ケプラー衛星の成果と今後のトランジット観測 成田 憲保 国立天文台・太陽系外惑星探査プロジェクト室 目次 • トランジット現象と測光観測でわかる物理量 • Kepler計画について • Keplerの初期成果: Kepler-2, Kepler-4 ~Kepler-8 • 惑星発見の新しい方法: Transit Timing Variation (TTV) • KeplerによるTTVの発見: Kepler-9, Kepler-11 • Keplerによる地球型惑星の発見: Kepler-10 • 2011年2月のデータリリース: 1235個の惑星候補の性質 • 今後のトランジット観測計画 系外惑星のトランジット(食) 系外惑星の軌道が太陽系から見てたまたま主星の前を通過する場合、 惑星の公転周期に同期した主星の減光が観測される。 少しだけ減光する 「ひので」撮影 月のトランジット 水星のトランジット 系外惑星のトランジット (空間的には分解できない) 太陽系での食現象 トランジット光度曲線からわかること 主星の半径, 軌道傾斜角, トランジット中心時刻 主星と惑星の 半径比 惑星の半径 主星の周辺減光係数 Mandel & Agol (2002), Gimenez (2006), Ohta et al. (2009) トランジットの諸性質 主星の半径: 惑星の軌道長半径: 惑星の半径: 地球の方向 惑星の公転周期: トランジットをする確率: ~ Rs/a トランジットの減光率: ~ (Rp/Rs)2 トランジットの継続時間: ~ Rs P/a π cf. 太陽(G3型)と最小の恒星(M6型)の場合 • G3型星 – Rs ~ 1 Rsun ~ 0.005 AU – Rpを地球サイズに仮定すると ~ 0.01 Rsun – 地球のトランジット確率: Rs/a ~ 0.5%、減光率: (Rp/Rs)2 ~ 0.01% – トランジット継続時間: Rs P / a π ~ 14hr • M6型星 – Rs ~ 0.1 Rsun ~ 0.0005 AU – Rpを地球サイズに仮定すると ~ 0.01 Rsun – ハビタブル惑星の場合: a~0.005 AU、 P~10 hr – トランジット確率: Rs/a ~ 10%、減光率: (Rp/Rs)2 ~ 1% – トランジット継続時間: Rs P / a π ~ 20 min ケプラー計画について • 1996年にBoruckiらによって 提案されたNASAミッション • 太陽-地球のような惑星系 の発見が目標 • 白鳥座付近の10万個以上 の主系列星を3.5年以上に わたってモニターし続ける • 0.95m望遠鏡と42枚のCCD による可視のトランジット サーベイ • 2009年3月6日に打ち上げ Kepler 打ち上げの様子 ケプラーの観測領域 ケプラーの観測領域 ケプラーの検出器と視野 • 42枚のCCD (95メガピクセル) • 1辺が約12度の空をカバー • 2010年3月のトラブルで2枚 が欠損 • 望遠鏡の姿勢を保つため、 年4回望遠鏡が回転する • 星の像は測光精度を高める ために、10秒角ほどにピン ボケして撮影される • 星がある画素だけデータが 記録される HAT-P-11 (Kepler-3) HAT-P-7 (Kepler-2) TrES-2 (Kepler-1) ケプラーの最初の結果:2009年8月6日 最初の10日のデータでHAT-P-7の可視の位相変化と2次食を検出 ケプラーの最初の惑星発見:2010年1月4日 最初の43日のデータで、Kepler-4~Kepler-8 の発見を発表 ライトカーブの例:Kepler-5b 複数惑星系のトランジット 複数惑星系でのTransit Timing Variations (TTV) トランジットしていない 別の惑星 トランジット惑星の軌道 観測者 周期は一定になる 観測者 周期が一定にならない TTVの大きさの特徴 Agol et al. (2005) / Holman & Murray (2005) • 近似解 (トランジット惑星が1, 摂動惑星が2、主星が*) – 摂動天体の質量と軌道に依存する • 特に摂動惑星が共鳴軌道にある時に大きくなる ケプラー初の複数惑星系:Kepler-9 ~19.2日と~38.9日(ほぼ1:2の比)の2つのトランジット惑星 一定周期でそろえてみると ライトカーブが重ならず公転周期が一定でないことが明らかになった TTVと視線速度から軌道を推定 • 上:観測されたトランジット時刻の 一定周期からのずれ • 中:観測されたTTVを2次関数で近 似した場合の残差 • ♢:シミュレーションで得られたベス トフィットの軌道のTTV • 下:観測された視線速度とベスト フィットの軌道の視線速度 • 視線速度だけでは困難な惑星発 見がトランジットとTTVで可能に TTVが観測されたもう一つの惑星系:Kepler-11 2011年2月2日発表 6個の惑星がトランジットする惑星系! 歳を取った太陽に近い恒星 Kepler-11発見の大事なこと • 左:各惑星のTTV • 下:TTVから求められた各惑星の パラメータ • 暗くて視線速度のフォローアップ が困難な惑星系でも、系の全ての 惑星がトランジットすれば TTV で 惑星質量まで決めることが可能 初の地球型惑星の発見:Kepler-10 • 減光率 ~0.02% • 公転周期 ~0.8日 • ケプラーでなければ発見できない トランジット惑星 これも歳を取った太陽に近い恒星 地球に似た組成 けれどあまりにも熱い環境 2011年2月のデータリリース • 最初の4ヶ月のデータから得られた、トランジット惑星候補 1235個のリスト • 全体的な概要と統計の話(Borucki et al.2011) • 複数惑星系の話(Lissauer et al. 2011) • TTVの話(Ford et al. 2011) • KeplerにKeckの視線速度サーベイを加えた統計の話 (Howard et al. 2011) • ここではBorucki et al. と Lissauer et al. の内容を紹介 Kepler Planet Candidates at a Glance <1.25 RE 周期が数日より長いところではほぼべき乗で落ちて行くが、より内側ではカットオフがある 紫:その他、青:2010年6月まで、黄:2011年2月まで 54個の惑星がいわゆる ハビタブルゾーンにある うち地球型惑星は5個 2011年2月までにわかったこと • 小さな惑星は周期100日以内にも普遍的に存在する – 幾何学的補正と感度の補正をした上での惑星の存在確率 – Earth size: 5.4%, Super-Earth size: 6.6% – Neptune size:19.3%, Jupiter size: 2.4% • 周期が数日以下のところで惑星の存在数にカットオフがある – 主星による飲みこみ? • ハビタブルゾーンにある惑星候補も見つかりつつある – ただし、これまでのサンプルは低温度なK型~M型星のまわり 黒点:1惑星、青:2惑星x115、赤:3惑星x45、紫:4惑星x8、橙:5惑星x1、緑:6惑星x1 複数惑星の軌道 共鳴軌道付近にある惑星ペアは多い 4つ以上のトランジット惑星を持つ系の軌道分布 KOI-730: 6:4:4:3の共鳴軌道、1つのペアが1:1(位相が~118度ずれている) 複数トランジット惑星系からわかったこと • 複数惑星同士がほぼ同一平面上にある惑星系は多い • 複数惑星系において、ランダムな周期分布より共鳴軌道近くに なっている惑星ペアが多い – 2:1共鳴が少なくとも16%以上の割合で存在する • 1:1共鳴など面白い複数惑星系も存在することがわかってきた ケプラーの今後の展望 • ケプラーは最低3.5年、可能であれば6年以上の観測を行う – 太陽型星のまわりの1天文単位にある1地球半径の惑星発見が目標 – 公転周期~1年以内の惑星の分布が高い精度でわかるようになる • ケプラーターゲットは暗いものが多く視線速度が観測しにくい – 惑星の質量の決定は、TTVが観測できる系が最も有力 – アメリカ・ヨーロッパが計画している可視視線速度装置HARPS-NEF – M型星に対してはすばるIRDなど赤外視線速度測定装置が有効 – その先はTMTなどの超大型望遠鏡でのフォローアップ 今後のトランジット観測の展望 ケプラーは特定の領域に対するdeep surveyで 惑星系の非常に良い統計的性質の情報を与えてくれた 今後は個々の惑星についてより詳細に観測できる 太陽系近傍の恒星のトランジットサーベイが計画されている 今後の主なトランジットサーベイ計画 • MEarth: 地上望遠鏡によるM型星に特化したサーベイ(現在 は北天のみだが南天でも開始予定) • M2K: M型星のドップラーサーベイを行っていたがSuperWASP と組んでアーカイブデータからのトランジットサーベイを開始 • TESS: 可視望遠鏡によるほぼ全天サーベイ • ELEKTRA: 近赤外望遠鏡によるほぼ全天サーベイで、特にM 型星を狙っている • TESSとELEKTRAは同じNASAのExplore Missionに応募中 なぜM型星が注目されているか? • 主星が小さいので、地球型惑星でも~1%程度の減光を起こす • 主星が軽いので、地球型惑星でも視線速度の変動が大きい • 主星が低温度なので、ハビタブルな惑星が主星の近傍にあり、 トランジットをする幾何学的確率が高い – 太陽で~0.5%、M0型で~2%、M6型で~10% • 公転周期が短くトランジットが繰り返し観測できる • トランジット惑星に対してはさまざまな追観測のサイエンスが ある • 将来のTMT、SPICA時代に最もあると望ましいターゲット 近い将来の展望 • M型星のまわりのハビタブルゾーンにあるトランジット惑星の サーベイが本格的に開始される – MEarthとM2Kは既に開始、ELEKTRAとTESSは早ければ2016年から • 発見された惑星候補の視線速度フォローアップ – M型星は可視で非常に暗く赤外で明るいので、赤外の視線速度測定 装置が重要(すばるIRDは日本の大きなメリット) • 発見された惑星の詳細なフォローアップ観測 – TMT(2019~?)、JWST(2018~?)、SPICA(2018~?)など
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