経済原論Ⅱ(5/19①)マンキュー第6章①

経済原論Ⅱ(5/19①)マンキュー第6章①
<出所:http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3080.html>
経済原論Ⅱ(5/19②)マンキュー第6章②
第6章
失業
今までの議論では、完全雇用が達成されているという前提があった。
しかし、現実には失業が存在する。(日本の 2015 年 3 月の完全失業率:3.4%)
失業は、様々な問題を引き起こすので、失業は経済的にも政治的にも大きな問題。
長期分析においては、失業率の大まかなトレンドである「自然失業率」がまず重要になる。
6-1.離職、就職と自然失業率
労働力をL、就業者をE、失業者をUとすると、定義より
L = E +U
(1)
よって、失業率 u は、 u ≡ U L
(2)
就業者
sE
E
失業者
U
fU
1ヶ月間のうち、離職する者の比率(離職率)を s とすると新たに失業する人の数は sE 、
就職する者の比率(就職率)を f とすると失業者から就業者になる人の数は fU 、
それゆえ失業者の増加分 ∆U は
∆U = sE − fU
(3)
定義式(1)より、 E = L − U であるので
∆U = s ( L − U ) − fU = sL − ( s + f )U
失業率 u ≡ U / L の変化率は
(4)
∆L
∆u ∆U ∆L
=
−
= 0 )とすると、
、 労働力 L の成長率をゼロ(
u
U
L
L
∆u ∆U ∆L sL − ( s + f )U
L
=
−
=
− 0 = s  − ( s + f )
u
U
L
U
U 
⇒
∆u = s − ( s + f )u
* 自然失業率=定常状態(u がずっと一定の状態)における失業率、
すなわち、 ∆u = 0 の時の失業率
2つの問題
1. (正の)自然失業率は存在するのか?
2. 自然失業率が長期的に実現するのか?
(5)
経済原論Ⅱ(5/19③)マンキュー第6章③
∆u
s
∆u > 0 (u ↑)
∆u < 0 (u ↓)
uN
u
∆u = s − ( s + f )u
∆u = 0 の時の失業率、すなわち自然失業率 u N は以下のようになる。
uN =
U
s
=
L s+ f
⇒ 右辺の分子・分母をsで割ると u N =
自然失業率 u は離職率sの増加関数、就職率fの減少関数である。
数値例:就業者の1%が毎月離職している( s = 0.01 )
失業者の 20%が毎月就職している( f = 0.2 )
⇒ uN =
U
s
0.01
=
=
= 0.0476
L s + f 0.01 + 0.2
約5%
1
1 + ( f s)
経済原論Ⅱ(5/19④)マンキュー第6章④
6-2.職探しと摩擦的失業
失業の原因としては、求人と求職者とのマッチング(ミスマッチ)の問題もある。
⇒
離職と就職の間に時間があることによって生じる失業 =「摩擦的失業」
摩擦的失業の原因
摩擦的失業には、タイプライターがパソコンに移行したりなどやある地域の産業が興隆し、そ
れに伴い別のある地域の産業が衰退することによって地域間の労働需要が変化したりなど
⇒「部門間シフト」
公的政策と摩擦的失業
公的政策は、自然失業率を変化させる。
・ 失業保険-摩擦的失業を増やす効果がある
離職率 s が増加し、就職率 f が減少するため
この効果を小さくする工夫
100%経験料率制度:労働者を解雇した企業が労働者の失業保険給付をすべて支払う
しかし、現実には部分経験料率制度である。
・公共職業安定所(ハローワーク):摩擦的失業を減らす効果がある
<中間試験の日時・場所・試験範囲・問題の形式について>
*日時:6 月 5 日(金)3 限
☞ 13:20 までに遅れないように来てください
* 遅刻及び途中退室は原則認めません。
☞ 試験時間は 13:30~14:10 の 40 分間です。
* 場所
☞ 経済学部の2回生以外の学生は、
「六甲台本館 232 号教室」で受験してください。
つまり、経済学部の 3 回生以上、及び他学部の学生の皆さんは、
「六甲台本館 232 号教室」で受験してください。
☞ 経済学部の2回生の学生は、六甲台第 2 学舎 263 教室(いつもの授業の教室)です。
* 試験範囲、問題形式及び持ち込み
☞ 試験範囲 ① 教科書の第 1 章から第 6 章まで。ただし、
「第 5 章の補論」は除く
② 第 1 章から第 6 章までの範囲について授業で説明した内容及び宿題 1・2
☞ 問題形式 ① すべて四肢択一
② マークシートを使用するので、HB(あるいは B)の鉛筆あるいは
シャープペンシルを必ず持ってきてください。
☞持ち込み:一切不可
経済原論Ⅱ(5/22①)マンキュー第6章⑤
6-3.実質賃金の硬直性と構造的失業
・賃金の硬直性:労働の需要と供給が一致するようにうまく賃金が調整されない
・構造的失業=賃金の硬直性と職の割り当てによって起こる失業
賃金の下方硬直性の原因:①最低賃金法、②労働組合の独占的交渉力、③効率賃金
最低賃金法
10 代の若者や未熟練労働者の一部は、最低賃金より低い生産性しかない。逆に、就業者は、
賃金と同時に、職場における OJT などのスキル・アップという報酬も受け取っている。
LS
W /P
失業
1
MIN
(W P )
(W P )*
(W P ) 2MIN
LD
L
LS & LD
最低賃金が (W P )1MIN の時は失業が発生するが、 (W P ) 2MIN の時は失業は発生しない。
最低賃金は労働者の賃金を引き上げるためにある。
つまり、 (W P ) MIN > (W P )∗ である時に意味がある。⇒ 必ず失業が発生する。
労働組合と団体交渉:労働組合の独占的交渉力
経営者は労働組合の活動を好まない。理由:組合員の賃金は労働市場の水準とは関係なく、組
合と経営者の団体交渉で決定されるが、賃金交渉以外の条件についても譲歩しなければならな
い。 ⇒ 経営者は労働者が組合運動に力を入れる動機を抑えるために、高めの賃金を支払う
⇒ 企業に雇用されている組合員グループ(インサイダー)と失業している労働者グループ(ア
ウトサイダー)との格差(対立?)(正規労働者と非正規労働者の格差(対立?)もある!)
↓
組合運動によって引き上げられた賃金や待遇が、失業している労働者の再雇用に大きな障害
=失業しているアウトサイダーの雇用機会を奪っている可能性
経済原論Ⅱ(5/22②)マンキュー第6章⑥
*(非正規)労働者はなぜ最低賃金の引き上げを望むのか?企業の独占力と最低賃金の影響
最低賃金 ⇒ 雇用の減少、 失業の影響:生産性の低い労働者に対してより大きい
非正規雇用などの弱い立場の労働者による最低賃金の引き上げ要求も多い ⇒なぜか?
*企業が独占的な立場にある場合 ⇒ 賃金が「不当に」低く抑えられている!!
右上がりの労働供給曲線を仮定して、この問題を考えてみよう:
企業が労働の買手独占の場合:
利潤:
を
:
と書き直すと、
、
=生産関数
最大化のための一階の条件:
労働の限界生産力
競争市場の場合:
買手独占の場合、
=労働の実質限界費用
⇒
と
⇒
の交点
⇒
雇用量
⇒ 均衡雇用量
が決定
企業は雇用量 を達成するために、 に対応する
に賃金を設定
買手独占の下での均衡雇用量 <競争市場での雇用量
*しかし、失業が発生しているわけではない。
理由:賃金が低いために、それに対応した労働が供給されているだけ
*市場が競争的であれば、
の下では労働の超過需要が存在 ⇒ 賃金上昇
しかし、買手独占の下では企業に賃金を引き上げる誘因はない。
買手独占市場における均衡と最低賃金の影響
* 均衡水準
より高い最低賃金
の導入 ⇒
が実現 ⇒雇用量も
へ増加
最低賃金:買手の独占力を弱め、労働者の状況を改善!!(雇用量も賃金もともに上昇)
経済原論Ⅱ(5/22③)マンキュー第6章⑦
<簡単な具体例>
生産関数: Y = 240 L − (1 / 2) L2 、
労働供給関数: L = 2 w ( w = (1 2) L )
①労働市場が競争的な場合:企業は( P と) W を与えられたものとして利潤を最大化する
P = PY − WL ⇒ P P = Y − (W P) L ⇒ P P = π = Y − wL = 240 L − (1 / 2) L2 − wL を最大化
労働需要関数:
「実質賃金=労働の限界生産力」 ⇒
w = dY dL = 240 − L ⇒ w = 240 − L
w
240
MC L ( L) = d ((1 2) L2 ) dL = L
LD
LS
120
wmin =90
80
60
L
120 150 160
180
240
②労働市場で企業が独占的である場合
企業は L とともに W が変化することを考慮して利潤を最大化する:費用= wL = (1 2) L × L
π = Y − wL = 240 L − (1 / 2) L2 − [(1 / 2) L]L = 240 L − L2
⇒
dπ dL = 0 ⇒
L = 120
効率賃金仮説 (企業が高い賃金を設定し、賃金を引き下げようとしないこともある!!)
高賃金を支払うことにより労働者をより生産的にすることが出来る。
① 健康状態を向上させる(特に、発展途上国の場合)
② 転職を減らす可能性
③ 逆選択を避けるため
逆選択:本当は能力の高い労働者を選抜したい。しかし、賃金を下げると能力の高い労働
者が企業を去ってしまい、企業は能力の低い労働者を意図とは逆に選抜してしまう。
④ 労働者に誠実に働く動機が生まれる→モラル・ハザードの防止
経済原論Ⅱ(5/22④)マンキュー第6章⑧
6-4.労働市場の経験:アメリカ
失業継続期間
摩擦的失業は、(個人にとってはある意味で)一時的な失業・短期的な失業
失業件数のほとんどは短期間に終了する
構造的失業は、長期的な失業:政策のターゲット
失業期間総数(失業期間×人数)のほとんどは長期的な失業
人口構成別の失業
白人よりも黒人の方が、失業率が高い
高失業率グループは高離職率である:若年層の高失業率
失業のトレンド
自然失業率は長期的に安定していない
いくつかの理由
① 人口要因:ベビーブーマーと女性の進出など
② 部門間シフトの広範囲化(⇒ 摩擦的失業の増加)
③ 生産性:生産性↑(↓) ⇔ 失業率↓(↑)
労働市場における参入と退出の移行過程
「失業中」の中の人には真剣に職を探していない人もいる ⇒ 失業者に含めるべきではない
逆に、就業意欲喪失労働者:真剣に職探しをしたが成功せず、諦めてしまった人々
十分労働力として計算しても良いはずの労働者であるが、失業統計には現れてこない
(日本の失業率の低さの要因の一つ?…特に既婚女性が就職を諦めている??)
6-5.労働市場の経験:ヨーロッパ
ヨーロッパにおける失業の増大
ヨーロッパの大陸諸国(EU加盟国)では1970年代後半失業率が急上昇し今もかなり高い
理由:① 失業者への行き過ぎた(?)給付
② 熟練偏向的な技術進歩(例:Digital Divide)
技術進歩で熟練技術者への労働需要は増大
しかし、未熟練労働者への労働需要は大幅に低下
ヨーロッパにおける余暇の増大
「ヨーロッパの失業率>アメリカの失業率」は
「ヨーロッパ人の余暇時間>アメリカ人の余暇時間」という、より大きな現象の一部
<エド・プレスコットの指摘>
「アメリカと独・仏の労働供給の相違=税制の相違」
(1) ヨーロッパの税率の方が高い、(2) ヨーロッパの税率はここ数十年で大きく上昇
6-6.結論
失業は資源の浪費:政策が果たせる役割も小さくはない