第11回

パブリック・マネジメント
戦略行政への理論と実践
第2章
行政経営の時代へ
総合政策学部3年 菅野谷純
環境情報学部4年 鳥海希世子
「行政管理」→「行政経営」
米国行政学の産んだ政策科学的アプローチ
• マネジメント(経営)とは?
一般的なマネジメントの機能
戦略
内部管理
Strategy
Managing Internal Components
外部マネジメント
Managing External Constituencies
戦略 Strategy
① 組織の目標およびプライオリティづけを
確立すること
② 目標達成のための執行計画を策定
すること
“伝統的な行政管理システム”には戦略は不要
だった
内部管理
Managing Internal Components
①
組織編成と職員配置
②
人事監督・人事管理システム
③
業績のコントロール
プロセス重視から「業績志向のマネジメント」
への転換
外部マネジメント
Managing External Constituencies
①
外部の業務単位への対応
②
独立機関への対応
③ メディアや大衆への対応
従来は政治家の仕事→住民参画の開放的な行政
管理が求められている
2.伝統的な政策科学の栄光と挫折
政策科学:限られた資源配分をより効果的なものとするため
の政策の立案・決定に関わる意思決定プロセスの合理化を重視す
る
伝統的な政策科学のアプローチ
① 厚生経済学
② 公共選択論
③ 社会構造論
④ 情報処理論
⑤ 政治哲学
しかし、一般的な政策分析に活用されるのは
厚生経済学を中心としたミクロ経済学
その第一のステップ:「社会的厚生関数」の構築
→個々人の享受する純便益あるいは効用をなんらかの形で集計
したもの
→個々人への分配に関する価値判断の基準は?
↓
第一の基準「パレート基準」 ※現実には適用できない
↓
「ヒックス・カルドア基準」
分配と個々人の経済厚生のウェイトづけの問題を回避
「ヒックス・カルドア基準」
ある政策案を実行するとで、パレート基準を満たす
ように経済厚生を増大させる個人からそれを減少さ
せる個人へなんらかの形で保証が可能であれば、そ
のような政策案は採用されるべき
この考え方に立つ代表的な分析手法
「費用・便益分析」
所得・資産の再分配過程
第一のアプローチ:
経済効率の達成を目的とし費用・便益分析を基本
に政策案の順位付けを行ない、その後に政治過程
で他の非経済的目的を考慮した修正がなされれば
よい
第ニのアプローチ:
経済効率と所得分配とで別個のプログラムとして政
策案を考慮し、それぞれが実現すればよい
本質的な課題
政策科学が目指した「限られた資源の配分をより
効果的に実施するための意思決定プロセス」は、
現実には有効に機能しなかった。
① 政策代替案同士の純便益の比較でも「便益の対象範囲」「数量
化あるいは計測不可能な便益」に基準がない
② 政策案同士での価値の対立やトレード・オフ関係にあるようなもの
を評価する基準がない
連邦政府改革の政策科学のアプローチは本来の
意思決定プロセスの改善という本来の目的を十分
に果たしえないまま各々の改革が命脈を閉じている
その要因
① 行政のプリンシパルである議会の改革の中に取り込むことが
できなかった
② プログラム評価において意思決定の改善に必ずしも寄与し
なかった
意思決定プロセスの改善のためには
部分均衡:個々の政策領域ごとのプログラム評価
一般均衡:政策領域間でのプログラム評価の比較考量
が必要
同時に純便益の厳格な定量化は、プリンシパルで
ある議会や国民・住民へのアカウンタビリティの確保
という観点から、二つの課題に直面
①厚生経済学的アプローチの行政現場への適用は、行政運営のビ
ジョンの具体化にあまり寄与しない
②マネジメント・サイクル(Plan-Do-See)からみた事後評価の意味が
希薄
米国政策科学の行政現場への適用はマネジメントという
観点からは内部管理型にとどまっているとも言える。
抜本的なパラダイムの転換はニュー・パブリック・
マネジメント論(以下NPM論)の登場を待つ必要があった。
NPM論の理論的背景
「経済学」と「経営学」
政策科学のアプローチで多用された
「費用・便益分析」にかわって
「公共選択論」「プリンシパル・エイジェント論」
3.ニュー・パブリック・マネジメントの時代へ
伝統的な行政管理システムの二つの理論「官僚制論」「政治と行政の二分
論」の実体面からの崩壊+先進国経済の長期にわたる停滞
このような先進国の経済停滞を契機にNPMへの転換が一気に加速
①政府活動の効率化・活性化
長期にわたる経済の停滞、経済の成熟化に伴う政府サービスのニーズ
の増大・多様化に適切に対応することが求められた
②新保守主義を掲げる政権の登場
「大きな政府」から「小さな政府」「民営化・規制緩和」の推進へ
NPMのさまざまな要素
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
専門的なマネジメントシステムの確立
業績についての明確な基準と測定
アウトプットのコントロールをより重視
政策の企画・立案部門と執行部門の分離
市場メカニズムの活用
民間企業のマネジメント慣行の強調
経営資源の効率的な使用
行政管理から行政経営へ (p.29図2-1)
行政管理システム
1.官僚制度
行政経営システム
理論的基礎 2.政治と行政の二分論
1.経済学
2.経営学
統制の手段 法令・規則
業績/評価
組織形態
明確なヒエラルキー
自立的な業績評価の単位である
小規模な組織での「契約による
マネジメント」
組織運営
単一の職務に特化した分業
サービス供給の効率化の
ための柔軟な組織運営
統制の基準 官治主義
市場のメカニズム
例外的な活用
の活用
顧客主義
広義の民営化・市場化テスト、内部
市場化など契約型システムの広範
な適用
「ニュー・マネジリアリズム」
業績・計画・予算のリンケージ
(p.31 図2-2)
戦略計画
個々の業績目標
中期予算分配
各期の予算
業績測定・評価
実施
NPM論の考え方
• 住民の属性を行政サービスの「顧客」と捉える
• 行政の責務を「顧客」のニーズを反映した行政運
営を行なうことにおく
• そのために市場調査を活かし「住民のニーズ」を
直接意思決定プロセスに反映させる
• 政策の効果は業績/成果をデータによって議
会・住民から用意に監視しうるシステムを作る
民主的な意思決定プロセスを前提とした
「セカンドベスト」的なアプローチ
NPMによる議会・行政・住民
行政:戦略計画の具体案を作り、達成するための具体的な
施策・事業をリンクさせる
提出
議会:基本政策のビジョン・プライオリティの判断、手段の有効性
についての評価を行なう。政策の実行状況は具体的目標
を数値化する(ベンチマーク)
監視・評価
住民