証券市場論後期 (4)

証券市場論
講師
福光
寛
債後期 第4回
Copyright: Hiroshi FUKUMITSU
1
日銀 異次元緩和の衝撃
2013/04~
日銀 異次元緩和 期間の長いもの(従来は3年以内)もふく
め月に7.5兆円と従来の2倍規模購入 日銀の購入規模は新発債
の7割 銀行や保険会社が取引できる国債量が減少
入札頻度 月8回 6月から月10回以上に
日銀金融政策推移(東京短資の日銀金融政策関連資料)
期待インフレ率 通常の国債利回りと物価連動国債の流通利
回りの差から求める これが黒田緩和が上昇している
預貸率 こちらは過去最低を記録 なお低下が進んでいる
日銀当座預金 マネタリーベースとも増加を続けている
日銀統計
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2
黒田緩和以降 2013年6月まで
市場は不安定化 その後は安
定化へ
日本国債JGB volatility index
CSFI(Osaka-U) 's JGB index
Volx's JGB index
日経平均volatility index
テールリスク めったにない相場の変化で大きな損失が出る
可能性の高まり テールは確率分布の裾のところを指す
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3
発行そして日銀オペでの入
札
シンジケート団による引受
現在は入札制
日銀は直接引き受けることはできない
札割れ:予定額>応札額
財務省による発行時=国債売り出し時のもの。応札は買いの意味。
入札は日本銀行による国債買い入れオペレーションをするときのものもある。
現在はこちらの方が話題になる。応札の意味が逆[売り]になるので注意が必要。
入札が順調かどうか
応札倍率やテールの変化で見る
2013年8月28日BLOOMBERG 応札率上昇
応札倍率(東短セントラルの日銀買いオペ推移)
発行時の応札は買い圧力だが
テール
買いオペに対する応札は売り圧力を示す。
平均落札価格と最低落札価格の差
テールの拡大・縮小
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4
2001年3月 量的緩和導入
2006年3月 量的緩和解除
2008年9月 リーマンショック
2013年4月 量的質的金融緩和
2014年4月 消費税税率引き上げ 5%から8%
2014年10月 量的質的金融緩和拡大
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5
異次元緩和 2013.4開始
2014.10 追加緩和
日銀保有国債の急増(年80兆円ベース 2013年末に183兆円
2015年8月⒛日300兆円台突破)
⇒ 証券会社など金融機関保有分の減少
⇒ 国債取引は減少(品薄)
⇒ 国債金利が乱高下しやすい
実質金利(名目金利ー物価上昇率)の低下
⇒ 企業投資誘発効果
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6
マイナス金利政策
2016/02/16開始
政策委員会 5対4 2016・1末で決定 反対押切強行
反対する側 資産買入れの限界ととられる 催促相場
銀行の貸出努力で貸出が大きく伸びるのは難しい
銀行の収益悪化に直結する 銀行税になる 現金志向強まる
中央銀行間でマイナス金利の導入競争、通貨安競争
賛成する側 ボートリバランス効果高める 量的質的緩和効
果高める
既に欧州の4つの中央銀行で実施 欧州中央銀行はユーロ安を
実現 銀行が融資に積極的になる
イールドカーブの押し下げ狙う(⇒貸出増加 運用資産見直し
を期待)円安狙う 金利全般に低下圧力
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7
マイナス金利付き量的・質
的金融緩和政策 2016/01
甘利経済相辞任1・28
⇒
アベノミクスの信認低下
⇒ 日銀のマイナス金利決定1・29(民間金融機関が日銀に預
けるお金のうち2月16日から新たに預ける分に年マイナス0.1% マ
イナス金利適用決める これまでは0.1%の金利が得られた)+物価
2%目標を16年度後半から先送り 1・29
国債の大量購入続ける
かる商売になっている
日銀トレードの結果
これを日銀トレード
国債の調達はもう
低い金利:財政規律緩めることにつながる
日銀が国債購入続けることは銀行のコスト負担を肩代わりと同じ
円安のため海外投資家には上乗せ金利発生
日本国債買われる
預金金利引き下げ ATM手数料引き上げ ⇒フィンテック
ソーシャルレンデイング普及へ? 住宅ローン刺激されている
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8
欧米の信用不安
国債への資金移動
量的緩和政策開始 2001/3(~2006/03)
リーマンショック 2008/09 (1.5%前後)
異次元緩和開始
2013/04 (0.8%前後) 超国売買低迷へ
(欧州中央銀行がマイナス金利導入 2014/06)
短期国債金利のマイナス化 2014/07-09
マイナス金利決定 2016/01/29 (年初0.2% 01/14 0.2%割れ)
長期金利初のマイナス 2016/02/09
前日比0.050%低下 マイナス0.010% 米エネルギ―企業の債務不安 欧
州銀行の不良債権拡大懸念 欧米の信用不安⇒国債購入の動き加速 2月
に入り円高(114円台前半 年初120円前後)
日経平均1万5000円割れ 2016/02/12(年初の1万9000円から2割減)
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9
エネルギー会社の赤字
イランの市場復帰も背景
原油価格30ドル 一時下回る(2016/02)⇒ 在庫評価損
米シェール企業赤字(へスコーポレーション コンチネンタルリソーシ
ーズなど)
米メジャーのシェブロンが13年ぶり赤字(2015年10-12月期
5億8800万ドル 前年同期は34億7100万ドルの黒字)米エク
ソンモービル ロイヤルダッチシェル BP 米コノコフィリップス
仏トタル なども業績低下売り上げ減少 配当増 自社株買いで株価維
持 資産売却で現金確保 16年に入りリストラ加速
⇒
格下げ 業界全体の投資活動抑制
日本でも昭和シェル(15年12月期赤字280億円 前期97億円の
赤字から拡大) JX3300億円赤字見通し(16年3月期)
原油安は産油国(ロシア ベネズエラ イランなど)財政にも打撃
原油安で化学メーカーは増益
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10
欧米の銀行の信用不安
ドイツ銀行などが発行したCoCo(偶発転換)債 自己資本比
率が一定水準下回ると普通株式に強制転換されるもの 高額
の利払いが必要 2015年末で欧州銀の発行残高 820
億ドル 15年12月末で11%台 理想の12%を下回る
仏ソシエテジェネラル(2016/02/11市場予想下回る決算発
表)ドイツ銀(2015年決算 2016/01/28発表 過去最高の赤
字) 債券の利払い力喪失懸念
欧州銀全体の不良債権は約1兆ユーロ
ECBのマイナス金利政策(2014/06マイナス金利導入
2015/01量的緩和導入決定 2015/03量的緩和=月600億ユーロ
(8兆円)ペースで各国中銀とECBが買い取る2015/12量的緩和
の延長と追加緩和策決定 16/09を17/03に延長) 運用環境悪
化 ⇒ 欧州銀は破たんへ。
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株高・円安に即効性はなく
むしろ円高に
異次元緩和以降 金利は下が
った
国債取引 短期金融市場(コ
ール市場 レポ取引など)
ともに縮小
為替は 予定に反し円高に
短プラが動かない→教育ロー
ン・自動車ローン・変動型住
宅ローン 中小企業向け 中途
返済を重視する不動産向けは
短プラが基準金利
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01.28
02.16
03.15
長期金利 0.220
0.040
-0.015%
短期金利 0.074
0.001
-0.002
円
118.74
114.49
113.06
日経平均 17041
16054
17117
長期プラ 1.10
1.00
0.95
短期プラ 1.475
1.475
1.475
住宅ロン 1.10
1.05
0.80
普預金利 0.020
0.020
0.001
定期金利 0.025
0.025
0.010
12
YILED SPREAD
配当利回りあるいは益回りと国債利回りとの比較(spread)
通常プラス その大きさの縮小 拡大をみる
一般論
拡大 リスク(株式)投資拡大の好機
縮小 債券投資へ
株式市場に資金は戻ったが 国債金利はひくいまま 市場の
機能は喪失。長期金利の低い状態を維持して デフレ脱却を
めざす・・・。財政を支援している側面。
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13
TIBOR
預貸率
東京銀行間金利(タイボ)
い)
上がると資金需要高い(下がると低
しかし最近のように金利が下限にはりつくと指標性が下がる tibor
は貸出金利の基準。2009年頃からコール金利(銀行間無担保)に
比べて割高にかい離していることが銀行間カルテルではないかと
指摘されている(田村秀夫さんの指摘)。
預証率
の増加
預貸率
の減少
全国銀行預貸率の低下
なお預貸率の低下は世界的現象。ビジネスモデルが預金重視に
変わったのかもしれない。日本はかつてオーバーローンの時代も
経験している。預金集めの時代(みずほ)は参考になる。確かに
預貸率が低下してもなお預金を集める理由を積極的に考えるべき。
証券市場論(福光)
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14
債券取引の種類
債券取引(店頭取引が中心)
ペーパーレス化2003/01- 即時グロス決済RTGS2001/01店頭取引
取引所取引
現先取引
貸借取引(現金担保取引多い) 1989導入
日本証券業協会統計資料
国債流通市場(財務省の説明2010)
証券市場論(福光)
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15
債券取引の目的
投資 投機 裁定
流動性管理 cashのin-outの調整
流動性の維持
収益管理
収益の最大化
Risk管理
リスクの最小化
証券市場論(福光)
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投資としての国債
なぜ国債に投資するのか
資金流入
融資の伸びは緩慢
資金を寝かせるよりは国債
国債の流動性を日銀の異次元緩和が保証している状態
(市場の流動性は保有者減って低下するも)
米国の金利が低下
欧州の金利が低下
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投資としての国債
考えられる選択肢
海外の国債(為替リスク 金利差)
米国債
欧州債
国内の債券(金利差)
国債(超長期債 長期債 中期債 短期債)
地方債
社債
安定的クーポン収入の必要 低リスク ⇒
超長期国債
低金利の持続で金融機関の保有分は減少
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18
国内債のなかでの選択
利回りで考えると
国債 よりは 地方債
地方債 よりは
社債 など 利回りが高いものへ移動
もちろん 劣後債 劣後ローンが利回りとしてはよい。
しかし国債にはつぎのような利点がある
国債 大量の資金を吸収できる 担保にもなる
レポ取引につかえる
売買市場が活発で流動性が高い
CRがもっとも低い
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19
外債投資への転換と
その反転
円高懸念低下 円安
より高い利回り求めて外債へ
円安なら為替差益もえられる
外債へシフト増える 理屈では 国内債利回り上昇
国内債で利回り上がり 投資家戻る
現在は日銀による国債買い入れでこの議論が成り立たない
外債への投資が増えることで長期的円安効果も期待された
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収益とリスクの管理と売買
収益達成の必要性
期間の目標利益達成の必要性
売買差益の追求(価格の上昇など)
クーポン益(信用力がやや低く、期間の長いものなど)
為替差益(円安局面で外貨建て債)
収益の改善 債券貸借 オプション取引
リスク管理の必要性
満期に伴う入れ替え商い
Maturity gap 必要な現金比率の変化への対応
Duration gap durationの変化への対応
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債券市場
店頭市場が中心 取引所市場で上場されているが形だけ 店
頭市場は基本は仲介業者経由 業者を介することで取引に透
明性
現物 自体の売買 のほか 現先取引(レポ取引)が行われ
ている
例外的に取引所が機能しているものとして 債券先物市場
がある。これは 国債先物 の市場。
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22
店頭市場
仲介業者
日本相互証券 1973年7月設立 1973年9月営業開始 長期国
債でシェア7割 業者間でポジション調整の市場になっている
エンサイドットコム証券 2001/01設立(大和 日興 野村)
2002/04 私設市場として業務開始 投資家に対して証券業者
が価格情報を提示 仲介の役割もしている
セントラル東短証券 2012年2月業務開始 親会社は短期国債
仲介で強い。国債の業者間売買仲介は日本相互証券との2社体
制に。
証券市場論(福光)
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23
債券貸借取引
1989年5月 平成元年5月 債券貸借取引導入
1996年4月 平成8年4月 債券レポ取引(現金担保付債券貸借
取引)導入
1999年4月 平成11年4月 有価証券取引税廃止
……………………………………………………………….
債券レポ取引のほか 純粋に債券売買に伴う貸借取引もある
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24
債券レポ取引
REPURCHASE AGREEMENT
現先取引 売り戻し条件付き買入れ 買うけれど売り戻し条
件を付ける 実質は資金の貸付 が日本では自然発生的に生
じ 証券会社などの資金調達手段として発達した
現金担保債券貸借取引 有価証券取引税を回避するため 現
金を担保に入れて証券を借りる取引 現金に対し金利受け取
り 証券借入料払う というもの 実質は 資金の貸付
現先か債券レポかは 売買か貸借かの違い。有価証券取引税
廃止後はほぼ同性格の取引。実質的に海外における債券レポ
取引と同じ。
債券を間に入れた資金取引の側面。
債券レポ取引市場は、短期オープン市場の一つ
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店頭市場
仲介業者
日本相互証券 1973年7月設立 1973年9月営業開始 長期国
債でシェア7割 業者間でポジション調整の市場になっている
エンサイドットコム証券 2001/01設立(大和 日興 野村)
2002/04 私設市場として業務開始 投資家に対して証券業者
が価格情報を提示 仲介の役割もしている
セントラル東短証券 2012年2月業務開始 親会社は短期国債
仲介で強い。国債の業者間売買仲介は日本相互証券との2社体
制に。
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債券の相場情報
日本相互証券の相場情報・・・業者間のポジションの調整に
使われる。相場の居所の確認に使う
JSプライス(日経 野村 2001/11記者発表 非公募債など
も NRI野村総合研究所の情報提供サービスとして提
供)・・・社債などの価格のチェックに使う
公社債店頭売買参考統計値(日本証券業協会) 公募
債・・・・財務上の評価に使う
国債実勢価格の算出方法
このほか財務省でも国債利回りを開示している。
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債券情報の応用:市場参加者の期待インフ
レ率
普通国債利回りー物価連動国債利回り
インフレ防衛の手段として人気が出ている 物価の動き
で元本と利子が動くもの 2013年に財務省が5年ぶりに発行再
開 物価連動国債利回りはマイナス化することもある 需給
に左右されるので正確に示すとはいえない 投資家にとって
は売買が乏しく流動性が低いので運用対象としては流動性に
課題。
ブレークイーブンインフレ率(BEI)
=名目金利―実質金利 市場参加者が予測する
期待インフレ率の指標として注目されている。
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28
演習
異次元金融緩和が国債市場に与えた影響をまとめなさい
債券取引を取引所で行うにはどのような問題があるのか
債券先物市場が店頭でなく取引所で行われるのはなぜか
債券レポ取引について説明しなさい
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