事例調査レポート①(岩手県~長野県)5事例

NPO 法人遠野山・
里・暮らしネット
ワーク
会長
菊池 新一
岩手県 遠野市
設立年月日 平成 15 年
構成員数
13 名(男 10:女3)
地域の概況
・世帯数:10,894 世帯
・高齢化率:36.7%
・集落数:9町で構成。
遠野市は、北上高地の中南部に位置し、東は釜石
市と上閉伊郡大槌町に、南は奥州市と気仙郡住田町
に、西は花巻市に、北は下閉伊郡川井村に接している。
市役所から県都盛岡へ約 70km、仙台へ約 180km、
首都東京へ約 530kmの距離に位置している。
主要産業は農業で、日本一の生産量を誇るホップ・
葉たばこ、乗用馬や競走馬の生産を行っている。農業
の現状は、1960(昭和 35)年ごろまで耕地の開発が行
われ、農家戸数は増えていった。しかし、その後は、第
2次産業や第3次産業への転業が増え、2010(平成 22)
年には、3,732 戸に減っている。また、農業種別では、
自給的農家が増加し、販売農家をみても、専業農家が
減少し、兼業農家が増加している。特に第2種兼業農
家の増加は著しく、その割合は全農家の 62%を越えて
いる。農家戸数の減少にともない、農業就業人口も減
少してきており、2010(平成 22)年には、4,221 人になっ
ている。これを男女別の構成比でみると、男性が 47%、
女性 53%となっている。
観光も重要な産業となっており、柳田國男の「遠野
物語」に代表される民俗文化を資源に、年間 150 万人
の観光客が訪れている。都市農村交流の取組も早くか
ら盛んに行われており、地域資源を生かした「遠野ツ
ーリズム」として、都市と農村の交流人口拡大への取組
が一層活発化してきている。
○この後「遠野グリーンツーリズム研究会」を発足。
【発足当時状況】※この会が、遠野山・里・暮らしネット
ワークの母体となる。
・6名くらいの集まりで開始。世代は 20 代~70 代まで
幅広い世代・女性も半数程度。
・研究会の特徴
→全く縛りをもうけていない、規約も総会もない、会長
もいない
→集まりも不定期で興味のあるテーマを議論する
→会議室などを使うことはなく、ほとんど居酒屋
→集まりに来るも来ないも自由
(行かなければ・・・という感じにならない)
→会員を何名集めなければということもない(新一氏より)
この緩い形態が、最初の段階は必要で継続に繋が
る。具体的に何かをはじめるときに組織が立ち上がる。
何も始まっていないのに組織だけ作っても続かない。
○研究会は、遠野でグリーン・ツーリズムの研修会や国
内外の視察にも出かけ、様々な地域の実態を把握す
る。ただ、このとき既に遠野には地域外からの移住者
が 40 名程度住んでいる状況で、新一氏は遠野には既
に、グリーン・ツーリズムの最終目標の定住が達成して
いるなか、遠野のグリーン・ツーリズムとは何かを模索し
ていた。
○研究会で他地域の状況を把握していくなか、農家民
宿を開設するための施設改善、設備充実にはコストが
かかりハードルが高いことがわかり、お客として泊める
のではなくお金をもらわずに働く(農作業を手伝う)こと
で、宿泊させる農村ワーキングホリデーを生み出す。
○農村ワーキングホリデーは 2001 年から始まり、(5
軒)、その後徐々に増え続け 2005 年に 10 軒にまで増
加。その後、2006 年に発足した「遠野民宿協会」(発足
時 63 軒)に、移行した形となり現在2軒となっている。
活動を始めた背景
○1995 年(H7)、菊池新一氏が遠野市の農業振興課
に在籍中、ある農家が役所を訪れ「農家民宿をしたい」
と言ってきたことで、新一氏はグリーン・ツーリズムへの
関心が醸成され、これが活動のきっかけとなっている。
会長の菊池さん
高齢者に向けた新たなライフスタイル・社会貢献の提唱に関する調査報告
○農家民宿をきっかけに発足した研究会の活動でワ
ーキングホリデーが事業化され、「遠野民宿協会」が発
足された頃になると、遠野市の農村交流が活発化し、
活動農家のネットワークでの情報共有・地域資源を活
用したプログラムなど、遠野の滞在を満足させるための
取組が必要となってきた。ここの地域の需要を担う形で
2006 年 6 月に「NPO法人遠野山・里・暮らしネットワー
ク」(以下“山里ネット”という)が発足した。
活動開始からこれまでの経緯
平成 15 年
NPO 法人遠野山・里・暮らしネットワ
ーク法人登記完了(6月 16 日)、遠野
型農村ワーキングホリデー
平成 16 年
合宿型自動車免許×グリーン・ツーリ
ズム事業開始(7月)、東北ツーリズム
大学遠野キャンパス開校(夏)
平成 17 年
東北ツーリズム大学、喜多方・会津坂
下・東松島の3キャンパス開校
平成 18 年
遠野での農村民泊開始
平成 20 年
東北ツーリズム大学胎内キャンパス
開校
平成 23 年
復興 支援への取 り組み (手仕 事支
援、物資配布、見守り活動、ほっとひ
といき事業)
主な活動内容
○東北ツーリズム大学:ラーニングバケーション
コンセプトは、遠野をはじめとする東北地方の農山
村で培われてきた多様な地域資源を生かしつつ、都
市農村住民が「農」の多面的価値を広く共有するため
のラーニング・バケーション(学びの旅)の恒常的な場
と、交流の機会を提供する。
また、実習を通して実践に役立つ知恵や技を身に
つけ、理論を学ぶことでその理解を深めるカリキュラム
を用意し、交流を深め、人と人のつながり、更には地域
間ネットワークを作ることに大きな意味をおいている。
○遠野ワーキングホリデー
発足は前述の通りで、農家民宿に移行しつつある。
農家民宿とは異なり、遠野型ワーキングホリデーの特
徴は、「長期間滞在」にある。その理由は、そもそもそ
のような滞在期間を参加者が求めることと、コーディネ
ート機関である山里ネットが居候体験をしっかり味わう
ためにも3泊以上の滞在が好ましいとしているから。そ
の結果、定期的に訪れる関係にも発展するなど、遠野
の地域づくりのサポーターを増やすことにも貢献してい
る
○「遠野民泊協会」
「農村をゆっくり楽しむ」、「遠野の人と語らう」、「多少
の農作業を手伝う」など、そこに住まう人や文化に触れ
てもらいながら遠野という地域を感じてもらうこと目指し
て実施。岩手県農林水産部が、平成 17 年3月 31 日
に策定した農林漁家への民泊に係る取扱指針をもと
に、岩手県遠野の農村の暮らしぶりを体感してもらうと
いう主旨のもと、民泊先は農家だけでなく市内の民家
も含めて様々なパターンで受入れを行っている。
山里ネットは、遠野市を主たるフィールドとして「資源
を生かした都市住民との交流の深化と移住の促進」、
「伝統文化・芸能・技術・技芸の伝承と進化と応用」、
「里地・里山における循環的な生活スタイルの再興と実
践」を柱に具体的な事業を行うことにより、社会全体の
利益の増進に寄与することを目的としている。
平成 23 年以降、岩手県沿岸地域への復興支援活
動も継続的に行っている。
○合宿自動車免許×グリーン・ツーリズム
遠野市に唯一の自動車学校(通学制)が少子化の
影響もあり、事業の継続を断念し閉鎖。グリーン・ツーリ
ズムを取り込んだ企画で隣接する市の自動車学校を
誘致。合宿免許教習生を募集し、教習生のカリキュラ
ムの空き時間を利用した農家滞在・乗馬・手づくり体験
ができるグリーン・ツーリズムメニューを追加料金なしで
選ぶことができる。このメニューは、遠野だからできるこ
とという他に、この体験を通して遠野の人との交流を楽
しみ、そのことで遠野へのリピーターになることも目的
にしている。さらに、遠野で取った車のライセンスで、遠
野に再訪してくれることを願っている。
民泊体験
取り組みの体制
会長:1名 副会長:2名 理事:9名 幹事:2名
○山里ネットの活動の特徴:クラスター型 NPO
山里ネットの活動の特徴は、クラスター型で活動の
ネットワークを広げているところにある。具体的には、自
発的で草の根的に生まれた多様な遠野のグループ
高齢者に向けた新たなライフスタイル・社会貢献の提唱に関する調査報告
「交流と共感と協働」に基づき、それぞれがさらに発展
していくことを支援するとともに、1 つのグループではな
しえなかったことを実現しようとするところにある。
■クラスター型のしくみ
クラスターとは元々葡萄の房のこと。同じ志向を持っ
た人の集団を意味する。山里ネットの場合、理事会及
び事務局がブドウの房のつるに相当し、様々なブドウ
の実に支援を行う。クラスターを形成する集団は集団
の成長に応じて、離脱や新規に加わりながら変化を続
ける。山里ネットは、これらのグループと協働または支
援することによって各種プロジェクトの実施や時勢の地
域課題解決等の目的を果たす。
(クラスターグループ:14 団体)
活動資金
・各集落の取組などは国・県の交付金、復興支援関係
は各団体からの寄付金を活用している(主な提供者:
日本財団・生協・医師会・ロータリークラブ・各種企業)
600 千円
④旅行業務事業(コーディネート・旅行業取得にかかる
業務他):1,800 千円
⑤遠野民泊協会運営事業(事務局運営補助):800 千
円 ※手数料収益
⑥東北クロッシュ委託事業(委託業務 100 人):700 千
円 ※委託費
課題発生時の対処方法、現状の課題
・事業や活動そのものの計画性をきちんと共有すること
が大事。これがないと現場で停滞したり問題が発生し
たりする。
・その場での対処より、事前に予測できる知識やクセを
つけることが大事
・あとは話し合いしかない。わだかまりを残さないこと、
その時点で解決する。
これまでの活動の成果や効果
・交付金の他に人材活用など、地域支援に必要な人
材を確保している。
・遠野にも訪日外国人旅行者が多く訪れている。遠野
の場合は国の機関からの紹介なので、優秀な人が多
い。市民にとっても刺激になる。
・交付金ばかりに頼るのも良くない、諸刃の剣になるの
で真剣に向き合う。最初の瞬発力では交付金を活用
し、自立できる経営を目指すというのが基本的な考え。
・海外からの団体・企業団体・修学旅行団体(JICA 等
の国際交流機関)などの受入が定期的な交流人口を
確保する。
・各活動への資金の活用内容は、平成 15 年(設立翌
年)からすべてホームページに掲載して透明化を図っ
ている。
・道の駅から、大型商業施設の空き店舗の運用などし
てきたが、全てのコトが地域の活性化と連携して絡まっ
ている。多様な経験が次の課題を見つけるきっかけに
なる。
行政や民間等からの支援等
○非特定営利活動にかかる事業
①都市農村共生・対流総合交付金事業(3地域):
1,602 千円
②手仕事づくり事業:4,000 千円
③ほっとひといき事業:5,000 千円
④法人運営事業(コーディネート):600 千円
⑤クラスターとの連携事業:一般管理費
⑥東北ツーリズム大学の開催:100 千円
⑦茅葺き家屋保存事業:一般管理費
⑧新しい東北(2カ所 復興庁):11,821 千円
⑨地域資源活用ネットワーク形成支援事業(経産省):
2,000 千円
⑩森林・山林多面的機能発祥対策交付金事業(市内
4団体、林野庁):3,344 千円
○その他の事業(事業収益)
①遠野ドライビングスクール連携事業
(合宿生 350 人目標):1,500 千円
②遠野への新規就農・定住促進事業(2件):100 千円
③国際交流研修受入(民泊受入・2次交通事業者):
・グリーン・ツーリズムから入って、泊まる場所・売る場
所・送客の仕組み・地域から撤退した事業の立て直し・
コンテンツの作成・人材づくりをしてきた。地域活性化
は総合的なソーシャルビジネスの考え方で、域内の各
専門分野の機関・人材との適材適所+適時でコラボが
大切。総合的に取り組まないと活性化に繋がらない。
今後(将来)の取り組みや希望
・遠野はグリーン・ツーリズムが一般化してきている、イ
ンバウンドの需要も多くなってきている。これからは受
け皿づくりがもっと重要になる。
・ひとつの地域だけで考えていては発展性がない。沿
岸の大船渡・内陸の一関などと広域の連携を想定し、
地域を巡るゴールデンルート的な考えが必要。
・食の充実とホスピタリティが課題となっている。来た人
が何が楽しいのか、何をしたがっているのかを先回りし
て考えることが必要。
高齢者に向けた新たなライフスタイル・社会貢献の提唱に関する調査報告
・高品質のモノの価値を共有できるひとに“適正価格で
売る”という発想が必要。農家がかかわるのがグリーン・
ツーリズム、農家は農閑期の暇なときに竹細工やわら
細工をしていたため、値段を決めることができない。そ
の価値をきちんと訴求していかないと、自立ができな
い。高齢者になるほど、価格が決められない。
・コンテンツの充実をはからないと豊かになれない。施
設やハードが充実してもそれを扱う人、説明する人の
風格や品が地域の魅力を創造する。
・高齢者は長い人生のなかで得た知恵や経験をもって
いる。これがにじみ出るからホンモノが伝わる。農山村
は特に顕著。道具がシンプルな分、経験が備わった人
の扱う姿が様になる。若者には到底できない。
・遠野には農耕馬の歴史があるが、これを実演するとな
ると高齢者しか人材がいない。今のうちにこのような技
術を 60 代、50 代に引き繋がないと文化がなくなる。い
まの 50 代~60 代が収益を上げられる仕組みを今のう
ちから構築することが必要。
をもっと見て欲しい。意味のあることが成熟するまでに
は時間がかかる。
・補助金などを活用するが、しばりが多く、なかなか地
域課題解決の実態に当てはまらないことが多い。事業
の構成上、必要ないことも合わせて実施しないとお金
が使えない。もっと地域の現状に理解のある現場目線
で対応して欲しい。
・我々のような法人は、常に人材不足の状態。人件費
を見てもらえると助かる。県の人材派遣(インターシッ
プ)などの事業を活用しているがとても助かる。県内の
他の地域で、同じような事業を始める人が派遣されて、
経験を積みながら仕事を手伝うことで、広域のネットワ
ークも広がる。
・遠野のシニア世代は、地域と関わり続けてきた方々で
あり、協力的で優秀である。
これから取り組みを始める地域やシニア世
代へのアドバイス
・シニアも大事だが、今の 50 代を早い段階から育てる
支援が必要。65 歳になってからいきなり地域で活動に
参加するのは難しい。シニア世代となる前から地域へ
関われる支援策が必要。それが、優良なシニアを創出
する。
・地域の文化伝承にはシニア世代が不可欠。早い段
階から関われる地域文化継承のシステムが必要で、そ
のためには地域に目を向ける機会を、シニア世代とな
る前につくる必要を感じる。
留学生受入れの寄せ書き
今後の取組みや夢を実現させるために、
必要と思われる支援や要望
・国や県の事業は、単年度が多い。事業が始まるのが
遅いとやっつけ仕事になる。最近は2~3年の事業も
増えてきてはいるが、この事業も単年度で予算消化が
基本になっている。国の事情で遅れた、ビジョン策定
時で時期を遅らせるなどの事情も出る。これを次年度
に回せるなど、もう少し融通の効くしくみが欲しい。その
かわり事業評価はきちんとして構わない。
学生ボランティア
・本音でないと、話し合いにならないと感じるときがあ
る、集落の事情がわかっているのに担当者が上に報告
するときは建前になる。地域は本音しか通用しないと考
えるべき。
・評価を数字(交流人口や売上)でしか見ないが、中身
高齢者に向けた新たなライフスタイル・社会貢献の提唱に関する調査報告
陽気な母さんの店
株式会社
代表取締役
石垣 一子
秋田県 大館市
設立年月日 平成 13 年4月
構成員数
69 名
構成員の年齢 65 歳以上 約 55 名
石垣さん(右)と畠山さん
地域の概況
・東北道十和田インターから約 20 分
・JR 大館駅から国道 103 号線を経由して約 30 分
・JR 大滝温泉駅から徒歩 15 分
活動を始めた背景
農業や農村の情勢の変化に伴い、生活や文化面で
の農村の条件面は改善されてきたが、農業自体は、男
性を主体に、単に農協や市場に出荷するだけの状況
であった。
このため、消費者ニーズをしっかりと捉え、農村・農
業・農家の情報を発信しようという想いから、常設の直
売所の建設が望まれていた。まずは組織を立ち上げる
ことから始め、地域の女性 88 名による、「陽気な母さん
の店友の会」を発足させて活動が始まった。
一方、農協を背景とした反対意見、さらに補助金を
受けるのであれば、地元への公平な恩恵を受けるべき
との意見が出され、直売所の建設はなかなか実現しな
かった。
このような中で、地元の建設業者(直売所を建設す
る土地の所有者)から、月額 43 万円のリース料(土地、
建物代を含む)による建設の承諾を得られたことから、
年間の売り上げ計画を立て建設に踏み切り、平成 13
年4月に直売所「陽気な母さんの店」がオープンを迎え
ることとなった。
活動開始からこれまでの経緯
平成 13 年4月
平成 15 年9月
平成 16 年
平成 16 年 11 月
平成 20 年3月
平成 27 年7月
直売所「陽気な母さんの店」
オープン
秋田県農林水産大賞活性化
部門受賞
体験、加工施設増設
全国女性起業家大賞最優秀賞
受賞
農山漁村女性チャレンジ活動
農林水産大臣賞受賞
陽気な母さんの店株式会社設立
主な活動内容・取り組みの体制
・販売・生産部:農産物販売
(宅配、学校給食、出張販売を含む)
・食堂・加工部:飲食店、加工品製造、各種体験の
提供、仕出し、弁当、料理教室
・環境部:店内環境美化、草刈り、花壇整備
活動資金
陽気な母さんの店を主体とした、売り上げの利益が
活動資金。
平成 26 年度の総売り上げ 約2億 2,000 万円
行政や民間等からの支援等
年間の定額支援はなし。
過去に加工施設の増設時に、1,500 万円の補助金
を受けた(秋田県、大館市)。
課題発生時の対処方法、現状の課題
・過去に運営上の大きな課題等なし。
・年に3回程度(主なもの、総会後のイベント【3月上
旬】、生ビールの会【盆時期】、新年交流会【1月中旬、
1泊2日】、役員とパートの語る会【年末】)、会員同士が
集い、意見交換し、楽しむ催しを行っており、その催し
を楽しみにしている会員が多く、またその場が日常の
不満等を解消する大きな場となり効果を発揮している。
これまでの活動の成果や効果
・年間約 500 万円のリース料を支払わなければならな
いというプレッシャーが会の関係者の意識と意欲を向
上させ、結束を強くし、売り上げを伸ばすことを楽しみ
に転嫁することができた。
・単なる物売りの直売施設ではなく、地域の高齢者が
持つ技術や伝統を伝え、継承していけるような直売所
高齢者に向けた新たなライフスタイル・社会貢献の提唱に関する調査報告
となることができた。
今後(将来)の取り組みや希望
・元気な高齢者を元気なままでいてもらえるように活か
す活動、支援、集いの場の提供。
店内の様子
陽気な母さんの店 看板
今後の取組みや夢を実現させるために、必
要と思われる支援や要望
・地元だけで行う売り上げには限界がある。しかし、大
都市に出向いての販売となると経費が掛かり、どれだ
け売り上げても黒字にならないのでそのための支援が
ほしい。
陽気な母さんの店
・高齢者の持つ技術や経験を、体験を通して伝え、学
んでいける機会の場、施設の設置。
・その他に行政への要望として、当会は任意団体であ
ったところ、従業員の雇用を続けていくために法人化し
たが、できることなら法人化をするつもりはなかった。法
人化せざるを得なかった法律の壁のようなものの緩和。
具体的には社会保険や雇用保険の制度。
陽気な母さんの店友の会のメンバー(全員が女性)
高齢者に向けた新たなライフスタイル・社会貢献の提唱に関する調査報告
なかつがわ農家
民宿組合
会長
伊藤 ふみ
山形県 飯豊町 中津川地区
設立年月日
平成 19 年度
構成員数
8軒の農家
地区の高齢化率 約 56%
地域の概況
中津川地区は、飯豊町の南西部に位置し、飯豊山
の麓の山間集落で、冬は3m以上の雪が積もる豪雪地。
また森林面積が広く、財産区は 1,200ha という広大
な日本一の面積を有し、木質チップなど森林資源を活
用したバイオマスの取り組みも行っている。世帯数 120
世帯、人口 322 人、高齢化率は 56%。
○基幹産業:農業、観光
○特産品:米、米沢牛、どぶろく、山菜、ヤマメ、花笠、
雪室じゃがいも、木炭、つる細工、鳴き砂等
○名所旧跡:飯豊連峰、岩倉神社、飯豊山穴堰、
草木塔
活動開始からこれまでの経緯
・中津川地区全戸が加入する「中津川むらづくり協議
会」を中心に、「恵まれた自然環境と共生し、さらに住
みよい中津川を創造する」ことを掲げ、①急激な高齢
化・人口減少への総合的な対応、②自然と共生した滞
在型観光、体験型観光の充実、③資源の保護と有効
な活用、④若者定住化の推進を活動目標に、むらづく
り活動を開始。真夏の雪まつりなど、地域資源を活用
したイベントを企画・実施することで、中津川地区へ訪
れる人が徐々に増えてきた。
・中津川小中学校の存続から、山村留学の受入れを
開始するにあたり、「里親の会」を組織し、平成 16 年~
24 年までの間に、夏休み短期山村留学生約 260 名と、
1年間の長期留学生 12 名を受入れた。(平成 25 年3
月に中津川小中学校は閉校)
・山村留学の受入れ経験から、教育旅行の受入れに
ついて声が掛かり、山形県の農家民宿に関する各種
法律の規制緩和が行われた(平成 18 年)ことをきっか
けに、平成 19 年度に山村留学の「里親の会」のメンバ
ーを中心とした8軒の農家が、必要な自宅の改修を全
て実費で行い、農家民宿の許可を取得。受入れのワン
ストップ窓口として「なかつがわ農家民宿組合」を設立
し、教育旅行の受入れを開始した。
活動を始めた背景
・中津川地区は、白川ダムの上流にある集落で、1970
年頃から本格的に始まったダム建設に伴い、過疎化が
進行(ダムが出来た頃に比べると、10 分の1に減少)。
・このままでは、中津川地区がなくなってしまうと、地域
の将来に危機意識を持つ住民が多く、独自のむらづく
りに向けて、様々な活動に取り組む。豪雪地という立地
を活かした夏場の雪まつり「SNOWえっぐフェスティバ
ル」や、住民が作る巨大な雪像や雪上餅つきなど、住
民主体の真冬の雪まつりなど。
・中津川小中学校の児童生徒数の減少から、学校の
存続と都会の子どもへの自然体験の提供を目的に、
山村留学の受入組織「里親の会」を組織して、受入れ
を開始(平成 16 年~24 年)。
・山村留学の受入れ経験を活かし、地域の活性化と交
流人口の増加を目指して、「里親の会」のメンバーを中
心に、農家8軒が農家民宿の許可を取り、教育旅行や
企業研修等の受入れを開始。現在、台湾を中心とした
インバウンドの受入れまで広がっている。
農家民宿「いがらし本家」のご夫婦
主な活動内容
教育旅行、インバウンド、企業研修等を、中津川なら
ではの体験と食事で、年間約 1,200 名を受入れている。
農家民宿ごとに、体験できる内容や提供する料理は
異なるが、民宿組合では、料金の設定(1泊2食)、食
事は地元の山菜や自家野菜、近くの川で養殖している
ヤマメ等を使うことなど共通事項を決めており、一緒に
食事を囲む等、宿泊者と受入農家との交流が十分に
図られる仕組みとなっている。
高齢者に向けた新たなライフスタイル・社会貢献の提唱に関する調査報告
○教育旅行の受入れ
平成 19 年度から教育旅行の受入れを開始。各方面
(行政等)からの呼びかけにより、当初1校 40 名だった
が、平成 26 年度には、5校 233 名を受入れている。
○インバウンドの受け入れ
県の観光協会の働きかけで、台湾からのツアー客の
スノーモービル体験を受入れたことをきっかけに、町の
観光協会が台湾へツアーの誘致を行ったところ、台湾
側から、日本のテレビ(田舎に泊まろう)のような体験が
したいと希望があり、平成 23 年にモニターツアーを実
施、現在、年間 200 人ほど台湾からのツアーを受入れ
ている。平成 26 年5月には、アジア大洋州諸国青年交
流事業で、13 か国から来た若者たちを受入れている。
今後は、欧米人の受入れも視野に、研修会等を実施し
ている。
○企業研修や大学などの受入れ
都市部企業のCSR活動の一環として実施している
森林育成活動や農業体験等を受入れている。地域の
人々と触れ合いながら、作業を行うことで交流が深まり、
その後は個別に訪れるなどリピーターにも繋がってい
る。
助金を活用。現在も、研修会の開催や事務的な支援
を実施。観光協会では、ホームページへの掲載や教
育旅行、台湾旅行者の誘客について支援している。イ
ンバウンドの受入れについては、町(農業振興課、観
光協会)が間に入って調整を行っている。
・県や国の補助事業なども活用。平成 25 年度は農林
水産省「都市農村共生・対流総合対策交付金事業」を
活用して、企業研修等の受入れのモニターツアー等を
実施。
課題発生時の対処方法、現状の課題
・過疎・高齢化が進み、日頃の集落活動やイベントの
開催など、人手が少なくて、大変。地域のことをしてく
れる若い人材がいない。
・農家民宿の受入れでは、これまで特に大きな課題や
問題はない。しかし、受入は年々増加しており、今後、
受入数が増えれば、色々な人が来るようになるので、
それを見据えて、危機管理体制などを整えていきたい。
・現在の民宿組合は、60~70 歳が中心メンバーであり、
今後、活動を続けていくための後継者づくりは必要。
これまでの活動の成果や効果
・農家民宿に大勢の人が来るようになり、地域が明るく
なった。地域を盛り上げている。
・交流を進めることで、自分の住む地域に自信が持て
るようになった。
・自分の家に居ながらにして、子ども達や外国人と触れ
合あうことができ、楽しみや生きがいが生まれている。
農家民宿での夕食の一部
取り組みの体制
・山村留学で滞在した子ども達が、イベント等の手伝い
に来てくれる。
・近くの集落で、新たに3軒の農家民宿が開業の準備
を進めている(15 分ほどの距離)。
・8軒の農家民宿で受入を行っている。
・組合組織とし、窓口を一本化することで、旅行業者等
が安心して誘客をすることができ、受入数の拡大に繋
がっている。
・会長は、2年交代制でつとめている。
活動資金
組合員より年間1万円の会費を徴収して運営。
行政や民間等からの支援等
・町の支援として、設立当初の2年間は、町単独の補
「いろり」での昼食の一部
高齢者に向けた新たなライフスタイル・社会貢献の提唱に関する調査報告
今後(将来)の取り組みや希望
・農家民宿の数では受入人数に限りがあり、近隣市町
村に分散して宿泊して貰っている。農家民宿が増えれ
ば、地域内で受入可能な人数も増えるので、新たな開
業に期待したい。
・地域の仕事を担う若い人が出てきてほしい。
・受入人数の増加に伴い、研修等を通じて、危機管理
体制等を整えたい。
・現在の活動を、次の世代に引き継いでいきたい。
統一の看板
今後の取組みや夢を実現させるために、必
要と思われる支援や要望
・研修や勉強会の開催
・簡易宿泊許可等、施設整備に関する規制緩和
・交通アクセスに関する支援
(羽田や成田など空の玄関口から、東北地方へ)
・更に外国からの受入れを行うための営業支援 等
これから取り組みを始める地域やシニア世
代へのアドバイス
○まずは仲間をつくることが大事
今の活動は、仲間がいることが強み。8軒が一緒に
取り組んだから、やって来られたと思う。お金よりも、ま
ずは仲間づくりが大切。どんなことでも、取り組む人が
一生懸命であれば、成功する。
○地域の資源を活かすことが大事
ここでの食事は、自家栽培の野菜、地元の山菜やヤ
マメを中心に、昔から食べられている料理を提供して
いる。
冬場は、それらを保存していたものを使う。まさに地
産地消で、これこそが地域や農家民宿の魅力。山里の
生活は不便も多いが、不便こそが知恵を生む。
○自分の住むところが好きであることが大事
自分達は、この地域をどうにかしたい、ここでの暮ら
しを続けていきたいとの思いで、交流事業に取り組ん
でいる。みんなで一緒に地域のことを考えながら、物事
を進めていかないと、活動は続かない。物事を起こせ
ば、色々な事にぶつかるが、ダメだったことは引きずら
す、自分の楽しいと思う活動にしていくことが大事であ
る。
高齢者に向けた新たなライフスタイル・社会貢献の提唱に関する調査報告
南房総市自然の宿
「くすの木」
(南房総市上区自治会)
会長
黒川 一夫
千葉県 南房総市
設立年月日
平成9年 12 月
構成員数
27 名(男9:女 18)
構成員の平均年齢 63 歳(65歳以上 13 名)
(千葉市、習志野市、八千代市、市原
市)
平成8年4月~
先進地視察研修(和田町役場、
町議会、上三原地区)
※地方振興アドバイザー派遣事業(3回)
(施設及び管理運営・体験交流事業)
平成9年3月
平成9年 11 月
平成9年 12 月1日
平成9年 12 月 20 日
平成 10 年 11 月 10 日
平成 11 年 2 月 19 日
平成 11 年 9 月 21 日
体験交流施設事業着手
施設完成
管理運営委託契約の締結
自然の宿くすの木 オープン
全国過疎地域活性化連盟
会長賞
千葉県優良施策実施市町村
表彰
豊かなまちづくり全国表彰
(農林水産省関東農政局長賞)
地域の概況
・人口:約 212 人
・世帯数:92 戸
・集落:7集落
・高齢率:45%
平成 12 年 7 月 10 日
平成 15 年5月 30 日
アクアライン活用地域づくり
推進協議会長賞
全国「廃校リニューアル50選」
(文部科学省選定)
平成 18 年3月6日
上三原地域は、千葉県南房総市の東端に位置し、
旧和田町北端の山間部で、和田地域センターからの
距離は、8キロ、車 15 分。
上三原地域は、上区という1行政区であり、山間部に
位置する。農業地帯ではあるが、ほとんどが兼業農家
である。北側は、日本酪農発祥の地である南房総市大
井、東側は鴨川市境、南側は小向ダム(飲料水)が位
置する。
平成 22 年3月 23 日
平成 26 年4月1日
平成 26 年11月3日
(農林水産功労)
平成 27 年3月 23 日
平成28年2月 26 日
活動を始めた背景
平成7年に廃校となった上三原小学校の跡地を利
用して、体験交流型の宿泊施設として、平成9年(1997
年)にオープンすることとなった。町から管理委託を受
け、行政職員は置かず、全て地元住民による管理運営
を行っている。
小学校は地域のよりどころでもあり、1行政区1学区
であったことから、団結力が固く、地元住民だけでスタ
ート出来た。施設の「くすの木」という名称は、建物の裏
側にそびえる千葉県天然記念物「大樟」(樹齢 750 年)
に因んで命名された。
指定管理者の指定を受け協定
締結
指定管理者の指定を受け協定
締結
南房総市広域避難所の指定を
受ける
文化の日千葉県功労者表彰
指定管理者の指定を受け協定
締結
安房保健所管内館山食品衛生
協会長表彰(食品衛生優良施設
の部)
現在に至る
活動開始からこれまでの経緯
平成6年
平成7年3月
平成7年7月
上三原小学校と北三原小学校の
統合決定
上三原地区活性化委員会発足
上三原小学校閉校・上三原小学校
を偲ぶ会
「くすの木王国基本計画」策定に着手
※都市と過疎地域交流推進事業実施
施設長の北見さん
主な活動内容
南房総市から指定管理者の指定を受け、運営管理
を行っている。食事は、田舎ならではの採れたての新
鮮な食材を提供する。年中無休で営業しており、宿の
高齢者に向けた新たなライフスタイル・社会貢献の提唱に関する調査報告
経営のほか、竹細工・寿司づくり等各種体験、食事提
供やイベント参加等も行っている。
地元自治会に委託された施設の管理運営は、その
目的をより効果的に達成するため、 “笑顔いっぱい、
田舎たっぷり”をキャッチフレーズに、かあちゃんの味・
ふるさとの香りを充分に味わっていただけるよう地区民
挙げて取り組んでいる。
○活動内容
・都市住民への宿泊の場の提供・農村体験
・「交流」によるまちづくりの推進
・高齢者福祉、産業、文化等全般的な地域活性化
・地域住民の就業の場の確保
・地域農産物の市場外流通の場の確保(地産地消)
・監査
・任期
代表監事が召集し、定例監査年2回他
必要により随時
2ヶ年とし、区関係者は区の任期を準用
する
活動資金
○自主事業
・宿泊事業
・仕出し料理・昼食等の飲食事業
・各種体験事業
上記事業の収益に加え、南房総市からの指定管理料
を財源として運営を行っている。
○柱となる主要事業
・宿泊事業
・各種体験
・食事提供(弁当、仕出し料理)
・朝市・道の駅で販売
・各種イベント等出店
・くすの木芸能まつり
・周辺環境整備(上三原地区各集落、老人会)
くすの木内観
行政や民間等からの支援等
市からは IT 利用による宣伝・広告等のプロモーショ
ン支援を受けている。加えて、年間指定管理料
4,536,000 円の支出を受けている。
課題発生時の対処方法、現状の課題
くすの木外観
取り組みの体制
「くすの木」運営機構図・人事
○課題発生時
・基本的には、年2回開催される運営委員会、隔月で
開催される理事会で検討し、課題解決をしている。
○現状の課題
・平成 23 年3月の震災後、宿泊利用者が激減したが、
その後の回復が鈍い。コツコツと活動を続けている。
・事業を継続していくために、経営的視点や後継者の
育成が必要。
・組織の見直し・検討が必要。法人格の取得や従業員
の雇用環境の整備が今後の課題。
・運営委員会 区長(国王)が召集し、年2回開催
・役員会
施設長が召集し、必要に応じ随時
・理事会
施設長が招集し、原則として隔月の
第2木曜日に定例会、他
・宿泊業とその他の事業(弁当、配食等)の売り上げ比
率が以前は7:3であったが、近年は5:5になっている。
利益率の高い宿泊を増やすことが経営的な課題。
高齢者に向けた新たなライフスタイル・社会貢献の提唱に関する調査報告
・活動自体が、地域のボランティアに支えられている部
分もある。自立に向けた事業展開が必要。
・市からの委託金が協定の更新毎に目減りをしている。
これまでの活動の成果や効果
○交流人口の増加
・当初利用者予測
宿泊者 2,000 名
行政に期待する役割やタイアップ方法
・PR等集客の支援
これから取り組みを始める地域やシニア世
代へのアドバイス
・1 億総活躍社会といわれているが、シニアになると若
いころのようには働けないのが実情。無理のない範囲
で、得意分野を活かし、楽しく活動してほしい。
・平成 26 年度利用者実績
宿泊
2,935 名
体験
969 名
飲食 22,226 名
その他
675 名
合計 26,805 名
・近年、独居老人が問題になっているが、適度に体を
動かし、人とのコミュニケーションや地域との交流をす
ることは、元気で長生きをする 1 つの要因になる。この
ような活動をすることで、地域の高齢者を孤独から救う
ことにもなるので、ぜひ取り組んでもらいたい。
・地域住民の心の拠り所
地域の情報収集、発信の拠点となっている。
・地域にいながら、日本中や海外の方々と交流できる
のは、大変うれしいこと。様々な交流が生まれることに
より、生き甲斐も増えているので、取り組んでほしい。
・地域農産物の新たな供給販売の場
地域の農産物・加工品等を販売供給する場として貢
献している。
・近隣では、学校統合が進み、土地がほかの用途に転
用されたり、取り壊しがある中で、本施設は、地元が関
われる施設として、維持できた。
・宿泊業のほか、弁当販売、高齢者住宅の配食等の事
業も含めて、女性を中心とした地域住民の雇用が増え
た
・「くすの木芸能まつり」を始め、和田漁港における勇
魚(いさな)朝市や草刈り、植栽の手入れなど本施設が
実施している宿泊以外の事業は、地元を対象としたも
のである。ただし「くすの木芸能まつり」出演者は地域
外の人が多く参加するようになり、地域外への広がりも
ある。
・法事や祝い事の冠婚葬祭や地域の集まり等に利用さ
れるようになっている。
(行政からのコメント)
活動や地域への期待
南房総市自然の宿「くすの木」は、南房総地域にお
ける、他にないような観光施設。南房総の観光スポット
の一つとして考えている。ほかの観光施設や地域と連
携をして、南房総市の観光振興の1つとして活動を継
続してほしい。
(行政からのコメント)
高齢者世代に活躍してもらうための
市の考えや活動
南房総地域の観光施設として、南房総市自然の宿
「くすの木」のPRを行っている。今年度、南房総市自
然の宿「くすの木」の田舎料理バイキングを目玉とした
モニターツアーを企画販売した。79 名定員に対して
1,288 名の応募が来る人気ツアーとなった。南房総市
自然の宿「くすの木」が現在行っている活動を的確な
場所・人に情報発信して、集客に結び付くよう支援して
いきたい。
今後(将来)の取り組みや希望
・法人格の取得と従業員の労働環境の整備
・集客の増加
・経営的視点を持った後継者の育成
今後の取組みや夢を実現させるために、必
要と思われる支援や要望
・支援組織による経営コンサルティングの支援
・若い人の移住を促進する支援
千葉県天然記念物「大楠」
高齢者に向けた新たなライフスタイル・社会貢献の提唱に関する調査報告
内村っ娘の会
会長
長岡 和恵
長野県 上田市丸子温泉郷
設立年月日
平成 15 年
構成員数
22 名
構成員の平均年齢 約 70 歳
地域の概況
上田市から松本市を結ぶ国道 254 号線が通る山間
のエリアで、鹿教湯温泉、大塩温泉、雲泉寺温泉の3
つの天然温泉があり、昔は湯治場として栄え、総称し
て丸子温泉郷と呼ばれている。内村とは「おらが村」と
いう意味で、昔からこの地域の愛称として呼ばれている。
上田市の 65 歳以上の人口:45,538 名
(高齢化率 28.49%)
旧丸子町 65 歳以上の人口:7,161 名
(高齢化率 31.33%)
活動を始めた背景
・年間 40 万人が訪れる温泉地だったが、時代の流れと
ともに、半分の 20 万人に減少。その状況をどうにかしよ
うと地域で会議をするが、出席するのは男性ばかり。会
合を持っても、なかなか進まない状態が続いていた。
・鹿教湯温泉の中心で営む商店に、買い物に来る女
性たちが話をする中でも、温泉客の減少、地域の将来
等を心配する声が聞こえていた。
・このまま何も動かない状態では、地域が衰退してしま
うと危惧した旅館、商店、農業、サラリーマン家庭の女
性たちが自分達で出来ることはないか、また、内村温
泉郷として、みんなで一緒に盛り上げて行こうと、女性
ならではの感性と柔軟性、コミュニケーション力を生か
して、地域の女性たちに広く声をかけて集まった。
活動開始からこれまでの経緯
・平成 15 年当時は、この地域では、女性は家にいるの
が当たり前で、家業の裏方で働くことが多く、表に出掛
けて会合に参加するなど、ありえない状況だった。そん
な中、鹿教湯・大塩・雲泉寺地域から、何とかしたいと
思う女性たちが集まり、「内村っ娘の会」を発足した。
・当初は、観光客を増やして、観光業を盛り上げること
を中心に考え、農業や観光業以外の人々には、その
目的を達成するために協力してもらうことで進めようとし
た。ところが、農業関係者や地域の住民との話し合い
を行う中で、お互いの間には、多くの溝があることが分
かった。
・そこで、まずは農業についての理解を深めるため、飯
島町で行われていた「農と自然の守人」講座に、会員3
人で1年間(毎週日曜)通った。様々な立場や年齢、職
業の女性たちと話し合いをすることで、それぞれの立
場における問題点や不安等を共有することができた。
・しかし、これまで表に出て活動をしたことのない女性
達は、会を発足したのは良いが、何から手をつけて良
いのか分からなかった。そこで行政(丸子地域自治セ
ンター)へ相談に行ったところ、丸子町(当時)のマップ
作成の企画があり、その裏面を好きなように使って良い
という提案を貰い、内村温泉郷の地図に、旅館と営業
所の情報を掲載することとした。印刷代は、3つの地域
の旅館等を回って寄付を募って調達した。
・次に、自分の好きな場所やお勧めの場所等を記した
マップと、地域で住んでいる人、活動している人、どん
なことが得意な人がいるのかを記した「人マップ」を作
成。これらの地図の制作には、会員全員で集まり、ワー
クショップを行いながら、地域を回って調査をした。個
人情報の取り扱いが厳しくなった時であったが、私が
載っていないという声を聞く方が多かった。
・行政からの声かけで、電源地域事業を実施。その一
環として、旅館に宿泊している人へのアンケート調査を
行ったところ、観光客がこの地域の魅力として感じてい
ることは、ゆったりとした空間、シンプルな料理という結
果を得ることができた(平成 15 年度)。
・また、地元食材と家庭料理のレシピ収集を実施。内
村温泉郷では、山菜や野草、きのこや豆など自然の恵
みを上手く取り入れて、家庭料理でもなじみが深い。そ
こで、各家庭への聞き取り調査を実施したことで、改め
て地元食材の豊かさを知ることとなり、その土地で育っ
たものを食べることが健康であるという、この地域はまさ
に「身土不二」であることに気がつく。聞き取りの結果は、
「旬菜の慈味-内村温泉郷のからだに優しい いなか
食」の冊子を製作した。
・2つのマップ作り、アンケート調査、レシピの聞き取り
等を通じて、今まで気がつかなかった地域の資源と人
の魅力に気づかされた。また大学や講師など、地域外
の人々と接点を持ち、情報交換を行うことで、より一層、
地域への愛着を感じることとなった。
・そこで、他人ばかりを当てにするのはやめて、地域住
民が幸せに暮らせないと意味がない、地域があってこ
そ、観光も農業も商業も成り立つものであるということに
気がつき、観光業中心の考えから、地域づくりに視点
高齢者に向けた新たなライフスタイル・社会貢献の提唱に関する調査報告
を置き替え、下記の2つの理念を掲げて、やれることか
らやって行こうと決めた。
○イベントへの出展、ボランティア参加
自治会で行われるお祭りへボランティアで参加して、
お茶や食事等を提供している。また旅館青年部がメル
シャンと共同して企画する、ワイン用のぶどうの摘み取
りツアーでは、ぶどう畑で食べるお昼ご飯に、ワインに
合う料理を提供している。
会長の長岡さん(右)と斎藤さん
■2つの理念
1.わたしたちは、この地域の恵み(里山の恵み)で生
きてきていること
2.わたしたちは、地域で支えあっていきていること
・上記の2つの理念に基づき、「内村っ娘の会」では、
地域食文化の継承、地元食材の開発等を目的に、「食」
を中心とした活動を開始。家庭料理のレシピ収集の過
程で感じた食事内容の変化は、地域農業との連携、培
われた食文化、自然の営みの崩壊に繋がっていくと考
え、最近まで行われていた半自給自足の生活こそ、こ
の地域に根ざした環境型の暮らしであると再認識し、
その暮らしの意味を深く掘り下げることは、この地に誇
りをもって暮らすことに繋がると感じている。
地産地消のお弁当
○福祉活動等との連携
地域の保育園児との交流や、地区の公民館で開催
される「お達者教室」へ出掛けていき、縁側でお茶を楽
しむ「おはなししやしょ」を行っている。
主な活動内容
○地域食材を生かしたおふくろの味の弁当や仕出し
の提供
地元食材を通じて自然の恵みを実感して貰い、この
地域の魅力を伝えていこうと、平成 17 年より実施。事
前オーダー制で近隣の地域まで運ぶこともある。提供
回数は、年間 30~40 回で年々増えており、1回に 120
個の弁当を作る時もある。提供先は、視察や研修会、
イベントのほか、地元の各種団体の会合での提供も増
えてきている。長岡会長が献立の構成を考え、調理は
みんなで集まって、アイデアを出し合いながら作ってい
る。注文が立て込む時は、手分けして対応している。
○地域食文化の情報発信
地元有線テレビ「丸子テレビ」にて、毎週水曜に料
理番組を放送。会員が交代で出演して、旬の食材など
を活かした料理や伝統料理などを教えている。平成 27
年度は、上田市の事業(魅力アップ応援事業)で、2年
間の放送をまとめた DVD を作成している。
幼稚園児との交流
○ジビエ料理の研究
この地域では、仕留めた鹿を食べるのはごくわずか
で、猟友会のメンバーでも食べている人は少なく、ほと
んどは山に放置され、熊や野鳥等の餌となり、生態系
が壊れてしまうことが危惧される。そこで鹿肉を新たな
地域資源として価値を高めていくには、美味しく食べる
ことが一番であり、他地域へ販売していくにも、地域の
中で鹿を食べる文化が育たなければ売れないと考え、
平成 25 年度より、地元の社会福祉法人とタイアップし、
鹿肉を中心とした郷土料理の開発に取り組んでいる。
平成 26 年末に、NHK「きょうの料理」クッキングコン
高齢者に向けた新たなライフスタイル・社会貢献の提唱に関する調査報告
テストの準グランプリに選ばれ、一気に知名度もアップ
した。上田市主催のジビエ講習会の講師を務めたり、
長野県主催の信州ジビエマイスター養成講座に会員2
名が参加して資格を取得する等、活動の発展の基礎
を着々と築いている。
課題発生時の対処方法、現状の課題
女性たちが外で会合を持つことや活動することに対
して、当時は家族の大きな反対があったが、自分達の
考えや目的をしっかり持ち、出来ることから 1 つずつ取
り組んで行くことで徐々に理解が広まり、その結果、地
域での女性活動や活躍の場を切り開いている。
困ることがあれば、行政(丸子自治センター)や商工
会へ相談に行ったり、そのことについて、外部の人や
専門知識のある人を連れてきて問題を解決している。
これまでの活動の成果や効果
鹿肉料理
取り組みの体制
会員全員で取り組んでおり、出来る人が出来ること
をやるという体制。「自分達が楽しくないことはやらな
い」、「強制はしない」、「自分達がやれることをやる」と
いうのが、本会のスタンス。本会はボランティア活動で
あるが、料理提供を担当する時は、半日 600 円、夜
1,000 円の手間賃を支払っている。
毎月第1水曜日に会合を開き、前月の収支報告を
行い、今後の予定を確認して役割分担を行うなど、会
員全体への情報共有を行っている。
活動資金
主な収入は、弁当や料理の売上と会員の年会費。
平成 15 年度~平成 25 年度の年会費は、会員 2,000
円、協力会員 1,000 円。平成 26 年度からは、年会費
会費 1,000 円で決定。
平成 24 年度に、保健所の許可のある自前の厨房を
作るにあたっては、会員みんなでお金を出し合い、40
万円を集めたが、それでも足りず、観光客に 1 口 5,000
円でお金を貸して欲しいと呼びかけて、資金を調達。
必ず返すと約束し、本活動 10 周年を迎えた平成 25 年
に、お金を貸してくれた方々を地元に呼んで、それぞ
れに借りた額のお金を返却した。
行政や民間等からの支援等
・コモンズ支援金(県補助/1 年間)
・元気づくり支援金(県補助/2 年間)
※コモンズ支援金の後継事業
・上田市わが町魅力アップ応援事業(3 年目)
・隣の人の特技や才能の再発見(人的資源の発掘)
・地域の魅力の再発見(地域への誇りや愛着の醸成)
・女性の社会進出の実現、活躍の場づくり
・地域へ移住してくる人たちの受け皿となっている(この
会に入って活動すると、地域の人と触れ合い、話をす
る機会も増える。そのことによって、お互いを知ることと
なり、地域も受け入れやすい)。
今後(将来)の取り組みや希望
○若い世代の仲間づくり・人材育成
若い世代も本会の活動に参加してくれるようになっ
た。料理の提案にも積極的で、レシピを考えて欲しいと
お願いすると、しっかりと応えてくれる。その他、地域内
では、イベントを企画する 20 代の若者が現れるなど、
若い世代の活動の芽が出てきたと感じている。まずは、
若い世代から要望の多いお菓子づくり教室の開催を
通じて、若い世代との交流を図り、相互の理解を深め
ていきたい。
○ローカル文化の発信
この活動を通じて、様々な分野の方々と出会い、
色々な角度で地域を見ることができ、この地域ならでは
の魅力や食文化、暮らしがあることに気がついた。これ
からは、健康への関心の高まり、環境に配慮した暮らし
のあり方、自給自足ができる生活の知恵などに興味を
持つ人が増えてくる時代。この土地のローカル文化を
発信していきたい。
○地域の暮らしを整える(帰りやすさ、暮らしやすさ)
今の時代は、競争社会で効率化や結果ばかりが追
求されているが、全ての人がその社会に馴染めるもの
ではない。以前は、不景気になれば田舎に帰ってきた。
昔はそれだけ、田舎には、おおらかさや豊かさがあっ
た。本来の田舎が持っている暮らしやすさを整えること
で、地域の魅力を更に向上させて、移住者を増やして
いきたい。
○ほかに振り回されることなく、自分達の活動を進めて
行きたい。
農家レストランをやってみないかという話もあるが、商
高齢者に向けた新たなライフスタイル・社会貢献の提唱に関する調査報告
売に関しては、今まで、良いも悪いもたくさん経験をし
てきている。確かに農家レストランは、他地域でも流行
っているし、ヒットすれば地域づくりにも繋がってくると
は思うが、人がしているから自分もするということではな
く、自分達ができるかどうか、他に振り回されることなく、
自分達の足元をみながら、今後の活動も進めていきた
い。
今後の取組みや夢を実現させるために、
必要と思われる支援や要望
女性だけで企画して自主的に実施するのは無理が
多いので、行政のサポートは不可欠である。
何か行動を起こすためのステップとしての補助金は
必要。地域から、やりたいと声もあがったものに助成を
することは、住む人たちが必要だと思っている課題が
解決されるので、行政にとっても助かることではないか。
その場合、補助金は大事な税金であり、やるとなれば、
きっちりと責任を持ってやらなければならない。
地元で採れる豊かな食材をPR
これから取り組みを始める地域や
シニア世代へのアドバイス
何かやりたいことがある時は、一緒にやろうという仲
間たちとはじめの第一歩を踏み出すことが大事。まず
はやってみる。シニア世代は、仕事でも生活でも、様々
な経験をしていることが大きな強みであり、叩かれる勇
気も持っている。
本会では、言いたいことを言い合える雰囲気がある。
違った意見を言い合っても、やろうと決めたことは、しっ
かり責任を持ってやる、それは自分達が楽しいと思うこ
とをやっているからだと思う。
女性は、仕事に子育て、介護にと、生活での役割が
たくさんあり、こういった活動への参加が難しい世代が
あるが、そのような時でも、自分の得意なことや出来る
ことは磨いておくと良い。今の忙しさや辛いこと、困った
経験も、必ず力になる日がくる。いくつになっても活躍
は出来るので、自分磨きは続けていた方が良い。他の
地域との連携や、地域の魅力の発掘など、女性だから
出来ることがある。女性は一度決めたらきっちりと仕事
をこなす。ボランティアの精神も高く、地域づくりに参画
することは、とても良いことだと思う。
行政のサポートや補助金等が必要であるが、全てを
それに頼ったり、他人任せでの活動は長続きしない。
お金がなければ自分達で資金調達を行う、取り組みの
内容は自分達で決める等、自立して取り組むことは大
事なことである。
高齢者に向けた新たなライフスタイル・社会貢献の提唱に関する調査報告