高血糖は骨髄造血を促進しアテローム性動脈硬化症の回復に障害をきたす

Cell Metabolism, May, 2013
Hyperglycemia Promotes Myelopoiesis
and Impairs the Resolution of Atherosclerosis
高血糖は骨髄造血を促進しアテローム性動脈硬化症の回復に障害を
きたす
2015/11/30
M2 瀧井靖歩
骨髄造血
について
骨髄造血:
骨髄に存在する
造血幹細胞が、
白血球・赤血球・
リンパ球・血小板・
肥満細胞・樹状細
胞などの血球系の
細胞に分化するこ
と。
骨髄
HSPC:造血幹細胞
CMP:
骨髄系前駆細胞
リンパ球系前駆細胞
赤芽球系前駆細胞
赤血球
GMP:
顆粒球/マクロ
ファージ前駆細胞
樹状細胞
リンパ
組織
巨核球
血液
血小板
骨髄芽球
単球
好塩基球
(R&D Systems HPより
一部改変)
単球由来
樹状細胞
マクロファージ
好中球
好酸球
アテローム性動脈硬化症について
ケモカイン
単球
マクロファージ
接着分子
外膜
中膜
血管内皮細胞
接着
浸潤
プラーク形成
血管内皮細胞
遊走
分化
中膜
外膜
泡沫化
背景と目的
糖尿病患者において白血球数が増加し、アテローム性動脈硬化症のリスク上昇に関わる。
(Am. J. Epidemiol., 2002)
血中の単球や好中球の増加は、単球/好中球のプラークへの侵入の増加やプラークの拡大
を促進する。(J. Clin. Invest., 2007)
糖尿病はインスリンシグナル異常や、脂質異常症、高血糖などのさまざまな代謝異常に関
わっている。
しかし、これらの代謝異常がどのように白血球の増加に関わっているかは明らかでない。
糖尿病
高血糖
脂質異常症など
白血球の増加
① 糖尿病における単球や好中球の増加メカニズムを解明する
プラーク
の拡大
背景と目的
ヒトで血漿中のコレステロール値を下げることで、プラークが退縮する。
(N. Engl. J. Med., 2011)
筆者らは以前の研究で、糖尿病を発症したマウスではプラークの退縮が抑制されること
を確認した。(Diabetes, 2011)
→メカニズムは明らかになっていない。
プラークの
退縮
血中コレステ
ロールの低下
←メカニズム?
② 糖尿病とアテローム性動脈硬
化症の関連性を、特にプラークの
退縮に着目して評価する。
糖尿病
③ 1型糖尿病患者を対象として、ヒトでもマウスと同様のメカニズムが働いているかを確
かめる。
① 糖尿病における単球や好中球の増加メカニズムを解明する
糖尿病
高血糖
脂質異常症など
白血球の増加
プラーク
の拡大
② 高血糖とアテローム性動脈硬化症の関連性を、特にプラークの退縮に着目して
評価する。
③ 1型糖尿病患者を対象として、ヒトでもマウスと同様のメカニズムが働いているか
を確かめる。
白血球の増加は高血糖に依存する
 WTとSTZ糖尿病モデルマウスを普通食で4週間飼育し、血中の白血球を採取
 蛍光標識された抗体(anti CD45, anti Ly6C/G, anti CD115)で白血球を染色
 フローサイトメトリーで測定
※SGLT2i (Sodium Glucose Cotransporter 2 inhibitor)
尿細管からのグルコースの再吸収を阻害する。
→尿中へのグルコースの排出を増加させることで
血中グルコースを減少させる。
※Ly6-C:骨髄細胞分化抗原
Ly6-Chigh単球はM1 Mφへ、Ly6-Clow単球はM2 Mφへ分化する。
単球
単球
好中球
CD45
High
High
Ly6C/G
High
or
Low
Low
CD115
High
Low
好中球
白血球の増加は高血糖に依存する
 WTとAkita糖尿病モデルマウスを普通食で4週間飼育し、血中の白血球を採取
 蛍光標識された抗体(anti CD45, anti Ly6C/G, anti CD115)で白血球を染色
 フローサイトメトリーで測定
※SGLT2i (Sodium Glucose Cotransporter 2 inhibitor)
尿細管からのグルコースの再吸収を阻害する。
→尿中へのグルコースの排出を増加させることで
血中グルコースを減少させる。
※Ly6-C:骨髄細胞分化抗原
Ly6-Chigh単球はM1 Mφへ、Ly6-Clow単球はM2 Mφへ分化する。
単球
好中球
CD45
High
High
Ly6C/G
High
or
Low
Low
CD115
High
Low
高血糖によって糖尿病マウスにおける血中白血球数が増加した。
骨髄造血の増加は高血糖に起因する
WTとSTZ、Akita糖尿病モデルマウスを普通食で4週間飼育し、骨髄中のHSPC、CMP、
GMPの数をフローサイトメトリーで測定した。
血球の分化
HSPC:造血幹細胞
CMP:骨髄系前駆細胞
GMP
顆粒球/
マクロファージ
前駆細胞
(R&D Systems HPより一部改変)
高血糖によって糖尿病マウスにおける骨髄造血が促進した。
骨髄造血の増加は高血糖に起因する
野生型とSTZ、Akita糖尿病モデルマウスを普通食で4週間飼育し、骨髄中のHSPC、CMP、
GMPの細胞周期を測定した。
DAPIで染色
↓
フローサイトメトリーで蛍光強度を測定
核当たりのDNA量
細胞周期について
間期
分裂期
間期
M期
G1期
2
1
G1期
S期
G2期
高血糖によって糖尿病マウスにおける骨髄造血が促進した。
骨髄造血に
関わる因子
について
HSPC:造血幹細胞
CMP:
骨髄系前駆細胞
リンパ球系前駆細胞
赤芽球系前駆細胞
赤血球
GMP:
顆粒球/マクロ
ファージ前駆細胞
樹状細胞
巨核球
血小板
骨髄芽球
単球
好塩基球
(R&D Systems HPより
一部改変)
単球由来
樹状細胞
マクロファージ
好中球
好酸球
骨髄造血はS100A8/S100A9によって誘導される
Supplemental Information
血中、骨髄中の骨髄細胞におけるS100A8、S100A9、HMGB-1のmRNA発現量
S100A8/A9、HMGB-1について
S100A8/A9複合体(Calprotectin)
S100ファミリータンパク質の一つ。
リウマチ様関節炎、潰瘍性大腸炎、アレルギー性皮膚炎などの慢性炎症疾患の
発症に関与すると考えられている。
HMGB-1 (High Mobility Group Box 1)
主に細胞の核に存在する。
p53やNF-κBなどの転写因子の機能発現に関わるDNA結合タンパク質。
マクロファージや壊死細胞から放出され、RAGEやTLRのリガンドとして作用する。
細胞膜にも存在が確認されており、amphoterinともよばれる。
リガンドとして作用
RAGE (Receptor for Advanced Glycation End Products)
AGEs の受容体として発見された、膜貫通型レセプター。
AGEs以外にも内因性のタンパク質もリガンドとして認識する、パターン認識受容体。
リガンド結合により、炎症やアポトーシスなど様々な反応を誘導する。
骨髄造血はS100A8/S100A9によって誘導される
(A)野生型とSTZマウスにおける血漿中のS100A8/A9をELISAで定量した。
(B)好中球 (Neutrophils)におけるS100A8、S100A9、HMGB-1のmRNA発現量を評価した。
Supplemental Information
血中、骨髄中の骨髄細胞におけるS100A8、S100A9、HMGB-1のmRNA発現量
Mono Neutro T-cells B-cells Macs CMPs GMPs
Circulating Cells
BM Cells
Mono Neutro T-cells B-cells Macs CMPs GMPs
Circulating Cells
BM Cells
Circulating Cells
BM Cells
骨髄造血はS100A8/S100A9によって誘導される
(C)野生型マウス由来の骨髄中の細胞をS100A8/S100A9複合体とEdU (10 μM)を含んだ
High Glucose (25 mM)培地で16時間培養した後、GMPの細胞増殖を評価した。
(D,E)野生型マウスにS100A8/S100A9複合体(20 μg/kg/day)を3日間経口投与し、血中の単球、
骨髄中のHSPC, CMP, GMPの数を評価した。
※EdU
5-Ethynyl-2´-deoxyuridine
新規のDNA合成の際に
チミジンの代わりにDNAに
取り込まれる。
Supplemental Information
同様の実験をHMGB-1でも行った。
S100A8/A9は骨髄細胞の増殖を促進する。
骨髄造血はS100A8/S100A9によって誘導される
S100A9KOマウス由来の骨髄を移植したマウスにて糖尿病発症時の骨髄造血を評価した。
糖尿病発症時の骨髄造血の促進にはS100A8/A9が必要
S100A8/S100A9に誘導される骨髄造血はRAGEに依存する
(A)マウスから採取した骨髄中の細胞をS100A8/S100A9複合体とEdU (10 μM)を含んだ
High Glucose (25 mM)培地で16時間培養した後、GMPの細胞増殖を評価した。
(B) STZで糖尿病を誘発したWT、RAGEKOマウスを4週間飼育した後、血中の白血球数を測
定した。
(C) WTマウスを用いてHSPC, CMP, GMPにおける細胞表面のRAGE発現を評価した。
糖尿病発症時の骨髄造血の促進には
RAGEが必要
S100A8/S100A9に誘導される骨髄造血はRAGEに依存する
RAGEKOマウス由来の骨髄を移植したマウスにて糖尿病発症時の骨髄造血を評価した。
Supplemental Information
同様の実験を
Myd88KOマウスでも行った。
S100A8/A9が骨髄細胞表面のRAGEを介して作用することにより、
糖尿病マウスにおける骨髄造血を促進した。
RAGE依存的骨髄造血は細胞自律的でない
(H-K)競合的骨髄再構築法を用いて、糖尿病発症時の各種骨髄細胞の数と細胞周期を測定
した。
RAGEを介した骨髄造血の促進は細胞非自立的である。
RAGE依存的骨髄造血は細胞自律的でない
(M) マウスから採取した骨髄細胞をS100A8/S100A9複合体 (2 µg/mL)を含むHigh
Glucose (25 mM)培地で16時間培養した後、GMPの細胞増殖を評価した。
※SN50: NF-κB inhibitor
NF-κB阻害により、S100A8/S100Aに誘導されるGMP増殖が抑制された。
NF-κBを介したRAGEシグナルはサイトカイン産生を促進する
(N) マウスから採取した造血幹細胞と前駆細胞をS100A8/S100A9複合体 (2 µg/mL)を
含むHigh Glucose (25 mM)培地で16時間培養した後、血球の増殖や分化に関わる
サイトカインのmRNA発現量を評価した。
(O)マウスから採取した骨髄細胞をS100A8/S100A9複合体を含んだHigh Glucose (25
mM)培地で16時間培養した後、GMPの細胞増殖を評価した。
S100A8/S100A9はRAGE/NF-κB経路を介してサイトカイン産生を誘導し骨髄造血を促進する。
骨髄造血に
関わる因子
について
HSPC:造血幹細胞
CMP:
骨髄系前駆細胞
リンパ球系前駆細胞
赤芽球系前駆細胞
赤血球
GMP:
顆粒球/マクロ
ファージ前駆細胞
樹状細胞
巨核球
血小板
骨髄芽球
単球
好塩基球
(R&D Systems HPより
一部改変)
単球由来
樹状細胞
マクロファージ
好中球
好酸球
糖尿病マウスにおいて好中球が骨髄造血を引き起こす
WTマウスとSTZ糖尿病マウスを用いて、好中球枯渇実験を行い、
(A)血中の好中球の数、(B)単球の数、(C)S100A8/A9濃度を評価した。
Supplemental Information
血中、骨髄中の骨髄細胞におけるS100A8、S100A9のmRNA発現量
Mono Neutro T-cells
Circulating Cells
B-cells
Macs
CMPs
BM Cells
GMPs
Mono Neutro T-cells
Circulating Cells
B-cells
Macs
CMPs
BM Cells
GMPs
糖尿病マウスにおいて好中球が骨髄造血を引き起こす
WTマウスとSTZ糖尿病マウスを用いて、好中球枯渇実験を行い、
(D,E)CMP、GMPの数と細胞周期、(F)CMPにおけるRAGEmRNA発現量を評価した。
好中球が産生するS100A8/S100A9が骨髄造血を誘導している。
① 糖尿病における単球や好中球の増加メカニズムを解明する
Hyperglycemia
② 高血糖とアテローム性動脈硬化症の関連性を、特に動脈硬化巣の退縮に着目
して評価する。
③ 1型糖尿病患者を対象として、ヒトでもマウスと同様のメカニズムが働いているか
を確かめる。
① 糖尿病における単球や好中球の増加メカニズムを解明する
② 高血糖とアテローム性動脈硬化症の関連性を、特にプラークの退縮に着目して
評価する。
プラークの
退縮
血中コレステ
ロールの低下
←メカニズム?
糖尿病
③ 1型糖尿病患者を対象として、ヒトでもマウスと同様のメカニズムが働いているか
を確かめる。
血糖値の低下は動脈硬化巣の退縮を促進する
LdlrKOマウス(8-12週齢)を用いて、動脈硬化巣退縮試験を行った。
(B)血中グルコース濃度、コレステロール濃度を測定
(C)血中の単球、好中球の数を測定
Supplemental Information
血糖値の低下は動脈硬化巣の退縮を促進する
(D)動脈硬化巣の面積(Oil Red O染色)
(E)動脈硬化巣への脂質蓄積(Oil Red O染色)
を評価した。
(F)動脈硬化巣へのマクロファージの浸潤(免疫染色)
血糖値の低下は動脈硬化巣の退縮を促進する
(G)単球の接着試験、(H)単球のCD11b活性の測定、(I)単球の遊走試験
(J)動脈硬化巣への単球のリクルートの評価を行った。
※CD11b
単球・好中球に発現し、
血管内皮細胞との接着に関わる。
接着分子Mac-1の構成要素であり、
ICAM-1をリガンドとする。
緑:
Ly6-C抗体
(単球)
青:
ヘキスト染色
(核)
血糖値の低下は動脈硬化巣の退縮、単球/マクロファージの浸潤の改善を促進した。
持続的な単球のリクルートが糖尿病における動脈硬化巣の
退縮異常を引き起こす
動脈硬化モデルマウスの動脈を糖尿病モデルマウスに移植し、単球の動態を評価した。
血糖値を低下させることで動脈への単球のリクルートや浸潤が改善した。
また、動脈硬化巣からのマクロファージの遊出には影響を与えなかった。
持続的な単球のリクルートが糖尿病における動脈硬化巣の退縮異常を引き起こす
EdUもしくは蛍光ビーズで標識された
単球をマウスに注入し、
・単球のリクルートの持続性
・病巣からのマクロファージの放出率
を評価した。
高血糖状態では、持続的に単球のリクルートが促進している。
① 糖尿病における単球や好中球の増加メカニズムを解明する
② 高血糖とアテローム性動脈硬化症の関連性を、特にプラークの退縮に着目して
評価する。
プラークの
退縮
血中コレステ
ロールの低下
糖尿病
プラークへの単球の
持続的な浸潤
③ 1型糖尿病患者を対象として、ヒトでもマウスと同様のメカニズムが働いているか
を確かめる。
① 糖尿病における単球や好中球の増加メカニズムを解明する
② 高血糖とアテローム性動脈硬化症の関連性を、特にプラークの退縮に着目して
評価する。
③ 1型糖尿病患者を対象として、ヒトでもマウスと同様のメカニズムが働いているか
を確かめる。
S100A8/S100A9は1型糖尿病患者における白血球増加症と冠動脈疾患の罹患率に
関わる
1986-1988年から開始されたピッツバーグ糖尿病合併症疫学研究の追跡試験を行った。
‘50
‘80
1型糖尿病
の診断
‘86 ‘88
調査開始
2004 2006
隔年で追跡試験
ヒトでも総白血球数や好中球数はS100A8/A9濃度や冠動脈疾患の発症に関わっている。
S100A8/S100A9は1型糖尿病患者における白血球増加症と冠動脈疾患の罹患率に
関わる
ヒトの臍帯血から単離した造血前駆細胞 (CD34+ cells)をEdU (10 μM)とS100A8/A9を
含むHG(25 mM)培地で16時間培養し、(D) 細胞増殖、(E)単球の数を測定した。
S100A8/A9はヒト由来の造血幹細胞、単球の増加を促進した。
① 糖尿病における単球や好中球の増加メカニズムを解明する
② 高血糖とアテローム性動脈硬化症の関連性を、特にプラークの退縮に着目して
評価する。
③ 1型糖尿病患者を対象として、ヒトでもマウスと同様のメカニズムが働いているか
を確かめる。
→ヒトでもマウスと同様のメカニズムが働いていることが示唆された。
まとめ
高血糖が白血球増加症に与える影響について以下のメカニズムが示された。
ヒトでも同様のメカニズムが働いていることが示唆された。
S100A8/A9-RAGE経路が動脈硬化治療の新たなターゲットとなり得る。
血球のマーカーについて
(Becton, Dickinson and Company CD marker handbook より)