第 1 章 オフィスの日常業務で 必要なバイヤーの 基本動作を極める 社内外のコミュニケーションに活用するメールの送受信と、サプライヤの関係 参照する画面です。最近では無料で名刺のデータ化をおこなうサービスもありま バイヤーがふだん仕事をするデスクに、自社の最大限の購買力を発揮するため すし、メールソフトに装備されている検索機能を活用すれば、過去の社内やサプ に、どのような機能を持たせるべきでしょうか。バイヤーがサプライヤとおこな ライヤのコミュニケーション経緯の確認が可能です。これは、最新のコミュニケ う商談は、主に自社にサプライヤの担当者が来訪しておこなわれます。自社をホ ーションに加えて、過去の経緯を踏まえた継続性のある業務遂行と、連絡先や過 ーム、サプライヤ訪問がアウェイとすれば、過半数以上の打ち合わせや交渉の機 去の経緯を探す手間と時間を最少化し、日々の取り組みに効率的に活用される画 会がホームでの戦いです。一般にホームでの戦いは、どんなスポーツ競技でも有 面です。 利と言われています。営業部門ともっとも大きな違いは、自分に有利なホーム環 (2)発注情報検索 境で過半数以上の商談をこなせる点です。バイヤーは、戦いの主戦場である自社 この画面は、最新の発注状況を確認する画面です。発注残や近い将来の発注情 へのサプライヤ来訪時にこそ、もっとも購買力を最大化してサプライヤを攻略し、 報を確認します。各企業で設定された部品番号や品番で確認し、サプライヤから 自社に有利な取引条件を確保しなければなりません。 の日常的な問い合わせに備えます。 (3)発注履歴検索 ① パソコンで武器を準備する方法 この画面は、過去の発注情報を検索し最新の交渉や注文書の発行に活用する画 今やビジネスパーソンの日常業務には欠かせないパソコン。その能力と機能は 面です。また、サプライヤとの取引基本契約内容の確認や、新規採用時や継続審 進化を重ねています。しかしパソコンはまだ状況判断と意志決定ができません。 査時にサプライヤから入手した情報の参照にも活用します。この画面もサプライ したがって、パソコンを使い倒すためには、バイヤーがおこなう状況判断に活用 ヤとのコミュニケーションに活用し、サプライヤへの発注方針を検討する際に必 する情報収集と、収集した情報を分析し、意志決定へ活用が必要です。 要なデータ入手をおこないます。 ここで、パソコンのモニターの画面を例に、バイヤーに必要な五つの画面をご (4)図面・仕様書 / 分析データ 紹介します(図1-1)。 この画面は、自社で発注する内容を確認するための情報を入手します。図面や 仕様書が電子データで検索できる環境があれば、紙に印刷する必要はありません。 1)メール / 連絡先DB 4)図面・仕様書 / 分析データ データ形式が PDF であれば、ちょっとしたメモや注記が電子データ上で残せます。 ここでは、価格を決定する際の根拠となる、バイヤーにとってもっとも重要な情 報を参照するために、五つの画面の中で最も大きなスペースを割いています。 2)発注情報検索 (5)市況情報・ニュース 3)発注履歴・ サプライヤ情報検索 5)市況情報・ニュース 購入品に、市況変動がある原材料が含まれる場合や、最新の経営環境に影響す るニュースを確認するための画面です。市況情報の入手は、一定の頻度で同じ情 報ソースのデータを繰り返し参照する「定点観測」をおこないます。参照した時 点の数値だけでは、高いのか安いのか、将来的にどのような見通しがあって、購 図1-1 バイヤーに必要な画面構成 2 入活動に影響があるのかどうかは判断できません。情報源を決めたら継続的にデ 3 1 オフィスの日常業務で必要なバイヤーの基本動作を極める 者から受け取った名刺の情報をデータ化して、電話番号や住所といった連絡先を 第 章 1. バイヤーはデスクで 「武器」を準備する (1)メール / 連絡先 DB ない事態を避ける目的もあります。情報を入手できなかったばっかりに、あやま (5) の画面で入手する市況データは数値情報です。現在ビジネスパーソンが触 った意志決定をしてしまう事態を回避するためにも、担当する購入品の需給や価 れる情報量は極めて大量になっており、最新の数値による価格情報だけを入手し 格に影響する情報をインターネットを活用して入手します(図1-2) 。 ても、過去の価格がなければ活用できません。そんなときは、パソコンソフトを 最近では、27インチの大きな画面のパソコンモニターの価格も下がっています。 活用して、数値情報をグラフ化します。多くのビジネスパーソンが活用する情報 ノートパソコンを使用している場合でも、外部モニターの接続機能を活用して、 であれば、グラフで入手が可能です。世の中にグラフ化した情報がない場合は、 広いパソコン画面上の作業環境を確保します。また(2)(3)(4)のデータベー 入手した情報を蓄積して、バイヤーの実務に活用できるデータにします。 スの整備が遅れている場合は、調達・購買部門の業務効率化に大きな影響を与え る事態ですので、上位者や社内 IT 部門に改善を要請します。 ③ アウェイに備える 近年の調達・購買業務は、バイヤーが自社にとどまらすに、サプライヤへの訪 問頻度を上げる方向に進化しています。パソコンと機密保持が可能な通信手段、 携帯電話を確保すれば、社外でも社内と同じような業務遂行が可能です。外出す インターネットでグラフが入手できる場合 は、グラフを参照して、トレンドを理解し、 自社の購入品価格への影響を探る る頻度が増えたといっても、まだ社内で業務に当たる機会が多いでしょう。社内 では業務遂行に必要なデータの整備をおこなって、社外でサプライヤと対峙した 際には、もっぱらデータの参照をおこなうといったスタイルで、自社内と同じ業 務環境を実現させます。こういった環境の準備は、サプライヤとの折衝・交渉準 備の日常化につながり、社内と社外でおこなうバイヤーの業務品質格差の解消へ とつながります。いつでもどこでもパソコンや携帯電話と自社の機密情報を守る 通信手段を確保して、滞りのないスピーディーな業務遂行を実現しましょう(図 数値情報しか入手できない場合は、日々確 認した数値を蓄積して、自分でグラフ化し てトレンドを掌握する 1-3) 。 自社内:データ整備と参照 社外:参照 ⇒社内外の業務品質格差を 解消するために IT 活用 図1-2 市況データは 「定点観測」 で継続的にチェックする 図1-3 データ整備の必要性 4 5 1 オフィスの日常業務で必要なバイヤーの基本動作を極める ② データの効果的な取り扱い方法 第 章 ータをチェックします。またこの画面は、誰もが知っている情報を自分だけ知ら 第 章 1 企業内で調達・購買活動をおこなう場合、上位者とのコミュニケーションは欠 かせません。部下の立場で、上司とコミュニケーションするポイントを考えます。 ① 上司に理解してもらう取り組み 根拠を提示して、 最新の状況を理 解してもらうた めに報告する ⇒変化点を提示 する 上司だけでなく、人間関係には良し悪しが存在します。すべての人間関係に共 通する考え方は、人間関係が悪い場合、その原因の半分は自分自身にあるとの点 です。人間関係が良ければ、会社生活は楽しくなります。一方、人間関係がしっ くりいっていない職場では、気分だけでなく雰囲気も悪くなってしまいます。ど 図1-4 上司への報告 んな人間関係でも、問題が相手にだけあるとしてしまうと、改善も相手次第にな り、結果的に改善できなくなってしまいます。最低半分は存在する自分の責任範 囲で、上司とも相互理解を促す対処をおこないます。 といった決済基準で、異動してきた上位者に初めて承認を求める場合は、仕事に 現在のあなたの担当業務は、あなたの上司にも同じ担当経験がありますか。調 関連した背景や、金額のほか、決裁を求める根拠を説明します。 達・購買部門だったら、同じサプライヤや、購入カテゴリーを経験していれば、 他部門から異動してきた上司の立場に立ってみます。調達・購買部門の業務内 あなたの業務内容を理解している可能性が高くなります。ただし、ビジネスの環 容に理解がある人は、極めて少ないでしょう。買い物なんて誰でもできるといっ 境は刻々と変化しており、上司がおこなっていた時代と現代は同じ環境ではあり た認識をもって異動してくる場合もあるでしょう。あるいは、決裁するにも基準 ません。環境変化による軌道修正部分は、上司に積極的に報告します。具体的に がわからないと、真摯(しんし)に説明を求める場合も想定されます。上司が理 は、自社の要求内容の変化や、購入数量の変化といった自社の変化要因。そして、 解していない場合、部下は説明しなければなりません。もし、上司が自分をわか 原材料費や為替レートの変動に象徴される外部要因の変動にともなって発生する ってくれないと考えたら、自分は理解できるように説明しているかと確認しなけ 影響です。自社の購入に与えた、あるいは与えるであろう影響を伝えます(図 ればなりません。 1- 4) 。 上司があなたと同じ仕事を過去に担当していても、現在の詳細状況は理解して ② 「聞いている」を態度で示す いません。上司は過去の経験にもとづいて、今の問題を判断します。上司と部下 いくら説明したいと思っても、あなたの発言に上司は聞く耳を持っているでし の認識のギャップは、多くの場合、過去と現在のシンプルなギャップが問題なの ょうか。既に「わかってくれない」と、上司に理解がないと思いこんでいる場合 です。こういった状況を改善するには、上位者の経験の上書きを目的に、重要な は、あなたの発言に耳を傾けようとする意志を持っていないかもしれません。 点だけでも、上司に「変化点」として報告します。 この場合、なぜそのように至ったのかを追求しても、改善策は生まれません。 今の担当業務を過去に上司が経験していない場合です。例えば、調達・購買部 それより、これからの行動で示します。上司に話を聞いてほしいのなら、まず自 門の上位者に、他部門の出身者が異動してきた状況を想定します。もし発注金額 ら上司の話に耳を傾け、指示内容を的確に実行します。話を聞く、まさにその瞬 6 7 オフィスの日常業務で必要なバイヤーの基本動作を極める 2. 上司との会話から 社内の最新情報を入手する
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