[リサーチTODAY]インバウンドはサービス消費取り込みが重要に

リサーチ TODAY
2016 年 7 月 11 日
インバウンドはサービス消費取り込みが重要に
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
2015年の訪日外客数は1,974万人と前年比5割もの大幅増となったが、2015年度後半以降インバウンド
消費の減速感が強まっている。要因分解をすると、訪日客数は底堅く推移する一方、一人あたり支出の伸
び鈍化が鮮明である。特に、中国及びNIEsからの旅行者の一人当たり買物代の減少が顕著であり、①円
安傾向の転換、②免税対象品拡大やビザ緩和といった政策効果の一巡がその背景にある。みずほ総合
研究所では、インバウンド消費減速に関するリポートを発表している1。下記の図表は、インバウンド消費の
要因分解の推移を示している。ここから最近のインバウンド消費の急減速の主因は、一人当たりの支出の
低下にあることが読み取れる。国内景気が停滞する中、インバウンド関連需要の増加は数少ない押し上げ
要因と期待されているが、今後は一人当たりインバウンド消費の大幅な伸びを期待しにくい。そのため、一
人当たり支出の底上げに向けて、買い物だけでなくサービス消費の取り込みが重要な戦略になるとみずほ
総合研究所は考えている。
■図表:インバウンド消費の要因分解
90
(前年比、%)
一人当たり支出
訪日客数
インバウンド消費
80
70
60
50
40
30
20
10
0
-10
(年)
-20
2013
2014
2015
2016
(資料)観光庁「訪日外国人消費動向調査」、日本政府観光局(JNTO)より、みずほ総合研究所作成
次ページの図表はインバウンド消費の費目別の一人当たりの消費推移を示す。サービスは大きな変動
がなく概ね横ばいの動きとなっている一方で、買い物代の減速が顕著だ。特に、中国人やNIEs旅行者の
買い物代が落ち込んでいる。その要因は、これまでの円安傾向の転換と、免税対象品拡大等の政策効果
の一巡にある。足元、英国のEU離脱の影響で一段の円高になったことなどから、今後も大幅な伸びは期待
1
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2016 年 7 月 11 日
しにくい。
■図表:インバウンド消費の費目別の一人当たり支出
(前年比、%)
60
買物代
50
サービス
40
30
20
10
0
-10
-20
2013
2014
2015
2016
(年)
(注)サービスは「宿泊料金」、「娯楽サービス費」、「飲食費」、「交通費」、「その他」の合計。
(資料)観光庁「訪日外国人消費動向調査」、日本政府観光局(JNTO)よりみずほ総合研究所作成
下記の図表は一人当たり支出と所得水準の中期的な関係をみたものだ。買物代と異なり、飲食費や宿
泊料金などのサービス消費は、所得水準が上昇するにつれて増加する傾向がある。今後アジア諸国の所
得水準が上昇し、自国製品と日本製品の品質格差が縮小することで日本での買物への魅力が低下し、旅
行目的が文化体験等にシフトすると予想される。よって今後はサービス消費を取り込む姿勢が重要となる
だろう。
■図表:インバウンド一人当たり旅行支出と所得水準
【買物代】
(円/人)
(円/人)
180,000
200,000
160,000
180,000
140,000
160,000
【サービス】
140,000
120,000
120,000
100,000
100,000
80,000
80,000
60,000
60,000
40,000
40,000
20,000
20,000
0
0
0
20,000
40,000
60,000
0
80,000
(米ドル(購買力平価ベース)/人)
20,000
40,000
60,000
80,000
(米ドル(購買力平価ベース)/人)
(注)1. 各費目の一人当たり旅行支出は消費者物価指数を用いて実質化。
2. 観光庁公表の一人当たり旅行支出の値。
3. 20 カ国・地域の 2010~2015 年の暦年の値によるアンバランスドパネルデータを用いて作成。
4. サービスは「宿泊料金」、「娯楽サービス費」、「飲食費」、「交通費」、「その他」の合計値。
(資料)観光庁「訪日外国人消費動向調査」、総務省「消費者物価指数」、IMF より、みずほ総合研究所作成
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宮嶋貴之 「インバウンド消費減速の背景と今後の展望」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 6 月 23 日)
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