団体又は仕組みに対してではなく、
を規定することにより、このような場合におけ
それらの持分を有する者に対して課税される場
る条約の適用を確保しています。
合をいうこととされており、所得の全部又は一
ただし、源泉地国に所在する事業体を通じて
部がそれらの者に分配されるか否かを問わず、
得た所得について、源泉地国が自国の居住者で
所得の全部又は一部が生じた時においてその者
ある事業体に対して課税する権利が制限される
が所得の全部又は一部を直接に取得したものと
ことのないよう、本条 2 第二文は、本条 2 の規
して課税される場合をいうこととされています。
二 対象となる租税(第 2 条)
る租税(以下「チリの租税」といいます。)
1 本条の趣旨
また、本条 2 では、条約の署名の日の後に、こ
本条は、条約が適用される租税を規定していま
れらの租税に加えて又はこれらの租税に代わって
す。
課される租税であって、これらの租税と同一であ
るもの又は実質的に類似するものについても、条
2 解説
約が適用されることを規定しています。
本条 1 は、条約の適用対象となる両国の現行の
(注) 議定書 2 は、一方の締約国が条約の署名の日
租税をそれぞれ以下のとおり規定しています。
の後に財産に対する新たな租税を導入する場合、
① 我が国については、所得税、法人税、復興
一方の締約国の権限のある当局は、本条 2 第二
特別所得税、地方法人税及び住民税(以下
文の規定に従って、他方の締約国の権限のある
「我が国の租税」といいます。
)
当局に対して、その新たな租税について通知す
② チリについては、所得税法に基づき課され
ることを規定しています。
三 一般的定義(第 3 条)
1 本条の趣旨
2 解説
本条は、条約において使用される用語の定義等
⑴ 各用語の定義(本条 1 )
を規定しています。
本条 1 は、条約の中で用いられている用語に
ついて、以下のとおり規定しています。
① 「日本国」とは、地理的意味で用いる場合
には、我が国の租税に関する法令が施行され
─ 733 ─
――租税条約の締結・改正――
又は権限を与えられたその代理者
ている全ての領域(領海を含みます。
)及び
⑨ 一方の締約国の「国民」とは、次の者をい
その領域の外側に位置する区域であって、我
が国が国際法に基づき主権的権利を有し、か
います。
つ、我が国の租税に関する法令が施行されて
⒤ 一方の締約国の国籍を有する全ての個人
いる全ての区域(海底及びその下を含みま
ⅱ 一方の締約国において施行されている法
令によってその地位を与えられた全ての法
す。
)をいいます。
人、組合又は団体
② 「チリ」とは、チリ共和国をいい、地理的
⑩ 「年金基金」とは、次のいずれかの者をい
意味で用いる場合には、チリ共和国の全ての
領域(領海を含みます。
)及びその領域の外
います。
側に位置する区域であって、チリ共和国が国
⒤ 一方の締約国において、その居住者の利
際法に基づき主権的権利を有する全ての区域
益のために、退職年金又はその社会保障法
(海底及びその下を含みます。
)をいいます。
制に基づく退職年金に類似した報酬を管
③ 「一方の締約国」及び「他方の締約国」と
理・支給することを専ら又は主な目的とし
て設立され、かつ運営されている者
は、文脈により、我が国又はチリをいいます。
ⅱ 上記⒤に規定する者の利益のために投資
④ 「者」には、個人、法人及び法人以外の団
することを目的として設立され、かつ運営
体を含みます。
⑤ 「法人」とは、法人格を有する団体又は租
されている者(ただし、実質的に全ての所
税に関し法人格を有する団体として取り扱わ
得を、上記⒤に規定する者の利益のために
れる団体をいいます。
行われる投資から得ている場合に限りま
す。
)
⑥ 「一方の締約国の企業」及び「他方の締約
国の企業」とは、それぞれ一方の締約国の居
住者が営む企業及び他方の締約国の居住者が
⑵ 条約において定義されていない用語の解釈
(本条 2 )
営む企業をいいます。
⑦ 「国際運輸」とは、一方の締約国の企業が
本条 2 は、条約において定義されていない用
運用する船舶又は航空機による運送のうち、
語の解釈について規定しています。条約におい
他方の締約国内の地点の間においてのみ運用
て定義されていない用語は、文脈により別に解
される船舶又は航空機による運送を除いたも
釈すべき場合を除いて、条約の適用を受ける租
のをいいます。
税に関する締約国の国内法令においてその適用
の時点で有している意義を有するものとされて
⑧ 「権限のある当局」とは、次の者をいいま
す。
います。また、租税に関する法令におけるその
⒤ 我が国については、財務大臣又は権限を
用語の意義は、他の法令におけるその用語の意
義に優先することとされています。
与えられたその代理者
ⅱ チリについては、財務大臣、歳入庁長官
四 居住者(第 4 条)
1 本条の趣旨
2 解説
本条は、「一方の締約国の居住者」の定義等を
⑴ 「一方の締約国の居住者」の定義(本条 1 )
規定しています。
本条 1 は、
「一方の締約国の居住者」の定義
─ 734 ─
――租税条約の締結・改正――
を規定しています。条約の適用上、
「一方の締
を有する場合には、人的及び経済的関係がよ
約国の居住者」とは、
「一方の締約国の法令の
り密接な締約国(重要な利害関係の中心があ
下において、住所、居所、本店又は主たる事務
る締約国)の居住者
所の所在地、法人の設立場所、事業の管理の場
② 上記①によって決定することができない場
所その他これらに類する基準により当該一方の
合には、その有する常用の住居が所在する締
締約国において租税を課されるべきものとされ
約国の居住者
る者」をいいます。ただし、国内に源泉のある
③ 上記②によって決定することができない場
所得のみについて租税を課される者は、
「一方
合には、その個人が国民である締約国の居住
の締約国の居住者」には含まれません。
者
また、一方の締約国及びその地方政府又は地
④ 上記①から③までによっても決定すること
方公共団体は「一方の締約国の居住者」に含ま
ができない場合には、両締約国の権限のある
れることが明らかにされています。
当局の合意により解決されます。
また、個人以外の者が「双方居住者」に該当
(注)
議定書 3 は、「一方の締約国の居住者」には、
一方の締約国の法令においてその所得の全部
する場合には、本条 3 に従って、両締約国の権
又は一部について租税が免除されているか否
限のある当局が合意により決するよう努めるこ
かにかかわらず、以下の者を含むことを規定
ととされています。そのような合意がない場合
しています。
には、その者は、条約により認められる特典を
① 専ら宗教、慈善、教育、文化又は科学の
要求する上で、いずれの締約国の居住者ともさ
れません。
ために当該一方の締約国において設立され、
かつ維持される法人
② 当該一方の締約国の法令に基づき設立さ
⑶ 国外源泉所得の全部又は一部が課税されない
居住者に対する条約の適用(本条 4 )
れた年金基金
③ 輸出、投資又は開発を促進することを目
本条 4 は、国外源泉所得の全部又は一部が課
的として設立された機関であって、当該一
税されない居住者について、条約に基づく租税
方の締約国が資本の全部を所有するもの
の軽減又は免除の適用範囲が制限されることを
規定しています。具体的には、居住者が居住地
⑵ 双方居住者の振分けルール(本条 2 及び 3 )
国において取得した所得についてのみその居住
本条 2 及び 3 は、
「双方居住者」を条約上い
地国で課税される場合、又は居住者が取得する
ずれか一方の締約国の居住者に振り分けるため
国外源泉所得のうち、居住地国内に送金され又
のルールを規定しています。
は居住地国内において受領された部分について
個人が「双方居住者」に該当する場合には、
のみ居住地国で課税される場合には、所得の源
以下のとおりいずれか一方の締約国の居住者と
泉地国における課税の軽減又は免除は、居住地
みなされます(本条 2 )
。
国において課税されることとされている部分に
① その使用する恒久的住居が所在する締約国
対してのみ適用されることとなります。
の居住者。我が国とチリの双方に恒久的住居
─ 735 ─
――租税条約の締結・改正――
五 恒久的施設(第 5 条)
のような活動がその課税年度において開始し、
1 本条の趣旨
又は終了するいずれかの12か月の間に合計
183日を超える期間行われる場合に限ります。
条約は、事業利得に対する課税、配当等に対す
る源泉地国課税、給与所得に関する短期滞在者免
なお、ある企業について上記①及び②に規定
税等について、
「恒久的施設」との関連を基準と
する活動期間を決定するに当たっては、当該企
して課税関係を決定しています。
業が一方の締約国内において行う活動と、その
本条は、この「恒久的施設」の定義等を規定し
関連企業が同一締約国内において行う活動とが
ています。
関連している場合は、当該関連企業が同一締約
国内において行う活動の期間を合計することと
2 解説
されています(ただし、関連企業が同時に行う
⑴ 「恒久的施設」の定義(本条 1 )
活動の期間については、一度に限り算入されま
本条 1 は、「恒久的施設」の定義を規定して
す)。この規定の適用上、次の⒤又はⅱに該当
います。「恒久的施設」とは、事業を行う一定
する場合には、一方の企業は他方の企業に関連
の場所であって企業がその事業の全部又は一部
するものとして扱われます。
を行っているものをいいます。
⒤ 一方の企業が他方の企業の経営、支配又は
資本に直接又は間接に参加している場合(親
⑵ 恒久的施設の例示(本条 2 )
子関係)
本条 2 は、本条 1 の規定を踏まえ、恒久的施
ⅱ 同一の者が双方の企業の経営、支配又は資
設に該当するものとして、次のものを例示して
本に直接又は間接に参加している場合(兄弟
います。
関係)
① 事業の管理の場所
⑷ 恒久的施設を有するとはされない活動(本条
② 支店
③ 事務所
4)
④ 工場
本条 4 は、事業を行う一定の場所であっても、
⑤ 作業場
次のいずれかに該当することを行う場合は、恒
⑥ 鉱山、石油又は天然ガスの坑井、採石場そ
久的施設に当たらないことを規定しています。
① 企業に属する物品又は商品の保管、展示又
の他天然資源を採取する場所
は引渡しのためにのみ施設を使用すること。
⑶ 建築工事現場等及び役務の提供(本条 3 )
② 企業に属する物品又は商品の在庫を保管、
本条 3 は、次のものが恒久的施設に含まれる
展示又は引渡しのためにのみ保有すること。
③ 企業に属する物品又は商品の在庫を他の企
ことを規定しています。
① 建築工事現場又は建設若しくは据付けの工
業による加工のためにのみ保有すること。
事であって 6 か月を超える期間存続するもの
④ 企業のために物品若しくは商品を購入し、
② 企業が行う役務の提供(コンサルタントの
又は情報を収集することのみを目的として、
役務の提供を含みます。
)であって、使用人
事業を行う一定の場所を保有すること。
又はその役務の提供のために採用されたその
⑤ 企業のために広告、情報の提供、科学的調
他の職員を通じて行われるもの。ただし、こ
査の実施その他これらに類する活動を行うこ
─ 736 ─
――租税条約の締結・改正――
とのみを目的として、事業を行う一定の場所
かに該当するときは、その代理人がその企業の
を保有すること。ただし、これらの活動が準
ために行う全ての活動について、その企業は当
備的又は補助的な性格のものである場合に限
該一方の締約国内に恒久的施設を有するものと
ります。
されます。ただし、代理人の活動が本条 4 に規
定する活動のみである場合は、恒久的施設を有
⑸ 事業活動の細分化への対抗(本条 5 )
するものとはされません。
本条 5 は、「ある企業が使用又は保有する事
① その企業の名において締結される契約
業を行う一定の場所」について、その企業又は
② その企業が所有し、又は使用の権利を有す
それと密接に関連する企業が、当該一定の場所
る財産について、所有権を移転し、又は使用
又はそれが存在する締約国内の他の場所におい
の権利を付与するための契約
③ その企業による役務の提供のための契約
て事業活動を行う場合であって、次の①又は②
に該当するときは、当該一定の場所については
本条 4 の規定が適用されないことを規定してい
⑺ 独立の地位を有する代理人(本条 7 )
ます。
本条 7 は、一方の締約国内において活動する
① 本条の規定に基づき、当該一定の場所又は
他方の締約国の企業の代理人が、当該一方の締
当該他の場所が、その企業又はそれと密接に
約国内において独立の代理人として事業を行う
関連する企業の恒久的施設を構成する場合
場合について、代理人としての活動が、独立の
② その企業及びそれと密接に関連する企業が、
代理人として活動することを事業とする場合の
当該一定の場所においてそれぞれ行う活動の
通常の方法で行われるときには、本条 6 の規定
組合せ、又はその企業若しくはそれと密接に
を適用しないと規定しています。ただし、その
関連する企業が当該一定の場所及び当該他の
代理人が、専ら又は主として、代理人自身と密
場所において行う活動の組合せによる活動の
接に関連する一又は二以上の企業に代わって行
全体が、準備的又は補助的な性格のものでは
動する場合には、そのような企業との関係でこ
ない場合
の代理人は、本条 6 の規定を適用しない独立の
代理人とは扱わないこととされています。
なお、この規定が適用されるのは、これらの
企業がそれぞれの場所において行う事業活動が
一体的な業務の一部として補完的な機能を果た
⑻ 法人間に支配関係がある場合の取扱い(本条
8)
す場合に限ることとされています。
本条 8 は、法人間に支配関係があるという事
⑹ 従属代理人(本条 6 )
実のみによっては、いずれの一方の法人も他方
本条 6 は、企業が代理人を通じて行う活動に
の法人の恒久的施設とはされないことを規定し
ついて、恒久的施設を有するものとされる場合
ています。法人間の支配関係とは、一方の締約
を規定しています。具体的には、ある企業の代
国の居住者である法人が、他方の締約国の居住
理人(本条 7 に規定する独立の地位を有する代
者である法人又は他方の締約国内において事業
理人を除きます。
)が、一方の締約国内でその
を行う法人(その事業が恒久的施設を通じて行
企業を代理するに当たって、反復して契約を締
われるものであるかどうかは問いません。)を
結し、又はその企業によって重要な修正が行わ
支配し、又はこれらに支配されていることをい
れることなく日常的に締結される契約の締結の
います。
ために反復して主要な役割を果たす場合におい
て、これらの契約が次の①から③までのいずれ
─ 737 ─
――租税条約の締結・改正――
⑼ ある者とある企業が「密接に関連する」もの
に関する持分の50%超を直接若しくは間接に所
とされる場合(本条 9 )
有する場合、又は第三者がその者及びその企業
本条 9 は、本条 5 及び 7 において、ある者と
の受益に関する持分の50%超を直接若しくは間
ある企業が「密接に関連する」ものとされる場
接に所有する場合には、ある者とある企業は密
合を規定しています。具体的には、全ての関連
接に関連するものとして扱われることとされて
する事実及び状況に基づいて、一方が他方を支
います。この判定を法人について行う場合は、
配している場合又はそれぞれが同一の者・企業
当該法人の株式の議決権及び価値の50%超又は
によって支配されている場合には、ある者とあ
資本に係る受益に関する持分の50%超が直接又
る企業は密接に関連するものとされることとさ
は間接に所有されているかで判定することとな
れています。
ります。
また、いかなる場合にも、一方が他方の受益
六 不動産所得(第 6 条)
① 不動産に附属する財産
1 本条の趣旨
② 農業又は林業に用いられる家畜類及び設備
③ 不動産に関する一般法の規定の適用がある
本条は、不動産から生ずる所得に対する課税上
権利
の取扱いを規定しています。
④ 不動産用益権
2 解説
⑤ 鉱石、水その他の天然資源の採取又は採取
⑴ 不動産から取得する所得の取扱い(本条 1 )
の権利の対価として料金(変動制であるか固
本条 1 は、一方の締約国の居住者が他方の締
定制であるかを問いません。
)を受領する権
約国内に存在する不動産から取得する所得(農
利
業又は林業から生ずる所得を含みます。
)につ
いては、その不動産が存在する他方の締約国に
⑶ 本条 1 が適用される所得(本条 3 )
おいて課税することができることを規定してい
本条 3 は、不動産の直接使用、賃貸その他の
ます。
全ての形式による使用から生ずる所得について、
本条 1 が適用されることを規定しています。
⑵ 「不動産」の定義(本条 2 )
本条 2 は、「不動産」の定義を規定していま
す。条約上、「不動産」とは、その財産が存在
⑷ 企業等の不動産から生ずる所得等の取扱い
(本条 4 )
する締約国の法令における不動産の意義を有す
本条 4 は、企業の不動産から生ずる所得及び
るものとされています。なお、船舶及び航空機
独立の人的役務の提供のために使用される不動
は「不動産」とはみなさないとされていますが、
産から生ずる所得については、第 7 条(事業利
次のものは「不動産」に含まれるとされていま
得)又は第14条(独立の人的役務)ではなく、
す。
本条が適用されることを規定しています。
─ 738 ─
――租税条約の締結・改正――
七 事業利得(第 7 条)
その企業とは別個の独立した存在とみなした上
1 本条の趣旨
で、独立した企業間における条件で取引を行う
本条は、企業が事業活動によって取得する利得
としたならば取得したとみられる利得が恒久的
に対する課税上の取扱いを規定しています。
施設に帰せられるものとすることを規定してい
ます。
2 解説
⑴ 「恒久的施設なければ課税なし」の原則及び
⑶ 費用の控除(本条 3 )
「帰属主義」の原則(本条 1 )
本条 3 は、恒久的施設に帰せられる利得を決
本条 1 は、企業が事業活動によって取得する
定するに当たっては、その恒久的施設のために
利得に対する課税に関して、二つの原則を規定
生じた必要経費(経営費及び一般管理費を含み
しています。
ます。)を控除することが認められることを規
一つはいわゆる「恒久的施設なければ課税な
定しています。恒久的施設のために生じた費用
し」の原則で、一方の締約国の企業の利得に対
であれば、その恒久的施設が存在する締約国内
しては、その企業が他方の締約国内にある恒久
で生じたものか他の場所で生じたものかは問わ
的施設を通じて他方の締約国内において事業を
ないこととされています。
行わない限り、一方の締約国においてのみ課税
⑷ 利得の決定方法の継続適用(本条 4 )
することができるとされています。
もう一つはいわゆる「帰属主義」の原則で、
本条 4 は、本条 1 から 3 までの規定の適用上、
一方の締約国の企業が他方の締約国内にある恒
恒久的施設に帰せられる利得は、毎年同一の方
久的施設を通じて他方の締約国内において事業
法によって決定されなければならないことを規
を行う場合には、その企業の利得のうちその恒
定しています。ただし、別の方法を用いること
久的施設に帰せられる部分に対してのみ、他方
について正当な理由がある場合は、変更が認め
の締約国において課税することができるとされ
られることとされています。
ています。
(注)
議定書 4 は、一方の締約国の企業が他方の
⑸ 本条と他の条との関係(本条 5 )
締約国内において恒久的施設を通じて事業を
本条 5 は、配当や利子など、他の条で別個に
行っていた場合において、この企業がこの恒
取り扱われる種類の所得が企業の利得に含まれ
久的施設を通じて他方の締約国内で事業を行
ている場合には、他の条の規定が優先的に適用
うことをやめた後になってこの恒久的施設に
されることを規定しています。もっとも、第10
帰属する利得を取得するときについて、当該
条 6 (配当)、第11条 6 (利子)、第12条 4 (使
利得に対しては、本条に定める原則に従って、
用料)及び第21条 2 (その他の所得)は、これ
他方の締約国において課税することができる
らの所得の支払の基因となった資産が、これら
ことを規定しています。
の所得が生じた締約国内に所在する恒久的施設
と実質的な関連を有する場合には、本条又は第
⑵ 恒久的施設に帰せられる利得の計算(本条
2)
14条(独立の人的役務)が適用されることを規
定しています。
本条 2 は、企業の一部である恒久的施設を、
─ 739 ─
――租税条約の締結・改正――
八 海上運送及び航空運送(第 8 条)
は、企業が裸用船による船舶又は航空機の賃貸
1 本条の趣旨
によって取得する利得及びコンテナー(コンテ
本条は、船舶又は航空機を国際運輸に運用する
ナーの運送のためのトレーラー及び関連設備を
ことによって取得する利得(以下「国際運輸業利
含みます。)の使用、保管又は賃貸から取得す
得」といいます。
)に対する課税上の取扱いを規
る利得を含むこととしています。ただし、その
定しています。
使用、保管又は賃貸が船舶又は航空機を国際運
輸に運用することに付随する場合に限ることと
2 解説
されています。
⑴ 国際運輸業利得の取扱い(本条 1 )
本条 1 は、企業が取得する国際運輸業利得に
⑷ 締約国内の二地点間の運送から取得する利得
対しては、その企業の居住地国においてのみ課
の取扱い(本条 4 )
税することができることを規定しています。
本条 4 は、一方の締約国の企業が、他方の締
約国内のある場所で乗せ、又は積み込み、かつ、
⑵ 国際運輸業利得に対する事業税の免除(本条
他方の締約国内の他の場所で降ろし、又は取り
2)
卸す旅客又は物品の船舶又は航空機による運送
本条 2 は、国際運輸業利得について、チリの
によって取得する利得については、本条 1 の規
企業であれば我が国の事業税、我が国の企業で
定を適用せず、第 7 条(事業利得)又は第14条
あればチリにおける我が国の事業税に類似する
(独立の人的役務)の規定を適用することを規
定しています。
租税(現在チリにはそのような租税はありませ
んが、今後そのような租税が課された場合に対
象となります。)を免除することを規定してい
⑸ 共同事業に係る国際運輸業利得の取扱い(本
条5)
ます。
本条 5 は、企業が共同計算、共同経営又は国
⑶ 国際運輸業利得の範囲(本条 3 )
際経営共同体に参加していることによって取得
本条 3 は、国際運輸業利得の範囲について規
する国際運輸業利得についても、本条 1 から 4
定しています。具体的には、国際運輸業利得に
までが適用されることを規定しています。
九 関連企業(第 9 条)
格に引き直してそれぞれの企業の利得を計算する
1 本条の趣旨
という独立企業原則に基づく課税(いわゆる移転
関連企業間の取引においては、独立した企業間
で用いられる取引価格(以下「独立企業間価格」
といいます。
)とは異なる取引価格を用いること
によって、所得が関連企業間で移転されることが
価格税制)に関するルールを定めています。
2 解説
⑴ 独立企業間価格に基づく課税のルール(本条
あります。
1)
本条は、関連企業間の取引価格を独立企業間価
本条 1 は、親子関係や兄弟関係にある関連企
─ 740 ─
――租税条約の締結・改正――
業間において、独立した企業間に設けられる取
れて課税されていることから、双方の締約国が
引条件とは異なる取引条件が設定されており、
同一の利得について課税するという二重課税の
これにより企業の利得が減少していると認めら
状態が生ずることになります。本条 2 は、この
れる場合には、その企業の利得を独立した企業
ような二重課税を除去するため、他方の締約国
間の取引において得られたであろう利得に引き
の権限のある当局が一方の締約国により行われ
直して課税することができることを規定してい
た更正は本条 1 の規定に沿ったものとして正当
ます。
であると同意することを条件として、他方の締
企業間の関係が以下のいずれかに該当する場
約国が関連企業の利得の減額調整(対応的調
合には、その関係にある企業は関連企業とされ
整)を行うことを規定しています。なお、この
ます。
調整に当たっては、両締約国の権限のある当局
① 一方の締約国の企業が他方の締約国の企業
は、必要があるときは、相互に協議することと
されています。
の経営、支配又は資本に直接又は間接に参加
している場合(親子関係にある場合)
② 同一の者が一方の締約国の企業及び他方の
⑶ 利得の調整ができる期間の制限(本条 3 )
締約国の企業の経営、支配又は資本に直接又
本条 3 は、本条 1 に基づく利得の更正が認め
は間接に参加している場合(兄弟関係にある
られる期間を、更正を行う締約国の国内法に定
場合)
める期間と、企業の利得に係る課税年度の終了
時から10年以内の期間のいずれか短い方に制限
⑵ 対応的調整(本条 2 )
することを規定しています。ただし、不正に租
本条 1 に基づいて、一方の締約国が企業の利
税を免れた利得については、この制限は適用さ
得を更正して課税した場合、更正された部分の
れません。
利得は他方の締約国の関連企業の利得にも含ま
十 配当(第10条)
⑵ 源泉地国の課税(本条 2 及び 3 )
1 本条の趣旨
本条 2 は、配当を支払う法人が居住者とされ
本条は、配当に対する源泉地国における限度税
る一方の締約国(源泉地国)においても課税す
率など、配当に対する課税上の取扱いを規定して
ることができることを規定するとともに、その
います。
配当の受益者が他方の締約国の居住者である場
合に源泉地国において課税することができる税
2 解説
率の上限(限度税率)を規定しています。
⑴ 居住地国の課税(本条 1 )
具体的には、配当の受益者が、その配当の支
本条 1 は、一方の締約国の居住者である法人
払を受ける者が特定される日(いわゆる基準
が他方の締約国の居住者に支払う配当に対して
日)をその末日とする 6 か月の期間を通じて、
は、配当を受け取る者が居住者とされる他方の
その配当を支払う法人の議決権の25%以上を直
締約国(居住地国)において課税することがで
接に所有する法人である場合には限度税率は 5
きることを規定しています。
%(本条 2 ⒜)とされ、それ以外の場合には15
%(本条 2 ⒝)とされています。
また、本条 2 では、本条 2 の規定が、配当を
─ 741 ─
――租税条約の締結・改正――
支払う法人のその配当に充てられる利得に対す
の居住者が実際に受け取る配当の額と実際にチ
る課税に影響を及ぼすものではないことも規定
リにおいて納付することとなる追加税の額とを
されています。
用いて配当に対する実質的な税率を算出すると、
さらに、本条 3 は、配当の受益者が他方の締
約10%となります。
約国の年金基金である場合に源泉地国の課税を
(注) 本条 4 の規定は、追加税の税率が過度に高
免除することを規定しています。ただし、その
率でないこと及び追加税の額の計算に当たっ
配当が、当該年金基金が事業を遂行することに
て第一区分税の額の全額を税額控除できるこ
より又は関連企業を通じて取得されたものであ
とが前提となっています。これらの前提が失
る場合は、本条 3 を適用しないこととされてい
われた場合は本条 4 の規定を維持する必要性
ます。
や妥当性を欠くこととなるため、議定書 5 では、
チリの法令に基づいて課される追加税の税率
⑶ チリにおいて納付される追加税の適用除外
が35%を超える場合、又は納付すべき追加税
(本条 4 )
の額を決定するに当たり、第一区分税の全額
チリの国内法上、配当に対しては追加税が課
を控除することができなくなる場合には、本
されることとなっていますが、本条 4 は、配当
条 4 の規定を適用せず、本条 2 の規定に基づ
に対する源泉地国課税を制限することを定めた
いて課される租税について両締約国において
本条 2 及び 3 は、チリにおいて納付される追加
20%の限度税率が適用されることを規定して
税には適用しないことを規定しています。した
います。加えて、上記の場合又はチリが他国
がって、チリにおいては、本条 2 又は 3 の規定
との条約においてチリにおいて納付される追
にかかわらず、国内法の規定に従って追加税が
加税の適用を制限することに合意する場合、
課されることとなります。
両締約国は、特典の均衡を回復するために条
これは、チリの国内法が、法人に対する課税
約を改正することを目的として協議すること
と株主が受け取る配当に対する課税が二重課税
が規定されています。
となることを調整するための方法として、いわ
ゆるインピュテーション方式を採用しているこ
⑷ 「配当」の定義(本条 5 )
とに基因しています。チリにおけるインピュテ
本条 5 は、「配当」の定義を規定しています。
ーション方式の下では、配当支払法人が支払っ
条約の適用上、「配当」とは、株式その他利得
た第一区分税(我が国の法人税に相当)の税額
の分配を受ける権利(信用に係る債権を除きま
を、株主に分配されたものと見なして株主の課
す。)から生ずる所得及びその他の権利から生
税ベースに一度含めた上で株主段階での追加税
ずる所得であってその分配を行う法人の居住地
の税額を計算することとした上で、株主は、自
国の租税に関する法令上株式から生ずる所得と
身に分配されたものと見なされた第一区分税の
同様に取り扱われる所得をいいます。
額と同額を追加税の計算において税額控除する
ことが認められています。したがって、追加税
⑸ 恒久的施設等に実質的に関連する配当の取扱
に対して限度税率を適用して源泉地国課税を制
い(本条 6 )
限すると、税額控除によって追加税の納付税額
本条 6 は、配当の支払の基因となった株式そ
が僅少となります。このため、本条 4 を規定し、
の他の持分が、その配当の受益者が源泉地国内
追加税の課税権が実質的に失われることを回避
に有する恒久的施設又は固定的施設と実質的な
しています。
関連を有する場合には、第 7 条(事業利得)又
なお、現在のチリの国内法に基づき、我が国
は第14条(独立の人的役務)が適用されること
─ 742 ─
――租税条約の締結・改正――
を規定しています。この場合には、本条に規定
が他方の締約国内から生じたものであっても、
する配当に対する源泉地国課税の制限は適用さ
他方の締約国はその配当又は留保所得に対して
れません。
課税することができないことを規定しています。
ただし、配当が他方の締約国の居住者に支払わ
⑹ 追いかけ課税の禁止(本条 7 )
れる場合及び配当の支払の基因となった株式そ
本条 7 は、一方の締約国の居住者である法人
の他の持分が他方の締約国内にある恒久的施設
が支払う配当及びその法人の留保所得について
又は固定的施設と実質的な関連を有する場合に
は、その配当及び留保所得の原資となった所得
は、本規定は適用されません。
十一 利子(第11条)
③ 関連しない者との取引に係る貸金業又は金
1 本条の趣旨
融業を継続して営むことによって実質的に総
本条は、利子に対する源泉地国における限度税
所得を取得する企業(当該利子を支払う者と
率など、利子に対する課税上の取扱いを規定して
関連しないものに限ります。また、ここでい
います。
う「貸金業又は金融業」には、信用状の発行、
保証の提供及びクレジット・カードのサービ
2 解説
スの提供に関する事業を含みます。)
⑴ 居住地国の課税(本条 1 )
④ 機械又は設備を販売した企業(信用供与に
本条 1 は、一方の締約国内において生じ、他
よる当該機械又は設備の販売の一環として生
方の締約国の居住者に支払われる利子に対して
じた債権に関して当該利子が支払われる場合
は、利子を受け取る者が居住者とされる他方の
に限ります。)
⑤ 上記①から④までに掲げるもの以外の企業
締約国(居住地国)において課税することがで
で、当該利子の支払が行われる課税年度の直
きることを規定しています。
前の 3 課税年度において、その負債の50%を
⑵ 源泉地国の課税(本条 2 及び 3 )
超える部分が金融市場において発行された債
本条 2 は、利子が生じた一方の締約国(源泉
券又は有利子預金から成り、かつ、その資産
地国)においても課税することができることを
の50%を超える部分が当該企業と関連しない
者に対する信用に係る債権から成る企業
規定し、その利子の受益者が他方の締約国の居
住者である場合に源泉地国が課税することがで
上記規定の適用上、企業は、ある者と第 9 条
きる税率の上限(限度税率)を規定しています。
1 ⒜又は⒝(関連企業)に規定する関係を有し
具体的には、利子の受益者が、以下の①から
ない場合には、その者と関連しないものとされ
⑤までのいずれかに該当する場合には限度税率
ます。
は 4 %(本条 2 ⒜)とされ、それ以外の場合に
(注) 議定書 7 は、チリが他国との間で、利子に
は、本条 2 の規定が適用されることとなる日か
対する源泉地国での課税を我が国との間より
ら 2 年の期間については15%(本条 3 )
、それ
も更に制限する内容の条約を締結した場合は、
以降の期間については10%(本条 2 ⒝)とされ
我が国からの要請に基づき、そのような制限
ています。
を我が国との間でも適用することができるよ
① 銀行
う条約を改正することを目的として協議する
② 保険会社
ことを規定しています。
─ 743 ─
――租税条約の締結・改正――
⑶ バックトゥバック融資の取扱い(本条 4 )
また、他の所得でその所得が生じた締約国の租
条約においては、受益者が本条 2 ⒜に規定す
税に関する法令上貸付金から生じた所得と同様
る一定の者である場合、そうでない場合よりも
に取り扱われるものも「利子」に該当するとさ
有利な限度税率が適用されることとなります。
れています。
そのため、本来であれば本条 2 ⒝が適用される
べき者が受益者である融資取引を、本条 2 ⒜が
⑸ 恒久的施設等に実質的に関連する利子の取扱
適用される一定の者を介在させるバックトゥバ
い(本条 6 )
ック融資とすることにより、利子の源泉地国で
本条 6 は、利子の支払の基因となった債権が、
の課税を軽減させるおそれが生ずることとなり
その利子の受益者が源泉地国内に有する恒久的
ます。
施設又は固定的施設と実質的な関連を有する場
本条 4 は、このようなバックトゥバック融資
合には、第 7 条(事業利得)又は第14条(独立
に関する取決めを利用することにより、利子の
の人的役務)が適用されることを規定していま
源泉地国で有利な限度税率の適用を受けること
す。この場合には、本条に規定する利子に対す
を阻止することを意図しています。具体的には、
る源泉地国課税の制限は適用されません。
バックトゥバック融資の一環として金融機関が
受け取る利子については、有利な限度税率を適
⑹ 利子の源泉地の定め(本条 7 )
用せず、その総額の10%を限度として課税する
本条 7 は、利子の源泉地を規定しています。
ことができるとしています。
具体的には、利子の支払者が一方の締約国の居
(注)
議定書 6 では、本条に規定する「バックト
住者である場合には、その利子は、当該一方の
ゥバック融資に関する取決め」とは、特に、
締約国内で生じたものとされます。ただし、利
一方の締約国の居住者である金融機関が他方
子の支払の基因となった債務が、その利子の支
の締約国内において生じた利子を受領し、かつ、
払者(いずれかの締約国の居住者であるか否か
当該金融機関が当該利子と同等の利子を他の
を問いません。)が一方の締約国内に有する恒
者(当該他方の締約国内から直接に利子を受
久的施設又は固定的施設について生じ、かつ、
領するとしたならば当該利子について当該他
その恒久的施設又は固定的施設によって負担さ
方の締約国において本条 2 ⒜に規定する限度
れるものであるときは、その利子は、当該一方
税率の適用を受けることができなかったとみ
の締約国内で生じたものとされます。
られるものに限ります。)に支払うように組成
される全ての種類の取決めをいうことを規定
⑺ 独立企業間価格を超過する利子の取扱い(本
条8)
しています。
本条 8 は、関連者間において独立企業間の取
⑷ 「利子」の定義(本条 5 )
引条件と異なる取引条件に基づいて利子が支払
本条 5 は、
「利子」の定義を規定しています。
われた場合には、独立企業間価格を超過する部
「利子」とは、担保の有無を問わず、全ての種
分の利子については、本条に基づく源泉地国課
類の信用に係る債権から生じた所得、特に、公
税の制限を適用せず、条約の他の規定を考慮し
債、債券又は社債から生じた所得(公債、債券
た上で、源泉地国の法令に従って課税すること
又は社債の割増金を含みます。
)をいいます。
ができることを規定しています。
─ 744 ─
――租税条約の締結・改正――
十二 使用料(第12条)
フィルム又はフィルム、テープその他画像若
1 本条の趣旨
しくは音の再生の手段を含みます。)の著作
本条は、使用料に対する源泉地国における限度
権、特許権、商標権、意匠、模型、図面、秘
税率など、使用料に対する課税上の取扱いを規定
密方式又は秘密工程その他これらに類する無
しています。
体財産権の使用又は使用の権利
② 産業上、商業上又は学術上の設備の使用又
2 解説
は使用の権利
⑴ 居住地国の課税(本条 1 )
③ 産業上、商業上又は学術上の経験に関する
情報
本条 1 は、一方の締約国内において生じ、他
方の締約国の居住者に支払われる使用料に対し
ては、使用料を受け取る者が居住者とされる他
⑷ 恒久的施設等に実質的に関連する使用料の取
方の締約国(居住地国)において課税すること
扱い(本条 4 )
ができることを規定しています。
本条 4 は、使用料の支払の基因となった権利
又は財産が、その使用料の受益者が源泉地国内
⑵ 源泉地国の課税(本条 2 )
に有する恒久的施設又は固定的施設と実質的な
本条 2 は、使用料が生じた一方の締約国(源
関連を有する場合には、第 7 条(事業利得)又
泉地国)においても課税することができること
は第14条(独立の人的役務)が適用されること
を規定し、その使用料の受益者が他方の締約国
を規定しています。この場合には、本条に規定
の居住者である場合に源泉地国が課税すること
する使用料に対する源泉地国課税の制限は適用
ができる税率の上限(限度税率)について、産
されません。
業上、商業上又は学術上の設備の使用又は使用
の権利に対する使用料の場合は 2 %(本条 2
⑸ 使用料の源泉地の定め(本条 5 )
⒜)とされ、それ以外の場合には10%(本条 2
本条 5 は、使用料の源泉地を規定しています。
⒝)とされています。
具体的には、使用料の支払者が一方の締約国の
居住者である場合には、その使用料は、当該一
(注)
議定書 7 は、チリが他国との間で、使用料
に対する源泉地国での課税を我が国との間よ
方の締約国内で生じたものとされます。ただし、
りも更に制限する内容の条約を締結した場合
使用料を支払う債務が、その使用料の支払者
は、我が国からの要請に基づき、そのような
(いずれかの締約国の居住者であるか否かを問
制限を我が国との間でも適用することができ
いません。)が一方の締約国内に有する恒久的
るよう条約を改正することを目的として協議
施設又は固定的施設について生じ、かつ、その
することを規定しています。
恒久的施設又は固定的施設によって負担される
ものであるときは、その使用料は、当該一方の
⑶ 「使用料」の定義(本条 3 )
締約国内で生じたものとされます。
本条 3 は、「使用料」の定義を規定していま
す。「使用料」とは、以下の対価として受領さ
⑹ 独立企業間価格を超過する使用料の取扱い
(本条 6 )
れる全ての種類の支払金をいいます。
① 文学上、芸術上又は学術上の著作物(映画
─ 745 ─
本条 6 は、関連者間において独立企業間の取
――租税条約の締結・改正――
引条件と異なる取引条件に基づいて使用料が支
国課税の制限を適用せず、条約の他の規定を考
払われた場合には、独立企業間価格を超過する
慮した上で、源泉地国の法令に従って課税する
部分の使用料については、本条に基づく源泉地
ことができることを規定しています。
十三 譲渡収益(第13条)
⑷ 株式、同等の持分その他の権利の譲渡(本条
1 本条の趣旨
4)
本条は、財産の譲渡によって取得する収益に対
本条 4 は、一方の締約国の居住者が株式、同
する課税上の取扱いを規定しています。
等の持分その他の権利(十三 2 ⑷において「株
式等」といいます。)の譲渡によって取得する
2 解説
収益に対しては、次の①又は②に該当する場合
⑴ 不動産の譲渡(本条 1 )
には、他方の締約国において課税することがで
本条 1 は、一方の締約国の居住者が他方の締
きることを規定しています(本条 4 ⒜)。
約国内に存在する不動産の譲渡によって取得す
① 譲渡者が、当該譲渡に先立つ365日の期間
る収益に対しては、その不動産の所在地国であ
のいずれかの時点において、当該他方の締約
る他方の締約国において課税することができる
国の居住者である法人の資本の20%以上に相
ことを規定しています。
当する株式等を直接又は間接に所有していた
場合
⑵ 恒久的施設等の事業用資産を構成する財産の
② 当該株式等の価値の50%以上が、当該譲渡
譲渡(本条 2 )
に先立つ365日の期間のいずれかの時点にお
本条 2 は、恒久的施設又は固定的施設の事業
いて、当該他方の締約国内に存在する不動産
用資産を構成する財産(不動産を除きます。
)
により直接又は間接に構成されていた場合
の譲渡から生ずる収益(恒久的施設の譲渡、企
また、上記に該当しない場合であっても、一
業全体の譲渡の一部としての恒久的施設の譲渡、
方の締約国の居住者が他方の締約国の居住者で
又は固定的施設の譲渡から生ずる収益を含みま
ある法人の資本に相当する株式等の譲渡によっ
す。)に対しては、その恒久的施設又は固定的
て取得するその他の収益に対しては、当該他方
施設の所在地国において課税することができる
の締約国においても課税することができますが、
ことを規定しています。
その租税の額は、当該収益の額の16%を超えな
いものとすることが規定されています(本条 4
⑶ 国際運輸に運用される船舶又は航空機の譲渡
⒝)
。
(本条 3 )
加えて、上記②に該当する場合(不動産化体
本条 3 は、一方の締約国の企業が国際運輸に
株式の譲渡収益)を除いて、一方の締約国の居
運用する船舶若しくは航空機又はこれらの船舶
住者である年金基金が株式等の譲渡によって取
若しくは航空機の運用に係る財産(不動産を除
得する収益に対しては、当該一方の締約国にお
きます。)の譲渡によって取得する収益に対し
いてのみ課税することができると規定されてい
ては、企業の居住地国である一方の締約国にお
ます(本条 4 ⒞)。
いてのみ課税することができることを規定して
(注) 議定書 7 は、チリが他国との間で、譲渡収
います。
益に対する両締約国の課税権をより制限する
条件を含む条約を締結した場合は、我が国か
─ 746 ─
――租税条約の締結・改正――
らの要請に基づき、そのような制限を我が国
⑸ その他の財産の譲渡(本条 5 )
との間でも適用することができるよう条約を
本条 5 は、本条 1 から 4 までに規定する財産
改正することを目的として協議することを規
以外の財産の譲渡から生ずる収益に対しては、
定しています。
譲渡者の居住地国においてのみ課税することが
できることを規定しています。
十四 独立の人的役務(第14条)
② その個人が、その課税年度において開始し、
1 本条の趣旨
又は終了するいずれかの12か月の期間におい
本条は、独立の人的役務について取得する所得
て、合計183日以上の期間他方の締約国内に
に対する課税上の取扱いを規定しています。
滞在する場合
なお、上記①又は②に該当する場合には、そ
2 解説
の取得する所得のうち、その固定的施設に帰せ
⑴ 独立の人的役務について取得する所得の取扱
られる部分又はその個人が他方の締約国内で行
い(本条 1 )
う活動によって取得する部分についてのみ、他
本条 1 は、一方の締約国の居住者である個人
方の締約国においても課税することができます。
が自由職業その他の独立の性格を有する活動に
ついて取得する所得に対しては、次のいずれか
⑵ 「自由職業」に含まれる活動(本条 2 )
に該当する場合を除き、一方の締約国において
本条 2 は、「自由職業」には、特に、学術上、
のみ課税することができることを規定していま
文学上、芸術上及び教育上の独立の活動並びに
す。
医師、弁護士、技術士、建築士、歯科医師及び
① その個人が、その活動を行うため通常その
公認会計士の独立の活動が含まれることを規定
しています。
用に供している固定的施設を他方の締約国内
に有する場合
十五 給与所得(第15条)
も課税することができることを規定しています。
1 本条の趣旨
ただし、給与等が第16条(役員報酬)、第18条
本条は、給与所得に対する課税上の取扱いを規
(退職年金)又は第19条(政府職員)の各条に
規定する所得に該当する場合は、これらの規定
定しています。
が適用されます。
2 解説
⑵ 短期滞在者免税(本条 2 )
⑴ 給与所得に対する課税(本条 1 )
本条 1 は、一方の締約国の居住者がその勤務
本条 2 は、次の①から③までの要件を全て満
について取得する給料、賃金その他これらに類
たす場合には、一方の締約国の居住者が他方の
する報酬(十五において「給与等」といいま
締約国内で行う勤務について取得する給与等に
す。)に対しては、その勤務が他方の締約国内
ついては、本条 1 の規定にかかわらず、他方の
で行われる場合に限り、他方の締約国において
締約国において免税とされることを規定してい
─ 747 ─
――租税条約の締結・改正――
れるものでないこと。
ます。
① 給与等を取得する者が他方の締約国内に滞
在する期間が、その課税年度において開始し、 ⑶ 国際運輸に運用する船舶内又は航空機内の勤
又は終了するいずれの12か月の期間において
務に係る報酬(本条 3 )
も、合計183日以内であること。
本条 3 は、一方の締約国の企業が国際運輸に
② 給与等が、他方の締約国の居住者でない雇
運用する船舶内又は航空機内において行われる
用者又はこれに代わる者から支払われるもの
勤務に係る給与等に対しては、本条 1 及び 2 の
であること。
規定にかかわらず、企業の居住地国である一方
の締約国において課税することができることを
③ 給与等が、雇用者が他方の締約国内に有す
規定しています。
る恒久的施設又は固定的施設によって負担さ
十六 役員報酬(第16条)
の居住者である法人の取締役会又はこれに類する
1 本条の趣旨
機関の構成員の資格で取得する報酬に対しては、
本条は、法人の役員の報酬に対する課税上の取
他方の締約国において課税することができること
扱いを規定しています。
を規定しています。
2 解説
本条は、一方の締約国の居住者が他方の締約国
十七 芸能人及び運動家(第17条)
立の人的役務)及び第15条(給与所得)の規定
1 本条の趣旨
にかかわらず、その活動が行われた他方の締約
本条は、芸能人又は運動家として行う個人的活
国(役務提供地国)において課税することがで
動によって取得する所得に対する課税上の取扱い
きることを規定しています。
を規定しています。
⑵ 芸能法人等が取得する報酬の取扱い(本条
2 解説
2)
⑴ 芸能人等が取得する所得の取扱い(本条 1 )
本条 2 は、芸能人等の芸能活動等に関する所
本条 1 は、一方の締約国の居住者が、演劇、
得が芸能人等以外の者(いわゆる芸能法人等)
映画、ラジオ又はテレビジョンの俳優、音楽家
に帰属する場合には、第14条(独立の人的役
その他の芸能人又は運動家(以下「芸能人等」
務)及び第15条(給与所得)の規定にかかわら
といいます。)として他方の締約国内で行う個
ず、その役務提供地国において課税することが
人的活動(以下「芸能活動等」といいます。
)
できることを規定しています。
によって取得する所得に対しては、第14条(独
─ 748 ─
――租税条約の締結・改正――
十八 退職年金(第18条)
に関する法令として一方の締約国において課税上
1 本条の趣旨
認められたものに基づく他の退職年金に類する報
本条は、退職年金等に対する課税上の取扱いを
酬であって、一方の締約国において生じ、他方の
規定しています。
締約国の居住者に対して支払われるものに対して
は、他方の締約国(居住地国)においてのみ課税
2 解説
することができることを規定しています。
本条は、退職年金及び一方の締約国の社会保障
十九 政府職員(第19条)
ただし、その役務が他方の締約国内において
1 本条の趣旨
提供され、かつ、その個人が次の①又は②に該
本条は、政府等に対して提供される役務につい
当する他方の締約国の居住者である場合には、
て政府等から支払われる給与等に対する課税上の
その給与等に対しては、他方の締約国において
取扱いを規定しています。
のみ課税することができます(本条 1 ⒝)。
① 他方の締約国の国民
2 解説
② 専らその役務を提供するため他方の締約国
⑴ 政府等から支払われる給与等の取扱い(本条
の居住者となった者でないもの
1)
本条 1 は、一方の締約国又はその地方政府若
⑵ 事業に関連して支払われる報酬の取扱い(本
しくは地方公共団体に対して提供される役務に
条2)
ついて、個人に対し、当該一方の締約国又はそ
本条 2 は、一方の締約国又はその地方政府若
の地方政府若しくは地方公共団体によって支払
しくは地方公共団体の行う事業に関連して提供
われる給料、賃金その他の報酬(十九において
される役務について支払われる給与等について
「給与等」といいます。
)に対しては、当該一方
は、第15条(給与所得)、第16条(役員報酬)
の締約国(支払国)においてのみ課税すること
又は第17条(芸能人及び運動家)の規定が適用
ができることを規定しています(本条 1 ⒜)
。
されることを規定しています。
二十 学生(第20条)
締約国内に滞在する学生又は事業修習者であって、
1 本条の趣旨
現に他方の締約国の居住者であるもの又はその滞
本条は、学生等に関する課税上の取扱いを規定
在の直前に他方の締約国の居住者であったものが
しています。
その生計、教育又は訓練のために受け取る給付
(当該一方の締約国外から支払われるものに限り
2 解説
ます。)については、当該一方の締約国(滞在地
本条は、専ら教育又は訓練を受けるため一方の
国)において免税とされることを規定しています。
─ 749 ─
――租税条約の締結・改正――
ただし、事業修習者に対する免税は、滞在地国内
ない期間についてのみ適用されます。
において最初に訓練を開始した日から 1 年を超え
二十一 その他の所得(第21条)
所得を除きます。)の支払の基因となった権利
1 本条の趣旨
又は財産が、その所得の受益者が源泉地国内に
本条は、その他の所得に対する課税上の取扱い
有する恒久的施設又は固定的施設と実質的な関
を規定しています。
連を有する場合には、第 7 条(事業利得)又は
第14条(独立の人的役務)が適用されることを
2 解説
規定しています。この場合には、本条に規定す
⑴ その他の所得の取扱い(本条 1 )
るその他の所得に対する源泉地国免税は適用さ
本条 1 は、一方の締約国の居住者が受益者で
れません。
ある所得であって、第 6 条(不動産所得)から
第20条(学生)までに規定されている各種の所
⑶ その他の所得に対する源泉地国課税(本条
得に該当しないもの(以下「その他の所得」と
3)
いいます。
)に対しては、その源泉地を問わず、
本条 3 は、本条 1 及び 2 の規定にかかわらず、
受益者の居住地国である一方の締約国において
一方の締約国の居住者の所得のうち、他方の締
のみ課税することができることを規定しています。
約国内において生ずるその他の所得に対しては、
源泉地国である他方の締約国においても課税で
⑵ 恒久的施設等に実質的に関連するその他の所
きることを規定しています。
得の取扱い(本条 2 )
本条 2 は、その他の所得(不動産から生ずる
二十二 減免の制限(第22条)
る目的の一つであったと判断することが妥当で
1 本条の趣旨
ある場合には、その所得については、特典を与
本条は、条約を濫用して特典を享受することを
えられないこととしています(特典を与えるこ
防止するため、取引が条約の濫用を主たる目的と
とがこの条約の関連する規定の目的に適合する
すると認められる場合には条約の特典を与えない
。
ことが立証されるときを除きます。)
ことなどを規定しています。
⑵ 第三国に所在する恒久的施設に関する濫用防
2 解説
止規定(本条 2 )
⑴ 主要目的テスト規定(本条 1 )
本条 2 は、一方の締約国の企業(二十二 2 ⑵
本 条 1 は、 い わ ゆ る 主 要 目 的 テ ス ト 規 定
において「本店等」といいます。)が他方の締
(PPT:Principal Purpose Test)を規定してい
約国内において所得を取得し、かつ、一方の締
ます。具体的には、条約の他の規定にかかわら
約国がその所得を両締約国以外の国又は地域
ず、全ての関連する事実及び状況を考慮して、
(二十二 2 ⑵において「第三国」といいます。)
条約の特典を受けることが、その特典を直接又
の内に存在する恒久的施設(二十二 2 ⑵におい
は間接に得ることとなる仕組み又は取引の主た
て「第三国PE」といいます。
)に帰せられるも
─ 750 ─
――租税条約の締結・改正――
のとして取り扱う場合において、次の①又は②
の締約国との間において有効な租税条約を有
に該当するときは、この条約の他の規定に基づ
していない国又は地域に存在する場合(ただ
いて与えられることとなる特典は、その所得に
し、第三国PEに帰属する所得が、一方の締
対して与えられないことを規定しています。
約国において本店等の課税標準に含まれると
きは、この限りでありません。)
① 一方の締約国及び第三国においてこの所得
に関して実際に納付される租税の額の合計が、
なお、本条 2 の規定が適用される所得に対し
この所得が一方の締約国内において本店等に
ては、条約の他の規定にかかわらず、他方の締
よって取得又は受領され、かつ、第三国PE
約国(源泉地国)の法令に従って課税すること
に帰属しないとしたならば一方の締約国にお
ができるとされていますが、これらの所得が利
いてこの所得に関して納付されたであろう租
子又は使用料の場合、25%の限度税率が適用さ
税の額の60%に満たない場合
れることとされています。
② 第三国PEが、特典が申請されている他方
二十三 二重課税の除去(第23条)
⑵ チリにおける二重課税の除去(本条 2 )
1 本条の趣旨
本条 2 は、チリの居住者が条約の規定に従っ
本条は、各締約国が自国の居住者に対して二重
て我が国において租税を課される所得を取得す
課税を除去するための措置をとらなければならな
る場合には、チリの法令の規定に従い、その所
いことを規定しています。
得について納付されるチリの租税の額から我が
国において納付される租税の額を控除すること
2 解説
を規定しており、この規定は、条約に規定する
⑴ 我が国における二重課税の除去(本条 1 )
全ての所得について適用することとされていま
本条 1 は、我が国の居住者が条約の規定に従
す(本条 2 ⒜)。
ってチリにおいて租税を課される所得をチリ内
なお、チリの居住者が取得する所得について、
から取得する場合には、その所得について納付
条約の規定に従ってチリにおいて租税が免除さ
されるチリの租税の額を、我が国の法令の規定
れる場合においても、チリは、他の所得に対す
に従って、我が国の租税の額から控除すること
る租税の額の算定に当たって、その免除された
を規定しています。ただし、その控除の額は、
所得を考慮に入れることができます(本条 2 ⒝)。
我が国の租税の額のうち、その所得に対応する
部分を超えることはできません。
二十四 無差別待遇(第24条)
1 本条の趣旨
2 解説
本条は、相手国の居住者等に対して課税上の差
⑴ 国民無差別(本条 1 )
別的取扱いを行ってはならないことを規定してい
本条 1 は、一方の締約国の国民は、他方の締
ます。
約国において、課税上、特に居住者であるか否
かに関し同様の状況にある他方の締約国の国民
と異なる取扱いをなされることはなく、また、
─ 751 ─
――租税条約の締結・改正――
その国民よりも重い租税を課されることはない
⑷ 支払先無差別(本条 4 )
ことを規定しています。本条 1 の規定は、第 1
本条 4 は、一方の締約国の企業が他方の締約
条(対象となる者)の規定にかかわらず、いずれ
国の居住者に支払った利子、使用料その他の支
の締約国の居住者でもない者にも適用されます。
払金については、当該一方の締約国の企業の課
税対象利得の決定に当たって、当該一方の締約
⑵ 恒久的施設無差別(本条 2 )
国の居住者に支払われたとした場合における条
本条 2 は、一方の締約国の企業が他方の締約
件と同様の条件で控除されることを規定してい
国内に有する恒久的施設は、他方の締約国にお
ます。ただし、独立企業原則に基づく課税のル
いて、同様の活動を行う他方の締約国の企業に
ー ル( 第 9 条 1 ( 関 連 企 業 )
、 第11条 8 ( 利
対する課税よりも不利に課税されることはない
子)又は第12条 6 (使用料))が適用される場
ことを規定しています。
合、本条 4 は適用されません。
⑶ 相手国居住者に人的控除等を与える義務の不
⑸ 資本無差別(本条 5 )
存在(本条 3 )
本条 5 は、一方の締約国の企業であって、そ
本条 3 は、本条のいかなる規定も、一方の締
の資本の全部又は一部が、他方の締約国の一又
約国に対し、家族の状況や家族を扶養するため
は二以上の居住者によって直接又は間接に所有
の負担を理由として、一方の締約国の居住者に
され、又は支配されているものは、一方の締約
認められる配偶者控除、扶養控除などの人的控
国において、課税上、一方の締約国の類似の他
除等を他方の締約国の居住者に認めることを義
の企業と異なる取扱いをなされることはなく、
務付けるものではないことを規定しています。
また、その類似の企業よりも重い租税を課され
ることはないことを規定しています。
二十五 相互協議手続(第25条)
税措置の最初の通知の日から 3 年以内にしなけ
1 本条の趣旨
ればならないこととされています。
本条は、条約の適用に関して生ずる問題を解決
するための相互協議手続について規定しています。 ⑵ 相互協議及び合意の実施(本条 2 )
本条 2 は、本条 1 の申立てを受けた権限のあ
2 解説
る当局は、その申立てを正当と認める場合であ
⑴ 納税者の申立て(本条 1 )
って、かつ、自らの措置のみでは満足すべき解
本条 1 は、いずれか一方又は双方の締約国の
決を与えることができない場合には、他方の締
措置により条約の規定に適合しない課税を受け
約国の権限のある当局との合意によってその事
たと認める者又は受けることになると認める者
案を解決するよう努めなければならないことを
は、その事案について、一方又は双方の締約国
規定しています。権限のある当局間で合意が成
の法令上の救済手段(異議申立て、訴訟の提起
立した場合には、両締約国の法令上のいかなる
など)とは別に、自己が居住者である締約国
期間制限にもかかわらず、その合意を実施しな
(第24条 1 (国民無差別)の規定の適用に関し
ければならないこととされています。
ては自己が国民である締約国)の権限のある当
局に対して申立てをすることができることを規
⑶ 条約の解釈又は適用に関する相互協議
(本条 3 )
定しています。ただし、その申立ては、その課
本条 3 は、両締約国の権限のある当局は、条
─ 752 ─
――租税条約の締結・改正――
約の解釈又は適用に関して生ずる困難又は疑義
のある当局の合意を受け入れない場合を除き、
についても合意によって解決するよう努めなけ
両締約国を拘束し、両締約国の法令上のいか
ればならないこと、及び、条約に定めのない場
なる期間制限にもかかわらず実施されます。
合における二重課税を除去するため、相互に協
③ 両締約国の権限のある当局は、この仲裁の
手続の実施方法を合意によって定めることと
議することができることを規定しています。
されています。
(注)
議定書 8 は、本条 3 に規定する「この条約
の解釈又は適用に関して生ずる困難又は疑義」
には、条約の目的が国際的な二重課税を回避
⑹ 仲裁の手続等の細目(本条 6 )
本条 6 は、本条 5 に規定する仲裁の手続等の
することであることを考慮して、特典の付与
に関し、予定されていない又は意図されてい
細則について以下のように規定しています。
ない方法で条約の規定が利用される事案を含
(注) 議定書 9 は、本条 6 は、本条 5 の規定に従
って未解決の事項を仲裁に付託することにつ
むことを確認しています。
いて、両締約国の権限のある当局が合意した
⑷ 権限のある当局の直接通信(本条 4 )
場合にのみ適用されることを規定しています。
本条 4 は、本条 2 及び 3 の合意に達するため、
① 両締約国の権限のある当局は、本条 5 の規
両締約国の権限のある当局は、直接相互に通信
定に従って申し立てられた事案によって直接
すること(両締約国の権限のある当局又はその
影響を受ける者の作為又は不作為がその事案
代表者により構成される合同委員会を通じて通
の解決を妨げる場合又は権限のある当局及び
信することを含みます。
)ができることを規定
申立てを行った者が別に合意する場合を除い
しています。
て、仲裁の要請から 2 年以内に仲裁決定が実
施されることを確保する手続を合意によって
⑸ 仲裁(本条 5 )
定めることとされています(本条 6 ⒜)。
本条 5 は、条約の規定に適合しない課税を受
② 仲裁委員会の設置に関する規則
けたとして申し立てられ相互協議の対象となっ
⒤ 仲裁のための委員会(以下、「仲裁委員
た事案について、
権限のある当局間で一定の期間
会」といいます。)は、国際租税に関する事項
内に事案の解決ができない場合における第三者に
について専門知識又は経験を有する 3 人の
よる仲裁について、
以下のとおり規定しています。
仲裁人によって構成されます(本条 6 ⒝⒤)。
① 両締約国の権限のある当局が、一方の締約
ⅱ 仲裁人は、それぞれの締約国の権限のあ
国の権限のある当局から他方の締約国の権限
る当局によってそれぞれ 1 人ずつ任命され、
のある当局に対し事案に関する協議の申立て
その任命された 2 人の仲裁人が、仲裁委員
をした日から 2 年以内に当該事案を解決する
会の長となる第三の仲裁人を任命します
ための合意に達することができない場合に、
(本条 6 ⒝ⅱ)。
相互協議の申立てを行った者が仲裁手続に入
ⅲ 我が国又はチリの税務職員及び申し立て
ることを要請し、かつ両締約国の権限のある
られた事案に関与した者は、仲裁人になる
当局が合意するときは、当該事案の未解決の
ことができません。また、第三の仲裁人は、
事項は仲裁に付託されます。ただし、未解決
いずれの締約国の国民でもなく、いずれの
の事項についていずれかの締約国の裁判所又
締約国内にも日常の居所を有したこともな
は行政審判所が既に決定を行った場合には、
く、及びいずれの締約国によっても雇用さ
仲裁に付託されません。
れたこともないことが要件とされています
② 仲裁決定は、事案によって直接影響を受け
る者が、仲裁決定を実施する両締約国の権限
─ 753 ─
(本条 6 ⒝ⅲ)。
ⅳ 仲裁手続の実施に先立ち、全ての仲裁人
――租税条約の締結・改正――
及びそれらの職員が、それぞれの権限のあ
事案が次のいずれかに該当することとなる場
る当局に対して送付する書面において、第
合には、その事案に関する両締約国の権限の
26条 2 (情報交換に関する守秘義務)及び
ある当局の合意のための手続(仲裁手続を含
両締約国において適用される法令に規定す
みます。)は、終了します。(本条 6 ⒠)。
る秘密及び不開示に関する義務と同様の義
⒤ 両締約国の権限のある当局が、本条 2 の
務に従うことが確保されなければなりませ
規定に従い、その事案を解決するための合
ん(本条 6 ⒝ⅳ)
。
意に達する場合
⒱ 各締約国の権限のある当局は、自らが任
命した仲裁人に係る費用及び自らが仲裁に
ⅱ その事案について申立てをした者が仲裁
の要請を撤回する場合
関与する費用を負担し、仲裁委員会の長の
ⅲ 仲裁手続中に、その事案についていずれ
費用その他の仲裁手続の実施に関する費用
か一方の締約国の裁判所又は行政審判所が
は、両締約国の権限のある当局が均等に負
決定を行う場合
⑥ 訴訟又は審査請求が行われている事案につ
担します(本条 6 ⒝⒱)
。
③ 両締約国の権限のある当局は、全ての仲裁
いて、当該訴訟又は審査請求の当事者であっ
人及びそれらの職員に対し、仲裁決定のため
てその事案により直接に影響を受ける者が、
に必要な情報を不当に遅滞することなく提供
仲裁委員会の決定を受領した日の後60日以内
しなければなりません(本条 6 ⒞)
。
に、関連する裁判所又は行政審判所に対し、
④ 仲裁決定は、次のように取り扱われます。
仲裁手続において解決された全ての事項に関
⒤ 仲裁決定は先例としての価値を有しませ
する訴訟又は審査請求を取り下げない場合に
は、仲裁決定を実施する両締約国の権限のあ
ん(本条 6 ⒟⒤)
。
ⅱ 仲裁決定は、いずれか一方の締約国の裁
る当局の合意は、申立てをした者により受け
判所が、仲裁に関する手続規則等に違反す
入れられなかったものとされます。この場合
ることによりその仲裁決定を無効と判断し
には、その事案について、両締約国の権限の
た場合を除き、確定します。仲裁決定が無
ある当局による更なる検討は行われません
効とされる場合には、その仲裁の要請は行
(本条 6 ⒡)。
われなかったものとし、仲裁手続は、本条
⑦ 本条 5 及び 6 の規定は、第 4 条 3 の規定に
6 ⒝ⅳ及び⒱の規定に係る手続を除き、行
該当する事案(個人以外の双方居住者に関す
われなかったものとします(本条 6 ⒟ⅱ)
。
る両締約国の権限のある当局による合意)に
⑤ 仲裁委員会がその決定を両締約国の権限の
ついては、適用されません(本条 6 ⒢)。
ある当局に送付するまでに、その仲裁に係る
二十六 情報の交換(第26条)
約の規定の実施又は両締約国若しくはそれらの
1 本条の趣旨
地方政府若しくは地方公共団体が課す全ての種
本条は、両締約国の税務当局が租税に関する情
類の租税に関する法令(その法令に基づく課税
報を交換することを規定しています。
が条約の規定に反しない場合に限ります。)の
運用若しくは執行に関連する情報を交換するこ
2 解説
とを規定しています。また、この情報の交換は、
⑴ 権限のある当局間の情報交換(本条 1 )
第 1 条(対象となる者)及び第 2 条(対象とな
本条 1 は、両締約国の権限のある当局が、条
─ 754 ─
る租税)の規定にかかわらず、両締約国の居住
――租税条約の締結・改正――
者でない者に関する情報や、条約の対象となる
することができない情報を提供すること。
租税以外の租税に関する情報も対象となること
③ 営業上、事業上、産業上、商業上若しくは
職業上の秘密若しくは取引の過程を明らかに
が規定されています。
するような情報又は公開することが公の秩序
⑵ 交換された情報の取扱い(本条 2 )
に反することになる情報を提供すること。
本条 2 は、本条 1 に基づき一方の締約国が受
領した情報は、一方の締約国の法令に基づいて
⑷ 情報交換のための情報収集措置(本条 4 )
入手した情報と同様に秘密として取り扱われな
本条 4 は、各締約国は、本条の規定に従って
ければならず、本条 1 に規定する租税の賦課若
情報の提供の要請があった場合には、自国の課
しくは徴収、租税に関する執行若しくは訴追、
税目的のために必要な情報か否かにかかわらず、
租税に関する不服申立てについての決定又はこ
その情報を入手するための必要な手段を用いな
れらの監督に関与する者又は当局(裁判所及び
ければならないことを規定しています。また、
行政機関を含みます。
)に対してのみ開示され
その手段を用いるに当たっては、本条 3 の制限
ること、及びこれらの者又は当局はその情報を
に従いますが、その制限は、いかなる場合にも、
そのような目的のためにのみ使用し、また、公
その情報が自国の課税目的のために必要でない
開の法廷における審理又は司法上の決定におい
ことのみを理由としてその情報の提供を拒否す
て開示することができることを規定しています。
ることを認めるものではないことも規定されて
ただし、上記にかかわらず、一方の締約国が
います。
受領した情報は、両締約国の法令に基づき租税
に関する目的以外の目的のために使用すること
⑸ 情報提供拒否の制限(本条 5 )
ができる場合において、その情報を提供した他
本条 5 は、各締約国は、提供の要請を受けた
方の締約国の権限のある当局がそのような使用
情報が、銀行その他の金融機関、名義人、代理
を許可するときは、租税に関する目的以外の目
人若しくは受託者が有する情報又はある者の所
的のために使用することができることとされて
有に関する情報であることのみを理由として、
います。
その提供を拒否することはできないことを規定
しています。
⑶ 情報提供義務の制限(本条 3 )
(注) 議定書10は、本条 1 及び 2 の規定は、弁護士
本条 3 は、本条 1 及び 2 の規定は、いかなる
その他の法律事務代理人がその依頼者との間
場合にも、情報を提供する締約国に対して、次
で行う次の①又は②の通信の内容を明らかに
のことを行う義務を課すものではないことを規
する情報を入手又は提供する義務を課するも
定しています。
のと解してはならないことを確認しています。
① 一方の締約国又は他方の締約国の法令及び
① 法的な助言を求め、又は提供するために
行政上の慣行に抵触する行政上の措置をとる
行われる通信
こと。
② その内容を進行中の又は予定される法的
② 一方の締約国又は他方の締約国の法令の下
な手続において使用するために行われる通信
において又は行政の通常の運営において入手
二十七 外交使節団及び領事機関の構成員(第27条)
本条は、条約のいかなる規定も、国際法の一般
機関の構成員の租税上の特権に影響を及ぼすもの
原則又は特別の協定に基づく外交使節団又は領事
ではないことを規定しています。
─ 755 ─
――租税条約の締結・改正――
二十八 見出し(第28条)
本条は、条約の各条の見出しは、引用上の便宜
に影響を及ぼすものではないことを規定していま
のためにのみ付されたものであって、条約の解釈
す。
二十九 効力発生(第29条)
① 課税年度に基づいて課される租税に関して
1 本条の趣旨
は、条約が効力を生ずる年の翌年の 1 月 1 日
以後に開始する各課税年度の租税
本条は、条約の効力発生及び適用開始について
② 課税年度に基づかないで課される租税に関
規定しています。
しては、条約が効力を生ずる年の翌年の 1 月
2 解説
1 日以後に課される租税
⑴ 効力発生(本条 1 )
また、チリについては、取得される所得及び
本条 1 は、条約が、我が国及びチリにおいて
費用として支払われ、貸記され、処理され、又
それぞれの国内法上の手続に従って承認されな
は計上される額に対して、条約が効力を生ずる
ければならず(注)、その承認を通知する外交
年の翌年の 1 月 1 日以後に課される租税につい
上の公文の交換の日に効力を生ずることを規定
て適用されることが規定されています(本条 2
しています。
⒝)
。
(注)
我が国においては国会の承認が必要ですが、
本条約は第190回国会において承認されました。
⑶ 情報の交換の適用開始(本条 3 )
本条 3 は、第26条(情報の交換)に規定する
⑵ 適用開始(本条 2 )
情報の交換については、情報の交換の対象とな
本条 2 は、条約が、我が国については、次の
る租税が源泉徴収される日又はその租税に係る
ものについて適用されることを規定しています
課税年度にかかわらず、条約が効力を生ずる日
から適用されることを規定しています。
(本条 2 ⒜)
。
三十 終了(第30条)
できます。
1 本条の趣旨
この場合、条約は、我が国については次のもの
本条は、条約の終了について規定しています。
について適用されなくなります(本条⒜)。
① 課税年度に基づいて課される租税に関して
2 解説
は、終了の通告が行われた年の翌年の 1 月 1
条約は、一方の締約国によって終了させられる
日以後に開始する各課税年度の租税(本条⒜
時まで効力を有します。いずれの一方の締約国も、
⒤)
条約の効力発生の日から 5 年の期間が満了した後
② 課税年度に基づかないで課される租税に関
に開始する各暦年の 6 月30日以前に、外交上の経
しては、終了の通告が行われた年の翌年の 1
路を通じて他方の締約国に対し書面による終了の
月 1 日以後に課される租税(本条⒜ⅱ)
通告を行うことにより、条約を終了させることが
また、チリについては、取得される所得及び費
─ 756 ─
――租税条約の締結・改正――
用として支払われ、貸記され、処理され、又は計
力を生ずる日の前に受けた情報提供の要請は、こ
上される額に対して、通告が行われた年の翌年の
の条約の規定に従って取り扱われること、両締約
1 月 1 日以後に課される租税について適用されな
国は、この条約の規定に基づいて入手した情報に
くなることが規定されています(本条⒝)
。
関しては、同条に規定する秘密に関する義務に引
なお、第26条(情報の交換)の規定に関しては、 き続き拘束されることが規定されています(本条
当該通告が行われた年の翌年の 1 月 1 日に適用さ
⒞)
。
れなくなることが規定されているほか、終了が効
三十一 議定書
条約には、条約の不可分の一部を成す議定書が
定されています。また、ある措置が条約第24条
付されています。この議定書の各規定の国際法上
(無差別待遇)の規定の適用対象にならないと
の効力は、条約本体の各規定のそれと何ら変わる
両締約国の権限のある当局が合意する場合を除
ところはありません。
い て、 サ ー ビ ス の 貿 易 に 関 す る 一 般 協 定
1 議定書 1 ⒜は、チリの法令に基づいて設立さ
(GATS)第17条(内国民待遇)の規定はこの
れた投資口座や投資基金であって、条約第 4 条
措置について適用しないことが規定されていま
1 (居住者の定義)に基づきチリの居住者とは
す。この規定の適用上、
「措置」とは、条約の
されないものについて、条約の規定は、これら
対象となる租税に関する法令、規則、手続、決
の投資口座や投資基金が行う送金及びこれらの
定、行政上の行為その他同様の規定又は行為を
いうとされています。
参加者が保有する持分の償還又は譲渡から生ず
る所得に対して、チリの法令に基づいて課税す
5 「一方の締約国の居住者」に含まれる者の範
囲(条約第 4 条 1 関連)(議定書 3 )
ることを制限するものと解してはならないこと
6 恒久的施設を通じて事業を行うことをやめた
を規定しています。
場合の取扱い(条約第 7 条関連)(議定書 4 )
2 議定書 1 ⒝は、条約のいかなる規定も、チリ
の法令第600号(外国投資法)の現行規定及び
7 チリにおいて納付される追加税について源泉
その一般原則を変更することなく随時行われる
地国課税の減免規定を適用しないことへの対応
改正の後の規定の適用に影響を及ぼすものでは
措置及び再交渉(条約第10条関連)
(議定書 5 )
8 「バックトゥバック融資に関する取決め」の
ないことを規定しています。
範囲(条約第11条 4 関連)(議定書 6 )
3 議定書 1 ⒞は、条約のいかなる規定も、条約
第 7 条(事業利得)の規定に従ってチリ内に存
9 条約第11条(利子)、条約第12条(使用料)
在する恒久的施設に帰属する利得について、チ
及び条約第13条(譲渡収益)に関する再交渉
リにおいて我が国の居住者に対して行う第一区
(議定書 7 )
分税及び追加税の課税に影響を及ぼすものでは
10 予定又は意図されていない方法での条約適用
ないことを規定しています。ただし、追加税の
に関する相互協議(条約第25条 3 関連)(議定
書8)
額の計算上、第一区分税の全額を控除すること
11 仲裁の手続等に関する細目の適用場面(条約
ができる場合に限るとされています。
第25条 5 及び 6 関連)(議定書 9 )
4 議定書 1 ⒟は、条約の解釈や適用(ある措置
が条約の適用の対象となるか否かを含みます。
)
12 弁護士機密の保護(条約第26条関連)
(議定
に関して生ずる問題は、条約第25条(相互協議
手続)の規定に従ってのみ解決されることが規
─ 757 ─
書10)