米大統領選ウォッチ from New York

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2016 年 7 月 20 日
市場営業統括部
米大統領選ウォッチ
from New York
チーフ・エコノミスト
山下えつ子
Tel: +1-212-224-4561
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No.1 【共和党全国大会】
大統領選(11 月 8 日)に向けて、共和党は 7 月 18 日~21 日、民主党は 25 日~28 日に、それぞれ
全国大会を開催し、各党の候補者を正式に指名する。既にこの全国大会の前に、予備選挙・党員大会
を通して、共和党はドナルド・トランプ氏、民主党はヒラリー・クリントン氏が指名獲得に必要な代
議員数を獲得している。このため、全国党大会での指名決定は形式的なものである。
共和党の全国大会初日は反トランプ派による指名阻止の騒動が共和党
内の不調和を印象づけたが、2 日目には大きな混乱なく、共和党はトラン
プ氏を大統領候補として正式指名した。ただし、トランプ氏の獲得票数は
指名に必要な過半数を大きく超えてはいるが 69.8%で、過去 100 年間で
1976 年のフォード氏指名時(52.5%)に次ぐ低さである。フォード氏は
その年の大統領選では敗退しており、共和党の結束力やトランプ氏の戦
略がトランプ氏勝利のためには重要となる。
全国大会に先立ち、トランプ氏は大統領選を共に闘う人物として、マイク・ペンス氏を副大統領候
補に指名し、16 日にニューヨークで紹介のための会見を行った。ペンス氏はインディアナ州知事で、
クリスチャン、かつ、保守派、である。トランプ氏は「自分はアウトサイダー(政治無経験者)なの
で、党の結束のためにペンス氏を選んだ」と説明した。大統領選では副大統領候補は大統領候補の立
ち位置を補完する人物が選ばれるケースが多い。トランプ氏は現職知事を副大統領候補とすること
でアウトサイダーという批判をかわし、かつ、保守派を選ぶことで保守性の強い党員や国民の支持
を得る、という戦略を取った。この人選は米国のテレビインタビューなどを見る限り、反トランプ
の党員や態度未定の国民にも好評だった。
ただ、それでも共和党が一致団結していないことを窺わせる場面もある。その中で党大会 3 日目に
予定されているティーパーティのテッド・クルーズ氏のスピーチが注目される。党員としては党から
正式指名されたトランプ氏を支持する内容とすべきところだが、どうなるだろうか。
共和党大会の 4 日間のプログラムは、トランプ氏のスローガンであった“Make America Great
Again”を共有するものとして構成されている。1 日目は“Make America Safe Again”、2 日目は”Make
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米大統領選ウォッチ 2016/7/20
America Work Again”、3 日目は”Make America First Again”、そして最終日は”Make America One
Again”、とテーマが割り振られている。採択された共和党綱領(選挙公約に相当)には具体的な内
容は記載されていない事項も多いが、米国経済の成長促進、競争力向上による”Make America Great
Again”の目標が貫かれている。綱領の中で日本でも関心がありそうな点を抜き出すと以下の通りで
ある((注)原文のままではない)。①アメリカの利益保護を第一とした貿易政策が必要だとの大前
提が置かれ、「重要な貿易協定は現在のレイムダック状態の議会で定めるべきではない」とし、TPP
の早期成立を牽制したと思われる箇所がある。②ドッド・フランク法の金融規制は中小金融機関に対
してネガティブに働いている、と批判する一方で、商業銀行による高リスク投資を防ぐために、銀証
分離を定めたグラス・スティーガル法の再導入を支持。③正規移民は過去と同様に米国経済に貢献し
ている、としているが、不法移民は受け入れ難いと批判し、南部に国境を築くことを支持する、と明
記。④オバマケアの廃止。⑤安全保障については、アジア太平洋地域における米国のリーダーシップ
を提唱しているが、日本については特定事項の言及はない。
2 日目が終わった時点で政治アナリストやジャーナリストはトランプ氏のここまでの善戦を素直
に評価したほか、「自分たちはこの国の社会が分断されていることを見落としていた」とのコメント
もあった。この大統領選を通して彼らは、米国社会が変容し、政治も変革が求められていることを
認識させられている。政治経験のない人物が大統領選で勝利した例は、1848 年のテイラー氏、1868
年のグラント氏、1952 年のアイゼンハワー氏、であるが、彼らは戦争で功績を挙げた人物だった。
トランプ氏が大統領に選出された場合には新しいタイプのアウトサイダーということになる。ただ、
綱領に掲げられた事項のうち、どの点が大統領選での主要な争点になるかはこれからだが、民主党
大統領下の政策を覆すことに重点を置き過ぎると、国民の支持を広く集めることは難しくなるかも
しれない(Make America Great Again という総論には賛成だが各論反対、結果、反トランプのよう
なことになりかねない)。
なお、1 日目のトランプ夫人のスピーチはオバマ大統領夫人のスピーチと酷似しているとの指摘が
あったが、2 日目の子供達のスピーチは政治家並みの弁舌で党大会の会場も熱狂的に盛り上がった。
トランプ氏には 3 人の息子と 2 人の娘がおり、3 日目と 4 日目にも他の子供達のスピーチが予定され
ている。Trump Children の立派な成長ぶりによってトランプ氏の人間性に対する評価が上がったと
の論評も見られる。共和党大会を経て、トランプ氏個人の評価は上昇したが、共和党の結束力と本選
での争点が結果を左右しそうだ。
党大会の最終日である 21 日にトランプ氏が指名を受諾するという形式的プロセスを経て、正式な
候補者となる。民主党の全国大会は 25 日からフィラデルフィアで開催される。
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