埼玉県内企業の原材料・仕入価格上昇に対する 価格転嫁状況調査

埼玉県内企業の原材料・仕入価格上昇に対する
価格転嫁状況調査 -2016 年 4~6 月-
調査企業:県内企業 567 社
調査方法:アンケート方式(5 月上旬 郵送回収)
回答企業:223 社(回答率 39.3%)
業種別内訳:製造業 128 社 非製造業 95 社
要旨
埼玉県内企業における原材料・仕入価格上昇に対する販売価格への転嫁状況について調査
した結果、全産業で「販売価格にほぼすべて転嫁」と「6割以上転嫁」がともに 23%で並び、
最も多い回答となっている。一方、
「ほとんど転嫁できていない」は、2008 年から 2015 年ま
で毎年最多であったが、前年比 4 ㌽低下の 21%と3位に後退している。中国経済減速などに
よる国際商品市況の下落や年初来の円高の影響により、原材料価格上昇の動きが一服するな
か、販売価格への転嫁状況は改善してきている。
また、原材料・仕入価格上昇に対する対策としては、
「経費の節減」が最も多く、次いで「販
売価格への転嫁」という状況が続いている。
「経費の節減」は、2012 年に 83%であったが、
2016 年は 72%へと低下し、一方、
「販売価格への転嫁」は、2012 年の 42%以降上昇を続け、
2016 年は 65%となった。
「販売価格への転嫁」が対策として比重を高めている。
◆アンケート回答選択肢の対応について◆
回答の選択肢については、2011 年以降の調査では次のとおり変更したので、2010 年までの選択
肢とは相違しているものの、調査結果の経年変化を捉えるため、本レポートでは次表のとおり対
応するものとして分析している。
90%以上転嫁
90%未満~
60%以上転嫁
60%未満~
40%以上転嫁
満足できる状況
2011 年以降
の選択肢
2008~10 年
の選択肢
40%未満~
10%以上転嫁
10%未満
転嫁
その他
満足できない状況
販売価格にほ
ぼすべて転嫁
6 割以上
4~6 割
4 割未満
ほとんど転嫁
できていない
その他
販売価格に
すべて転嫁
70~80%程度
を転嫁
50%程度
を転嫁
10~20%程度
を転嫁
全く転嫁
できない
その他
1.原材料・仕入価格上昇分の販売価格への転嫁状況
(1)今年(2016 年)の状況
全産業では、「販売価格にほぼすべて転嫁」と「6割以上転嫁」がともに 23%で並び、両者を
加えた「満足できる状況」とする企業の割合が前年比 4 ㌽増加し 46%となった。一方で、
「ほと
んど転嫁できていない」は、同 4 ㌽低下の 21%と 2008 年から 2015 年まで毎年最多であったが、
3位に後退した。(図表1)
(2)過去の状況との比較
転嫁が6割未満とする「満足できない状況」の 2009 年から 2016 年までの動向を概観すると、
2011 年調査からはそれ以前の「70~80%程度を転嫁」の選択肢に対応するものとして「6割以上
転嫁」と変更したために必ずしも一致するものではないが、全産業では、2009 年の 73%から「東
日本大震災」直後の 2011 年調査には 82%まで上昇し、その後低下基調で推移し今年は前年比 4
㌽低下の 54%となっている。中国経済減速などによる国際商品市況の下落や年初来の円高の影響
―1-
により、原材料価格上昇の動きが一服するなか、販売価格への転嫁状況は改善してきている。
(図
表1)
図表1. 原材料・仕入価格上昇に対する価格転嫁状況(全産業)
今年・2016年
23
2015年
23
2014年
23
19
20
17
12
2012年
17
12
8
2010年
7
2009年
7
10
0%
10%
16
37
19
40%
8
8
28
50%
4~6割
6割以上
9
35
19
30%
5
7
47
17
販売価格にほぼすべて転嫁
34
12
14
20%
9
46
16
20
7
25
10
13
17
21
13
11
8
11
12
11
14
2013年
2011年
14
60%
4割未満
70%
9
80%
90%
ほとんど転嫁できていない
100%
その他
(3)業種別の状況
業種別に見ると、製造業では、
「販売価格にほぼすべて転嫁」と「6割以上転嫁」が各々21%で
「満足できる状況」とする企業の割合が 42%と未だ半数以下であるが、前年比 6 ㌽上昇した。非
製造業では、
「満足できる状況」とする企業の割合は同比ほぼ横ばいながら、2011 年の 18%から
増加を続け 52%と半数を超えている。
一方で「満足できない状況」とする企業割合は、東日本大震災直後の 2011 年は製造業の 81%、
非製造業の 82%をピークに低下している。(図表2、3)
図表2.原材料・仕入価格上昇に対する価格転嫁状況(製造業)
今年・2016年
21
2015年
21
19
2014年
17
17
2013年
14
11
2012年
14
16
2011年
8
2010年
6
2009年
6
0%
13
13
15
30%
6割以上
9
5
49
8
8
42
22
4~6割
―2-
6
34
19
40%
8
48
23
販売価格にほぼすべて転嫁
27
10
16
20%
6
37
17
19
24
17
13
10
14
15
10
8
11
10%
14
50%
4割未満
7
25
60%
70%
80%
8
90%
ほとんど転嫁できていない
100%
その他
図表3.原材料・仕入価格上昇に対する価格転嫁状況(非製造業)
今年・2016年
2015年
2014年
27
29
25
22
25
25
2013年
2012年
15
10
20
2011年
2010年
2009年
9
9
9
9
0%
19
20
10%
販売価格にほぼすべて転嫁
30%
6割以上
16
10
8
8
21
29
16
4
6
43
18
29
10
10
45
11
9
20%
10
10
11
9
7
12
14
11
13
14
16
18
40%
35
34
50%
4~6割
60%
4割未満
10
10
70%
80%
90%
ほとんど転嫁できていない
100%
その他
2.原材料・仕入価格上昇に対する対策(複数回答)
(1)今年(2016 年)の状況
全産業で最も多い回答は、
「経費の節減」で 72%を占め、次いで「販売価格への転嫁」の 65%、
「仕入先の変更」の 33%、
「省エネ・燃料効率化」22%の順となっている。
(2)過去の状況との比較
過去の調査結果においても、全体で最も多い回答はいずれの年も「経費の節減」である。ただ
し、
「経費の節減」は、2012 年に 83%であったが、今年は 72%へと低下している。一方、
「販売
価格への転嫁」は、2012 年の 42%以降上昇を続け、今年は 65%に上昇している。原材料・仕入
価格上昇に対する各企業の主な対策が「経費の節減」に努めると共に、
「販売価格への転嫁」にも
対応している傾向がみられる。
(図表4)
図表4.原材料・仕入価格上昇に対する対策(全産業・上位6項目)
100
%
80
83 82 74 74
2012年 2013年 2014年 2015年 2016年
72
60 65
60
42
50
54
40
29
24 25 25
33
30
27 21 23 22
20
26
16 16 17
13
10 10 10
6 7
0
経費の節減
販売価格への転嫁
仕入先の変更
省エネ・燃料効率化
(注)複数回答のため合計は 100%にならない。
―3-
人件費の削減
業務の転換(多角化)
%
業種別に見ると、業種を問わず「経費の節減」(製造業 76%、非製造業 66%) が最も多く、次
(3)業種別の状況
いで「販売価格への転嫁」(製造業 66%、非製造業 64%)となっている。「経費の節減」と「販売
価格への転嫁」が多くの企業で取られている主な対策となっている。最近の傾向を見ると「経費
の節減」が減少する一方で、
「販売価格への転嫁」が経年して比率を高め、製造業、非生業ともに
この5年間で 20 ㌽以上増加している。(図表5、6)
図表5.原材料・仕入価格上昇に対する対策(製造業・上位6項目)
100
83 84
%
2012年 2013年
75 77 76
80
6166
60
42 49 50
40
36
32
28 27
27
2014年
2015年
2016年
33
29
21 28 23
20
26
20 19 19
15
6 9 7 6 11
0
経費の節減
販売価格への転嫁
仕入先の変更
省エネ・燃料効率化
人件費の削減
業務の転換(多角化)
(注)複数回答のため合計は 100%にならない。
図表6.原材料・仕入価格上昇に対する対策(非製造業・上位6項目)
90
% 80 82 78
2012年 2013年 2014年 2015年 2016年
73 70
70
66
58 57 64
60
52
50
42
40
30
25 25
30
22 25 21
25
20 20
16
16
15
20
14
10
12 12 13
7 5
10
10
0
経費の節減
販売価格への転嫁
仕入先の変更
省エネ・燃料効率化
人件費の削減
業務の転換(多角化)
(注)複数回答のため合計は 100%にならない。
3.まとめ
2008 年以降の調査によると、全産業で「ほとんど転嫁できていない」が昨年まで毎年最も多い
回答であったが、今年は 21%と前年に比べ 4 ㌽低下し、これに代わって「販売価格にほぼすべて
転嫁」と「6割以上転嫁」がともに 23%で最多となっている。本稿で言う「満足できる状況」の
企業割合が 2012 年以降右肩上がりで推移しており、販売価格への転嫁状況は改善してきている。
企業は、これからも引き続き、製品・サービスの付加価値を高めることにより、原材料価格上昇
を販売価格に転嫁できる力を高める経営努力を継続することが求められている。
―4-