-不完全競争(1)独占- 2015年9月25日 古川徹也 2015年9月25日 特殊講義(経済理論)B/初級ミクロ 経済学 1 完全競争市場 完全競争市場:今まで学んだように,各 経済主体(消費者も生産者も)価格支配 力を持たない世界。他の経済主体の行動 を一定として1人だけ(1企業だけ)が 行動を変えたとしても,市場価格には影 響を与えない。 →プライステイカー 2015年9月25日 特殊講義(経済理論)B/初級ミクロ 経済学 2 不完全競争市場 現実には価格に対する影響力を持つ 場合も多い。 影響を与えることが可能な経済主体 を「価格支配力を持つ」経済主体と 名付ける。 以下では,売り手側に価格支配力が ある場合を考える。 2015年9月25日 特殊講義(経済理論)B/初級ミクロ 経済学 3 主な不完全競争市場:独占と寡占 売り手が1企業のみであるケースを 独占(monopoly)と呼ぶ。 売り手が少数ではあるが複数の場合 を寡占(oligopoly)と呼ぶ。 寡占の中でとくに2企業の場合を複 占(duopoly)と呼ぶ。 この講義では,独占と複占を扱う。 2015年9月25日 特殊講義(経済理論)B/初級ミクロ 経済学 4 なぜ価格支配力は生まれるのか(1) マーケットシェア 1企業が100%のマーケットシェアを持つケー スが独占,少数の企業がマーケットシェアを分 け合っている状態が寡占。 市場が占有される原因 ① 知的財産権の保護(特許権や著作権) ② 規模の経済性(自然独占の発生) ③ ネットワーク外部性(自然独占につながる) 2015年9月25日 特殊講義(経済理論)B/初級ミクロ 経済学 5 価格支配力の源泉(2) 製品差別化 本質的に同じ財でも厳密には品質などが 異なることを製品差別化と呼ぶ。 製品差別化のもとでは独占的競争と呼ば れる現象が発生する。 独占的競争:競争相手が無数に存在し, 個々の売り手のマーケットシェアはゼロ に近くても,売り手に価格支配力が生ま れる。 2015年9月25日 特殊講義(経済理論)B/初級ミクロ 経済学 6 限界収入による特徴づけ 企業の利潤最大化条件は完全競争,独占,寡占 もすべて MR MC (x ) である。 右辺の限界費用は各企業の生産量 x に依存して 決まるか、一定である(と仮定)。 問題は,限界収入の違いである。 2015年9月25日 特殊講義(経済理論)B/初級ミクロ 経済学 7 各市場タイプによる利潤最大化条件(1) 完全競争市場 完全競争市場では MR p MC (x ) となる。限界収入は市場価格に等しく,各企業に とっては与件。与件である市場価格に限界費用が 等しくなるような生産量 x を選ぶ。 2015年9月25日 特殊講義(経済理論)B/初級ミクロ 経済学 8 各市場タイプによる利潤最大化条件(2) 独占 独占では MR( x ) MC ( x ) となる。限界収入は自らの生産量に依存する。企 業は,限界費用が x に依存することだけでなく, 限界収入も xに依存することを考慮に入れて利潤 を最大化する。 あとに見るように,限界収入と市場価格は等し くない。 2015年9月25日 特殊講義(経済理論)B/初級ミクロ 経済学 9 各市場タイプによる利潤最大化条件(3) 複占 複占では MR ( x, x) MC ( x ) となる。限界費用が自らの生産量 x に依存する点 は前と変わらない。前と異なるのは,限界収入が 自らの生産量 x だけでなく,ライバル企業の生産 量 xに依存する点である。 相手の行動が自分に影響を与え,自分の行動が 相手に影響を与える点が,ゲーム理論的状況。 2015年9月25日 特殊講義(経済理論)B/初級ミクロ 経済学 10 独占企業の行動 独占企業の「モデル」は (1)逆需要関数: p a bx (2)限界費用: c(一定と仮定) 費用関数: C ( x ) cx (3)(必要に応じて)固定費用: F の2つ(または3つ)の要素で特徴づけられる。 ポイントは,限界収入と市場価格の間に乖離が 生じる点である。そこに注意すること。 2015年9月25日 特殊講義(経済理論)B/初級ミクロ 経済学 11 限界収入の計算 逆需要関数を p a bx とおく( a, bは正の定数)。このとき収入 Rは, R( x ) px ( a bx ) x ax bx 2 と書ける。 x ) R(xを ) 限界収入 MR (x は, で微分したもので ある。したがって,以下のようにあらわせる。 MR( x ) R( x ) a 2bx 2015年9月25日 特殊講義(経済理論)B/初級ミクロ 経済学 12 逆需要関数と限界収入のグラフ p a bxと MR( x ) a 2は,(1)縦軸との切片が同じ, bx (2)傾きは限界収入が逆需要関数の2倍,という性質を持 つ。 p, MR MR ( x ) a 2bx p a bx 2b b a 2b 特殊講義(経済理論)B/初級ミクロ 2015年9月25日 経済学 a b x 13 収入関数と限界収入 R (x ) MR (x ) x a 2b x a 2b 収入関数は放物線 2015年9月25日 特殊講義(経済理論)B/初級ミクロ 経済学 14 限界費用との関係 p, MR 限界費用は cで一定 利潤最大化条件 MR( x ) c が成立 する生産量は x M そのときの価格は p M であり,限 M MR p 界収入とは一致しない( が成立)ことに注意 pM ac x 2b M c xM 2015年9月25日 特殊講義(経済理論)B/初級ミクロ 経済学 x 15 収入関数と利潤最大化 R( x ) c c xM ※実際は半 円ではない。 2015年9月25日 a 2b 特殊講義(経済理論)B/初級ミクロ 経済学 x 16 パレート効率性の条件:復習 需要曲線は限界便益曲線を表している。 ※限界便益:1単位の限界的な生産量(消費 量)の増加がもたらす経済全体の便益(厚 生、余剰)の増加分。 限界費用曲線は,1単位の限界的な生産量 (消費量)の増加がもたらす経済全体での 費用の増加分をあらわしている。 パレート効率性の条件 限界便益=限界費用 2015年9月25日 特殊講義(経済理論)B/初級ミクロ 経済学 17 完全競争市場と独占市場の比較(1) 完全競争市場でも独占市場でも,需要曲線 は限界便益曲線を表している。 完全競争市場では,限界費用曲線は供給曲 線に一致する。したがって完全競争市場均 衡では, 限界便益=市場均衡価格=限界費用 が成立する。したがってパレート効率的とな る。 2015年9月25日 特殊講義(経済理論)B/初級ミクロ 経済学 18 完全競争市場と独占市場の比較(2) 独占市場では,限界費用曲線は供給曲線と一 致しない(そもそも供給曲線がない)。市場 均衡では,以下の関係が成立する。 限界便益=市場均衡価格>限界収入=限界費用 したがってパレート効率的とはならない。 独占市場では,市場均衡配分はパレート効率 的とはならない。これは,市場メカニズムは 効率的な資源配分を達成しないということで ある。 2015年9月25日 特殊講義(経済理論)B/初級ミクロ 経済学 19 市場均衡配分と効率的な資源配分 p, MR 市場均衡生産量は x M 効率的な生産量は x * 黄色い三角形の大きさの余剰が 失われている。 ac x b pM * c xM 2015年9月25日 x* 特殊講義(経済理論)B/初級ミクロ 経済学 x 20 独占のモデル:具体例 各文字に数字をあてはめてみる (1)逆需要関数: p 12 x (2)限界費用: 2 費用関数: C ( x) 2 x 市場均衡需給量,市場均衡価格 を求めてみよう! 2015年9月25日 特殊講義(経済理論)B/初級ミクロ 経済学 21 独占の「問題点」 1企業による市場の独占については,「不当 な価格の引き上げ」などが問題になりやすい 。 しかし,独占企業も需要曲線の制約にある以 上,無茶な価格引き上げはできるとは限らな い。 ミクロ経済学では,価格の引き上げよりもむ しろ,それによって生じる過少生産(x* x M) とそれに伴う厚生損失が問題である。 2015年9月25日 特殊講義(経済理論)B/初級ミクロ 経済学 22 独占は常に「悪」なのか? 効率性の条件は,限界費用についてしか言及 がない。 巨額の固定費用を必要とする場合などでは, 多くの企業が供給を行うよりも,1つの企業 に集中したほうが1単位あたりのコストを下 げられることがある。 その場合には,規制が必要となる(平均費用 価格規制と限界費用価格規制)。 2015年9月25日 特殊講義(経済理論)B/初級ミクロ 経済学 23
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