MDR1の不活性化とSrcの阻害を介して

Lipid raft modulation by Rp1 reverses multidrug resistance
via inactivating MDR-1 and Src inhibition
Rp1による脂質ラフトの調節は、MDR1の不活性化と
Srcの阻害を介して、多剤耐性を改善する
2015/11/24 M2 丁野 綾水
背景と目的
・ガン治療における問題点「ガン細胞の多剤耐性獲得」
…主要な原因は、薬物排出トランスポーターの過剰発現
MDR1(ABCB1)、MRP1(ABCC1)、BCRP(ABCG2)
・MDR1は脂質ラフトに局在
「直径10-200nmの不均一で動的なコレステロールとスフィンゴ脂質に富んだ膜ドメイン」
様々な膜タンパク質が集積
シグナル伝達、物質輸送、細胞接着…
・Cholは脂質ラフトの構造・機能維持に必須である
…Cholを欠失させると脂質ラフトが崩壊して細胞機能が変化する
https://en.wikipedia.org/wiki/Lipid_raft
Park EK et al. J Pathol (2009)
・ジンセノサイド(高麗人参に含まれるサポニン)
…様々な薬理作用、Cholと構造が類似
Rg3は細胞膜の流動性を低下させてMDR1の活性を調節する
Kwon HY et al. Arch Pharmacal Res (2008)
Rh2はDOX耐性の細胞においてMDR1活性を低下させてDOX耐性を改善する
http://www.lktlabs.com/products/
Ginsenoside_Rb1-753-65.html
Zhang J et al. J Pharmacol (2012)
⇒ ジンセノサイドRp1を用いて、脂質ラフトを調節することでMDR1の活性を低下さ
せて多剤耐性を改善すること、その作用メカニズムを解明することを目的とした
1. OVCAR-8/DXR細胞の薬剤耐性とMDR1の局在
OVCAR-8(ヒト卵巣癌細胞)、DXR(OVCAR-8をDOX含有培地で培養、DOX耐性)
ABC:各種抗癌剤(DOX/PTX/ActD)で24h処理→MTSアッセイで生細胞数を測定
D:WBによりMDR1発現量を定量
1. OVCAR-8/DXR細胞の薬剤耐性とMDR1の局在
E:Triton X-100でDXR細胞を分画→各画分中のMDR1/Cav-1発現量をWBにより定量
F:ショ糖密度勾配遠心によりDXR細胞を分画→MDR1/c-Src /Cav-1発現量をWBにより定量
G:DXR細胞を蛍光免疫染色
H33342(核)、GM-1(脂質ラフトのマーカー)
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多剤耐性を示すDXR細胞は、
脂質ラフトにMDR1を高発現
している
2. Rp1処理がMDR1の局在と活性に与える影響
B:DXR細胞を5µM Rp1/Rg3/Rh2(+1µM ActD)で24h処理→MTSアッセイ
C:DXR細胞を5/10/20µM Rp1で24h処理→MTSアッセイ
➤ 今後の実験ではRp1の濃度を5μMとする
2. Rp1処理がMDR1の局在と活性に与える影響
D:DXR細胞を5µM Rp1で16h処理→蛍光免疫染色
E:DXR細胞を5µM Rp1/10µM VPLで4h処理→1.3µM Rho123/30µM DOXで1h処理し、細胞内
蓄積をフローサイトメトリーで定量
➤ Rp1処理によってMDR1と脂質ラフトの
分布が変化した(拡散→凝集)
➤ Rp1処理によってRho123とDOXの蓄積が増加した
Rp1はMDR1と脂質ラフトの凝集を引き起こし、MDR1活性を低下させる
3. Rp1処理が各種抗癌剤に対する感受性に与える影響
ABC:DXR細胞を各種抗癌剤(DOX/ActD/CDDP)+Rp1で24h処理→MTSアッセイ
➤ Rp1はDOXやActD(MDR1の基質)と
相乗的に作用して細胞増殖を阻害した
CDDP(MDR1の基質でない)とは相乗作
用を示さなかった
3. Rp1処理が各種抗癌剤に対する感受性に与える影響
D:DXR細胞を1µM ActD/5µM Rp1で16h処理→アネキシンV染色(アポトーシス細胞の検出)
EF:DXR細胞をActD/CDDP+Rp1で16h処理→WBでCleaved PARPを定量(Caspase3活性評価)
➤ Rp1はActDと相乗的に作用して
アポトーシスを引き起こした
➤ MDR1の基質であるActD+Rp1処理により、
Caspase3の活性が増加した
MDR1の基質でないCDDP+Rp1処理では、有意
な変化は確認されなかった
Rp1はDXR細胞を抗ガン剤(MDR1基質)に対して感受性にする
4. ActDによって誘導されるDNA損傷にRp1が与える影響
A:DXR細胞を1µM ActD/5µM Rp1で16h処理→蛍光免疫染色(γ-H2AX)
B:DXR細胞を1µM ActD/5µM Rp1で12/24/36h処理→WBでγ-H2AXを定量
γ-H2AXフォーカスの形成…DNA損傷の指標
➤Rp1は、ActDによって誘導される
DNA損傷を増大させた
4. MDR1の発現にRp1が与える影響
C:DXR細胞を1µM ActD/5µM Rp1で16h処理→蛍光免疫染色(MDR1)
D:DXR細胞をActD/5µM Rp1で16h処理→WB/RT-PCRでMDR1タンパク質/mRNA発現量を定量
➤ActD+Rp1処理により、脂質ラフトの
凝集に加えてMDR1が顕著に減少した
➤ActD+Rp1処理により、MDR1のタンパク質発現量が有意に減少した(mRNA
発現量は変化しなかった)
4. MDR1の発現にRp1が与える影響
E:DXR細胞を1µM ActD/5µM Rp1で24h処理→Triton X100で分画→WBでMDR1/Calnexin/
Cav-1を定量
➤Rp1+ActD処理により、
MDR1とCav-1が不溶性画分
から可溶性画分へ移行した
Rp1は、MDR1の発現や活性を低下させる/局在を変化させることによって、
ActDに対する感受性を増加させた
5. Rp1によるActD感受性の増加に対して、Chol添加が与える影響
DXR細胞を1µM ActD/5µM Rp1で2h処理→0.1mM Chol添加
→顕微鏡観察(A)
→MTSアッセイ(B)
→WBでCleaved PARP/MDR1の定量(C)
➤ActD+Rp1処理による、(A)細胞形態の変化、(B)細胞増殖の阻害、(C)Caspase3の
活性化/MDR1発現量の減少は、Cholの添加によって改善した
5. Rp1によるActD感受性の増加に対して、Chol添加が与える影響
DXR細胞を1µM ActD/5µM Rp1で2h処理→0.1mM Chol添加
→Rho123の蓄積を定量(D)
→WBでγ-H2AXの定量(E)
➤ActD+Rp1処理による、(D)MDR1活性の低下、(E)DNA損傷の増大は、Cholの添加
によって改善した
5. Rp1によるActD感受性の増加に対して、Chol添加が与える影響
DXR細胞を1µM ActD/5µM Rp1で2h処理→0.1mM Chol添加
→蛍光免疫染色 γ-H2AX(F)
→蛍光免疫染色 MDR1(G)
➤ActD+Rp1処理による、(F)DNAの損傷の増大、(G)MDR1と脂質ラフトの凝集は、
Cholの添加によって改善した
Rp1処理によるActD感受性の増加は、Cholの添加によって改善する
6. Chol欠失がActD感受性に与える影響
(A)DXR細胞を1µM ActD/MβCD/SIMVで24h処理→MTSアッセイ
(B)DXR細胞を1µM ActD+1mM MβCD/5µM SIMVで24h処理→顕微鏡観察
MβCD:Chol除去剤
SIMV:Chol合成阻害剤
➤MβCDとSIMVはActDと相乗的に作用して、細胞増殖を阻害した
➤ActD+MβCD or SIMV処理により、細胞形態が変化した
6. Chol欠失がActD感受性に与える影響
(C)DXR細胞を1µM ActD+1mM MβCD/5µM SIMVで16h処理→蛍光免疫染色(γ-H2AX)
(DE)DXR細胞を1µM ActD+1mM MβCD/5µM SIMVで24h処理→WB(MDR1/Cleaved PARP)
➤MβCD or SIMV+ActD処理によ
り、DNA損傷(γ-H2AXの形成)
が増大した
➤MβCD or SIMV+ActD処理によ
り、Caspase3の活性(Cleaved
PARP)が増加した
SIMV+ActD処理により、ActDに
よって誘導されるMDR1発現上昇
を抑制した
Cholの欠失は、DXR細胞をActD感受性にした
7. Src活性と薬剤耐性との関連
(A)DXR細胞を1µM ActD/5µM Rp1/0.1mM Cholで24h処理→WB (p-Src/c-Src)
DXR細胞を1µM ActD+PP2で24h処理 →MTSアッセイ(B) →WB(C)
➤Rp1+ActD処理に
よってSrc活性が減少
し、Cholの添加によっ
て回復した
PP2: Src阻害剤
➤ActD+PP2処理によ
り、細胞増殖が相乗的
に阻害された
➤PP2はMDR1発現に影響を与えないが、
PP2+ActD処理によりMDR1発現は減少
した
PP2+ActD処理により、Caspase3の活
性(Cleaved PARP)が増加した
7. Src活性と薬剤耐性との関連
(D)DXR細胞を1µM ActD/10µM PP2で24h処理→Rho123の蓄積を定量
(E)DXR細胞をMDR1/Src siRNAで24h処理→1µM ActDで24h処理→WB
➤ActD+PP2処理により、MDR1活性が低下し
た(Rho123の蓄積が増加した)
➤SrcをKDすることで、ActD処理によって
誘導されるMDR1発現の増加が抑制された
MDR1またはSrcをKDすることで、ActD処
理によって誘導されるCaspase3の活性化
が増強した
8.Srcの活性化がRp1によって誘導される薬剤耐性に与える影響
DXR細胞にHA-active Srcプラスミドを添加し20h処理→1µM ActD+5µM Rp1処理
→WB(A)
→MTSアッセイ(B)
➤Rp1+ActD処理による細胞増殖阻害は、
活性型Srcの強制発現によって回復した
➤活性型Srcを強制発現させた細胞では、
Rp1+ActD処理によるSrc活性の低下が抑制された
8.Srcの活性化がRp1によって誘導される薬剤耐性に与える影響
DXR細胞にHA-active Srcプラスミドを添加し20h処理→1µM ActD+5µM Rp1処理
→蛍光免疫染色 γ-H2AX(C)
→蛍光免疫染色 MDR1(D)
➤活性型Srcが強制発現された細胞では、
ActD+Rp1処理によるDNA損傷(γ-H2AX
フォーカスの形成)が起こらなかった
➤活性型Srcが強制発現された細胞では、
ActD+Rp1処理によるMDR1発現の低下が起
こらなかった
Rp1は、SrcやMDR1などの薬剤耐性に関わる
タンパク質の発現を低下させることで、多剤耐性を改善する
総括
Fig1. 多剤耐性を示すDXR細胞は、脂質ラフトにMDR1を高発現していた
Fig2. Rp1はMDR1と脂質ラフトの凝集を引き起こし、MDR1活性を低下させた
Fig3. Rp1はDXR細胞を抗ガン剤(MDR1基質)に対して感受性にした
Fig4. Rp1は、MDR1の発現や活性を低下させる/局在を変化させることによって、
ActDに対する感受性を増加させる
Fig5. Rp1処理によるActD感受性の増加は、Cholの添加によって改善する
Fig6. Cholの欠失は、DXR細胞をActD感受性にした
Fig7.8. Rp1は、SrcやMDR1などの薬剤耐性に関わるタンパク質の発現を低下させる
ことで多剤耐性を改善する
⇒ジンセノサイドRp1は、
①脂質ラフトやMDR1の局在を変化させる
②MDR1やSrcなどの薬剤耐性に関与するタンパク質の発現・活性を低下させる
ガン細胞の多剤耐性を改善する