凝縮を伴う超音速ノズル流れ _155一 凝縮を伴う超音速ノズル流れの数値解析 松尾一泰*・園田圭介**・川越茂敏* (昭和56年10.月31日 受理) Numerical Analysis of Supersonic Nozzle:Flow with Condensation Kazuyasu MATSUO, Keisuke SONODA and Shigetoshi KAWAGOE Condensation initiated by homogeneous nucleation has been investigated theore‡i− cally for the case of rapid expansion of steam in a supersonic nozzle. The equations of motion together with the nucleation rate and the droplet growth equations were solved numerically, assuming that the How is steady, one−di1:nensionaエ, and inviscjd. As the result, the efεects of surface tension of the droPlet, condensation coef五cient and degree of superheat of the steam on the d{stributions of pressure, Mach number, and other How properties along the nozzle were clarified. Furthermore, the formation process and the stability of a condensatioll shock were discussed.・The location where the shock stays in the nozzle shifts towards the nozzle throat when the degree of superheat de− creases, and if the degree of superheat becomes lower than a certain value, self−excited oscillation of the How occurs due to the instability of the condensation shock. 1. ま え が き ビンの流れなどに関連し,工学的に重要な問題で,従 来多くの実験的及び理論的研究1)∼9)が行われてきた. 凝縮性気体,特に水蒸気などが超音速ノズルで急激 例えばHil15), Barschdorff8)9)らは,流れの基礎方 に加速膨張する場合,飽和状態に達しても凝縮は起こ 程式と,核生成率,及び液滴成長理論を用い,超音速 らず過飽和(過冷却)状態となる,この状態におい ノズルによる水蒸気の膨張流れを数値解析し,実験値 て,蒸気分子相互の衝突合体が起こり,凝縮に必要な との比較検討を行った.またBarschdor鉦8)9)は,サ 十分な数の凝縮核が生成されると,蒸気はこの核に凝 ーマルチョーキングで発生した凝縮衝撃波を伴う流れ 縮し始め,いわゆる非平衡過程の均一凝縮が起こる. 及び自励振動を伴う流れの解析を行った.しかし凝縮 その後流れは飽和平衡状態へ移行してゆくが,非平衡 衝撃波の形成過程や自励振動の発生範囲など現在まだ 過程において,凝縮に伴い潜熱が放出されると,ノズ 不明な点も多く,早急な解決が望まれている. ル内の流れは加熱され状態量が変化する.凝縮がノズ 本論文では,水蒸気がノズルで加速膨張する場合の ルスロートのかなり下流の超音速領域で起こる場合, 流れを一次元定常,非粘性流れ,また水蒸気を半完全 流れの圧力,温度,密度などはゆるやかに増加する. 気体と仮定して数値計算を行い,ノズル内流れに及ぼ しかし比較的スロートに近い遷音速領域で凝縮が起こ す表面張力,凝縮係数の影響を調べた.またノズル入 ると,流れのサーマルチョーキングが起こり易く,こ 口の過熱度を変化させ凝縮衝撃波の形成過程を解析し れが起こると凝縮域内に凝縮衝撃波が形成され,状態 た.更にノズル内の流れが自励振動を起こす条件及び 量が急激に変化し,ノズル内の流れに周期的な自励振 振動の発生範囲について考察した. 動が発生することがある. このような凝縮を伴う高速ノズル流れは,蒸気ター 2。記 『*エネルギー変換工学専攻 **エネルギー変換工学専攻博士後期課程 Cヵ:定圧比熱 号 オ:流路断面積 m2 J/kg・K 総合理工学研究科報告 一156一 9 :液相の質量比=砺/(砺十期目 乃* :スロート高さ m 1 :畢生成下 1/m3s ん :ボルツマン定数 昭和56年 第3巻 第2号 Po FIow ρ〇 一→ が L :潜熱 J/kg 祝 :質量 kg M :マッハ数 :圧力 Pa r :液滴半径 ln rcγ :臨界半径 R m :気体定数 J/kg・K ここにρ“は気相の密度である.また凝縮により発生 R* :ノズルの曲率半径 m する液滴は十分小さく,気相と液相の速度及び温度は :過飽和度 To R★ Fig.1 Nozzle geometry 等しいと仮定すれば,流れの基礎式は次のように表さ =ρ/ア、 ’ :時間 T :温度 」T :過熱度 zぜ :流速 m/s x :スロートから下流方向への距離 m α :凝縮係数 μ :1分野の質量 ξ :表面張力係数 =σ/σ。。 π :円周率 ρ :密度 kg/m3 :表面張力 N/m σ =T−T5 S れる. K K 連続の式 ÷濃+÷・募+去・餐一・ (2) 運動方程式 畷+÷・審一・ kg (3) エネルギ式 畷+c帯一L塞一・ (4) 状態方程式 添字 ■.血_■.血_■.璽 0 :よどみ状態 ρ 4κ ・。 :無限平面 ρ 4x τ 4x ’πc:開始点 +、皇9・釜・(5) z :液相(液滴) 8 :飽和状態 液相の質量比9のX方向変化49/4Xは,発生する ” :気相(蒸気) 液滴を球体と仮定すれば,液滴成長速度4r/4κと核 生成率1を用い,次のように表される5). 3.解 析 方 法 図1に示すように,スロート高さゲ,曲率半径R* 塞一蒲(α釜+蕃融8) (6) 馨一α一二+4融ぎ (7) 六一②告+8・・砺 (8) 墾・,=8。1オ (9) の二次元円弧ノズルを考え,よどみ点状態の圧力p。, 密度ρD,温度Toの水蒸気がノズルを通り膨張する 流れを考える.簡単のため,流れを一次元定常で非粘 性流れと仮定する.ノズル内で流れの凝縮が起こると 気液二相流となるが,一般に液相(液滴)の体積が全 体に占める割合は極めて小さく,これを無視すると, ぬ 二相流の密度ρは近似的に次式で表される. ここでr。は戸戸の初期半径である.核生成率∫は, ρ=ρひ/(ユー9’) (1) Frenkello), Volmer11), Courtney12), Becker と 凝縮を伴う超音速ノズル流れ Dδringユ3),らにより種々の式が提案されているが, ここでは次に示すFrenkelの式を用いる. ・一/2 }σ”(んT)卿(一4謝 ここでr‘.は液滴の臨界半径で, (16) また流れのマッハ数変化は (10) 詣砦一÷塞+開脚一・ (17) Helmholtz14), 上述の式(1)∼(11)及び(13)∼(17)の連立1 Gibbs15)によると,次式で与えられる. 階常微分方程式をRunge−Kutta−Gi11法を用いて解 2σ (11) 「・・=謳Tl・(ρ/ρ、) ここにp、は飽和蒸気圧である.r、。は, 過飽和蒸気 中で発生する凝縮核の安定性を決定する量で,蒸気分 子が衝突合体によってできる分子集合体を球体と考 え,その半径がr,,よりも小さければ,球体は蒸 発,消滅するが,r、。より大きければ,蒸気分子がこ の球体に次々に凝縮し,凝縮核として成長する.また 式(10)と(11)のσは凝縮核や液滴の単位面積当 りの表面自由エネルギすなわち表面張力で,無限平面 をなす液面の表面張力σ。。とは異なる。Kirkwoodと Bu妊16》は統計力学的方法により,σについて次式を 導いている. くに当り,ノズルのよどみ点状態からスロートまでの 流れを等エントロピと仮定し,スロートにおける状態 量を求め,これを初期値としてスロートの下流の計算 を行った.またサーマルチョーキングで凝縮衝撃波が 発生する場合,凝縮衝撃波を断熱の垂直衝撃波と仮定 し,衝撃波の前後にRankine−Hugoniotの関係式を 用いた。なお定圧比熱ら,飽和蒸気圧P、,潜熱L, 無限平面の表面張力σ..などの物性値は,文献19)と 20)に基づき,温度の関数として与えた. 4.計算結果及び考察 4.1表面張力と凝縮係数の影響 ノズルのスロー ト高さ”1』0.012m,曲率半径R*=0.4mで,ノズ のユ ・一 一157一 i・+÷)偏 (・2) ル入口の全知Po r 101.3kPa,全温度τo=390 K,凝 縮係数α=0.01の一定値とし,表面張力係数ξを ここでδは1分子の直径のオーダーで,7はδの3 ∼4倍である.従って上式によれば,σ/σ。。〈1であ る.一方,OrianiとSundquistユ7)は10∼100原子 を含む核では,σ/σ..=1.25としており,凝縮核や液 滴の表面張力の値は現在のところ,明確ではない.本 論文では,簡単のため,表面張力係数ξを導入し, 次式を用いる. 0.9,1.0,1.1及び1.2とした場合の核生成率1, 液相の質量比9,スロートで発生した液滴の半径r*, 臨界半径7、。,過飽和度ε,静圧pの軸方向の変化 を,スロートから下流方向への無次元距離X/がに対 し,図2に示す.図(a)より9はん/がのある点ま でほとんど0で,その点からx/がの増加とともに増 加する.gが増加し始める点(図の丸印)は図(C)の σ=ξσ◎Q (!3) 静圧pが等エントロピ流れの圧力曲線からずれ始め 液滴成長速度4r/4κはHertz−Kundsenの方程 る点と一致しており,この点を凝縮の開始点と定義す 式18)と,気相と液相間の速度差がないことによる関 る.凝縮の開始点はξが小さいほどスロートへ近い. 係式4r/漉=麗・4r/4Xを用い,液滴を球体と仮定す これは式(11)と(13)から明らかなように,年々の れば,次式で表される. 表面張力が小さいほどr、,が小さく,蒸気分子の衝突 釜一“角(2。箋7)、/2[・一・・exp(。,語r)] 合体で生ずる分子集合体が凝縮核になりやすく,図 (c)に示すように低い過飽和度で凝縮が始まるためで ある.図(a)より,凝縮開始点における核生成率1 (14) ところで,図1に示すノズルのスロート断面積を ・4*とすれば,幾何学的関係より次式が得られる. ノ4/ノ4*二(ゐ*十2、R*一2レ/R*2−x2)/ノ診* 1己4 (コ.5) 2κ 死「一ZZ憂「 (1∼*一ト2R*一2レぐP…雨2)γ/R*2−x2 の値及びその最大値はξの値に依らず一定である. これは,液滴成長速度が同じであれば,液滴の表面張 力が異っても凝縮開始に必要な凝縮核の数は等しいこ とを示す.7、。は図2(b)より,κ/歴の増加ととも に初めわずかに減少するが,凝縮が始まると増加し, ある一定値に漸近する.またスロートで発生した液滴 総合理工学研究科報告 一158一 一 Mass fraction 6f liquid phase g o 甲しり Po胃101.3 kPa,To=390 K,α=0.01 0.025 ”/;/斗/、 !! @ ノ ! !! ノ @ !! // 0 0 o へ 1/ 1/、 @ξ=0.9 1.O l1.1 1020 、 0.025 へ 2.0 、 、 1 / α=1 / 0.1 、0.001 0.01 骸 ∼ 1∠ 1 0 0 3.0 、 ノ1 / 0 ・3.0 2.0 1.0 oじ/が ω/ゲ (a) Variation of nucleation rate (a) Variation of nucleation rate and mass fractlon of l iquld phase and n霞ass fraction of liquld phase vs nondimensional distance 一R・dius・f d・・P1・t ξ=L21・O 一 Radius of drOPlet 堂 generated at throat r★ 1.1 0.9 b・iti・・1←adi・s・f d・・Plet・cr ぎ vs nondimensional distance §102 塁10。 美 generated at throat r★ ぎ 一…一 一一一一一 鮎 100 10−2 ,6一ξ=0・9、 ’ 侮◎ビ冒し識一判b・.一___ LO ρ1.1 くひの 0.1 ロ \ 1.2 1σ辱 0 1.0 10−2 0.01 ,冬α=1’ 2.03.O , 『噛 @噛。 1.00 一『 処齒B「一◎・輌◎一‘ 0 rupersaturation S (b) Variation of critical radius of droplet Pressure ratiO P!ρ。 @o nnset of condensation @ 0.75 .、 @ vs nond蓄mensional distance 、 1.00 !! @,,”一◎鴫、、’ and radius of droPlet generated at throat しり 、 10 ,’ 、 〆一{\ 、 ‘ 瓢 ’ 20 一一一一 rupersaturatうon S @ o Pressure ratiO PIP。 nnset of condensation @ 0.75 0.50 の ! @ ! , 10 ’ @ @ 0 ξ=0.9 @ 〆 !σ二一一\ !! レ01・11.2 ’ @ , ’ @ 一 ’ @? 一 一 ’ 1.0 2.0 、 、 、 、r 一一一 r蟹Lr__口 ナ’ 0.50 0 0.01、 、 、 @ ♂σ、 ’0 α=1〆 hsentrope 0.25 3.0 ω/が 〈 ’Isentrope ’ 一 」 ^’\1.2’ \0.001 2.0 1.0 20 一一一一 /ぐ一〇.01 ! 10肩恥 vs nondimenSiOnal distance ‘ 0.1 0.001 o5/が (b) Variation of critical radius of droPlet and radius of droPlet generated at throat 瓢 @Critical radius of ∼lroPlet rcr α=1 一ザー脳㌔−■㌔ち「L「一野 『葺ぎ葺…言r韓 1020 、 ,! 、/づ\ 0 1.0 二 ,ρ一乙ヒr」=一 一一層一一一一 ,D曜ζF 、 1.2 i l豊 丁ω Po=101.3 kPa,To=390 K,ξ=1.1 ニ /一一『『)ぐ一一一)甲一一一二ニー一 一一、 、 ,’ ノ’ 、,’ 、 ” 、 、 ケ 一 Mass fraction of l lquid phase g @NUCIeation rate I 一____ 〒 @Nucl eation rate I 一____ いむ 1Q 0.050 10恥o 0.050 昭和56年 第3巻 第2号 Q・1・.・1 0.001 3.O oc/が (c)Vと・i・t1。・・f・・p…at・rat{・n a・d p・essure,ati。・ VS nondimensiOnal distanCe Fig.2 Effect of coef五cient of surface tenSiOn On nOZZIe HOW Isentrope 0.25 0 1.0 2.0 3.0 ⑳/が (c).Variati・n・f supersaturati・n and p・essure.at1。 vs nondimensional distance Fig.3 Effect of condensation coe缶cient の半径r*は,X/がの増加とともに大きくなるが, 、 on nozzle flow 、 その増加割合はξにあまり関係しない. 次に表面張力係数ξを1.1の一定値とし,凝縮係 実際の超音速ノズル内の水蒸気流申で形成される液 数:αを1,0.1,0.01及び0.001とした場合の計算結 滴の半径は1μm以下である21)ことを考慮すれば, 果を図3に示す.図(a)のg及び図(c)のp/ρoの αの値は0.1∼0.01程度と思われる. 変化より,αが大きいほど凝縮開始点はスロートへ近 以上の結果より,凝縮が始まるためにはある数以上 く,凝縮開始点における過飽和度3及び核生成率1 の凝縮核が必要で,凝縮核の大きさが大きいほど,凝 は小さい.これはαが大きいほど凝縮核の成長が速 縮開始に必要な凝縮核の数は少ないといえる.また本 く,凝縮核の大きさが大きいためである.また図(b) 計算結果と従来の実験値8)2Dを考慮:すれば,凝縮係数 から明らかなように,液滴半径r*はαが小さいほ αと表面張力係数ξの値としてα=0.01,ξ=1.1が ど小さい. 最も妥当と思われる.従って以下の計算にはこれらの 一159一 凝縮を伴う超音速ノズル流れ ゆロ 10 900 0.050 10 2ノσ一一\ Mass fraction of liquid phase g 一 o 一一一一一 o @爬UCleation rate I Onset of condensation ” 0.025 、.,’ ’ 3 ⑳ 2 、 0 20 10 /’ 1 1.0 1 @A @ ソ一一 ’ ’ ,’ 、 ’ _ Shock wave 、 覧 _ _ 楠 一 _ @、 ,’ P/ Qり ノ ’ @,、’ @ 一 一 贈 Supersaturatlon uelocity 一 一 0 400 3.0 oσ/が b Shock wave 0 、 、 \ Q___一こ勘___ 0 2 1 2.O ’ @@ 650 1 1 、 @ 、 」’ /∠ ! ε… H Shock location / ,oρ亀、 } ∈…コ 3 、 !! Q 0 〒 。り ぴ}\ 3 1.0 2.0 3.0 .¢/が (c) (a) 1.50 『 PO=川.3 kPa α=0.01 △T。K ξ=1。1 ξ 1 1:4L85 ㌧ 2 (a) Variation of nucleation rate and mass fraction of liquid phase vs nondimensional distance (b) Variatlon of Mach number, temperature ratio, density ratio and pressure ratio 2=16.85 。1.25 3: 3.25 ミ Shock wave ロ ♂ 踵 a ミ @ 3 織 1.00 Isentrope m,,,。 一 軸 一 vs nondlmensional distance a@_______ 、鴨一〇}=」一 b ♀?、 、 、 、o 揶齬浴Q一 0.75 、 、 1 、 、 、 Shock wave aA 、 3\ @ @ b 3 、 (c) 、 、 Vaγ覧iation of velocity 母nd supersaturation vs nondimensional distance 、 ρ!ρo a A、 0.50 @\、P!Po Q 、 、 @ 、㍗ @ o、 、 a k〆こ 、 @ 、 0 1 @、 @ 、 hsentrope 0.25 、 1.0 @ @ @ }ーーゼ、㍉ 、 、 、 、 、、、 1 、 、 3.0 2.0 」σ/ド (b) ’Fig.4 Effect of degree of superheat on nozzle fiow 値を用いた. 3は丸印,すなわち凝縮開始点より等エントロピ流れ 4.2 ノズル内の状態量変化 ノズル入口の全圧ρ・ を示す曲線1からずれ始め,曲線3の場合,凝縮によ を101.3kPaの一定とし,過熱度∠70を41.85 K, る衝撃波ab(凝縮衝撃波)が発生する.凝縮が起こ 16.85K及び3.25 Kとした場合のノズル内の流れの ると潜熱が放出され,流れは加熱の効果を受ける.こ 諸量の軸方向変化をそれぞれ図4の曲線1,2,3で示 のため図(b)と(c)に示すように,M,πは減少し, す.図(a)の質量比9がx軸を離れ増加し始める T,ρ,pは増加する.その後加熱の効果よりも流路面 点が凝縮開始点を示すが,過熱度∠T。=41.85Kの場 積の拡大効果の影響が大きくなるため,マッハ数と流 合,x/歴≦3.0では9はほぼ0で凝縮は起こらず, 速は再び増加し,静温度,密度,静圧は減少する.曲 9の曲線1は横軸と一致する.図(b)はマッハ数M, 線3の場合,衝撃波でいったん亜音速まで減速された 温度比丁/To,密度比ρ/ρ0,圧力比ρ/PO,図(e)は 流れが,加熱効果でM=1の状態に達しその後は流 流速〃,過飽和度51の軸方向変化を示し,これらの 路面積効果で超音速流れになると考えられる.なお図 図の曲線1は前述のように凝縮が起こらないため,等 (a)の曲線2と3の核生成率1は凝縮が始まると急 エントロピ流れと仮定した場合の値を示す.曲線2と 激に減少しほぼ0となるが,これは図3(b)に示すよ 一160一 総合理工学研究科報告 うに,凝縮に伴い臨界半径r、。が急激に増加するため 第3巻 第2号 昭和56年 で,定常な流れ場の解が存在するからである.しかし である.1が0となる点で蒸気分子の衝突合体による 4τ。が更に減少すると,凝縮開始点及び衝撃波の発生 凝縮核の発生が終り,これ以後はこれまでに発生した 位置がスロートへ近づき,圧力こう配(4ρ/4X)、h。Ck 凝縮核あるいは十寸へ蒸気分子が次々に付着して凝縮 が0へ近づく.曲線5は(4ρ/4κ),h。Ck=0の限界状 が進行する. 態を示し,470がこの状態の過熱度(図では4To= なお本計算では凝縮衝撃波による液滴の蒸発を考慮 2・45K)より小さい場合,衝撃波は流れに定在し得 していない.そのため図4(a)の曲線3に示す9は ず,上流へ伝ぱする.従来の実験的研究6)8)で観察さ 衝撃波によって変化しない.しかし実際の現象では, れたノズル流れの周期的な振動はこのようにして発生 衝撃波による液滴の蒸発が考えられ,今後蒸発を考慮 するものと思われる. 4.4 振動の発生条件 前述の基準に基づき,スロ した計算法の検討が望まれる. 4.3 過熱度の影響 以上の結果から明らかなよう ート高さがと曲率半径R*が異なる種々のノズル に,ノズル入ロの過熱度4T。が変化すると凝縮開始 について振動の発生条件を調べた.その結果を図6に 点が移動する.また過熱度が比較的低い場合,ノズル 示す.図の横軸は二次元ノズルのスロートにおける温 内で凝縮に伴う潜熱の影響によりサーマルチョーキン 度降下割合22)の絶対値で,比熱比をγとすれば,次 グが起こり,凝縮衝撃波が形成される.過熱度∠T。 式で表される. をパラメータとし,静圧の軸方向分布の一例を図5に 20 示す.図はα=0.01,ξ=1.1,Po=101.3kPaで,∠To が2.45K,3.25K,6.85K,11.85K及び41.85K y の場合で,前述のように4To=・41.85 Kの曲線1は ρ 等エントロピ流れと仮定した場合の計算値と一致す る.∠:『。が曲線1より小さい曲線2と3では図の丸印 α=0.01 Nonoscillatlng flow ξ=1.1 ぐ ρo=202.6kPa 10 101●3 kPa で凝縮が始まり,凝縮潜熱の放出により圧力は緩かに 増加し,その後再び減少する.」T。が更に小さくなる 50●65 kPa Oscillatlng と凝縮開始点はスロートへ近づくとともに凝縮による flow 圧力上昇は大きくなり,ノズル内で流れのサーマルチ ョーキングが起こる.この状態より470が更に減少 すれば,曲線4に示すように流れの調整のため凝縮衝 0 0.5 1 1÷・老}lth,。atバ 撃波が形成される.曲線4に示すように,この衝撃波 の発生位置における壁面静圧の軸方向のこう配(の/ 4κ)、h。Ckが正の場合,衝撃波はその位置に定在し得 る.なぜならこの状態で潜熱放出による加熱の効果が 5 10 20 Fig.6 Range of oscillating flow 1(1 4TTo 4κ)ト/㍍・{(,回議即 増加しても,より強い凝縮衝撃波が形成されるだけ throat (18) 0,75 0 ‘ 0nset of condensat重on ξ=1.1 Shock wave 0,50 10]・3kPa,202・6kPaのときの振動が発生する境界 △ToK 1:41.85 2:11。85 線を示し,過熱度∠7’oがこれらの直線で示す値より 3: 6.85 4: 3.25 5: 2.45 4 5 図の3本の直線は,ノズル入口等圧ρ。が50.65kPa, α=0.01 .Po=101。3 kPa 栽 小さい場合振動が発生する.図より振動が起こる過熱 3 度の最大値はPoが大きいほど大きく,またノズルス (農}、h。,k・・ P2 ロートにおける温度降下割合が大きいほど小さいこと (一a三「) shock > 0 Isentrope一 0,25 O I.0 τ 2.0 謬/が Fig.5 Static pressure variation with distance がわかる. 3,0 5.結 論 水蒸気が超音速ノズルで加速され,凝縮が起こる場 凝縮を伴う超音速ノズル流れ 一161一 合の流れを数値解析した.得られた結果を要約すると 5) Hi11, P. G., J. Fluid Mech.,25−3(1966), 次の通りである. 593. (1)凝縮核の表面張力が小さいほど,また凝縮係数 ’6) FilipPov, G. A.,ほか3名, Thermal Eng., 17−12(1970), 26. が大きいほど,小さい過飽和度で凝縮が始まる.また 7) Yousif, F. H.,ほか2名, Proc. Inst. Mech. 凝縮により発生する液滴は凝縮係数が小さいほど小さ Eng.,186−37(1972),439, 8)Barschdor鉦, D., Forsch. Ing.一Wes.,37−5 い. (2)過飽和蒸気中の凝縮核の数がある値以上になら なければ凝縮は起こらない.凝縮が起こるのに必要な 最小の凝縮核の数は凝縮係数が大きいほど小さい. (3)ノズル入口のよどみ点状態における圧力を一定 に保ち,過熱度を減少させると凝縮衝撃波が発生す る.その発生位置は過熱度が小さいほどノズルスロー トに近い. Transfer−Soviet Res.,2−5(1970),76. 10) Frenke1, J., Kinetic Theory of Liquids, (1946),Oxford University Press. 11) Volmer, M., Kinetik der Phasenbildung, (1939),Steinkopff. 12)Courtney, W. G., J. Chem. Phys.,36 (1962),2018. (4)凝縮衝撃波の発生位置における壁面静圧の軸方 向こう配が正の場合流れは安定であるか,負の場合凝 縮衝撃波は定在し得ず,流れの振動か起こる.この基 準に基づく振動の発生条件は,ノズル入口の全圧,ノ ズルスロートにおける温度降下割合,及び過熱度に依 存し,振動が起こる過熱度の最大値は,全圧か大きい ほど,また温度降下割合か小さいほど大きい. 参考文献 1) Yellott, J.1. and Holland, C. K., Engi− neering,143 (1937),647. 2)Binnie, A. M. and Woods, M. W., Proc. Inst. Mech. Eng.,138−2(1938),229. 3) Deich, M. E.,ほか3名, High Tempera− ture,2−5(1964), 710. 4) Pouring, A. A., Phys. Fluids,8−10(1965), 1802. (1971), 146. 9) B旦rschdorff, D. and Filippov, G. A., Heat 13)Becker, R. and Dδring, W., Ann. Phys., 24 (1935), 719. 14) Von Helmholtz, R., Ann. Physik, 27 (1886), 508. 15)Gibbs, J. W., Trans. Conn. Acad. III, (1878), 343. 16) Kirkwood, J. G. and Buff, F. P.,」. Chem. Phys.,17(1949),338. 17) Oriani, R. A. and Sundquist, B。 E., J. Chem. Phys.,38(1963),2082. 18)Kang, S. W., AIAA J.,5−7(1967),1288. 19) 佐藤i和男,海誌,28−3(1974),182. 20) 渡部康一・,ほか2名,機誌,81−720(1978), 1182. 21) Gyarmathy, G. and Lesch, F., Proc. Inst. Mech. Eng.,184−Pt3G(III)(1967), 29. 22)Wegener, P. P., Progr. in Astron. Aeron.,15(1964),701, Academic Press.
© Copyright 2024 ExpyDoc