稲垣貴彦*・***、田中恒彦**、丸川里美***、栗原愛***、眞田陸****、 藤井勇佑***、中村英樹****、栗山健一***、山田尚登*** *滋賀県立精神医療センター **新潟大学教育学部 ***滋賀医科大学精神医学講座 ****長浜赤十字病院精神科 2016.6.4 第112回日本精神神経学会学術総会 at 幕張メッセ 利益相反 演者は以下の団体から資金提供を受けている。 滋賀県(寄附講座所属・本研究期間中) 大塚製薬(奨学寄附・本研究終了後) 本研究と直接関係は無いが、 演者は以下の団体からの資金提供を受けている。 塩野義製薬(受託研究) JA共済(研究助成) 滋賀医学国際協力会(研究助成) はじめに 急性期を離脱した統合失調症の患者に対しては、通常 我々は維持療法を行う。抗精神病薬の継続は再発予防に 有効である(Leucht, 2012) しかし、維持療法の目的は再発予防だけではなく、個人 の人生における目標の達成であったり、社会参加など、 多岐にわたる。 他の薬剤からアリピプラゾール(ARP)への変薬により、 患者や家族にはARPが前薬より効果的に感じられ、実際 にQOLを向上させることが知られている(Wolf, 2007、 Taylor, 2008)。 一方で、PANSSの総合得点ではARPは他の薬剤と差を認 めず(Leucht、2013)何がQOLを改善させ、満足度を高 めているのかについては知見に乏しい。 目的 他の抗精神病薬からARPに変薬したときの症状変化 をより詳細に追跡することで、患者自身の満足度の 改善に寄与する因子が何であるのかを明らかにする。 方法 前向きケースシリーズスタディ 対象:就学就労をしていない成年統合失調症患者 ただし、3ヶ月以内に変薬があった者を除く 期間:2010.5~2014.7 本研究は滋賀医科大学及び長浜赤十字病院の 倫理委員会の承認を得ている。 方法2 0W 2W 6W 10W 26W 30W ARP12mg の加薬 ARP18mg への増量 ARP30mg への増量 前薬の 漸減開始 前薬の 終了 最終評価 鎮静が強い場合は 前薬の減量を行う 鎮静が強い場合は ARP12mgまで減量を検討する 0Wと2W、30Wに、QLS, PANSS, SWNS, SDSS, DIEPSSを評価する 結果 20名から同意取得を行い、13名がプロトコールを完遂した。 ドロップアウト7名のプロファイル 2人が初回アセスメントの前に同意撤回 薬物変更による症状悪化を懸念 1人が処方変更のプロトコルに従わずに自己変薬 鎮静が強いことを理由に2週を待たず前薬を自己中断 1人が陽性症状悪化のために途中終了⇒前薬へ復帰し速やかに回復 3人がアカシジアのために途中終了 ⇒前薬へ復帰で速やかに回復 完遂13名のプロファイル 性別:男性8名、女性5名 年齢:中央値28.0歳(20.0-57.0) 前薬のプロファイル 多剤4例、リスペリドン4例、オランザピン3例、 クエチアピン1例、クロルプロマジン1例 増悪群(精神症状及び副作用)と完遂群の比較 QLS-対人関係と社会的ネットワーク尺度 N=4 Mann-Whitney U検定 : U=7.0 p<o.o5 ES=-0.52 中央値22.5 95%CI 18-25 N=13 中央値13.0 95%CI 6-24 QLS-仕事・学校・家事などの役割遂行尺度 N=4 Mann-Whitney U検定 : U=7.5 p<o.o5 ES=-0.51 中央値16 95%CI 9-20 N=13 中央値7.0 95%CI 0-17 他の尺度・抗精神病薬処方量には有意な差を認めなかった。 統計解析にはStat Flex Ver. 6.0を用いている 完遂群の抗精神病薬投与量の変化 N=13 Wilcoxon検定: T=13.5, NS 中央値500(95%CI 100-3025) 中央値525(95%CI 300-750) QLS-対人関係と社会的ネットワーク尺度の変化 N=13 Friedman検定: χ2r=7.9, p=0.02 * Dunn検定 *:p<0.05 開始時と30W後の比較:Wilcoxon検定 ES=0.70 統計解析にはStat Flex Ver. 6.0を用いている QLS-精神内界の基礎尺度の変化 N=13 Friedman検定: χ2r=16.0, p=0.0003 ** Dunn検定 **:p<0.01 開始時と30W後の比較:Wilcoxon検定 ES=0.83 統計解析にはStat Flex Ver. 6.0を用いている QLS-他の尺度の変化 仕事・学校・家事などの役割遂行 一般的所持品と活動 N=13 Friedman検定: χ2r=4.6, NS N=13 Friedman検定: χ2r=0.41, NS 統計解析にはStat Flex Ver. 6.0を用いている PANSS-陽性症状尺度の変化 N=13 Friedman検定: χ2r=3.5, NS 統計解析にはStat Flex Ver. 6.0を用いている PANSS-陰性症状尺度の変化 N=13 Friedman検定: χ2r=20.5, p<0.0001 ** ** **: Dunn検定 p<0.01 開始時と30W後の比較:Wilcoxon検定 ES=0.88 統計解析にはStat Flex Ver. 6.0を用いている PANSS-総合精神病理尺度の変化 N=13 Friedman検定: χ2r=16.8, p=0.0002 ** * Dunn検定 **:p<0.01 *:p<0.05 開始時と30W後の比較:Wilcoxon検定 ES=0.81 統計解析にはStat Flex Ver. 6.0を用いている SWNS、SDSS、DIEPSSの変化 SWNS N=13 Friedman検定: χ2r=3.9, NS SDSS N=13 Friedman検定: χ2r=1.7, NS DIEPSS N=13 Friedman検定: χ2r=4.8, NS 統計解析にはStat Flex Ver. 6.0を用いている 変数の変化量の相関 Rs=0.21 Rs=-0.26 Rs=0.05 Rs=-0.51 Rs=-0.41 Rs=0.52 いずれの変数間にも有意な相関を認めなかった 統計解析にはStat Flex Ver. 6.0を用いている 考察 ARPへの変薬は以下の要素を介して 治療満足度の向上に貢献していると推測された。 ①対人関係の改善 ②陰性症状 ③抑うつ・不安等の精神病症状以外の精神症状 回復期の治療においては再発防止のみならず、これらの要素を 改善あるいは低下させない工夫が必要である。 ARPへの変薬は有効な手段の一つであるが。。。。 急性期を乗り越えた患者にとって変薬による症状悪化の不安は、 当初予想していたよりも大きかった。 4年を超える募集期間内に、研究参加の同意は20名からしか得 られず、うち2名は変薬への不安を理由に同意撤回している。 実際4名は副作用を含む症状悪化を理由に中断した。 (前薬の復元で速やかに改善はしたものの) 特に元来対人関係が比較的保たれ、コミュニティの中での役割 を遂行できている例では変薬は不適切である。 回復期患者の更なる改善にむけて 社会機能改善や精神病症状以外の精神症状に対して 有効な非薬物的治療(家族心理教育、SSTやCBTな ど)の併用を積極的に検討するべきであろう。 鎮静効果の少ないARPなどの薬物の使用を、まず急 性期から検討することも重要ではないかと考える。 対人関係が保たれていない例については、維持期に おいてARPへの変薬を積極的に検討するべきかも知 れない。 その場合はリスクとベネフィットについて、患者や家 族と綿密に意思疎通(Shared Decision Making)を図 るべきであろう。 ご静聴ありがとうございました [email protected]
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