平成25年度教員免許状更新講習 平成25年8月22日 学習意欲向上の教育生理学的理論の検討 ドーパミン神経系活性化による自己報酬の可能性 千葉大教育 長根光男 (教育心理学,教育生理学) 研究室ホームページ (北海道,尻別川) http://www.nagane-education.jp/ 1 問題意識と仮説 子どもの真のやる気を育成するため の,教育生理学,教育心理学的知見 とは何か? 楽しさの感覚の背景には生理学的背 景があるのではないか? 真の学習の楽しさとは何か?現代 の社会システムに問題点が内包さ れていないか? 2 なぜ学習に意欲的でない児童生徒がいるのか? 心理学的な分析 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 学習に目的意識を持てない 同じパターンの授業展開の繰り返し 新奇刺激の欠如や多すぎる情報量 学習が強制させられる 簡単過ぎる授業内容,or 理解を超えた授業内容 授業者と相性が合わない • これだけの分析で終了してよいのか? 3 なぜ遊びは楽しいか? • 自分が中心 • 興味のあることをしている • 適度なスリル感がある 報酬としての快感 遊びは,内発的報酬を感じることで成立するのではない か。学習の中に,知的な遊びの要素を取り入れられない か? 文化は遊びから生まれる (Huizinga, 1938) 4 マスタリーラーニングの再評価 • ブルームの完全習得学習 完全習得学習(マスタリーラーニング)は、B・S・ブルーム(Bloom)ら によって1960年代後半にモデル化された教育方法 • 完璧なようだが・・・失敗(?) • • • • • 学習単元において達成されるべき目標群を明らかにする 達成すべき最低到達基準(マスタリー基準)を定める 各目標のどれがすでに達成され、どれが未達成であるかを明らかにする 形成的評価をする 目標に達成していない場合,適切な与えるべき教材や治療的指導を準備し、各 学習者の課題達成状況に応じて与える 5 学習理論・報酬系に着目してみると, ソーンダイクの試行錯誤説 報酬は何か?脱出 に快感を感じていな いか? スキナーのオペラント条件づけ (Thorndike, 1911) 効果の法則 行動と報酬(罰)の結合を学習 (Keller & Schoenfeld, 1950) 6 オペラント条件づけによる快感(報酬)回路の発見 自己刺激パラダイム self-stimulation paradigm 快感中枢pleasure centerを刺激する 1時間に 7000回も! OldsとMilner, 1954によるドーパミン報酬経路 Positive reinforcement produced by electrical stimulation of septal area and other regions of rat brain, J of Comparative & Physiological. Psychology. (出典 バイオサイコロジー,西村書店, 2007,一部改変) 7 報酬系はドーパミン神経系 • 報酬系は,中脳の側坐核 大脳皮質前頭前 野に投射するドーパ ミン神経系であることが 同定された • Robert G. Heath, “Depth recording and stimulation studies in patients”, in Arthur Winter, ed. The Surgical Control of Behavior 1971 • 報酬系が活性化するのは,必ずしも欲求が 満たされた時だけではなく,報酬を得ることを 期待して行動をしている時にも活性化する。 (引用 松岡俊行 「依存症--溺れるこころ」を探る こころの未来 京都大学こころの未来研究センター, 2008) 8 意欲・情動に関与する脳内物質 ー報酬系はドーパミンだけだろうか?ー • ドーパミン(dopamine) 快に関わる脳内物質。この分泌が多いと,意欲がみなぎる。 学習の強化因子。 • ノルアドレナリン(noradrenaline) ネガティブな気持ちを引き起こす脳内物質。 この分泌が多いと,不安やストレスが増す。 • セロトニン(serotonin) 平常心をもたらす脳内物質。 この分泌が多いとストレスに対して動じない心をもたらし,冷静な 状態を保つ。 • エンドルフィン(βendorphin) • エンケファリン (enkephalin) 9 学習と知的快感 • 多くの子ども達はゲーム感覚が好き! どうなるか分からないことの面白さ 勉強の好きな子 友達の発表や発言を楽しんでいる ヒトはいつでも情報を求めている 学習=自己発見だ! 知的新鮮さ 先生や友だちの評価 自己目標への達成度 将来への可能性 感覚遮断の実験例 10 心理学的動機づけ理論と報酬 ーどちらも報酬に依存しているのではないか?ー ☆ 外発的動機づけ extrinsic motivation ・ 外的報酬 注) Deci (1971) によるアンダーマイニング効果 Deci,E.L.1971 Effects of externally mediated rewards on intrinsic motivation.Journal of Personality and Social Psychology,18,105-115. ☆ 内発的動機づけ intrinsic motivation ・ 内的報酬 楽しいから学習する。必要だから学習する ドーパミン神経系が活性化? (フィンランドでの授業場面) やりがいと神経科学物質 • 「やりがいがあると思う活動をしていると,感情にか かわる重要な神経化学物質が増加する。」 Kelly Lambert - Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 2006 – Elsevier • 「報酬の提示によって,ポジティブ情動(快情動)が 生じ,行動が強化・維持されるのではないか。」 Pickering & Gray, 1999., Gray & McNaughton, 2000 ・「罰の除去によって,接近行動とポジティブ情動が増 加する。」 12 仮説としてのまとめ 報酬系を活性化するためには,必ずしも他者 から外的報酬を与えられる必要はない 外的報酬がなくても,動機づけが可能 (内発的動機づけとの関連性) 自分で課題を乗り越える経験の重要性 13 努力による報酬系が働くと 幸福感が大きい • やりがいがある活動をしていると 活動に関わる神経科学物質が増加 Kelly Lambert , 「便利な暮らしが生む精神の危機」 成功と失敗の脳科学 日経サイエンス社 184 自分で課題を乗り越える経験の重要性 14 自分が学習の中心であるとの意識が重要 子ども達の「主体性の 意識」を確立させるた めに ・授業で考える場を多く設定する ・授業で発言の場を多く設定する ・教師からの発問・応答のタイプの 見直し ・個に応じた指導 15 終わりに 学習者の主体性の確立の重要性 • プラスの自己イメージ • 目標に向かって進んでいることの快感 そのためには,教育関係者は, ・指導と支援 ・カウンセリング・マインド 16
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