320 オレオサイエンス 第 16 巻第 7 号(2016) 特集序言 「αゲルを考える」の企画と編集にあたって 山 下 裕 司 (千葉科学大学薬学部) α ゲル(α-gel)という言葉,あまり聞き慣れない方もいるかもしれません。実際に化学用語辞典には掲載 されておらず,限られた分野で用いられる用語のようです。また,同じ専門分野でさえ α ゲルと同義の言葉 があり,例えば,ラメラゲル相やゲルネットワークが挙げられます。丸善株式会社から出版されている『化 粧品事典』 (日本化粧品技術者会編,2003 年発行)には「α- ゲル」が記載されており,親水部に多量の水を保 持した両親媒性分子の結晶と定義されています。一見,ラメラ液晶に似た構造を取りますが,α ゲルでは疎水 鎖が液体状態ではなく,またコアゲル(固体結晶)とは異なり分子の回転自由度を持ちます。一般的に α ゲ ルは準安定状態であり,不安定な状態にかかわらず古くから様々な工業製品に利用されています。近年でも α ゲルに関する研究報告が散見され,未だ論争の絶えない非平衡系のテーマだと感じています。 そこで,α ゲルを見直す想いを込めて『α ゲルを考える』という特集企画を組みました。本企画は,筆者が 所属する千葉科学大学主催のシンポジウムテーマ『α ゲルについて考える会』に習い,本シンポジウムでご講 演頂きました 4 名の先生方にご執筆をお願いしました。資生堂グローバルイノベーションセンターの渡辺啓先 生には,化粧品における α ゲルの基本を詳しく概説して頂きました。また,NMR による自己拡散係数測定と SAXS 測定を組み合わせた水の状態に関する評価法を紹介されています。東京理科大学の酒井健一先生には, 2 鎖 2 親水基のジェミニ型界面活性剤を用いた α ゲルの調製とその特徴を解説して頂きました。花王株式会社 の織田政紀先生と内山雅普先生には,皮膚角層の構造からヒントを得た新しい保湿スキンケア製剤開発につい て,開発プロセスと設計コンセプトを交えながら解説して頂きました。最後に,株式会社シャネル化粧品技術 開発研究所の宮本雅義先生,城西大学の徳留嘉寛先生,および筆者から,両親媒性のトラネキサム酸誘導体を 用いた α ゲルの調製と化粧品としての機能性評価を紹介して頂きました。 本企画は,経験豊富な産業界からの執筆が中心となりましたが,α ゲルを学術的にも深耕できる特集に仕上 りました。また,この度は残念ながら執筆を辞退されました田中佳佑先生と鈴木敏幸先生も過去に本誌総説(オ レオサイエンス第 15 巻第 1 号(2015) )に α ゲルに関するご寄稿を頂いておりますので,併せてご閲読して 頂ければと存じます。おわりに,ご多忙の中,本特集のご執筆にご理解,ご協力頂きました先生方に深謝申し 上げます。 ※「α ゲル」の表記については未だ統一されているとはいえないため,各著者の表記のままにしました(和 英とも) 。論文毎に違う表記になっておりますが,ご了承ください(編集部)。 ― 2 ―
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