電子回路 放射線計測エレクトロニクスの信号処理の為の アナログ電子

電子回路
放射線計測エレクトロニクスの信号処理の為の
アナログ電子回路の基礎
第十二回
村上浩之
Oct. 13. 2010
目次(7)
• 放射線計測回路の構成
– 検出器
– 前置増幅器
– 雑音
• 雑音の数学的な取り扱い
• 雑音源
• 等価雑音電荷
– 波形整形増幅器
• 波形整形回路
• アナログパルス演算回路
–
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–
–
–
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パルス波高弁別器
マルチレベルパルス波高弁別器
シングルチャネルパルス波高分析器
マルチチャネルパルス波高分析器
電源
出力装置
Oct. 13. 2010
アナログパルス演算回路
• 検出器に入射した放射線の信号からエネルギー、粒子種類、
入射位置、入射時刻などの物理量を抽出するには目的とす
る物理量がパルス電圧の振幅や時間で表されるように変換
するには様々な演算処理が必要になる。
• 物理量の信号は一つの検出器から波形情報や時刻情報と
して得られ場合と複数の検出器からの信号の相互関係から
得られる場合がある。
• アナログ演算処理は処理速度が速く、信号パルスの継続時
間と同程度の時間で結果が得られる。処理速度が速いので
処理結果をトリガー信号源として利用出来る。
• アナログ演算処理はアナログ回路で処理するので処理工程
(処理コスト)が少ないが演算の精度は良くない。
Oct. 13. 2010
アナログパルス演算回路
構成要素と機能
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増幅・減衰回路
極性反転回路
加算回路
減算回路
対数変換・逆変換回路
乗除算回路
最大・最小値選択回路
ピーク伸張回路
直流再生回路
時間ーパルス波高変換回路
Oct. 13. 2010
対数変換回路
• 対数変換回路は入力信号を対数に変換する回路でP-N接合
の順方向電流と電圧が指数関数の関係にある事を利用して
対数変換と指数変換(逆変換)を行う回路である。
• 対数変換された信号を和算、減算、増幅、減衰の演算を行っ
てから逆変換を行うと乗算、除算、べき乗の演算を行う事が
出来る。
• 物理量が指数関数で増加する場合物理量を電圧にしてその
振幅を対数変換すると広い物理量の範囲を圧縮して狭い電
圧範囲で表示出来る様になる。
Oct. 13. 2010
P-N接合の順方向電流ー電圧特性
P-N接合の順方向電流は次の様に表される。
I  I0e
qV
kT
実際のP-N接合ダイオードでは直列抵抗がゼロでない事等で
指数関数の関係を示す範囲が狭くなっている。

ICBO が小さいバイポーラトランジスターのエミッター電流とV
BE
の関係は広い範囲で指数関数の特性を示す。
経験的に指数関数特性の優れたトランジスターが調べられて
いるが3〜40年前のもので最近では調べられていない。
最近の対数変換・逆変換は集積回路素子が使用されている。
対数変換素子はトランジスターを使用している。
Oct. 13. 2010
対数変換回路の原理
• トランスインピーダンス増幅器の帰還素子にTrを使用した対数変換回路
– 入力が電圧の場合は入力の抵抗で電圧を電流に変換する。
– この回路は正入力信号で正常に動作する。負入力信号の場合はTrをNPNからPNPに
変更する。
– NPN Tr と PNP Tr を並列に接続して正負の信号に対して対数変換を行う事が出来るが
Kや I0 の値が同じである保証が無いので正負非対称となる可能性が大きい。対称なTr
のペアーが選べれば正負対称に動作する。
Vin R 
Vout  K ln 

I
 0 
Iin 
Vout  K ln  
I0 

Iin
Vout
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R

Vin
Vout
対数変換集積回路
log AMP IC
TI社の対数変換増幅器log101
は入力電流 I1 ,I2 の比を対数
(電圧)に変換する。
対数変換Trを差動で用いて温
度補償を行っている。
Lnとlogの底の変換は電圧増幅
器の利得を変えて行っている。
Oct. 13. 2010
対数逆変換の原理
• 対数逆変換は対数変換と同じくP-N接合の電流と電流の関
係を利用して変換する。
• ベース接地トランジスターのエミッター電圧とコレクター電流
関係が指数関数である事を利用して入力信号としてエミッ
ター電圧を与えてコレクター電流を電圧に変換して対数逆変
換を行う。底の変換は入力信号増幅率で行う。
• ダイオードだけでは逆変換は困難でTr又はトランスインピー
ダンス増幅器を利用して電圧を指数関数電流(電圧)に変換
する。
• 温度補償は対数変換と同じように同じ特性の素子を利用し
て行う。
Oct. 13. 2010
Trを使用した指数変換の原理
• ベース接地回路の入力信号電圧 Vin が自然対数であれば出
力のコレクター電流 Ic は近似的に次の様になる。
I c  I 0e
qVin
kT
Vout  Ic R  VB  e
Ic

Viv

Vout
R
VB
Oct. 13. 2010
qVin
kT
トランスインピーダンス増幅器とTrを用いた指数変換回路
R
Vin
Vout  R  I0e
qVin
kT
変換素子にベース接地Trを使用
した指数変換回路
R

Vin
Vout  R  I0e
qVin
kT
変換素子にベースとコレクターを
接続したP-N接合を使用した指
数変換回路
R

Vin
Oct. 13. 2010
Vout  R  I0e
qVin
kT
変換素子にP-N接合ダイオードを
使用した指数変換回路
トランジスター及びダイオードは指数変換特性の優れた素子を
選ぶ必要がある。温度補償は別途行う必要がある。

乗・除算回路
• 乗算回路及び除算回路は大きく分けて三つの方式がある。
– X,Yの二つの入力信号をそれぞれ対数変換した後に和や差の演算処
理を行った後に対数逆返還を行う乗算回路と除算回路。
– 抵抗回路分圧回路網と電圧制御スウィッチ回路網を用いた乗算と除
算回路、電圧制御型可変利得増幅器、乗算型DACとフラッシュADCを
用いた乗算回路。
– コンデンサーに充放電する電圧、電流、充放電時間関係を用いた乗
算回路と除算回路
Oct. 13. 2010
対数変換方式の乗除算回路
• 対数変換方式は乗・除算演算回路は対数変換回路と和・差演算回路及
び対数逆変換回路が一つの集積回路となって市販されている。
市販されている集積回路では接続を変更すれば一つの集積回路で乗・
除算両方の演算を行える様になっている素子がある。
Oct. 13. 2010
乗除算回路の例
• AD632
Oct. 13. 2010
抵抗分圧回路と分圧制御回路を用いた乗算回路
• 可変利得増幅器、乗算型DACを使用した乗算回路
– 抵抗回路網を外部信号で制御する電流分流回路を使用して基準電圧を制
御信号に比例した電流に変換する回路を構成要素にした回路。
– この回路を使用した抵抗帰還トランスインピーダンス増幅器で基準電圧とし
て入力信号を使用すると増幅器の出力電圧は入力電圧と制御信号の積に
比例する。
– 基準電圧が固定で制御信号がディジタル値の場合はDACとなる。
– 可変利得増幅器は基準電圧に入力信号を使用し、制御信号はアナログ電圧
を使用する場合とディジタル値を使用する場合がある。
出力電圧は入力信号と制御信号の積となる。
– 制御信号がディジタルの場合フラッシュADCで制御電圧をディジタル化すると
入力信号に比例したディジタル値が得られる。
– 両者とも集積回路として市販されている。
• トランジスタースウィッチで制御した抵抗分圧回路
– 電圧で制御するトランジスタースウィッチと抵抗分圧器で構成した乗算回路
で市販品は無い。
Oct. 13. 2010
乗算型DACの動作原理
• AD5424
Oct. 13. 2010
その他の乗算回路
• 抵抗回路とTrスウィッチを用いた乗算回路
Oct. 13. 2010
コンデンサーを充放電する方式の乗算回路
• 電流の振幅と継続時間が独立な入力信号変数となっている
パルス信号をコンデンサーに充電するとその電圧は二つの
入力信号の積になっている。
ΔTX
IX VX

VY
C
電圧制御
電流源

Oct. 13. 2010
Vout 
IY  TX
C
除算回路
• 除算回路は放射線の位置検出、核分裂片の質量比、等検
出器の出力信号の比が測定対象となる場合除算回路が用
いられる
• 対数変換して差を取る除算回路は集積回路化されて乗除算
回路として市販されている。
• 入力電圧Xに比例した電圧に充電したコンデンサーを入力電
圧Yに比例した電流で放電すると電圧がゼロになるまでの放
電時間は X/Y に比例する。
Oct. 13. 2010
対数変換方式の除算回路の例
• 乗除算集積回路(AD638)を使用した除算回路
Oct. 13. 2010
乗算回路を用いた除算回路の例
• AD632
Oct. 13. 2010
コンデンサーの放電時間を利用した除算回路の例
• 入力電圧Xに充電したコンデンサーを入力電圧Yに比例した
電流で放電する方式の除算回路
Oct. 13. 2010
核分裂片の質量比測定システム
Oct. 13. 2010
回路図
Oct. 13. 2010
最小・最大パルス選択回路
• 検出器を多数並べたテレスコープ
で入射粒子が各検出器に与えたエ
ネルギー dE/dX が僅かな場合
dE/dX は Z2 に比例するが、 エネル
ギー分布がガウス分布ではなくエ
ネルギーの高い方に尾を引いたラ
ンダウ分布になる。しかし、各検出
器の dE/dX の値はランダウ分布に
応じた確率で分布する。
• 各検出器の中から最小値の dE/dX
となった値を選び出して dE/dX の
分布を求めると最確値ピーク近くに
に集中した細い分布になり Z の分
解能が改善する。
• 粒子が相対論的エネルギーでは平
均エネルギーはエネルギーに応じ
て増加するが最小値を選択すると
固体ではほぼ一定になる。
Oct. 13. 2010
最小パルス選択回路
リニアーAND回路
ダイオードを使用した最小パルス選
択回路の原理
Tr を使用した最小パルス選択回路
の原理。ダイオードに比べて最小パ
ルス選択特性が改良されている。
V1は全入力がゼロの
時の出力電圧
V2は一つだけゼロで
他の入力がゼロで
ない場合の出力電
圧
VV V  n 1 1 n 1  
但し:
VV  V2 V1
RL R  
Vvは突き抜けてくる電圧で誤差となる。
この値を小さくするにはα>>10する必
要が在るがRを小さくするには限界が
 ありRLも立ち上がり時間が悪化するの

で大きくできない。
Oct. 13. 2010
ダイオードを Tr に取り替えると R はTr の
エミッター抵抗になり数十Ωと小さくなり RL
を大きくせずにαを大きくできる。
最小パルス選択回路の例
•
Trを使用した5入力最小パルス選択回路と特性
NPN Tr を使用した場合は負パルス
が入力信号となる。入力信号が正パ
ルスの場合は PNP Tr を用いる。
Oct. 13. 2010
実線は一つの入力の電圧をパラメー
ターにして他の入力の電圧を変化さ
せた時のVV=0の時の出力電圧の計
算値。点線は実測値
最小パルス選択回路の応用例
•
重1次宇宙線の核種を観測する気球実験に使用した観測装置のブロック図
Oct. 13. 2010
最大パルス選択回路
リニアーOR回路
• 最大パルス選択回路は形式としては最小パルス選択回路と
同じ回路を使用するが入力信号の極性が最小パルス選択
回路と逆極性になる。
• 入力信号の極性を最小パルス選択回路と同じ極性にする場
合は Tr の極性を逆にする(NPNとPNPを入れ替える)すれば
最大パルス選択回路になる。
Oct. 13. 2010
i番目パルス選択回路
• 最小値からi番目のパルスを選択する回路は最小パルス選択回路と最大
パルス選択回路を組み合わせると実現出来る。
N個のパルスの中から大きさに順で下から i 番目パルスを選び出す回路は
nの中から(i-1)個を残した入力のあらゆる組み合わせを取った物をm組作
る。M組それぞれの最小値を選び出すとその値は I,i-1,i-2,・・・2,1番目の信
号になる。M組の中から最大値を選び出すと下から i 番目の入力信号パル
スが選び出す事が出来る。
Oct. 13. 2010
ピーク伸張回路
• ピーク伸張回路は信号パルスのピーク値をアナログ量として
記憶する回路
• 信号パルスをコンデンサーに充電する時定数に対して長い
時定数で放電するとコンデンサーの電圧は信号が増加して
いる間は信号電圧にほぼ等しくなるがピークを過ぎて減少を
始めるとコンデンサーの電圧は放電時定数でゆっくりと放電
する。放電時定数に比べて短い時間で見るとコンデンサーの
電圧はピークの電圧を保持している。
• 充電と放電の時定数を切り換えるには電流の向きで抵抗が
変化する素子を使用すれば実現出来る。
• ダイオードや片方向電流スウィッチを使用すれば充電と放電
の時定数を切り換える事が出来る。
Oct. 13. 2010
ピーク伸張回路の例
D1
A2
A1
D2
C
簡略化したピーク伸張回路。
入力信号とコンデンサーの電圧をA1で比較して、信号が増加し
ている間はダイオードD1は順方向に導通して低抵抗でコンデン
サーを充電する。ピークになるとD1は逆方向になり高抵抗にな
りコンデンサーの電圧はピークの電圧に保持される。
Oct. 13. 2010
直流再生回路
• 微分回路は直流成分を遮断するため直流の情報が失われ、
平均値がゼロとなる様にベースラインが移動する。ベースラ
インが移動する。ベースラインとゼロレベルが一致しないと
パルスのゼロレベルに対する波高値はベースラインの移動
に対応して変化してしまう。この現象を防ぐには直流成分を
再生してベースラインをゼロレベルに固定する必要が在る。
• 正極性パルスに対する直流再生回路では直流を遮断してい
るコンデンサーを定電流で充・放電する事でベースラインを
ゼロレベルに復帰させる。
Oct. 13. 2010
直流再生回路の原理
• I-2I型直流再生回路 :ロビンソン型直流再生回路
信号が無い時ダイオードD1,D2には
均等に電流 I が流れている。入力
に正のパルスが加わるとD2は off
になりコンデンサーの電荷は定電
流 I で放電する。入力信号が負に
なると D1 が off になり D2 に 2I の
電流が流れるが負の定電流源は I
であるためコンデンサーに電流 I が
流れ込み充電する。ゼロに戻ると
無信号の状態に戻る。
Oct. 13. 2010
時間ーパルス波高変換回路の原理
• コンデンサー C に定電流からスタート信号からストップ信号
まで充電するとコンデンサーの電圧はスタートからストップま
での時間差を表している。
定電流源
I
ΔT
Vout
C
Oct. 13. 2010
Oct. 13. 2010