第24回日本腎性骨症研究会 一般住民の大腿骨近位部骨折発症率で 認められる地域差は、 血液透析患者でも認められる 風間 順一郎1)、若杉 三奈子1)2) 、谷口 正智3) 、和田 篤志3)、 井関 邦敏3) 、椿原 美治3) 、成田 一衛1) 1)新潟大学 腎・膠原病内科学分野、2)新潟大学 臓器連関研究センター、 3)日本透析医学会 統計調査委員会 日本の疫学研究で、一般住民の大腿骨近位部骨折発症率は 西日本よりも東日本に少ないという地域差が明らかになっている (Yaegashi Y et al. Eur J Epidemiol 2008; 23:219-25のデータより作成) 標準化発症率比 (SIR, Standardized incidence ratio) 1.20~ 1.10~1.19 男性 女性 1.00~1.09 0.90~0.99 ~0.89 調査年によって多少の違いはあるが、傾向は同じ (Yoshimura N, et al. J Bone Miner Metab 23[Suppl]:78-80, 2005 より引用) 一般住民と比較した、わが国の血液透析(HD)患者の 大腿骨近位部骨折発症率は、男性で6.2倍、女性で4.9倍である (Wakasugi M, et al. J Bone Miner Metab 2013) 大腿骨近位部骨折発症率 (1000人年あたり) 60 50 男性 *Orimo H, et al. Arch Osteoporos 4:71-77, 2009, Table 4. より、2007年データを引用し、グラフを作成。 血液透析患者 一般住民* 60 50 40 40 30 30 20 20 10 10 0 0 年齢 女性 年齢 一般住民と比較した、わが国の血液透析(HD)患者の 大腿骨頚部骨折発症率は、男性で6.2倍、女性で4.9倍である (Wakasugi M, et al. J Bone Miner Metab 2013) 大腿骨近位部骨折発症率 (1000人年あたり) 60 50 男性 *Orimo H, et al. Arch Osteoporos 4:71-77, 2009, Table 4. より、2007年データを引用し、グラフを作成。 血液透析患者 一般住民* 60 50 40 40 30 30 20 20 10 10 0 0 女性 年齢 Minako Wakasugi @ MD, MPH, PhD 年齢 透析患者の大腿骨近位部骨折発症率にも 西日本よりも東日本に少ないという地域差があるのだろうか? 一般住民の骨折 透析患者の骨折 一般住民と共通の要因 透析患者に特有の要因 ・加齢、・性別 ・転倒、・低体重など ・尿毒症、・二次性副甲状腺機能亢進症 ・透析アミロイドーシスなど 目的 • 血液透析(HD)患者においても、一般住民の大腿骨近 位部骨折発症率と同様の地域差が認められるのかを 検証し、その結果から、病態の背景因子を考察する。 Wakasugi M, et al. Ther Apher Dial 2014 方法 • 使用したデータベース – 2009年日本透析医学会統計調査研究 公募研究(標準解析ファイル(JRDR-09001)) – 日本透析医学会統計調査(2007年末および2008年末) • 解析対象者の参入基準 – 2007年末に週3回の施設血液透析を施行 – 2007年末の大腿骨頚部骨折既往に関する調査で「既往なし」と回答 – 2008年末の骨折既往に関する調査で「既往あり」又は「既往なし」と回答 • 解析対象者の除外基準:2008年末時点で、腎移植、離脱、または行方不明。 • 骨折発症数の定義: – 2007年末調査で「骨折既往がない」と回答し、2008年末調査で「骨折既往がある」と回答した 患者を「骨折発症患者」とする。 • 男女別に年齢調整した標準化発症率比(Standardized Incidence Ratio, SIR)を算出し、 その地域分布を 一般住民の報告と比較した。 • 地域分類は、一般住民の大腿骨頚部骨折の地域差を検証した先行論文(Eur J Epidemiol. 23:219-25, 2008)と同様とした。 本研究解析対象者 2007年末日本透析医学会 全透析患者 (n = 275,119) 週3回の施設血液透析を施行 (n = 200,529) 除外: ・大腿骨近位部骨折の既往あり (n = 3,540 ) ・データ欠損 (n = 68,848) 本研究解析対象者 (n = 128,141) 1年間のフォローアップ (2008年末まで) Wakasugi M, et al. Ther Apher Dial 2014 解析対象者の属性は、全透析患者と同様 128,141 38.1% 2007年末 全透析患者データ 275,119 38.6% 63.56 (12.29) 65.35 (12.52) 64.16 (12.52) 65.99 (12.92) 解析対象者 患者数(人) 女性の割合 平均年齢 (SD)(歳) 男性 女性 透析歴 5年未満 5~10年未満 10~15年未満 15~20年未満 20~25年未満 25年以上 48.6% 26.2 12.7 6.3 3.4 2.7 49.5% 25.0 12.2 6.2 3.6 3.5 Wakasugi M, et al. Ther Apher Dial 2014 HD患者の大腿骨近位部骨折発症数 男性より女性に多く、70代に最も多い 350 350 300 男性 300 250 250 200 200 150 150 100 100 50 50 0 0 女性 年齢 1年間の観察期間中に新規骨折発症を1,437人に認めた。 男性HD患者のSIR 1.3~ 1.20~1.29 1.10~1.19 1.00~1.09 0.80~0.99 0.70~0.79 一般住民(男性)のSIR ~0.69 1.20~ 1.10~1.19 1.00~1.09 0.90~0.99 ~0.89 (Yaegashi Y et al. Eur J Epidemiol 2008; 23:219-25のデータより作成) Wakasugi M, et al. Ther Apher Dial 2014 女性HD患者のSIR 1.4~ 1.20~1.39 1.00~1.19 0.90~1.09 0.70~0.89 0.50~0.69 一般住民(女性)のSIR ~0.49 1.20~ 1.10~1.19 1.00~1.09 0.90~0.99 ~0.89 (Yaegashi Y et al. Eur J Epidemiol 2008; 23:219-25のデータより作成) Wakasugi M, et al. Ther Apher Dial 2014 考察 • HD患者の大腿骨近位部骨折発症率は、男女とも、 一般住民と同様に、西日本で高く、東日本で低い という地域分布を認めた。 • このことは、何らかの共通要因が、 一般住民と透析患者の大腿骨近位部骨折発症の地域差 に強く影響していることを示唆する。 • 本研究からその要因を明らかにすることはできないが、 HD患者の骨折発症リスクを検討することは、 長年、不明であったわが国一般住民の大腿骨近位部 骨折発症率で認められる地域差の原因解明に、 貢献できる可能性がある。 結語 ✓HD患者でも一般住民と同様の 地域分布を認めた. ✓このことは、発症率の地域差に 一般住民とHD患者に 共通の要因が影響していることを 示唆する. 謝辞 本発表は、2009年日本透析医学会 統計 調査研究公募研究(標準解析ファイルJRDR09001)を用いて解析を行いました。 統計資料利用許可をいただきました 一般 社団法人 日本透析医学会統計調査委員会、 ならびに、本調査に関わるすべての関係者に 心より感謝申し上げます。
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