Advanced Topics in Economics I

上級価格理論II
第8回
2011年後期
中村さやか
今日やること
3. 不完備情報の静学ゲーム
• 3.2 応用
– 3.2.B オークション
– 3.2.C ダブル・オークション
最高価格・封印入札オークション ①
(first price, sealed-bid auction)
封印入札: 付け値を封印して提出
最高価格: 一番高い値を付けた人が自分の付け値で落札
ルール:
• 入札者は同時に(非負の)付け値を封印して提出
⇒ 他の入札者の付け値を知らずに自分の付け値を決定
• 一番高い値を付けた人が自分の付けた価格で落札
• それ以外の人は何も受け取らず、何も支払わない
• 付け値が等しいときには勝者はコインを投げて決定
最高価格・封印入札オークション ②
(first price, sealed-bid auction)
•
•
⇒
•
⇒
⇒
•
•
単純化のために入札者が2人の場合を考える i=1,2
入札者のその財に対する評価(留保価格): vi
入札者が価格 p で競り落とした時の利得
= vi – p
vi は私的情報:
自分の評価はわかるが相手の評価は知らない
vi は [0,1] 上の一様分布からそれぞれ独立に選ばれる
入札者は危険中立的
これら全てが入札者にとって共有知識
最高価格・封印入札オークション ③
(first price, sealed-bid auction)
行動空間:
Ai = [0, ∞)
(非負の)付け値を提出
タイプ空間: Ti = [0, 1]
プレーヤーの評価 vi
vj に対するプレーヤー i の信念:
(vi に関係なく) [0,1] 上の一様分布
プレーヤー i の利得関数:
vi  bi if bi  b j

ui (b1 , b2 ; v1 , v2 )  (vi  bi ) / 2 if bi  b j
0 if b  b
i
j

戦略空間:
bi(vi)
タイプ vi に応じて付け値を選択
最高価格・封印入札オークション ④
(first price, sealed-bid auction)
ベイジアン・ナッシュ均衡
• 戦略の組(b1(v1), b2(v2))が互いの戦略に対して最適反応に
なっている
⇔ [0,1] に属する各 vi に対し bi(vi) が以下の最適化問題の解
になっている



1
Max (vi  bi ) Pr bi  b j (v j )  (vi  bi ) Pr bi  b j (v j )
bi
2
 Max (vi  bi ) Pr bi  b j (v j )
bi



 Pr bi  b j (v j )  0


最高価格・封印入札オークション ⑤
(first price, sealed-bid auction)
ベイジアン・ナッシュ均衡の求め方
• 均衡戦略が線形だとあたりをつけて、均衡を探す
⇔ 均衡戦略が下の関数形をとると仮定し、パラメタの値を求め
る
b1(v1) = a1 + c1v1
b2(v2) = a2 + c2v2
• 実はこれが一意的ベイジアン・ナッシュ均衡
(証明は補論、講義では省略)
• プレーヤーの評価が一様分布であることでこうなる
最高価格・封印入札オークション ⑥
(first price, sealed-bid auction)
Max (vi  bi ) Pr[bi  b j (v j )]
bi
bj(vj) = aj + cjvj ⇒ bj(vj) は [aj, aj + cj] 上で一様分布
⇒ bi が相手の最低入札額を下回らない ⇒ bi ≧ aj
⇒ bi が相手の最高入札額を上回らない ⇒ bi ≦ aj + cj
Pr[bi > bj(vj)] = Pr[bi > aj+cjvj] = Pr[vj < (bi-aj)/cj]
0 < (bi-aj)/cj < 1より、 Pr[vj < (bi-aj)/cj] = (bi-aj)/cj
Max (vi  bi )(bi  a j )
bi
(vi - bi)(bi - aj) = - bi2 + bi(vi + aj) – viaj
1階の条件: 0 = - 2bi + vi + aj ⇒ bi = (vi + aj)/2
最高価格・封印入札オークション ⑦
(first price, sealed-bid auction)
bi = (vi + aj)/2 ⇒ ai = aj/2, ci = 1/2
bj = (vj + ai)/2 ⇒ aj = ai/2, cj = 1/2
⇒ ai = aj = 0
⇒ bi = vi/2, bj = vj/2
⇒ aj ≦ bi ≦ aj + cj の条件も満たされている
•
より一般的に、プレーヤーがN人の場合、 bi = vi (N-1)/N
が一意的なベイジアン・ナッシュ均衡
⇒ Nが無限大に近づくと bi は vi に近づく
(人数が多くなると正直になる)
ダブル・オークション ①
•
•
•
•
•
•
•
•
売り手は販売希望価格 ps を、買い手は購入希望価格 pb を同
時に提示
もし pb ≧ ps なら (pb + ps)/2 の価格で取引成立
もし pb < ps なら取引不成立
買い手の売り手の財に対する評価: vb
買い手が価格 p で買ったときの利得: vb - p
売り手の買い手の財に対する評価: vs
売り手が価格 p で売ったときの利得: p - vs
取引がなかったときは売り手の利得も買い手の利得もゼロ
vb と vs はそれぞれ私的情報で、 [0,1] 上の一様分布に独立
に分布
例: 企業は労働者の限界生産性を知っており、労働者は自
分が他にどんな仕事に就けるかを知っている
ダブル・オークション ②
•
•
•
vb
vs
売り手の戦略空間: pb(vb)
買い手の戦略空間: ps(vs)
戦略の組 {pb(vb), ps(vs)} が以下を満たしていればベイジアン・
ナッシュ均衡
1


pb (vb )  arg max  vb  pb  E[ ps (vs ) | pb  ps (vs )] Pr[ pb  ps (vs )]
pb
2


1

ps (vs )  arg max  ps  E[ pb (vb ) | pb (vb )  ps ] vs  Pr[ pb (vb )  ps ]
ps
2

E[ps(vs)|pb≧ps(vs)] :
取引が成立するという条件付きでの売り手の価格の期待値
E[pb(vb)|pb(vb)≧ps] :
取引が成立するという条件付きでの買い手の価格の期待値
ダブル・オークション ③
ベイジアン・ナッシュ均衡の求め方
• 線形の均衡戦略があるかどうか調べる
⇔ 均衡戦略が下の関数形をとると仮定し、パラメタの値を求め
る
ps(vs) = as + csvs
pb(vb) = ab + cbvb
•
均衡は他にもたくさんある
ダブル・オークション ④
買い手の最適反応
1


max  vb  pb  E[ ps (vs ) | pb  ps (vs )] Pr[ pb  ps (vs )]
pb
2


•
⇒
⇒
⇒
ps(vs) = as + csvs と仮定
ps(vs) は [as, as + cs] 上に一様分布
Pr[pb ≧ ps(vs)] = (pb - as)/ cs
E[ps(vs)| pb ≧ ps(vs)] = (as + pb)/2
( pb ≧ ps(vs) の条件の下での最小値と最大値の平均)

1
 pb  as   pb  as 

max vb   pb  
 
pb
2
 2   cs 

ダブル・オークション ⑤
買い手の最適反応

1
 pb  as   pb  as 

max vb   pb  
 
pb
2
 2   cs 

一階の条件より、 pb = (2/3)vb + (1/3)as
⇒ 売り手の最適反応が線形なら買い手の最適反応も線形に
なる
ダブル・オークション ⑥
売り手の最適反応
1

max  ps  E[ pb (vb ) | pb (vb )  ps ] vs  Pr[ pb (vb )  ps ]
ps
2

•
⇒
⇒
⇒
pb(vb) = ab + cbvb と仮定
pb(vb) は [ab, ab + cb] 上に一様分布
Pr[pb(vb) ≧ ps] = (ab + cb - ps)/ cb
E[pb(vb)| pb(vb)≧ps] = (ab + cb + ps)/2
(pb(vb) ≧ ps の条件の下での最小値と最大値の平均)
1
 ab  cb  ps 
ab  cb  ps 


max   ps  
  vs 
ps
2
cb



2

ダブル・オークション ⑦
売り手の最適反応
1
 ab  cb  ps 
ab  cb  ps 


max   ps  
  vs 
ps
2
cb



2

一階の条件より、 ps = (2/3)vs + (1/3)(ab + cb)
⇒ 買い手の最適反応が線形なら売り手の最適反応も線形に
なる
ダブル・オークション ⑧
反応関数
ps(vs) = as + csvs
pb(vb) = ab + cbvb
ps = (2/3)vs + (1/3)(ab + cb) ⇒ as = (ab + cb)/3, cs = 2/3
pb = (2/3)vb + (1/3)as
⇒ ab = as/3, cb = 2/3
•
as = (ab + 2/3)/3, ab = as/3 を連立方程式として解くと
as = 1/4, ab = 1/12
ps(vs) = 1/4 + (2/3)vs
pb(vb) = 1/12 + (2/3)vb
ダブル・オークション ⑨
取引が行われるのが効率的
vb
⇔ vb ≧ vs
3/4
1
反応関数:
ps(vs) = 1/4 + (2/3)vs
pb(vb) = 1/12 + (2/3)vb
取引が行われる⇔ pb≧ps
⇔ vb ≧ vs + ¼
売ら
ない
1/4
取引が行われた方が効率的
なのに行われないことがある 0
買わ
ない
1 vs
ダブル・オークション ⑩
買い手の最適反応
pb(vb) = 1/12 + (2/3)vb
bb
買わ
ない
過小申告
1
買わない:
• vb<1/4の買い手は買わ
ないのが最適なので買
えない価格(<1/4)を出
すのが最適
戦略的過小申告:
1/4
• 自分にとっての価値よ 1/12
りも低い価格を出す
0
45°
1/4
1 vb
ダブル・オークション ⑪
売り手の最適反応
ps(vs) = 1/4 + (2/3)vs
bs
売ら
ない
過大申告
1
過小申告:
• vs>3/4の売り手は売ら
ないのが最適なので売 3/4
れない価格(>3/4)を出
すのが最適
戦略的過大申告:
1/4
• 自分にとっての価値よ
りも高い価格を出す
0
45°
3/4
1 vs
ダブル・オークション ⑫
Myerson & Satterthwaite (1983)
• 評価が一様分布をしているならば、ダブル・オークションで
の線形均衡が他のどんなベイジアン・ナッシュ均衡よりも高
い均衡利得をもたらす
⇒ 取引が効率的であるとき、かつそのときに限って取引が行
われるようなダブル・オークションのベイジアン・ナッシュ均
衡は存在しない
⇒ 雇用が効率的であれば必ず雇用が生じ、雇用が効率的で
ない場合には絶対に雇用が生じないような均衡はない