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JSSD 2015 Chiba University
「デザイン行為」をどうとらえるか?
ー デザイン理論研究の方向性をめぐって
How re-grasp the basic form of designing
ーthinking about the research into next stage of design studies.
野口 尚孝
Dr. Hisataka Noguchi
Copyright: Hisataka Noguchi, 2015
JSSD 2015 Chiba University
内容
1 デザイン行為とは何か?
2 デザイン思考過程の構造
3 デザイン行為の歴史的変遷
4 デザイン理論研究の問題点
5 結論
Copyright: Hisataka Noguchi, 2015
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1. デザイン行為とは何か?
What is designing?
(1-1) 道具を媒介とした能動的ホメオスタシス
“Active homeostasis” mediated by tool
外部
生命体における「内」と「外」の区別と両者間での動的平衡状
内部
態(homeostasis)は、人間においては、道具を媒介とした能動
的行為として現れる:
ホメオスタシス
自然物を道具として使う段階 → 道具を自分でつくる段階
ここで人工物が登場し、目的意識的行為の形がデザイン思考
M
の基礎となったと考えられる。
そこでは、主体(Subject)、対象(Object)、媒介物(Medium)
S
O
による3項構造による人間特有の思考の枠組みが生まれたと
考えられる(ヴィゴツキー)。
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2. デザイン思考過程の構造
Structure of design thinking process
(2-1) デザイン思考の基本構成
Elemental form of design thinking
主体的領域
こうして生まれた、人間のデザイン思考の
表出された
解候補 M
基本単位は:
1. デザイン主体(S) ↔ 外界(O)との
評価
2. それに対する解の候補(M)を考え、
3. それの問題状況への「想定適用」と
想定適用
解探索
不適合状態を「問題」として捉える →
表出する →
客体的領域
想定結果
O’
主体の意図
S
問題把握
問題状況 O
「評価」(O’) → 「最終解」へ
という3段階を経て問題を解決すると考え
られる。
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2. デザイン思考過程の構造
Structure of design thinking process
(2-2) デザイン行為の3段階
Three stages of designing
この思考単位は、デザイン行為において大
きく3つの段階に分かれると考えられる。
1. 問題把握段階
2. 解探索段階
3. 解決(実行)段階
1 問題把握段階
表出された「問題像」
表出
M2
確認
S1
O1
問題発見
意 図 形
成
客観的問題状況
2 解探索段階
表出された解の案
解探索
M2
想定適用
S2
それぞれの段階で、S, M, Oの内容が変
化しながら、螺旋状に繰り返され、具体化
されてゆく。
(ここまでは野口の2013年春季大会で発表
済み)
O2
評価
目的指向
想 定 結
果
3 解決段階
製造された解
生産
M3
S3
解決行為
充足
使用
O3
解決状態
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3. デザイン行為の歴史的変遷
Historical transition of designing
人類の原初的「モノづくり」行為から始まったデザイン的思考は、人類の歴史とともに変化し、
特定の歴史的社会におけるその社会特有の生産様式にもとづく形態をとった。資本制生産様
式特有の「モノづくり」体制は17〜8世紀頃のヨーロッパ近代資本主義社会の登場とともに現れ
た。
(3-1) 近代の資本制生産様式におけるモノづくり体制の変貌
Change of manufacturing relation in capitalism society
王侯貴族などからの注文でモノを作る職人工房(ギルド)、農民の自家生産自家消費
交易で蓄財した商人資本家が職人工房に不特定多数の購買者を想定した
商品の生産を発注するようになる
資本家が生産用具や土地などの生産手段を買収し職人たちはそこに雇用された
労働者となる(資本家による生産手段の占有と労働力の分離)
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3. デザイン行為の歴史的変遷
Historical transition of designing
(3-2) 資本主義社会的モノづくり体制の確立
Establishing manufacturing system of the capitalism production style
販路拡大に伴う多量生産に対応して、工場内の作業は分割され単純化並列化され、従
来の手道具は作業機に置き換えられ、それらを同時に動かす動力機が導入され、モノづ
くりが単純労働化され機械に従属した部分労働と工場管理者による統括管理という形の
工場内分業に変化した
産業革命によるモノづくりの変化
あらゆるモノが商品としてつくられる社会の登場、人々は生活に必要な資料をすべて商
品として購入しなければならなくなりそれに必要なお金を働いて稼がなければならなく
なった
資本主義社会的生活様式の確立
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3. デザイン行為の歴史的変遷
Historical transition of designing
(3-3) 資本制生産様式特有の分業体制から生まれた「エンジニア」
“Engineer” as a division labor of capitalism production style
人工物の複雑化にともない、生産現場
の労働者から、工学的知識を用いた頭
脳労働に特化された職能が分離登場し、
当初は生産機械、船舶、橋梁などの設
計・生産・修理を主な仕事とした
古代から存続する建築の世界でも
構造の工学的設計が必要となり、
それを専門とする職能が登場した
やがてそうした専門家を教育する機関が整備される
「エンジニア」という職能が社会的に確立
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3. デザイン行為の歴史的変遷
Historical transition of designing
(3-4) 消費駆動型資本主義体制特有のモノづくり分業形態の登場
Special manufacturing professions in consume-drive capitalism
20世紀前半に入ると、いわゆる消費駆動型の資本主義
経済体制が確立し、生活資料商品の市場が拡大した
それとともに従来生産手段を中心にその工学的仕様設計を行ってきたエンジニア
は生活手段商品の設計をも行う必要がでてきた
それに対応するため、エンジニアの仕事から美的センスを
必要とする部分が分離し、もっぱら商品に魅力を与えて購
買意欲を高めさせることを専門とした職能が求められた
エンジニアの工学的特化
インダストリアル・デザイナーの登場
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3. デザイン行為の歴史的変遷
Historical transition of designing
(3-5) 消費駆動型資本主義経済体制のモノづくりにおける矛盾
Basic conflict in consume-drive capitalism economy
制御不能
経済が活性化しないと社会生活が成り立
たなくなる
企業が競争力をつけて利益をあげないと経
済が活性化できない
そうなると廃棄物が増大し地球環境の
破壊が加速される
しかし消費を拡大するとエネルギー消費も増え、
資源も大量に必要となる
企業は消費を生み出し、それによって利益をあげなけれ
ば市場競争に勝てない
デザイナーという職能が登場し、モノづくりにおいて「デザイン」が意識されるようになったと
同時に、デザイナーはその立場上この矛盾を加速させる結果となった。
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4. デザイン理論研究における問題点
Problems in research on design theory
このような制御不能の矛盾がなぜ生じるのか?
(4-1) デザイン行為の歴史的特殊形態と普遍的形態の区別の問題
Problem in distinction of historical features of designing and universal form
市場での競争に勝たねばならないという制御不能のミッションのもとで、ニーズを手段
とし、本来の人間のモノづくりにおける目的と手段の関係を逆転させた資本主義社会
特有のモノづくり体制が確立されていることが要因であるといえる。
こうした歴史的に特殊なモノづくりにおける矛盾と、その矛盾の裏側に見えて
くる、本来あるべき普遍的なデザイン行為との区別と関係を明確にする必要
がある。
そのためにどのような理論的枠組みが必要か?
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4. デザイン理論研究における問題点
Problems in research of design theory
(4-2) デザイン行為の抽象化方法における問題
Problem in method of abstraction
「横の抽象」
「縦の抽象」
現代社会の職能に共通なデザイン行為
建
築
・
デ
ザ
イ
ナ
エ
ン
ジ
ニ
ア
リ
ン
グ
・
デ
ザ
イ
ナ
イ
ン
ダ
ス
ト
リ
ア
ル
・
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グ
ラ
フ
ィ
ッ
ク
・
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イ
ナ
ソ
フ
ト
ウ
エ
ア
・
デ
ザ
イ
ナ
プ
ロ
セ
ス
・
デ
ザ
イ
ナ
これに疑問を持つ
歴史を遡ってモノづくりの
歴史的形態における矛盾
の成り立ちとその矛盾の否
定から見えてくるデザイン
行為の本質を抽象する
1〜2節で述べたデザイン行為の本質およびデザイン思考の構造は「縦の抽象」による結果である。
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4. デザイン理論研究における問題点
Problems in research of design theory
(4-3) 生活者の立場からの問題解決視点の必要性
Need macro-view of problem solving
「第1段階」: 客観的問題状況は誰が見ても同じ問題なのではなく、それをどのような
「問題」と見るかはそれを捉える視点にかかわる。企業の視点からの「問題」ではなく、
生活者の視点からの「問題」こそが重要。
「第2段階」: その上で問題の解として「何をいかに作るべきか」が初めて思考の対象に
なるべきなのであり、デザイン思考がこの段階から始まるのではないし、それは外部か
ら与えられる「要求機能」から始まるのではない。
「第3段階」: 提案された解は、単に、利益をあげ、市場でのシェアを増やしたかどうか
で評価されるのではなく、生活者の視点で取り上げられた問題が、その解決方法を見い
だし、実際にそれが解決手段として用いられた結果、何が解決され、何が解決されずに
残ったかが評価され、次の問題解決に必要な知見を蓄積することができるようにするこ
とが重要なのである。
Copyright: Hisataka Noguchi, 2015
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5.結 論
Conclusion
以上の考察からの結果、デザイン理論研究の持つべき基本的スタンスとは:
(5-1) 生活者の手に取り戻されるべきデザイン能力
Design ability should get back to all working and living people
デザイン行為は、本来決して職能としてのエンジニアやデザイナーの占有的仕事なの
ではなく、むしろそれ以前に、社会のためにそれぞれの仕事を分担して働くすべての「生
活者」が持つべき基本的能力のひとつであるといえ、こうした視点が必要である。
(5-2) グローバルな生活者の視点から見た問題解決と創造性
Global scale problem solving and creativity from the viewpoint of living people
現在グローバルなスケールでおきているモノづくりの危機と地球環境破壊の問題を直視
し、国境を越えた視点から、社会全体のモノづくりを本来あるべき姿に取り戻すことが目
指されるべきであり、デザイン理論研究もこうした視点を持つべきであって、デザインの創
造性もこうした視点から評価されるべきである。
Copyright: Hisataka Noguchi, 2015
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参考文献: 野口尚孝、井上勝雄著「モノづくりの創造性ー持続可能なコンパクト社会の実現
にむけて」(海文堂、2014)
Copyright: Hisataka Noguchi, 2015