バイリンガルに なりたい人 なりたくない人 なれない人 University of California Los Angeles Asako Hayashi Takakura, Ed. D 林 あさ子(教育学博士) 本日のキーワード • • • • • バイリンガル=二言語話者 言語四技能=話す、聞く、読む、書く 言語習得 多重知性(multiple intelligences)理論 DI (Differentiated Instruction) 多様性に応じた 指導 • Self Assessment 自己診断 本日の話の流れ • 二言語話者(バイリンガル)とは? • バイリンガルになりたい人となりたくない人 • 二言語習得の可能性と これまでの研究 でわかったこと • 言語習得と年齢の関係 • 二言語話者(バイリンガル)のチャレンジ • 二言語話者(バイリンガル)養成の教育法 • 多重知能理論に基づいた学習法 私達を取りまく言語環境 電子機器と共生している社会 Bilingual(バイリンガル)に対する 捉え方の違い • 日本では 主に 日本語と英語が話せる人を イメージすることが多い • アメリカでは 主に 移民で英語以外の母語 (スペイン語やベトナム語)を話しながら、英 語も話す人をイメージすることが多い • 多言語話者が国民の大半を占める国(スイス、 カナダ、ルクセンブルクなど)では フツーの 人をイメージすることが多い バイリンガルになりたい人 • 自分の母語が国際的に通用しない言語である ため、国際的に役立つ例えば英語のような言語 を新たに習得したいと思っている 国際的に活躍したいと思っている日本人 • 自分の母語以外の言語が主に使用されている 国に移住し、その国で使用されている言語を習 得しないと生活していけない環境にある人 先進国への移民(在日外国人 在米日本人) • バイリンガルに対して肯定的なイメージを抱き、 ひとつよりはふたつのほうがいいと思う欲張り な人 バイリンガルになりたくない人 • 自分の母語が国際的に通用する言語 例えば 英語で、ひとつの言語だけで十分成功できる人 中流階級以上のアメリカ人 • 自分の母語以外の言語が主に使用されている 国に移住したが、その国で使用されている言語 を習得しなくても生活していける人 短期滞在者(在日外国人 在米日本人) • バイリンガルに対して、否定的、または無関心 で、なれれば便利かもしれないけど ならなくても いいと思っている人(動機がない) バイリンガル教育 • 90年代のアメリカでの論争 移民の第一言語を使用して教育をおこなうべきか 英語だけで教育をおこなうべきか • プラス型 対 マイナス型モデル 母語に加えて他の言語を習う--バイリンガルになる 母語から他の言語に移行する--モノリンガルになる • プラス型モデルとしての“イマージョン”教育 目標言語を学習の道具として教科を学ぶことで、母語 と目標言語の両方を伸ばすことができる(た??) バイリンガルになれない人 外国語を習得する能力がない人 外国語を学ぶには才能があるのか あるとすれば、どんな才能が必要なのか Modern Language Aptitude Test (MLAT) 言語分析能力 記憶力 音声認識能力 バイリンガルになれない人 ある程度の年齢以上の人(年を取りすぎ ている人 言語習得臨界期説(Lennenberg 1967) 複数臨界期説(Seliger 1978) 臨界期説は自然習得(生得的)にのみ適用 (DeKeyser 2000) 大人になってから第二言語を学習し、母語話者の ような流暢さを習得することは可能(Bongaerts 1999, Schumann 2007) バイリンガルになれる人 • 二言語を使用する環境にいる人 (家では日本語 学校では英語を使用している海外 日本人子女) • 二言語が自分の生活/仕事に必要不可欠な 人 (日本語を話さない人を顧客に持つビジネスマン) • バイリンガルになりたいと強く希望し、努力を 怠らない人 二言語同時習得の可能性 • 二言語(またはそれ以上)を同時に習得する ことは可能か • 二言語(またはそれ以上)を同じように習得 することは可能か • 二言語(またはそれ以上)で学習する場合、 認知能力、教科学習にどのような影響があ るか 二言語同時習得の可能性 二言語(またはそれ以上)を同時に習得するこ とは可能か 可能であると言える 二言語(またはそれ以上)を同じように習得す ることは可能か 不可能ではないが、多くの場合、必要ではない 二言語(またはそれ以上)で学習する場合、認 知能力、教科学習にどのような影響があるか いい影響と悪影響の両面がある 二言語同時習得の研究 • 主にヨーロッパで行われてきた • 北米(カナダ アメリカ)では移民対策の一部 に位置づけられているものが多い • 日本人(または日本語を含む)の研究は数 少ない Colin Baker: A Parents’ and Teachers’ Guide to Bilingualism Maria Brisk: Bilingual Education Jim Cummins: BICS vs CALP 中島和子: バイリンガル教育の方法 子供の言語習得過程 身体/認知能力の発達と共に言語を習得していく • 音声の獲得 • 2語文+ (文法の内在化) • 語彙の獲得 (生涯を通して学習) • 場に応じた言語の使用(語用) バイリンガルの子供のチャレンジ • モノリンガルの子供より 多くの語彙、文 型、文化を学ばなくてはいけない。 • 家庭、学校がバイリンガル環境だと二言 語ができて、当たり前だと思われる。 • どちらの言語も不完全であると思ってしま う。 • アイデンティティの確立に悩む。 日英バイリンガルの子供のチャレンジ 日本語と英語の言語そのものの違いの大きさ (文字表記 文法/語順 音声) 日本語は英語話者にとって最も習得が難しい 言語のグループに属している 日本語文化圏と英語文化圏の力の差 Ethno-Linguistic Vitality 模範となる人が圧倒的に少ない どうしたら日英バイリンガルを育成できるか バイリンガルの話者を正しく評価する 二言語習得の成功例の実例を詳しく分析し、模 範を示していく 日本語の地位の向上(身の回りから国家レベ ルまで) 日常言語能力/学習言語能力 BICS CALP BICS 日常言語能力 ー家庭で学べる CALP 学習言語能力 ー目標言語で学習する ことによって習得する 発音—自然習得 • 二言語同時習得の場合でも両言語を母国語 のように習得できるとは限らない。 • 二言語間の違いが、お互いの言語習得に干 渉し合うこともある。 • 日本語の中にある外来語(英語)の習得によ る英語発音の変化 • 英語の習得による日本語(〜しい)発音の変化 研究例 (アメリカに住む小中大学生日本語話者 のカタカナ語発音と形容詞(〜しい)の発音の調 査 聞き込み/アンケート調査(小、中、大学生/卒業生) 1 日本で日本人に「英語を話して」と言われたことがあるか。 あるとしたら誰に? 2 英語は日本語よりかっこいいと思うか。 3 日本語を話している時、英語の単語をオリジナルの発音で 言って、ほめられたことがあるか。 4 最近、「おいしい」や「うらやましい」など「〜しい」で終わる 形容詞が英語の「C」のように発音されているのを聞いたこと があるか。 5 自分でもその言い方を使ったことがあるか。 6 日本語で話している時、英語の単語(スイーツ、フェイスブックなど) は英語の発音のまま、使うか。または意識的に日本語の発音に変えるか。 聞き込み/アンケート調査の結果 120% 1. 「英語を話して」と日本人 に言われたことがある? 100% 80% 60% Q1/ Yes 40% Q2/ Yes 20% Q3/ Yes 0% 2. 自分や家族は日本語より 英語のほうがかっこいいと 思う? 3. 英語の言葉(コンピュー ターやレポートなど)を英 語の発音で発音してほめ られたことがある? 聞き込み/アンケートの結果 120% 4 100% 80% 60% Q4 Yes 40% Q5 Yes 20% Q6 Yes 0% 5 6 最近、「おいしい」や「うら やましい」 など「〜しい」で 終わる形容詞が英語の 「C」のように発音されてい るのを聞いたことがある? 自分でもその言い方を 使ったことがある? 日本語で話している時、英 語の単語(スイーツ、フェ イスブックなど)は 日本語の発音に変えるか。 実際に参加者の発話を聞いてみると... • 英語として覚えた単語(Chocolate, Sandwich, Lettuce, paper towel など)を小学生がカタカ ナを習い、日本風の発音を覚えると 一時的 に英語の発音 イントネーションに影響が出 ることがある。 • 英語と日本語のバイリンガル話者が日本語 を話す時、英語の発音が日本語に混ざること があるが、両言語の能力が高くなると意識的 に発音を変えることが可能であるようだ。 文字の習得に伴う発話の変化 • モノリンガル話者は母語習得の過程で、学校 で文字を学習する前に 1000語程度の語彙 /フレーズを習得している。(Inoue 2002) • L1 speakers of English can generally use about 1000 different words by the time they start school aged 5 years old. (CAL 2010) • 文字学習以前に習得した語彙を文字で認識 した場合、ほぼ確実に正しい音を再現できる 文字の習得に伴う発話の変化 • 文字を習得したのちに、新しい語彙を目にし た場合、正しい発音、イントネーション、流暢 さが損なわれることがある。 • 新しい言語(母国語と異なる言語)を習い始 める時、文字を媒介せずに覚えられる語彙の 数は子供と大人で顕著な差がある。 • 子供と大人に同じ方法で新しいフレーズを覚 えさせて再生させると、子供のほうがオリジナ ルに忠実に(流暢に)再生できる場合が多 い。 大人と子供はどちらが 上手に話せるでしょうか 「上手に話せる」ということはどういうことでしょう • 発音がいい (はっきりしている) • 質疑応答ができる(質問を理解して正しく答え られる) • わかりやすく話せる 説明できる • 説得力がある(裏付けのある意見が言える) ACTFL OPI guidelineに見る 言語習得の過程 超級 裏付けのある意見が言える。 フォーマルに話せる 上級 複段落で話せる。 まとまった説明ができる。 中級 日常会話ができる。 ストーリーを順を追って話せる。 自分で文が作れる。 初級 単語や簡単な覚えた文やフレーズ を使って意志の疎通ができる。 ACTFL OPI guidelineに見る レベル別 内容 超級 時事 抽象的な話題 上級 コミュニティ 社会一般 中級 日常的な話題 学校/仕事 初級 自分自身 家族 習ったこと 子供と大人(初級)の発話の特徴 子供 • 発話が短い (1〜3語文) • 内容が身の回りのこと • 自分が伝えたいことを 伝えようとする 大人 • 完成した文で話そうと する • 自分の能力の範囲で 話せることしか話さない (既に習った構文や単 語で話す) 話す能力を伸ばすためには • 練習量をふやす(インプット アウトプット) • 失敗をおそれずに発話する環境を作る • 意味のある会話活動を与える • なるべく多くの話者と会話して、様々な話し方 に慣れる 文字の習得は大人と子供は どちらが早いでしょうか 「上手に書ける」ということはどういうことでしょう • • • • • 正しく字を書ける (識別ができる バランスよく書ける) 意味が通じる(文法的に正しい)文が書ける 目的に沿った内容の文が書ける 様々な話題を時間軸に沿って正しく書ける 学術的な論文や仕事に必要な書類が作成で きる 文字の習得 大学生と小学生 小学1年生 ひらがな カタカナ 漢字 80字 1学期(3ヶ月) ひらがな 2−3学期 (6ヶ月) カタカナ 漢字 大学1年生 ひらがな カタカナ 漢字 150字 2−3週間 ひらがな 1−2週間 カタカナ 6ヶ月(35週間) 漢字 子供と大人(初級)の作文の特徴 子供 大人 • 知っている話を聞いた ままに書こうとする • 内容の充実よりは、文 法的に正しい文を使お うとする。 • 自分の頭にうかんだこ とを書き綴る • 事実の描写が多いが 感情の表現を多く使う • 必要最小限のことを既 習の単語や文を使って 書くため、ほとんどが同 じような内容になる 書く能力を伸ばすためには • インプット(活字媒体)をなるべく多く与える • 様々なジャンルの書物にふれ、いろいろな書 き方に慣れる • 意味ある実践的な活動(手紙、メモ、メール) を通して書く機会を多くする • 効果的なフィードバックを与え、必要な場合に はタスクを細分化して書き上げるようにする 多重知性(multiple intelligences)理論 多重知性(multiple intelligences)理論 DI (Differentiated Instruction) 多様性に応じた指導 • 画一化した授業や教材をすべての学習者に 与えるのではなく「何を教えたいか」「何を習 得してほしいか」という『ゴール』を設定し、そ の『ゴール』に達するために何が必要かを考 える • レベル(能力)別指導と解釈され、クラスを「で きる」「まあまあ」「できない」グループに分け てしまっていることもあるが、学習者間の能力 を比較するのではなく、個々の能力の多様性 を考慮して授業計画を作る 多重知性(multiple intelligences)理論 自分以外の人(家族、子供、学生)を評価する時は 「できること」を探す 今日のまとめ • バイリンガル(二言語話者)は、特殊な能力を 持った人ではなく、二言語を使用する環境にい れば、ほとんどの人がバイリンガルになる。 ...が、モノリンガルよりも負担は大きい • 日本語と英語は言語そのものが離れているた め、日英バイリンガルになることは他の言語の 組み合わせより難しいが不可能ではない • 外国語習得に最も大切なのは、その言語を使 用する(したいと思う)こと、母国語と学習言語 のどちらも大切だと思うこと 今日のまとめ • 人間の能力は同一ではなく、自分は多重知性 のどの部分が強いのかを知ることは 自分の 行動や能力を客観的にみる手がかりになる。 • 学習や行動のある側面がうまくいかなかったら、 他の方法、他の考えを取り入れてみる • 外国語学習には、学習開始年齢によって、学 習法、習得の速度などに違いはあるが、年齢 の上限はない。 ご清聴ありがとうございました。 Special Thanks to: Dr. Tetsuo Harada Waseda University Department of Asian Languages and Cultures at University of California, Los Angeles (UCLA) Students and Teachers at Verdugo Woodland Elementary School, Glendale CA My family, especially, my daughter,(active research participant) And You!! ご清聴ありがとうございました。 言語適正テスト サンプル http://lltf.net/mlat-sample-items/ 多重知性 自己診断テスト http://www.literacynet.org/mi/assessment/findyourstr engths.html ACTFL Standards (外国語能力四技能) http://www.actfl.org/publications/guidelines-andmanuals/actfl-proficiency-guidelines-2012/japanese/
© Copyright 2024 ExpyDoc