2016 年度(平成 28 年度)工学系研究科 夏学期大学院集中講義 機械工学特別講義Ⅱ(講義番号 3724-051) 機能性界面創成のための分子シミュレーション 開講日時:2016 年 8 月 1 日(月)~ 3 日(水)10:00-16:00 講義室:工学部 2 号館 233 講義室 担当教員:鷲津 仁志(兵庫県立大学大学院シミュレーション学研究科 教授) 評価:レポートによる 講義の概要: トライボロジーにおける CAE を用いたシステム設計は,現在においてもマクロスケールからの アプローチが大半であり,分子レベルからの取り組みは少ない.これは,通常の分子レベルから の材料開発では,弾性率や融点といった静的な物理量と関連する構造,特定の化学反応を追跡す るのに対して,摩擦係数は動的な物理量であること,原子レベルから部品サイズまでのマルチス ケール性を有する現象であること,摩耗といった不可逆過程を含むことによりトライボプロセス の全体像を捉えることが困難であったためである. 機能性の摺動面の創生を目指して,境界潤滑,流体潤滑のそれぞれにおける材料シミュレーシ ョン技術を俯瞰すると,分子軌道法や密度汎関数法などの静的な量子力学計算,第一原理分子動 力学,全原子分子動力学といった手法が階層ごとに提案されており,原子レベルまでの基本的な 手法は一応入手可能である.問題はこれよりマクロな領域であり,有限要素法を代表とする巨視 的な連続体シミュレーションとの間にデファクト・スタンダードとなる手法が見当たらない. 本講義では,このような現象に対する適切なモデリング,とくに分子集団以上のスケールにお ける粗視化に関して,現象の主要な要素を的確に取捨選択して計算することを紹介する. たとえば,グラファイトや二硫化モリブデンのような層状化合物は低摩擦物質として知られて おり,これらでコーティングした面と,相手材に移着した断片との間で摩擦現象が生じることは わかっていたが,その詳細機構は不明であった.我々は,移着片の 1 層 (数万原子からなる) を 1 粒子として見なす粗視化モデリング手法を提案し,熱回避運動に基づく超低摩擦機構を明らか にした.また,軟骨を模した高分子電解質ブラシ系をモデル化するために,イオンの溶媒和を扱 う粗視化分子モデルや,高分子セグメントをブラウン動力学により扱い溶媒の流れを格子ボルツ マン法により連続体として扱うハイブリッド手法を提案している. 講義の前半では,機能性界面を支配する 3 つの相互作用 (van der Waals, 水素結合,長距離 Coulomb) の特徴を紹介し,基本的な分子シミュレーション手法について概観する.後半に,上記 の例を含むトライボロジーの研究および,工業的に重要な電池系や生体系の研究事例も紹介し, 広範な興味に対応したい. 本特別講義は「固体力学・材料」の専門分野講義 として認定されます。
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