証券市場論後期(12)

証券市場論 後期第12回
証券市場での犯罪 相場操縦 インサイダー取引
金融商品取引法 金融商品販売法 不招請勧誘 適合性原則
証券犯罪

詐欺(金を預かり逃げる ウソの投資話で金を集める 免許がないのに営業す
る など)

不適切な金融商品の販売(高リスク商品を不適切な顧客に売り込む)

地位の乱用

証券業の無登録営業

相場操縦(他者と通じる「なれ合い売買」 一人で売買の繁忙装う「仮装売
買」)

風説の流布

インサイダー取引
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2
証券犯罪 類型化
発行者に関するもの

虚偽記載 虚偽増資
内部情報の悪用

インサイダー事件
仲介者に関するもの

無免許営業 不適切な商品の販売・・・・
証券取引に関するもの

相場操縦(仮装 馴れ合い・・・) 風説の流布
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3
相場操縦

仮装売買 特定銘柄を大量売買 活発な取引を装う

なれ合い売買 あらかじめ時間・価格を相談して売買を成立させる

見せ玉 他の投資家の売買を誘う狙い

変動操作 相場とは異なる価格を指定して大量売買

終値操作 取引間際に断続的売買 終値の下げ・上げ・維持狙う

買い上がり 断続的に購入 引き上げ狙う

売り下がり 断続的に売却 引き下げ狙う
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4
英語

Churning :the common practice of brokers to get their
clients to generate commissions by fruitless security
trading

Insider activities or trading(内幕交易nei4mu4jiao1yi4)

Price manipulation

Pool :an association of people formed to profit from
manipulation security price

Wash sale(虚售xu1shou4 虚抛xu1pao1):a phony
transaction carried out to create the illusion that a
significant transaction occurred
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風説の流布
自分の取引を有利にするために

根拠のない情報を知人に伝える

根拠のない情報をネットで流す
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6
増資インサイダー事件

大手証券会社(野村)で指摘される

営業部の情報提供の過熱(営業部の体質に問題)から、機関投資家
に投資情報がわたり、小口株主は損失を被った。

今回たまたま2010年のケースで摘発されたが、こうした投資情報提供は
長年にわたり行われていた。モラルがない証券会社の姿を示す。

増資のたびに株価はさがり、儲けていたのは大手証券の顧客である機関
投資家。

大手証券がすでに小口株主を完全に無視している現状をよく示す事件。
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7
増資インサイダー事件

増資インサイダー事件

証券業協会では永久追放に向けてルールを整備中。
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8
本命とされる海外ファンドに初めてメスが入る

現在でも海外ファンドが自己資金での場合は不公正取引取締りの対象。

他人の資金の場合は対象外。→対象に含める方向(後述)。

米系ヘッジファンドGノジャパンアドバイザリー 増資インサイダーの中心的
存在 日本板硝子の公募増資でインサイダー取引(情報を漏らしたのは
大和証券) 証券取引等監視委員会が2012年6月に金融庁に対し
て処分勧告。金融庁は悪質なファンドとしてジャパン社の登録取り消す。

ジャパン社は公募増資など未公表情報の提供を求め、情報の価値に応
じて株式売買手数料の配分を決めていた。
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犯罪はなぜ起きるのか
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何が取り締まられているか

発行者は正しい情報を公開する義務がある。公開義務違反や虚偽情報に対
して罰則。

業者は登録制 非登録での営業には罰則

相場の操作は違法 株価操作(架空取引 高値に吊り上げて売り抜ける 増
資と絡んでいるケースもある)

情報の操作は違法 架空あるいは虚偽の情報の流布など

顧客に対する信任義務 fiduciary duty 違反する行為は違法

例 説明義務違反(例 解約時に巨額の解約手数料が発生することを充分
説明しなかった) 顧客のリスク対応力に比して不適切な商品を販売した。

証券会社は利益相反 conflicts of interestsを犯しやすい業態。
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金融商品取引法違反容疑で旧誠備G元代表加藤嵩
ら3人を逮捕 2015年11月17日 東京地検特捜部

2012年2月から3月 新日本理化(当時大証一部に上場)の株価を
吊り上げる大量の買い注文を出すなどした疑い。

誠備G 1970年代後半に結成 1990年代まで 1981年に所得税
違反容疑で逮捕されるが口を割らず顧客情報を漏らさなかった点で評価
されたとも。有数の仕手集団として知られた。

2015年3月22日 サイトに虚偽情報を書き込んだ容疑で強制捜査。

今回逮捕されたのは加藤本人(74歳)妻(74歳)息子(36歳)。

加藤夫婦が高齢であること、息子の加藤恭が大阪大学大学院基礎工
学研究科で助教(専門は数理ファイナンス)であることも注目された。
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金融商品取引法違反容疑(旧村上ファンド)
2015年11月25日相場操縦の疑いで強制捜査

旧村上ファンド代表村上世彰(2001年にも東京スタイル相手に委任
状争奪戦) 2014年6月から7月 TSIHD(2011年東京スタイ
ルが別のアパレル大手と統合して発足)株価を借りて大量売却(空売
り) 値下がりしたあと買戻しで利益 物言うファンドを装う。2014年12
月から2015年7月 黒田電気株の買収進める。

娘の村上絢代表のC&IHDも関与の疑い。

物言うファンドを装い日本市場に

2006年6月インサイダー取引で逮捕。2011年最高裁で確定。懲役2
年、執行猶予3年。執行猶予明けに再び暗躍。
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証券会社が犯罪にかかわった事例

社債の資金使途の虚偽表示:某証券会社。海外の発電プロジェクトへ
の投資を名目。実際は商品先物会社に融資。

架空の投資話による勧誘:某証券会社社員。詐欺。国債投資と称し
て勧誘。勤務先の書類を偽造して顧客に渡して信用させる。

書類を偽造して顧客の投信を解約:某証券会社支社員。詐欺。顧客
の損失の穴埋め。生活費。デリバでも資金運用。

某投資助言会社:無登録販売、誇大広告(運用実績を偽装)、中
立性違反(顧客と運用会社双方から収入)
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ドイツ証券による贈収賄事件(2013年12月)

厚生年金基金に対する金融商品販売に絡んで贈収賄の疑いでドイツ証
券営業担当社員と収賄側が逮捕(2013年12月) 10億円購入し
てもらうのに三井物産厚生年金基金(資産総額500億円)運用担当
者に対して海外旅行飲食代など90万円相当の接待を繰り返した。

このほかドイツ証券では3つの厚生年金基金に約100回627万円分の
接待を繰り返していた。→ほかの証券会社もやっているのでは。問題はそ
うした接待で決定される年金の運用とは何かいうこと。決算の飲み食いで
本来の運用収益は消えているかもしれない。

年金担当者の人間としてのレベルの低さ。公益性意識の欠如。年金の
役職員収賄も深刻。

証券営業の低劣さ。問題社員は懲戒解雇へ。
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AIJ投資顧問事件(2012年2月表面化)

AIJ投資顧問事件 AIJ投資顧問 2000億円近い資金を厚生
年金などから受託 その多くを毀損させた事件

米国では2011年10月末にMFグローバル(12億ドル) また2008
年12月にもマドフ事件(650億ドル) など巨額の顧客資産消失事件
が続いている。

日本ではその後米MRI社を巡る資金消失事件が起きている(2013
年4月発覚 12年度末の預り金は1365億円)。
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防止策
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防止策

報酬のあり方

防火壁 fire wall (業務隔壁)

Chinese wall
抑止力を高める

関係者情報の公開

取締りの強化

厳罰化
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Jアイリス

上場会社役員は日本証券業協会のシステムJ-IRISSに氏名、住所、
勤務先などが登録されている。2009年5月運用開始。2010年末に
1789社(5割弱)。2011年10月に2000社超える(56%)。
2012年2月末で2154社(全上場企業の6割超え)。

口座の開設や発注があったときに、本人がインサイダー情報をもっていない
か確認することで、インサイダー取引を防ぐもの。日本独自で海外にはな
いシステム。

抑止力になると期待されている。証券業協会ではシステムへの登録を上
場規則で義務つけることを取引所に要請している。
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取締り

自己管理(証券取引所 証券業協会 各証券会社)
不正な売買(インサイダー取引や相場操縦)などの監視 不正行
為者に対する処分 など

外部(証券取引等監視委員会 警察)

厳罰化

罰金 懲役刑 など刑事罰

金融庁による課徴金命令
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強化されるインサイダー取引規制

刑事罰制度 裁判で有罪の立証責任・・・時間がかかる 長期戦

2005年4月 違反者に対する課徴金制度(行政処分)導入・・・立
証責任の軽減 機動的な調査可能になる

納付命令 不服申し立てなければ処分確定

2006年7月 金融商品取引法一部施行 刑事罰の強化

2008年6月 金融商品取引法改正 課徴金の引き上げなど(実質2
倍超に:利益相当額)

今回の改正 情報提供者に罰則
他人の資金預かる者への課徴金(報酬→引き上げ)
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インサイダー取引の取り締まり

業績発表(修正発表)不適切な会計処理 増資 自社株買い 配
当修正 株式分割 M&A(TOB 合併) 上場廃止含む上場区分
の変更 などの経営上の重要事実を企業が発表した前後の取引を重点
的に調べる。

疑わしいとの判断で詳細な審査。証券会社からデータ取り寄せ(現在は
専用回線コンプライアンスWANで)。関係者の売買の有無調べる。
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プレヒアリングの禁止

プレヒアリングの禁止(2007年日本証券業協会は業界ルールで禁止
しかしルールの効力は国内だけのため海外でのプレヒアリングがインサイダー
取引の温床とされる)
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インサイダー取引の事例

某大手証券(D証券) 主幹事でありながら未公表の増資情報を海外のヘッ
ジファンドに伝達 このヘッジファンドは空売りで利益出す

某大手証券役員(N証券) 未公表のMBO情報などを利用。友人と共謀。
買い付けを行い高騰したところで売り抜け巨額の利益を得る

某社子会社社長 某社の企業買収情報を知り、某社の株を購入。巨額利益
を得た。

某社役員 某社の3者割当情報を入手。公表前に某社株を購入。発表によ
る高値で売り抜けた。

某社役員 自社の業績下方修正(不祥事やトラブルなど)を知り 自社株を
売り抜け損失を回避した(→このタイプは多い)。

某社社員 自社の利益変動の情報を知り知人の助けを借りて他人名義で売
買して利益を得た。
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事例:会計士 直接担当する企業の株を売買する最
低のモラル感覚

会計士(S監査法人所属) 監査業務を行っている企業の重要事実
を入手。公表前に売却して利益を得た。→第三者委員会が調査したと
ころ 監査法人と契約を結ぶ企業の株式を売買している事例がみつかる。
↓


再発防止に本当に必要なことは株式取引の全面禁止

(社内での提言は顧客株式の売買の全面禁止 株式売買内容の上
司への報告義務 など)
↓
企業活動の変化 監査対象の変化を考えるとこの提言は不十分
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経済産業省幹部 直接担当する案件の株を購入する=仕
事で得た情報を使うインサイダー取引規制違反

情報の宝庫といえる経済産業省審議官木村雅昭が自ら担当していたエ
ルピーダなどの再建策を熟知の上で同社株を購入。

エルピーダ 資本増強の検討を発表(2009年2月4日)

同審議官がエルピーダ株購入(5月)このほかNECエレ(ルネサスと
合併)の株も合併計画を知り4月に購入するなど担当案件で売買繰り
返す:私利私欲の限りを尽くすなど極めて悪質

エルピーダが増資の発表(6月30日)

2013年6月28日 東京地裁判決は「検討」を重要事実公表と認めず
有罪判決になる 懲役1年6月 執行猶予3年 罰金100万 追徴金約
1000万円→弁護側は重要事実は売買時点で報道され情報の偏在は
なくインサイダー取引規制罪は成立しないと主張。

2014年11月15日 東京高裁 被告側控訴を棄却
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増資とインサイダー取引 必要な徹底した厳罰化
市場の信頼性確保がなにより重要

公募増資 大量発行で株価が下がることが多い 事前に情報を入手し
て売り抜けるタイプが多い・

第三者割当増資 資金繰りに窮していた状態からの脱却を意味すること
が多い。株価は上がることが多い。したがって事前に情報を入手したもの
は買い付けて利益を出すことが多い。

2013年6月改正法(1年以内に施行)で情報伝達も処罰対象に

N証券役員については情報伝達では処罰できないものの、犯罪の教唆
で有罪判決(東京地裁 2013年9月)
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インサイダー規制は市場を委縮させる 市場活性化に逆
行するという意見もある

厳しすぎるという意見もある。市場の活性化に逆行するとして緩和を求め
る意見もある。

というのは内部情報を受け取る可能性のある人はおおいからである。

しかし基本は株式取引を社会的にしかるべき立場の人、つまり内部情報
を受け取る立場の人はするべきではないということである。そもそも証券会
社に勤めている人間 その家族もするべきではない。上場会社の役職員
も同様である。

市場の透明性がもっとも重要で、社会的に立場のある人の株式取引は
制限されてよいと考える。取引に励む時間に人生にとり有意義なことは他
にあるようにも感じている。
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代表的な逃げ方
•
重要情報を聞いていないと主張する。
•
妻に買わせる。自分は知らない妻の意思だと言い張る。
•
知人あるいは友人(つまり第三者)の口座を利用する。
•
刑事罰
•
5年以下の懲役 又は罰金 あるいは両方
•
ほかに課徴金
•
ほかに勤めている勤務先の解雇 露出による社会的制裁 など
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インサイダー取引に関与したもののその後

刑事告発を受け刑事罰を受ける。

課徴金支払い命令により得た利益を吐き出すことになる。

勤務先の信用を失墜させた罪は大きく取り戻すことはできない。

市場の公正さを乱した行為は許されない。

多くの場合、懲戒解雇(退職金はない)など社内処分を受ける。

社会的に復帰はできない。

上司も監督責任を追及され処分される。
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現在議論されている方向

情報提供者が取引で利益を得ず、単に情報を伝えただけでも処罰対象
とする。情報提供者の氏名を公表する。現在は情報漏えいだけでは処分
対象にならない。

他人の資金を使って不公正な取引をするものの扱い。現在は金融庁に
登録している国内のファンド、証券会社など金融機関。海外を拠点とする
ファンド、運用会社を対象に入れる。→海外のファンドを規制対象

他人の資金を使って不公正な取引をしたものの課徴金を、手数料や報
酬相当額から利益相当額などを基準として数値に変更
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金融庁 証券取引等監視委員会
金融庁 検査局

不公正取引から財務健全度チェックまで

証券会社 のほか 証券取引所 投資顧問 特定目的会社 なども検査対象

証券会社の連結子会社も監督対象

2005年から課徴金納付の処分勧告 有価証券報告書の虚偽記載の有無

証券会社 金融先物取引会社 投資信託委託業者 投資顧問など5000社
超が検査対象

2007年9月の金融商品取引法施行後 届け出ファンド4000弱など

証券会社に対して自己資本比率規制 目安120% 目安100%

割り込むと業務停止命令
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通常はその前に増資あるいは自主廃業
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証券取引等監視機構IOSCO
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自主規制

取引所 違反行為に処分 不公正取引監視システムがリアルタイムで稼
働している

日本証券業協会 証券会社290社のほか銀行 生命保険など220社
が参加(2006/04)

金融商品取引法 2007年9月全面施行)による自主規制機関の機
能強化促進 監査部門強化
証券会社さらに銀行に対しても監査もおこなっている 自己規律

自主的に高品質のルールを作る期待
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証券投資者保護基金
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投資者保護基金

投資家の保護 証券取引に対する信頼性の維持

証券会社の経営破たん時 投資家保護 顧客側に重大な過失がない
限り

分別管理の仕組みであるが・・・・

義務付けは証券会社のみ 投信を販売する銀行 郵便局は補償対象
ではない
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消費者保護という視点

日本型ビッグバン 1996-2001
↓ 消費者保護の必要性高まる
金融商品販売法 2000/05制定
2001/04施行
預金や保険も規制 業法がないものも規制
↓
金融商品取引法 2006制定
金融商品取引業 登録制 で幅広く規制
集団投資スキームも規制
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日本型ビッグバンの主な内容 1996-2001

外為法改正 外為業務の自由化 企業間外為決済可能に など

金融持ち株会社解禁

異業種からの銀行への参入可能に

銀行・証券 保険・損保の相互参入自由化

銀行窓口で 投信・保険が扱えるようになった

証券が登録制になり 株式委託売買手数料が自由化された
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金融商品販売法:取引法にも同じ考え方あり

販売業者 元本割れを起こす可能性などリスク説明義務 リスク説明義
務違反時は損害賠償責任 時効は損害を知ってから3年以内。

適合性原則(顧客にあった商品を勧める) に従うこと
不招請勧誘(求めていない勧誘) の禁止
リスクの高い商品を判断力の弱い老人に販売する
債務比率が高い人にさらに債務を勧める 過剰債務

業者には記録義務
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