資料(PDF 211KB)

2016/7/8
東京都港区南青山 2-5-20
TEL: 03-5775-3073
URL:http://www.tdb.co.jp/
特別企画:
「返済猶予後倒産」の動向調査
2016 年上半期の「返済猶予後倒産」
、
3 年ぶりの前年同期比増加
~ 建設業、不動産業など内需型産業で増加目立つ ~
はじめに
2009 年 12 月に施行された中小企業金融円滑化法が 2013 年 3 月末に終了してから 3 年 3 カ月が
経過した。円滑化法の終了後も、実質的には法施行時と同様に「金融機関は引き続き円滑な資金
供給や貸付条件の変更等に努めるべき」との金融庁による方針のもと、二度、三度と条件変更等
を受ける企業を含め、貸付条件変更等の実行が続いている。6 月 21 日に公表された金融庁資料に
よれば、2015 年 10 月~2016 年 3 月期の直近半年間で金融機関は約 50.0 万件の条件変更等の申し
込みを受け付け、うち約 48.7 万件を実行、実行率は依然 100%近い水準を維持している。
こうしたなか、返済猶予を経営改善に結び付けられずに倒産に至るケースも散見されている。
帝国データバンクでは、金融機関から返済条件の変更等(リスケジュール)を受けていたと判明
した企業(負債 1000 万円以上)の倒産を「返済猶予後倒産」と定義し、件数・負債推移、業種別、
地域別などについて集計・分析を行った。
※上半期は 1~6 月、下半期は 7~12 月
調査結果(要旨)
1.2016 年上半期に判明した「返済猶予後倒産」の件数は 194 件と、前年同期比 1.0%の微増とな
った。中小企業金融円滑化法の終了にともない、暫定的リスケジュールを受けた企業が返済猶
予期限を迎えるなか、3 年ぶりの前年同期比増加に転じた
2.業種別件数を見ると、
「製造業」が 46 件(構成比 23.7%)で最多となった。前年同期比の増加
率 で は 、「 不 動 産 業 」
(400.0%増)がトップ。
次いで、
「建設業」
(43.5%
増 )、「 運 輸 ・ 通 信 業 」
(33.3%増)の順となり、
売り上げ不振の内需型企
業を中心に増加が目立つ
3.地域別件数を見ると、
「関
東 」 が 49 件 ( 構 成 比
25.3%)で最多となった
(件)
350
「返済猶予後倒産」の件数推移
293
300
258
256
250
207
202
192
200
152
150
194
145
109
100
50
0
60
52
30
28
上半期
下半期
2009年
©TEIKOKU DATABANK, LTD.
270
上半期
下半期
2010年
上半期
下半期
2011年
上半期
下半期
2012年
上半期
下半期
2013年
上半期
下半期
2014年
上半期
下半期
2015年
上半期
2016年
1
2016/7/8
特別企画:「返済猶予後倒産」の動向調査
1.件数・負債推移
2016 年上半期に判明した「返済猶予後倒産」の件数は 194 件と、前年同期比 1.0%の微増とな
った。中小企業金融円滑化法の終了にともない、経営不振企業が本格的な再生計画作成のための
猶予期間となる暫定的リスケジュールを受けた企業が猶予期限を迎えるなか、2013 年上半期(270
件、前年同期比 86.2%増)以来、3 年ぶりの前年同期比増加に転じた。企業倒産全体の件数が 2010
年上半期以降 7 年連続で前年同期を下回っている状況とは対照的に、返済猶予を経営改善に結び
付けられず倒産に至る企業が増加している。
一方、
「返済猶予後倒産」の負債総額は 1350 億 5000 万円にのぼり、前年同期比 11.4%の増加で、
件数と同じく 2013 年上半期(1987 億 9000 万円、前年同期比 73.7%増)以来、3 年ぶりの前年同
期比増加となった。
「返済猶予後倒産」の件数・負債
件数
2009年
2010年
2011年
2012年
2013年
2014年
2015年
2016年
上半期
下半期
上半期
下半期
上半期
下半期
上半期
下半期
上半期
下半期
上半期
下半期
上半期
下半期
上半期
下半期
28
30
52
60
109
152
145
258
270
293
256
207
192
202
194
前年同期比
(%)
85.7
100.0
109.6
153.3
33.0
69.7
86.2
13.6
▲ 5.2
▲ 29.4
▲ 25.0
▲ 2.4
1.0
負債
(百万円)
201,483
32,623
129,471
135,448
93,115
143,383
114,470
343,022
198,790
177,504
167,829
122,356
121,211
101,920
135,050
【参考】企業倒産全体の件数・負債
負債
前年同期比
前年同期比
件数
(百万円)
(%)
(%)
7,023
16.6
4,594,160
52.2
6,283
▲ 5.6
2,215,987
▲ 75.1
5,989
▲ 14.7
4,154,681
▲ 9.6
5,669
▲ 9.8
2,781,923
25.5
5,846
▲ 2.4
1,624,858
▲ 60.9
5,523
▲ 2.6
1,838,875
▲ 33.9
5,760
▲ 1.5
1,998,297
23.0
5,369
▲ 2.8
1,775,997
▲ 3.4
5,310
▲ 7.8
1,763,127
▲ 11.8
5,022
▲ 6.5
994,416
▲ 44.0
4,756
▲ 10.4
1,063,880
▲ 39.7
4,424
▲ 11.9
803,920
▲ 19.2
4,400
▲ 7.5
975,206
▲ 8.3
4,117
▲ 6.9
1,035,602
28.8
4,114
▲ 6.5
767,796
▲ 21.3
前年同期比
(%)
▲ 35.7
315.2
▲ 28.1
5.9
22.9
139.2
73.7
▲ 48.3
▲ 15.6
▲ 31.1
▲ 27.8
▲ 16.7
11.4
2.業種別
業種別件数を見ると、
「製造業」が 46 件(構成比 23.7%)で最多となった。以下、
「卸売業」が
45 件(同 23.2%)
、
「小売業」が 35 件(同 18.0%)と続き、この 3 業種で全体の 6 割超を占めた。
前年同期比の増加率では、
「不動産業」
(400.0%増)がトップ。次いで、
「建設業」
(43.5%増)
、
「運輸・通信業」
(33.3%増)の順となり、売り上げ不振の影響を受ける内需型企業を中心に増加
が目立つ。
業種別件数
2014年
上半期
建設業
製造業
卸売業
小売業
運輸・通信業
サービス業
不動産業
その他
合計
©TEIKOKU DATABANK, LTD.
48
70
49
39
11
35
2
2
256
2015年
下半期
33
49
51
27
11
29
5
2
207
上半期
23
54
44
37
6
24
1
3
192
下半期
34
62
41
28
11
23
2
1
202
上半期
33
46
45
35
8
22
5
0
194
2016年
前年同期比
(%)
43.5
▲ 14.8
2.3
▲ 5.4
33.3
▲ 8.3
400.0
▲ 100.0
1.0
構成比
(%)
17.0
23.7
23.2
18.0
4.1
11.3
2.6
0.0
100.0
2
2016/7/8
特別企画:「返済猶予後倒産」の動向調査
3.主な倒産事例
・アクセサリーなど雑貨販売のアートアンドクラフト(負債約 18 億 7800 万円、大阪府大阪市)は、
借入金の元本返済に行き詰まり、2012 年 6 月に民事再生法の適用を申請する予定であったもの
の、金融機関の意向により中小企業再生支援協議会のもと経営改善を図っていた。しかし、2014
年 5 月期、翌 2015 年 5 月期と赤字経営が続き、2016 年 6 月に破産手続き開始決定を受けた。
・建築工事業の創喜建設(負債約 2 億 3300 万円、福岡県北九州市)は、2013 年に入り金融機関へ
の返済条件を変更しながら経営の立て直しを図ってきたものの、2014 年度はとくに受注が落ち
込み、翌 2015 年度末には取引先への未払金もかさんだため、2016 年 6 月に破産手続き開始決
定を受けた。
・ニット製品卸のイエリデザインプロダクツ(負債約 15 億 1300 万円、東京都港区)は、2015 年 12
月に中小企業再生支援協議会に支援要請を行い、返済猶予を受けていたものの、暖冬の影響に
より想定以上に売り上げが低迷。2016 年 4 月には私的整理が困難な状態に陥ったため、同協議
会の支援要請を取り下げ、2016 年 6 月に民事再生法の適用を申請した。
・書籍やCD、ゲームソフトなどの中古ショップ経営のエーフラッグ(負債約 1 億 8300 万円、宮崎
県宮崎市)は、2015 年に中小企業再生支援協議会に相談し、金融機関との返済計画の見直しを
実施。しかし、2016 年に入ってからの売り上げの落ち込みが激しく、新規借り入れも困難とな
ったため、2016 年 4 月に破産手続き開始決定を受けた。
・酒類卸の淡路酒販(負債約 9 億 5400 万円、兵庫県洲本市)は、2010 年 8 月から元本返済の猶予
を受けていたものの、抜本的な収益改善には至らず、メーンバンクからは具体的なスポンサー
のメドが立たなければ 2016 年 2 月以降のリスケジュールに応じられない旨を告げられたため、
2016 年 1 月に民事再生法の適用を申請した。
・折り込み広告事業の宣昭(負債約 13 億 1700 万円、東京都足立区)は、取引銀行への元本返済
の猶予を 2011 年以降受けていた。しかし、リスケジュールの結果として追加融資を受けること
ができず、2014 年にはノンバンクから借り入れを実施。2015 年 12 月には運転資金を工面でき
なくなり、2016 年 4 月に破産手続き開始決定を受けた。
・電子部品卸のマグマセミコン(負債約 2 億 1000 万円、兵庫県神戸市)は、リーマン・ショックの
影響で主要顧客が海外移転することとなり売り上げが大きく減少。その後金融機関からの借入
金についてリスケジュールを実施するも、2013 年頃に売り上げの約 5 割を占めていた大口顧客
からの受注が無くなり、急速に資金繰りが悪化。2016 年 5 月に破産手続き開始決定を受けた。
・回転寿司やカフェなど飲食店経営の魚蔵(負債約 5 億 4900 万円、大分県大分市)は、2015 年 1
月から半年ないし 1 年間、元本返済を猶予。さらに、中小企業再生支援協議会の支援により、
2016 年 11 月までの元本返済猶予で利払いのみを継続していたものの、大手進出などから売り
上げが大きく落ち込み、2016 年 2 月に破産手続き開始決定を受けた。
©TEIKOKU DATABANK, LTD.
3
2016/7/8
特別企画:「返済猶予後倒産」の動向調査
4.地域別
地域別件数を見ると、
「関東」が 49 件(構成比 25.3%)で最多となり、以下、
「近畿」が 40 件
(同 20.6%)
、
「中部」が 34 件(同 17.5%)と続いた。
前年同期比の増加率では、
「東北」
(100.0%増)がトップ。次いで、
「北陸」
(33.3%増)
、
「関東」
(11.4%増)の順となった。
地域別件数
2014年
下半期
上半期
下半期
上半期
8
4
2
9
4
2
1
22
11
1
9
7
8
23
8
67
5
1
5
1
12
2
8
3
8
13
3
37
8
4
1
9
3
3
3
23
4
3
3
8
4
23
4
49
7
1
1
2
11
2
7
4
8
6
6
33
10
2
1
3
1
0
0
7
2
3
4
6
5
19
5
44
3
0
2
4
9
2
8
2
12
7
2
33
10
1
1
5
3
3
1
14
3
5
3
5
6
27
5
54
3
2
2
3
10
0
5
3
17
9
1
35
8
2
1
4
1
5
1
14
7
5
5
4
6
14
8
49
5
1
4
2
12
1
4
2
13
8
6
34
北海道
青森県
岩手県
宮城県
東北
秋田県
山形県
福島県
関東
北陸
中部
2015年
上半期
茨城県
栃木県
群馬県
埼玉県
千葉県
東京都
神奈川県
新潟県
富山県
石川県
福井県
山梨県
長野県
岐阜県
静岡県
愛知県
三重県
2016年
前年同期比
(%)
▲ 20.0
0.0
0.0
33.3
0.0
100.0
250.0
66.7
25.0
▲ 33.3
20.0
▲ 26.3
60.0
11.4
66.7
100.0
▲ 50.0
33.3
▲ 50.0
▲ 50.0
0.0
8.3
14.3
200.0
3.0
2014年
構成比
(%)
4.1
1.0
0.5
2.1
0.5
2.6
0.5
7.2
3.6
2.6
2.6
2.1
3.1
7.2
4.1
25.3
2.6
0.5
2.1
1.0
6.2
0.5
2.1
1.0
6.7
4.1
3.1
17.5
近畿
中国
四国
九州
滋賀県
京都府
大阪府
兵庫県
奈良県
和歌山県
鳥取県
島根県
岡山県
広島県
山口県
徳島県
香川県
愛媛県
高知県
福岡県
佐賀県
長崎県
熊本県
大分県
宮崎県
鹿児島県
沖縄県
合計
2015年
上半期
下半期
上半期
下半期
上半期
1
12
13
16
3
1
46
0
1
4
4
6
15
2
0
8
4
14
10
3
3
8
3
4
2
2
35
256
3
5
15
15
3
0
41
0
0
5
3
2
10
1
2
4
3
10
11
2
4
2
1
1
1
0
22
207
0
7
18
12
1
0
38
0
4
3
4
4
15
1
3
3
2
9
16
0
0
3
4
1
2
1
27
192
2
8
18
14
1
0
43
1
1
1
4
0
7
1
3
1
3
8
8
1
3
2
3
2
2
0
21
202
1
9
20
10
0
0
40
1
3
1
3
1
9
0
4
3
0
7
9
4
0
0
4
3
0
1
21
194
2016年
前年同期比
(%)
28.6
11.1
▲ 16.7
5.3
▲ 25.0
▲ 66.7
▲ 25.0
▲ 75.0
▲ 40.0
33.3
0.0
▲ 22.2
▲ 43.8
0.0
200.0
0.0
▲ 22.2
1.0
構成比
(%)
0.5
4.6
10.3
5.2
0.0
0.0
20.6
0.5
1.5
0.5
1.5
0.5
4.6
0.0
2.1
1.5
0.0
3.6
4.6
2.1
0.0
0.0
2.1
1.5
0.0
0.5
10.8
100.0
5.倒産態様別
倒産態様別件数を見ると、
「破産」が 155 件(構成比 79.9%)で最多。
「特別清算」が 21 件(同
10.8%)でこれに続き、清算型の倒産が 9 割超を占めた。
前年同期比の増加率では、「特別清算」(90.9%増)がトップ。スポンサー企業や返済猶予企業
の子会社が第二会社となり、事業を第二会社に移転して継続する一方、過大債務を特別清算によ
り処理するケースが散見される。
倒産態様別件数
2014年
上半期
破産
特別清算
民事再生法
合計
©TEIKOKU DATABANK, LTD.
229
8
19
256
2015年
下半期
186
10
11
207
上半期
164
11
17
192
下半期
177
13
12
202
上半期
155
21
18
194
2016年
前年同期比
(%)
▲ 5.5
90.9
5.9
1.0
構成比
(%)
79.9
10.8
9.3
100.0
4
2016/7/8
特別企画:「返済猶予後倒産」の動向調査
6. まとめ
中小企業金融円滑化法の施行以降、借入金の返済条件変更等による返済猶予は、リーマン・シ
ョックやその後の東日本大震災などに対して倒産件数の抑制に大きく効果を示した。一方、今回
の調査で 2016 年上半期の「返済猶予後倒産」は 194 件判明し、微増ながらも 3 年ぶりの前年同期
比増加となった。二度、三度と条件変更等を繰り返し、倒産を先延ばしした企業が増えた結果だ
ともいえる。返済猶予を受けたすべての企業が抜本的な経営改善に結び付いているわけではなく、
業界環境や企業規模などによってもその効果の差は大きい。
中小企業金融円滑化法の終了にともない、本格的な再生計画作成のための猶予期間となる暫定
的リスケジュールを受けた経営不振企業は猶予期限を迎え始めている。条件変更等に際して、中
小企業には実現可能性の高い抜本的な経営改善計画書(実抜計画)の策定が求められているもの
の、実際には未策定や、策定されていても金融機関主導により策定されているケースは多い。多
くの中小企業にとって、実現性が高くかつ抜本的な経営改善を図ることはかなり難しく、返済猶
予後も出口を迎えられない企業による倒産は、今後さらに増加することが懸念される。
【 内容に関する問い合わせ先 】
(株)帝国データバンク
顧客サービス統括部 情報企画課
TEL 03-5775-3073
加藤
FAX 03-5775-3169
当レポートの著作権は株式会社帝国データバンクに帰属します。報道目的以外の利用につきましては、著作権法の範
囲内でご利用いただき、私的利用を超えた複製および転載を固く禁じます。
©TEIKOKU DATABANK, LTD.
5