TICAD VⅠ開催 〜アフリカの今を知る

2016
JUL& AUG
ー vol.86 ー
03
今月の特集
22
TICAD VⅠ開催 ~アフリカの今を知る~
14
みずほ総合研究所 ロンドン事務所 所長 山本 康雄
メキシコ・ペソの為替相場と
リスクヘッジについて
(2)
みずほ銀行 国際為替部
アジア・エマージングチーム 参事役 吉田 憲史
国際人事労務リポート
インドネシアにおける労務リスクマネジメント
森・濱田松本法律事務所 弁護士 竹内 哲氏
20
空港設計のリーダーカンパニー
株式会社梓設計 代表取締役社長 杉谷 文彦氏
グローバル インサイト
国際社会復帰により高まる
イラン市場への注目
18
第60回 WAZA〜世界に誇るニッポン企業〜
中国商務指南〜中国ビジネス最新ガイド〜
13次五カ年計画の概要
みずほ銀行
(中国)
有限公司 中国業務部 主任研究員 細川 美穂子
23
みずほフィナンシャルグループからのお知らせ
Charoen Pokphand Group Co., Ltd. との
業務協力覚書の締結について
GMのグローバルEYE
TICAD VⅠ開催 ~アフリカの今を知る~
アフリカへの
新たなアプローチを考える
日本貿易振興機構
(ジェトロ)海外調査部
中東アフリカ課 課長 常味 高志氏
PPPすなわち官民の連携、
③アフリカ各国が求める分野は、
インフ
ラ整備、産業人材、保健、農業、
日本が発揮したい分野。第1回か
ら20年という節目となった2013年のTICAD Vにおいて、
アフリカ
の成長を評価し、
真のビジネスパートナーに向けた関係構築を促す
ということである。
日本政府は、
このメッセージをもとに5年間で最大
*
今 年はTICAD 年、
しかもTICAD
3.2兆円
(当時320億米ドル)
を拠出することを表明した。
日本にとっ
が創設されて23年目で初のアフリカ
てのアフリカを最大限アピールする重要な取り組みであり、
「支援か
開催だ。筆者が現職につく前は展示
ら市場へ」
と導くものであった。
事業部の国内見本市事業を所管す
アフリカは54ヵ国から成る有望市場である。
ジェトロもこのTICAD
る部署におり、
そこでTICAD Vに出会
Vを契機にアフリカ戦略として4つの車輪を掲げた。1つ目は、
「日本
うことになる。
日本貿易振興機構
(ジェ
企業の対アフリカ投資支援」
である。
ミッションの派遣や展示会の
トロ)
は、
TICAD Vにおいて、大規模
出展支援を行うだけではなく、
ビジネスを実現するうえでキーとなる課
な展示会
(アフリカン・フェア2013)
や
題の解決を促進していくための投資促進フォーラム
(AIPF)
を設立
シンポジウムの開催、
さらには個別に
した。現在、
カウンターパートは、
南アフリカ、
ナイジェリア、
コートジボ
政府の要請を受け、
エチオピアなど国別の投資セミナーの開催を行
ワール、
タンザニア、
ケニア、
エジプト、
モロッコ、
エチオピアである。今
い、
日本とアフリカの相互理解を深めることを目的とした事業を積極
後も加盟国を増やしていくことで日本とアフリカに広く深い関係をも
的に行った。筆者が責任者として陣頭指揮をとった
「アフリカン・フェ
たらし、
コネクションネットワークの基点としたい。AIPFは設立して2
ア2013」
は、
TICAD本会議が始まる前から4日間開催されたものだ
年近くになるが、
加盟した8ヵ国においてはジャパンデスクを設置す
が、約6,700平米のスペースに45ヵ国のアフリカブース、
日本企業
ることで合意した。2つ目は、
「双方向の貿易拡大」
である。アフリカ
ブース、
販売コーナー、
レストラン、
ジェトロが実施した開発輸入実証
各地で開催される大型展示会でのジャパンフェアの開催、
BOP市
事業
(コーヒーや家具など)
の紹介、
コンサートなどのイベントも織り
場開拓調査、
現地でのアンテナショップの設置、
開発輸入実証事
交ぜ、
毎日が人で溢れるものであった。
業、専門家による個別支援など多くのメニューを提供した。
さらに3
常味課長
つ目が、
「日本企業のインフラ整備参画支援」
である。アフリカ主要
国のインフラ事情案件をマッピングで紹介するほか、有力者招聘、
視察ミッションの派遣、
コーディネーター設置による個別支援であ
る。
そして最後に
「地場産業や人材育成への貢献」
である。自動車
や環境分野の専門家派遣による現地指導、
開発輸入実証事業、
有望ビジネスパーソンの受け入れ、
日本で開催される展示会の出展
支援といったところだ。アフリカ諸国を取り込むには、
相手国関係者
とのコネクションをしっかりと作りつつ、
適度に相手から感謝される協
アフリカン・フェア2013 出展者と記念写真
力事業を織り交ぜながら、
ビジネス戦略を練り上げていくことが重要
である。
「継続は力なり」
ではないが、今後も引き続きこの車輪を深
アフリカの活力を取り込む戦略~4つの車輪~
化させ、
日本とアフリカのさまざまな機会の創出をしていかなくてはい
TICADは、
1993年の第1回を皮 切りにこれまで5年に1回の
けない。
ペースで開催されてきた。前回のTICAD Vの開会式の安倍総理の
スピーチは、
主に次のようなものであった。①TICADを通じて一貫し
日系企業の多くがアフリカ事業の拡大に意欲
て訴えたのが
「自助」
と、
「自立」の重要性、
そしてあくまで成長を重
アフリカ諸国は、総じて高い成長率を示してきた。IMF統計
(図
視する発想、②今、
アフリカに必要なのは民間投資。
それを生かす
表)
で2016年の成長予測をみると、特に非産油国である東アフリ
mizuho global news | 2016 JUL&AUG vol.86 0 3
特集:TICAD VⅠ開催 ~アフリカの今を知る~
図表. アフリカ主要国の経済指標
(2015〜2017年)
カ諸国はケニアが6.0%、
タンザ
ニアが6.9%の高成長となってい
る。
コートジボワールやモザンビー
クも高い成長予測。資源国であ
るナイジェリアやアンゴラは石油
価格下落の影響を大きく受ける
が、
それぞれ2.3%、
2.5%と見込ま
れている。
アフリカに進出した現地の日系
企業も、多くが事業拡大への意
国名
ナイジェリア
南アフリカ共和国
モロッコ
アンゴラ
エチオピア
ケニア
タンザニア
コンゴ民主共和国
ガーナ
コートジボワール
モザンビーク
エジプト
人口
(100万人) 名目GDP
(10億米ドル)
実質GDP成長率
(%)
1人あたりGDP
(米ドル)
2016年
2015年 2016年 2017年 2015年 2016年 2017年 2015年 2016年 2017年
183.64
490.2
538.0
621.0
2.7
2.3
3.5
2,743
2,930
3,291
55.83
313.0
266.2
273.7
1.3
0.6
1.2
5,695
4,768
4,826
33.83
103.1
108.1
114.3
4.5
2.3
4.1
3,079
3,196
3,348
25.87
103.0
81.5
86.3
3.0
2.5
2.7
4,100
3,150
3,238
91.20
61.6
67.4
74.1
10.2
4.5
7.0
687
739
800
45.48
61.4
64.7
69.1
5.6
6.0
6.1
1,388
1,422
1,477
48.63
44.9
45.9
49.5
7.0
6.9
6.8
942
944
998
84.13
38.9
41.2
43.7
7.7
4.9
5.1
476
490
504
27.57
36.0
38.2
40.9
3.5
4.5
7.7
1,340
1,384
1,447
24.33
31.2
34.7
38.5
8.6
8.5
8.0
1,315
1,425
1,542
28.75
15.0
12.5
12.5
6.3
6.0
6.8
535
435
423
90.20
330.8
n.a
n.a.
4.2
3.3
4.3
3,740
n.a.
n.a.
(注)
①:推定値を含む。②:名目GDP値
(2016年)
順
出所:IMF, World Economic Outlook Database, April 2016
欲を示している。
ジェトロが2015年9~11月にかけて実施した
「在
い。先ほど述べたようにリスクヘッジに長けている南アフリカ企業と
アフリカ進出日系企業実態調査
(2015年度調査)
」
によれば、
過半
の協調路線も考えられるが、
方法はそれだけではない。近年、
大きく
(55.6%)
の進出日系企業が
「今後1~2年にかけて事業を拡大」
成長を遂げてきた中東地域の企業をうまく活用することも大きな手
する予定だ。進出動機としては
「市場の将来性」
(90.5%)
、
「市場
になる。中でも手を挙げているのがトルコである。
トルコはこのところ
規模」
(73.8%)
が2大動機となっており、
進出後の実感もおおむね
政治不信やテロ事件の続発などでビジネスリスクが大きく取り上げ
「期待どおり」
と評価している。
られるようになったが、
継続的な経済成長で個々の大手企業が力を
こうしたポジティブな材料がそろう反面、
近年では資源価格の下
持ち、
アフリカ地域へのビジネス展開に意欲があり、
真剣に日本企
落や中国経済の減速などの影響で、成長の停滞も懸念されてい
業との協力を求める声が大きい。
ジェトロは昨年11月の安倍総理の
る。アフリカのリスクというと資源価格の下落がよく取り上げられる
トルコ歴訪時にビジネスフォーラムを開催したが、
トルコの貿易・投
が、
成長の寄与度を項目別にみると、
実は鉱業以上に個人消費が
資振興機関であるDEIK
(対外経済評議会)
と民間経済団体であ
貢献している。アフリカの経済成長は内需が牽引しており、
投資が
るMUSIAD
(独立工業企業家協会)
とMOUを締結した。彼らの目
行われて需要が生まれ、
その結果輸入が増加して成長を支えるとい
的は、
日本企業の持つ技術力をトルコが持つ海外ネッ
トワークで広く
う構造になっており、輸入が果たす役割が大きい。
そのため、特に
展開していこうというもの。実際に中央アジアのケースでも日系企業
急激な為替変動
(通貨安)
が、輸入減の最大のリスク要因となりう
とトルコ大手企業との共同事業が展開されている実績がある。
トル
る。実際に近年、
ナイジェリアやアンゴラが大幅な通貨切り下げを
コ航空は、
世界で最も多くアフリカへの航路を持っており、
そのネット
行っている。
ワークを活用して、
東アフリカ地域への投資実績を重ねてきている。
治安面では国際テロが多発しており、
ソマリアからサハラ砂漠へ
その他でもサウジアラビアの大手企業がアフリカ南部での水ビジネ
とイスラム過激派組織の活動が拡大している。加えて、
感染症
(特
スを日系企業と行っているケースがある。
あるトルコ企業は、
「リスク
にHIV)
のリスクが大きい。南アフリカでも約600万人が感染してお
は自分が採るから日本をぜひパートナーにしたい」
と自信に満ち溢れ
り、
成人感染率は19%だという。
しかし、
各種のリスクがある中でも、
ている。アフリカ市場を攻める1つのキーワードは、
「中東からのエン
南アフリカの大手企業はアフリカ市場に精通しており、
十分にリス
トリーポイント」
ではないだろうか。TICAD VⅠ以降、
こうした観点でも
ク対策を練りながら、積極果敢に国際展開することに長けている。
ジェトロは皆さまのお役に立ちたいと願っている。2016年8月に開
日本企業も南アフリカ企業のように、
グローバル企業としての企業
催されるTICAD VⅠではどのような出来事が待っているのだろうか。
体制を確立することが必要だが、
企業間で連携し、
協調してアフリカ
その成功を祈る。
での市場拡大を狙うこともリスクヘッジの手段となるだろう。
* Tokyo International Conference on African Development
(アフリカ開発会議)
アフリカに根差す新たな方策
〜中東をベースとした第三国との協力〜
今後、
日本企業がアフリカ市場を攻めるにおいて、
重要と考えられ
るのが第三国企業との協力である。アフリカ市場は大きくて魅力に
溢れているが、
正直、
どのように入り込むのが効果的かつ効率的な
のか、
悩む企業が多い。情報も他地域と異なりなかなか入手できな
04 mizuho global news | 2016 JUL&AUG vol.86
の略であり、
アフリカの開発をテーマに、1993年以降、
日本政府が主導し、国連、国
連開発計画
(UNDP)
、
アフリカ連合委員会
(AUC)
、世界銀行との共催によりに始
まった国際会議。
これまで日本において5回の開催実績があり、前回のTICAD Vは
2013年6月に横浜で開催された
【常味 高志氏 プロフィール】
1970年生まれ。1993年4月日本貿易振興会入会。2007~2011年一般
財団法人中東協力センター出向。海外駐在はパキスタン、
サウジアラビア。
2014年4月より海外調査部中東アフリカ課長、2015年6月より企画部中
東地域戦略主幹を併任。
TICAD VⅠ開催 ~アフリカの今を知る~:特集
みずほ銀行ヨハネスブルグ出張所に
つきまして
みずほ銀行 ロンドン支店 ヨハネスブルグ出張所
所長 山路 康之
サハラ輸出入取引に対
するトレードファイナンス
のニーズが高まっており、
域内の開発銀行や各金
融機関と協働しながら1
早いものでヨハネスブルグ
件1件テーラーメイドで案
に赴任してすでに2年半が経
件を進めている状況で
ちました。2013年12月に南ア
す。
またアフリカでは対外決済用の米ドル調達ニーズが高い反面、
欧
フリカにヨハネスブルグ出張
米系銀行からの供給が乏しく〈
、みずほ〉
も何ヵ国かの政府、
国営企業
所を開設した後、
サブサハラ
等の外貨調達のお手伝いをしています。
地域における
〈みずほ〉
の取引
アフリカでの業務を推進するうえで、南アフリカのスタンダードバ
も大幅に増えており、新拠点
ンクと業務協力協定を締結
(2012年2月)
したことが、大いな強み
の立ち上げを無事に完了でき
になっています。
スタンダードバンクはアフリカ最大の金融機関であ
たと、
最近手応えを感じていま
り、
サブサハラ地域21ヵ国で1,221支店
(一部は現地法人形態)
、
す。
また今年度のTICAD VⅠ
ATM8,815台とアフリカ最大のネッ
トワークを有しています。ユニバー
に向けて日系企業の同地域
サルバンク形態でインベストメントバンク業務も強みとし、
サブサハラで
への取り組みがさらに加速することが予想されますし、
中国の影響が
の金融サービス提供能力は群を抜いています。
これまでも何件かの取
次第に薄れてきている状況下、
アフリカ各国の日本への期待もますま
引で協働してきましたが、
〈みずほ〉
とスタンダードバンクの提携で引き
す高まってきています。私自身もサブサハラ諸国をこれまでに14ヵ国を
続きサブサハラ地域において、
優れた金融サービスを提供できるもの
訪問し、
各国でのネッ
トワークも充実してきましたが、
こうした日本への
と考えています。
期待を正に実感しているところです。
資源価格の下落や中国経済の不調などにより、
サブサハラ各国
ここで簡単に当出張所の紹介をしたいと思います。当出張所は
の経済状況はにわかに暗雲が垂れ込めてきたと言える状況ですが、
Representative Officeのステータスであることから通常の預金・融資
中産階級の台頭や新たな資源開発などアフリカが持つポテンシャル
業務は行えず、
欧州拠点をブッキング拠点として各種金融サービスを
はまだまだ色褪せてはいないと思います。
日系企業のますますのご活
提供する形をとっています。営業範囲はサブサハラ全域が対象となっ
躍を期待しておりますし、
〈みずほ〉
も引き続きサブサハラでの取り組み
ておりますが、全部で48ヵ国もあることから、実質的には主要な7~
を充実させていく所存です。少しでもお役に立ちたいと考えております
8ヵ国
(国の格付けや日系・非日系企業の進出規模等を勘案し、
南ア
ので、
ぜひご相談等をお気軽にお寄せいただけると幸いです。
山路所長
フリカ、
ケニア、
ナイジェリア、
アンゴラ、
タンザニア、
モザンビーク、
ボツ
ワナ、
ナミビアなど)
が主たるターゲッ
ト国となります。
しかしながら、
お客
さまのご要望があればこれら以外の国においても各種金融サービスを
お届けしていきます。
所 在 地:2nd Floor, West Tower, Maude Street, Nelson Mandela
Square, Sandton 2196, South Africa, P O Box 785553, Sandton
2146
代表電話:27-11-881-5410 営業日:月曜日~金曜日
業務内容としましては、
日系企業とのお取引をはじめとし、
非日系
W
es
企業、
金融機関に対しても営業を行い、
これに加えプロジェクトファイ
については、
現在約250社強がサブサハラに進出されており、
このう
ち約120社強が在南アフリカとなっています。商社および一部製造
InterContinental
Hotel
業は当地での業歴も長く、
当地で製造・販売、
各種プロジェクト案件
Davinci
Hotel
しており、
金融取引の多様化ニーズが高まっています。
また2016年
はTICAD VⅠ前後で本邦企業のサブサハラへの新規進出が増加す
tS
t
Sandton
Convention
Centre
ナンス・
トレードファイナンス関連の取引も推進しています。
日系企業
への取り組みから資金調達・為替取引についても相当の規模に達
ヨハネスブルグ市内の夜景
Sa
nd
ton
Dr
5th
The Michelangelo
Hotel
St
Nelson Mandela
Square
Sandton
Station
nia
o
Riv
Rd
ると見込まれることから、
拠点設立手続きや現地アドバイザー・パート
ナー探しなどのニーズも高まっています。近年では日系企業の対サブ
空港からタクシーで約30分
(渋滞時約60分)
mizuho global news | 2016 JUL&AUG vol.86 0 5
特集:TICAD VⅠ開催 ~アフリカの今を知る~
TICAD VⅠ概要
TICAD特使・TICAD VⅠ事務局長
BENSON H.O.OGUTU大使
2016年8月27、
28日に、第6回アフ
リカ開発会議
(以下:TICAD VⅠ)
がケニ
ア共和国の首都ナイロビで開催されま
BENSON H.O.OGUTU大使
す。1993年のTICAD開始以来、初の
ナイロビ-アフリカ東部・中部のビジネス・外交の中心地
(TICAD VⅠ国際会議会場)
アフリカ開催となります。TICAD VⅠのア
ります。
それにより、
特に経済成長、
インフラおよび能力開発、
持続可
フリカ開催はTICAD Vで決定され、同
能な発展、
共生社会、
平和と安全に関する主要な問題に焦点を絞っ
時に今後は日本とアフリカで交互に開
た実務的な協力が証明されています。
催することが合意されました。
また、
開催
の枠組み
もう1つ重要なのは、
アフリカが進める
「アジェンダ2063*」
周期も5年ごとから3年ごとに短縮されて
(The Africa We Want)」
(2063年にまでに
「我々の望むアフリカ
を
います。
開発する)
が設定された直後というタイミングでTICAD VⅠがアフリカで
TICAD VⅠの日程は、
第26回AU
(アフリカ連合)
サミット開催中の
開催されるということです。
このアジェンダは、
今後50年でアフリカが社
2016年1月31日にケニア共和国大統領ウフル・
ミガイ
・ケニヤッタ氏、
会・経済改革を達成する道筋を示す重要なロードマップです。TICAD
アフリカ連合委員会
(AUC)
委員長ヌコサザナ・
ドラミニ・ズマ氏、
河合
プロセスは、
とりわけ日・アフリカ地域経済共同体
(RECs)
の役割、
包
克行首相補佐官によって正式に発表されました。
括的成長と持続可能な開発、
全ての人々のためのアフリカ資源の最
アフリカ大陸初のTICADを開催することは、
ケニアおよびアフリカ
適活用に重点を置いているという意味で、
アジェンダ2063に盛り込ま
諸国全体にとって大変な光栄なことです。
これは画期的な出来事であ
れた意欲的な目標に沿ったものとなっています。
り、
我々が望む日本との戦略的パートナーシップの実現をさらに加速さ
TICAD VⅠの準備を進める中で、
産業化、
水、
社会の安定、
パート
せるでしょう。
それよりも重要なのは、
1993年にTICADが誕生した際
ナーシップにおける民間セクターの関与の強化といった優先分野が
の2つの基本原則であるアフリカの
「オーナーシップ
(自助努力)
」
と国
広く議論されています。
また本会議では、
以下を行うための理想的なプ
際社会の
「パートナーシップ
(協調)
」
の概念が明示されたことです。
こ
ラッ
トフォームが提供されると期待されています。
・TICAD Vの実施状
れにより開発パートナーにアフリカ大陸の現実や、
課題と大きな投資
況を評価する。
・アフリカがビジネスを受け入れる準備が整っていること
機会に対する理解を深めてもらえるでしょう。
さらに、
TICADプロセスの
を示す。
・アジェンダ2063のための持続的パートナーシップを定着させ
主導権の現地化は、
アフリカ開発に関するハイレベルな政策対話にと
るうえで利用可能な機会を紹介する。
・日本の投資家に、
観光、
グリー
どまらず、
需要に応じた対応、
持続可能性、
包括性において有益であ
ンエネルギー、
イノベーション、
科学技術、
大陸内の域内貿易を促進す
り、
協力プログラムにおけるアフリカ諸国の利益の連結を確実なもの
るため地域間の接続を支えるインフラなど、
利用可能な投資の機会と
にします。
手段を直接体験してもらう。
・日本が先頭に立って進めているTICAD
1993年の開始以来、
TICADは、
特に平和と繁栄のためにアフリカ
プロセスやアフリカ開発への日本の貢献、
さらには国連、
国連開発計画
諸国首脳と国際的な開発パートナーのハイレベルな政策対話を促進
(UNDP)
、
世界銀行、
アフリカ連合委員会などの共催者の役割に対
してきました。TICAD VⅠは開発パートナーにとって、
TICAD支援プロ
する一般の認識を高める。
ジェクトによってアフリカの発展状況を直接体験する場になると期待さ
会議には、
アフリカ、
日本からの参加者をはじめ共催者、
国連機関、
れています。
さらにステークホルダーや特に民間セクターに関しては、
ア
国際組織、
各企業のトップなど約6,000人が参加する予定です。
フリカ大陸の現実、
課題と大きな投資機会をより明確に把握すること
わが国はこの重要な国際会議を主催することを誇りに思います。
ケ
でしょう。
ニア政府は、
政府ハイレベルが主導する準備作業の組織体制を始
アフリカと日本は発展を目的とした協力関係のビジョンを共有してい
動させました。
これは国家運営委員会を構成し、
TICADプロセスの全
ます。相互に有益なこの関係は、
世界経済・金融環境に起因する困
てのステークホルダーをまとめるものです。運営委員会は、
準備プロセ
難を乗り越え、
持続的発展のための戦略的関与を深化するための基
スを担当する各種小委員会によって支えられています。政府はさらに
盤です。TICADはまさに、
日本とアフリカの集団的対話に関する重要
TICAD VⅠ事務局を立ち上げ、
TICAD VⅠを確実に成功させることを
なプラッ
トフォームであり、
また協力関係構築の有効なメカニズムでもあ
任務とするTICAD特使を任命しました。事務局はすでに活発に活動し
06 mizuho global news | 2016 JUL&AUG vol.86
TICAD VⅠ開催 ~アフリカの今を知る~:特集
ています。準備会合としてこれまでに2016年2月の共催者とのワーク
ナーが成功したことについて、
この場を借りてみずほ銀行にお礼を申し
ショップ、
3月の東京でのアフリカ外交団との会合、
ジブチでのTICAD
上げます。
このセミナーでは、
ケニア・日本間の友好関係や開発協力
高級実務者会合でのブリーフィング、
4月にエチオピアの首都アディス
が50年以上続いているという事実が強調されました。
アベバでアフリカ連合委員会との会合、
共催者との諮問フォーラムが
最後に、
TICAD VⅠが、
我々の今日の課題と目標を論じ、
充実した成
行われました。今後は、
6月にガンビアで開かれる閣僚級会合などが予
果について、
アフリカと世界に発信することは、
両国にとって共通の利
定されています。
益になるということを申し添えたいと思います。
終わりにあたって、
2016年3月7日に東京で開催されたケニアセミ
*2063年までのアフリカの政治、経済、社会に関する長期的ビジョン
KENINVESTのご紹介
Dr. Moses Ikiara, PhD, MBS Managing Director KenInvest
Dr. Moses IKIARA
みずほ銀行はケニア投資庁
(以下:
「KenInvest」)
と業 務 協力覚 書を2015年8月に締 結しました。
KenInvestとの業務協力覚書締結は、邦銀では初
となります。KenInvestの概要、
ケニア投資の魅力
をご紹介します。
KenInvestは、国内外の投資家による
策定、
経済特区の設置、
市場アクセスの拡大などの改革が実行
投資の促進・円滑化を図るため、投資促
されています。ケニアが加盟している東アフリカ共同体は約1億
進法により2004年に設立されたケニア共
4,000万人を有する関税同盟領域であり、
東・中部・南部アフリカ
和国政府傘下の投資促進機関で、
主とし
では人口6億人の自由貿易圏が形成されつつあります。
こうした
て以下の機能を有します。
状況下、
再生可能資源を使った安価な電力、
鉄道網、
安全保障
投資促進:
の近代化といったインフラの整備が進められています。
これらの取
・投資機会や資金源に関する情報の提
供。
ケニアへの投資機会を現地および国外で推進。
投資円滑化:
り組みを支える主要機関として、
ビジネス改革に関する内閣委員
会、
ビジネス環境提供ユニッ
ト、
投資家のためのワンストップショッ
プなどがあり、
設置準備中のものもあります。
・投資家追跡・アフターケアサービス
ケニアでは47のカウンティ*が、
あらゆるセクターの投資機会を
・投資証明書の発行
数多く提供します。投資規模は大規模なものから小規模のものま
・各種許認可取得サポート
でさまざまです。他国に引けを取らないハイリターンを得られるチャ
・各種法律その他の規定に基づく奨励措置または免除の適用サ
ンスが、
誰にでも平等に与えられています。投資機会は農業から
ポート
製造業、
情報通信技術、
金融、
石油・鉱物、
エネルギー、
観光、
イン
政策提言:
フラ、
卸売、
小売業など多岐にわたります。
また、
官民連携プロジェ
・投資環境見直し改善の提案
クトの機会もありますし、
輸出加工区
(EPZ)
、
経済特区
(SEZ)
内
投資促進に関し、
KenInvestの指針となる最新政策が
「Kenya
外でもチャンスが得られます。
Vision 2030」
で、
経済、
社会、
政治の3本の柱より成り立ってい
最後に
ます。特に経済の柱として2030年までにGDP年間成長率10%
日本の投資家の皆さまには、
ぜひケニアを訪れ、
投資していただ
を達成し、
中所得国入りすることを目指しています。Kenya Vision
けることを願っています。
その際は、
KenInvestがあらゆる面でご相
2030では、
この成長を推進するため、
投資をGDPの32%の水準
談に応じることをお約束します。高い投資リターンとケニア滞在の
まで引き上げる必要があるとしています。KenInvestは、
Visionが掲
時間をお楽しみいただけることでしょう。首都ナイロビでは2016年
げる投資目標の達成に向けて主導的な役割を果たしています。
7月17日から22日まで第14回国連貿易開発会議
(UNCTAD)
の
日本企業にとってのケニアでのビジネスの魅力と機会
一環として第6回世界投資フォーラム
(WIF)
が開催されるほか、
8
ケニアでは近年、
直接投資件数が増加傾向にあります。対内
月27・28日にはTICAD VⅠが開催される予定です。皆さまのケニ
直接投資額は2012年の2億5,900万米ドルから2013年には5
ア訪問を心よりお待ちしています。
億1,400万米ドル、
さらに2014年には9億8,900万米ドルと増大
問い合わせ先:
し、
速報値によれば2015年も同様に高い伸びが続いています。
Website: www.investmentkenya.com
わが国はインフラ分野を重点分野として投資しており、
民間投資
E-mail: [email protected]
の成長を促す環境を整えようと規制上の条件、
認可要件の両面
[email protected]
を見直しています。現在、
行政手続きの見直し、
国家投資政策の
*日本の行政区に該当
mizuho global news | 2016 JUL&AUG vol.86 0 7
特集:TICAD VⅠ開催 ~アフリカの今を知る~
アフリカ金融と日系企業の投資機会
アフリカ開発銀行 アジア代表事務所
所長 横山 正氏
アフリカ開発銀行グループについて
て融資するとともに、
その他の域内国も含めた民間セクターへの出
融資等を行っている。AfDFは、
低所得国の政府等に対して無償資
金や譲許性の高い条件での融資を行っている。
当グループの特色は、
幅広い開発ニーズに対応しているものの、
この地域におけるインフラ整備の重要性に鑑み、
インフラ投資にそ
の資金の半分以上を使っていることである。
(1)
アフリカ開発銀行グループとは何か
アフリカ開発銀行グループは、ア
なお、
アフリカにおいてさまざまな資金提供業務を行っているた
フリカ 開 発 銀 行
(AfDB:African
め、
域内に38の事務所を有している
(図1)
。域外には、
唯一アジア
Development Bank)
、アフリカ開発
代表事務所が東京に設けられており、
アジア太平洋地域でのパー
基金
(AfDF:African Development
トナーシップの拡大、
知識の普及・情報の交換、
ビジネス・投資の促
Fund)等 から構成されるアフリカ地
*1
進を行っている。
域の開発に特化した国際開発金融
機関グループである。アフリカ54ヵ国
(3)
5つの優先課題と今後の取り組み
(域 内 国)
と日本や主 要 欧 米 諸 国
当グループとしては、多岐にわたる開発課題に対処する10ヵ年
を含む26ヵ国
(域外国)の合わせて
戦略
(2013~2022年)
を有している。昨年9月にアデシナ新総裁
AfDBについては、ナイジェリ
80ヵ国 が出資している。日本は、
を迎え、
昨年の持続可能な開発目標
(SDGs)
採択やCOP21の合
ア、米国に次ぐ第3位の出資、
AfDFについても、過去からの累積
意等のさまざまな動きも踏まえつつ、
当グループとして重点を置き、
取
で第2位の拠出
(貢献)
をしている。
また、
JICAの円借款等を活用
り組みを加速させる5つの優先分野を定めている。
それは、
①エネル
したEPSAという民間セクター開発支援スキームを通じて、当グ
ギー
(特に電力)
へのアクセスの向上、②食糧増産、③地域統合、
ループに多大な貢献を行ってきている。本部は、西アフリカのコー
④工業化、⑤アフリカの人々の生活の質の向上、
(いわゆるハイ・
トジボワールのアビジャンにある。
ファイブズ
(High 5s)
)
である
(図2)
。
横山所長
*2
この中でも、
エネルギー
(特に電力)
へのアクセスの向上は、
その他
の優先分野に不可欠なインフラであり、
特に重要視されている。
その
(2)
アフリカ開発銀行グループの使命と役割
当グループの使命は、
アフリカ諸国の持続的かつ包摂的な発
ため、
域内外の官民の力を合わせ、
アフリカにおけるエネルギーへの
展に資することであり、
その役割は、
域内国の政府等や民間を対象
ユニバーサル・アクセス実現を2025年までに実現するためのニュー
として、開発に資するための資金と助言の提供を行うことである。
ディールを打ち出している。
この実現には、現在見込まれる公的資
AfDBは、
準商業ベースの条件で中所得国14ヵ国の政府等に対し
金、
民間資金に加え、
さらに年間500億米ドル以上の資金動員が必
図1. AfDB各国事務所
要との試算もある。税収増等による域内での資金動員は不可欠であ
るが、
さらなる国内外の民間資金の動員も課題となっている。
チュニジア
(TRA)
モロッコ
セネガル
アルジェリア
モーリタニア マリ
ギニアビサウ
シエラレオネ
ギニア トーゴ ナイジェリア
ガーナベナンカメルーン
サントメ・
プリンシペ ガボン
本部:コートジボワール
(アビジャン)
域内事務所:38
代表事務所:1 日本
(東京)
アフリカの潜在性は膨大である。
マクロ経済面で言えば、
最近の
図2. アフリカ開発銀行の新政策 ハイ・ファイブズ
(High 5s)
南スーダン
CAR
アフリカの潜在性とビジネス・投資機会 資源・一次産品価格の低迷で、
成長率の下方修正がみられるもの
スーダン
チャド
ブルキナファソ
リベリア
日本
(ERO)
エジプト
エチオピア
アフリカを地域統合する
ウガンダ
DRC ルワンダ
ブルンジ
ケニア
アフリカの食糧を
増産する
タンザニア
アフリカを
電化する
アンゴラ ザンビア マラウイ
ジンバブエ
マダガスカル
モザンビーク
南アフリカ
AFRICAN DEVEROPMENT BANK GROUP
08 mizuho global news | 2016 JUL&AUG vol.86
アフリカを
工業化する
モーリシャス
Akinwumi Adesina アキンウミ
・アデシナ
アフリカ開発銀行グループ総裁
アフリカの
人々の生活の
質を向上する
TICAD VⅠ開催 ~アフリカの今を知る~:特集
の、中長期的に見れば、全世界平均を上回る成長が見込まれる。
一度決めると腰を据えて進出してくるが、
判断は慎重であり、
決断に
面積で言えば、米国、中国、旧ソ連を除いたヨーロッパ、
インド、
メキ
至るスピードは遅いと言われる。
シコの合計にも匹敵する。人口増も目覚ましく、
2050年には、
現在
この意味で、
2016年8月下旬のケニアで開催されるTICAD VⅠ
の約2倍の約22億人となることが見込まれている。
それは、現在の
に多くの日本企業のトップの方々に参加していただき、
アフリカの潜
中国とインドの人口の合計に近い規模である。今後、
1人あたりの
在力を実感していただき、
課題はあるものの、
その後のアフリカにお
GDP増加、
中間所得層の拡大も見込まれるし、
今世紀中にアフリ
ける積極的な事業展開に向けた決断の参考にしていただくことを願
カに巨大な市場が生まれることになる。天然資源、太陽光、水力、
う次第である。
風力、
地熱などの資源・エネルギーも豊富である。未耕作の耕作可
能面積では、
全世界の65%がアフリカにある。
当グループとして民間セクターに貢献できること
もちろん、
その潜在成長力を解き放つための課題もある。電力や
当グループとして、
民間企業がアフリカの事業展開をする際に、
ど
交通を含めた基礎インフラの不足、人材育成の必要性、
ガバナン
のような貢献ができるかについてご説明したい。
スや透明性の改善の必要性、紛争解決などである。
しかしながら、
まずは、
基礎インフラ整備等により、
ビジネス・投資環境整備に貢
これらの課題は、
大なり小なり他の途上国にも見られる。世界銀行
献することである。当グループが資金手当をするプロジェクトの入札
グループが毎年公表している、
ビジネスのしやすさのランキングである
で、
日系企業が落札事業者となることもありえよう。
また、
民間セク
「Doing Business」
(2015)
を見ても、
日本企業が活発な事業活
ターへの投融資事業や政治的リスクをカバーする保証業務も行っ
動を展開している東南アジア諸国が、
アフリカ諸国に比べてランキ
ている。
ングで上位にあるとは限らない。
たとえば、
90位のベトナムより上位
さらに、
当アジア代表事務所を通じて、
当グループの事業につい
にアフリカ6ヵ国
(南アフリカ、
モロッコ等)
、
109位のインドネシアより
ての広報や、
アフリカのビジネス・投資機会について、
日本政府、
上位に11ヵ国
(加えて、
ナミビア、
ケニア等)
、
134位のラオスより上
JICA、
JBIC、
JETRO、
アフリカ各国大使館等と協力しつつセミナー
位に15ヵ国
(加えて、
ガーナ、
モザンビーク等)
が名を連ねている。
も
開催を行ったり、個別の面談も行っている。
また、当事務所では、
ちろん、
英語が通用する地域とは異なり、
仏語圏で活動するには難
AB-NET
(アフリカビジネス振興サポートネットワーク)
というポータル
易度が高いという判断はありえるかもしれない。
サイトを運営して、
関連する種々な情報発信にご協力している。
ただし、
インフラ不足、
人材育成の必要性などは、
むしろ、
アフリカ
また、
アビジャン本部や域内事務所に直接接触、
または、
当事務
に膨大な需要があるということであり、
これをビジネス・投資機会と見
所を通じて、
必要な情報を入手され、
事業進出の一助としていただく
る視点もありえよう。
ことが考えられる。
当グループとしては、
アフリカにおけるビジネス・投資機会に関す
る情報を日本も含めた域外で広めるとともに、
域内外国、
他の国際
最後に
機関等とともに、
民間資金がさらに動員されやすいように取り組んで
21世紀中には、世界の総人口のうち、
3人に1人はアフリカ人と
いきたい。
なるとの試算がある。今世紀はまさにアフリカの世紀である。アフリ
カを語らずして、
グローバル市場を語れなくなる。
日系企業の投資機会
TICAD VⅠが開催される本年が、
日・アフリカ間でウィンウィン関係
アフリカは、
日系企業からの投資を大歓迎している。
それは、
日系
を通じた、
新しいパートナーシップ強化の元年となることを願ってやま
企業の提供する財・サービスの質の高さ、
信頼性、
また、
日系企業が
ない。
直接投資する場合に、
雇用を創出し、
人材育成や技術移転が行わ
*1 その他、
ナイジェリアのみが出資する協調融資基金としてのナイジェリア信託基金
れ、
そして、
カイゼン文化や職業倫理観が伝播されるといったソフト
面でのメリッ
トが大きく、
言い換えれば、
開発効果が高いからである。
がある
*2 正確には、AfDB の加盟国は80ヵ国、AfDFの加盟国は81ヵ国
ただし、
日本企業から見れば、
アフリカは地理的に遠く、
市場やビ
ジネス・投資環境についての情報に乏しく、
また、
ビジネス・投資環境
【横山 正氏 プロフィール】
が必ずしも整っていないという指摘がよくある。
1988年大蔵省入省後、
金融庁で8年間、
外務省で5年間勤務。IMF、
MDBs
(国 際 開 発 金 融 機 関)
、
GATT
(現WTO)
、
OECD、
APEC、
G7・G8、
G20や
ASEAN+3に関連する国際的業務を経験。最近では、
財務省で国際課税制
度担当参事官、
外務省で東アジアと太平洋島嶼部地域のODA政策担当課
長、
財務省でASEAN+3やMDBsの担当課長を歴任。2015年7月より現職。
一方、
アフリカビジネスで成功するためには、
10~20年の単位で
投資を回収する覚悟が必要であり、
そのためにも、企業トップの中
長期的なコミットメントが必要といったことが言われる。
日本企業は、
mizuho global news | 2016 JUL&AUG vol.86 0 9
特集:TICAD VⅠ開催 ~アフリカの今を知る~
サブサハラ・アフリカ主要国における
日系企業進出ビジネスモデル
アフリカビジネスパートナーズ合同会社
代表・パートナー 梅本 優香里氏
日系企業によるアフリカビジネス
梅本代表
内需産業への資金の流入は、都市化を進め、人々の生活スタ
イルを変えた。道路が整備され、物流が改善し、
自動車が普及して
人々がスーパーで買い物するようになった。電力供給が増え通信
設備も整備されたおかげで、携帯が普及し、家には冷蔵庫と電子
レンジと洗濯機が揃った。ただし、一口にアフリカと言っても、国に
よって産業構造や発展段階が大きく違う。個人消費が伸び都市
アフリカにおける日系企業の拠
型の内需産業が育っているのは、
サブサハラ・アフリカでは南アフ
点数は657拠点、在留邦人の数は
リカ、
ナイジェリア、
ケニアといった国だ。周回遅れでタンザニア、
ウ
8,050人である
(2014年、外務省)
。
ガンダ、
コートジボワールなどが続く。当社が毎年アフリカ開発銀
図表1にあるように、
TICAD Vが開催
行と行っている日系企業の進出状況調査
(図表3)
によると、最も
された2013年の後、拠点数の伸び
日系企業の進出企業数が多い国は南アフリカで、
これにケニア、
率は高まっているように見える。産業
エジプト、
ナイジェリア、
モロッコ、
タンザニアが続く。日系企業によ
別で見ると、
4割は製造業企業によ
るアフリカビジネスは、内需産業が盛んな国への投資が中心であ
るものだ
(図表2)
。
ただし、
このうち実
ることが裏付けられる。
際にアフリカに工場などを持ち製造
を行っている日系企業は南アフリカの自動車産業などに限定されて
アフリカにおける製造業の可能性
おり、
大半は製造業企業による、
他の生産拠点で作った製品をアフ
アフリカには現在、
2タイプの製造業が育っている。1つは、
アフ
リカで売る
「輸出ビジネス」
である。次に割合が高い卸・小売業も含
リカで製造し他国で販売する、
アフリカを生産拠点として捉えた輸
め、
アフリカがいま、
「モノを売る場所」
として日系企業から認知され
出志向型の製造業だ。南アフリカに集積している自動車工場で
ていることがうかがえる。
作られた自動車は、南アフリカ以外のアフリカやヨーロッパへと運
アフリカの経済は21世紀に入ってから、海外からの直接投資
ばれている。日系企業ではトヨタ、
日産、
ホンダといった完成車メー
が急増し、成長基調に入った。背景には、資源・一次産品の需
カーが工場を有しており、
日系サプライヤーもそれに合わせ現地で
要増大と金融緩和による金余りといった、世界的なマクロ環境が
生産を行っている。
あったものの、
アフリカ自身の政情の安定と事業環境の改善も
輸出志向の製造業において、人件費の安さを強みに外資誘致
大きく寄与していた。
そのため、海外直接投資の流入先は、石油・
を積極化しているのがエチオピアだ。バングラデシュの実勢90米
天然ガスといった伝統的な資源輸出産業だけでなく、不動産・建
ドル程度とくらべても安い、
月50~70米ドルと安価なエチオピア
設や運輸・物流、通信、小売り、消費財、金融サービスといった内
の人件費と豊富な若い労働力を求めて、縫製業など労働集約型
需産業にも向けられた。2012年のアフリカ向け海外直接投資
製造業が進出している。生産管理やワーカーの熟練度はまだ低
残高を見ると、一次産品産業の割合は20%に過ぎず、製造業が
いものの、
H&MやPVHといった世界のグローバルアパレルが拠
35%、
サービスが45%となっている
(出所:UNCTAD)
。
点を築きつつあり、欧州や米国の市場での販売を見込んでいる。
図表1. アフリカにおける日系企業の拠点数推移
図表2. アフリカにおける日系企業拠点の産業別割合
700 (拠点)
657
600
500
457
484
520
562
560
584
運輸業
26
(5%)
建設業
36
(7%)
サービス
40
(8%)
400
300
200
卸売・小売業
180
(36%)
100
0
2008
2009
2010
2011
2012
出所:外務省
10 mizuho global news | 2016 JUL&AUG vol.86
2013
情報通信業
20
(4%)
2014(年)
出所:外務省
製造業
202
(40%)
TICAD VⅠ開催 ~アフリカの今を知る~:特集
エリア
ストライプインターナ
資源価格下落後も見据えた、
日系企業にとっての今後のアフリカビジネス
ショナル
(旧クロスカ
資源・一次産品の需要増大によって好景気を享受していたア
ンパニー)
がエチオピ
フリカは、原油価格の大幅な下落により、
いま変換期にある。おり
図表3. 日系企業の国別拠点数
No.
国名
1 南アフリカ
拠点数
日系企業では最近、
136
南部
2 ケニア
40
東部
3 エジプト
39
北部
4 ナイジェリア
28
西部
アで衣料の生産を開
しも原油輸出が国家財政を支えていたナイジェリアでは経済が
5 モロッコ
28
北部
始し、
エチオピア産の
悪化している。外貨の調達が非常に困難になり、輸入により商品
6 タンザニア
26
東部
Tシャツが日本の店舗
を販売したり、原材料を海外から調達していたメーカーのビジネス
7 ガーナ
13
西部
8 ウガンダ
11
東部
に並ぶようになった。
が、軒並みストップしている。需要はあるのに販売する商品がない
9 アルジェリア
11
北部
10 チュニジア
11
11 モザンビーク
「メイドインエチオピ
のだ。
このような状況下では、現地に工場を持ち、現地で原料を調
北部
ア」の衣料が日本で
達し、
現地で自社にて在庫を持っている企業が強い。1981年から
10
南部
売られるのは、少なく
ナイジェリアで生産を行っており、原材料をほぼ現地調達している
12 ザンビア
9
南部
13 アンゴラ
8
南部
とも21世紀以降は初
ネスレナイジェリアの2015年の業績は、売上高で前年比6%増、
14 エチオピア
7
東部
めてのことだ。
純利益で7%増と好調だ。
15 ルワンダ
6
東部
もう1つの 製 造 業
生産設備の投資を行うことは、
リスクを伴う。
ただしアフリカの場
16 コートジボワール
6
西部
のタイプは、市場があ
合、投資を行い製造を開始しなければいつまでたっても規模の大
17 ナミビア
5
南部
るがゆえに現地で作
きなビジネスができないというジレンマがある。
また、経済の状況に
18 セネガル
5
西部
19 ジンバブエ
4
南部
るという、消 費 地 立
よっては、
いまのナイジェリアのように、生産を行っていないことで
20 モーリシャス
4
東部
地 型 の 製 造 業であ
機会を損失し事業継続の危機に陥るリスクもある。売れるようにな
る。このタイプで強い
るために製造を行うというのは、
日系企業も取りうる1つの戦略だ
のはコカ・コーラ、
ネス
と言える。
出所:アフリカビジネスに関わる日本企業リスト
(アフリカ開発銀
行アジア代表事務所、
アフリカビジネスパートナーズ)
レ、
ユニリーバ、
ロレアルといった多国籍企業だ。アフリカのどの国
アフリカは
「最後のフロンティア」
と呼ばれるが、
その言葉から受
でもこれらの工場があり、市場の成熟度や市場規模、製造業の
ける、需要が供給に比べて過多で日本の品質のよい製品を持っ
生産性からして決して利益が出ないところでも製造を行っている。
ていけばすぐに売れるような印象は、正しくない。すでに現地の
おそらく長年の途上国での経験から、流通を押さえその国から特
ニーズを把握した外資および現地の企業が需要に対してさまざま
恵的な待遇を引き出すためには現地製造を行うことが近道である
な商品やサービスを供給している。需要よりも環境よりも、競争力
こと、外貨の調達、物流、為替の管理に難しさがある途上国こそ
が日系企業にとっては課題となる。
現地での原料調達と在庫ができる企業が安定的に強みを持つこ
販売を行う場合も、作る努力以上に売る努力に労力をかける
と、
また現地の人々を顧客とする消費財にとっては現地化が売れ
ことが必要だ。売れないと人を置けないというのも一理あるが、人
るための鉄則であることを理解し実践しているからだと思われる。
を費やして営業をかけ続けないと売れるようにはならないのが実
将来市場が成熟したときにシェアを獲得するための椅子取りゲー
際だ。アフリカでの日系企業の成功事例と言われる味の素のナ
ムがすでに始まっているのだ。
イジェリア事業は、黒字化するまで10年の間も、
ナイジェリア人を
ナイジェリアでは、
トヨタがナイジェリアでの組立生産の開始を
500人規模で雇用しマーケットの津々浦々を丹念に回らせてい
発表した。商用車を中心に年間3万台を生産する予定である。ナ
る。製造の開始と同様、
すぐには採算が合わない段階で投資を決
イジェリアではすでに日産、
ホンダが生産を開始しており、三菱ふ
められるかが、結果として競争力につながる。
そう、
いすゞが生産のためのライセンスを取得している。いずれも国
外に輸出するためではなく、
ナイジェリア国内市場向けだ。ナイジェ
リアの場合は、売れるようになるために作り始めたというよりも、外
部環境に押された形だ。政府は2014年6月、国内生産への誘
導のため、完成輸入車の関税率を70%まで大幅に引き上げたの
だ。日系企業に限らず、世界の自動車メーカーがナイジェリアの巨
大市場で新車を販売し続けるために、
組立生産を開始している。
【梅本 優香里氏 プロフィール】
アフリカビジネスパートナーズ合同会社 代表・パートナー。日本で唯一のア
フリカビジネスに特化したコンサルティング会社であるアフリカビジネスパート
ナーズ
(www.abp.co.jp)
を創業。日系企業のアフリカでの事業開発に関わ
るビジネスマッチング、現地パートナー選定、交渉支援、市場調査、
ビジネス
モデル策定、買収時のデューデリジェンス、人材のリクルーティング、経営支
援などを行う。文中のストライプインターナショナルのエチオピアでの生産を
支援。ケニアに子会社Africa Business Partners Kenyaを持つ。
mizuho global news | 2016 JUL&AUG vol.86 1 1
特集:TICAD VⅠ開催 ~アフリカの今を知る~
事業創造、人材育成、社会貢献の
3分野でアフリカNo.1
アライアンスグループへ
豊田通商株式会社
常勤顧問 海外地域管掌補佐 坂口 肇氏
坂口常勤顧問
Q:CFAOとの協業によるシナジー
効果についてお聞かせください
豊田通商は英語圏である東・
南部アフリカ、
CFAOは中・西部ア
フリカを中心に事業展開していま
したので、両社の協業によりアフ
2014年7月に設立した人材育成トレーニングセ
ンター
「Toyota Kenya Academy」
トヨタグループの総合商社である豊
リカ54ヵ国中53ヵ国のカバーを可能にしました。
田通商株式会社
(本社:愛知県名古屋
アライアンス事例を1つ取り上げると、
当社が間に入る形で、
2015
市・東京都港区)
。金属、
グローバル部
年にナイジェリアにおいて、
ヤマハ発動機とCFAOが二輪車製造・販
品・ロジスティクス、
自動車、
機械・エネル
売合弁会社CFAO Yamaha Motor Nigeria Ltd.を設立し、
現地にお
ギー・プラントプロジェクト、
化学品・エレ
ける二輪車製造と雇用の創出を実現しました。
クトロニクス、食料・生活産業の6つの
また、
CFAOは自動車をはじめ、
北西アフリカでトップシェアを誇る医
営業本部を有し、
多岐にわたる事業を
薬品卸事業EURAPHARMAを展開していますが、
当社は販売・流通
展開している。
グループの強みである自
のクオリティ
・アップのための投資、
および現場のカイゼンなどの支援
動車分野で培ったバリューチェーンを他
を行っています。
またCFAOにとってチャレンジ領域となる、
世界第2位
分野においても活用し、
近年ではコアであるモビリティ 分野のほか、
の規模を持つスーパーマーケッ
トチェーン・カルフールとの提携も、
当社
ライフ&コミュニティ 分野の強化に
リソース&エンバイロメント 分野、
としてバックアップしています。
このように、
我々は生産・物流のノウハ
も取り組んでいる。
ウを有しているため、
両社の強みを融合させ、
今後は東アフリカ地域
海外は豪亜、
東アジア、
北中米、
欧州、
アフリカを注力エリアの5極
の消費市場開拓にも注力していく予定です。
と位置付け、
991社のグループ会社を通じ、
90ヵ国以上の国でビジネ
Q:CSR活動にも取り組んでいらっしゃいますね
スを行う。アフリカ事業は、
総合商社最大規模となる約50人の駐在
サブサハラアフリカ地域は海外諸国と比較して製造業が立ち遅れ
員を派遣し、
幅広い事業を手掛けてきた。2012年にはフランスのアフ
ており、
産業の多角化が喫緊の課題となっています。
こうした状況下、
リカ専門商社CFAOを買収
(98%の株式保有)
するなど、
さらなる事
2014年にアフリカで日本企業初となる社会貢献型ベンチャー育成
業拡充を図り始めている。同社の常勤顧問 海外地域管掌補佐であ
基金Toyota Tsusho CSV Africa Pte. Ltd.をモーリシャスに、
ケニア
る坂口肇氏に話を聞いた。
には人材育成センターToyota Kenya Academyを設立しました。人
Q:アフリカ事業の沿革をご教示ください
材育成に関しては、
建設機械・農業機械などの自動車分野以外の技
アフリカ事業は1922年の東部アフリカにおける綿花輸入に始ま
術者育成、
さらにはマネージメントプログラムも実施しており、
将来的に
り、
1964年には自動車輸出業を開始するなど、
90年以上の歴史を有
は南部・西アフリカ地域においても活動を広めていきたいと思います。
します。1991年には現地代理店へ初のアフリカ向け出資を行い、
本
Q:今後のビジョンをお聞かせください
格的に事業が始動します。
その後、
2000年に南アフリカへ統括拠点
長年にわたり政情不安の続いたアフリカも、
近年は政治的安定を
を設置し、
2001年には英国商社より自動車事業を買収するなど、
投
果たし、
欧米流のビジネスルールが通じる環境が整ってきました。中産
資を加速させてきました。現在は、
南アフリカにて自動車生産支援や、
階級の台頭や、
消費市場も拡大しており、
CFAOとの協業でこうした
ケニアにて販売金融や中古車販売などの自動車バリューチェーンの
消費者向けのビジネスを積極的に展開していきます。
また2016年1月
拡大に取り組むなど、
事業の幅出しを図っています。
には、
アフリカ最大級の物流網を持つフランスの複合企業ボロレ社と
2000年代以降は電力需要の急増に対応し、
エジプトにおける発
協業意向書を締結しました。今後はインフラや物流など、
多岐にわた
電所向け機器の納入をはじめとするインフラビジネスの投資活動も
る事業で協業体制を構築していく予定です。
*1
*2
*3
活発化させました。2011年
全ての事業において言えることですが、
投資活動やプロジェクト遂
にはケニアの地熱発電プロ
行を事業の完了と捉えず、
その後も地場に根付いた永続的な運営を
ジェクト受注に成功しました。
行うことを目標に取り組み、
最終的にはアフリカ社会の自立発展に貢
これは同国の総発電容量
献していきたいと考えます。
の約20%を占める最大の建
*1「未来における利便性の高い社会」の実現に貢献する事業分野
設プロジェクトになります。
*2「持続可能な社会」の実現に貢献する分野
2015年12月にコートジボワールにオープンしたショッピン
グセンター
(©CFAO all rights reserved.)
12 mizuho global news | 2016 JUL&AUG vol.86
*3 「快適ですこやかな社会」の実現に貢献する分野
(取材・作成)
みずほ銀行 国際戦略情報部 金久 実央
TICAD VⅠ開催 ~アフリカの今を知る~:特集
現場に根付いた商品開発で、
アフリカの人々の健康と美に貢献
ロート製薬株式会社
経営企画本部 グローバル事業開発
統括マネージャー 鈴木 浩二氏
地域担当 蔀 佳恵氏
た。当社のターゲット層で
ある若年層の人口も増加
傾向にあるため、
アフリカ
主要国に商機を見出し、
市場調査を行いました。
日
本から比較的距離が近く、 「Acnes」のTVCM撮影の様子
東部アフリカの玄関口としての地理的優位性を有し、
市場が顕在化
目薬や胃腸薬、外皮用
しているケニアに進出を決定しました。RMKEはアフリカ大陸で日本
薬などのOTC医 薬 品*1
本社が直接指揮を執る初の現地法人で、
初代代表には青年海外
や、
スキンケア商品などの
協力隊経験者である阿子島文子が就任しています。
製造・販売を行うロート製
Q:ケニアにおける取り組みについてご教示ください
薬株式会社
(本社:大阪
ニキビ治療剤の
「Acnes」、
フケ用シャンプーの
「Selsun」
ほか、
市生野区)
。1909年から
1980年代から展開している消炎鎮痛剤の
「DEEP HEAT」
など
製造・販売をしている目薬
を販売しています。
「DEEP HEAT」
はケニアでトップシェアです。
ではOTC目薬市場でトップ
また、
地元の農産物を生かしたケニアならではの商品開発および
シェア約40%を占めている。2001年から手掛けている
「Obagi
(オバ
現地の雇用創出と所得向上貢献を目的とする
「余剰農作物を利
ジ)
」
や
「肌ラボ」
などのスキンケア関連商品も売り上げを伸ばしてお
用した高付加価値スキンケア商品事業準備調査」
をアライアンス・
り、特に
「肌ラボ」
シリーズは、年間売上高100億円を超える新たな
フォーラム財団と企画したところ、
JICAの
「BOPビジネス*2調査対象
主力商品に成長している。2013年以降は、
アグリビジネスやレストラ
案件」
に採択されたため、
本業と並行して調査を実施しています。
ン運営などの食事業、
先端技術の再生医療事業にも参入するなど、
Q:ケニアで今後展開したいと思う商品は
ニキビ治療剤「Acnes」のサンプリングイベント
写真左がRMKE代表を務める阿子島文子氏
「健康」
をキーワードに事業領域を拡大し、
2016年3月期には23期
アフリカでは、
スキンケアよりもヘアケア商品の方が市場規模が
連続となる増収を達成した。
大きいという特徴があり、
女性のヘアケア問題に着目しました。現地
海外では、
1988年に子会社化した米国のメンソレータム社の流
の女性は、
髪が細いうえに癖が強く、
髪を伸ばすのが困難なため、
地
通網を活用し、
早い段階からアジア諸国を中心に商品を販売してき
毛につけ毛を編み込んでロングヘアを演出しています。
たとえば、
編
た。中国、
米国、
ベトナム、
インドネシア、
スコットランド、
オーストラリア
み込みのロングヘアなのでなかなか洗髪ができないことに起因する
に生産拠点を有し、
「その国の人々に必要とされるものを」
をテーマ
痒みや臭いも美にともなう女性の日常の課題です。
このような現地な
に、
顧客のニーズに合致した商品を効率的に世界各国へ送り出して
らではの悩みを解決できる商品を開発し提供していきたいです。
いる。商品の販売は110ヵ国以上に及び、
海外売上高は全体の4割
Q:貴社の成長戦略をお聞かせください
を占める。
アフリカ事業は、
1987年に英国メンソレータム社が南アフ
現在は東南アジア諸国で生産した商品をアフリカで展開していま
リカに子会社
「Mentholatum South Africa」
を設立、
2013年に
す。将来は
「現地に根差した」商品開発を行い、
アフリカとアフリカ人
はケニアに現地法人
「Rohto Mentholatum(Kenya)Limited」
にもっともっと適した商品を提供することで、
現地の方々に支持される
(以下:RMKE)
を立ち上げ、
東部アフリカ地域の市場開拓に着手し
ブランドになり、
アフリカとともに成長することを目指しています。
た。
ケニアにおける取り組みについて、
経営企画本部の鈴木浩二氏
ロートは創業117周年にあたる2016年2月の創業記念日に新
と蔀佳恵氏に話を聞いた。
コーポレートアイデンティティ
「NEVER SAY NEVER」
を制定しまし
Q:なぜケニアに進出されたのですか
た。
「世の中を健康にするために、
常識の枠を超えて挑戦し続ける」
2008年のリーマン・
という思いが込められており、
全社員が全ての事業分野において、
こ
ショックを契機に世界
の言葉を念頭にまい進しています。アフリカ事業も
「NEVER SAY
経済に構造変化が生
NEVER」精神で取り組み、
アフリカの人々の健康と美に貢献してい
じ、
それまで発展途上
きます。
国と捉えられていたア
*1 一般用医薬品
フリカ諸国も新興市場
ケニアの商店に陳列される
「Acnes」
として顕在化してきまし
*2 企業等が行うBOP
(Base of the Pyramid)
ビジネスとの連携を促進するため、事
前調査を支援する国際協力機構
(JICA)
の枠組み
※取材対象者の所属部署および肩書きは取材時点
(2016年3月)
のものです
(取材・作成)
みずほ銀行 国際戦略情報部 金久 実央
mizuho global news | 2016 JUL&AUG vol.86 1 3
国際社会復帰により高まるイラン市場への注目
みずほ総合研究所 ロンドン事務所 所長 山本 康雄
はじめに
で核開発を加速した同国に対し、国連や
2016年の
米国は数次にわたって経済制裁を決議し
金融市場は、
た。2010年ごろからEUや日本を含む諸
中国をはじめと
外国による制裁がさらに強化されると、
イ
当面の注目は、資源プロジェクト
再開と原油増産の影響
する新興国経
ラン経済は深刻なダメージを受けることに
経済制裁の解除により、
2016年以降の
済への不安の
なった。2010年までの10年間で、
イラン
イラン経済が回復に向かうことはほぼ確実
高まりを背 景
経済は年平均+5.3%のペースで成長した
である。当面は、外国資本による対イラン
に、世 界 的な
が、2012・2013年はマイナス成長に陥っ
投資の再開や原油増産が景気回復の要
株安や商品市
た
(図表1)。通貨リアルが暴落したことも
因となるだろう。
況の低迷、
新興国通貨の全般的な下落、
と
あり、
この間のインフレ率は一時前年比+
同国への直接投資は、原油・天然ガスな
波乱のスタートになった。IMF
(国際通貨基
30%を超え、
国民経済は疲弊した。
ど、
エネルギー関連のプロジェクトから活発
金)
などの国際機関は、
相次いで2016年の
2013年8月、穏健派のローハニ大統
化するとみられる。イランは原油埋蔵量が
経済見通しを下方修正している。下振れリス
領が就任したのを境に核開発問題に関す
世界第4位、天然ガス埋蔵量が世界第1
クに直面する世界経済の中で、
数少ない有
る協議が進展し、2015年7月、主要6ヵ国
位の資源大国だが、長年にわたる経済制
望国として注目を集めているのがイランであ
(米国・英国・
ドイツ・フランス・中国・ロシア)
裁で投資が不足した結果、既存の油田施
る。本稿では、
イラン経済の現状と注目点に
との間で最終合意に達した。
この「歴史的
設は老朽化し、
天然ガス田の開発は進んで
ついて解説する。
合意」の後、
イランがウラン濃縮能力削減
いない。イラン政府は制裁解除後の投資
などの合意内容を履行していることがIAEA
呼び込みを狙い、油田・ガス田開発におい
(国際原子力機関)によって確認された
て従来より外国企業に有利な条件での新
ことを受けて、国連・EU・米国は2016年1
たな契約方式*1を2015年11月末に発表
イランは従来、核開発疑惑により、国際
月、核開発疑惑に関して同国に課していた
した。今後、既存油田施設の改修や新規
連合・EU(欧州連合)
・米国などから経済
各種制裁を解除した。解除の対象となった
ガス田開発などのプロジェクトが順次入札
制裁を課されていた。2005年に就任した
制裁は、
イラン関連資産の凍結やイラン産
にかけられ、諸外国の石油開発会社やプ
保守派のアフマディネジャド大統領のもと
原油輸入の禁止、
イラン金融機関との取
ラント建設企業が参入を検討するとみられ
山本所長
経済制裁下で疲弊した
イラン経済
る。
図表1. イラン経済の成長率とインフレ率
(前年比:%)
10
(前年比:%)
40
8
6
4
2
0
▲2
▲4
実質GDP(左目盛)
▲6
▲8
インフレ率(右目盛)
2000
2002
2004
2006
引禁止など多岐にわたっている。
2008
(注)
2015年はIMF予測
(資料)
IMF
14 mizuho global news | 2016 JUL&AUG vol.86
2010
2012
短 期 的には、原 油 増 産もイラン経 済
の回復要因となる。同国の原油生産は、
35
1970年代のピーク時には日量600万バレ
30
ルを超えていたが、制裁の影響などにより
25
2015年末時点の生産は日量280万バレ
20
ルまで減少していた。
イラン政府は、制裁解
15
除後ただちに日量50万バレル増産し、数ヵ
10
月以内にさらに日量50万バレル、合計で日
5
量100万バレル程度の増産を目指してい
0
2014(年)
る。石油・ガス部門は同国GDPの約10%
を占めており、増産が実現すれば*2、経済
成長率を大きく押し上げることは確実であ
あろうさまざまなビジネスチャンスに対し、
日
図表2. イランの原油生産量
400
本企業も熱視線を送っている。2015年10
(万バレル/日)
月には岸田外務大臣と主要企業約20社
350
の役員が同国を訪問し、投資協定の締結
300
で実質合意した。2016年2月には、
イラン
250
のタイエブニア経済財務相が来日し、両国
間の投資協定に署名したほか、
日本企業
200
が関与するプロジェクトにJBIC
(国際協力
150
銀行)
やNEXI
(日本貿易保険)
が100億米
100
ドルの資金を支援し、
イラン政府がそれを
保証する投資促進策も合意された。
50
0
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016(年)
おわりに ~中長期的な事業展
開にはリスクも~
(資料)
Bloomberg
る。単純計算では、
日量280万バレルから
待できる。一方、原油が99%以上を占める
以上のように、再開されるイランビジネス
380万バレルに増産した場合、成長率を
イランからの輸入金額は、2008年比で約
に日本企業が関与するための環境は整備
3%程度押し上げる効果がある。
3分の1に縮小している。長期契約が多い
されつつあるが、新興国経済全般への懸
他方で、供給過剰による安値が続く世
原油調達先の変更には多少の時間がかか
念が強まる中、数少ない有望市場である
界の原油市場にとって、
イランの原油増産
るが、
イラン産原油の増産とともに輸入量
だけに、
イラン市場を巡る欧州企業などと
はさらなる需給緩和要因となる。日量100
も徐々に増加するとみられる。日本にとって
の競争は激しくなることが予想される。加え
万バレルの増産分は、世界の原油生産量
は、原油調達先の分散に資するメリットもあ
て、現時点でイランを中長期的な投資対
の1%強に相当する。2016年2月、
サウジ
るだろう。
象・進出先とするには相応のリスクがあるこ
アラビア・ロシアが原油生産量を1月の水
中長期的にも、
イランには日本企業から
とも認識しておかなければならない。仮にイ
準で凍結することで合意した後、原油価格
みて潜在的なビジネスチャンスがある。新規
ラン側に核関連の合意違反があれば、経
はやや持ち直した。
しかし、4月に開かれた
の天然ガス田開発に日本企業が関与する
済制裁は自動的に再開される。米国は引き
産油国会合は、
イラン抜きでの生産凍結に
ことができれば、将来的に日本への天然ガ
続き自国企業の対イラン取引にかかわる制
サウジアラビアが反対し、合意に至らなかっ
ス供給に道が開ける可能性がある。資源
裁を解除しておらず、
イラン企業のドル建て
た。イラン産原油の輸出が拡大する一方、
開発だけでなく、制裁解除にともなってイラ
取引も制限されている。長い目でみれば、
イ
米シェールオイル等の減産が進まなけれ
ン政府・企業の資金調達が可能になると、
ランの指導者交代や米国の対イラン政策
ば、
原油価格が再度下落するリスクもある。
遅れていた都市インフラ整備などのプロジェ
変更などによって、国際社会との緊張が再
クトも順次開始されるだろう。
日本の建設業
び高まる可能性も拭い去れない。
こうしたリ
日本企業もイラン市場に熱視線
やメーカーが参画する余地もありそうだ。
スクとビジネスチャンスを天秤にかけつつ、
同国の国際社会復帰を受けて、今後の
消費市場や生産拠点としての注目度も
日本企業のイラン事業は、手探りで徐々に
日イ間貿易は徐々に回復していくと予想さ
高い。
イランの総人口は8,000万人弱と中
拡大していくことになるだろう。
れる。日本とイランの経済関係は、経済制
東地域で随一のボリュームを擁し、若年層
*1 従来の契約方式であるバイバック方式は、①開発主
裁の影響でここ数年かなり縮小していた。
が多いため、消費市場としての発展余地が
体となった外国企業に運営権が与えられず、②契約
日イ間の貿易総額(輸出入金額の合計)
大きい。
それを見越した小売・サービス業の
る支払額が固定される、
などの点で外国企業に不利
は2008年時点で2兆円を超えていたが、
進出が活発化する可能性がある。教育水
2015年には約5分の1の4,000億円強ま
準は総じて高く、中長期的に良質で安価な
で細った。日本からの輸出品目は自動車・
労働力を見込んで生産拠点を立地する動
機械類・化学品が大半を占めるが、
イラン
きが強まることも考えられる。
経済の回復とともにこれらの輸出増が期
イランの国際社会復帰によって生じるで
期間が5~7年と短く、③契約時に外国企業に対す
であった。新しい契約方式では、①開発・運営はイラ
ン企業との共同、②契約期間は最長25年、③外国
企業への支払額は生産量や原油価格に応じて変動
するなど、従来より外国企業に有利な条件に改めら
れた
*2 投資不足による施設老朽化などを理由に、短期間で
日量100万バレルの増産を実現するのは難しいとの
見方もある
mizuho global news | 2016 JUL&AUG vol.86 1 5
メキシコ・ペソの為替相場とリスクヘッジについて(2)
みずほ銀行 国際為替部 アジア・エマージングチーム 参事役 吉田 憲史
前 回5・6月
まと、
進出されて一定期間が経過したお客さ
膨らむと、急に
「為替ヘッジ手法について再
号 では、メキ
まからのよくあるご質問をそれぞれ述べたい。
検討をしたいのでアイデアを出してほしい」
と
シコ・ペソ
(以
(1)
進出されて間もないお客さま
の依頼をいただく。
そして議論の中心は、
「そ
下、MXN)の
「誰がどこ
(本社or米州金融統括会社or
れまで行ってきたヘッジ手法を見直すにはそ
通貨規制や、
現地法人
[以下:現法]
)
で為替をヘッジする
れなりの体力が掛かる」、
「任せていた現地
為替相場の
のか決まらないのですが、
皆さんどうされてい
スタッフのやり方を変更すると、
その担当者
見通しについ
らっしゃいますか」。
その中でもご相談として
のプライドを傷つけることにもつながりかねな
てお話しさせ
多いのが、
「メキシコでオペレーションを開始
い。
どうしたらよいか」
というご相談だ。
ていただいた。
しましたが、
社内で為替ヘッジをどうするのか
上記に共通して言えることは、
本社は進出
それを踏まえて、今回は進出が加速するメキ
まで検討していなかった
(仕入代金を送金日
の初期段階で為替ヘッジ手法の策定を行
シコで日系企業が直面する為替リスクやその
に単に外貨へエクスチェンジする手法だけ
い、現地駐在員
(特に現地法人の社長)
と
ヘッジ手法についてご紹介したい。
を取り入れている)
のでどうすればよいでしょ
現地財務担当者に対し、手法とヘッジする
うか」
というケースや、
「現地のスタッフに何
意味をしっかり説明する必要があるということ
通貨規制のない利点を
活かせているのか
となく任せている間に、我々が想定していな
だろう。
これを行うことで、
本社も現法のオペ
いようなヘッジ手法を用いてしまったのです
レーションを把握しやすくなる。
また、時間が
MXNは、
オンショア
(国内)
市場とオフショア
が、
どうしたらよいでしょうか」
といったケース
経過すれば現法の状況は変わってくるため、
を耳にする。
定期的なヘッジ手法の検証やチェックを行う
吉田参事役
(国外)
市場間に規制がなく、為替取引を自
由に行うことができる通貨であることを前回ご
ことを強くお勧めしたい。
(2)
進出されて一定期間が経過している
説明したが、
もう少し詳しく述べておこう。
お客さま
ではこれを踏まえ、本稿ではこうした為替
通貨規制の厳しい国では、
オフショア市場
「海外現法のことは海外現法に任せてい
ヘッジの悩みを持たれる方に、
親子間での商
での自国通貨の売買が禁止されていること
ます」
といった声を本社財務担当のお客さま
流建値変更事例をアイデアの1つとしてご
や、
自国通貨を海外へ送金する際はUSDや
から聞くが、決算で為替差損が予想以上に
紹介したい。
JPY等外貨にエクスチェンジして送金しなけれ
図1. 商流建値の変更
ばならず、
一般的に管理がし難いと言われてい
【変更前】
る。一方、
MXNはそうした通貨規制がないこと
日本
から、
オフショア市場でのMXNの売買は可能
本社
であり、
米国時間はもちろん、
アジア・欧州時間
輸出
現地法人
代金回収
(USD建て)
も比較的安定した流動性から長期ヘッジを行
うことも可能だ
(USD10mioを超える大口取
$
現地の業績管理が
できない…
引は、
銀行と要相談)
。
ではそうしたメリットを、
進出している日系企業は活かせているのだろう
$
販売
販売先
代金回収
(MXN建て)
本業収益の
実態が見えにくい…
【変更後】
か。以下の事例を取り上げながら、
実際のケー
日本
スやお客さまからのご質問をご紹介していく。
本社
メキシコ
輸出
代金回収
(MXN建て)
為替リスクを誰がどこで
負うのか
まず、
メキシコに進出されて間もないお客さ
メキシコ
(資料)
みずほ銀行
16 mizuho global news | 2016 JUL&AUG vol.86
現地法人
販売
代金回収
(MXN建て)
販売先
貿易建値を外貨→
MXNに変更し、本社で一括管理
当社は、本社からの仕入れをUSD建てで
図2. バランスシートヘッジ例
【バランスシートヘッジ例】
単位:百万
2015年12月末のB/S
2016年12月末のB/S
行う一方、
現地ではMXN建てで販売。
メキシ
為替ヘッジなし
コ国内の売上は好調だったが、
MXNの通貨
安による輸入コスト上昇に為替差損が発生
していた。原因は、
為替ヘッジを現法に一任
し、
通貨安への策を講じなかったことにある。
社内で議論を重ねた結果、本業が順調なら
資産
(MXN建て)
30
借入金
(USD建て)
MXN15.0
=USD1
資本金
(MXN建て)
15.0
為替予約利用時
借入金
(USD建て)
MXN17.0
資産
(MXN建て) =USD1
30
資本金
(MXN建て)
13.0
1. 為替差益が
MXN1.3M発生
借入金
(USD建て)
MXN17.0
資産
(MXN建て) =USD1
31.3
資本金
(MXN建て)
14.3
現地に為替リスクを負わせる必要はないと
の結論に至ったため、
図1の通り商流建値を
USD→MXNへ変更し、為替リスクを本社で
一括管理することとなった。
1.
USD建て負債 がMXN17.0Mに増加
2.
為替差損がMXN2.0M発生
1.
為替差損はMXN0.7Mへ縮小
(ヘッジ効果)
(注)
実際の為替予約レートとは相違
2016年末の為替予約レート15.70、
2016年末の為替レート17.00とした場合、為替差益1.3mioを計上
この結果、
当社には3つの効果が得られ、
ての借入金は為替変動リスクに晒されてお
損益によって、
PTUが計画よりも大幅に振れ
本社と現法間の関係も大きく改善した。
り、
何らかの対応策を迫られるケースが多い。
るリスクが顕在化している。
①現法における管理負担軽減
たとえば、
USD建ての負債1mioについて、
期
ここでいうリスクを以下にてご覧いただきた
現法が為替リスクから解放され、
売上と利
初のUSD/MXN為替レートが15.00、
期末の
い。同国でのオペレーションが安定する中、
当
益が連動するため、
管理者体力を軽減。
レートが17.00だった場合、
MXN建ての負債
該リスクがますます高まると思われ、
こうしたリ
②現法のヘッジコスト負担軽減による財務
は15mio→17mioに増加することになる。
こ
スクをどうヘッジするのか今後各社とも検証が
健全化
れに対する資産がUSD建てであれば為替リ
求められるだろう。
MXNとUSDの金利差が大きいため、膨ら
スクに晒されないが、
MXN建てであった場合
為替差益時
んでしまったコストを日本本社で負担すること
には決算に大きな影響が出てしまうだろう
(為
現金等の現物資産が増加していないに
ができる。
替差損がMXN2.0mio発生)
。
もかかわらず、税金・PTUを支払う義務が発
③MXN建て定期預金を活用した資金効率化
こうした為替リスクをあらかじめヘッジするた
生
(ただし、
PTUについては操業1年目は免
本社にて、
MXN建て定期預金による運用
めに行うのがバランスシートヘッジだ。期末日
除)
。
を行い、
現法の資金需要に応じてMXN建て
を受渡日とした為替予約を締結し、
決算日に
為替差損時
ローンを実行することも可能となった。
当該為替予約と反対の取引
(USD売MXN
課税所得は減少するものの、
PTUの支払
買)
を行うことにより、
決算日における為替差
い金額も減少するため、
従業員のモチベーショ
バランスシートヘッジの必要性
損益を最小限に抑えることができる。
ンが低下し、
離職率・ストの発生懸念が増す。
さて、
前回号の最後に触れたバランスシー
労働者利益分配金について
今回は、
メキシコ現地法人⇔本社間商流
トヘッジをご紹介したい。海外に進出している
メキシコ現法が為替リスクに敏感になる理
についての経常取引建値変更、
バランスシー
企業では、
何らかの為替変動リスクがバラン
由は、
メキシコ特有の事象として挙げられる労
トに内包されている為替リスクヘッジ手法に
スシートに影響を与えていると思われる。
これ
働者利益分配金PTU
(Participacion de los
ついて、
一般的なケースをご紹介したが、
バラ
はメキシコに限った話ではないが、
バランスシー
Trabajadores en las Utilidades)
の存在が
ンスシート上の為替リスクには、
税金や配当
トに内包される為替リスクを検証していないこ
挙げられる。PTUは課税所得の10%を従業
金、
資本金等があり、
そのヘッジにはさまざまな
とで、
ビジネスは上手くいっているが最終赤字
員に分配する制度で、
その分配方法は全体
取り組み方がある。
もし過去に検討実績がな
に陥ってしまう企業を少なからず耳にする。
そう
の1/2を年間労働日数に応じて全ての従業
く、
かつこうしたリスクにお悩みのお客さまがい
いった点を踏まえながら、
今回は外貨借入金
員に分配し、
残りを従業員の賃金に応じて分
らっしゃれば、
本業だけでは目に見えないリス
の場合についての事例を挙げることとする。
配するものだ。2012年の労働法改正により、
クが存在することを認識したうえで、
再度バラ
外貨借入金のケース
以前は一般的だった人材派遣会社を利用し
ンスシートヘッジの必要性を議論されることを
メキシコでは税務上、
決算をMXN建てで行
てのPTU調整ができなくなったとの見解が出
お勧めしたい。
また同時に、
気になる点があれ
うことが義務付けられていることから、
USD建
たため、
バランスシート上から発生する為替差
ば、
ぜひ
〈みずほ〉
へご照会いただきたい。
mizuho global news | 2016 JUL&AUG vol.86 1 7
インドネシアにおける労務リスクマネジメント
森・濱田松本法律事務所 弁護士 竹内 哲氏
竹内弁護士
インドネシアに対する外国投資は
支払いを行い迅速な解決を図った場合
堅調であり、近年はインドネシア子会
インドネシアでは、地方労働局・移民局の職員がある日突然会
社を有する日系企業の数がさらに増
社にやってきて、会社が労働関連法令
(外国人の就労許可に関
えてきている。他方で、労働問題は
する法令を含む)
の遵守を適切に行っているか抜き打ちの査察を
現地子会社運営に際して避けて通
行うことがある。
また、
このような査察は海外からの出張者が来て
ることはできない。
いる時を狙って行われることも多い。場合によっては、海外からの
本稿では、
インドネシアにおける労
出張者が適切なビザを保有していないことなどを指摘され、パス
務リスクマネジメントをテーマとして、
ポートを取り上げるか、
それともその場で罰金を払うかという選択を
具体的事例、
その要因、事前予防策
迫られることもある。
このような支払い要求について、根拠を検証
および事後対応策について以下簡単に解説する 。
*1
することなく支払いを行い迅速な解決を図るケースがしばしばみら
れる。
労働問題の具体的事例
このような支払いについては、公務員に恐喝罪等が成立する
インドネシアでは、労働者個人と会社との間の対個人の労使
場合は別として、不当な金銭支払いとして贈賄罪が成立するの
問題のみならず、企業組合・上位労働組合との間の対団体の労
が原則であるため、現地担当者の責任問題のみならず、現地法
使問題や労働局・移民局が不定期に行う査察への対応などの問
人、親会社の責任問題に発展する可能性がある。
さらに、当該公
題が頻繁に生じる。典型事例としては、解雇に関する問題、従業
務員から見た場合には、脅せば支払う会社と認識するため、
その
員からの賃上げ・正社員化要求問題、外国人の就労許可に関す
後もマークされることになり、
このような来訪が後を絶たないことに
る問題などの事例がある。
なる。
(2)
労働者、労働組合の要求に対して全面降伏により
労働問題が生じる要因
迅速な解決を図った場合
労働問題が発生する要因としては、現地文化・風習の理解不
労働組合との賃金交渉について、大幅な上昇を労働組合から
足等に基づく労使コミュニケーション不足に起因するものが多
提示されたような場合において、交渉が長期にわたることを回避
い。
日本とインドネシアでは、当然文化・風習が異なるので、
日本風
するために、労働組合からの提案に対して全面降伏をすることに
の従業員コミュニケーションがそのままインドネシアでも通用するも
より迅速な解決を図るケースがしばしばみられる。
のではない。
また、上位労働組合からの指示に基づき、従業員が
このような解決は、当然ながら、
その後の同社の労働組合との
労働争議に加担しているケースもある。この場合は、必ずしも従
交渉に悪影響を及ぼすものであり、労務管理上望ましくない。
ま
業員が自らの意思でストライキ等を起こしているわけではない。
さら
た、
インドネシアでは、賃金情報などは会社内のみならず、会社外
に、会社、労働者、企業労働組合以外にも、上位労働組合、地方
にも広がるため、
たとえば、
インドネシアにおいて他のグループ会
労働局、労働裁判所、警察、地方議会、地方住民等多くの登場
社が存在する場合には、他のグループ会社にも情報が伝わり、同
人物が労働問題に関与してくる点も指摘できる。
これらの周辺当
社における労使交渉を難しくする可能性も否定できない。一社の
事者が会社への協力者として働くか、敵対者として働くかはケース
安易な解決が、他のインドネシアのグループ会社等の対応にも影
バイケースである。
響を及ぼす可能性がある。
さらに、以前生じた類似の問題について安易な解決を図ったた
め、現在の困難な状況を招いているというケースもある。以下、典
事前予防策
型事例を説明する。
労働問題の事前予防策としては、労使コミュニケーションを充
(1)
労働局員から金銭を要求され、根拠を検証することなく
18 mizuho global news | 2016 JUL&AUG vol.86
実させることや組合との対話を真摯に行うことなどさまざまなもの
が考えられるが、本稿では、
あえて法令遵守に気を配るという点を
たとえば、労働局・移民局の査察については、外国企業が狙われ
強調したい。法令遵守に気を配るというのは、会社運営に際して
やすいという傾向はあるものの、実際には現従業員または退職従
は当然のことではあるが、
インドネシアでは法律の多さ、法律間の
業員などが、会社の待遇等について不満を持ち、報復として当局
不整合、法律改正の多さに加えて、実際に法律がどの程度執行
に通報している可能性もありうる
(先に述べた出張者訪問時に
されているか否かは、
その時々の当局の意向や政情にも左右さ
おける労働局・移民局による査察は、内部者からの通報に基づく
れるため、
これらの動向を踏まえて法令遵守に気を配るというのは
ケースも多い)
。そのような場合には、当該関係者に起因する要
実際にはそう容易ではない。
因を取り除かなければ、
また同種の問題が生じることもあり得る。
他方で、
形式上法令違反である場合には、
問題となった場合の
真の原因を把握することで当該原因に即した事後対応策を充実
反論が難しいのも事実である。
たとえば、有期雇用社員の契約期
させ、
その後の再発防止にもつなげることが重要である。
間を延長する場合には、
当初の契約期間が満了する7日前までに
(3)
現場の感覚のみには頼らない
書面による通知を行う必要があるものとされている
(労働法 59
インドネシアでの現場の感覚だけで事後対応策を考えるのは
条5項)
。形式的な手続きに関する規定のように見えるが、
かかる
望ましくない。
インドネシアではこうなっている、相場はこうであると
手続違反は当該有期雇用契約を期間の定めのない契約とする
いう、特に現地駐在経験がある者からの意見には説得力があるこ
法的効果を伴う
(同法59条7項)
。
そして、
労働局や労働組合はか
とが多い。
しかし、当該相場観・肌感覚に裏付け事実や法的根拠
かる手続違反を指摘することにより、有期雇用社員の正社員化を
が伴わない場合には、
かかる意見のみに依拠するのは危険であ
求めてくることも非常に多い。
このような状況下において、
7日前書
る。本社担当者としては、現地からの報告が現場の感覚だけに依
面通知を行っていない場合には、
当該労働組合・労働局からの主
拠したものである場合には、
裏付け事実および法的根拠について
張に対して正面から反論を行うことが非常に困難となる。
その都度確認を行うべきであるし、現地担当者としては、感覚だけ
そのため、
インドネシアにおいても、
労働関連法令について正確
ではなく、裏付け事実および法的根拠を補足しながら本社担当者
な法令理解とともに、当局の動向等の情報収集に努めることが
に対して説明を行うべきである。日本同様、必要な情報を収集し、
非常に重要である。
判断過程の合理性を担保するというプロセスは同じである。
事後対応策
最後に
*2
(1)
適切な初動対応
本稿は、
インドネシアにおける労務リスクマネジメントについて、
適切な事後対応策は、労働問題の内容に応じてケースバイ
筆者が日々の業務の中で接したさまざまな事例を通じて得たこと
ケースであるが、
まず、労働者、労働組合、労働局・移民局等から
を、最大公約数的にまとめた総論的な解説である。
の要求について、主張の正当性について落ち着いて吟味をし、
事案によって、背景事情は異なるので、個別事案の解決に本
適切な初動対応をとることが重要である。日本では想像もつかな
稿記載の事項がそのまま適用できるものとは限らないが、
インドネ
いような要求や出来事も起きるが、慌てずに冷静に判断すること
シアにおける労務問題に対するアプローチを検討するに際して少
が求められる。
しでも参考になれば幸いである。
労働局からの不定期査察を例に挙げると、労働局が常に正し
い指摘をしているとは限らない
(論点を増やして、混乱させて会社
側を消耗させたところで、不当な金銭の支払いを要求することを
企図しているように思われるケースも残念ながら皆無ではない)
。
まずは要求内容を正しく理解する必要がある。厄介な問題は早く
解決したいという理由のみで、不当な主張についても鵜呑みにす
*1 本稿に記載されている見解は、
いずれも筆者の個人的な見解であり、筆者が所属
する法律事務所・いかなる団体の見解を示すものではない。なお、紙面の関係上、
従業員の不正対応については説明を割愛する
*2 Law No. 13 of 2003 regarding Manpower
べきではない。金銭目当てで立ち入りに入っているように思われる
竹内 哲氏 プロフィール
事案では、書面で適切な返答をすれば、
その後、当局から嫌がら
森・濱田松本法律事務所弁護士。ジャカルタデスク代表。2014年3
月より、
ジャカルタデスクの所在するインドネシアのAKSET法律事務
所にて執務。日系企業によるインドネシアへの進出案件
(M&A・JV設
立)
を多く手がけるほか、進出後の労務、
コンプライアンス、
コーポレー
トガバナンス等に関する各種相談を多数取り扱っている。インドネシ
アに関する著書、講演実績多数。
せのように狙われることは少なくなる印象がある。
(2)
真の原因を把握する
表面上の原因以外にも真の原因があると疑われる場合には、
可能な限り原因究明を行い、当該原因を取り除くことが望ましい。
mizuho global news | 2016 JUL&AUG vol.86 1 9
13次五カ年計画の概要
みずほ銀行(中国)有限公司 中国業務部 主任研究員 細川 美穂子
五中全会で13次五カ年計画を議論
5つの発展理論
2015年10月26~29日に開催された中国共産党の第18期中
経済発展目標達成のために①イノベーション
(創新)
、
②協調、
③グ
央委員会第5回総会
(五中全会)
では習近平政権にとって初となる、
リーン
(緑色)
、
④開放、
⑤共有
(共享)
の5つの発展理念が掲げられ
「第13次五カ年計画
(十三五)
」
を議論、
「第13次国民経済・社会
た。
とりわけイノベーションに関しては、
11月3日に記者会見した徐紹
発展五カ年計画
(2016~20年 13.5計画)
の策定に関する党中
史国家発展改革委員会の主任が、
「直面する最大の問題は
『中進
央の提案」
を審議、
採択した。今次五カ年計画の提案では、
小康社会
国の罠』
である」
と発言している。中所得水準にまで達したところで経
(ややゆとりのある社会)
の全面的建設のため、
①経済の中高速成
済が停滞し先進国レベルに到達できなくなる状態を、
中国当局は引
長維持、
②生活水準と質の普遍的向上、
③国民の資質と文明化の
き続き警戒している。徐主任は
「その突破のためにイノベーション発展
著しい向上、
④生態環境の総体的改善、
⑤各種制度の一層の成熟
が出口となる」
と発言している。
イノベーションでは、
I
T
(情報技術)
を中
化・定型化の5つの目標を挙げている
(図表1)
。
心に、
シェアリングエコノミー
(共有経済)
やビッグデータなどを鍵にする
五中全会後に公表されたコミュニケでは
「2020年までに小康社会
計画である。
を全面的に完成させることは、
わが党が決めた
「二つの百年」
(中国
③
「グリーン
(緑色)
」
とは、
環境に配慮した発展を意味している。
こ
共産党創立100年までの小康社会完成と新中国成立100年までの
の単語は、
十二五提案では2回しか登場しなかったが、
十三五提案で
近代化基本的実現)
の奮闘目標の一つ目の百年の奮闘目標である」
は21回と急増しており、
環境に配慮した政策運営はこれまで以上に
としている 。
真剣に取り組まれることが予想される。今後、
グリーンを旗印に、
たとえ
5つの目標のうち、
①経済の中高速成長維持に関して、
経済成長
ば、
国主導で環境技術を試験する特区を作るだけでなく、
低炭素社
目標に関する表現は2005~10年の第12次五カ年計画
(十二五)
会の実現や、
資源循環型の社会システム発展のために、
ゼロ・エミッ
では
「経済の安定的で比較的速い発展」
と表現されていたが、
今次
ション
(廃棄物を一切出さない)
モデルのプロジェクトも実施していく計
十三五提案では
「中高速成長を維持」
とし、
高度成長から中高速成
画である。
このほかに、
大気、
水、
土壌汚染の防止行動計画の本格
長へのソフトランディングを意識した表現に変わっている。
的な実施、
商業利用の目的で天然林伐採を全面停止することなども
具体的な成長目標については、
今回の提案とあわせて公表された
明記された。
*1
「提案に関する習近平国家主席説明」の中で、
「国内総生産
(GD
⑤
「共有
(共享)
」
では、
人民が発展を実感できるようにすることを
P)
倍増のため、
2016~20年の平均成長の最低線は+6.5%以上」
「獲得感」
という単語を用いて強調している。社会保障制度の充実
GDPと収入の倍増
と明記、
十二五の+7.0%から引き下げられた 。
などにより、
人民が最も関心を寄せる、
「最も現実的な利益問題」
を解
は、
2012年の第18回党大会で設定された、
「2020年までにGDPと
決するとしている。
この共享との関連があるとみられるのが、
十三五提
都市農村住民の1人あたり所得を2010年の2倍にする」
目標であり、
案で44回も登場した
「人民」
という単語である。十二五提案の4回か
2014年までの実績と2015年の実績見込みから残りの5年間に必
ら急増している。中国経済が高成長から中高速成長時代へと移行す
要な平均成長率を計算すると+6.5%となる。
る中で、
経済成長率という数字だけでなく、
人民の生活実感の向上を
*2
図表1. 13次五カ年計画の主要目標
1
2
3
4
5
6
7
2020年までに国内総生産
(GDP)
と住民平均収入を2010年の2倍にするために2016 〜 2020年のGDP
経済の中高速成長の
成長率を平均6.5%以上に維持、産業のミドル・ハイエンド化、農業の現代化、工業化と情報の融合的発
維持
展、先進製造業と戦略的新興産業の発展加速、新産業・新業態の絶えざる成長、サービス業の比率向上
イノベーション騒動型 イノベーション騒動型発展戦略の実施、全要素生産性の明らかな向上、科学技術と経済の深い融合、重点
発展で顕著な成果
領域と革新技術での重大な突破の取得、
自主イノベーション能力の全面的増強
投資・企業効率の明らかな上昇、都市化の質の明らかな改善、戸籍人口都市化率の上昇、区域協調発展
発展の協調性の明ら
の新枠組みの形成、発展空間の配置の最適化、対外開放の深さと広さに絶えざる向上、輸出入構造の絶え
かな増強
ざる最適化、国際収支の基本的均衡
人 民の生 活 水 準・質 公共サービスの健全化・均等化・生産年齢人口における就学年数の延長、収入格差の縮小と中等収入人
の普遍的な向上
口比率の上昇、貧困からの脱却と貧困県の消滅
国民資質と社会文明「中国夢」
と社会主義確信価値観の浸透、愛国主義、社会主義思想の称揚、道徳素質や科学文化素質の
度の顕著な向上
明らかな向上、法治意識の増強、支柱産業としての文化産業の発展、中華文化の影響力の持続的拡大
生態環境の質の総体 生産・生活スタイルのグリーン化・低炭素化、
エネルギー開発・利用効率の大幅向上、
エネルギー・水資源の
的改善
消費抑制、建設用地・炭素排出総量の抑制、主要汚染物排出の大幅減少
各種制度のさらなる成 国家ガバナンス体系とガバナンス能力の現代化、法治政府の基本的構築、財産権の保護、開放型経済新
熟化・定型化
体制の基本的形成、現代軍事体系の整備、党の建設制度化水準の向上
(資料)
国民経済および社会発展の第13次五カ年計画要綱
20 mizuho global news | 2016 JUL&AUG vol.86
目指す方針が明確となっている。
十三五計画の主要目標任務と
重要措置
2016年3月5~16日に開かれた第12期全国人
民代表大会(国会に相当。以下
「全人代」
) 第4回
会議では、
政府活動報告、
国民経済・社会発展計
画案、
予算案、
第13次五カ年計画要綱*3などが採
択された。2016年は第13次五カ年計画
(十三五)
の初年度に当たっており、
その基本理念について
図表2. 12次、13次五カ年計画「要綱」経済社会発展の主要目標比較
(十二五)
種類
経済
発展
科学
技術
教育
(十三五)
指標
単位 2010年
39.8
兆元
・GDP(国内総生産)
43.0
%
・GDPに占めるサービス業比率
47.5
%
・都市化率
(%)
89.7
%
・九年義務教育徹底率
82.5
%
・高校入学率
1.75
%
・GDPに占める研究開発費比率
1.7
件
・人口1万人あたり特許保有件数
億ムー
18.18
・耕地保有面積
・単位工業生産額
(1万元)
あたりの水使用
%
量削減
・農業灌漑用水の有効利用係数
−
0.5
・一次エネルギー消費に占める非化石燃料
%
8.3
比率
資源 ・単位GDPあたりのエネルギー消費量削減
環境 ・単位GDPあたりのCO2排出削減
化学的酸素要求量COD
・主要汚染物
二酸化硫黄SO2
質の総排出
アンモニア性窒素
量削減
窒素酸化物Nox
・国土の森林被覆率
・国土の森林蓄積量
・都市住民1人あたり可処分所得
・農村住民1人あたり純収入
・都市部登録失業率
・5年間の都市部における新規雇用増加数
国民
・都市部基本養老保険の加入者数
生活
・都市農村三項目基本医療保険加入率
都市保証型住宅建設
総人口
平均寿命
2015年
55.8
47.0
51.5
93.0
87.0
2.2
3.3
18.18
11.4 [3.1] 拘束目標
%
[16] 拘束目標
[17]
[8]
[8]
[10]
[10]
[1.3]
[6]
>7
>7
20.36
137.0
19,109
5,919
4.1
2.57
134,100
73.5
指標
単位 2015年
67.7
兆元
(1) ・GDP(国内総生産)
8.7
万元/人
(2) ・労働生産性
経済
56.1
%
(3) ・都市化率 常住人口
発展
%
戸籍人口
%
50.5
(4) ・GDPに占めるサービス業比率
2.1
%
(5) ・研究・試験発展経費投入強度
イノ
6.3
件
(6) ・人口1万人あたり特許保有件数
ベー
55
%
(7) ・科学技術進歩貢献率
ション
40
%
(8) ・インターネット普及率 固定ブロードバンド
騒動
57
%
移動ブロードバンド
%
(9) ・住民1人あたり可処分所得
−
年
(10)・生産年齢人口平均教育年限
10.23
万人
(11)・都市農村新規就業人数
−
民生・
万人
(12)・農村貧困人口の脱貧困
−
福祉
%
(13)・基本養老保険の加入率
82
万棟
(14)・都市農村バラック地区住宅改造
−
歳
(15)・平均寿命
18.65
億ムー
(16)・耕地保有面積
−
万ムー
(17)・新規建設用地規模
−
%
資源・(18)・GDP1万元あたりの水使用量削減
%
−
環境 (19)・単位GDPあたりのエネルギー消費量削減
・一次エネルギー消費に占める非化石燃料
%
12
(20)
比率
(21)・単位GDPあたりのCO2排出削減
−
(22)・国土の森林被覆率
%
21.66
森林
・国土の森林蓄積量
億㎥
151
空気 (23)・地級以上都市の空気の質の優良日数比率
%
76.7
・微小粒子状物質
(PM2.5)
基準未達の地
%
−
級以上都市の濃度削減
%
66
(24)・Ⅲ類またはそれ以上の水の比率
・劣Ⅴ類水
(Ⅴ類水基準を上回る水)
比率
%
9.7
化学的酸素要求量COD
%
−
地表 (25)
・主要汚染物
水
二酸化硫黄SO2
%
−
質の総排出
アンモニア性窒素
%
−
量削減
窒素酸化物Nox
%
−
[30] 拘束目標
0.53 [0.03] 予測目標
%
%
%
億㎥
元
元
%
万人
億人
%
万戸
万人
歳
種類
年平均増減率
7.0% 予測目標
4ポイント 予測目標
[4] 予測目標
[3.3] 拘束目標
[4.5] 予測目標
[0.45] 予測目標
[1.6] 予測目標
[0] 拘束目標
拘束目標
拘束目標
拘束目標
拘束目標
拘束目標
21.66
拘束目標
143.0
拘束目標
>26,810
予測目標
>8,310
予測目標
<5
予測目標
[4,500] 予測目標
3.57 [1] 拘束目標
[3] 拘束目標
[3,600] 拘束目標
<139,000 <7.2% 拘束目標
74.5 [1] 予測目標
(注)
1.
GDPおよび都市・農村住民収入は2010年の価格。 2.
[ ]
内は5年間累計。 3.
都市農村
三項目基本医療保険加入率:都市職員基本医療保険、都市住民基本医療保険、新型農村合作
医療の加入総数の総人口比率。 4.1ムーは、6.667アール、15分の1ha
(資料)
中華人民共和国国民経済社会発展第十二次五カ年計画要綱
2020年
年平均増減率
>92.7 >6.5% 予測目標
>12 >6.6% 予測目標
60 [3.9] 予測目標
予測目標
−
45
56 [5.5] 予測目標
2.5 [0.4] 予測目標
12 [5.7] 予測目標
60 [5.0] 予測目標
70 [30] 予測目標
85 [28] 予測目標
>6.5 予測目標
−
10.8 [0.57] 拘束目標
[>5,000]予測目標
−
[5,575] 拘束目標
−
90 [8] 予測目標
[2,000] 拘束目標
−
[1] 予測目標
−
18.65 [0] 拘束目標
[<3,256]拘束目標
−
[23] 拘束目標
−
−
[15] 拘束目標
15
[3]
拘束目標
−
[18] 拘束目標
23.04 [1.38] 拘束目標
165 [14] 拘束目標
>80
−
拘束目標
−
[18] 拘束目標
>70
<5
−
−
−
−
−
−
[10]
[10]
[10]
[10]
拘束目標
拘束目標
拘束目標
拘束目標
拘束目標
拘束目標
(注)
1.
GDP、労働生産性は比較可能価格、絶対数は2015年価格により算出。 2.
[ ]
内は5年間累計。
3.
PM2.5の未達は年平均値が35ミリグラム/㎥超を指す。 4.1ムーは、6.667アール、15分の1ha。
5.Ⅲ類:生活飲用水。Ⅴ類農業用水区、一般景観の確保
(資料)
中華人民共和国国民経済社会発展第十三次五カ年計画要綱
は2015年10月の五中全会
(中国共産党第18期中央委員会第5
*8
⑤金融リスクを防止・解消
(デレバレッジ)
」
をしっかりと遂行、
第13
「提
回総会)
で決めた
「提案」
で公表済みである*4。今次全人代では
次五カ年計画の経済社会発展の良好なスタートを切る、
としている。
案」
の理念をより具体化させた十三五
「要綱」
について議論された 。
以上は中国全国の五カ年計画であり、
主要産業ごと、
地域
(省、
「要綱」
に挙げられた経済社会発展の主要目標を十三五と十二五
市)
ごとの五カ年計画も策定、
公表予定である*9。
*5
とで比較すると、
十三五計画には、
資源・環境、
森林、
空気、
地表水と
いった生態環境関連の指標が多く盛り込まれた。一方、
人口構成変
化を反映して、
十二五計画に盛り込まれていた総人口の抑制目標は
採用されなかった
(図表2)
。
*1 新華社2015年10月29日
「中国共産党第十八期中央委員会第五次全体会議コ
ミュニケ」。中国共産党創立100年は2021年、新中国成立100年は2049年
*2 新華社11月3日
「习近平:关于《中共中央关于制定国民经济和社会发展第十三
个五年规划的建议》的说明(第13次国民経済・社会発展5カ年計画策定に
関する党中央提案に関する習近平説明)」
中国政府網11月9日
「新闻办就解读十三五规划建议有关情况举行吹风会(新
「小康社会の全面的建設、構造改革推進の
正念場の年」
李克強総理による政府活動報告*6は、
2016年を
「小康社会の全
聞弁公室が十三五計画提案についてのブリーフィングを挙行)
」
同ブリーフィ
ングで発言した楊偉民中央財経領導小組弁公室副主任は、
「6.5%自体は目標
ではない。最終目標設定は来年3月まで待つ必要がある」
と発言、経済成長率目
標はまだ設定されていないと指摘。来年3月の全国人民代表大会
(全人代=国
会)
での承認が必要だと述べた
面的建設、
構造改革推進の正念場の年」
と位置付け、
政府活動を
*3 中华人民共和国国民经济和社会发展第十三个五年规划纲要
順調に進めるため、
「①マクロ政策は安定させ、
②産業政策は正確
*5 中华人民共和国国民经济和社会发展第十三个五年规划纲要
*4「みずほ中国 ビジネス・エクスプレス経済編No.52」
に、
③ミクロ政策は活性化、
④改革政策は着実に、
⑤社会政策で下
*6 中国政府網3月17日「政府工作报告(政府活動報告)—2016年3月5日在第
の全体的な考えを実行、
「安定成長と構造調整のバランスを
支え*7」
*7「宏观政策要稳、产业政策要准、微观政策要活、改革政策要实、社会政策要托
しっかりと押さえ、
経済の動きを合理的な範囲内に保ち、
供給側の構
底」。2015年12月の中央経済工作会議で定められた
「構造改革の五大政策支
造的改革を重点的に強化し、
発展の新たな原動力の育成を急ぎ、
従
*8「去産能、降成本、去庫存、補短板、去杠杆」。2015年12月の中央経済工作会
来の比較優位の改良・進化をはかり」
「
、①過剰生産能力の解消、
②
企業のコスト引き下げ、
③不動産在庫の解消、
④有効供給を拡大、
十二届全国人民代表大会第四次会议上 国务院总理 李克强」
柱」
議で定められた
「構造改革の五大任務」
*9 公表のタイミングはまちまちで、特に産業ごとの五カ年計画は、2016年中に公表さ
れない場合もある
mizuho global news | 2016 JUL&AUG vol.86 2 1
vol.
60
空港設計のリーダーカンパニー
株式会社梓設計 代表取締役社長 杉谷 文彦氏
1946年の創立か
実現した設計プランとなっている。
ら、
今年で70周年を
台頭するLCC
(格安航空会社)
にも、
費用
競技大会後30年の姿
迎える総合建築設
を抑えた新たなデザインモデルで、
日本初の
新国立競技場整備事業大成建設・梓設計・
隈研吾建築都市設計事務所共同企業体
計事務所の梓設計
LCC対応空港として茨城空港を設計。2012
社会やクライアントから信頼される設計者に
(本社:東京都品川
年には関西国際空港LCC専用ターミナルが
海外では中国
(北京・瀋陽)
に事務所を、
ベ
区)。空港やスポー
竣工し、
現在第2ターミナルも建設中である。
トナムとミャンマーに現地法人を有し、
12ヵ国
ツ施設から、病院、
代表取締役社長の杉谷文彦氏は
「アジアや
でプロジェクトを展開する。
アジアや中南米の
庁舎まで幅広い分野を手がけ、
なかでも空港
欧米のLCC利用率は約3割。
日本も今後利
ODA案件を中心に、
現在ベトナム南部のキエ
施設の設計に強みを持つ。国内の空港旅客
用率が上昇し、
専用ターミナルも増加すると
ンザン省総合病院やモンゴルの新ウランバー
ターミナルの設計では乗降客数ベースで7
見込んでいる。
ローコストを徹底するLCCに適
トル国際空港などの大型プロジェクトにも対
割以上のトップシェアを有し、
格納庫や整備
した設計でこれらの需要に対応していきたい」
応している。経済成長が進むアジアで、
コスト
工場など関連施設の大半を手がけ、
業界では
としている。
以外の品質や耐久性等を求める動きの高ま
「空港の梓設計」
として広く知られている。
3度のコンペで挑み続けた新国立競技場 りに
「
“建物が使い易くて長持ちする”
“ランニ
「空港の梓設計」
2020年東京五輪・パラリンピックの主会場
ングコストが安く抑えられる”
など総合品質を
羽田の再国際線化で日本の表玄関となっ
となる新国立競技場は、
梓設計・大成建設・
武器に、
『Japan Quality』
で相手が求める以
た東京国際空港国際線旅客ターミナルは、
建築家隈研吾氏による
「木と緑のスタジア
上のもので応えていく」
とし、
強みを持つラオ
同社を代表する実績のひとつであり、
現代の
ム」
に決定し、
2019年末の完成に向けて準
ス、
カンボジア、
ミャンマーでの市場拡大を目指
空港ニーズを反映した設計ポイントが網羅さ
備が進められている。
その取り組みは長く、
オリ
している。
れている。駅直結のアクセスの良さや出入国
ンピック開催が決まる以前から6年以上にわ
2020年まで国内の建設需要は堅調だが、
のスムーズな導線など
「駅に着いたらすぐ飛
たり設計案を提案し続けてきた。専任10名の
その後のポスト五輪をどのように描いていくか
んで、
到着したらすぐ会社に」
と多忙なビジネ
プロジェクトチームで、
3度のコンペを経て最
が業界全体の課題となっている。空港を民営
スマンに対応した使いやすさや機能性を重視
終決定に至った。8万人の観客が入るスタジ
化する動きが活発化するなど変化する環境に
する一方で、
買い物や食事、
免税品販売など
アムでは、
緻密に計算された意匠設計で
「ど
「これまでの実績を基盤に、
運営権を得た新
空港の新たな楽しみや快適性を提供するター
の席からも死角がなく、
全ての競技がよく見え
しいお客さまとも良好な関係を構築すること
ミナルビル設計に注力した。空港経営におい
る」
点に注目してほしいと話す。
が重要。変化を好機と捉え、
シェアを伸ばして
て、
飲食店や商業施設による収入の重要性
ここ数年首都圏を中心に再開発が加速
いきたい」
としている。新しいデジタル設計手
は近年非常に高まっており、
時代にマッチした
する中で、
都市開発事業も活況である。白金
を早くから導入し、
設計の品質と
法の
「BIM*」
リニューアルやテナントの入れ替え、
イベント
一丁目東地区の再開発では、
マンションやオ
生産性向上に積極的に取り組む一方で、
人
利用等にスムーズに対応できる拡張性の高
フィス、
店舗等を組み合わせた複合施設を中
材育成制度ACP
(梓キャリアプラン)
で入社
い設計を行っている。
また、
テロ対策など安全
心とした新しい街づくりで住みやすさが評判と
から定年、
再雇用まで社員のキャリア形成を
面を強化し、
厳しいセキュリティコントロールを
なり、
超高層住宅は中古マンションとして現在
サポートする。
「高い設計能力を身につけて、
も人気を集め、
第二期再開発も進行中だとい
社会やクライアントから信頼される設計者にな
う。当時、
地権者一人ひとりを訪ね説明に奔
ることが基本」
とし、
実績を重ね信頼を得て、
走した杉谷社長は
「苦労もあったが良い街に
次へと生かしさらなる高みを目指す。
したいという思いがあった。世界の中でも東
* Building Information Modeling:コンピューター内で3
杉谷社長
京は別格で、
今後も再開発が続くだろう」
と先
モンゴル 新ウランバートル国際空港旅客ビル イメージ
を見据えている。
22 mizuho global news | 2016 JUL&AUG vol.86
次元の建物を構築し、
その情報を設計、
施工、
管理などの
全プロセスで活用する設計手法
(取材・作成)
みずほ銀行 国際戦略情報部 大橋 綾
みずほフィナンシャルグループからのお知らせ
Charoen Pokphand Group Co., Ltd. との
業務協力覚書の締結について
みずほ銀行は、Charoen Pokphand Group Co., Ltd.
メコン川流域経済圏では国境を跨いだ製造業のサプライ
(Chairman and CEO:Dhanin Chearavanont、以下
チェーンの形成が進んでおり、
タイは、
サプライチェーンの中核
「CPG」)
との間で、CPGのアジアにおけるネットワークを
生産拠点やグループ販売会社が集積する要衝として、
その重
活用した日本企業の海外展開支援を目的とする業務協力
要性はますます高まっています。
また、CPGが強固なネットワー
覚書
(以下「本覚書」)
を締結しました。邦銀がCPGと業務
クを持つ中国は、13億人超の世界一の人口を誇り、経済成長
協力覚書を締結するのは今回が初めてです。
に伴い、農業・小売業等国内消費者向けの需要が拡大してい
アジア有数の大手コングロマリットの一つであるCPG
ます。
は、1920年代にタイで創業し、飼料製造、養鶏・養豚等
当行は、本覚書により、
アグリ事業、小売事業、通信事業を
の畜産物生産、食品加工等のアグリ事業を展開してきまし
中心とするCPGのグローバル展開をサポートし、CPGとの連携
た。1990年代からは小売事業、通信事業等にも参入す
をさらに強化していきます。
また、
タイ・中国において強固なネット
る等、事業領域を拡大しています。
また、中国においても、
ワークを誇るCPGとの連携により、
アジアを中心としたグローバ
1970年代に外資企業としてはじめて参入して以来、飼料
ルな展開を検討し、高い技術力や事業ノウハウを持つ日本企
製造、畜産物生産、食品加工、小売等の事業を展開して
業をCPGへ紹介することを通じて、
日本企業の海外進出およ
おり、現在に至るまで、
タイ・中国を中心にグローバルな事
び事業拡大等をサポートするとともに、
日本・タイ・中国の経済
業展開をしています。
発展にも貢献していきます。
GM のグロー バ ル E Y E
〔みずほ銀行 国際戦略情報部 部長 塩飽 啓一郎〕
本誌を発刊している国際戦略情報部
特に、地政学リスクは、最近顕現化し
ば、第2次世界大戦後、
日本が必ずしも
は、従前の直投支援部の機能を拡充す
たものを振り返るだけでも、サウジアラビ
真剣にエネルギーを注いでこなかった
「イ
る形で2016年4月に発足した。そのミッ
アによるイランとの国交断絶、北朝鮮の
ンテリジェンス」への取り組みの重要性
ションは、
日本企業の海外進出/展開
水爆・ミサイル発射実験、欧州における
が、国家のレベルでも増してきている。
「イ
支援を、有償・無償のアドバイザリー提供
同時多発テロ、
ウクライナ問題等々、発
ンテリジェンス」
とは、通常、国家による安
という形で行うことに加えて、国際戦略情
生頻度が上がってきている。それらは発
全保障や外交の分野における重要な判
報の収集・分析・発信をも担うこととなっ
生の都度、株式市場や為替レート、原油
断の拠り所となる機密・重要情報そのも
た。
価格等を大きく変動させ、企業のビジネス
の、
ないしは、係る情報の収集・分析・活
国際戦略情報とは何かを定義するこ
に影響を与えることに加え、
グローバル企
用を指すが、
グローバルなビジネス展開に
とは難しいが、
21世紀に入り、米国で起
業の立地戦略、国際展開戦略において
おいても、諜報活動等は当然無理として
こった9・11テロ事 件を契 機に金 融 市
も無視できないファクターになってきてい
も、
「インテリジェンス」感覚を磨き、手に
場や産業界において無視できないファク
る。
その意味で、地政学リスクを含む国際
する国際戦略情報の質を向上させ、経
ターとなっている地政学リスクに係る情
戦略情報を、入手するネットワークを拡充
営判断に役立てていくことが求められる
報は当然、国際戦略情報に含まれると考
し、分析するスキルを磨いて、顧客に対す
時代になってきている。みずほ銀行 国際
えているし、
ビジネスの観点から、当行や
るアドバイザリーの提供や、当行自身の
戦略情報部は、
そのような時代の要請に
顧客企業が事業を展開する国々におけ
海外展開における経営判断に役立てる
少しでも応えられるような存在になりたい
る外資規制や税制、産業政策の動向も
ことの重要性が増してきているのである。
と思っている。
国際戦略情報と言えるであろう。
同様の文脈で少し視点を変えて見れ
mizuho global news | 2016 JUL&AUG vol.86 2 3
MHCTコンサルティングインドネシア
Selamat siang !(インドネシア語で
「こんにちは」)
MHCTコンサルティングインドネシアよりご挨拶申し上げます。
2015年9月、
〈みずほ〉
はインドネシアの首都ジャカルタにて、
日系企業の進出支援等を行う現地法人「PT. MHCT
Consulting Indonesia」
を開業しました。当社は、
インドネシアみずほ銀行、
みずほバリモアファイナンスに続く、
インドネシア
で3番目の拠点となります。
インドネシアは、東南アジアで最大のGDPを誇り、東西約5,000kmの広大な国土から、石炭、天然ガス等、豊富な天然資
源が産出される資源国としての魅力と、2億5千万人を超えて増え続ける人口により、底堅い内需の成長が継続する消費市
場としての魅力の両方を備えたASEANの大国で、多くの日系企業が投資先として注目しています。
しかしながら、当地進出に際しては、外資企業の出資比率が著しく制限されている業種も多く、
さらには会社設立手続き、
労働ビザ取得等に非常に時間を要する、各種法規制が目まぐるしく改廃される等、当地進出後もさまざまな困難に直面する
ことが多いことも事実です。 当社はそのような数々の問題に直面されているお客さまとともに、
さまざまな困難に対する解決策を考え、克服し、
お客さま
がそれぞれの大切なビジネスに集中できる環境づくりの支援を目的としています。インドネシアの子会社現地法人では、限ら
れた日本人人員で運営せざるを得ない会社も多く、最新の法令改正や、他社での法令対応事例などの情報収集に割ける
体力も限られていると思います。私たちは、当地の信頼できる各種専門家と連携し、最新の情報をご提供させていただきます
ので、
ジャカルタにお立ち寄りの際は、気軽にお声掛けいただけますよう、
よろしくお願い申し上げます。
作成・みずほ銀行 国際戦略情報部
(2016年7月1日現在)
12402003205.16.07