証券市場論後期(6)

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証券市場論
市場構造の変化
後期 6回目
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銀行・事業法人における
株式保有の解体
持合いの解体のとらえ方
2
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株式投資のウェイトの低下
持ち合いの成立と解体
• 持ち合いの意義
• 安定株主として相互依存
• 取引関係の維持
• 外資など買収防衛策
• 高い株価の維持に都合がよかった(遊休株を減らす)
反対の要因
• 時価会計の導入
• 資産効率の面からの見直し
• 保有することによるメリットの低下 系列取引など
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4
• 政策投資の見直し 資金効率の観点から選別(商社 連続赤
字の企業については売却 保有株数減)
• 国際会計基準IFRS採用会社では持ち合い株の時価を反映さ
せた包括利益となることも保有株数減少につながっている
• 金融機関 自己資本規制 ソルベンシーマージン比率など規
制への目配り(リスク資産圧縮)から減少
• 5%ルール 5%超えて取得 5営業日以内に大量保有報告
書の提出 その後1%以上の変動の際も開示
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5
• バブル以降段階的に解消
• 2002施行 銀行等株式保有制限法 普通株や利益剰余金な
•
•
•
•
ど中核的自己資本の範囲内まで削減
2005以降 企業の依頼で持ち合い復活始める
企業間でも持合い広がる
2008秋リーマンショック
2009年7月金融庁持合い株開示義務方針固める
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6
持合い株処分売りは相場の押し下げ要因だった
• 2008秋リーマンショック 株価急落でリスク再認識
• 2009-2011
• IDRS導入
• バーゼル規制(2012と想定)
• 銀行等保有株式取得機構による買取
• 上位30銘柄まで開示 保有目的の明示も求める(金融庁
2010年2月 内閣府令案 適用2010年3月にも)
• 持株会 安定株主として重要に
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投資する側が考慮する点
時価会計への対応
金融商品への時価評価制度の導入。2001年3月期
 売買目的の有価証券
→ 時価評価

満期保有目的債券
→ 理論価格(償却原価)で

関係会社株式
→ 原価

その他有価証券 時価のあるもの → 時価評価

時価のないもの → 公正時価 理論
価





格しかし取引あれば取引価格優先
株式保有
→ 削減へ
証券化商品 → 流動性もともと低い → 削減へ
少ない取引事例で時価低下の経験
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投資有価証券の評価損の扱い
 本決算については
30%以上50%未満 + 回復可能性がないとの判定 → 評
価損を損失計上
 50%以上 → 原則評価損を(損益計算書に特別損失を)
計上
 保有株の時価変動をすべて純利益に計上する考え方には
批判が強い。
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金融機関における株式保有の
減少と国債保有の増加
国債保有の増加
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投資する側とくに銀行が考慮するリスクウエイト
• 自己資本比率規制はリスクアセットに対する自己資本の規制
•
•
•
•
•
証券の種別でウエイトが違った
バーゼル2(2006末)のリスクウエイト例
国債・地方債 など
0%
政府関係機関債 など
10%
金融債 など金融機関向け債権
20%
一般事業債・株式など
100%
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金融機関の高い国債保有
• 流入する預金
• 貸し出しの低下 → 預貸率の低下
• 低金利下での利息収入
• 債券売買益の確保(金利低下局面での売買益確保の容易さ
金利引き下げ→金融機関支援の側面)
• 国債の高い流動性
• 低いリスクウエイト
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バーゼル3の圧力
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国際的に活動する銀行に対する規制
現行 広義の自己資本で4%(狭義2%+優先株や優先出資証券で
2%)さらに劣後債など補完的項目を加えて8%以上 tier 1+ tier 2
バーゼル3 core tier 1
2014年適用開始(2013年3月期から適用開始)
狭義の自己資本で最低比率4.5%(その他ともで8%)
持合い分は控除 優先出資証券は中核から除外するが発行済につ
いては経過措置あり
2019年3月期までに 6年かけて
狭義の自己資本で7%を達成(その他合わせて10.5%)
利益の積み上げで対応の予定
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バーゼル規制の功罪
 自己資本規制:金融機関の破たん防止そして金融
システムの健全性(リスク取り入れの抑制)の維持
 貸出の減少
 日銀への現預金増加
 国債保有の増加
→ これらが銀行のリスク資産を減らし
リスク資産との対比でみた自己資本比率を上
昇させている 結果として銀行が貸出先を発
掘する努力を鈍らせていないか
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地銀信金などへの規制
• 適用時期 2014年3月期から
• 4%の数値は変えない
• 自己資本の定義の厳格化
• 劣後債 劣後ローンを除くが経過措置設ける
• 持合い分の控除
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保険会社に対するソルベンシーマージン
• 支払い余力規制の規制強化 2012年3月期から
• 株のリスク基準は10%から20%に引き上げ
• 販売商品に見合った資金運用を生保に求める考え方が欧州
では強い 超長期間モノの国債 など
•
↓
• 株式保有はさらに削減が求められている
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米金融規制改革法 ドッドフランク法
2010年7月成立
 ボルカールール 商業銀行による株式の自己売買ファンドへ
の出資などを厳しく制限(金融機関の自己勘定取引を規制
考え方は自己資金で市場取引を行わない これを行うファン
ドへも投資しない) その後 米金融界の抵抗で ルールの
細目をきめられないまま塩漬けになっている
 リスク回避的取引は可能 投資目的は銀行本体では禁止す
る デリバも対象。米国国債地方債は対象外 外国の国債
は規制対象。デリバも規制対象。(世界各国は米金融機関
が自国の国債取引から撤退することをとくに懸念)
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米国の金融規制法の略史
• 1933 グラス・ステーガルGS法
• 1999 グラム・リーチ・ブライリー法 GS法の廃止
• 2007 サブプライム危機
• 2008 リーマン・ショック
• 2010 ドッド・フランク法
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金融政策と証券市場
異次元緩和と国債からの転換
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問題の焦点は何か
• 黒田日銀による異次元金融緩和の評価
• 米国のQE3はいつ終わるのか
• 中國や韓国との関係(日中 米中 日韓関係の悪化は日本に
とり大きなリスク 中国市場への依存度の大きさを冷静に認識
するべき) ヨーロッパの金融情勢
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量的緩和政策
• 政策導入時から一部の学者は市場機能が失われることへの
懸念 将来の不確実性の増加 撤退の困難さ などを指摘
導入に反対していた。
• ⇒ 生保に対しては 国債保有から外債保有への転換 外債
投資を通じた円安転換
• ⇒ 国内年金運用については 国債保有から国内株式保有へ
の転換 による株高誘導
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生保 外債運用を拡大
国内生保資金量は300兆円以上 4割が国債
• 2013年度実績は大手4社で1.2兆円 リーマンショック後最大
•
•
•
•
(12年 13年は4月と12月など 14年4月)
2014年度少なくとも8000億円
ヘッジコストかけると投資妙味少ない
日本国債の金利低下が背景(20年債で2014年3月末1.5%8
月11日1.3%台)
最も日本国債の金利が上がれば超長期債では買いを入れる
ことも。生保だけに認められた価格変動を損益に反映しない
ですむ簿価評価制度。大手6社で49兆円(+5兆円)。あとは
外債・インフラ投資。
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GPIF年金積立金管理運用独立行政法人
など公的年金の運用体制見直し
• Government Pension Investment Fund(120兆円)
• 国内債60%から30-40%に引き下げる。14年3月末実績5
5%。国内株式12%(6%の幅)を20%程度に引き上げる。14
年3月末実績16%→決定は14年10月。
• ところが企業年金(73兆円)は株を売って債券を買っている。
14年3月末国内株14.9%(マイナス0.9ポイント) 国内債券は
27.6%(プラス6.7ポイント) 背景:株価下落が運用の足を引っ
張ってきた。株式は高リスク
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GPIF運用方針の見直し2014年10月31日公表
運用方針
15/03末
15/06末
国内
債券
60% 変動幅8% → 35% 変動幅10%
39.39%
37.95%
国内
株式
12%
6%
25%
9%
22.00
23.39
外国
債券
11%
5%
15%
4%
12.63
13.08
外国
株式
12%
5%
8%
20.89
22.32
短期
資産
5%
5.08
3.27
25%
区分廃止
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黒田日銀 と長期金利
 2013年4月4日 量的質的緩和導入(1月の0.8%から次第
に低下) 物価安定目標 2%の早期達成
操作目標 無担保翌日物金利 マネタリーベースに変更 年
60-70兆円増加 長期国債 ETFの保有額を2年で2倍に 長
期国債を毎月7兆円 月々発行額の7割を購入する
 2013年5月 一時長期金利1%に急騰(0.6%前後から) そ
こから次第に低下
 2013年9月 米金融緩和縮小見送りもあり0.6%前後にまで
低下
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追加金融緩和
発表2014年10月31日
資金供給量
年60-70兆円増 → 年80兆円
長期国債買い
入れ額
年50兆円
年80兆円
(GPIFの運用方針変更の影響を避ける狙い)
国債発行額の9割弱 新規純発行額の2.5倍を日銀が吸収
財政規律弛緩と取られる恐れ大
国債買い入れ
額
毎月7.5兆円
8-12兆円
上場ETF
年1兆円
3兆円
REIT
年300億円
年900億円
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アベノミクスどう評価するか
• 第一の矢 金融緩和 円安誘導で株価引き上げ
• 第二の矢 財政出動
• 第三の矢 規制緩和 内容はあるのか → TPP
• ダブルバズーカ(2014/10/31)
• :GPIFの運用方針見直し+追加金融緩和
• 消費税引き上げ時期の延期公表(2014/11/18)
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金融緩和
• 財務省で国債を購入 翌日 日銀に売却 それで金融機関は
利益を稼ぐものの 事業会社にお金が回っているわけでは無
いという批判がある
• 中央銀行バランスシートの急速な拡大をもたらすが・・・(マネ
ーの膨張 カネ余り)
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バーナンキの失言は緩和縮小の困難を示
す
• 2013年5月~6月 バーナンキなどの縮小発言が波紋呼ぶ
→ 市場の不安をあおる 説明不十分と現在に至る批判 →
6月19日の年内縮小発言 金利が内外で急騰 債券 株式
の同時安招く
• 2013年9月17-18日 米FOMC 激論の末に緩和縮小見
送る
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FRBのQE3の終了 14.10末
 2008-2010 QE1
 2010-2011 QE2
 2012から QE3 月850億ドルのペースで住宅ローン担保証券4
00億ドル 米長期国債450億ドルを購入する 物価安定2%と最
大雇用が目標
• 2013年5-6月バーナンキ発言
 2013.9 次期議長にイエレン副議長を指名
 2013.10末 米FOMC 量的緩和維持を発表(背景:雇用改善の
遅れ 財政協議のこう着)
 2013.12 縮小決定
 2014.10末 終了
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QE3
2012年9月13日
QE3(2008年以降3回目) 住宅ローン担保証券M
BS買い入れ 月400億ドル規模 労働市場が大幅に
改善されるまで続ける
ゼロ金利の継続 14年末から15年半ばまで延長
⇒ 時間軸政策(それより成長目標明示求める声あり)
1月に年率2%のインフレ率を長期的ゴールと明示
雇用の安定の指標化をめぐり議論進行中(現在の失
業率は8%強 目標は7%前後か?)
(ツイストオペ 年内期限)
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量的緩和
Quantative Easing
LSAP 大規模資産購入
実業率8%台で高止まり(09・10に10% 2012年初8%強
下げ止まり)住宅ローン担保証券購入⇒特定の市場への信用
供与示す ⇒住宅ローン金利低下 住宅需要 住宅価格上昇
家計資産増えて消費伸びる しかしインフレを懸念する意見も
ある
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時間軸政策
ゼロ金利下でも長期金利になお低下圧力をかけ消費
や設備投資を刺激するというもの
FRBの総資産拡大:インフレ懸念
リーマンショック → 08・12 ゼロ金利導入
2008 QE1(08・11-10・3) 住宅ローン担保証
券の買い入れが柱(1兆7000億ドル)
2010 QE2(10・11-11・6) 長期国債を購入す
る(6000億ドル)
2011・9 ツイストオペ導入 短期国債を売却 長期
国債購入 総資産増やさず 長期金利引き下げ図る1
2・6末まで 12・6に12・12末まで延長
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日銀に
政府が圧力かけた理由
•ベースマネー増やし物価引き上げ
•インフレ目標1%の引き上げ2-3%
•インフレ期待を高める
•外債の購入による円高是正
•消費税引き上げの14年4月までにデフレ脱却望む政府はデフ
レ脱却を急がせたい
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ベースマネー
別名 ハイパワードマネー
現金通貨+民間金融機関の中央銀行預け金
ベースマネーの増加がマネーサプライを増やすと主張される
場合がある。
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リフレ政策
•本来 インフレは回避すべきものだが 意図的にインフレを起
こして景気の回復につなげようとする政策をリフレ政策と呼ぶこ
とがある。
•インフレ目標の議論をリフレと同一と議論する人がいる。
•他方 リフレ政策は断じて取るべき政策ではないとする人もい
て・・・・
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日本銀行の金融政策の
失敗とされる事例
•日本銀行はなぜ批判されているのか
•中央銀行の独立性神話への批判は強い
•1972-73年 のインフレ を招いた金融緩和
•1980年代 のバブル その後の急激な崩壊
•1990年代 回復に失敗
•2000年8月 ゼロ金利解除 景気回復を阻害
•2010年8月 追加的金融緩和見送り その後の円高
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先進国の金融緩和をめぐる南
北対立
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先進国(北)の金融緩和に
批判的な新興国(南)
低金利 ドル安政策 通貨戦争を招くという見方がある 原油高
商品高を招く
通貨高防ぐため新興国では利下げ 緩和ドミノ 新興国の過度
な景気拡大 が生じる
あるいは通貨高→為替市場に介入 介入を控えていると資金
流入 インフレ等の懸念
carry tradeにつながり商品価格の高騰や新興国のインフレに
つながる
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Carry trade
•Currency Carry Trade
•金利の低い通貨を借りて、金利の高い通貨で運用すること。
•金利の高い国では資金流入が生じる。結果として株価や不動
産の高騰 インフレなどの弊害も。
•商品市場で商品価格が高騰する一因にもなる。
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先進国の金融緩和と
財政ファイナンス批判
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財政ファイナンス
•財政ファイナンスはハイパーインフレ 財政節度の喪失につな
がるとして批判される
•財政赤字を中央銀行が公債を引き受けるなどして賄うこと
•マネタイゼーション:政府の赤字、つまりは公債を中央銀行が
通貨を発行することで賄うこと とも批判される