PPT - 国際言語文化研究科

名古屋大学大学院 国際言語文化研究科 日本言語文化専攻 博士後期課程1年 岡崎優樹
1. 研究の背景
5. 実験
日本語の関係節処理において、主語関係節(subject relative clause:SR)と目的語関
係節(object relative clause:OR)の処理のどちらが容易であるか、多くの研究の中で
議論されている。
(1)主語関係節:[ (空所) 映画を見た]花子はレストランへ向かった。
(2)目的語関係節:[花子が(空所)見た]映画はとても面白い。
被験者:日本語を母語とする大学生・大学院生20名と中国南京農業大学で日本語を
専攻する中国語母語話者32名(学年:4年、学習歴:3年1ヶ月)
実験文:8タイプ(4トークン)+フィラー58文(合計90文)
◆「NTTデータベース日本語の語彙特性第Ⅱ期(第7巻)」(天野成昭他、2000)を用い
て、領域1から領域4の語彙・頻度・モーラ数・文字数に有意な差がないよう調整した。
◆ノーミング調査を行い、SR文とOR文の容認度に有意な差がないことを確認した。
2. 先行研究
表1. 実験文と領域構成
(日本語母語話者対象)
SR優位:Miyamoto&Nakamura(2003) 非SR優位:大関(2005)
(日本語学習者対象)
SR優位:Kanno(2007) 非SR優位:澤崎(2009)
◆日本語母語話者・日本語学習者ともに、一致した結果は得られていない 。
3. SRとORの難易度に関する説明と予測
・関係節産出研究の中で、SRは主要部が有生名詞を取る場合(例.(1))生起率が高い。
(大関2005)
・関係節産出研究の中で、ORは主要部が無生名詞を取る場合(例.(2))生起率が高い。
(大関2005)
予測①主要部が有生名詞の場合:SRの方がORよりも処理が容易。
予測②主要部が無生名詞の場合:ORの方がSRよりも処理が容易。
4. 研究課題
❶日本語の関係節処理においてSR文とOR文のどちらの処理が容易であるか。
❷有生性が日本語の関係節の処理にどのような影響を及ぼすのか。
➌日本語の関係節処理において、日本語母語話者と日本語学習者の間に違いが
あるのか。
(animate=A , inanimate=I)
6. 実験方法
・被験者のペースでスペースキーを押しながら文を読み進める移動窓式自己ペース
読み文課題を用いた。
市長を ____ ____
____ ____
____
____ 守った ____
____ ____
____
____
____ 秘書は ____ ____
____
____
____ ____ 正確な ____
____
____
____ ____ ____ 判断を ____
____
____ ____
____ ____ 下した。
図1. 移動窓式の自己ペース読み文課題の提示例
7. 実験結果
900
900
SR-AA
OR-AA
SR-II
OR-II
800
SR-AI
OR-AI
SR-IA
OR-IA
800
700
700
600
1
2
領域
600
3
図2. AA・II条件:日本語母語話者の各領域毎の平均読み時間(ms)
1400
1000
2
領域
3
4
図3 AI・IA条件:日本語母語話者の各領域毎の平均読み時間(ms)
1400
SR-AA
OR-AA
SR-II
OR-II
1200
1
4
SR-AI
OR-AI
SR-IA
OR-IA
1200
1000
800
800
600
1
2
領域
600
3
4
図4. AA・II条件:中国語母語話者の各領域毎の平均読み時間(ms)
1
2
領域
3
4
図5 AI・IA条件:中国語母語話者の各領域毎の平均読み時間(ms)
8. 結果と考察
1. 領域1では、日本語母語話者のみ、II条件とAI条件下ともにSR文の読み時間がOR文よりも有意に速かった。
2. 領域2では、日本語母語話者のみ、II条件とAI条件下ともにSR文の読み時間がOR文よりも有意に速かった。また、AI条件の読み時間がIA条件よりも有意に速かった。
⇒領域1・2の結果から、日本語母語話者は格助詞と名詞の組み合わせによって処理負荷が異なっていた。⇒ヲ格を取る無生名詞とガ格を取る無生名詞の読み時間の差
が最も大きかった。⇒無生名詞は動作主となるよりも動作の対象となることが多いことから、ヲ格を取る無生名詞の方が受容しやすく、処理が容易であったかもしれない。
3. 領域3では、日本語母語話者と中国語母語話者ともに、AA条件とその他の条件(II, AI, IA)との間に有意な差があった。また、日本語母語話者のみAA条件下でSR文の読み
時間がOR文よりも有意に速かった。⇒同じ性質の名詞が繰り返されることで、名詞の意味役割を理解することが困難であったと考えられる。⇒しかし同じ性質の名詞が
繰り返されるII条件とその他の条件(AI,IA)との間に有意な差はなかった。⇒II条件下では、銀行や学校など人の属する場所などを無生名詞として扱っていたため、無生名
詞の中に人の存在を感じ取り、AA条件とは異なる結果になった可能性がある。
4. 日本語母語話者の結果は、予測①・②に沿うものであった(II条件を除いて)。⇒関係節の処理には有生性の要素が大きく関わっている。
5. 中国語母語話者の結果は、予測①・②に沿うものではなかった。 ⇒中国語母語話者は、語彙負荷の影響を受けていた可能性がある。⇒学習者にとって語彙の頻度や新
密 度が低かったため、学習者の処理容量が語彙処理にすべて使われてしまった可能性がある。
6. 今回の結果は、SRとORどちらか一方への優位性を示すものではなかった。
参考文献
大関(2005).「日本語名詞修飾節の産出は普遍的習得難易度階層に従うか」『第二言語としての
日本語の習得研究』8,64-82
澤崎宏一 (2009).「日本語学習者の関係節理解-英語・韓国語・中国語母語話者の-読み時間
からの考察-」『第二言語としての日本語の習得研究』12, 86-106.
天野成昭・近藤公久 (2000).『日本語の語彙特性 第2期(第7巻)』三省堂出版
Kanno,K. (2007). Factors affecting the processing of Japanese relatives clauses by L2 learners. Studies in
Second Language Acquisition 29, 197-218.
Miyamoto,E.T., and Nakamura,M.(2003). Subject/Object Asymmetries in the processing of Relative
clauses in Japanese. In G. Garding and M. Tsujimura (Eds.), Proceedings of the 33rd West Coast
Conferences on FormalLinguistics , 342-355. Somerville, MA: Cascadilla Press.