事実上の標準

2015年春学期
「現代の経営」
第3回 事実上の標準
※前回の7枚目のスライドの説明
樋口徹
1
デファクト・スタンダード(de facto standard)とは
デファクト・スタンダードの定義
「 標準化 機関の承認の有無にかかわらず、市場競争の結
果、 事実上 市場の大勢を占めるようになった規格」
出所:山田英夫(1997)『デファクト・スタンダード』日本経済新聞社 p.2
デファクト・スタンダードをめぐった競争例
・業務用カラオケ (レーザーディスク/ビデオCD/通信カラオケ)
・パソコンOS (Windows/Mac OS)
な
ど
※標準化機関には、
がある。
ISO
(国際機関)や日本規格協会などの公的な機関
※デファクト・スタンダートは、 事実上の標準 と訳される。それに対し
て、法律や 国際機関 などが定めた標準(製品や規格)はデジュリ・ス
タンダードと呼ばれる。
2
ガラパゴス化?ガラケー?
ガラパゴス諸島は南米エクアドルの西約1000キロメートルにある
太平洋上の火山群島。ダーウィンの『 進化論 』の発祥の地
として有名。
大陸から離れているので、 固有種 が多数存在する。スペイン
語でガラパゴスはカメの意味)。
写真は果実や木の実を主食とす
るガラパゴスゾウガメ(大型の陸
ガメで独自に進化した固有種の
ひとつ)
シャープが発売したガラケー(ガラパゴス携帯の略)とは、よく言え
ば、日本で独自に進化した携帯、悪く言えば、日本でしか通用し
ない携帯。
3
スタンダード(standard)とは
“standard”の意味
1.(比較判断のための)基準、規範、尺度、手本
2.標準規格品(サイズ)、普及品
3.標準、水準、規格
4.Standardsで道徳的規範、倫理、しきたり、おきて
5.(牛肉の等級で)並み 他『ランダムハウス英和辞典』
※スタンダード(標準)は、平均というより、 理想的 ある
いは広く共有されているものといった意味合いが強い。
“de facto”は 事実上 の意味
“de jure”は 法律上 の意味
6583741
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4
デファクト・スタンダードとデジュリ・スタンダード
デファクト・スタンダード デジュリ・スタンダード
標準の決定者
市場
標準化機関
標準の正統性
ユーザーの選択の結果 標準化機関の 権威
標準化の動機
標準化しないと不便
標準化しないと製品の機
能が 発揮 できない
主な対象分野
他社とのやり取りを
必要 とする分野
他社とのやり取りが製品
の本質機能である分野
標準化の鍵
市場導入期の シェア、 標準化機関の 強制力、
有力企業の参画、ソフト 参加企業 数、有力企
数
業の参画
標準化と製品
化の順序
製品化→標準化の決定 標準化の決定→製品化
出所:山田英夫(1997)『デファクト・スタンダード』日本経済新聞社 p.3
5
デファクト・スタンダードとデジュリ・スタンダードの比較
デファクト・スタンダード
・迅速な標準化が可能
長 ・標準化と製品化の同時進行
所 ・開発者に多大なロイヤリティ
収入
デジュリ・スタンダード
・標準化メリットの共有
・標準内容が明確でオープン
・制定、改定の手続きが明確
・メンバーシップがオープン
・標準化に要する長い時間
・標準化メリットの私物化
・多様な標準ニーズとのミスマッチ
・情報の公開が不完全
・標準化と製品化のタイムラグ
・制定、改定の手続きが不透
・各社が知的財産権を主張しすぎ
問 明
題
ると禁止的な使用料になる可能
点 ・メンバーシップが限られる場 性
合が多い
・技術革新の進展と標準化のタイ
・負けた規格の製品を購入し
ミングの難しさ
た初期購入者の存在
・「使わない標準」を生む可能性
出所:山田英夫(1997)『デファクト・スタンダード』日本経済新聞社 p.4
6
デファクト・スタンダード(事実上の標準)
デファクト・スタンダード(事実上の標準)とは、 市場 におい
て他を圧倒するシェアを占めるようになった製品・サービス
や規格(形状やデータのやり取りの仕方等を定めた技術的
な取り決め)を指す。
※市場原理によって決定されるので、デジュール・スタンダー
ドが必ずしもデファクト・スタンダードになるわけではない。
市場競争
の結果
A社の規格
勝者
圧倒的シェア
デファクト・スタン
ダード獲得
(互換性なし)
B社の規格
敗者
(互換性なし)
C社の規格
敗者
デファクト・スタンダー
ドに追随するか、
細々と続けるか、撤
退するかを選択
7
デジュリ・スタンダード間でのデファク
ト・スタンダード獲得競争の激化
市場競争
国内標準化機関
(日本規格協会
や行政機関等)
承認
規格A
海外標準化機関
(外国の規格協会
や行政機関等)
承認
規格B
国際標準化機関
(ISO)
承認
規格C
結
果
・淘汰(生き残
りは1つ)
・複数共存
(縄張り)
・全て消滅
※日本の場合は、国内でのみ通用する規格を採用することによって、縄張りを
守る意識が強かった。
※一時的に隆盛を誇った規格でも時代の流れとともに、時代遅れになる。
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ネットワーク外部性とデファクト・スタンダード
ネットワーク外部性 とは、製品自体の品質や機能とは別に、
「みんなが持っている、使っている」ことにより生じる価値。利用
者の立場なら、友達が利用していれば、利用の仕方を教えても
らうことができ、さらにソフトやファイルの共有も可能になるなど
の外部からの効果。
同じ機能を有している同程度の性能の製品間において、規格が
異なっている(互換性が無い)場合は、市場で激しい競争になる
こともある。
※通信機器などでは、他者とつながることが本質的機能なので、ネットワーク
外部性が重要な働きをする。
※利用者の数が多くなればなるほど、それを利用する人々が便利になり、ネッ
トワークが一層強化されやすくなる。
※日本において通信システム(携帯電話)などのIT関連製品が国際的な業界
標準獲得の低さが問題視されるようになり、日本国内でしか通用しないガラ
パゴス化現象が問題となる。
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PCにおけるネットワーク外部性
PCの主な利用用途
・メール(他者とのやりとり:互換性が重要)
・インターネット(外部からの情報収集:沢山の閲覧可能サイト必要)
・MS OFFICE(他者とのファイル共有、やり方を教わる)
・ゲーム(対戦型、面白いゲームおよびやり方を教わる、ソフト共有)
※PCやゲーム機などがネットワーク外部性が発揮される典型なものである。
デファクト・スタンダードが確立(勝者の確定:製品設計が安定)
➡利用者の裾野が一層広がる可能性がある。
➡ソフト充実(一製品当たりの開発ソフトが安くなり、研究開発促進
や販売価格引き下げなどを行えるようになる)
➡周辺機器充実(開発コストを抑えられ、品数を絞れる)
➡利用者の裾野拡大(ネットワーク外部性強化)
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事例PCのOS(オペレーティングシステム)の規格
Windows(IBM互換機)がPCのOSでは圧倒的なシェアを占めて
いる。Windowsが市場で圧倒的なシェアを有することに
よって、企業側は以下のようなメリットを得られる;
・マイクロソフト社のOS一本当たりの開発コストが低下
・ソフトや周辺機器メーカーは製品の対応OSを絞り込める
・小売は、品揃えをある程度絞り込める( WindowsとMac中心 )。
※消費者にとっても、コストや性能などの面で利益が得られる。
WindowsをMac OS Ⅹ(マックオーエステン;Mac OSの後継OS;
アップル社開発 )が追っている。両OS間の 互換性
が確保されつつあるので、消費者への不利益が小さく
なっているので、共存が本格的に可能になりつつある。
※近年はタブレットPCではiPadが主流になりつつある。
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ネットワーク外部性
外部
内部
・販売促進活動
(CMやチラシなど)
・友人や知人の評判
(口コミなど)
・友人や知人の利用状況
(ファイル交換や助言)
影
響
消
費
者
評
価
商品(PC)
・販売価格
・味(品質)
・便利さ(場所)
------------------・ネットワーク環境
・ソフトの多様さ
・ファイル共有環境
※パソコンユーザーにとって、ネットワーク環境、ソフトの多様さ、ファ
イル共有環境(他社との関係)は重要な意味を持ち、これらはユー
ザー数が多ければ多いほど便利になる(=ネットワーク外部性)。
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デファクト・スタンダードも永遠には続かない
例えば、「アナログ技術➡デジタル技術」への大きな流れがある。
音楽の媒体は以下のように変遷
レコード⇒カセットテープ⇒CD⇒フラッシュメモリー⇒ダウンロード
次世代規格が登場する直前の対応
消極的対応
① 時間稼ぎ
(次世代規格のハードルを上げたり、販促)
積極的対応
②現行規格の 拡張 (新規格に対抗)
③ブリッジ・フォーマット
(規格間の 互換性 を確保する)
④次世代規格の部分的 先取り
(旧規格に新規格の一部を組み込む)
出所:山田(1997)p.181
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アナログとデジタル技術の経験曲線効果
高
単
位
当
た
り
コ
ス
ト
低
(先行する)
アナログ技術
デジタル技術
少
出所:山田(1997)p.51
累積生産量
多
※両軸ともに対数軸
・単位当たりコストを下げるには、 オープン 戦略(採用企業を増
やすこと)が有効。
・ デジタル 技術に移行した場合、コストが急速に下がることが
多いので、最初の対応には要注意。
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日本企業のガラパゴス化の背景と脱却の必要性
日本国内の市場では高品質の製品が高い評価を受けてきた。世
界有数の企業が多数国内に存在し、性能や品質面で世界の水
準より高いレベルの製品を国内市場に提供してきた(それが日
本企業の売りであり、海外勢参入の 障壁 となっていた)。
しかし、性能や品質面での 差別化 の限界が露呈し始めた。
• 製品自体が研究開発を続けても、その性能が直線的に伸び、そ
れを消費者が評価し、売り上げ増が続かない。消費者が評価し
ない過度の機能や品質を追求しても、研究開発費の無駄。
• そして、技術面で優位に立つ企業が革新的な製品を生み出す速
度より、他の企業が 模倣 する方が容易である。
さらに、バブル崩壊やリーマンショックなど世界的な金融危機の影
響によって世界的な消費に陰りが見えたことに加えて、国内の
少子高齢化の影響もあり、国内市場だけでは不十分となり、
グローバル 市場での競争が必要になっている。
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2000年頃までの日本の状況
日本市場
(GDP世界2位/高
級品志向で量も捌け
ていた)
国内メーカーで市場独占
大手国内メーカーが高付加
価値戦略で熾烈な競争をし
ていた。外国企業は異常な
市場なので、立ち入らなかっ
たし、立ち入れなかった。
現時点の日本の状況
海
外
市
場
日本市場
(GDP世界3位/長
期間のデフレと少子
高齢化)
国内メーカー 海外メーカー
家電量販店などの流通業の
チェーン化が進み、影響力が飛躍
的に増加している。高付加価値戦
略の限界が明らかになり、価格競
争に巻き込まれている。海外メー
カーの参入の障壁が弱くなったの
で、日本企業は海外市場に目を
向けざるを得なくなっている。
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デファクト・スタンダード獲得のための企業間協調
• デファクト・スタンダードを1社で獲得できれば、大きな利益につ
ながる。
• しかし、1社単独の規格でデファクト・スタンダードを獲得するこ
とは困難。失敗すると長年の努力と投資が水の泡(リスクが大
きい)。
• そこで、利益は独占できなくなるが、市場が立ち上げる前に企
業連合を形成し、協調して開発を行う(コンセンサス標準戦略)
ことが考えれるようになった。
• 結果として、各社の得意な分野を持ち寄り短期間かつ低コスト
で優れた規格の開発が可能になり、さらに各社が一斉に販売
すれば、迅速に市場の売り上げを伸ばせるので、デファクト・ス
タンダードが獲得しやすくなることが分かった。
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浅羽(1995)による
デファクト・スタンダード獲得のための企業間協調
1社で完結できる技術力
完結する技術力不足
独占
できる
供給
能力
製品に関わる技術を非公開
とし、自社のみで部品から
完成品までを供給して利益
を独占する完全クローズド・
ポリシー
プラットフォーム(中核)に関す
る技術を抑え、独占的に供給
し、一方で 補完部品 の技
術を公開し、参入可能にする
準クローズド・ポリシー(家庭
用ゲーム機)
独占
できる
供給
能力
不足
仕様をオープンに 公開
して他者と協調して製品を
供給することでデファクト・ス
タンダードを獲得し、自社で
部品から完成品までを供給
する準オープン・ポリシー
(VHSが該当)
全部品をオープン・モジュラー
化(バラバラに作られた部品
を組み立て製品を完成可能
に)し、自社は得意を生かせ
る部品(分)に 特化 して生
産する完全オープン・モジュ
ラー化(PC)
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