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第9回
自己株式(承前)
VI. 違法な自己株式の取得の効果
1. 基本的な考え方
A) 通説

自己株式取得の手続的瑕疵、内容的な瑕疵はいずれ
も自己株式取得無効と考える。ただし、譲渡株主が善
意(・無重過失)の場合には取得は有効になる
※市場取引による取得の場合には株式の売買自体が無効になるこ
とはあり得ない(市場では問屋である証券会社名義で売買されて
いるから)
B) 立案担当者の提案
① 手続的な瑕疵については民93類推で処理し、善意・無
過失の譲渡株主からの取得は原則有効
② 財源規制違反については会461以下は、取得を有効とし
たうえで譲渡株主に特別な弁済義務を負わせた規定
2
剰余金配
当
手続違反
自己株式
取得
手続違反
平成17改正前
多数説
立案担当者
絶対無効
絶対無効
絶対無効
絶対無効
有効
絶対無効/
悪意・重過失無効
民93類推
絶対無効
有効
財源違反
平等違反
財源違反
絶対無効/
悪意・重過失無効
民93類推?
※学説には財源規制違反の自己株式取得を有効と解する説もあるが、
学説の「有効」は譲渡株主に代価の返還義務がなく、取締役等の責任
で対応すべきとする(葉玉説の「有効」とは意味が違う)
一般的な剰余金の配当
学
説
不当利得返還
葉
玉
説
法定の支払義務
自己株式取得
学
説
同時履行の抗弁*
代位取得
葉
玉
説
法定の支払義務
葉玉説:多数説だと譲渡株主に返還請求をしても同
時履行の抗弁権を対抗され返還を拒絶される
多数説:会462は同時履行の抗弁権を排除する規定
と解すれば足りる
*同時履行の関係に立つのは「株式」と「代金」ではな
く、「株券・名義」と「代金」
自己株式処分
支払
葉玉説:会社が自己株式を無償または廉価で処分した
場合に、不当利得構成だと譲渡株主に株式の時
価を返還するから会社財産の確保が困難
多数説:上記の場合も、売却価格を譲渡株主に返還す
れば足りる(最判H19.3.8百-16 参照)。葉玉説だと
株式消却時に譲渡株主が代位すべき対象がなく
なり不都合
処
分
2. 個人的な見解
・・・瑕疵の種類によって扱いを変えるべきではないか
a.
b.
c.
純粋な手続的瑕疵については、適法な機関決定を欠く
取引(462条4項1号2号参照)と同じに考える
株主平等原則違反については一律無効
財源規制違反も一律無効
瑕疵の種類
効果
理由付け
①合意取得における総会・取締役会決議の無効・取消
※相対取引を除く
会362と同じ
取得自体に瑕疵はなく、単なる手続違反
②強制取得における総会決議の無効・取消
原則無効
株主権の違法な侵害
③売主追加請求権の無視、決議のない相対取引
一律無効
株主平等原則違反
④161条の取得価格違反
一律無効
株主平等違反(160条の規制の潜脱)
⑤取得数超過
会362と同じ
授権がなかっただけ(①と同じ)
⑥財源規制違反
一律無効
債権者保護
7
VII. 違法な取得と会社の損害
損害についての学説
a. 取得価格と売却価格の差額が損害(差額損害説)
b. [取得価格と時価の差額]と[売却価格と時価の差
額]の合計が損害(時価差額説)
c. 取得価格全額が損害(取得価格説)
〔例〕時価2億のときに2億3千万円で取得し、時価が2
億5千万円に上昇した時点で2億4千万円で売却
a. 2億3千万-2億4千万=-1000万(損害なし)
b. (2億3千万-2億)+(2億5千万-2億4千万)=4000万
c. 2億3千万
※自己株式の売却損は(新株有利発行とは異なり)会社の
損害
8
出資単位
出資単位
• 株式=割合的単位
→1株あたりの出資額×株式数=会社財産
→会社財産÷発行する株式数=1株の価値=出資単位
• 出資単位の大小によるメリットとデメリット
i.
出資単位が大きい場合
 メリット・・・株式管理コストが小さい
 デメリット・・・1株あたりの価格が高く売買が困難。その結果として株
価が低くなる(割負け)
ii. 出資単位が小さい場合
 メリット・・・株式の売買が容易で株価が比較的高く出る
 デメリット・・・株式の管理コストが高い
⇒出資単位を適正に調整することにメリットがある
出資単位の調整
I.
基本的な考え方
会社財産の総額を変えずに、発行する株式の数を増減
II. 出資単位の調整手段
1. 出資単位を大きくする(株式数を減らす)手段
• 株式の消却
• 株式の併合
2. 出資単位を小さくする(株式数を増やす)手段
• 株式の分割
• 株式無償割当(新株予約権無償割当て)
3. 擬似的に出資単位を調整する手段
• 単元株制度
⇒株式数は変動するが、会社への出資などの資金的な変動
は一切ない点に留意(消却は取得時に資金流出あり)
株式の消却・併合・分割・無償割当
て
株式の消却
I.
消却の定義
 発行された特定の(自己)株式を消滅させること
※改正前商法下では、株主の手元で消滅する消却もあったが、現行会
社法はすべて会社が取得して消却する形に整理
II. 消却の手続
 取締役会決議で消却を決定
※取締役会非設置会社については、総会決定説と専決事項説あり
 消却の効力発生時期については特段の規定なし
• 株券不発行会社はよくわからない(即時/株主名簿記録抹消)
• 株券発行会社は株券の破棄
• 振替制度採用会社は口座簿の残高の引き下げ
III. 消却の効果
 当該株式は消滅し、発行済株式数が低下
株式の併合
I. 株式併合の定義
 数個の株式を合わせて、より少ない数の株式にすること
※原則として併合を行っても株式の価値は変動しない(端数は別)
II. 株式併合の弊害
① 端数が生じることで少数派株主の持株比率が低下
② 一部株主は株主の地位を失う(1株未満になる)おそれ
③ 上記の性質を用いて株主の締め出しに利用される可能性
⇒比較的厳格な規制が必要
III. 株式併合の手続
1. 決定機関・要件
• 株主総会特別決議
2. 決定内容
①
②
③
④
併合割合
効力発生日
種類株式発行会社は対象となる種類
効力発生日における発行可能株式総数
3. 株主等への通知・公告
i.
効力発生日2週間前まで(端数が生じる場合には20日
前まで〔182の4Ⅲ〕)に株主・登録質権者に決定内容を
通知または公告
ii. 株券発行会社は効力発生日までに株券を提供するよう
に、1ヶ月前までに、株主・登録質権者に通知かつ公告
(会219)
※株主は旧株券を会社に提供して効力発生日後に新株券を受領
※仮に未提供株券があっても効力発生と同時に無効
※紛失等で株券を提供できない株主の救済制度あり(会220)
iii. 振替制度採用会社は、効力発生日の2週間前までに振
替機関に必要事項を通知
4. 事前の情報開示と差止請求
i.
会社は、総会の2週間前と株式買取請求の通知・公告
の日のいずれか早い日から、効力発生日から6ヶ月経
過するまでの間、株式併合についての決定事項を開示
(会182の2)
ii. 株式併合が法令・定款に違反し、株主が不利益を受け
るおそれがあるときは、株主は株式併合差止請求可
(会182の3)
5. 株式買取請求
端数を生じる株式併合については、端数部分に相当する
株式の買取請求権付与(会182の4以下)
6. 事後の情報開示
 効力発生日ご遅滞なく事後開示書面を作成し、効力発
生日後6ヶ月経過まで本店に備置き(会182の5)
IV. 株式併合の効果
1. 株式に対する効果
① 株式の数は併合割合に従って減少
② 端数部分は端数株式の処理に従って処理
2. 株券の処理
① 会社は、効力発生後遅滞なく新株券を交付。株券未提
供者に対しては旧株券の返還と同時履行
3. 振替株式の処理
① 併合割合に応じて各株主の口座簿の残高を引き下げ
② 端数部分は発行会社の口座で一括管理
株式の分割
I. 株式分割の定義
 既存の株式を細分化して、より多くの株式にすること
※原則として分割を行っても株式の価値は変動しない(端数は別)
II. 株式分割の弊害
① 端数が生じることで少数派株主の持株比率が低下
※ただし株式併合に比べると弊害の度合いは低く、締出しにも用いにく
い
⇒株式併合に比べると簡易な手続
III. 株式分割の手続
1. 決定機関・要件
• 取締役会決議(取締役会非設置会社は株主総会普通決議)
2. 決定内容
①
②
③
④
分割割合(増加比率)
基準日
効力発生日
種類株式発行会社は対象となる種類
3. 株主等への通知・公告
i. 基準日の2週間前までに決定内容を公告(会124)
ii. 株券については特段の追加措置不要(増加分を追加発行)
iii. 振替制度採用会社は、効力発生日の2週間前までに振替機
関に必要事項を通知
IV. 株式分割の効果
1. 株式に対する効果
① 株式の数は分割割合に従って増加
② 端数部分は端数株式の処理に従って処理
③ 発行済株式総数は事前の定めに従って変動
※発行済株式が1種類なら、分割割合を限度として株式分割手続とし
て発行可能株式を増加させてよいが、2種類以上の株式が発行され
ている場合は常に正規の定款変更手続きが必要
2. 株券の処理
① 効力発生後遅滞なく株券を追加交付
3. 振替株式の処理
① 併合割合に応じて各株主の口座簿の残高を引き下げ
② 端数部分は発行会社の口座で一括管理
株式無償割当て
I. 株式無償割当ての定義
 株主に持株比率に応じて株式を無償で与えること
※原則として株式無償割当てを行っても株式の価値は変動しない(端
数は別)
II. 株式無償割当ての性質
 形式的には無償の新株発行類似行為だが、本質は株式分割
⇒基本的に株式分割と同様の利点・弊害
III. 株式無償割当ての手続
1. 決定機関・要件
• 取締役会決議(取締役会非設置会社は株主総会普通決議)
※定款による「別段の定め」の範囲については争いがある
2. 決定内容
① 割当株式の数(種類株式発行会社では種類と数)
② 効力発生日
③ 種類株式発行会社は対象となる種類
3. 株主等への通知・公告
規定なし。株式分割に準じて効力発生日2週間前までに決
定内容を公告すべきとの見解と、一切不要との見解がある
ii. 株券については特段の追加措置不要(増加分を追加発行)
iii. 振替制度採用会社は、効力発生日の2週間前までに振替機
関に必要事項を通知
i.
IV. 株式無償割当ての効果
1. 株式に対する効果
① 決定に従って株主は新株式を取得
② 端数部分は端数株式の処理に従って処理
③ 発行済株式総数は新規発行分だけ増加
※発行可能株式数については特段の規定がないため原則に戻る
2. 株券の処理
① 効力発生後遅滞なく株券を交付
3. 振替株式の処理
 法律上は新株発行としての処理が必要とされているが、煩雑
なため株式分割に準じた取扱が実務上なされている(らしい)
株式消却
決定内容
消却する種類と
数
決 取締役会設置 取締役会
定
(a)専決事項
機 取締役会
非設置 (b)総会普通決議
関
株式併合
株式分割
株式無償割当て
併合割合
効力発生日
対象種類株式
発行可能株式数
分割割合
基準日
効力発生日
対象種類株式
割当株式の内容
効力発生日
対象種類株式
総会特別決議
取締役会決議
取締役会決議
総会特別決議
総会普通決議
総会普通決議
事前開示
不要
必要
不要
不要
通知・公告
不要
通知または公告
基準日公告
(a)不要
(b)公告必要
株式買取請求
なし
あり
なし
なし
差止請求
なし
あり
なし
なし
①株式消滅
②発行済株式数
減少*
①株式数減少
②発行済株式数
減少*
①株式数増加
②発行済株式数
増加
③発行可能株式
数増加**
①新株式発行
②発行済株式数
増加
効力
* 公開会社における4倍ルール(会113Ⅲ)に注意
**発行済株式が1種類であり、かつ分割割合の範囲であれば株式分割
手続中で発行可能株式数を増加可
1株に満たない端数の処理
端数と端株
I. 考え方の変遷
1. 改正前商法下の考え方
 1株の価値が大きくなると端数を切り捨てることは不公
平を生むおそれがあるから、1株の1/100の整数倍に
ついては「端株」として扱い自益権のみを与える
※出資単位の引き上げを指向していたから、その後会社の業績が
よいと、1株の価値がきわめて大きくなる蓋然性があった
2. 現行会社法の考え方
 1株あたりの価値が大きい場合には自由に株式分割等
が行えるから、端数部分について特別の扱いは不要 →
端株制度廃止
II. 端数部分の取り扱い
1. 基本
端数部分が生じた場合には、会社全体で端数部分を糾合
し、それを売却して代金を端数部分の生じた株主に分配
2. 売却方法
①
②
③
④
競売(原則)
市場価格のある株式について市場価格で任意売却
市場のある株式を市場で売却
裁判所の許可を得て相対取引で任意売却
⑤ 発行会社が自己株式として取得(任意売却として②④
の規制に従うほか、自己株式取得として手続規制〔取
締役会決議〕、財源規制に服する)
単元株制度
単元株制度
I. 意義
1. 定義
 一定数の株式を「1単元」とし、1単元につき1議決権として扱
うこと
※議決権のない株式でも単元株制度は採用できる
2. 沿革と現在の趣旨
昭56改正で1株の最低発行価格を5万円とする際に、既存会社
は、(既得権として)設立時の規制(1株50円、あるいは500円)
に従うことに。一方このような既存会社は発行済株式総数が著し
く増加し、1株1議決権の扱いでは株式管理コストが高騰
→ 過渡的な措置として、出資単位を5万円とし、1単位1議決権
の「単位株制度」を導入。上場会社は単位株制度の採用を強
制し、売買単位についてもこれにそろえた
その後、出資単位の引き上げはバブル崩壊で見直されて単位株
制度は存在意義を失ったとも思われたが、実務上の都合(1株あ
たりの価格の高騰を抑えつつ株式管理コストを削減)から、恒久
的な制度として単元株制度を導入
II. 単元の定め方
1. 単元の内容
①
1単元とする株式数(1単元は1000株以下、かつ発行済株式
数の1/200以下〔会188Ⅱ、施規34〕)
② 種類株式発行会社では単元株式数は種類ごとに定める(会
188Ⅲ)
※これを利用して1株1議決権を事実上潜脱できる
2. 単元株制度の採用・単元株式数の増加
 原則として通常の定款変更手続き(総会特別決議)が必
要だが、以下の要件が満たされる場合には、総会決議
なしで増加できる(会191)
①
②
株式分割と同時に単元株を導入、単元株式数を増加すること
株式分割後(単元株式数増加後)の各株主の議決権数が、株
式分割前(単元株式数増加前)の議決権数を下回らないこと
※決定機関がどこであるかについては規定がない
2. 単元株式数の減少・単元株制度の廃止
 取締役会設置会社は取締役会決議(非設置会社は専
決事項)で可能(会195)
II. 単元株主の権利
 単元株主は、1単元で1議決権を有することとなる
ほか、通常の株主としての権利を有する
III. 単元未満株
1. 意義
ある株主が保有する1単元に満たない株式
2. 単元未満株式の株主権
i.
自益権
自益権は原則として制限されない(後述の定款の定めによる制限
は可能)
ii. 共益権
① 単元未満株式については議決権はない(会189Ⅰ)
② 議決権を基準とする少数株主権についても与えられない(複数
の株主が端数を糾合することもできない)
※議決権を基準としない少数株主権については行使可能
3. 定款による単元未満株式の権利の制限
総説
i.
定款に定めを置けば、単元未満株主の自益権・共益権を制限できる。
ただし、会189Ⅱ、施規35に列挙されている権利は制限できない
ii.
制限の方法
 通常の定款変更手続き(総会特別決議)
iii. 定款によっても制限できない株主権(下表参照)
制限できない権利
自
益
権
株
式
の
変
動
の
対
価
受
領
権
等
規定
剰余金配当請求権
規⑥ニ
残余財産分配請求権
法⑤
全部取得条項付種類株式
の取得対価受領権
法①
取得条項付株式
の取得対価受領権
法②
株式分割・併合・新株予約権
無償割当ての対象
規⑥
イロハ
株式無償割当ての対象
法③
組織変更の対価受領権
規⑥ホ
企業再編行為の対価受領権
規⑦
単元未満株式買取請求権
法④
請情
求報
権
株
式
譲
渡
に
つ
い
て
の
権
利
等
定款閲覧請求権
規①
株主名簿閲覧請求権
規③
株主名簿記載事項請求権
規②
一般承継等の名義書換請求
規④
株券発行時の名義書換請求
規Ⅱ②
一般承継等の譲渡承認請求
規⑤
株券発行時の譲渡承認請求
規Ⅱ③
単元未満株式について株券不発行
の定めがない場合の株券発行請求権
規Ⅱ④
上記の場合の株券不所持申出権
規Ⅱ⑤
※法:会189Ⅱ、規:施規35Ⅰ、規Ⅱ:施規35Ⅱ
IV. 単元未満株式買取請求
 単元未満株式を有する株主は、単元未満株式を買い
取ることを会社に請求できる(会192)
 制度としては株式買取請求制度の一種。財源規制なし。
V. 単元未満株売渡請求
1. 意義
会社は定款に定めを置けば、単元未満株式を有する株主に、1
単元になるように不足する株式を売り渡すよう会社に請求する権
利を与えることができる(会194Ⅰ)
2. 請求の方法
i.
株主による請求
株主は会社に対して買い増す単元未満株式の数(種類株式発行会社
では種類と数)を明らかにして会社に対して請求
ii.
価格の決定
株式買取請求の価格決定スキームを準用(会194Ⅳ)
※価格決定が長引いたときに請求株主に遅延損害金を支払わせるこ
との是非については疑問