所長室から

所長室から
H28.7月号
様々な人との交流を大切に
ある公設試験研究機関の所長とお話ししていたとき、
「中山間の農業にはいろ
いろな問題がある。農業従事者の減少と高齢化は平坦地と比べて格段に進行し
ている。大規模化できるわけでもなく、小さな水田で一生懸命米作りをしてい
る人も畦畔管理にかかる手間が大変だし・・・」というようなことが話題にな
った。その時所長は「水田は畦畔があるから除草などの作業に手間がかかるの
で、完全畑地化して畦畔を取り払い、大きな畑として活用するのも一つの方向
だと思う」ということを話された。確かに、必要最小限の水田を残して、残り
を畑地にしてしまえば、その部分の管理は大変楽になるし、地域特産作物とい
ってもほとんどが畑作物であって、水田である必要はない。何も栽培する予定
がなければ、請負に出して牧草生産してもらうという選択肢も生まれる。
もちろん、現実的にはそんなに簡単な話ではないのを承知しているし、中山
間地では水田農業をやめようなんてことを言うつもりもない。ただ、TPP(こ
のまま実行されるかどうかはわからないが)に代表されるように、今の日本農
業は大きな転換点にきている。そんな中で、過去を引きずった固定概念にとり
つかれていると思考停止のままに日本農業が滅びてしまう恐れがある。思い切
って唖然とするような対策をとってみるのも一つの方策ではないかと思う。
私たちが行っている技術開発もしかりである。研究・技術開発の世界では、
同質集団が集まってその中での論議を大切にする。それは研究に瑕疵はないか、
考察は妥当かなどの評価のために不可欠なものである。これにより、関係する
分野での知識は深まるが、収益性の高い農業経営を実現するために必要な技術
は何かと問われると、答えに詰まってしまうことがある。農業を取り巻く状況
が大きく変化している現在、広い視野で問題点を摘出し、技術開発の目標を設
定する能力が求められる。
そのためには、自分のおかれている環境とはまったく異なる世界の人と話し
てみることが大切である。私は国の試験研究機関に長く在籍したが、研究とし
てはサツマイモの品種改良だけを行っていた。確かに仲間うちの話は楽しいし、
安心である。研究分野が違う人や研究以外の仕事をしている人と話すのはいさ
さか億劫である。会議などに出ても、自分に関係のない話が多くて、時間の無
駄だと感じることも多い。しかし、時に「目から鱗」という経験をすることも
ある。今は、新聞社に勤めている方、大学の教授、医者といった方々と歓談す
ることもあるが、たわいもない話の中で、きらりと光る考え方に多々接する。
非常に楽しいひとときである
他流試合というと大げさだが、様々な人と情報交換する機会を見つけ、活用
する。それは今行っている仕事を発展させるためのきっかけとなると信じてい
る。大切にしたい。