中・高等学校数学教育における課題 ―アンケート調査より―」 白石和夫 (文教大学) 利根川 誠 (中央大学) 中・高等学校数学教育に関するアンケート ご挨拶 数学教育学会の Study Group のひとつである「中・高数学教育 SG」では中・高等学校における 数学教育の改善について考えてまいりました。今般,中・高等学校において指導が難しいとされ る事項につきまして皆様方のご意見を賜りたく,アンケートへのご協力をお願いします。 文教大学教育学部 白石 和夫 中央大学理工学部 利根川 誠 以下のアンケートは担当された経験のない項目は無視していただいて結構です。 また,答えにくいものについては可能な範囲でご協力ください。 回答は,1月30日までにご返送をお願いします。 なお,アンケートの集計結果につきましては,数学教育学会年会等の機会を利用して報告させ ていただきます。 以下,アンケート内の中・高等学校の数学の内容については旧課程,新課程のものを含めて羅列してい ます。 1.現在までに担当されたことのある授業科目にチェックをお願いします。 □中学校数学科 □高等学校数学科 □教員養成課程における数学 □教員養成課程における数学科教育法 その他( ) 2.中学校数学科の以下内容で,a.指導が難しいと感じる内容には□内にㇾ点を,また,b.生徒にと 調査の集計 • 送付先 380名 • 回答数 129 2.中学校数学科の以下内容で,a.指導が難しいと感じる内容には□内にㇾ点を,また, b.生徒にとっておもしろいかまたは役に立つと思われる内容については○内にㇾ点をつ けてください。 □○ 正負の数 □○ 文字式の計算 □○ 1次式・1次方程式 □○ 比例・反比例 □○ 基本作図 □○ 空間図形 □○ 連立方程式 □○ 一次関数 □○ 確率 □○ 標本調査 □○ 平行線・角の性質 □○ 三角形の合同 □○ 平方根 □○ 文字式の展開・因数分解 □○ 自然数の素因数分解 □○ 2次方程式 □○ 関数y = ax2 □○ 相似(平行線と線分の比を含む) □○ 円周角の定理 □○ 三平方の定理 特に指導が難しいと感じる点がありましたら具体的にお書きください。 中学校の内容 空間図形 確率 三角形の合同 相似 標本調査 比例・反比例 三平方の定理 基本作図 正負の数 文字式の展開・因数分解 指導が難しい 円周角の定理 役立つ・おもしろい 一次関数 平行線・角の性質 関数y=ax2 文字式の計算 2次方程式 自然数の素因数分解 1次式・1次不等式 連立方程式 平方根 0 5 10 15 20 25 30 35 40 中学校の内容 空間図形 確率 三角形の合同 相似 標本調査 比例・反比例 三平方の定理 基本作図 正負の数 文字式の展開・因… 円周角の定理 一次関数 指導が難しい 役立つ・おもしろい 空間図形について • ・空間図形の「説明せよ」の指導がどの程度 あつかえばよいか難しい。むしろ,「証明せ よ」と厳密性を要求したほうが指導しやすい。 • ・空間認知力が低下している感じを日々受け ますので,空間に関する内容をC.G.や模型で 視覚的にとらえられる様にし,自分で解答を 見いだせる様にする点が難しいと感じる。 図形の証明について • 記述する内容よりも,記述の仕方に注目してし まい,論理的に考えられない生徒が多い。ま た,結論を導くということを途中で忘れてしま い,証明が終わったのかどうかも自分で判断 できていない生徒が多い。 • ・証明の記述の仕方,証明をすることの意義 • 塾でやり方だけ先行して習っているので,根拠 と結論が逆になる生徒も多い。教科書も記述 が曖昧であるため,体系をとらえさせずらい。 中学校の内容について • 知識・理解・技能として「解き方を覚えなさい」 と指導することを反省し,「なぜその様な考え 方をするのか」を重点として指導する必要を 感じる。 3.高等学校数学の以下内容でa.指導が難しいと感じる内容には□内にㇾ点を,また,b.生 徒にとっておもしろいかまたは役に立つと思われる内容については○内にㇾ点をつけてく ださい。 □○ 数と式 □○ 2次関数 □○ 2次方程式・2次不等式 □○ 図形と計量(三角比) □○ 場合の数と確率 □○ データの分析(新課程) □○ 集合と論理 □○ 平面図形 □○ 複素数(2次方程式) □○ 式と証明・高次方程式 □○ 図形と方程式 □○ 指数関数・対数関数 □○ 三角関数 □○ 微分の考え □○ 積分の考え □○ 数列 □○ ベクトル □○ 統計とコンピュータ □○ 数値計算とコンピュータ □○ 極限 □○ 微分法 □○ 積分法 □○ 平面上の曲線 □○ 行列とその応用 □○ 確率分布 □○ 統計的推測 □○ 複素数平面 特に指導が難しいと感じる点がありましたら具体的にお書きください。 高等学校の内容 統計的推測 データの分析 確率分布 極限 集合と論理 ベクトル 三角関数 数列 統計とコンピュータ 複素数平面 数値計算とコンピュータ 平面図形 場合の数と確率 式と証明・高次方程式 2次関数 平面上の曲線 積分の考え 積分法 微分の考え 図形と計量 複素数 行列とその応用 2次方程式・不等式 指数関数・対数関数 図形と方程式 微分法 数と式 指導が難しい 役立つ・おもしろい 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 高等学校の内容 統計的推測 データの分析 確率分布 極限 集合と論理 ベクトル 三角関数 数列 統計とコンピュータ 複素数平面 数値計算とコン… 平面図形 場合の数と確率 式と証明・高次方… 2次関数 指導が難しい 役立つ・おもしろい 複素数平面 数値計算とコンピュータ 平面図形 場合の数と確率 式と証明・高次方程式 2次関数 平面上の曲線 積分の考え 積分法 微分の考え 図形と計量 複素数 行列とその応用 2次方程式・不等式 指数関数・対数関数 図形と方程式 微分法 数と式 指導が難しい 役立つ・おもしろい データの分析・統計 • 統計的なものは,実用という意味で役立つと いうのは疑問。数学の学問性が薄れる。 • 「データの分析」はΣ記号履修前で式を書くの が大変。 • データの分析,四分法などでどのように教え るのか? 統計的推測について • 有意水準の定め方について生徒にその根拠 を尋ねられたら明確に答えることが難しい。 確率分布について • 「独立」の定義が曖昧 • 確率は全度数をどうとるかで答えが違う。 確率分布も分布の仕方で結果が異なる。 平面図形について • 証明はすぐ答えを見る生徒が多く,なかなか 書いて理解しようとしない。書き方を示して証 明を最後まで書くが,生徒はノートに写すだ けになってしまう(応用がきかない)。 • 時間的に,「図形と方程式」,「ベクトル」と関 連づけて話すことができない。中学校で学ん できてほしい。 ベクトルについて • 有効線分の考え方から(位置によらない)ベク トルへの展開でついてこれない生徒がいる。 極限 • 新たな考え方といってよいのでしょうか。極限 の考えに初めは抵抗感があったようで,その 導入部分は難しいと思います。 • 限りなく近づくという思考をいかに生徒に身に 着けさせるかが難しい。 高等学校の数学 • 現場の多くは,どの分野がどうだ,という状況 にない。関数概念は多くの生徒がダメ,証明 もダメ。 中高数学科の指導の改善に対しする評価 中1 数の集合と四則計算の可能性 中1 大小関係の不等式による表現 中1 簡単な比例式の解法 中1 球の体積・表面積 中1 図形の移動と投影図 中1 資料の活用 中3 円周角の定理の逆 中3 解の公式 中3 相似図形の面積比・体積比 中1 資料の活用 中3 標本調査 中学 いろいろな事象と関数 数Ⅰ データの分析 数Ⅱ 複素数が残された 数Ⅲ 複素数平面 高校 数学活用 数A 整数の性質 数B 確率分布と統計的な性質 意味がある どちらとも 意味がない わからない 0% 20% 40% 60% 80% 100% 削除した方がよいと思われる内容 (回答数が多い領域) • • • • 数値計算とコンピュータ 統計とコンピュータ データの分析 項目5.docx 教科書に説明されている内容以外に 特に重視すること • 項目6.docx 7.中・高等学校教員となる人が知っておくべき基礎理論として特に学ばせておきたい内容 を5つ挙げるとしたらどの内容にしますか。□内にㇾ点を付けてください。 □自然数論(ペアノの公理) □初等整数論 □実数論 □3次・4次方程式の解法 □代数方程式の一般論 □線形代数学 □1変数の解析学 □多変数の解析学 □複素解析 □ユークリッド幾何(古典) □公理論的ユークリッド幾何 □非ユークリッド幾何 □微分幾何 □位相幾何 □変換幾何 □グラフ理論 □確率論 □数理統計学 □公理的集合論 □証明論(記号論理を含む) □計算論 □その他(具体的に)( ) 知っておくべき基礎理論(5つ) 線形代数学 初等整数論 ユークリッド幾何(古典) 1変数の解析学 実数論 数理統計学 確率論 代数方程式の一般論 自然数論(ペアノの公理) 複素解析 多変数の解析学 3次・4次方程式の解法 微分幾何 非ユークリッド幾何 グラフ理論 公理論的ユークリッド幾何 証明論(記号論理を含む) 公理的集合論 位相幾何 変換幾何 計算論 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 8.中・高等学校教員を養成する上で今後重視すべきと考えるのは,どのような知識・技能 の習得ですか,特に重視するもの3個以内で□内にㇾ点を付けてください。 □数学の基礎理論 □数学の関連分野に関する広範な知識 □数学的思考力 □子供の思考過程を理解する □学力を定着させる指導法 □数学的考え方を伸ばす指導法 □数学を日常に生かす指導法 □数学に興味を持たせる指導法 □子供達が数学を作る指導法 □子供達の協同による学習の支援 □学校カリキュラムの構成について理解する □数学が社会において果たす役割を知る □近未来において社会がどう変容するか考える □その他(具体的に) ( ) 中・高教員養成で今後重視すべきもの (特に重視するもの3個以内) 数学の関連分野に関する広範な知識 数学的思考力 数学の基礎理論 数学に興味を持たせる指導法 数学が社会において果たす役割を… 数学的考え方を伸ばす指導法 子供の思考過程を理解する 学力を定着させる指導法 子供達が数学を作る指導法 数学を日常に生かす指導法 学校カリキュラムの構成について理… 子供達の協同による学習の支援 近未来において社会がどう変容する… 0 10 20 30 40 50 60 70 教科教育法の授業での指導内容 • アンケート-9-回答.docx 今後,重点的に研究すべき課題 教科内容について • あれこれ教えるのではなく,焦点をしっかりあ ててほしい。 • 数Ⅰでは数Ⅱでは数Ⅲでは何を考えるかと いう所に力点をおいてやってほしい。 • 小・中・高・大を見通した系統的なカリキュラ ム(学習指導要領)の作成 数学教育の目指 すものの明示。 • 非理科系の生徒に数学を無関係なものとさ せない、指導内容の選択と指導方法 今後,重点的に研究すべき課題 教科内容について • わくわくする数学。具体的には基礎・応用共 に先人の知識に触れ,感動する授業 • 生徒が学んで楽しく充実するのは“真理への 欲求”であると考えている。将来のためとか, 役立つとかいうのは全くの欺瞞でしかない。こ こを正していかないと問題は解決しない。生 徒はそのことを望んでいることをわかること。 今後,重点的に研究すべき課題 教科内容について • ・発達史の側面からの導入・配列の見直し。現 在の数学の教科書が数学の専門書的になりす ぎている。たとえば自然対数の定義などは,そ れが生まれてきた歴史的必然性をふまえて導入 されるべき。 • ・単なる知識(技能)の習得ではなく,数学を学ぶ 意義がより明確に伝わるような指導。 • ・数学の役割を子供たちが知らなければ、便利 な時代においてわざわざ数学を学ぶことはなく なってしまう気がする。「数学が社会において果 たす役割を知る」ことが重要だと考える。 今後,重点的に研究すべき課題 教科内容について • 諸学問(自然科学、社会科学、人文科学およ びテクノロジー)を学ぶのに基盤(学ぶための 基礎、基本となる基礎学問)となる大学での 学習、研究に必要となる数学諸分野の教育。 これらについて、地球的規模での学問研究の 進展に応じた数学教育の方向性を示していく ことが重点を置いて研究するべき課題である と考えます。(昔から、欧米の大学では、いず れの学問を学ぶにしても、まず数学を学ぶこ とになっているのだそうです。) 今後,重点的に研究すべき課題 教科内容について • 数学の技能的な解法だけではなく,物事の本質 をつかみ,それを数式にして解いていく数学の 良さ,合理性をいかに生徒に体得させるか,課 題と思う。 • ・現代数学の流れを踏まえて,中・高等学校の数 学の分野(内容)編成について研究すべきであ る。(例えば,現代数学で欠かすことができない 行列の分野は高校時代に学習すべき項目) • ・数学と関連する分野の教材開発、特に物理(力 学分野)の内容を中高生用に 今後,重点的に研究すべき課題 教科内容について • 高校のカリキュラムは見直すたびに時代に合 わせてよくなっていると感じているが,教科書 は基本的に昭和40年代とあまり変わらないと 思う。大学入試対策は参考書にまかせるとし て,数学の理論を学ぶことに特化した本来の 意味の教科書を一から作成すべきだと考え ている。 • 今後,重点的に研究すべき課題 教科内容について • ①世代交代と少子化のなかで,指導上伝えるべきこと の精選。少子化ゆえ,集団指導から個別指導への大 きな流れとなっているなかで,世代交代が起こってい る。過去の貴重な指導法で個別指導に活かせるもの をきっちり整備していく必要がある。 • ②「数学は公式を覚えれば事足りる」という発想から, 考え,定着させる指導法。「試験前に公式を覚えれば 大丈夫」という考えは根強い。試験が終われば忘れ定 着しない。この発想であれば授業中考えなくてもよ い。対抗できる数学的に値打ちのある考えさせる設定 についての研究は大きな課題。 今後,重点的に研究すべき課題 指導法・教員の資質向上 • 数学的思考力を育成する指導 • ・正解を探すのではなく、造ること • ・今現在、数学的活動を授業に取り入れ、数学 的関心や思考力を高められる授業になるよう工 夫しているが、生徒の論理的思考力は年々短絡 的になっているように思われる。今後も現代の若 者が興味を持って考えることのできる課題を常 に研究し、教員同士情報を交換していくことが、 大切なのではないかと感じている。 今後,重点的に研究すべき課題 指導法・教員の資質向上 • 教員側の指導力向上が大きな課題であると思う。小 中高の数学教員の連携を強めていくことが課題では ないだろうか。 • ・予習、復習の仕方とその効果 • ・既有知識の効果的な使用法 • ・電子教科書などバーチャルなものと実物などを利用 した提示法の工夫。 • ・指導に教員が自信をもてない内容の摘出とその指 導法。 • ・具体的研究よりも教員の資質向上、学力向上対策 が先決 今後,重点的に研究すべき課題 指導法・教員の資質向上 • 進学実績をあげるために、ひたすら入試問題 を解けるようにするための授業が増えている ような気がします。このような中で、入試に直 結しないような授業をすると、校内で浮いた 存在になる空気が出てきているのです。学会 の研究の視点とは異なるでしょうが、研究の 成果を実践しにくい環境になりつつあるのは 問題かなと感じます。アカデミックな立場の 方々の応援が現場には必要です。 今後,重点的に研究すべき課題 教員養成 • 数学科教育法や数学教育に関して、中学に力点 が置かれている。中学はともかく、高校の数学教 育に携わる教員の多くは、教育学部出身ではな い。今も昔もそうであるが、そのこと(その現実) を考えて、理学部の数学と教育学部で教える数 学について、大学側で積極的な課題研究を期待 したい。 • ゆとり教育世代の学生は考える力や知識が不足 している。それを補うための大学の授業研究。 今後,重点的に研究すべき課題 教員養成 • 教員養成等の大学の数学は、本当に中学 校、高等学校の教室にいる生徒の存在を想 定して企画、立案されているでしょうか。専門 的な数学を学ばせて、あとは「各自考える」式 の教育になってはいないでしょうか。 • ・特に工学部における教員養成においてはそ の数学力をどのように高めるのか?教員の 数学力を高める方法は大変重要だと思う 今後,重点的に研究すべき課題 • アンケートー10-回答.docx 終わりに • おいそがしいなかアンケートにご協力いただ いた129名の先生方に感謝します。 • 今後,結果を精査し,中・高等学校数学教育 の改善に生かしていきたいと考えています。
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