プレスリリース

【発信】国立大学法人
富山大学総務部広報課
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(FAX)076-445-6063
平成28年7月25日
報 道 機 関
各位
ビタミン B12 欠乏症の原因となるトランスポーター
ABCD4 のリソソーム局在化機構の解明
国立大学法人富山大学大学院医学薬学研究部(薬学)の川口甲介 助教、岡元拓海 大学院
生(博士後期課程2年)
、今中常雄 教授らのグループは、
「ビタミン B12の細胞内での輸送に
関わる ABC トランスポーターABCD4 が、本来機能すべき場所であるリソソームに局在化する
ためには、小胞体膜上でアダプターとなるリソソーム膜タンパク質 LMBD1 と複合体を形成す
る必要がある」という新しいタンパク質局在化機構を発見しました。これは ABC トランスポ
ーターの細胞内局在が、アダプタータンパク質によって決定されるという世界で初めての報
告です。また、ABCD4 の機能障害や局在化の異常は重篤なビタミン B12欠乏症の原因となるこ
とより、その治療法の開発が期待されます。
つきましては、下記にもとづき取材・報道の方よろしくお取り計らい願います。
記
1.発表内容
別紙のとおり。
2.報道解禁時間
2016 年 7 月 26 日 午後 6 時 (日本時間)
理由:英国時間 2016 年 7 月 26 日午前 10 時に雑誌 Scientific Reports に掲載されるた
め。本件の取り扱いについては、上記解禁時間以降でお願いいたします。
3.研究に関する取材・問合せ先
富山大学大学院医学薬学研究部(薬学)分子細胞機能学研究室
今中常雄
TEL: 076-434-7545,
e-mail: imanaka [@] pha.u-toyama.ac.jp
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別紙資料
1.発表のポイント
・ ABC トランスポーターABCD4 の機能障害は、重篤なビタミン B12欠乏症の原因となる。
・ ABCD4 欠損症患者線維芽細胞ではビタミン B12がリソソームに蓄積していることより、
ABCD4 はビタミン B12をリソソームから細胞質に輸送するトランスポーターであると予
想された。
・ 単独で発現させた ABCD4 は小胞体に局在するが、アダプタータンパク質 LMBD1 との共
発現で初めてリソソームに局在化することを発見した。
・ ABC トランスポーターの細胞内局在が、
アダプタータンパク質によって決定される初め
ての報告である。
2.研究の概要
ABC(ATP-Binding Cassette)トランスポーターは、ATP のエネルギーを利用して生体膜上で
様々な物質の輸送を行い、生体の恒常性維持に重要な役割を果たしている。我々のグループ
は、その一つである ABCD4 が小胞体膜上に局在化する仕組みを明らかにしてきたが、その機
能については不明であった。2012 年に、ABCD4 をコードする遺伝子 ABCD4 の異常によって、
リソソーム内にビタミン B12が蓄積する表現型を示す新規ビタミン B12欠乏症患者が発見され、
ABCD4 がリソソーム膜に局在し機能する可能性が示唆された。また、リソソーム膜タンパク
質 LMBD1 をコードする遺伝子 LMBRD1 の異常によっても ABCD4 遺伝子異常と同様の表現型を
持つ患者が発見された。両タンパク質の機能不全が、同様の表現型を示すビタミン B12欠乏症
の原因となることから、ABCD4・LMBD1 が協調してリソソームからのビタミン B12輸送に関与
するという仮説を立てた。まず、単独で過剰発現させた ABCD4 は小胞体に局在するが、LMBD1
を共発現させると、ABCD4 の局在は小胞体からリソソームへと劇的に変化することを発見し
た。さらに解析を進め、以下のことを明らかにした。
・ ABCD4 は小胞体上で二量体を形成し、正しく二量体を形成した ABCD4 のみが LMBD1 と複
合体を形成する。
・ この複合体のリソソームへの移行は、LMBD1 のリソソーム移行シグナルに依存する。
・ LMBD1 のリソソーム移行シグナルを変異させ LMBD1 を細胞膜に局在するようにすると、
ABCD4 も細胞膜に局在化する。
・ LMBD1 をコードする LMBRD1 遺伝子をノックアウトして、細胞内の LMBD1 タンパク質を欠
損させると、リソソームに局在する ABCD4 が顕著に低下する。
このように、ABCD4 のリソソームへの局在化が LMBD1 により制御されている仕組みを明ら
かにした。これは ABC トランスポーターの細胞内局在がアダプタータンパク質によって決定
されるという世界で初めての報告である。また、ABCD4 の局在化とビタミン B12輸送の分子機
構の解明は、ビタミン B12欠乏症の治療薬開発に繋がる。
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模式図
3.発表論文
【論文名】
Translocation of the ABC transporter ABCD4 from the endoplasmic reticulum to lysosomes
requires the escort protein LMBD1
【雑誌名】
Scientific Reports 6:30183 (2016) DOI: 10.1038/srep30183
【著者】
Kosuke Kawaguchi, Takumi Okamoto, Masashi Morita, Tsuneo Imanaka
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4.用語説明
・ リソソーム
生体膜で囲まれた細胞内小器官の1つ。細胞内に取り込まれたタンパク質などの高分子化
合物を加水分解する場所。加水分解されたアミノ酸や栄養成分などは、リソソソーム膜か
ら細胞質に輸送されて生体構成成分や補酵素などとして利用される。
・ 小胞体
生体膜で囲まれた細胞内小器官の1つで、網目状の構造を持つ。タンパク質を生合成す
る場所。細胞質のポリソーム上で生合成されているタンパク質に SPR(シグナル認識粒
子)が結合すると小胞体膜上に移動し、生合成されたタンパク質は小胞体膜に組み込ま
れるか小胞体内へ移行する。
・ リソソーム移行シグナル
タンパク質中に存在するリソソームへ移行するために必要なアミノ酸配列。チロシン残
基やロイシン-イソロイシンを持つ特定のアミノ酸配列が見つかっている。なお、小胞体
に組み込まれた膜タンパク質の中でリソソーム移行シグナルを持つ膜タンパク質は、ゴ
ルジ装置で選別されリソソームに移動する。リソソーム移行シグナルを持たないものは
ゴルジ装置を経て細胞膜に移行する。
5.付記
本研究は、厚生科研費難治性疾患克服研究事業、科学研究費基盤(C)ならびに学長裁量
経費などの支援を受けて実施された研究成果である。また、富山大学における戦略的研究「新
規創薬シーズ開発を指向した膜輸送タンパク質研究の戦略的拠点形成」を担うものである。