2012/8/2 原子力永久推進体制をもくろむ 原子力規制委員会・人事案の撤回を 求める 脱原発弁護団全国連絡会 弁護士 海渡雄一 1 3.11後の日本を託す委員会 2012年6月原子力規制委員会設置法が成立 し、委員長と委員の選任手続が進行中である。 この組織は、福島第1原発事故後の原子力安 全規制を委ねられ、全国の原発の再稼働の適 否や放射性廃棄物の管理処分の方法などにつ いて判断していく組織である。 福島第1原発事故によって根底から失われた 原子力安全行政への国民の信頼の回復が、新 たに選任される委員長・委員の手に委ねられる はずだった。 真に完全独立の機関設置 が求められていた 新たに設置される原子力規制委員会は経 済産業省から完全に独立し、これと明確に 分離されたものとする必要がある。 その実現なくして原発の再稼働の適否の判 断など到底不可能である。 真に独立した規制機関の設立は私たちの要 求だった。しかし現実に起きたことは?。 あるべき原子力規制制度 経済産業行政から真に独立した規制機関を速やか に設立する。規制委員会を設置し、委員の身分保 障を確立させることを目的としてきた。 経済産業省から規制機関には片道切符で。ノーリタ ーン制を全体に適用するべき。 「バックフィット制度」「過酷事故対策の法規制化」「 原発寿命制限」は危険な原発を止めていく武器とな るはずだった。 しかし、独立性の高い委員会の委員に原子力ムラ のボスが居座ったら、原発の永久推進体制ができ てしまう。その悪夢が現実となろうとしている。 その重大性にふさわしい手続を 原子力規制委員会設置法第7条は委員長及び委 員は、「人格が高潔であって、原子力利用におけ る安全の確保に関して専門的知識及び経験並び に高い識見を有する」ことを求めている。 真にこのような要件に合致したものが選任される ためには、それにふさわしい委員長・委員の選任 基準と選任方法をとる必要があった。 国会事故調の求める選任手続 国会事故調は新たな規制組織の独立性は「① 政府内の推進組織からの独立性、②事業者か らの独立性、③政治からの独立性を実現(中略 )する。」ものとする。 その委員の選定にあたっては、「第三者機関に 1次選定として、相当数の候補者の選定を行わ せた上で、その中から国会同意人事として国会 が最終決定するといった透明なプロセスを設定 する」とされていた。 日弁連7月19日付会長声明 法の定める欠格要件と7月3日要件に従う だけでなく、委員長・委員が国会の同意人事 となっている趣旨を踏まえ、日弁連は 「候補者の原子力安全に関する過去の主要 な言動を国会事務局において収集し、国会 に提出した上で、候補者を国会に招致し、そ の資質と識見に関して時間をかけて質疑を 行い、そのプロセスを公開し、さらに、その 候補者に対する国民の意見を聴取するべき である。」との意見を述べている。 法の欠格要件と 政府が定めた欠格要件 法の欠格要件(法7条7項3号) 原子力事業者等及びその団体の役員、従 業者である者 政府が定めた欠格要件 就任前直近3年間に原子力事業者等及び その団体の役員、従業者等であった者 更田氏・中村氏はこの二つの要件に該当す る。 法の定める欠格事由 設置法7条7項三号は、規制委員会の委員 長及び委員について、「原子力に係る製錬、 加工、貯蔵、再処理若しくは廃棄の事業を 行う者、原子炉を設置する者、(中略)の従 業者」を欠格事由として定めている。 委員の選任に関する政府ガイドライン 政府は、7月3日付要件において、委員長及 び委員について、上記法律上の欠格要件に 加えて、「 ①就任前直近3年間に、原子力 事業者等及びその団体の役員、従業者等 であった者、②就任前直近3年間に、同一 の原子力事業者等から、個人として、一定 額以上の報酬等を受領していた者」を不適 格とした。 「原子力事業者」とは 「原子力事業者」とは、原子炉等規制法58 条1項において「製錬事業者、加工事業者、 原子炉設置者、外国原子力船運航者、使用 済燃料貯蔵事業者、再処理事業者、廃棄事 業者及び使用者(中略以下「原子力事業者 等」という。)(略)」と定められている。 委員候補の更田豊志氏について 政府が提案している委員候補の更田豊志氏 は、現在、独立行政法人日本原子力研究開 発機構の副部門長である。 同機構は、高速増殖炉もんじゅを設置し、 東海再処理工場を保有する原子力事業者で あり、法7条7項三号の定める再処理事業 者・原子炉設置者に該当することは明らか である。 更田氏は、現在においても同機構の従業員 であって、上記の欠格要件に該当する。 委員候補の中村佳代子氏について 政府が提案している委員候補の中村佳代子氏は、公益 社団法人日本アイソトープ協会のプロジェクトチーム 主査である。 同協会は、研究系・医療系の放射性廃棄物の集荷・貯 蔵・処理を行っており、「原子力に係る貯蔵・廃棄」 の事業を行う者である。 現在は文部科学省の管轄下にあるものの、法の施行後 は原子力規制委員会による規制・監督に服することに なるのであって、法7条7項3号の定める原子力事業 者等に該当する。 中村氏は、現在においても同協会の従業員であって、 上記の欠格要件に該当する。 委員選任と同時に辞職するからよい?! 政府は委員選任と同時に辞職予定であるか ら法の定める欠格事由に該当しないと説明 しているようである しかし、辞職さえすれば欠格要件に該当し ないのであれば、欠格要件を定めた理由が なく、このような解釈は法の趣旨に反する。 営利事業でないからよい?! 政府は、7月3日付要件については、独立行政法 人日本原子力研究開発機構・公益社団法人日 本アイソトープ協会は営利企業ではないため、「 原子力事業者等」に該当しないと説明している。 しかし、原子力規制委員会とその規制対象となる 原子力事業者との間の利益相反を防止するとの 欠格要件の趣旨は、非営利団体にも等しく妥当 する。政府の解釈は、欠格要件を定めた法と7月 3日要件の趣旨を理解せず、「原子力事業者等」 を不当に狭く解するものであって、不当である。 選任のプロセスをやり直せ! 法と7月3日要件に定められた政府方針に 反するような者が委員候補とされたことは遺 憾である。 このような事態となった原因は現在政府が 進めている委員の選定のプロセスが不透明 であることに求められる。 選任のプロセス自体をやり直すためにも、 政府は法違反の二名だけでなく、人事案全 体を撤回し、委員候補を再提案するよう強く 求める。
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