書評 満薗勇『日本型大衆消 費社会への胎動』(2014) 西洋経済史から 高井哲彦(北海道大学) 序章 問題の所在 問題関心 アメリカ 大衆消費社会 日本型大衆消費社 会の形成プロセス 戦後日本 cf. 西洋近代史 大衆消費社会 cf.アジア消費史 序章 問題の所在 大衆消費社会 序章 問題の所在 新しい消費のパラダイム 序章 問題の所在 「日本型流通」とその基底 序章 問題の所在 分析対象の選択 • 市場の地理的制約を乗り越える • 市場の階層的制約を乗り越え • 消費者の転換、小売商の再編 終章 総括と展望 両大戦間期の画期性 1910年まで • 富裕層・高級品市場向けの通信販売 • 中間層のハレの消費のための月賦販売(伊予商人) 両大戦間期 • 大衆市場:宇治茶、婦人雑誌代理部、月賦百貨店、百科サービ ス モダニティ・パラダイム • 生活向上欲求(vs見せびらかしの消費) • 嗜好の地域性 終章 総括と展望 小売業の零細過多性 戦間期の商店街 vs 百貨店 中小小売商の陳列販売・正札販売、小売市場、 流通系列化 勤勉革命 貯蓄(=倹約)→消費(=生活改善) 全体コメント:Pros 流通論、消費論、日本史 +20世紀システム論、プロテスタンティズムの 倫理(勤倹) 国際比較:西洋史とアジア史。pp.16-19. 大衆=「階級や地域という原理が後景に追 いやられた同質な人々」。 テクストマイニング:読売新聞キーワー ド検索ヒット数。 全体コメント:Cons 「モダニティ」の理論的定義がカタカナ的。 「パラダイム」は単層的ではないか。 「和風か洋風かといった二項対立とは異なる次元 に位置」した「新しい生活モデルを支える諸価値 観」。 カタカナ「モダンな」≠多層的な近代化論。 「欲望」とは別に、生産・流通・政治。 ブローデル:長期持続・中期持続・短期持続。 「品揃え物」に日本史的特徴はないのか。 情報の非均等性が強い? 「商品」も市場像の反映。 第1部 戦前期日本の通信販売 非店舗販売の差別化された商品 店舗販売網の整備が勧めば縮小 大量販売か否か cf. 米国 第1章 数量的外観と担い手の性格 コメント:Pros 力技の時系列分析:多様な1次・2次資料 の活用。 国際比較:ドイツに次ぐ代引き個数(1922 年)。 地域比較:北海道・東北・九州から東 京・大阪・愛知へ。 第2-4章との結合:都市型(百貨店)>地方 型・中小零細(京染呉服・宇治茶)。 第1章 数量的外観と担い手の性格 コメント:Cons 1922年以降の減少は通信販売の減少を意 味するのか? 居宅引換の廃止(1923年)のせいではないか? 小包総数の急減(1933年頃)はなぜか? 図1-1 「日本は通信販売が顕著な発展をみせな かった国の側に位置づけられる」 ドイツに次ぐ2位、米・英の中間なのに? 第2章 代金引換郵便の意義と「限 界」コメント Pros:流通インフラ論や、統計の背景の政策 的論争の分析は重要。 居宅引換の廃止が、高い返還率の固定を意味 するのはなぜか? Cons:居宅引換の利用率は? 低利用で部分 的影響ならば、2章の存在価値は? Cons:代引郵便の返還率が高いならば、小包 こそ通信販売には重要なのではないか? 1章 では小包総数を論じるべきだったのでは? 第3章 百貨店による通信販売の日 本的展開 コメント:Pros 適材適所の資料活用:2次文献・社史、1 次史料・雑誌・名簿。 明解なRQ、統計で1次史料、叙述で2次文献。 「代理選択」という日本・都市型通販。 カタログというメディア分析。 カルチュラル・スタディーズ。 第3章 百貨店による通信販売の日 本的展開 コメント:Cons 大衆化戦略の失敗(1920年代)=嗜好の複雑 多様性? 外商の伝統? 情報環境? 店舗販売・出張販売 vs カタログ販売 関東大震災・昭和恐慌 日用雑貨類<呉服・代理選択 「実用派」婦人誌 ミクロな(消費者の)「情報探索コスト」に 違和感。 マクロな消費文化の未成熟、都市型消費の未 共有ではないか? 所得構造は? 第4章 通信販売による宇治茶ブラ ンドの全国展開 コメント Pros:1次史料に基づく包括的把握の迫力。 通販、特約店網、顧客、広告宣伝(仏教雑誌→ビタミンC vs 番茶) 輸出不振(1910年代)→通販拡大(1910年代)→全盛(1920年代 前半)→後退(昭和恐慌後) Pros:中川常緑園茶舗: 売上拡大(1924-1928年)→急降下・低迷(1929-1940年)→急成 長(1943-1944年)。 小売通販→卸:特約店。固定客・他頻度・高額購入→常緑 園会。 Cons:代引郵便の激減(1931年)→前金小包の方が重要で はないか? 表4-5 Cons:卸への転換やビタミンC広告の1920年代は、直後 に低迷期を迎える。売上高増減は別の論理では? 第5章 婦人雑誌代理部の歴史的役 割 コメント Pros:メディア論(雑誌)と流通論(代理部)の結合 雑誌(実用派vs教養派)、リテラシー、所得階層の先行 研究の見直し 1品目1アイテム、キーワード、価格の分析→商品の推 奨機能。 Cons:代理部通販・婦人雑誌の影響力はどのくら いの比率か(引用文だけで説得力十分)? Cons:顧客層は新中間層か? 第3章の百貨店とは 顧客が違うのでは? 第8-9章の新中間層とも違い そう。逆に第7章の百貨サービスと重複しないか? Cons:推奨機能の成功は、嗜好の画一化、都市型 への収斂を意味する? 雑誌は通販低迷(1930年代) を経験しなかったか? 第6章 数量的外観と担い手の性格 コメント Pros:困難な統計化の実現。 1920年代半ば以降の月賦販売の成長と小 物商・質屋の減少。 商業者:仕事用品(タクシー車両) >新中間層(公務・自由業):紳士服・革靴 中規模以上の業者(伊予商人)を統計的に位 置づけた。 第7章 基盤整備の遅れと経営的対 応 コメント Pros:日本型月賦の描写。 法律・金融・信用調査の不備。 講会、職域指定商人、貯蓄月掛 Pros:「百貨サービス」(1930年代)vs「専門 店会」(1930年代)の発見。中小小売商>百貨店。 Cons:百貨サービス・専門店会と月賦の関係 が分からない。 Cons:月賦の成長(1920年代)や衰退(1930年代) と対応しない。 Cons:百貨サービス・専門店会の成長は、消 費者層のいかなる変化を意味するか。 第8章 伊予承認による漆器販売の 地域的展開 コメント Pros:曽我部家資料による実証分析。 Pros:経済論と文化論の結合。 売上統計:満講勘定による売子への大きな配当。月 賦販売による客単価激増。 顧客:「選挙権者に満たない」中間層 ビジネス:大地主対象の椀講(輪島漆器)→中間層対象 の講売→移動陳列販売。 ハレ文化:共有膳椀→月賦。 Cons:共同体規制(椀講・共有膳椀)が消失し、法 律・金融・信用の新制度も未成立な中、売子は未 払い・買い逃げをいかに回避したか? 通販では変 換率が問題になった。未払い分を配当で充当した か? 第9章 月賦百貨店の成立と大衆市 場 コメント Pros:曽我部家資料による実証分析。 売上高・借入金、仕入先多角化、人件費抑制。 漆器販売から家具類へ(1919-1921年)。商圏の固定。 Pros:社会史と経済史の結合。 銘々膳から卓袱台へ。 嫁入り道具:都市(社宅)の新中間層>見せびらかし(『女狂 ひの旦那さん』は別にしておけば)。 Pros:月賦店の優位性=高利益率 vs 百貨店=高品質。 Cons:大都市進出による集金率の悪化(1910-1911年):漆 器月賦販売でも行方不明・手元不如意は生じたのでは ないか? Cons:1922-1932年という通販・月賦の転換期について、 第1-2節と第3節の分析が断絶する。 西洋経済史の立場から 大衆消費社会論をカトーナとガルブレイス、時期をロストウで定義 するのは疑問。米国は特殊。欧州も1960年代? ヴェブレン『有閑階級の理論』:顕示的消費 ボードリヤール『消費社会の神話と構造』 第1次世界大戦、大恐慌、第2次世界大戦等、政治経済史の先 行研究を軽視し過ぎではないか。 1920年代の「胎動」がなぜ1930年代に萎むのか。 1960-1970年代の日本型消費社会をいかに特徴づけるか。 仇花? 昭和恐慌? 大衆化の断絶? 日本型(=零細過多+多段階) は原動力or障壁? 戦間期顧客層の多様性。大衆消費者と一般化できないのでは ないか。 宇治茶、婦人雑誌代理部、月賦百貨店、百科サービス 地域的多様性 vs 雑誌・広告 フランスの事例:大量流通 日仏経営史会議:Beyond the Mass Distribution 中小商店保護:ロワイエ法(1973)、ラファラン法 (1996) 百貨店:ボン・マルシェ、ルーブル(1855)、プラ ンタン(1865)、サマリテーヌ(1870)、ギャラリー・ ラファイエット(1895) 連鎖店:ランヌ経済共済施設(1852)、百団体(19001939) 廉価百貨店:ユニプリ(1928) スーパーマーケット:1958、カルフール(1963) 通販:ブシコ(1867)、返品可能 マルシェ フランスの事例: 新中間層・大衆所費 1960-1970年代: ジャン・ボードリヤール『消費社会の神話と 構造』:1959-1965年 2段階:1945-1974年+1975年~ P.フリダンソン「中間層社会」 雇用、福祉国家、教育、消費、月給、ジェン ダー等。
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