手話言語条例の成立状況と特色ある条例 伊藤久雄(認定NPO法人まちぽっと理事) 1.手話言語条例の成立状況 成立状況は別紙一覧のとおりである(2016 年 6 月 23 日現在、全国ろうあ連携調べ)。成 立した 50 条例の内訳は、都道府県 7(成立順に、鳥取県、神奈川県、群馬県、長野県、埼 玉県、沖縄県、千葉県) 、市町村 43 となっている。市町村の都道府県別内訳は以下のとお り。 ● 手話言語条例 都道府県 都道府県市町村別成立状況 成立市町村数 都道府県 成立市町村数 北海道 8 京都府 2 福島県 1 大阪府 2 群馬県 2 奈良県 1 埼玉県 3 兵庫県 10 千葉県 1 徳島県 1 山梨県 2 高知県 1 静岡県 2 山口県 1 岐阜県 1 佐賀県 1 三重県 2 宮崎県 1 和歌山県 1 上表のように、1 市町村だけでも成立したところもふくめて、条例が成立したのは 19 道 府県になる。したがって未成立の都道府県は、東京都もふくめて 28 都県である。成立した 都道府県をみると、兵庫県が 10 自治体と圧倒的に多く、次に北海道が続く。東京都、神奈 川県に成立市町村がないのはどうしたことか(先述のように神奈川県は制定済み)。 2.特徴ある条例 手話言語条例は、その名のとおり、「手話も言語であるとの基本的な認識、その普及や自 治体と事業者の責務および役割などを明らかにし、ろう者とろう者以外の者が共生するこ とのできる地域社会を実現することを目的とする」と定めた条例がほとんどである。 これに対して、明石市の「手話言語を確立するとともに要約筆記・点字・音訳等障害者 のコミュニケーション手段の利用を促進する条例」(略称、手話言語・障害者コミュニケ― ション条例)は、その全文で「手話は言語である」ことを謳い、さらに「障害の特性や障 害者のニーズに応じたコミュニケーション手段の選択と利用の機会が十分に確保されてい るとは言え」ないとして、「多様なコミュニケーション手段の促進のために」条例を制定し たと」宣言している。 そこで、日本で最初の手話言語条例である鳥取県条例と明石市条例を比較してみよう。 鳥取市手話言語条例 前文 第1章 総則 第 1 条(目的) 第2条(手話の意義) 第3条(基本理念) 第4条(県の責務) 第5条(市町村の責務) 第6条(県民の役割) 第7条(事業者の役割) 第2章 手話の普及 第8条(計画の策定及び推進) 第9条(手話を学ぶ機会の確保等) 第 10 条(手話を用いた情報発信等) 第 11 条(手話通訳者等の確保、養成等) 第 12 条(学校における手話の普及) 第 13 条(事業者への支援) 第 14 条(ろう者等による普及啓発) 第 15 条(手話に関する調査研究) 第 16 条(財政上の措置) 明石市 手話言語・障害者コミュニケ―ション条例 前文 第1章 総則 第 1 条(目的) 第2条(基本理念) 第3条(定義) 第4条(市の責務) 第5条(市民の役割) 第6条(事業者の役割) 第7条(施策の策定方針) 第8条(財政上の措置) 第2章 手話言語の確立 第9条(手話を学ぶ機会の提供) 第 10 条(手話を用いた情報発信等) 第 11 条(手話通訳者等の確保及び養成) 第 12 条(学校における手話の普及) 第 13 条(要約筆記等を学ぶ機会の提供) 第 14 条(要約筆記等を利用するための環境 整備) 第 15 条(要約筆記者等の確保及び養成) 第4章 第3章 鳥取県手話施策推進協議会 第 17 条(設置) 第 18 条(組織) 第 19 条(委員) 第 20 条(会長) 第 21 条((会議) 第 22 条(庶務) 第 23 条((雑則) 附則 多様な障害者のコミュニケーショ ン手段の利用促進 第 16 条(多様な障害者のコミュニケーショ ン手段に対する支援及び配慮) 第5章 明石市手話言語等コミュニケーシ ョン施策推進協議会 第 17 条(明石市手話言語等コミュニケーシ ョン施策推進協議会) 附則 以上のように、明石市条例の特徴は第 4 章にある。第 4 章の全文は以下のとおりである。 第4章 多様な障害者のコミュニケーション手段の利用促進 (多様な障害者のコミュニケーション手段に対する支援及び配慮) 第16条 市は、日常生活又は社会生活において、障害特性に応じたコミュニケーション手 段が障害者の年齢及び障害の種別又は状態等に応じてきわめて多様であることに鑑み、 手話及び要約筆記等以外の手話等コミュニケーション手段について、利用の促進に関す る施策を推進するものとする。 2 市は、触手話、指点字その他の盲ろう者のコミュニケーション手段を利用する場合に必 要となるコミュニケーション支援従事者等の確保及び養成を行うものとする。 3 市は、次に掲げる手話等コミュニケーション手段の利用について支援を行うとともに、 これらに対する市民の理解を促進するための取組を行うものとする。 (1) 知的障害及び発達障害の特性を踏まえた、平易な表現によるわかりやすい情報伝達 及び絵図、写真、記号、サイン、ジェスチャー等によるコミュケーション手段 (2) 代用音声(喉頭摘出等により使用するものをいう。)及び重度障害者用意思伝達装置 等(重度の両上下肢障害及び音声・言語機能障害により使用するものであって、まば たき等により操作するものをいう。 )によるコミュニケーション手段 (3) その他障害者のコミュニケーション手段として必要な手段 また昨年(2015 年)12 月に成立した「習志野市手話、点字等の利用を進めて、障がいの ある人もない人も絆(きずな)を深め、互いに心を通わせるまちづくり条例」(略称、心を 通わせる条例)は、定義を次のように定めている。 習志野市条例<定義> (1) 障がい 障害者基本法(昭和45年法律第84号)第2条第1号の障害及び同条第 2号に規定する社会的障壁(以下「社会的障壁」という。 )により継続的に日常生活又 は社会生活において相当な制限を受ける状態をいう。 (2) 障がい者 障害者基本法第2条第1号の障害者をいう。 (3) 手話、点字等の伝達手段 手話、点字、代読、音訳、絵カード、文字盤、筆談その 他の障がい者が容易に利用できる情報及び意思の伝達手段をいう。 (4) ろう者 耳が聞こえない者のうち、手話により日常生活を送る者をいう。 (5) 市民活動団体 特定非営利活動法人その他の市民等で構成される営利を目的としな い団体で、主に市内において活動を行うものをいう。 (6) 事業者 市内に事業所又は事務所を有し事業を行う法人その他の団体(国及び地方 公共団体を除く。)又は個人 をいう。 (7) 情報保障 情報の取得及び 利用の機会を保障し、自己実現の価値を認めることを いう。 (8) コミュニケーション 相互に意思を伝え合い、理解し合い、意味を分かち合い、信 頼関係及びつながりを築くことをいう。 (9) 合理的配慮 社会的障壁の除去の実施が必要とされている場合で 、実施に伴う負 担が過重でないときに行われる適切な調整及び変更をいう。 習志野市条例は点字を含めていること、障害者差別解消法にもとづく「合理的配慮」を 定めていることが特徴である。ただし、鳥取市や明石市が設けた第三者機関(推進協議会) の規定はない。なお明石市は手話言語・障害者コミュニケ―ション条例に続いて、今年 4 月から、障害者差別解消法を踏まえた「障害者に対する配慮を促進し誰もが安心して暮ら せる共生のまちづくり条例」(略称、障害者配慮条例)を施行している。 <参考> 明石市障害者に対する配慮を促進し誰もが安心して暮らせる共生のまちづくり条例 (概要版) https://www.city.akashi.lg.jp/fukushi/fu_soumu_ka/sabetsu/documents/hairyo_gaiyou_p p.pdf 明石市障害者に対する配慮を促進し誰もが安心して暮らせる共生のまちづくり条例(本文) https://www.city.akashi.lg.jp/fukushi/fu_soumu_ka/sabetsu/documents/hairyo_joubun_n ormal.pdf (本文) 3.今後の課題 「横須賀市共生社会実現のための障害者の情報取得及びコミュニケーションに関する条 例」(略称、情報・コミュニケーション条例、2015 年 12 月 15 日成立)について、全国ろ うあ連盟は手話言語条例に含めていない。しかし、その理由はわからない。 横須賀湖条例も、前文で「『手話が言語である』ことの意義や、多様な手段によるコミュ ニケーションの必要性等を認識し、障害の種別や有無によって分け隔てられることなく、 相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現を目指すため、この条例を制定 する。」と謳っており、わたしは手話言語条例に含めてもよいのではないかと考える。ただ し、習志野市条例は「手話の普及及び理解の促進に関する施策」という条文を設けている のに対し、横須賀市条例は点字その他と横並びであることなど、手話に対する取組みが弱 い印象は否めない。 次の表は、全国ろうあ連盟の情報・コミュニケーション条例成立状況一覧である。この 中でも横須賀市条例は「手話を含まない」とされている。 ● 情報・コミュニケーション条例 成立状況一覧 ※は手話を含む (全国ろうあ連盟ホームページより) No. 自治体名 成立日 施行日 1 兵庫県明石市※ 2015 年 03 月 26 日 2015 年 04 月 01 日 2 千葉県習志野市※ 2015 年 12 月 21 日 2016 年 04 月 01 日 3 神奈川県横須賀市 2015 年 12 月 15 日 2016 年 01 月 01 日 いずれにしても、障害者差別解消法が施行された今日、障害者差別解消法を踏まえた検 討が行われなければならない。とりわけ「合理的配慮」をどのように条例に盛り込むのか が課題である。
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