2015年春学期 「現代の経営」 第6回 プロダクト・サイクル仮説と異文化経営 樋口徹 1 内部化理論(1970年代の議論) • 内部化理論は、企業が 市場取引 でなく、内部(組織)化す る要因を説明している(外部から購入するより、自社で生産し た方が得)。 • 市場の 不完全 性によって、外部から取引によって調達す る費用が割高と判断される場合に、自社での生産や販売に切 り替えを行う。 ※市場の不完全性とは具体的に以下を指す; 競争の不安全性;独占や寡占などにより市場競争が適正に行 われていない状況 情報の不完全性;実際に要した費用などを外部企業が正確に 把握することができない状況 • 海外から部品を購入する際に、現地企業が提示した価格が割 高で、自社で品質を下げることなく、低コストで生産できると判 断した場合、海外直接投資を行う方が得策となる。 2 折衷理論:ダンニングのOLIパラダイム ※折衷とは、両方の良い所をとってほど良く調和させること 海外直接投資を行う前提条件 • 「 所有 優位性(Ownership-advantages)」がある; ある企業が海外進出(海外直接投資)することによってその企業 の利益につながる源泉がある。例えば、安いコストで生産するこ とができるとか、消費者がその企業のブランドを信頼している (売上増)とか。 • 「 内部化 優位性(Internalization-advantages)」がある; 所有優位性を生み出す源泉を、他社に任せず、自社で行う方が 利益につながる。ライセンシング契約やフランチャイジング契約 では技術流出や利益を独占できない。 • 「 立地 優位性(Location-advantages)」がある; 内部化優位性があり自社で行った方が得で、輸入で代替するこ とができない製品・サービスやプロセス。 3 多国籍企業化のメリット 生産拠点への海外直接投資 ・人件費や土地などの 安価 な資源を活用できる(コスト削減) ・良質で 豊富 な資源を利用することができる(エネルギーなど の資源確保) 販売拠点の海外直接投資 ・現地市場の ニーズ を把握しやすい(製品開発力) ・企業ブランドの 信用 が増す(マーケティング力) ・売り上げ増加につながる(大量生産;規模の経済) ・売り上げの 安定 化(販売先のポートフォリオ) 生産/販売拠点への海外直接投資 ・海外市場の近接地域で生産することができるので、輸送費用の 削減や 関税 の回避が可能。 ・現地ニーズを迅速に新製品に反映できる。 4 多国籍企業が抱えるデメリット(現地企業に対して) 生産拠点や販売拠点への海外直接投資を行う際に、 ・ 言葉 の違い ・ 文化 の違い ・経済 制度 の違い ・ 商習慣 の違い などによってデメリットを抱える可能性がある。 ※これらの違いはそれらを理解し、必要な対応を進めて行くことに よってある程度解消できるものもある。 ※自社の優位性あるいは経営資源(資金やノウハウ等)を地球規模 で活用するために、海外直接投資のメリットとデメリットを比較して、 海外直接投資の規模と内容を決定する。 5 日本企業の経営国際化の経緯 1945年 敗戦による海外資産喪失 1950年代 海外直接投資再開 1960年代 東南アジア諸国における輸入規制(高関税)強化により、 輸出から現地生産へ( ノックダウン 方式:組立工程 のみを移転;部品の大半は日本製)/欧米では販売拠 点への直接投資 1970年代 ニクソンショック( 変動為替相場制 に移行;円高 へ)+欧米諸国の保護主義政策(海外直接投資拡大) ※人件費の安いアジア地域で生産し、欧米で販売 1980年代 プラザ 合意(急激な円高)⇒海外直接投資本格化 1990年代 バブル 崩壊やアジア経済危機(円安基調でも海外生産 が進展した) 2000年代 円高 の進行(逆輸入の増加) 6 現地生産開始後の経営国際化の典型的パターン 現地生産(=海外生産子会社の設立) ・本社に 国際事業部 設置(現地部品メーカーとの取引や現 地従業員の管理業務が多くなるので、本社に海外事業を統 括することが主な目的;国内事業と海外事業を区分) ・海外 金融 子会社設立(現地生産には多額な資金が必要と なるので、それを調達することが主な目的) ・ 開発・設計 センター設立(現地市場のニーズに合った製品 を開発し、販売することが主な目的) ※海外での事業の比率が高くなると、世界的な製品別事業部(国際事業部で なく、製品別事業部が統括)や地域別事業部(各地域を地域別事業部が 統括)などが設置されるようになり、国際事業部は発展的に 解消 さ れるようになる。 7 プロダクトサイクル仮説(本国優位性の移転) • バーノンが提唱した海外直接投資パターンに関する 仮説 (=仮定:検証されたら理論になる)。 • 新製品 に分類される時期は、最先進国(米国)で生まれ、そ こで独占的に生産活動が行われ、消費される。 • 次第に、他の先進国でも需要が大きくなった段階で、輸出から 他の先進国での 現地生産 に切り替える。 • さらに、世界的に需要が大きくなり、量産体制が整った後は、 価格競争がし烈になる。 • 最終的には、生産拠点は 低コスト で操業できる国や地域 に移転する。 ※理論とされていない理由は、検証が難しいから。多数の国から多数の 企業が参入し、製品によっては典型的なパターン通り移行していか ないから。さらに、検証するのに数十年かかるので時代背景が異な るので、比較が難しい。 8 プロダクトサイクル仮説の時期 生産拠点に関するパターンを製品の状況から整理している 新製品 段階 時間 経過 成熟 段階 時間 経過 標準化 段階 新製品段階では、製品の改良の余地が多分にあるので、技術力 と評価する市場の存在が重要となる。 成熟段階では、基本的な設計は確定したので、大量生産などの生 産技術面での優位性が重要となる。 標準化段階では、設計や生産方法などでの差別化が難しくなるの で、生産可能な企業や地域が増える。 9 プロダクトサイクル仮説の時期区分 生 産 技 術 か ら 分 類 生産開 始時点 製品概要 需要地域 生産場所 新 最先端 最先進国 製 (米国) (試行錯誤し 最先進国 品 ながら製品 (部品から 段 (米国) 開発) 完成まで) 階 備考 市場調査と 最新の科 学技術が 必要 海外需要 が少ない 間は輸出 で対応 成 熟 段 階 製品設計や 部品の標準 化が進展 他の先進 国に拡大 標 準 化 段 階 技術面での 参入障壁が なくなり、価 格勝負 (低コスト 拠点を絞り 発展途上 の)資源国 込んで、規 国に拡大 で集約的 模の経済 に生産 を享受 先進国で の現地生 産の開始 10 図:(日本企業による)VTR生産の推移 百万台 40 35 輸出台数 輸入台数 国内生産台数 海外生産台数 他の先進国で現地生産 日本国内で 独占的生産 30 国内出荷台数 途上国での現地生産本格化 25 20 15 日本は 輸入国 10 5 西 暦 0 76 78 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 日本は独占的な生産・輸出国から輸入国に変化 11 本国優位性(=日本的経営)の移転 • 日本経済が急成長した時に、日本企業の強さを生み出すもの として日本的経営が世界から注目された。日本的経営とは、 終身雇用、年功序列賃金、企業別組合 とされている。 • 終身雇用は、定年まで同じ企業内で働くのが当然であった(経 済は成長を続け、人口構成もバランスが良かったので、可能で あった;結果としては、 技術流出 防止に効果)。 • 年功序列賃金は、勤続年数に応じて、給与が自動的に上がる 仕組み。従業員の会社への帰属意識とモチベーション(仕事へ の意欲)を高める効果があった(従業員間の不毛な競争を抑制 する効果があったが、悪平等の批判もある)。 • 企業別組合:企業単位なので、協調性のある労使関係を構築 できる(欧米では 産業別 組合が中心なので、個別企業の 事情が反映されづらい) ※実際の強さは、QCサークル(品質向上のための現場の活動)やTQM(全 社的品質管理)などの生産システムであった。 12 トロンペナールスの文化測定の7次元 トロンペナールス&ハンデンターナー著、須貝栄訳『異文化の波』白桃書房、2001年。 【①普遍主義/個別主義】 普遍主義・・・ 原則 を重視し、例外を認めない(契約や訴 訟重視) 個別主義・・・状況に合わせて、 個別 に判断(柔軟な運用 と人間関係重視) ※人間関係は時間をかけて構築する必要がある。 【②個人主義/共同体主義】 個人主義・・・個人が中心(フランスを除く、欧米諸国が強く該 当) 共同体主義・・集団や組織が中心(日本、中国、フランス) ※個人主義と共同体主義を両立させるには、明確な目標を与え、個々の やる気を重視し、責任を明確化することが有効とされている。 13 トロンペナールスの文化測定の7次元(続き) 【③感情中立的/感情表出的】 感情中立的・・・感情を表に出さないのは、日本とエチオピア 感情表出的・・・感情的なのはスペイン、イタリア、フランス ※感情中立的な人が感情表出的な人と付き合うには、情熱を持って接し、 人を中心に考える必要がある。逆の場合は、交渉に先立ち、種類 を整備し、具体的な話題を中心に話を進めるのが必要。 【④特定的/拡散的】 特定的・・・仕事上の関係や肩書が 仕事場 に限定(米国、イ ギリス、スイス、北米など) 拡散的・・仕事上の関係や肩書が 私生活 に及ぶ(中国、ネ パール、ナイジェリアなど) ※特定的な文化においては、核心的な部分から話を進め、拡散的な文化で は、一般論から入り、時間を掛けて、核心部に入るのが有効とされてい る。 14 トロンペナールスの文化測定の7次元(続き) 【⑤業績主義/属性主義】 業績 主義・・・社会的評価が業績によって決定(プロテスタント系) 属性 主義・・・社会的評価が年齢・学歴などによって決定(カソリッ ク、ヒンズー教徒、仏教徒) ※年長者(相手の地位を尊重)を重んじる必要がある場合と実務的知識の豊富 な人に仕事を担当させる場合(この場合はデータで示す必要あり)があ る。 【⑥時間との関係】 断続 的・・・過去、現在、未来のつながりが切れている(ロシアや ベネズエラ) 連続 的・・過去、現在、未来の重複が多いと感じる(日本、マレー シア、フランス、カナダ、ノルウェーなど) 【⑦環境との関係】 自然や人生をコントロールしようとする姿勢は欧米諸国で強く、自分を自然の一 部と認識しているのは、ロシアや中国とされている。 15 ホフステードの異文化経営論 世界40カ国のIBM(多国籍企業)の現地法人社員11万6千人か らのアンケート結果(1968年と1972年実施) 「文化」・・・「集団やカテゴリーごとに集合的に人間の心に組み込ま れたもの(集団的なメンタル・プログラム)」 ホフステードは文化を上記のように定義し、以下の5次元の指標で 評価した。 【①権力格差指標】権力の不平等を受け入れる程度 【②個人主義指標】個人主義の程度(集団内の忠誠は低い) 【③男性度指標】男性中心の程度(女性の地位の低さ) 【④不確実性回避指標】未知の状況に対して抱く脅威の度合い 【⑤長期志向指標】忍耐などの度合い (後から追加された) 16 【①権力格差指標】権力の不平等を受け入れる程度 -社員が自由に 意見 を表明できるか? - 上司 の意思決定は専制的か温情的か? -上司のどのような意思決定が 部下 に好まれるのか? ※権力格差指標が高い(従順な)のは、ラテン諸国(南欧や地中海地域)、アジ ア、アフリカで、低いのはアメリカ、イギリス、欧州(ラテン諸国除く)であった。 【②個人主義指標】個人主義の程度(集団への忠誠は低い) -余暇 (余暇の過ごし方は?個人的か?) - 自由度 (自分の責任で決められる範囲は広いか)? -個人の 挑戦 する意思の重視 (↔集団主義なら軽視) -研修、条件、技能の活用度合 (重視しているか?) ※個人主義指標が高いのは、欧米諸国で、低いのは中南米諸国であった。 17 【③男性度指標】性別による役割や価値観の明確な相違 -男性との間の収入格差、仕事の評価や昇進の違い、 -上司との関係、同僚との協力、快適な家庭環境など ※男性度指標が一番高いのは 日本 で、低いのは 北欧 諸国。 【④不確実性回避指標】未知の状況に対して抱く脅威の度合い -仕事上の ストレス - 規則 に対する志向性(遵守・依存) -希望する勤続 年数 ※不確実性回避指標が高いのはラテンアメリカ、ラテン諸国、日本、韓国 【⑤長期志向指標】忍耐などの度合い( 儒教 思想が影響) -忍耐、秩序や肩書重視、倹約、恥の文化など ※高いのは中国、香港、台湾、日本、韓国 18
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