錬鉄の英雄 プリズマ☆シロウ gurenn ︻注意事項︼ このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にP DF化したものです。 小説の作者、 ﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作 品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁 じます。 ︻あらすじ︼ この作品は、コンプエースを読んだ私が美遊兄士郎のあまりのカッ コ良さに影響されて書いてみた作品になります。 という主旨の元に書いたのがこの作品になります。 そこで、プリヤ士郎を美遊兄士郎のように活躍させたら面白いので はないか 推奨の作品になります。それでは、どうぞ。 も構わないという人、もしくは、本誌のコンプエースを読んでいる人 最後に、この作品はドライのネタバレ要素がありますので、それで す。読んでみて下さい。 投稿したのは、より多くの読者様達の意見を聞いてみたかったからで ピクシブにお試しで投稿した物を載せています。このハーメルンに 私は、ピクシブで小説書きをしている者です。なので、この作品も ヒロインは未定です。 ヤの原作に介入します。 なので、主人公はプリヤ士郎で、アーチャーのカードを使ってプリ ? 目 次 夢幻召喚 ││││││││││││││││││││││││ 衛宮士郎の戦い │││││││││││││││││││││ 真妹大戦 シスターウォーズ │││││││││││││││ 衛宮士郎の奮闘 │││││││││││││││││││││ 1 11 21 31 夢幻召喚 ︻士郎視点︼ ﹃俺はお兄ちゃんだからな。妹を守るのは当たり前だろ ﹄ 不思議な夢を見ている。まったく見覚えがない景色と、不思議な紋 様。その中心に寝かされた女の子に、カードを手にして微笑む俺。知 らない。俺は、こんなのは知らない。だが⋮⋮ その言葉は、酷く俺の胸を打つ。その言葉に、俺は頷く。そうだ。 当たり前だよ。妹を守るのは、兄として当然。例えどんな奴が相手で も、お兄ちゃんは妹を守らなければならないんだ。 俺の妹、イリヤ。血は繋がってないがそんな事は関係ない。俺は胸 を 張 っ て そ う 言 え る。こ れ は 夢 だ。そ ん な 事 は 分 か っ て い る。だ け ど、この俺も妹を守ろうとしている。ならば俺は⋮⋮ ﹃ーーがもう苦しまなくていい世界になりますように。優しい人達に 出 会 っ て ⋮⋮ 笑 い 合 え る 友 達 を 作 っ て ⋮⋮ あ た た か で さ さ や か なーー﹄ 違 う。た だ の お 兄 知らない妹の手を握って、祈るように呟く俺。ただ静かに、それだ け を 願 う よ う に 呟 く。そ の 姿 は 正 義 の 味 方 ﹃ああ、だけど⋮⋮もう俺は側にいてあげられないんだな。それだけ が 本 当 に 悔 し い よ。だ か ら も う 一 つ だ け 願 う。ど こ か の 俺。俺 の 妹 を、頼むよーー﹄ 悔しそうに、だけど嬉しそうに、そう呟く声が聞こえた。それを受 け取った俺は、聞こえるか分からないけどその声に答えた。ただ一言 ⋮⋮ ﹃任せろ﹄ってな⋮⋮それに、知らない俺は安堵したような気がした。 ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ ﹁⋮⋮﹂ 1 ? 夢から覚めるんだ。そう理解した時、もう一度声が聞こえた。 景色が、霞んで光の中に消えていく。 ちゃんだ。だけど、だからこそ誰よりも優しい願い。 ? 朝、目を覚ました俺は、何故か不思議な夢を見ていたような気がし た。夢の内容は思い出せない。だけど、とても大切な願いを託された ような。こんな気分は初めてだ。いつもより早い時間に目覚めてし まった俺は、少し悩む。 ﹁まだ五時か。せっかくだし、朝飯の準備でもするかな。またセラに 文句を言われるかもしれないが⋮⋮﹂ 我が家の家政婦さんが、脳内で文句を言っている。またシロウは私 の仕事を奪って、みたいな感じで。今日の当番はセラだからな。家庭 内ヒエラルキーが家政婦達より低い俺は苦笑する。 ﹁でも、目が覚めちまったものは仕方ないからな。また寝る気にもな れないし、時間の有効活用ってやつだ﹂ 時間がたっぷりあるから、いつもより凝った料理を作る事も可能 だ。つ い で に 妹 の お 弁 当 も 作 っ て や る の も 悪 く な い か も し れ な い。 どうせ、一成に弁当を作ってやる約束もしてたし。 む ⋮⋮ し か し こ れ は 中 々 らせる事ができたみたいで良かった。イリヤの弁当を用意しながら、 最後の仕上げをやっていた朝飯の味に自信を持つ。 あとは完成を待つだけだ。あと10分くらい煮込めばいいな。そ んな俺達のやり取りを、起きたばかりらしいリズが目を擦りながら見 ていた。真面目なセラとは違って、相変わらずリズは、家政婦として 働く気がないようだ。 2 ﹁今日も良い天気になりそうだ﹂ ま た 私 の 仕 事 を カーテンを開けて白んできた空を見ながら、俺はそう呟いた。そし て、朝飯の準備をする為に一階に降りていく。 ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ ﹁シ ロ ウ ⋮⋮ 今 朝 の 当 番 は 私 だ っ た 筈 で す よ ね 奪って⋮⋮﹂ ⋮⋮﹂ ﹁そ ん な 事 で は 誤 魔 化 さ れ ま せ ん よ 間があったからちょっと凝ってみたんだ﹂ ﹁せ、セラ、落ち着け。ほら、味見をしてみてくれよ。今日の朝飯は時 ? 案の定、文句を言ってきたセラに料理の味見を頼む。セラの舌を唸 ! また貴女は、そんなやる気がない格好を⋮⋮もう少し自覚 ﹁セラもシロウも飽きないね﹂ ﹁リズ を⋮⋮﹂ そしてまたセラがそんなリズに説教を始める。うん、いつもの朝 時間的に﹂ だ。俺はそんな光景に笑ってしまった。本当に優しく愛しい、俺の世 界。この世界が失われるなんて想像もつかない。 ﹂ ﹁シロウ∼、そろそろイリヤ起こした方が良くない ﹁貴女がやりなさい、貴女が ? ﹁シロウ そうやって貴方がリズを甘やかすから、この子はいつま テーブルに運んでくれよ﹂ ﹁あ は は。い い よ。俺 が 起 こ す か ら。セ ラ は、出 来 上 が っ た 料 理 を ! 頭の中に、知らない光景が見えた。 いにな。そう思った瞬間だった。俺の頭に鋭い痛みが走ったのは。 困った妹だ。だが、愛しい妹だ。全てを懸けて守ろうと思えるくら ﹁まったく﹂ ﹁う∼ん⋮⋮﹂ ﹁いいから起きろって﹂ いんだが、その癖は直して欲しいと俺は思う。 められると逃げ出すという癖がある。可愛い妹であるのは間違いな 俺は妹の寝言に呆れた。俺の妹イリヤは朝が弱い。そして、追い詰 ﹁何てベタな寝言だ⋮⋮﹂ ﹁う∼ん、あと五分⋮⋮﹂ ﹁イリヤ、朝だぞ。起きろ﹂ ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ だ。俺は、非日常に足を踏み入れる選択をした。 託された願いが俺を導いた。だからきっとこの選択は必然だったん だけど、この選択は必然でもあった。あの夢の中で、知らない俺に の分岐点だったのかもしれないと、後に俺は思う。 イリヤを起こすという名目で、セラの説教から逃げ出した。これが俺 セラの説教の矛先がこっちを向いた。おっと、まずいな。俺は妹の で経ってもメイドとしての自覚が⋮⋮﹂ ! くっ、何だ、今の ? 3 ! イリヤではない妹が、不思議な紋様の中心に寝かされている。そし て俺は、その妹を見下ろしている光景。妹は、悲しそうに泣いている。 全てを諦めたような雰囲気で。それを俺は⋮⋮ ﹃妹が、もう苦しまなくていい世界になりますように⋮⋮俺の妹を、頼 むよ﹄ ﹁くっ⋮⋮何だこれ⋮⋮﹂ 頭の中に浮かんできた光景に、俺は頭を押さえてよろめく。そして イリヤの机に手をついて膝をつく。不可思議な頭の痛みは、その内、 引いていった。一体何だったんだ、今の光景は ﹁⋮⋮イリヤのか ? もしイリヤなら、魔法少女みたい 机の上にあるって事はそうなんだろうけど、イ てみると奇妙なカードだった。何なんだ、これは 何かある事に気付いた。丁度、ついた手の下に何かがあるようだ。見 痛みが引いて、俺は立ち上がる。その時、手をついたイリヤの机に ? ﹁っ おはよー﹂ あ、ああ、おはよう﹂ ﹁⋮⋮お兄ちゃん からイリヤの眠そうな声が聞こえてきた。 ような、そんな気がした。俺が奇妙なカードに見入っていると、後ろ 目が逸らせない。まるで、これが俺にとってなくてはならない物の 俺は何故か、このカードに惹き付けられた。 が、イリヤが好きな魔法少女物に出てくるようなデザインじゃない。 弓を構えた兵士のような絵が描かれたカードだ。とてもじゃない なステッキとか⋮⋮﹂ リヤの趣味とは少し違うような ? ? 何でお兄ちゃんがいるの ? 何て事を言ってくる。やれやれ、まったく⋮⋮ イリヤはまだ寝惚けてるらしく、あれー その声にハッとして、俺は何故か咄嗟にカードを後ろ手に隠した。 !? ⋮⋮はっ お兄ちゃん 本物のお兄ちゃん⋮⋮ 私 ﹁早く目を覚ませ、イリヤ﹂ ﹁ん∼ ﹂ の妄想の夢じゃなくて るの ? ルビーの幻とかじゃなくて ﹂ !? 現実にい !? !? ﹁落ち着け、訳が分からないぞ !? ? !? 4 ? ? ? ﹂ ﹁いや∼ い 妹の難しい女心を理解する 出てって こんな寝起きの寝惚けた姿、見られたくな ! しまった、話を聞いていなかった。何か言われたのか俺 ﹁話を聞いていたのか、衛宮 内してやってくれと言ったんだが ﹁あ、ああ⋮⋮分かりました﹂ ﹂ お前が二人の転校生に学校の中を案 俺がそんな風に怯えていると、先生が呆れた。 た。あれ そう思っていると、何故か先生と二人の転校生が俺の方を見てい し、単純に興味が薄いのだろう。多分だけどな。 てるし、一成は寺の僧侶だからな。普段から女子とは距離を置いてる 俺と一成を除いてな。俺は普段から、セラ達で美女、美少女に慣れ 然、クラスの男子達は一斉に沸き立ったのだった。 は二人とも美少女で、二人ともロンドンから来たという話だった。当 学校に来て早々、俺達は担任に転校生達を紹介された。その転校生 しの事もどうかよろしくお願いしますわ﹂ ﹁ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトと申しますわ。皆さん、わたく ﹁遠坂凛です。皆さん、これからよろしくお願いしますね﹂ ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ まった。 持ってきちまった。まあ、後で返せばいいか、と俺は軽く考えてし ﹁⋮⋮あ、カード⋮⋮﹂ 息をついた。俺の妹も、難しい年頃になったか⋮⋮ 事は俺にはできなかった。イリヤに部屋から追い出されて、俺はため いや、今さらそんな事を気にするか ! ? のだが、何故かその瞬間、クラス中の雰囲気が険悪になった。なんで さ。男子達は、あからさまに俺を睨み付けてくる。 俺はこの状 そして、女子達は二人の転校生を険悪な表情で睨んでいる。隣の席 の森山なんて、何故か泣いている。どうしたんだ森山 況をどうしていいか分からなくなってしまった。 ﹁えっと、じゃあ放課後に⋮⋮﹂ !? 5 ? ! そうか。よく考えれば、当たり前の事だよな。俺はそれを了承した ? ? ? ﹁よろしくね、衛宮くん﹂ ﹁よろしくお願いしますわ﹂ 取り敢えず、引き受けた仕事について話す事にした。転校生の二人 は、教室の雰囲気をまったく気にしていない。豪胆だな∼⋮⋮こうし て俺は、放課後に転校生二人に学校を案内する事になったのだった。 部活休まないとな⋮⋮ ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ ﹁⋮⋮で、ここが音楽室﹂ ﹁へえ、中々綺麗じゃない﹂ ﹁ですわね。わたくしの屋敷に比べるとみすぼらしいですけど、及第 点はあげられますわね﹂ 実に貴女らしいですわね﹂ ﹁うわっ、アンタ、相変わらず上から目線ね。そういう所がムカつくの よ﹂ ﹂ ﹁あらあら、お猿さんの負け惜しみ ﹁誰が猿よ 達が案内役を代わってくれと言ってたが、こんな事なら代わってやれ 俺はそう言って、最後である校庭に二人を誘導した。帰り際に男子 ﹁ほ、ほら、次で最後だから⋮⋮﹂ 言話せば喧嘩する、というくらいに仲が悪いらしい。 で俺は二人の喧嘩を仲裁しまくる事になった。これは大変だな。二 ま さ に 犬 猿 の 仲。水 と 油。混 ぜ る な 危 険 の 二 人 だ っ た の だ。お 陰 するらしく⋮⋮ 直、こっちの方が親しみ易いのだが、この二人は、事ある毎に喧嘩を たから。すると二人は、面白そうな顔をして、本性を見せてきた。正 せっかく同じクラスになったんだし、もっと親しみ易く話したかっ やめるように言った。 二人の転校生は最初は猫を被って丁寧な言葉遣いをしていたが、俺が 部は部長に話を通して休ませてもらった。もう少しで案内も終わる。 放課後になった。予定通り、転校生の二人に学校を案内する。弓道 ﹁ま、まあまあ、落ち着け二人とも﹂ ? ば良かったな。そんな事を考えながら校庭を案内し、俺の波乱の学校 6 ! 案内は終わった。 ﹁助かったわ。ありがとう衛宮くん﹂ ﹁わたくしからもお礼を﹂ ﹂ ﹁いや、この程度なら幾らでも。また何か困った事があったら、何でも 言ってくれよ。できるだけ力になるから﹂ ﹁そうね。その時は遠慮なくこき使ってあげるわ。覚悟してね ﹁お、お手柔らかに⋮⋮﹂ 怖いな。遠坂の言葉に戦きながらも、俺は約束した。何か困った事 があれば力になると。そしてそれは、意外な形で果たされる事になる のだった。遠坂達も予期していなかった形で⋮⋮ ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ ﹁⋮⋮眠れない﹂ その夜の事。俺は、何故か眠れない夜を過ごしていた。思えばこれ イリヤ は、予感だった。何かが始まる。そんな予感が俺の目を覚まさせてい ⋮⋮これは、階段を降りる音 イリヤに気付かれないように、静かに階段を降りる。何故気付かれ ないようにしたのかは、まだ分からなかった。これも、嫌な予感とい ﹂ うやつだったのかもしれない。イリヤは、台所にもトイレにも向かわ ず、玄関に向かった。 ﹁⋮⋮おいおい、こんな時間に外出 ﹁が、学校 ﹂ る気にはなれずに後を追い掛ける。一体どこに を捕まえて問い詰めるべきなのかもしれない。だけど、何故かそうす 俺も靴を履いて、イリヤの後をそっと追い掛ける。本当ならイリヤ ? ? はきた。そして、そこには待ち人がいた。その待ち人に、再び驚かさ そこは、学校だった。俺とイリヤが、毎日通っている学校にイリヤ ? 7 ? それともトイレか ? たんだ。そんな俺の耳に、微かな足音が聞こえた。 ﹂ ﹁⋮⋮こんな時間に誰だ か 夜中に目が覚めて、水でも飲みに行ったのか ? 俺は何故か気になり、イリヤの後をそっと追い掛ける事にした。 ? ? あのカードも、返さないといけないしな。 ? ﹂ れる。何故ならその待ち人は、俺の知り合いだったからだ。しかも学 何で遠坂とイリヤが 校の案内までした。 ﹁⋮⋮遠坂 ? ﹂ !? そんな疑問が湧いた時⋮⋮ ? し か も そ の ス テ ッ キ、何 か 動 い て 喋 っ て る ん だ け ど。う !? その光景に、俺はあの時の夢の内容を思い出す。魔法陣のよ じゃないか ﹂ ﹂ ﹄ イリヤーッ お兄ちゃん ﹁そんなの駄目だ ﹁え ﹁衛宮くん ﹃おっと、飛び入りですか ま さ か イ リ ヤ が 酷 い 目 に 遭 う ん ﹂ !? ! 声すら出ない。 ﹂ 聞いてないわよ ﹂ どうすんの !? ﹁お兄ちゃん、どうして ﹁衛宮くんが、イリヤのお兄ちゃんですって ﹃面白くなってきましたね∼﹄ ﹂ ふざけた事言ってるんじゃないの もう鏡面界に入っちゃったじゃない ﹁こら、ルビー よ ﹂ あっはっは﹄ ! !? ﹃ついでに、あちらさんもおでましのようですけどね ﹁な、何あれ !? ? ! ! !? を掴んだ瞬間、世界が変わっていた。あまりに非現実的な事に、俺は 気がついたら俺は、その魔法陣の中に飛び込んでいた。イリヤの肩 ? !? ! る前にも見た光景じゃないか うな紋様の中心に寝かされていた女の子。これは、このカードに触れ っ ﹁イリヤの周りに、魔法陣が⋮⋮﹂ 脈打った。な、何だ わっ、気持ち悪い。その時、胸のポケットに入れていたあのカードが のか イリヤが変なステッキで魔法少女に変身した。俺は、夢でも見てる ﹁あれは⋮⋮ をするつもりなんだ 話の内容までは聞き取れなかった。遠坂達はこんな時間の学校で、何 遠坂とイリヤは何かを話している。だけどここからじゃ、遠すぎて ? !? !? 8 ? !? !? ! もう大混乱だ。驚くイリヤと遠坂と、ついでに俺。そして、一人楽 しそうに笑う不可思議なステッキ。極めつけに空間の裂け目みたい ﹂ とにかく、イリヤ、あれが な所から這い出てくる黒い人影。イリヤと俺は悲鳴を上げるしかな ﹂ 戦いなさい ﹂ 聞いてないよ ちっ、こんな面倒な時に い。何だよあれ ﹁黒化英霊 私達の敵よ ﹁ええーっ 正気か遠坂 イリヤにあれと戦えって言うのか ﹂ 今は争ってる場合 少し黙りなさい、衛宮兄妹 ﹂ ! 気力で立ち上がるが、敵は圧倒的な存在感を そ の 周囲の状況も声も今の俺には届 力 を く れ。ど こ の 誰 で も い い。こ の 俺 に 妹 を 守 れ る 力 を ﹁⋮⋮力を⋮⋮﹂ 放っている。今の俺じゃ、イリヤを守れない ! ! ﹂ ! ﹁って、やばい ﹁何かヤバそうな事やってる ﹂ ﹃大ピンチですね∼﹄ ﹁も、もう駄目だ∼ ﹁⋮⋮させてたまるか⋮⋮﹂ ! ﹂ リヤが再び俺達の前に吹き飛ばされてきた。 向かって力の限り叫んでいた。力をくれ、と。そうしている内に、イ 遠坂が、俺を必死に引っ張る事にも気付かない。俺はただ、世界に かない。イリヤが黒い人影と戦い始めたのも見えない。 為なら俺の全てを懸けてもいい ! ? 対にさせてたまるか このままじゃイリヤが⋮⋮俺の妹が殺されてしまう。そんな事、絶 強かに打ち付けられる。くそっ、滅茶苦茶痛い イリヤを抱き抱えて庇ったが、俺は数メートルも飛ばされた。地面に 言い争う俺達を、現れた黒い人影が容赦なく吹き飛ばした。咄嗟に ﹁くっ ﹁きゃあーっ ﹃凛さんはうっかりさんですね∼﹄ じゃない⋮⋮って、やばっ ﹂ ! ! ! ﹁ああーっ、もう ﹁な、何 ! ! ! !? ! !? ! !? !? !? ! ! 9 ! 俺の声に小さな声が応えた。そして俺の目の前には、あのカードが 力を貸せ、 ﹃ーーー﹄ ﹂ 浮 か ん で い る。黒 い 人 影 が 巨 大 な 魔 法 陣 を 描 い て い く の が 見 え る。 イリヤは、俺が守る あいつはイリヤを殺そうとしている。そんな事は⋮⋮ ﹁絶対にさせない ! 俺は無意識に、俺の声に応えた小さな声の持ち主の名前を呼んでい ! た。その名前は、何故か聞き取れなかったが。その存在がいる場所に ﹄と。 10 ! アクセスする。カードを使って。そして、俺は叫ぶ。 イ ン ス トー ル ﹃夢幻召喚完了 ! ﹂ 衛宮士郎の戦い ︻イリヤ視点︼ ﹁も、もう駄目だ 聞いてない。私、こんなの聞いてないよ。私は、心の中で凛さんに 文句を言った。凛さんの話では、カードを回収するというだけだった 筈なのに、突然現れた奇妙な黒い人影と戦わされる事になった。 しかも、この場にお兄ちゃんが付いてきてしまった。これは、私の ミスだけど。だって、まさかお兄ちゃんが付いてきてるなんて思わな かったんだもん。魔法少女に変身してる場面を見られてしまった。 このままじゃ、お兄ちゃんまで巻き込んでしまう。それだけは嫌 だった。だから私は必死に戦ったけど、私の散弾は威力が足りなく て、敵を倒せなかった。凛さんの攻撃も、この敵には通用しなかった。 私はあっさりとお兄ちゃん達の前まで吹き飛ばされて、敵に攻撃の 隙を与えてしまった。そしたら、あの敵が何かヤバそうな事をやろう としていた。凛さんも焦ってる。ルビーだけは呑気な声を出したけ ど。 敵が魔法陣を描いていく。直感で分かる。あれはきっと、必殺技を 出そうとしてる。私にはルビーがいるけど、お兄ちゃんと凛さんは完 全に無防備だ。つまり、私が二人の盾になるしかないという事だ。 そう判断した私は、ルビーにそれを伝えようとした。でも、それは できなかった。私の後ろにいたお兄ちゃんの叫び声が聞こえてきた ﹂ から。その叫び声に、私は後ろを振り返った。そこには、お兄ちゃん がいた。 ﹁⋮⋮お兄ちゃん ﹁なっ、衛宮くん、貴方⋮⋮﹂ ﹃⋮⋮これは⋮⋮﹄ でも、そこにいたのは、私の知ってるお兄ちゃんじゃなかった。お 兄ちゃんの姿に、私も凛さんも、そしてルビーでさえ唖然とした声を 出した。お兄ちゃんは、いつの間にか赤い服を着ていた。 そして、白いマントを羽織っている。その頭には赤いバンダナが巻 11 ! ? かれていて、顔に光の筋みたいな物が浮かんでる。体つきも逞しく なってるような。表情は、いつも浮かんでる笑顔が消えて、鋭くなっ てる。 私 は 呆 然 と お 兄 ち ゃ ん の 顔 を 見 つ め る 事 し か で き な その表情に、ちょっとドキッとしてしまったのは秘密。一体、何が 起きたの ﹂ かった。今が凄くピンチだっていう事も忘れて、私達は呆けてしまっ た。 ﹁り、凛さん、何が起きてるの だ。 ﹂ ﹂ あれをまともに受け ! ! ﹁って、今はそれを考えてる場合じゃないのよ ﹂ あの黒化英霊、 ﹃宝具﹄を使おうとしてる ﹂ たらただじゃ済まないわ ﹂ 逃げるわよイリヤ 員が敵に集中してたから、後ろにいたお兄ちゃんを見てなかったん てる。専門家の凛さんにも分からないんじゃ、どうしようもない。全 凛さんに聞いてみるけど、凛さんにも分からないらしくて、混乱し ﹃大変興味深いですね、これは﹄ ﹁わ、分かんないわよ、私にも ! !? とにかく逃げ⋮⋮﹂ ﹁ほ、宝具って何 ﹁まずい ﹁駄目、間に合わない ﹁説明はあと !? う。 ﹁あ⋮⋮﹂ ? 兄ちゃんがいた。その顔を見て私は思った。ああ、いつものお兄ちゃ に、私は後ろを振り向く。そこには、いつものように優しく微笑むお とても優しい、私の大好きなお兄ちゃんの声が聞こえた。その声 ﹁大丈夫だ。イリヤは俺が守るから﹂ 死んじゃうの そう思った時⋮⋮ ない。凛さんの言葉から、きっとルビーの防御でも助からないんだろ でも、もう間に合わない。敵の魔法陣は完成してしまった。逃げられ 凛さんが、今の状況を思い出して、私に逃げるように言ってきた。 ! ! 12 ? ! ! ! んだ。 ベ ル レ フォー ン ﹄ ﹂ ﹃︻騎英の手綱︼ ﹁嘘でしょ 方⋮⋮﹂ 宝具と正面からやりあってる まさか衛宮くん、貴 !? 宝具ですよ、あれ﹄ 何で衛宮くんにそんな事ができるのよ イリヤ ? ! 何で衛宮くんが持って⋮⋮﹂ ⋮⋮っていうか、アーチャーのカードは、イリヤに渡した筈でしょう といい衛宮くんといい、魔術と何の関わりもない筈の子達がどうして ﹁どういう事よ 使って英霊の力を直接顕現しているのでは 理屈かはさっぱり分かりませんけど、恐らく、アーチャーのカードを ﹃イリヤさんのお兄さん、英霊の力を使っているみたいです。どんな !? な矢が、光の光線になって敵の黒い奔流と正面から激突する。 それをお兄ちゃんは、おかしな矢で迎え撃った。捻れたドリルみたい 敵が、黒いペガサスを召喚して、黒い光になって突っ込んできた。 カ ラ ド ボ ル グ Ⅱ ﹁︻偽・螺旋剣︼ ! ! ルビーあんた、それを黙って見てたわけ !? ドを、士郎さんが持っていっちゃったんですよ﹄ ﹁な、何ですって ﹂ ﹃あ∼、実はですねぇ、今朝、イリヤさんが机の上に置いておいたカー ! ﹂ ! ! ん。 ﹂ ﹁押し負け始めた ん ! ﹁大丈夫だ﹂ ﹁何が大丈夫なのよ ﹂ 宝具のランクが、敵の方が高いのよ 衛宮く 兄ちゃん。子供の頃から、いつも私を守ってくれた優しいお兄ちゃ 余裕はなかった。私はただ、お兄ちゃんを見ていた。私の大好きなお 凛さんとルビーが言い争ってるけど、私はそんな事に意識を向ける ﹁この馬鹿ステッキ ﹃それに、その方が面白いと思いまして﹄ ﹁そ、それはそうだけど⋮⋮﹂ ないですし﹄ ﹃仕方ないじゃないですか。士郎さんに私の姿を見られる訳にはいか ! ! 13 ! ! ﹁大丈夫﹂ ア イ ア ス ﹂ ﹃言ってる側から負けましたよ。まあ、敵の宝具の威力も大分削れま したけど﹄ ロ ー・ ﹁十分だ。︻熾天覆う七つの円環︼ お兄ちゃんは、まったく戸惑っていない。敵に攻撃を破られたの に、まったく焦る様子はなかった。そんなお兄ちゃんは、手を翳して 光の花を作り出した。とても綺麗な花が咲いて、敵の前に立ち塞が る。 黒い奔流を、綺麗な七枚の花弁が受け止めた。敵の攻撃は、私達に は届かず、綺麗な花に阻まれてしまった。凄い。お兄ちゃんが、私達 を守ってくれてる。私は正直、今のお兄ちゃんが少しだけ怖かった。 私の知ってるお兄ちゃんじゃないみたいな気がして。でも、やっぱ りお兄ちゃんは、お兄ちゃんだった。私の大好きなお兄ちゃん。例え どんな力を使っていても、それだけは絶対に変わらないんだ。 お兄ちゃん﹂ ﹁イリヤ﹂ ﹁何 ﹁うん ﹂ は優しい笑顔を浮かべて私の頭を撫でてくれる。昔から、こうされる 事が好きだった。くすぐったい気持ちになりながら、私は後ろに下 がった。 お兄ちゃんの花に弾かれた敵が、また体勢を立て直して着地する。 そして、改めてお兄ちゃんに向き合った。どうなるのか分からないけ ど、私はお兄ちゃんを信じて見守るだけ。負けないで、お兄ちゃん。 ﹁衛宮くんがアーチャー⋮⋮そして、敵はあの宝具からしてライダー。 どっちも接近戦は得意じゃない筈だけど⋮⋮﹂ ﹂ ﹃常識的に考えれば、確かに﹄ ﹁って、嘘でしょ ﹃おやおや﹄ 私とは違って、色々と知ってる凛さんとルビーが解説してるけど、 !? 14 ! ﹁下がっていろ。大丈夫、イリヤの事は、絶対に俺が守ってやるから﹂ ? だから、私はお兄ちゃんの言葉に頷いた。そんな私に、お兄ちゃん ! その常識は破られたらしい。お兄ちゃんはいつの間にか弓を消して いて、両手に白と黒の双剣を持っていた。明らかに接近戦をするつも りだ。 そんな私達の予想通りに、お兄ちゃんは鎖のついた杭みたいな短剣 を持っている敵に向かって突っ込んでいった。そしてそこからは、と ても接近戦が得意じゃないとは言えないような戦いが始まった。 お兄ちゃんと敵は、とんでもなく速い攻撃の応酬をしていた。お兄 ちゃんの双剣が、休む事なく敵を攻め立てる。敵はその攻撃を全て受 ﹂ け止めているように見える。どっちも、一歩も引かずに打ち合ってい る。 ﹁あれで、接近戦が得意じゃないの ﹁そ、そ の 筈 な ん だ け ど ⋮⋮ や っ ぱ り 英 霊 は と ん で も な い わ ね ⋮⋮ ちっ、私もルビーが使えたら負けない自信があるのに﹂ ﹃でも、やっぱり驚くのは士郎さんの方ですよ。自分を英霊にしてる 興味深いわ 上に、弓の英霊の筈なのに双剣を使ってます。しかもその剣技は、常 人を遥かに超えています﹄ ﹁⋮⋮確かにね。衛宮くん、貴方、本当に何者なのよ ⋮⋮﹂ た。どこまでも明るく、純粋に笑う女の人と、そんな妻に振り回され そんな時だ。施設にいた俺を、引き取りたいと言ってきた人がい 誰かに助けられてばかりだった。そんな自分の価値を、俺は疑った。 けど、俺には何の力もなかった。誰かを助けるどころか、子供の俺は だからこそ、救われた俺はこの命を誰かの為に使おうと思った。だ あると思ったから。父さんも母さんも、俺を庇って死んでしまった。 でしまった時に、ただ一人生き残った俺は、他の誰かを助ける義務が 俺は昔、正義の味方になりたかった。俺の本当の家族が事故で死ん ︻士郎視点︼ ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ お願い、勝って。 凛さんの言葉を聞きながら、私は、ただお兄ちゃんの勝利を願う。 ? て苦笑している男の人。それが、切嗣とアイリさんとの出会いだっ 15 ? た。 俺なんか、何もできない、何の価値もな ﹃今日から、私達が貴方の家族よ。私の事は、お母さんって呼んでね ♪﹄ ﹄ ﹃⋮⋮どうして⋮⋮﹄ ﹃えっ ﹃⋮⋮どうして俺なんかを いのに⋮⋮﹄ この時の俺には、本気で分からなかった。どうして俺なんかが生き 残ったのか。どうして父さんも母さんも、俺なんかを庇って死んでし まったのか。この人達は、どうして何の価値もない俺を引き取るの か。 俺の問い掛けに、アイリさんはにっこりと笑って答えた。予想外の 答えを。 ﹄ ﹃それはね。貴方に、私の娘のお兄ちゃんになって欲しいからよ﹄ ﹃⋮⋮え 今 日 か ら 貴 方 の 妹 よ。な ん て ? に、何故だろう 俺は嬉しくて泣いていた。突然泣き出した俺に、 あまりにも普通。俺が望んでいた正義の味方じゃない。それなの 言ってきた。俺の妹。俺は予想外の事態に戸惑ってしまった。 の 笑 顔 で。ほ ら、可 愛 い で し ょ う アイリさんはそう言って、イリヤの写真を見せてきた。親馬鹿全開 ﹃イリヤっていうの。貴方の6つ下よ﹄ ? てくれる人達がいる。それが分かって、俺は涙が止まらなかった。 リさんは優しく微笑みながら抱き締めてくれた。まだ俺を必要とし それを自覚した俺は、声を上げて泣いた。そんな俺を、切嗣とアイ が憧れ、必要としてくれる存在。それが、正義の味方だったんだと。 必要とされたかったんだ。だから、正義の味方になりたかった。誰も その言葉で、俺は分かった。そうだ。俺は寂しかったんだ。誰かに ﹃あ⋮⋮﹄ ﹃寂しかったんだな﹄ がら。 アイリさんが慌てる。すると、切嗣が俺の頭を撫でてきた。苦笑しな ? 16 ? ? 切嗣達に連れられて、新しい家に着いた俺を出迎えてくれたのがイ リヤだった。輝く笑顔で出迎えてくれたイリヤ。今日から、俺を必要 としてくれる存在。この瞬間に、俺はイリヤのお兄ちゃんになった。 正義の味方ではなく、イリヤのお兄ちゃんになったんだ。それから も、俺の大切な存在は増え続けた。切嗣とアイリさん、イリヤは勿論、 セラとリズも、俺の大切な家族だ。だから俺は新たな目標を立てた。 これからは正義の味方ではなく、家族の味方になろうと。例えどん な敵が相手でも、例え俺に力がなくても。力がなければ鍛えればい い。剣道や弓道を習ったのは、俺なりに強くなりたいと思ったから だ。 せめて家族を守れる力が欲しかったから。だけど、そんな力じゃ守 れない敵が現れてしまった。だから俺は、願った。俺の全てを差し出 してでも、イリヤを守れる力が欲しくて。そんな俺の声に、小さな声 で応える存在がいた。その結果が、これだ。 17 俺の意識が、現在に戻る。頭の中に戦い方が入ってくる。考える前 に体が動く。俺は敵の攻撃を双剣で受け流して、カウンターの一撃を 打 ち 込 む。敵 の 攻 撃 は、単 調 だ。攻 撃 の 術 理 が 組 み 立 て ら れ て い な い。 まるで暴走しているみたいだ。本来なら、もっと強敵なんだろう。 イリヤは押されていたけど、それはイリヤも素人だったからだ。だ が、今の俺は違うらしい。頭の中にどう攻撃を組み立てればいいのか が浮かんでくる。次へ攻撃を生かすんだ。 右の剣を打ち込んだあと、すぐさま左の剣を反対に打ち込む。敵は 常識外れな反射でそれを受け止めるけど、腹ががら空きだ。俺は鳩尾 ﹄ に膝を叩き込む。敵の体がくの字になるほどの、強烈な膝をな。 ﹃ーーーッ 俺がそう呟くと、俺の両手に再びさっきの双剣が現れる。そして俺 ﹁ーーー︻投影、開始︼﹂ ト レ ー ス・ オ ン そして俺自身も突撃する。敵は、俺が投げた双剣を短剣で弾く。 取らせてはいけないと直感した俺は、両手の双剣を敵に投げ付けた。 敵が、声にならない叫び声を上げる。何かをするつもりか。距離を !!! は一気に敵との距離を詰めた。敵はそれを嫌ったのか、後ろに跳んで ト レ ー ス・ オ ン 距離を取ろうとする。だが、そうはさせない。俺は再び呟く。 ﹁ーーー︻投影、開始︼﹂ 敵 の 背 後 に 何 本 も の 剣 が 現 れ て、敵 の 退 路 を 断 っ た。当 然、俺 が やった。今の俺は、剣であれば幾らでも出せる。俺の力が続く限りだ ﹄ けどな。退路を断たれた敵の動きが止まった隙を見逃さず、俺は斬っ た。 ﹃ッ ﹁まだだ﹂ ま だ 手 を 緩 め な い。俺 は 容 赦 な く、敵 を 切 り 刻 も う と し た。だ け ど、それは敵の鎖つきの短剣に阻まれた。敵が俺を睨み付け、至近距 離で鍔迫り合いをする。敵の両目には眼帯が巻かれていて、その両目 を見る事はできないが、俺は背筋が凍った。 この目はやばい。俺は何となく、そう直感した。そして、そんな俺 を見て敵が笑ったように見えた。敵は片手で、両目の眼帯を外そうと ベ レ イ ﹄ 俺 の 体 が 動 か な く な り、足 元 か ら 石 に していた。そして俺は動けない。それを止める方法はなかった。 キュ ﹂ ﹃︻石化の魔眼︼ ﹁ぐっ こ れ は、石 化 の 魔 眼 か ! うな雰囲気で笑っている。確かに、もう勝負はついているな。俺は、 か ん し ょ う・ば く や 石になっていく体で敵を静かに眺めていた。 ﹂ ﹂ ﹁お兄ちゃん ﹁衛宮くん ! ﹄ ﹁俺の勝ちだ﹂ ﹃ーーーッ 本が、敵を中心にして引き寄せあった。 前に敵に弾かれた双剣に呼びかける。すると宙を舞っていた双剣四 するな。俺は、石化の魔眼を食らう前に投擲しておいた双剣と、その そう、勝負はもうついている。イリヤ達の悲鳴が聞こえるが、心配 ﹁⋮⋮引き合え、︻干将・莫耶︼﹂ ! !? 18 ! なっていく。こんな奥の手があったとはな。敵は勝利を確信したよ ! ! 俺は静かに、そう呟いた。敵の体に、四本の双剣が突き刺さる。や はり、お前は攻撃の術理がない。確かに石化の魔眼には驚かされた が、その奥の手を生かしきれていなかった。それがお前の敗因だ。 ﹃⋮⋮⋮⋮あ﹄ ﹁⋮⋮じゃあな﹂ 俺が静かに見つめる先で、敵の体は光の粒子になって消えていく。 俺に掛けられた石化の呪いも解けたようで、俺は動けるようになって いた。完全に消滅した敵の体が、一枚のカードになって地面に落ち た。 俺の最初の戦いは、こうして終わった。だが今日の事件は、まだ終 わってはいなかったのだった。俺はそれを間もなく知る。 ﹂ ﹁⋮⋮貴方、は⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮ 地面に落ちたカードを拾った俺に、呆然とした声が掛けられた。そ の声に顔を上げると、そこには変身したイリヤと同じような格好をし た黒髪の女の子がいた。年齢も、イリヤと同じくらいだった。 ﹂ ﹁⋮⋮君は⋮⋮﹂ ﹁ッ ﹂ ﹂ お兄ちゃん ﹂ ! 投下してくれました。 ﹁ーーーっ ﹂ ﹁ハアアアアアアアッ ﹁⋮⋮は ! んだ、これ ? また遠くから、イリヤの雄叫びが響き渡ったのだった⋮⋮どうなる !? ﹂ 聞こえた。どうするべきか悩んでいると、その女の子は特大の爆弾を 突然の事で、俺は訳が分からない。遠くでイリヤが声を上げるのが 声を掛けようとしたその時、その子が泣きながら抱き付いてきた。 今朝の夢と、不思議なビジョンに出てきた、寝かされていた女の子だ。 ど こ か で 見 た よ う な 気 が す る 女 の 子。俺 は そ の 正 体 に 気 づ い た。 ﹁なあっ !? ? ? 19 ? ﹁⋮⋮え !!! 謎の少女と俺達の物語は、こうして始まった。あまりにも波乱の幕 開けだった。 そして、少し落ち着け、イリヤ⋮⋮ 20 ﹂ 真妹大戦 シスターウォーズ お兄ちゃん ﹂ ! ︻イリヤ視点︼ ﹁ーーーっ ﹂ ﹁ハアアアアアアアッ ﹁⋮⋮は ! 子 !? れこそ魔法少女ですよね﹄ ﹂ 私はしば ナニヲイッテルノ、リンサン⋮⋮お まさかあの子も衛宮くんの妹 ﹁魔 法 少 女 ら し く な く て 悪 か っ た わ ね んって一体どういう事 ﹁⋮⋮﹂ 凛さんは、何を言ってるの 兄ちゃんの妹は、この世界で私だけだ。なら、あの子は らく考える⋮⋮結論。私の敵だ ﹁⋮⋮ルビー⋮⋮﹂ ? ! 何するつも ! ﹄ ﹂ ﹁うわっ、本当だ り イリヤ、ちょっと落ち着きなさい ﹃はいはい、何ですかイリヤさ⋮⋮うわ、怖い顔ですね∼、イリヤさん ! ? ? ? そ れ に し て も、お 兄 ち ゃ い感じのマスターに出会えたようで、お姉ちゃんは嬉しいですよ。あ ﹃あ、ほんとですね∼。サファイアちゃんですね。あの子も、随分と良 ﹁あれは⋮⋮サファイア ﹂ 子なに言ってるのあの子なに言ってるのあの子なに言ってるのあの 子なに言ってるのあの子なに言ってるのあの子なに言ってるのあの なに言ってるのあの子なに言ってるのあの子なに言ってるのあの !? ? ビー ﹃おお ﹂ これは予想外に面白そうな展開になりましたね ﹄ ! あんた本当にいい加減にし これこそ魔法少女的展開ですよ それにルビー ! すイリヤさん ﹂ ﹁待ちなさいイリヤ なさいよね ! ! ! ! ! ? ! 了解で ﹁何 を す る あ は は、そ ん な の 決 ま っ て る よ 凛 さ ん ⋮⋮ 行 く よ ル ! ! 21 !!! !? 凛さんが私を止めるけど、もう私は止まらなかった。止められる筈 がなかった。私はルビーを手にしてお兄ちゃん達の所に突っ込んで ﹂ いく。だってこれは、妹という立場を賭けた戦いなんだから ﹂ 本家の妹として、この戦いは絶対に負けられま ﹁私のお兄ちゃんから離れて ﹂ ﹁なっ、イリヤ ﹁っ ﹄ ﹃いけ、イリヤさん せんよ ﹄ ! だけだ。 ﹁ま、待って、少し話を⋮⋮﹂ この偽妹 ﹂ ﹁する気はない お兄ちゃんは、絶対に渡さないんだから ﹄ ちゃんは私だけのお兄ちゃんなんだから ﹄ ﹁⋮⋮サファイア⋮⋮﹂ ﹃美遊様 ﹄ ﹁まずは叩き潰そう﹂ ﹃美遊様 ﹄ ! お兄 ! かった。問題は、この偽妹が私からお兄ちゃんを奪おうとしている事 後 悔 し た よ う な、そ ん な 表 情 を。で も 私 は、そ ん な の は ど う で も 良 偽妹は、私の攻撃を受け止めた時に、苦い表情を浮かべた。何かを 受け止めた。お兄ちゃんを遠くに突き飛ばして。中々手強いらしい。 の女の子、いや、 ﹃偽妹﹄はルビーによく似たステッキで、私の一撃を ぎまい 私は、お兄ちゃんに抱き付いてる女の子にルビーで殴りかかる。謎 ﹃ルビー姉さん ! ﹃こ、これはさらに面白い展開 ﹃姉さん、待ってください ! ! 私は確信した。この偽妹は、私の敵だって。女の子な ! る。この子は私と同じ気持ちをお兄ちゃんに抱いてるって。目を合 偽妹も、私を睨む。その視線が、何よりも雄弁に気持ちを伝えてく ける。 どうでもいい。そんな事、私はまったく興味ない。私は偽妹を睨み付 ら誰でも持ってる勘が教えてくれる。この子の正体とか理由とかは やっぱり ! ! ? !? 22 !? !? ! ! !? わせるだけで伝わる事がある。偽妹にも、私の気持ちが伝わったんだ ﹂ と思う。 ﹁っ 私を睨む視線が鋭さを増した。私も、視線の鋭さを強める。お互い に、至近距離で睨み合いながら鍔迫り合いをする。ギリギリという音 しんまい が鳴り響いて、私達の周囲の空気が震える。絶対に負けられない戦 い。 ﹂ ︻砲射︼ フォイア ﹂ そう、これはまさに︻真妹大戦︼なんだ ﹂ ﹁やあっ ﹁っ ﹁そこっ ! しい。 ﹂ ﹂ 今 の 貴 女 は 最 高 に 輝 い て ま す お 兄 ち ゃ ん の 妹 は、世 界 で 私 だ け な ん だ か ら ﹁私は偽妹じゃない⋮⋮ ﹂ ﹁偽 妹 だ よ シュート それは⋮⋮だけど ︻速射︼ ﹁っ ﹄ ﹃そ の 調 子 で す よ イ リ ヤ さ ん もっとですよ ﹄ これ これは、恋する 美遊様もやめてください では、凛さん達と同じではないですか ! して、私達は奇しくも同じ結論に至った。それは⋮⋮ どうやってこの均衡を破ろうかと、私達はお互いに考えていた。そ 私の攻撃を相殺し続ける。駄目、このままじゃ埒が明かない。 刻も早くこの偽妹を倒そうと速射し続ける。偽妹も、速射を連発して ルビーと偽妹のステッキが、何か言ってるけど関係ない 私は一 あんな年増達の醜い争いとは、まったく次元 ﹃サファイアちゃんこそ、何を言っているんですか 乙女の聖戦なんです ﹄ ! ! ﹃何を言ってるんですか姉さん ! ! ! ! ! が違うんですよ ? ! ! ! ! ! の砲射を撃ち返してきた。どうやらあのステッキは、ルビーと同じら 射を撃った。偽妹は一瞬だけ怯んだけど、すぐに同じくらいの大きさ 私が力を込めると、偽妹は後ろに下がる。私はその隙に、全力の砲 ! ! ! ! 23 !? ! !? ﹁ルビー ﹂ ﹁サファイア ﹂ 同時に叫ぶ私達。私達は、限界まで魔力を高めた全力砲射を放つ事 にしたんだ⋮⋮ ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ ︻美遊視点︼ しまった。私は心の中でそう呟いた。この世界に来た私は、一つだ けルールを決めていた筈だった。それは、元の世界の人間関係をこの 世界に持ち込まない事。私にとっては知ってる人でも、この世界では 他人。 だから、私はこの世界で一からスタートをするつもりだった。例 え、どんな人が相手でもそのルールは破らないようにしようと決めて い た。だ け ど、そ ん な 私 に も 我 慢 で き な い 人 が い た。た っ た 一 人 だ け。 まさか、その人と初期に、しかもこんな所で会うとは思ってなかっ た。私の、世界で一番大切な人。我慢できなかったのは、心の準備が できてなかった事が原因だった。私の大好きなお兄ちゃんと同じ人。 しかもその人は、お兄ちゃんと同じような雰囲気を纏っていた。こ の私が我を忘れて錯覚してしまうほどに。お兄ちゃんと同じ顔で、お 兄ちゃんと同じ雰囲気で見つめられて、お兄ちゃんと同じ声で喋っ た。 理屈では分かっていたつもりだったのに。当たり前の事だし予想 もできた。この世界のこの人は私のお兄ちゃんじゃないって。存在 が同じなだけで、私の事も知らない。頭と理屈では分かっていた筈 だった。 それなのに、実際に目の前に現れたら理屈なんて消し飛んでしまっ その瞬間、理性なんて消し飛ん た。お 兄 ち ゃ ん が 私 を 見 て い る。私 に 話 し 掛 け て く れ て る。二 度 と 会えないと諦めてたお兄ちゃんが だ。 為に全てを懸けて戦い、私に未来をくれたお兄ちゃん。その人と同じ どうしようもないほど涙が溢れて、その人に抱き付いていた。私の ! 24 ! ! ﹂ 存在と言える人。真っ白になった頭で、その温もりに身を委ねていた 時⋮⋮ ﹂ どうしてこの人 頭 上 か ら 聞 こ え て き た 声 に、私 は 理 性 を 取 り 戻 し た。 ﹁⋮⋮﹃美遊﹄⋮⋮ ﹁っ ⋮⋮ え 美遊と言ったの 今、この人は、何て言ったの この世界の人が私の名前を知ってい が私の名前を知っているの ? きない。 ﹁お兄ちゃ⋮⋮﹂ ﹂ ﹁私のお兄ちゃんから離れて ﹁なっ、イリヤ ﹂ ! ! たなかった。怒りの声で彼女は叫ぶ。禁断の言葉を。 ﹁する気はない お兄ちゃんは、絶対に渡さないんだから お兄 だから謝ろうとした。話をしようとした。でも、彼女は聞く耳を持 ﹁ま、待って、少し話を⋮⋮﹂ 襲った。 せ 付 け ら れ る。こ の 子 の お 兄 ち ゃ ん な ん だ。鋭 い 痛 み が 私 の 胸 を この世界の士郎さんは私のお兄ちゃんじゃない。改めて、その事を見 しまった。これは完全に私が悪い。罪悪感と自己嫌悪が私を襲う。 言葉から、恐らくこの世界の士郎さんの妹であるという事が伺える。 して至近距離から、私を睨み付ける女の子。﹃私の﹄お兄ちゃん。その 私もサファイアでその一撃を受け止めた。鍔迫り合いになる。そ いた。 ざけた。そんな私に、カレイドステッキを振り下ろす銀髪の女の子が 満ちた声がした。私は咄嗟に士郎さんを突き飛ばして、この場から遠 感極まった私が再び強く抱き付こうとしたその時、横から、怒りに ﹁っ ﹂ に決まってる。冷静な私が頭の中でそう言うけれど、私はもう我慢で この世界の士郎さん。こんな事はあり得ない。きっと何かの間違い 驚いて顔を上げる私の頭を、戸惑いながらも優しく撫でてくれる、 る筈は⋮⋮ ? !? ! 25 ? ? ? !? !? ちゃんは私だけのお兄ちゃんなんだから ﹁⋮⋮﹂ この偽妹 ﹂ ! ﹃美遊様 ﹄ ﹁⋮⋮サファイア⋮⋮﹂ えた。偽妹という単語が、私から冷静さを奪ったのだった。 その言葉に、私の中の何かが切れた。頭の中で、プツリと音が聞こ ! ﹄ なったのだった。 ﹂ そう、これはまさに︻真妹大戦︼だった。 ﹁私は偽妹じゃない⋮⋮ ﹂ それは⋮⋮だけど ﹂ ! ! ﹁偽 妹 だ よ お 兄 ち ゃ ん の 妹 は、世 界 で 私 だ け な ん だ か ら 射︼ ﹁っ ! ﹁ルビー ﹂ ! 為に限界まで魔力を高めた。 が、私から冷静な判断を失わせる。私達は、お互いに全力砲射を放つ だから私は、この子に負ける訳にはいかない。理屈を超えた感情 ﹁サファイア ﹂ に理解している。それでも駄目だ。これはもう、理屈じゃないんだ。 も、それでも私は否定させる訳にはいかない。彼女が正しい事も十分 彼女はそんなつもりで言っている訳じゃない事は分かってる。で 前と。 に言ってくれた。自分は私のお兄ちゃんだから、妹を守るのは当たり とお兄ちゃんは本当の兄妹じゃない。でも、最後にお兄ちゃんは、私 その中でも、偽妹という単語が私の神経を逆撫でする。確かに、私 い。 私達は、戦いながらお互いの気持ちをぶつけ合う。どちらも引かな る事が分かった。もしかして、この子も血が繋がっていないのかな。 ぶつかる内に、この子も、私と同じ気持ちをお兄ちゃんに抱いてい ! ︻速 こうして、私達はお互いのお兄ちゃんへの想いをぶつけ合う事に ﹃美遊様 ﹁まずは叩き潰そう﹂ ? !? ! 26 !? ! ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ ︻士郎視点︼ ﹁⋮⋮﹂ 謎の女の子に抱き付かれている俺は、困惑しながら女の子を見下ろ した。この子には見覚えがある。だけどそれは、俺の夢の中の話だ。 こんな話を誰かにしても、きっと妄言だと笑われてしまうだろう。 だけど俺には、ただの夢だと片付ける事はできなかった。何故な ら、俺の心が叫んでいるからだ。長年、イリヤのお兄ちゃんをやって いる俺には分かる。この少女の悲しみが。この子は今、助けを求めて いる。 そ れ に ⋮⋮ こ の 子 が 妹 の よ う な 気 も す る。あ の 夢 が 原 因 だ っ た。 そんな事を考える俺の頭に、再び鋭い痛みが走った。そして、また浮 かんでくるビジョン。魔法陣の中心に寝かされてるこの子と、それを 見る俺。 ﹂ 咄嗟に俺を突き飛ばして離れさせた。その次の瞬間、イリヤと美遊の ステッキが激突した。俺は強化された美遊の力で、遠くまで吹き飛 ﹂ 27 ﹃美遊⋮⋮俺の妹を、頼むよ⋮⋮﹄ ﹃任せろ﹄ ﹁⋮⋮﹃美遊﹄⋮⋮ した。 ! だけど、突然横から、そんなイリヤの怒りの声が聞こえた。美遊が、 ﹁私のお兄ちゃんから離れて ﹂ としていたけど、くしゃっと顔を歪めてまた俺に抱き付いてこようと てやっているように。体が勝手に動いていた。美遊は、しばらく呆然 戸惑いながらも、俺は、美遊の頭を撫でていた。いつもイリヤにし た。 ない、と言っているようだった。見開かれた瞳には、涙が浮かんでい の名前を呟くと、女の子は驚いて顔を上げた。その表情は、信じられ そう、この子の名前は、美遊だ。もう一人の俺が教えてくれる。そ ? やめろイリヤ ! ぶ。 ﹁くっ ! 俺は、遠坂の近くまで飛ばされた。するとそこには、遠坂だけでは なく、ルヴィアもいた。遠坂がいた時点で予想していたが、やはりル ヴィアも、非日常側の人間だったらしい。そして美遊は、ルヴィアの 協力者という事も同時に分かった。 わたくしの ! やはりペットが飼 ﹁ちょっと遠坂凛、あれは一体どういう事なんですの ﹂ ! 実に貴女にそっく 協力者の子に、いきなり攻撃を仕掛けるなんて 誰が猿よ ﹂ い主に似るというのは、本当の事の様ですわね ﹁うっさい ! あの子は、貴方の妹さんですの に今回はイリヤが悪いけど、本当は凄く良い子なんだ﹂ ﹁あ、あら。衛宮士郎 説明しなさい遠坂凛 大変失礼を。⋮⋮って、どうして貴方がここにいるんですの ? ﹂ 衛宮くん 私にも後で説明してもらう も、その姿は一体どういう事ですの ﹁分かんないわよ私にも ﹂ ! !? ? ! ! ﹂ ? ﹂ ヴィアが、俺達に心配はするなと言ってきた。それはどういう意味だ 敢えず、まずイリヤ達を何とかする方が先だと結論付けた。するとル 俺達は、それぞれに疑問を持った事を言い合ったりしながら、取り ﹁え ﹁あら、それならご心配なく﹂ ﹁うっ、それもそうね⋮⋮﹂ 決だろ。違うか ぞ。俺の妹の事とかをな。だけど今は、イリヤ達を何とかする方が先 ﹁わ、分かった。だけど、俺だってお前に説明してもらいたい事がある わよ !? しか それは、 ﹁おいルヴィア、俺の妹をそんな風に悪く言うのはやめてくれ。確か ! りなお猿さんっぷりですわ ! ! ? ﹁あの美遊は、このわたくしが自らカレイドステッキを託したほどの 逸材。常に冷静沈着。頭脳明晰。そして、思いやりに溢れた素晴らし ﹂ い子ですの。飼い主に似る、というのは悪い意味だけではないという 一例と言えるでしょう。オーッホッホッホ ﹁⋮⋮言い方が気に入らないけど、まあ、そういう事なら任せてみま ! 28 ! ? しょう﹂ ﹁オーッホッホッホ とくと見るが良いですわ遠坂凛 ならば、きっと冷静に事態を収めてくれる筈⋮⋮﹂ ! 事態を見守る事にしたのだった。だが⋮⋮ ﹁ま、待って、少し話を⋮⋮﹂ この偽妹 あの美遊 ﹂ ﹁する気はない お兄ちゃんは、絶対に渡さないんだから ﹄ ﹁⋮⋮サファイア⋮⋮﹂ ﹃美遊様 ﹂ ﹄ ﹁まずは叩き潰そう﹂ ﹃美遊様 ﹁み、美遊 全然駄目じゃない ﹂ あ∼あ、さっきの台詞は、特大のブーメランになったみたいね ﹁ちょっと ! 本当に飼い主にそっくりね ちゃんは私だけのお兄ちゃんなんだから ! 仕掛けたのでしょうに ﹂ ﹁何でそんな日本語知ってるのよ ﹁通信教育ですわ ﹂ お前らまで喧嘩するな ! ﹂ 坂達まで本格的に喧嘩を始めた。俺はどうすればいいんだ 格 イリ は、さらに激しさを増し、遠 ! ⋮⋮ ﹁お、おい遠坂、ルヴィア ﹂ しまった、そういう事ね ﹂ ﹂ 鏡面界が崩壊していきますわ 黒 物凄く不吉な音だったんだが まさか かったか ﹁っ ﹁ま、まずいですわよ遠坂凛 ! ! 早く出ないと私達も空間の崩 化英霊が倒された事で、維持できなくなったようです ﹁げっ ! !? ? 何か、物が割れたみたいな音が聞こえな ヤ達を攻撃する訳にはいかないし。狼狽える俺の耳に、不吉な音が ? ﹁落ち着け ﹂ それを棚に上げて も、元はと言えば、貴女が連れてきた子が先に美遊に攻撃を 好悪いったらありゃしない ! ! お兄 まあ、そういう事なら大丈夫かな。俺も、ルヴィアの言葉を信じて ! ! ! ! !? ! 29 ! ? !? もう滅茶苦茶だ。イリヤ達の喧嘩 ! ? ﹁なっ ! ! ! !? ! ! ! !? !? でも鏡面界から出るには、あの子達のカ ﹂ 時空間の狭間に、永遠に取り残される事になるわ ﹂ 壊に巻き込まれちゃうわ ﹂ レイドステッキがいるわ ﹂ ﹂ ﹁だからそう言ってるでしょうが ﹁それはまずい !? 思った以上にやばかった 俺達はイリヤ達の方を見る。すると ! ﹁超まずいわよ ﹁それってまずいのか ! ! は イリヤ ﹂ そんなもんぶっぱなしたら、本気でこの いた。それを見た俺達は、全員が顔を真っ青にした。おいおい、それ イリヤ達は、とんでもなく巨大な光の球を作ってお互いを睨み合って ! ! ﹁や、やめなさいあんた達 ﹂ 空間が消し飛びかねないわ やめなさい ﹁美遊 ﹂ ! ! 美遊ーッ ! あ、終わった⋮⋮心の中で、俺はそう呟くのだった。俺達の視界が、 の光弾をお互いに向かってぶっぱなしたのだった。 俺達は必死に叫んだ。そんな俺達の叫びも空しく、イリヤ達は特大 イリヤ ﹁くっ ! 白く染まった。 30 ! ! ! ! ! ! ! 衛宮士郎の奮闘 ﹂ ︻士郎視点︼ ﹁くっ イリヤと美遊が、とんでもなく巨大な光の球をぶっぱなそうとした 瞬間、俺の体は、勝手に動いていた。弓と矢を作り出して、イリヤと ﹂ 間に合わ 美遊が持っているステッキを狙って速射した。タイミングはかなり 際どい。 フルンディング ﹁︻赤原猟犬︼ 矢を放つと同時に、イリヤ達の元に走る。間に合うか ﹂ ﹂ ! た。 ﹁衛宮くん ﹁死んでしまいますわよ 何て無茶を せ、俺の体を打ち据える。一瞬だけ息が止まり、俺は倒れそうになっ で、放たれた光の球がお互いを掠めていく。その衝撃が空間を軋ま イリヤ達が持っているステッキに命中し、その先端を逸らした事 らす。 光の中に飛び込む。辛うじて間に合ったらしい赤原猟犬が、軌道を逸 なかったらかなりヤバイな。そんな事を考えながら、俺は迷う事なく ? ! ている。 ﹁イリヤ ﹂ い。お互いにぶつかり合う事は避けられたが、まだあの光の球は生き 向かう。イリヤは呆然とした顔で佇んでいる。急がなければならな 遠坂達がそう怒鳴る声が聞こえるけど、俺は構わずにイリヤの元に ! !? り、崩れていく。この空間が壊れるんだ。間に合うのか 体中が軋 この空間の果てに、あの光の球が当たったのだろう。空にヒビが入 音が。 遠くで何かが壊れる音が響いた。全てを破壊する、この世の終わりの 同じような顔で佇む美遊の手も掴んで、遠坂達の元に戻る。その時、 イリヤの手を掴んで、そのまま俺は美遊の元へと向かう。イリヤと ﹁お、お兄ちゃん⋮⋮﹂ ! ? 31 ! ﹂ ﹂ ﹂ っていうか、ルビー 早く脱出を ﹂ 早く︻離界︼しな ジャンプ む。ちょっと無茶をしすぎたようだ。元の俺の体が普通だからな。 ﹁衛宮くん ﹁大丈夫ですの ﹁遠坂、ルヴィア ﹂ ﹁くっ、そうね。イリヤ さい離界 ﹁サファイアもですわ む。その間にもこの空間の崩壊は続いていた。ヒビ割れていた空が イリヤ達の足元に魔法陣が浮かび上がり、俺達の体を光が包み込 ⋮⋮ 美遊のステッキは冷静に礼儀正しく応じた。正反対の性格なんだな の指示に、イリヤのステッキはどこか投げやりにやる気なく、そして イリヤ達のステッキにこの空間からの離脱を指示する遠坂達。そ す﹄ ﹃了解です。皆様、私達の側に。一ヶ所に集まって下さい。離界しま ﹃はいはい、分かりましたよ﹄ ! ! ﹂ ﹁不安になる返答をどうも ﹄ ﹃行きますよ∼﹄ ﹃離界します ﹂ 砕け、空間の欠片が地面に降り注ぐ。その光景はまさに、世界の終焉 のようだ。 ﹁間に合うのか ﹂ ﹁ギリギリよ !? ﹂ ﹁賭けですわ ! に。イリヤだけじゃなく、何故か美遊の事も妹のように思っている事 遊の手をしっかりと握り締めていた。決して離さないと伝えるよう 視界が真っ白に染まる。そんな極限の状態の中で、俺はイリヤと美 えた。 テッキ達が脱出を告げる。それと同時に響く、世界の終焉の音が聞こ 取りが行われた。内心はビビりまくりだが。そんな俺達をよそに、ス その光景の中で、不安に叫ぶ俺達という、何とも緊張感のないやり ! ! ! 32 ! ! ! !? ! ! に不思議な気分になりながら。この気持ちは一体 ﹂ ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ ﹁⋮⋮脱出、できたのか ﹁そうみたい⋮⋮ね⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮死ぬかと思いましたわ⋮⋮﹂ ﹃あははは、ヤバかったですね∼﹄ ﹁お、お兄ちゃん⋮⋮﹂ ﹁あ、あの⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮ふっ、大丈夫だったか二人とも ﹁う、うん⋮⋮﹂ ﹁はい⋮⋮﹂ ﹁そうか。なら良かった﹂ ﹁﹁あ⋮⋮﹂﹂ ﹂ す、そんな緊張感のない会話を聞きながら、自分達の無事を確認する。 座り込む俺達を、とてつもない疲労感が襲う。喋るステッキ達が交わ 次の瞬間、俺達は普通の空間にいた。安堵して、夜の学校の校庭に いんです♪﹄ ﹃え∼、相変わらず、サファイアちゃんは厳しいですね。楽しければ良 教ですからね﹄ ﹃姉さん、笑い事ではありません。ちゃんと反省して下さい。後で説 ? だろう。 ﹁もう、甘いわよ衛宮くん ﹂ ⋮⋮いや、それも言い訳かもな。俺はただ、イリヤが可愛いだけなん 分、俺が優しくしてやらないと、という気持ちが湧いてしまうんだ ついつい甘やかして、イリヤの味方をしてしまう。セラが厳しい んだ。 らイリヤを叱れた事がない。その事でセラに怒られたんだが、無理な を、俺は優しく撫でてやる。我ながら甘いなぁ、と思うが、俺は昔か ばつが悪そうに、叱られる子供のような顔で見上げてくる妹達の頭 ? ﹁まったく。美遊、後でたっぷりと説教をして差し上げますから、覚悟 ﹁そんな事言われてもさ⋮⋮﹂ ! 33 ? しなさい﹂ ﹁は、はい、ルヴィアさん⋮⋮﹂ 案の定、遠坂に怒られた。そしてルヴィアも呆れたような顔をし て、美遊を叱った。叱られてしゅんとする美遊を見ていると、やはり 不思議な気分になる。どうして俺は美遊の事も妹のように感じるの だろうか。 ﹃俺の妹を、頼むよ⋮⋮﹄ あの言葉が、ずっと頭に残っている。ただの夢だと切り捨てる事が できない。実際に美遊の名前は合っていたし。もしかしたらあれは 本当にあった事なのかもしれない。だとしたら、俺はどうするべきな のか。 ま だ 整 理 は つ か な い。だ け ど 俺 は、あ の 声 に 答 え た ん だ。﹃任 せ ろ﹄って。だったら俺は、美遊の事も気にかけてやりたい。夢を本気 それ にするなんて、我ながら馬鹿げた事だと思う。だけど、これだけ非常 ﹂ 確 か に 私 達 は お 陰 で 助 か っ た。で も ね 衛 宮 く ん。自 分 の 命 も 守 ﹁⋮⋮﹂ 遠坂の言う事は正しい。だけど、それでも俺は自分よりもイリヤの 方が大事なんだ。また同じ事があっても、俺はきっと同じ事をするだ 34 識な事が幾つも起きているんだ。だったら⋮⋮ 今さら一つ増えても、そんなに変わらないんじゃないか たし、時間も遅いから。だから、明日にしましょうか﹂ ﹁衛宮くん。できれば、お互いの事を説明したいけど、今日はもう疲れ いしな。 を取り持つ事から始めてみようか。やっぱり、良い友達になって欲し に、あの時の美遊の涙も放っておけないし。取り敢えずイリヤとの仲 ? ﹁で す わ ね。貴 方 も 無 理 を し て い る よ う で す し。立 っ て い る だ け で やっとでしょう﹂ 大丈夫お兄ちゃん ﹁⋮⋮すまない。実を言うと、キツい﹂ ﹁ええっ ! ﹁当たり前よ。あんな無茶をして。貴方、死ぬかもしれなかったのよ !? れない行動はやめなさい﹂ ? ろう。大体、もう今さらだ。俺はこの力を手に入れる為に、俺の全て を差し出した。イリヤを守れる力が欲しくてな。 俺の体が、変わってしまったのが分かる。もう元の俺には戻れない だろう。それだけの代償を払わなければ、この力を手に入れる事はで ﹂ きなかった。俺自身、詳しい事は分からないが、それだけは分かるん だ。 ﹁⋮⋮お兄ちゃん ﹁大丈夫だよ、イリヤ。帰ろうか﹂ ﹁うん⋮⋮﹂ 不安そうな顔で見上げてくるイリヤに、俺は笑いかけて頭を撫でて やる。帰っていく遠坂達を見送って、俺達は変身を解いた。俺と融合 していたカードが、俺の手の上に落ちる。それを見たイリヤのステッ キが、面白そうだというような声を出した。 ﹄ ﹃やっぱり、アーチャーのカードを使って変身していたんですね。大 変興味深い使い方です。どうやったんですか士郎さん カードって、こうやって使う物じゃないのか ﹂ ﹁ど う っ て ⋮⋮ 分 か ら な い よ。何 と な く、と し か 言 え な い な。こ の ? ⋮⋮﹄ ﹁⋮⋮英霊って何だ ﹂ 英 霊 の 宝 具 を 使 う の が や っ と で す よ。英 霊 そ の も の に な る な ん て 少なくとも、士郎さんみたいな使い方をできた人は一人もいません。 ﹃う∼ん、クラスカードの事は、はっきりと分かっていないんですよ。 ? 郎さん、貴方は︻魔術︼という物を知っていますか ﹁いや⋮⋮知らない﹂ ﹄ た。魔術師という、非日常の存在について。遠坂とルヴィアも魔術師 家に帰る道すがら、俺はイリヤのステッキに様々な話を聞かされ カードの秘密を解いたのかもしれないんですから﹄ が、世界最高峰の魔術師達が束になっても解明できなかったクラス 術師達が知ったら、卒倒しかねませんね。魔術すら知らない一般人 ﹃士郎さん、貴方はとんでもない人物かもしれませんよ。時計搭の魔 ? 35 ? ﹃ほう。英霊すら知らないんですか。益々興味深いです。ちなみに士 ? だという。この世界には、俺の知らない不思議が溢れているんだと 知った。 英霊について。魔法について。そんな話を聞かされたけど、正直俺 には、遠い世界の事のように聞こえた。どうやらイリヤも同じらし く、途中から話を聞いてなかった。 そのローテ どうぞお気軽に︻ル ﹃それで、私が世界最高峰の魔術礼装で、愛と正義のマジカルステッキ 名前は、︻マジカルルビー︼ちゃんです ﹄ リアクションが一緒ですね ビー︼と呼んでください ﹁﹁⋮⋮うん﹂﹂ ﹃わお、さすがは兄妹 もっと楽しくいきましょう﹄ まあ、当人である俺しか気付かないと思うけどな。当人の俺も、漠 ないと。 ないといけないからな。俺の変化は遠坂達に気付かれないようにし はできない、とな。そして俺は、後戻りする気はない。イリヤを守ら 理屈じゃない。俺の中の何かがそう言っているんだ。もう後戻り い。 れは、もう取り返しがつかない。分かるんだ。どうしてかは分からな は軽い事だろう。今の痛みの原因だが、これはその内治る。だけどあ それに比べたら、その後のイリヤ達の魔力弾の衝撃に突っ込んだの やはり、一番の無茶はあのカードを使って変身した事だろうな⋮⋮ みも酷い。昨日の無茶が原因だという事はすぐに分かった。だけど 翌朝、俺は全身のだるさを感じながら目を覚ました。軋むような痛 ﹁⋮⋮朝か﹂ ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ る。これから一体何が始まるのかと、不安を抱えながら⋮⋮ ルビーの無駄にハイテンションな声を聞きながら、俺達は家に帰 ﹁⋮⋮右に同じだ⋮⋮﹂ し⋮⋮﹂ ﹁ルビーが無駄にハイテンションなだけだと思うよ⋮⋮今日は疲れた ンションな反応は何です ! ! 然と感じるだけだし大丈夫だろう。魔術だの英霊だの、正直良く分か 36 ! ! ? ! らないけど、この世界にイリヤが首を突っ込むなら、俺も行かないと な。 ﹁い、いてて⋮⋮駄目だ、動けない⋮⋮﹂ そう決めて起き上がろうとしたが、全身が軋むように痛んで、身動 きができない。俺が思っているよりも深刻なダメージになっている ようだ。学校、行けるかな。遠坂達と話したかったから、行きたいん だが。 だから俺は、何とか体を動かして起きようとした。そんな風にベッ ドの上で格闘する事一時間近く。結局、ベッドから起き上がる事はで ﹄ きなかった。弓道部の朝練もあるんだが。休むしかないかな、これは ⋮⋮ ﹃シロウ、どうかしたのですか そんな事を考えていると、部屋の扉がコンコンとノックされた。セ ラだった。セラは珍しく起きてこない俺を心配して起こしに来てく ﹄ れたらしい。いつもなら、とっくに起きている時間だからな。すまな いセラ。 起きられないほどですか ﹁いや、ちょっと筋肉痛で⋮⋮﹂ ﹃筋肉痛 ? るとセラは、扉を開けて部屋の中に入ってきた。その表情はやはりと ﹂ い う か、疑 っ て い る よ う だ っ た。当 然 だ よ な。ど う 言 い 訳 す る か な ⋮⋮ ﹁昨日、何かあったのですか いとは⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮シロウがですか 剣道や、弓道を習っているシロウが動けな ﹁えっと⋮⋮ちょっと体育でな⋮⋮﹂ ? ﹁⋮⋮そうですか。分かりました。それでシロウ、学校はどうするの ⋮⋮﹂ ﹁いや、その⋮⋮ちょっと調子に乗って、暴れちゃってさ。あははは ? 37 ? 苦しい言い訳だが、他に言い様がないからそんな言い訳をした。す ﹃⋮⋮失礼します﹄ ﹁うん、まあ⋮⋮﹂ ? ですか ﹂ ﹁うん、それなんだけどさ。ちょっと今日は行けそうもないんだ。痛 みが引いたら、ちゃんと登校するからさ⋮⋮﹂ ﹁では、学校にそう連絡しておきますね﹂ ﹁うん⋮⋮本当にごめん⋮⋮﹂ 嘘をついて。セラは、俺が嘘をついている事を分かっている。家族 だからな。こんな嘘が通じる筈はないんだ。だけどセラは、何も聞か ないでいてくれている。本当に良くできた家政婦さんだよ。 今は何も聞きませんから⋮⋮﹂ ﹁謝らないで下さい。けれど、シロウ⋮⋮話せるようになったら、きち んと話して下さいね ﹁⋮⋮分かった﹂ な、なななな何を ﹂ ﹂ !? まさかイリヤさんにまでそんな言葉を言っているん どうしたんだ、セラ ﹂ ﹁あ、貴方は ﹁ ﹁なっ ﹁ありがとう、セラ。愛してるよ﹂ と。 されながらも、俺は改めて誓う。俺は家族の味方として皆を守ろう いる。本当に、俺には過ぎた家族だよ。微かに微笑むセラの笑顔に癒 やはり、セラは俺の嘘を見抜いてる。その上で俺を心配してくれて ? もな﹂ ﹁なっ ﹂ どうしたんだ、セラは 突然、真っ赤になって狼狽え出したぞ これは、 ? う。 落ち着け ﹁こ、この⋮⋮﹂ ﹁ま、待てセラ ぐはっ ﹂ ! ﹂ ! ! ? ! ﹁変態色情狂の節操なしのシスコンが ﹁なんでさっ !? ﹂ まずい兆候だぞ 俺の経験上、セラがこうなった時は酷い目に遭 そんなセラは、プルプルと全身を震わせ始めた。あれ ? ﹁いや、言ってはいないけど、イリヤの事も勿論愛してるよ。リズの事 じゃ ? ? !? 38 ? !? ! ! ? 俺は、何故か逆上したセラの拳を食らって意識が遠退いていく。闇 に沈んでいく意識の中で、イリヤの悲鳴と、リズの呆れたような声が 聞こえた。おはよう、二人とも。そして、お休みなさい。ちゃんとし た挨拶ができなくて、本当にすまないな⋮⋮ ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ ﹁⋮⋮﹂ 再び目を覚ますと、もう夕方だった。俺は何時間気絶していたんだ 体の痛みは、もう大分引いていた。まだ結構痛むが、体を起こす いや、形が不揃いな物が混じって くらいはできそうだ。そう判断して体を起こすと、傍らにおにぎりが ある。 ﹁⋮⋮セラが作ってくれたのか そんな俺の考えは、半分当たっていて半分外れていた。俺の部屋の だろう。 校に行かされただろうイリヤが、俺を心配して、急いで帰ってきたの が 聞 こ え て き た。俺 は そ れ に 苦 笑 す る。イ リ ヤ だ。恐 ら く セ ラ に 学 そんな事を考えていた時だった。バタバタと階段を登ってくる音 る。 ないとな。細かい所に気が付く、家政婦の鑑のようなセラに感謝す これのお陰で、全身の痛みが引いたらしい。後で、ちゃんとお礼をし そこで俺は、全身に湿布が貼られている事に気付いた。セラだな。 後の4時。そろそろイリヤが帰ってくる時間になろうとしていた。 う。ちょっと量が多いが、ちゃんと全部食べきった。現在時刻は、午 やたらと大きく、丸いのがリズ。そして、一番綺麗なのがセラだろ う。 の物か一目で分かった。形が悪いのは、イリヤが作ってくれた物だろ ながら、ラップを外しておにぎりを食べる。おにぎりの形でどれが誰 朝飯も食べてないから、かなり腹が減っている。イリヤ達に感謝し るな。イリヤとリズも手伝ってくれたってところかな﹂ ? 扉を蹴破るような勢いで突撃してきたのは、イリヤだけではなかった ﹂﹂ のだ。そう、それは⋮⋮ ﹁﹁お兄ちゃん ! 39 ? ﹁イリヤ⋮⋮と美遊 妹だった。 ﹂ ﹁美遊さん、退いて ﹁貴女こそ⋮⋮ ﹂ ﹂ う目標を思って、頭を抱えてしまった。どうすればいい 魔術とか お前ら、まだいがみ合ってたのか。俺は、二人を仲良くさせるとい ﹁ま、待て、落ち着け二人とも ﹂ 我先に、お互いを押し退け合いながら俺の元にやってくる、二人の ? ! ? よりも、こっちの方が問題だな。俺は改めてそう思ったのだった⋮⋮ 40 ! !
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