FinTechをめぐる金融規制の動向

FinTechをめぐる金融規制の動向
銀行法等の改正の概要とその対策について
2016 年 7 月 19 日
Summary
EY Japan FSO
Thought Leadership
• 2015 年 12 月 22 日に金融庁のワーキング・グループが公表した報告書に
基づき、銀行法等改正案が通常国会に提出され、2016 年5月25 日に成立
しました。
新日本有限責任監査法人
金融アドバイザリー部
シニアマネージャー 安達 知可良
• 改正法により、銀行によるFinTechベンチャー企業への出資の容易化や、
仮想通貨交換業者への規制の適用など、 FinTechに係る法制の環境
整備が一歩前進することとなります。
• 改正法は2017年4月の施行が見込まれており、ベンチャー企業を活用した
金融機関のイノベーション促進により、サービス品質および利用者の利便性
の向上に寄与することが期待されています。
Ⅰ. はじめに
金融とITを融合させた新しいサービス、いわゆる「FinTech」が世界的に注目されて
い ます。FinTechを提供するITベンチャー企業が、これまでになかった新しい
サービスを提供することにより、利用者の利便性が向上するなどの成果が世界
各国から聞かれるようになりました。
日本においても、1~2年のうちにその動きが活発化していますが、一方で、銀行が
ベンチャー企業を活用する場合の制約が存在するなど、FinTechを十分に活用できる
環境ではないことが指摘されていました。これを受け、金融庁はそのギャップの
解消に向けた対応を進めてきた経緯があります。
本稿では、日本におけるFinTechベンチャーの状況を整理した上、今年5月25日に
成立した改正法の概要の説明に加え、その留意点についても触れたいと思います。
改正法の施行に先立ち、検討の一助になれば幸甚です。
Ⅱ. 日本における「FinTech」の動向
金融(Finance)と技術(Technology)を掛け合わせた造語である「FinTech」、この
動きは欧米を中心とした海外から広がり、今日では日本でも広く知られるところと
なりました。主にITベンチャー企業によって提供されるIT技術を駆使した新しい
サービスを指す場合が多く、この結果として新たな市場や顧客層の創出といった
イノベーションを起こしている事例も多く見受けられます。一方で、伝統的金融機関
にとっては既存業務を脅かしかねないとの危惧から、こうしたベンチャー企業を
「Disrupter」(破壊者)と呼び、警戒するケースも少なくありません。
日本においても近年その動きが活発化してきており、例えばPFMソフト(個人資産
管理、いわゆる家計簿ソフト)を銀行口座と連携させ、統合的に残高管理できる
サービスや、クラウドファンディングなどの小口融資、ロボアドバイザーを活用した
投資助言サービスなど、新たな市場を開拓したベンチャー企業も登場しています。
また、ビットコインなどの仮想通貨取引所を運営するベンチャー企業も日本国内には
多数存在していることに加え、今年4月には仮想通貨の技術要素であるブロック
チェーンに関する二つのコンソーシアム 1 が組織されるなど、日本独自の動きも
見られる状況となっています。
一方、銀行における他業禁止規制がITベンチャー企業の技術を取り込む制約と
なっている点などについて、現行法の改正を望む声も多くなっていました。
こうした動きを受け、金融庁では、各方面の利害関係者や有識者との討議を重ね、
銀行法をはじめとする一部の法令などを改正することとなりました。
Ⅲ. 銀行法等の改正までの経緯
金融庁は、2014年10月に「決済業務等の高度化に関するスタディ・グループ」
( 以 下 「 決 済 高 度 化 SG 」 ) を 立 ち 上 げ て 、 IT の 急 速 な 発 展 な ど に よ る 決 済
高度化の要請への対応の検討を始めました。2015年4月28日には決済高度化SGの
中間整理を公表し、その後、次の二つのワーキング・グループ(WG)を立ち上げて、
個別に課題を検討していくことになります。
1. 「決済業務等の高度化に関するWG」
決済高度化SGの「中間整理」で整理された課題2 に加え、仮想通貨も含め、
今後の具体的な行動計画と将来的な方向性などを審議。
2. 「金融グループを巡る制度の在り方に関するWG」
ITイノベーションの促進に向けた取組み強化のほか、グローバル・ローカルな
経済・金融環境の変化への対応などを踏まえ、金融グループの制度の在り方
について審議。
両WGとも同年12月22日までに報告書が取りまとめられ、これに基づく形で銀行法等
の改正案(「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を
改正する法律案」)の作成が進められました。翌年3月4日には通常国会に提出され、
5月25日に可決に至りました。改正法は2017年4月に施行される見込みです。
1
「日本ブロックチェーン協会(JBA)」および「ブロックチェーン推進協会(BCCC)」の2組織。
2
『主に、「リテール分野を中心としたイノベーションの進展」「企業の成長を支える決済サービスの
高度化」「決済インフラの改革」の3つの分野を中心に、横断的事項である決済システムの安定性と
情報セキュリティ、イノベーションの促進と利用者保護の確保の観点も含め、今後さらに検討を
進めていく必要のある課題』(「決済業務等の高度化に関するワーキ ング・グループ 報告」の
「はじめに」より抜粋)
2 |
FinTech をめぐる金融規制の動向 : 銀行法等の改正の概要とその対策について
Ⅳ. 主な銀行法等の改正内容
銀行法等の改正は、「金融グループを巡る環境変化、ITの急速な進展等を踏まえた
制度面での手当てを行う」ことを目的として、下表にある対応を行うこととしています。
対応策
概要
1
金融グループにおける経営
• 持株会社等が果たすべき「機能」の明確化
管理の充実
2
共通・重複業務の集約等を • グループ内の共通・重複業務の集約等を
通じた金融仲介機能の強化
容易化
3
• 金 融関連 IT 企業 等への 出資の 容易化 、
および決済関連事務などの受託の容易化
ITの進展に伴う技術革新へ
の対応
• プリペイドカードの表示義務履行方法の合理
化、および発行者の苦情処理体制の整備
4
仮想通貨への対応
• 仮想通貨交換業者の登録制の導入
• マネロン・テロ資金供与対策規制
• 利用者保護のためのルール整備
以下では、特に「FinTech」と直接的に関連のある「ITの進展に伴う技術革新への
対応」と「仮想通貨への対応」について概説します。
1. ITの進展に伴う技術革新への対応
今回の改正では、金融機関によるIT企業等への出資を容易にすることが、一つの
焦点となっています。これを実現させるため、以下のように改正されています。
(1)銀行による他業禁止規制の緩和
金融機関によるIT企業等への出資を容易にするため、銀行(または銀行
持株会社)の子会社の範囲等を定める条項に次の条文が追加されました
(改正後銀行法[以下同じ]第16条の2第1項第12号の3、第52条の23
第1項第11号の3)。
前各号に掲げる会社のほか、情報通信技術その他の技術を活用した
当該銀行の営む銀行業の高度化若しくは当該銀行の利用者の利便の
向上に資する業務又はこれに資すると見込まれる業務を営む会社
上記より、「銀行業の高度化」または「銀行の利用者の利便の向上」に資する
業務を営む会社を、銀行や銀行持株会社の子会社とすることが可能となり
ます。また、「これに資すると見込まれる業務を営む」とあり、出資が成功した
際には金融関連業務を行っていることが想定されるものの、出資段階では
その成功の見込みが不明確な場合でも出資が認められる可能性がある
ことが読み取れます。
また、子会社化する際には、下記の通り内閣総理大臣の認可を受けること
を前提としています(銀行法第16条の2第10項、第52条の23第9項)。
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銀行は、当該銀行又はその子会社が合算してその基準議決権数を
超える議決権を保有している子会社対象会社(当該銀行の子会社および
第1項第12号の3に掲げる会社を除く。)が同号に掲げる会社となったことを
知ったときは、引き続きその基準議決権数を超える議決権を保有すること
について内閣総理大臣の認可を受けた場合を除き、これを知った日から
1年を経過する日までに当該同号に掲げる会社が当該銀行又はその
子会社が合算してその基準議決権数を超える議決権を保有する会社で
なくなるよう、所要の措置を講じなければならない。
他業禁止の規制により、IT企業等への出資は、銀行は5%まで、銀行持株
会社は15%までに制限されていますが、施行後については認可を受けた
場合に限りこの上限がなくなります。ただし、改正法には認可の基準について
の明確な記載はなく、今後改正される施行規則や監督指針等に具体的な
指針が定められると見込まれています。
なお、認可における判断指針については、銀行業との親近性の程度に
留意しつつ、他業禁止の趣旨等に照らした上、下記事項を確認していく
スタンスであることを、金融庁は示しています3。
•
•
•
•
グループの財務の健全性に悪影響を与えないか
銀行本体へのリスク波及の程度が高くないと見込まれるかどうか
優越的地位の濫用や利益相反の弊害のおそれがないか
出資がグループの金融サービスの向上に資する適正なものと見込まれるか
(2)収入依存度規制の緩和
決済関連事務等の受託を容易にするために、今回の改正により下記の修正が
加えられています(銀行法第16条の2第11項、第52条の23第10項)。
...
第1項第11号又は第7項の場合において、会社が銀行等又は銀行の営む
.......
業務のために従属業務を営んでいるかどうかの基準は、当該従属業務を
...............................
営む会社の当該銀行等又は当該銀行からの当該従属業務に係る収入の
............................
額の当該従属業務に係る総収入の額に占める割合等を勘案して内閣総理
大臣が定める。
(傍点部が改正法での修正箇所)
銀行法では、銀行業務をサポートする業務を「従属業務」と定義しています。
具体的な対象業務は銀行法施行規則(第17条の3第1項)に列挙されて
いますが、決済関連のIT業務も従属業務に当たるとされています。
監督指針では、銀行の従属業務を営む子会社等は、その総収入のうち当該
銀行からの割合を50%以上4とするよう求めています。しかしながら、IT投資の
戦略的な実施に際し、複数の金融グループ間の連携・協同が強く求められる
業務5については、従前の収入依存度を引き下げることが見込まれています。
3
2016年4月28日の国会答弁における金融庁総務企画局長による発言。
4
従属業務を営む会社が、親銀行グループを含む複数の銀行グループから業務を受託する場合は、
グループからの合計が総収入の90%以上となることとしている。(金融グループを巡る制度の
在り方に関するワーキング・グループ報告)
5
「金融グループを巡る制度の在り方に関するワーキング・グループ報告」では、「銀行のシステム
管理やATM保守」が例示されている。
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2. 「仮想通貨への対応」について
日本では仮想通貨に係る明確な規制がない状態でしたが、仮想通貨交換所の
破綻による顧客資産の消失問題 6 、G7エルマウ・サミットでの首脳宣言 7 、
およびFATF(金融活動作業部会)のガイダンス8 などを踏まえ、「資金決済に
関する法律」(以下「資金決済法」)に仮想通貨に係る条項が加筆され、利用者
保護のためのルールが整備されました。併せて、仮想通貨を悪用したマネー
ロンダリングやテロ資金供与への対策として、「犯罪による収益の移転防止に
関する法律」(以下「犯収法」)が改正されました。
(1)「登録制」となる仮想通貨交換業者
仮想通貨交換業者は登録制となり、金融庁の監督下に置かれることとなり
ます。施行後、仮想通貨交換業者は金融庁への報告または資料の提出が
命じられる可能性があるほか、立入検査が求められる可能性もあります。
なお、業務を委託している場合は、その委託先も立入検査の対象となり得
ます。
(2)「仮想通貨」および「仮想通貨交換業」の定義
資金決済法の改正により第2条に新設された第5項および第6項において、
仮想通貨が法的に定義されました。
「仮想通貨」の要件
1
物品の購入・借受や、役務提供を受ける場合に代価の弁済として
不特定の者に対して使用することができ、かつ不特定の相手に対し
購入・売却することができるもの
2
財 産 的 価 値 ( 電 子 的 方 法 に よ り 記 録 さ れ て い る も の) で あ り 、
電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
3
不特定の相手に対し相互に交換することができるもの
4
通貨建資産(本邦通貨や外国通貨をもって表示され、または本邦
通貨や外国通貨をもって債務の履行、払戻しなどが行われる資産)
ではないもの
上記1および3により「転々流通性」が求められると判断されることから、
電子マネーやポイントなどが対象ではないことや、上記4により預金通貨など
が対象にならないことなど、仮想通貨の範囲が一定程度明確になりました。
また同条第7項で、規制対象となる「仮想通貨交換業」の行為要件に
ついても定義されました。
6
2014年3月、ビットコイン交換所を運営するMTGOX(マウントゴックス)で、顧客分の75万ビット
コインを含む85万ビットコイン(当時の時価で約115億円)が消失した事件。同社は当初ハッキングに
よるものと主張していたが、その後の捜査により内部不正である可能性が疑われている。
7
『我々は、仮想通貨およびその他の新たな支払手段の適切な規制を含め、すべての金融の流れの
透明性拡大を確保するために更なる行動をとる。』(2015年6月8日)
8
『各国は、仮想通貨と法定通貨を交換する交換所に対し、登録・免許制を課すとともに、顧客の
本人確認義務等のマネロン・テロ資金供与規制を課すべきである。』(2015年6月26日)
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「仮想通貨交換業」に該当する行為要件
1
仮想通貨の売買または他の仮想通貨との交換
2
1の行為の媒介、取次ぎまたは代理
3
1および2の行為に関して、利用者の金銭または仮想通貨の管理
上記1は、いわゆる「仮想通貨販売所」や「仮想通貨取引所」などの利用者
に仮想通貨を売買する業務形態に相当し、上記2は仮想通貨の売り注文と
買い注文をマッチングするサービスに相当するものと考えられます。
(3)仮想通貨交換業者の行為規制
仮想通貨交換業者には、次のような行為規制が義務付けられることに
なります(改正後資金決済法第63条の8~第68条の14)。
仮想通貨交換業者の行為規制
1
情報の安全管理措置
• 情報漏えい、滅失、毀損(きそん)の防止等の措置
2
委託先に対する指導(第三者に業務を委託した場合)
3
利用者の保護等に関する措置
• 仮想通貨と法定通貨との誤認防止のための説明
• 手数料など契約内容に係る情報提供
4
利用者の財産の管理
• 利用者分と自己分の金銭/仮想通貨の分別管理
• 公認会計士または監査法人による定期的な監査
5
金融ADR措置
6
帳簿書類の作成・保存
7
事業年度ごとの報告書の作成・内閣総理大臣への提出
• 仮想通貨交換業者に関する報告書
• 利用者の金銭の額/仮想通貨の量に関する報告書
改正法施行後、仮想通貨交換業者は、業務に係る情報の安全管理や、
財産の(自己分と利用者分の明確な)分別管理などが求められるほか、
公認会計士または監査法人による定期的な監査が求められることになります。
ただし、これらの詳しい規制内容については、今後内閣府令で定められる
こととなっています。
6 |
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(4)マネーロンダリング、テロ資金供与への対策
アンチ・マネーロンダリング、テロ資金供与への対策として、犯収法における
「特定事業者」の一つとして「仮想通貨交換業者」が加わることになりました
(改正後犯収法[以下同じ]第2条第2項第31号)。
犯収法における特定事業者に対して求める要件は次の通りです(犯収法
第4条、第6条、第7条、第8条、第10条)。
犯収法上の特定事業者に求められる要件
1
取引時確認義務
2
確認記録の作成・保存義務
3
取引記録の作成・保存義務
4
疑わしい取引の当局への届出義務
5
取引時確認等を的確に行うための措置
(5)法改正による銀行への影響
銀行法の業務範囲規制もあるため、政府としては、銀行が仮想通貨を取り
扱うことはできないとするスタンスであると言われています9。
また、今回の法改正は「仮想通貨と法定通貨との交換業者に対する登録制」と
「マネーロンダリング、テロ資金供与規制」を導入することが焦点であり、
仮想通貨を用いた取引に係る規制については継続的に検討するスタンス
であることも政府は明確にしています10。
従って、銀行における仮想通貨の取り扱いや、仮想通貨を用いた取引に係る
規制などについて、引き続き検討されると思われます。
9
『政府は「銀行などは仮想通貨を扱えない」などと答えた。(中略)銀行は、取り扱うことができる
業務範囲が銀行法により定まっていて、それ以外の業務を行うことができない。仮想通貨は貨幣に
なるわけではないので、今後も引き続き、銀行は仮想通貨を取り扱いできない。つまり仮想通貨の
売買の仲介や仮想通貨と本来の通貨との交換、仮想通貨を預かる口座の開設などができない』
(日経電子版 2016年3月7日の記事「仮想通貨は本物の貨幣になるか」より)
10 『今回の法案では、(中略)早急に仮想通貨と法定通貨との交換業者に対する登録制と、マネロンと
テロ資金供与規制を導入するということにしつつ、(中略)仮想通貨を用いた取引というものを
法令上どのように規制するのかということにつきましては、これは今しばらく時間をいただいて、
今後とも、継続して検討させていただきます。』 (2016年4月28日の国会答弁における麻生金融
担当大臣による発言)
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Ⅴ. 今後の見通し
1. 改正法施行までの流れ
改正法は2017年4月の施行が見込まれています。例年の法改正スケジュールを
踏まえると、次のようなタイムテーブルで動くことが想定されます。
想定時期
想定されるイベント
2016年秋~冬
•
•
•
•
2016-2017年冬~春
• 監督指針・検査マニュアルの改正案公表
• 両改正案のパブリックコメントの募集
• 監督指針・検査マニュアルの確定・公布
2017年4月頃
• 施行
政令(銀行法施行令等)の改正案公表
内閣府令(銀行法施行規則等)の改正案公表
両改正案のパブリックコメントの募集
政令・内閣府令の確定・公布
2. 改正法の適用に向けた準備
改正法では、下記のような具体的要件を法律レベルで明記しない例が見受けら
れます。
• 銀行によるIT企業等の子会社化が認められる要件
• 仮想通貨交換業者の行為規制の要件
こうした要件への対応には、今後公表されることが想定される内閣府令や監督
指針の改正案を参考に検討することが重要ですが、改正案の公表から施行
開始までの期間が限られています。
中でも仮想通貨交換業者は2017年4月より行為規制の適用開始が想定され
ますが、体制整備に時間を要する企業もあるかもしれません。早期に現状把握を
行い、計画的に対応していくことが望まれます。
また、IT企業へ出資する場合の認可を取得するには、改正された内閣府令を
把握することに加え、個別案件ごとに膨大な資料作成を行った上、金融庁との
交渉が求められると想定されます。こうした対応は画一的ではないため、認可
申請の実務に精通した人材を確保するなど、計画的な体制を整備しておくことが
肝要となります。
3. 金融庁におけるその他のFinTech関連の対応状況
以上の通り、FinTechの推進に向けた制度面の措置が着々と進められている
一方で、金融庁は実務面についても、下記のような会議体を設置し、引き続き
討議を重ねています。
(1)「フィンテック・ベンチャーに関する有識者会議」
金融庁では、欧米などに比べて、国内での先進的なFinTechベンチャー
企業やベンチャーキャピタルの登場が実現できていない、といった課題
認識の下、FinTechベンチャー企業の登場・成長が進むための環境(エコ
シス テム )を整 備す る ことを 目的 とした 会議体 として、 「フ ィンテック ・
ベンチャーに関する有識者会議」を今年4月27日に設置しました。本稿
執筆時点(2016年6月末)において、金融機関、ベンチャー企業、大学
教授などの委員が参加した会議が2回開催されています。
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FinTech をめぐる金融規制の動向 : 銀行法等の改正の概要とその対策について
(2)「決済高度化官民推進会議」
今年の6月2日に公表された「日本再興計画2016」において「フィンテック
による金融革新の推進」として、金融高度化を促進するための施策が明記
されました。この施策は「決済業務等の高度化に関するWG」で取り決めた
アクションプランの実現が鍵になるため、決済系に係る金融機関や大手IT
ベンダーや大学教授などを委員とした「決済高度化官民推進会議」を6月3日
に設置し、その実施状況をフォローアップしています。
How we see it
• 2017年4月には改正銀行法等の改正が施行される見込みであり、それまでに
政令、内閣府令なども改正されることが想定されています。
• 銀行法の改正により、銀行や銀行持株会社は、これまでよりIT企業への
出資が容易になりますが、基準議決権数を超える議決権を取得・保有する
場合は、当局の認可が求められることに留意が必要です。
• 資金決済法の改正により仮想通貨交換業者が登録制となり、金融庁の監督
下に置かれることになります。行為規制も要求されるため、施行までに
規制に耐え得る態勢整備を行うことが望まれます。
新日本有限責任監査法人
金融アドバイザリー部
シニアマネージャー 安達 知可良
公認情報システム監査人(CISA)、公認情報セキュリティマネージャー(CISM)
ITコーディネータ(ITC)
金融機関、および金融機関にサービス提供するIT企業に対する、金融検査
マニュアルやFISC((公財)金融情報システムセンター)の各種ガイドラインを
ベンチマークとしたシステム監査、SOCR(Service Organization Control
Reporting:受託業務に係る内部統制の保証報告書)などの保証業務の対応
経験多数。
現在、EY JapanのFinTech推進室のメンバーとして、FinTechベンチャー、
金融機関双方に対するサービス展開を支援している。
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お問合わせ先
新日本有限責任監査法人 金融部
Tel: 03 3503 1088
E-mail: [email protected]
本資料は、2016年6月30日現在の情報に基づき作成いたしました。
最新の状況につきましては、当法人の貴社担当者または上記窓口までお気軽にお問い合わせください。
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