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基礎商法2
第3回
本日の内容
• 商業帳簿
• 商業使用人
2
基礎商法2 第3回
商業帳簿
3
商業帳簿の意義
1. 定義
 商人が営業のために使用する財産の状況を記録するた
めに作成することを義務づけられている帳簿
• 会計帳簿
• 貸借対照表
2. 意義
① 商人の合理的な企業経営のためには、営業に関する財
産状況と損益状況の把握が必要
② 経営上の紛争における証拠となりうるもの
3. 商業帳簿の作成義務
 商人(小商人を除く。商7)は、商業帳簿を作成し、閉鎖
から10年間保存
4
会計帳簿
 複式簿記による記帳
複式簿記=取引を、その二面性に着眼して記録していき、
貸借平均の原理に基づいて組織的に記録・計算・整理
する記帳法
⇔ 単式簿記(小遣い帳方式)
単式簿記
日付
6/1
収入
150,000
支出
複式簿記
摘要
繰越
日付
6/1
借方
貸方
現金
150,000
繰越
摘要
150,000 繰越
3,000 文房具
6/10
消耗品
3,000
現金
3,000 文房具
売上げ
6/15
現金
10,000
売上げ
10,000 売上げ
6/16
8,000 仕入れ
6/16
仕入れ
8,000
現金
8,000 仕入れ
6/20
3,000 交際費
6/20
交際費
3,000
現金
3,000 飲み会
6/25
売掛金
4,000
売上げ
4,000 売上げ
6/10
6/15
6/25
10,000
5
会計帳簿
主
要
簿
日記帳
仕訳帳
総勘定元帳
現金出納帳
補
助
簿
預金帳
売上帳
仕入帳
必
ず
備
え
る
必
要
な
ら
備
え
る
6
日記帳+仕訳帳=仕訳日記帳
日付
借方
貸方
摘要
現金
150,000
繰越
6/10
消耗品
3,000
現金
3,000 文房具
6/15
現金
10,000
売上げ
10,000 売上げ
6/16
仕入れ
8,000
現金
8,000 仕入れ
6/20
交際費
3,000
現金
3,000 飲み会
6/25
売掛金
4,000
売上げ
4,000 売上げ
6/1
150,000 繰越
日記帳=日々の取引や財貨の移動を時系列順に記帳
仕訳帳=取引を「仕分け」に従って分類して記帳
7
総勘定元帳
現金の移動しか載らない
現金
日付
借方
現金
6/1
貸方
150,000
150,000
現金
6/10
現金
6/15
残高
摘要
繰越
3,000 147,000
文房具
157,000
売上げ
10,000
6/16
現金
8,000 149,000
仕入れ
6/20
現金
3,000 146,000
飲み会
売上げ
日付
借方
貸方
摘要
6/15
売上げ
10,000 売上げ
6/25
売上げ
4,000 売上げ
仕入れ
日付
6/16
借方
仕入れ
貸方
8,000
摘要
仕入れ
8
出典:http://www.ipo-navi.com/pickup/final_accounts/bs/
9
会計帳簿作成の原則
I. 基本的な考え方

会計帳簿は企業の財政状況の記録(“素点”)
⇒統一した基準で記録する必要がある
=「会計」の概念
II. 「企業会計」
1. 財務会計 ・・・会計情報の提供(開示)目的
① 会社法会計
② 金商法会計(証取法会計)
③ 税務会計
2. 管理会計 ・・・企業内部での活用目的
※「企業会計」のほかに「公会計」「家計」等の会計がある
10
III. 企業会計の基準
1. 日本の会計基準
 企業会計は「公正な会計慣行」を規範とする(商19Ⅰ参
照)
※厳密なルール化がされないのは、国・地域による差異、業種等に
よる差異、各企業の特性、時的な変遷などがあるから
⇒日本では「企業会計原則」(1949制定)が公正な会計慣行
を要約したものとして定着
※当初は大蔵省(現金融庁)所管の企業会計審議会が策定してい
たが、その後、民間ベースの企業会計基準設定主体が必要にな
り、2001年に企業会計基準委員会が設立され、企業会計原則
の設定を行うこととなった
※現在の企業会計基準は1つの文書ではなく、様々な場面で適用さ
れる複数のルールブックからなる
11
2. 国際会計基準
 従来、各国は異なる会計基準を用いてきたが、企業の
国際化に伴い、各国企業の財務状況の比較可能性が
問題に →国際的に統一された会計基準の必要性
 1973 国際会計基準委員会(International Accounting
Standards Committee =先進国公認会計士団体の合
意による会計基準の設定主体)設立。国際会計基準
(IAS)策定
 2001 国際会計基準審議会(International Accounting
Standards Board、IASB)設立。国際財務報告基準(IFRS)
策定
※国際会計基準の設定については、各国が自国に有利な(自国企
業の業績がよく見える)基準の導入を図りせめぎ合い。IFRSは日
本には比較的不利な会計基準であり、日本への導入が延び延び
になっている
12
IV. 各企業会計の目的と手法
1. 会社法会計の特徴
目的:債権者保護
特徴: ① 保守的
② 資産は簿価評価を多用
③ 剰余金は引き算方式で算出(貸借対照表基準)
④ 資本取引と損益取引を区別しない
2. 金商法会計の特徴
目的:投資家への情報開示
特徴:① 現在の企業の実力と稼得する利益の割合(運用
利回り)の算出資料
② 資産は基本的に時価評価
③ 剰余金は利益の蓄積(損益計算書基準)
④ 資本取引と損益取引を厳密に区別
13
会社法会計
・・・基本的に100万円の資産と評価
例1
株式
購入価格:100万円
現在の時価:1億円
年間配当:50万円
〔理由〕 近い将来に売る予定がない限
り、売却時の価格が1億円である保証
はない。ここで1億円と評価すると売却
時の価格がそれ以下の場合に債権者
に不測の損害を与える。
金商法会計
・・・基本的に1億円の資産と評価
〔理由〕 投資家に企業の収益力を開示
する必要がある。仮にこの株式を100
万円と評価すれば、運用利回りは50%
もの高率になるが、実際には0.5%に過
ぎず収益率は低い。
※資産の内容により時価評価か簿価評価かは異なる
14
例2
4億円
甲社
乙社
吸収合併
総資産:3億円
6億円
総負債:2億円
2億円
純資産:1億円
4億円
帳簿価格
時価評価
(旧)会社法会計
・・・基本的に甲社の貸借対照表
を乙社の貸借対照表に加え
る(持分プーリング方式)
※現在では会社法でも持分プーリングは
原則として行えない(計規35Ⅰ)
金商法会計
・・・基本的に甲社の資産と負債
を時価評価し、それに見合っ
た対価を払って買収したと考
える(パーチェス法)
15
V. 会社法会計と金商法会計の接近
H10 商法と企業会計の調整に関する研究会報告
⇒商法会計と企業会計(≒証取法会計)の近接に言及
H11 商法会計で市場価格のある株式、社債等に時
価評価許容
H14 企業会計基準の改定に追随しやすいように商
法の計算規定を本体から規則に移行。大会社に連
結計算書類制度導入
H17 会社法制定。その後は企業会計基準の改訂
(国際会計基準とのコンバージェンス)に合わせて会
社計算規則を改正。のれん等については規則から
も詳細規程を削除
16
VI. 会計基準と商法・会社法
1.
改正前商法・会社法・省令
• 「一般に公正妥当と認められる会計慣行に従う」(商19Ⅰ,
会431)
• 「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準その他の
企業会計の慣行をしん酌しなければならない」(計規3)
• 「公正ナル会計慣行ヲ斟酌スベシ」(H17改正前商32Ⅱ)
2. 「斟酌する」の意味
 以前は、公正な会計慣行は企業会計原則にとどまるもの
ではない前提で、合理的な理由がない限り、「公正な会計
慣行」を採用する必要があるが、従来の慣行と同等かそ
れ以上に商法の目的に適合する会計処理方法の採用は
許されると解されてきた(商法会計の独自性を強調)
 現在では、企業会計原則や金商法会計との調和を重視
17
商法における評価
3.
※基本は会社法と共通
取得原価主義の原則
i.
① 帳簿価額(会計帳簿・貸借対照表への記載額)は原則として取
得価額(商規5Ⅰ本文)
② 償却すべき資産については、営業年度の末日に相当の償却
(同Ⅱ)
③ 何らかの事情で価値が下がったものについては時価で評価(同
Ⅲ①②,Ⅳ)
※資産価値の低下(強制評価減)、収益力の低下(減損)、債権
等の取立不能(貸倒れ)のおそれがある場合
ii. 「のれん」の扱い

のれんは有償で譲り受けた場合に限り資産・負債として計上
(商規5⑥)
18
減価償却の考え方
30
30
30
30
20
20
20
20
80
耐用年数の間、毎年、価値
の減少分を支出すると考える
購入
耐用年数
19
「のれん」
資産総額
のれん
評価額
=購入金額
20
VII. 会計基準の変遷と「公正な会計慣行」
事案(最判H20.7.18会百-77)
1.
• H9年3月以降、大蔵省は各金融機関に不良債権の自己
査定をするよう求めていた(新経理基準)が、X銀行取締
役Y1~Y3は、自行が有する不良債権について、H10年3
月期決算において、従来の基準(決算経理基準)に従っ
て処理(債権の時価を高く評価)し、それに基づき利益配
当。X銀行が取締役に対して粉飾・違法配当の責任追及
2. 判旨
•
本件当時、・・・(新)経理基準は、・・・新たな基準として
直ちに適用するには、明確性に乏しかった」から、「・・・
これまで『公正ナル会計慣行』として行われていた・・・
考え方によって・・・資産査定を行うことをもって、・・・直
ちに違法であったということはできない」
21
会計基準の国際化とIFRS
I. 会計基準の国際化
企業・投資のグローバル化に伴い、決算の国際的な比較可
能性の要請
⇒国際会計基準(会計基準の統一)の要請
※EU、アメリカ、日本はそれぞれ会社の財務構造が異なる
ので、それぞれが自国に有利な会計基準を利用しようとし
ている。たとえば、わが国の会社は国内株式市場の価格
で業績が左右される度合いが大きい(株式の持ち合いが
多い、退職年金の運用が国内株式)ことから、長期保有株
式の時価評価は避けたいが、EUでは株式は時価評価す
べきだとする
22
II. IFRS(International Financial Reporting Standards)
1. 意義
国際会計基準審議会(IASB)が制定した会計基準で、E
U域内は2005年から強制適用。アメリカと日本は様子見
(強制適用が検討されていたが見送られ、任意適用を広く
認める)
2. 特徴
•
•
プリンシプルベース
損益計算書中心主義→貸借対照表中心主義(「どれ
だけ儲けたか」→「どれだけの儲けを出せる実力があ
るか」)
•
「公正価格」を多用し、収益の源泉は何でも(例:試験
研究費、のれん、経営者の手腕)資産計上される。一
方で、時価評価、減損も多用
23
基礎商法2 第3回
商業使用人
24
企業の補助者の分類
従属
(雇用等)
支配人
特定事項委
任使用人
商業使用人
物品販売店
舗使用人
代
理
その他の商
業使用人
企業補助者
締約代理商
特定の商人
の使用人
代理商
独立
(委任等)
媒介代理商
媒
介
仲立人
問屋等
取
次
25
商業使用人の意義
I. 「『商業』使用人」の意義

特定の商人に従属しその商業上の業務を対外的に補
助する者
※商法総則では、対外的な代理権に着目。代理権のない従業員は
総則での商業使用人ではない。会社法においては従業員一般を
指して「使用人」という(例:会2⑮)
II. 商業使用人の分類
①
②
③
④
支配人
特定の種類・事項について委任を受けた使用人
物品販売店舗の使用人
その他の商業使用人
※①~③は代理権について特別の規定。④は特別な規定は置かず、
民法の代理の規定に従う
26
支配人
I. 支配人の意義
a.
営業主に代わり、その営業に関する一切の裁判上、裁
判外の行為をなす権限を与えられた者(商21Ⅰ参照)
〔通説〕
⇒包括代理権の有無で区別
b.
営業所(本店・支店)の主任者として任命された者(商
24Ⅰ参照)〔有力説〕
⇒営業所のトップとしての地位の有無で区別
上段=通説
下段=有力説
代理権の範囲
営業所の実態
実態あり
実態なし
制限なし
支配人
支配人
支配人ではない
支配人ではない
制限有り
表見支配人
支配人
支配人ではない
支配人ではない
27
II. 支配人の代理権
1. 包括代理権

商人に代わって、その営業に関する一切の裁判上・裁
判外の行為をする権限
• 範囲は商号あるいは営業所によって画される(たとえば新宿支店
長の権限は新宿支店の営業に関するものに限定)
2. 裁判上の代理権
 「訴訟担当支配人」の権限
債権回収に際して包括代理権を与えられていない従業員、取立業
者を支配人に登記して訴訟行為を追行
a. 絶対無効(多くの下級審裁判例)
b. 本人の追認可(一部下級審裁判例・学説)
c. 有効(一部学説〔弥永〕)
28
3. 裁判外の代理権
「営業に関する」
i.
 「営業に関する」行為か否かは、行為の性質等を勘案して、客観
的・抽象的に判断(最判S54.5.1判時931-112)
ii. 営業の廃止・変更

営業自体の廃止や変更(営業の譲渡等を含む)は、「営業に関
する」ことではないから支配人の権限外
4. 代理権の制限
 支配人の代理権の制限は善意の第三者に対抗できな
い(商21Ⅲ)
• 機能としては民110と同じだが、表見代理ではなく代理権の制限
の対抗を認めないとの構成
•
相手方の主観として、「善意・無重過失」が必要。立証責任は商
人側(商人が相手方の悪意・重過失を証明)
※包括代理権を支配人の要件とする立場に立つとほとんど使
い道がない
29
III. 支配人の競業避止義務
1. 趣旨

支配人の権限に基づくものと、支配人の従属性に基づく
ものがある
禁止事項
競
業
避
止
義
務
同一部類の営業
同一部類の事業を
行う会社の取締役
等への就任
禁 営 営業
止 業 使用人への就任
義
取締役等への就任
務
支配人
営業
譲渡人
代理商
商23Ⅱ
商16Ⅰ
商28Ⅰ①
会356Ⅰ① 会594Ⅰ①
商28Ⅰ②
会594Ⅰ②
(商24Ⅳ)
取締役等
業務執行
社員
商23Ⅰ
商23Ⅲ
商24Ⅳ
30
3. (狭義の)競業避止義務
i.
意義
 広範な代理権、商人からの信頼等に鑑みて、商人に対して忠実
に職務を行う義務があり、これを具体化
ii. 要件

商人の営業の部類に属する取引をすること
※ここでいう「営業」は基本的商行為のみを指し、附属的商行為
を含まない
※営業の部類に属する他の商人・会社の使用人、取締役等へ
の就任についても規制
iii. 効果


本人たる商人の許可が必要
許可なく行為を行った場合には損害賠償。推定規定あり
31
3. 営業禁止義務
i.
意義
 いわゆる精力分散防止義務。雇用契約から、あるいは支配人の
地位から導かれる
ii. 要件
① 自ら営業をすること
② 他の商人・会社の使用人となること
③ 他の会社の取締役等になること
※①~③のいずれも、本人たる商人の営業との同一性は不要
iii. 効果


本人たる商人の許可が必要
許可なく行為を行った場合には損害賠償。推定規定あり
32
IV. 表見支配人
1. 意義



支配人の外観を有する商業使用人の行為について、一
定の場合に本人に責任を負わせる規定
外観法理の具体的な現れの一つ
民法109条、112条の特則として機能
2. 要件
①
②
③
④
商人の営業所の営業の主任者たる名称の使用
①の名称を商人が付した(=使用を許諾した)こと
相手方が善意・無重過失であること
名称の使用者が②の商人の使用人であること
3. 効果
 使用人は当該営業所の営業に関する一切の裁判外の
権限を有する者とみなされる
33
4. 論点
i.
「営業所」の意義
 表見支配人の権限の対象となる営業所は、営業所の実態を備え
ていなければならない(最判S37.5.1百-27)
※営業所の実態がない場所には支配人が存在し得ないから
※「営業所の実態」は、人的要素、物的要素、計算等の独立性
を総合判断
ii. 営業の主任者であることを示す名称
○ 支配人、支店長、営業部長等
× 支店長代理、庶務係長
iii. 名称の付与

明示の許諾のほか、黙示の許諾や黙認(商人が名称の使用を
止めさせるべきであるのにこれを知りつつ放置)も含む
iv. 相手方の信頼
 通説は相手方の善意・無重過失を要求
34
その他の商業使用人
I. 特定事項委任使用人
1. 意義

部課長クラスを想定(H17改正前は「番頭・手代」)

営業、仕入れ等の特定の事項についての業務を商人
から委任された者
2. 代理権


当該事項についての一切の裁判外の権限を有する
代理権の制限は善意の第三者に対抗不可
※表見支配人のような規定はないため民法の表見代理、不法行為
で処理
35
IV. 物品販売店舗の使用人
1. 意義

店舗の従業員が店舗の商品の販売に関する代理権を
有していないと顧客に不測の損害が生じる可能性があ
るため、代理権を擬制
2. 代理権

当該店舗にある物品の販売等を行う権限(代理権)が
あるものとみなす
※物品が店舗にあることのほか、契約も店舗内で行われる必要が
ある
※使用人ではない店舗の店員(たとえば家電量販店におけるメー
カー派遣店員)いついても類推適用

ただし、相手方が悪意の場合はこの限りではない
36