論 文 SCENARIAの最新技術紹介 The Introduction of the Latest Technologies in SCENARIA 田所 俊介 1) 佐藤 竜太 1) 根本 善誉 2) 鈴木 清剛 1) Shunsuke Tadokoro Ryuuta Satou Yoshitaka Nemoto Kiyotaka Suzuki 宮下 祐一 1) 高須 淳史 1) 根本 直樹 1) Yuuichi Miyashita Atsushi Takasu Naoki Nemoto 日立製作所 日立総合病院 放射線技術科 日立製作所 ひたちなか総合病院 放射線技術科 1) 2) SCENARIA ※ 1 のバージョンアップによって新たに搭載された機能の中から、3 つの被ばく低減機能を評価した。その結果 ①IntelliEC※2 Plusによって撮影前に逐次近似処理技術によるノイズ低減率を自動計算し、撮影線量を低減しても同等の画像ノイ ズを得ることができた。逐次近似応用再構成法の特徴を踏まえて、当院では腹部転移検索目的の造影 CTにおいて体重ごとに逐次 近似処理強度を変えて運用している。② IntelliEC Cardiacによって設定心位相を75%中心に管電流を変調することで、当院の撮 影条件では 50%程度の線量低減が可能となった。③ Simple Dose Reportによって被ばく管理が可能となった。 We have evaluated three low dose techniques, among the newly mounted functions with the version upgrade of SCENARIA ※1. They are: IntelliEC※2 Plus, IntelliEC Cardiac and Simple Dose Report. 1)IntelliEC Plus automatically calculates the noise reduction rate before scanning using the iterative reconstruction technique, and we can gain same level of SNR even with the low tube current. In light of that characteristic, our hospital changes the intensity of iterative reconstruction according to the weight of patients, when operating the contrast examination for searching metastasis in abdomens. 2)IntelliEC Cardiac modulates the tube current around 75% of cardiac phase cycle. With our hospital’ s scanning condition, it was possible to lower around 50% of dose amount. 3)Simple Dose Report allowed us to control dose information. Key Words: IntelliEC Plus, IntelliEC Cardiac, Simple Dose Report 1.はじめに 2.IntelliEC Plusについて 当院は茨城県日立市にあり、24 時間体制の 3 次救急、がん IntelliEC Plusはすでに搭載されているAuto exposure センターを持つ企業立病院である。また、2016 年 7 月より新 contorol (AEC) 機能であるIntelliECを進化させ、逐次近似 しく本館棟が完成予定であり、ヘリポートが開設される。 応用再構成機能であるIntelli IP ※3 Advancedのノイズ低減 2014 年 4 月に CT装置 SCENARIA (日立製作所製)が 効果を考慮して線量制御を行う機能である。逐次近似処理の バージョンアップされ、いくつかの新機能が搭載された。中 強度はLv.1からLv.7まで設定可能である。また、撮影時に使 でも、IntelliEC※2 Plus、IntelliEC Cardiac、Simple Dose 用できる強度に制限を設けることが可能であり、メーカーが ※1 ReportはCT検査における被ばく低減に大きく期待される機 推奨する使用強度の最大値はLv.5である。従来は撮影した後 能であり、その評価と使用経験について紹介する。 の画像ノイズ低減にIntelli IP Advancedを利用していたが、 〈MEDIX VOL.64〉 19 このIntelliEC Plusにより撮影前に逐次近似処理技術による くなる傾向であった。IntelliEC Plusで目標 SDを同一にして ノイズ低減率を自動計算し、撮影線量を低減しても同等の画 Intelli IP Advancedの強度を上げるということは、それに応 像ノイズになるよう、自動で線量制御が行われるようになった。 じて撮影線量が下がるということである。撮影線量が下がる ことで増加したノイズのうち、Intelli IP Advancedによって この機能について簡単な物理評価を行った。 高空間周波数領域のノイズのほうがより大きく低減され、そ の結果、図1に示すようなNPSとなったものと考えられる。 (1) 水ファントムによるノイズ評価 径 165mmと230mmの水ファントムを用いて通常の AEC、 すなわちIntelliEC Plusを使用しなかった時と、強度をLv.1 からLv.5まで変化させた時のノイズの変化を調査した。 (2) Catphan phantomによる低コントラスト検出能評価 (1) と同様の撮影条件で Catphan phantom (The Phantom 撮影条件は当院での腹部ルーチン撮影を想定し、管電圧 Laboratory社) のCTP515による低コントラスト検出能を評 120kV、管電流目標 SD12 (AEC) 、スキャン時間 0.35s、ピッ 価した結果を図 2に示す。同一ウィンドウレベル、ウィンドウ チファクター 0.6、フィルタ関数 32 (腹部標準フィルタ) 、スラ 幅においてはIntelli IP Advancedの強度が増すにつれて信 イス厚 5mm、Field of view (FOV) 150mmとした。また、臨 号の識別は困難になり、低コントラスト検出能が低下する傾 床を想定して水ファントムは寝台に設置して、寝台とマット 向があった。そのため、撮影目的を踏まえた必要な低コント の X線吸収を考慮して撮影した。得られた画像のStandard ラスト検出能と、被ばく低減効果のバランスを適切に考慮す deviation (SD) とNoise power spectrum (NPS) を求めた。 る必要があると考えられる。 結果を表 1、表 2、図1に示す。SDはどちらの水ファントム (1) (2)の結果を踏まえ当院では、数か月ごとにフォロー においても設定したSDと同等の結果が得られたが、NPSで アップされている胃癌、大腸癌を中心とした乏血性肝転移の はIntelli IP Advancedの強度が増すにつれて低空間周波数 多い腹部転移検索目的の造影 CTのみで、IntelliEC Plusを 領域のノイズが多くなり、高空間周波数領域のノイズが少な 使用する方針とした。 表 1:165mmφ のノイズ評価 表 2:230mmφ のノイズ評価 EC Plus 実効管電流(mA) CTDI(mGy) SD EC Plus 実効管電流(mA) OFF 160 7.9 12.46 OFF 483 21.9 12.51 Level 1 138 7.1 12.44 Level 1 424 19.7 12.04 CTDI(mGy) SD Level 2 118 6.3 12.3 Level 2 363 17 12.1 Level 3 95 4 12.15 Level 3 308 14.5 11.93 Level 4 78 3.3 12.02 Level 4 256 12.2 11.89 Level 5 63 2.7 11.78 Level 5 209 10.1 11.69 OFF lv.5 165mmφ 図 1:NPS 20 〈MEDIX VOL.64〉 OFF lv.5 230mmφ 図 2:低コントラスト検出能(Catphan phantom) 定である。ほかに、整形領域、肺野などの低空間周波数領域 (3) IntelliEC Plusの使用レベルの検討 体格による線量制御の違いを図 3に示す。時間分解能を優 先しスキャン時間を0.35sとする場合、体格の大きな被写体に が問題にならない部位において、どの程度の線量低減が見込 めるかが今後の課題である。 なるとしばしば AECの制御が飽和し、指示したSDを達成で きず線量不足となる場合がある。この際は基本的にはIntelliEC Plusを使用することで SDがより一定となる領域が増え る方向となり、ノイズの観点からは有用な印象を受けるが、 3.IntelliEC Cardiacについて IntelliEC Cardiacはレトロスペクティブスキャンにおいて 一方で体格が小さな被写体ほど実線量を大きく下げることに 心拍位相に応じて照射する管電流を変調させる機能で、いわ なりかねない。画像 SDが一定でも、線量不足な画像は逐次 ゆるDose modulation機能である。その管電流変調範囲は 近似応用再構成で補うことができず、診断に影響を与える可 50mAから600mAまで可能で、位相範囲は1 心拍で最大 2 相 能性があり、撮影条件を含めた施設での基準が必要であると まで設定できるため、例えば収縮期、拡張期おのおのに管電 考える。 流変調を行うことができる。 当院では腹部転移検索目的の造影 CTに限り使用し、放射 線科医師と実際の臨床データで画質評価を行い、低体重患者 Dose modulationの適正な線量可変ができているか簡単な 物理評価を行った。 (50kg未満) はIntelli IP Advanced Lv.1まで、標準体重の患 者 (50kgから60kg以下) はIntelli IP Advanced Lv.2まで、 高体重患者 (61kg以上) ではIntelli IP Advanced Lv.3までの (1) 適正な線量可変の確認 230mmの水ファントムを用いて IntelliEC Cardiacの管電 適用をすることに決めた。低体重患者、高体重患者における 流変調範囲を50mAから600mA、心位相 75%が 600mAとな 臨床画像を図 4に提示する。なお、単純 CTや術前検査など初 るように設定し、位相ごとの画像に表示される管電流とSDを めての検査には低コントラスト検出能の低下を懸念し使用し 計測した。 撮影条件は当院で使用している心臓 CTの条件とし、管電 ていない。 また、当院では大動脈造影 CTは管電圧を100kVで撮影し 圧120kV、管電流変調範囲は50mAから600mA、スキャン時 ており、よりコントラストが向上するLow kVにおいては、 間 0.35s、ピッチファクター (PF) 0.1094と0.2031、スライス厚 CNRモードの AEC制御とIntelliEC Plusを組み合わせるこ は 0.625mmとして Half 再構成し、設定心拍 (HR) は 50bpm とでさらなる被ばく低減効果が確認できており、今後適用予 と60 bpmとした。 体格が小さい場合のAEC(OFF、Lv.1) 体格が大きい場合の AEC(OFF、Lv.3) 図 3:体格による線量制御の違い OFF(1POY) Lv.1(1.5POY) 体重 43kg OFF(6POD) Lv.3(1POY) 体重 68kg 図 4:体格の違いにおけるフォローアップ中の臨床画像 〈MEDIX VOL.64〉 21 結果を図 5、図 6、図 7に提示する。設定心拍 60bpmの時、 62%から 80%相当の位相で SDを担保できており、ピッチ 表示される管電流値の情報をプロットしたが、図 8に示すよ うに画像 IDの管電流値はスキャナが 200ms回転する間に照 ファクターを変えても同じ傾向にあった (図 5、図 6 参照) 。設 射する管電流の平均値であり、実際の照射管電流を時間方向 定心拍を 50bpmに変化させた時、SDを担保できた位相は に 200msで加重平均したものとなることもこれに起因すると 68%から79%相当であった。これは横軸が相対値のためこの ころである。 ように変化したと考える (図 5、図 7 参照) 。また、今回画像に 画像IDに表示される管電流との違い 80 SD 管電流 70 60 400 40 300 30 200 20 0ms 100 10 50 60 70 位相(%) 80 90 再構成 200ms 管電流(mA) SD 0ms 600 500 50 0 40 画像IDの管電流値 ⇒スキャナが200ms回転する間に照射する管電流の平均値 700 200ms 画像IDの管電流は実際の照射管電流を時間方向に 200msで加重平均したもの 0 100 実際に照射している管電流は 回転中に変化し続けている PF0.2031 HR60 画像ID上の管電流値 図 5:画像 ID の管電流と SD(HR60) 80 SD 管電流 70 60 図 8:画像 ID に表示される管電流値について 300 30 20 10 50 60 70 位相(%) 80 90 管電流(mA) 400 40 0 40 75% 600 500 50 SD 700 (2) 運用方法の決定 2010 年 6 月から 2014 年 4 月に実施された 870 症例のうち、 200 レトロスペクティブスキャンで撮影した 380 症例の拡張期の 100 再構成位相の平均値が 74.89%、収縮期の再構成位相の平均 値が 44.82%であることから、当院での運用は、拡張期の設定 0 100 心位相は75%、収縮期の設定心位相は 45%に決定した。よっ て、IntelliEC Cardiac の使用方法は、心拍 65bpm以上では PF0.1094 HR60 収縮期を使用して画像再構成する可能性があり45%から 図 6:画像 ID の管電流と SD(PF0.1094) 75%に単相、心拍 40bpmから65bpm未満の時は拡張期で画 像再構成するので 75%に単相、心拍 40bpm未満では IntelSD 管電流 80 70 SD 60 ンで実施している。また、画像再構成の再構成範囲に関して 600 は、Slow fillingを計算してHalf 再構成、もしくはSegment 500 再構成を選択し決定している。 50 400 40 300 30 200 20 100 10 0 40 50 60 70 位相(%) 80 PF0.2031 HR50 図 7:画像 ID の管電流と SD(HR50) 22 〈MEDIX VOL.64〉 90 liEC Cardiacの設定ができないのでプロスペクティブスキャ 700 0 100 管電流(mA) 90 図 9、図10に臨床画像を供覧する。 2014 年 6 月から8 月に実施されたIntelliEC Cardiac使用 症例を無作為に10 例選び、そのCT dose index (CTDIvol) を 図11に提示する。体重、撮影時の心拍数にもよるが、従来の 50%程度のCTDIvolの低減が図れており、非常に有用性が 高い。 また、当院では PCI (Percutaneous Coronary Intervention) 治療でのトラブルにつながる末梢塞栓に関連するlipid coreの可能性のあるプラークや、拡張困難につながる可能性 のある石灰化の描出のために術前心臓 CT検査を実施しslab MIP (Maximum Intensity Projection) を作成することがあ 100 る。特に右冠動脈に病変があるとわかっている場合は収縮期 るslab MIPの有用性も報告されており、左室壁運動などの評 価も実施される可能性がある 1)。上記のような目的で心臓 CT 検査を行う場合、収縮期と拡張期の 2 相に対しおのおのの設 定を行うことで、線量の重みづけが実施できることも今後重 要なファクターとして期待される。 80 CTDIvol(mGy) の画像が有用であることがある 1)。また、緊急心臓 CTにおけ IntelliEC Cardiac OFF 90 が静止位相となる場合があり、心拍が安定していても収縮期 IntelliEC Cardiac ON(75%設定) 70 60 50 40 30 20 10 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 症例 図 11:IntelliEC Cardiac の有無における CTDIvol 4.Simple Dose Reportについて 線量情報をセカンダリーキャプチャーとして作成し、CT画 像と同様にPACS (Picture Archiving and Communication System) に転送することが可能になった。SCENARIAの CTDIvolはIEC3.0を規格としており、線量が一連のスキャ ン中に変化する場合は、照射前に、対応するCTDIvol および DLP (Dose Length Product) の予測値を表示しなければな らない 2)。また、それぞれの値は、アキシャルスキャンまたは ヘリカルスキャンにわたって、予測する時間、加重平均とし て示さなければならないとの記載がある 2)。SCENARIAで もこの規格に従ってCTDIvolが表示されている。 この参考画像を図 12に提示する。近年、診断参考レベル 図 9:心臓 CT(身長 166cm 体重 71kg) 管電圧:120kV 管電流:75%単相(50-490mA) スキャン時間:0.35s PF:0.2031 CTDIvol:26.3mGy(IntelliEC Cardiac OFF:58.0mGy) DLP:427mGy(IntelliEC Cardiac OFF:943mGy) (Diagnostic Reference Level:DRL) が医療被ばく研究情 報ネットワークから策定され、日本においても特に被ばくが 問題となるCTの分野でもかなりの重要性があると思われる。 また、CTDIvolを実測した結果を表 3に提示する。文献に よると、実測値はコンソール表示と同じになることは少ない とあるが、本測定では実測値は表示値より小さい値となった 3)。 図 12:Simple Dose Report の一例 表 3:表示値と実測値の CTDI 図 10:心臓 CT(身長 149cm 体重 42kg) 管電圧:120kV 管電流:75%単相(50-120mA) スキャン時間:0.35s PF:0.2031 CTDIvol:7.8mGy(IntelliEC Cardiac OFF:10.7mGy) DLP:114.2mGy(IntelliEC Cardiac OFF:190mGy) 表示値(mGy) 実測値(mGy) 頭部 67.8 66.1 胸部 16.3 15.4 腹部 19 17.6 頭部は 16cm、腹部は 32cm のファントムを使用 〈MEDIX VOL.64〉 23 当院ではこのSimple Dose Reportを用いて、国立研究開 発法人放射線医学総合研究所、国立研究開発法人日本原子力 研究開発機構、公立大学法人大分県立看護科学大学の 3 機関 による共同研究によって開発された、WAZA-ARI 4)という被 ばく線量計算ソフトを用いて臓器線量を算出し、撮影条件を 変更した際に適切な線量で撮影できているのか確認したり、 患者さまから被ばくに対する質問があった際のツールとして 活用している。 5.まとめ S C E N A R I A のバージョンアップにおける新機能は、 ① IntelliEC Plusによって逐次近似応用再構成法がより簡便 に使用でき、症例に合わせて体重ごとに最適化することで線 量低減が可能、② IntelliEC Cardiacを拡張期単相で使用す ることで当院の撮影条件では 50%程度の線量低減が可能、 ③ Simple Dose Reportによって被ばく管理が可能、という 3 つの被ばく低減に向けた取り組みが可能である。今後も最 適な使用方法を検討していきたい。 ※ 1 SCENARIA、※2 IntelliEC、※3 Intelli IPは株式会社日立製作所 の登録商標です。 参考文献 1) 角辻 暁, ほか : slab MIPで心臓CTを診る, 月刊インナー ビジョン, vol.24 : 120-122, 2009. 2) IEC 60601-2-44, 2009. 3) 計測分科会監修 : 医療被ばく測定テキスト, 改訂 2 版 , 公 益財団法人日本放射線技術学会 , 2012. 4) WAZA-ARI -A web-based CT dose calculator-, URL : http://waza-ari.nirs.go.jp/waza_ari_v2_1/ 24 〈MEDIX VOL.64〉
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